【ハロウィンナイト】子守唄の国の夢

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月28日〜11月02日

リプレイ公開日:2007年11月04日

●オープニング

『ハロウィンの夜には魔法が起きるんだよ。夢が現実になるんだ』
 そういったのはおとうさん。
 おとうさんはむかし、たびにでて、ゆめをはろうぃんのよるにみつけたという。
「メイ、いいかい? しっかりついてくるんだよ」
「うん! おにいちゃん」
 だから、きょうぼくらはたびにでる。
 おとうさんのことばがほんとうだとたしかめるために。
 おたがいのてとハンカチをしっかりとにぎって。
 ふたりでできるこれがきっと、さいしょでさいごのぼうけんだから。

 依頼を出してきたのはケンブリッジの近くで農場をやっていた老夫婦だった。
「子供達が家出をしたんです」
「キャメロットにきた筈なのですが‥‥探してください」
 その必死の様子に老夫婦の子供か、孫でもいなくなったかと思ったのだが話を聞くと違う、と彼らは言う。
 つい、最近引き取ったばかりの遠縁の兄弟だと。
「私の弟の妻の従兄弟が彼らの父親だったのです。まあ、直接血のつながってはいない親戚ですが、ちょっとしたきっかけで知り合ってそれ以来親しくしていました。彼は元吟遊詩人で、とてもいい声で歌を歌う人だったのですよ。奥さんも明るい笑顔の良い人でした。でも‥‥良い人過ぎたのでしょうね」
 夫妻が、出かけた先からの帰り道事故にあって、亡くなったのはつい先日の事だった。
 遺されたのは十歳と五歳の子供。
 遺産も身よりも殆ど無かった二人だったので、子供達の行く末が最大の問題となった。
「そして、私の家でジル‥‥弟を引き取ることになりました。ギルという兄の方は奉公と言う形で旅の商人に引き取られることに。二人まとめて引き取ってやりたいと思うのは山々でしたが暮らしは楽ではなくて‥‥」
 二人も納得した筈だった。ハロウィンの祭り開けには旅の商人が迎えに来る。
 そんな矢先の事だった。二人が家出をしたのは。
「キャメロットのハロウィンの祭りに彼らは行きたがっていました。昔、吟遊詩人だった彼らの父親はキャメロットの酒場で歌っていてハロウィンの祭りで妻と出会ったのだとか」
『キャメロットのハロウィンでは魔法が起きるんだ。夢が現実になるんだよ』
『心から会いたいと思う人に出会わせてくれるわ‥‥。私もお父さんと出会えたもの。‥‥キャメロットは夢の街よ。これのようにね』
 花や星のいっぱい刺繍された美しいハンカチを見ながらそんなお話を両親は子守唄と一緒に良く聞かせてくれたのだ、と子供達は言っていた。
『ハロウィンにはおばけがいっぱいでるんでしょう?』
『お父さんやお母さんもお化けになって出てきてくれないかなあ』
『ぼくたちもおとうさんとおかあさんのところにいければいいのに‥‥』
『キャメロットに行けば会えるかなあ‥‥、お父さんとお母さん‥‥』
 そんな事を言いながらベッドに入った子供達。
 翌朝、気がついてみればベッドは空で、中に子供達はいなかった。
「着替えをして、お金を持って二人は出て行ったようでした。慌てて追いかけて、キャメロットの街に来たところまでは追えたのですが、そこから先は見つけられず‥‥」
 確かに祭りの準備でごったがえしているキャメロットで、土地勘の無いもの達には人探しはなかなか難しいだろう。
「お願いです。子供達を捜してください」
「お金を持っているとはいえ、それはそう多いものではありません。それに‥‥心配なんです。もしかしたらあの子達‥‥」
 夫妻の心配が何を意味しているか、係員にもよく解った。
 子供達自身がそこまで考えていなかったとしても、結果としてそうなってしまったら意味が無い。
「本当に、急いだ方がいいな」
 係員は直感でそう‥‥思った。

「おにいちゃん! しっかりしてよ。おにいちゃん!!」
 いくら揺さぶっても返事をしなくなってしまった兄を弟は、それでも必死で呼ぶ。
 なんとかキャメロットまでやってきたのに、いきなりおばけのような大男達に襲われて持ってきたお金を取られてしまったのだ。
 自分は庇われたので傷一つ無い。
 でも、自分を庇い、お金を取り返そうとした兄はたくさん、たくさん、殴られてしまった。
「キャメロットのおばけってやさしいんじゃないんだ。ひどいよ!!」
 泣きながらも、泣いてばかりはいられないことは解る。
 兄を助けられるのは、今、自分しかいないのだ‥‥。
「おにいちゃん、まっててね! かならず、ぼくがたすけるから!」
 そう言って弟は兄を物陰に隠して歩き出す。
「ぼくのおまもり。まほうのくにのハンカチ。おにいちゃんをまもって!」
 自分のと、兄の二枚のハンカチをその身体にかけて
「あそこなら、きっとだれか、たすけてくれる‥‥」
 冷たい秋風の中、キャメロットで一番綺麗な建物を目指して。

 
 

●今回の参加者

 ea3115 リュミエール・ヴィラ(20歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 eb2357 サラン・ヘリオドール(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3466 ジョン・トールボット(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

空路 道星(ea8265)/ 乱 雪華(eb5818

●リプレイ本文

○ハロウィンの迷い子
 キャメロットのハロウィンは盛大な事で有名だ。
 夜になれば篝火が街中に焚かれ、あちらこちらに楽しげな人の笑い顔が見え賑やかに街中が笑いざわめく。
 だがまだ夜が明けたばかりので今は、静かでどこか間の抜けた感じがする。
 彼のように
「あら、こんなところに。お久しぶりね♪」
 朝一番のまだ目覚めきらない街にやってきたサラン・ヘリオドール(eb2357)は偶然見つけた知り合いを見つけ微笑んだ。
 と言っても人間ではなく飾り物のターニップヘッドである。
「‥‥ゆっくりと再会を喜びたいところだけれどまた後でね‥‥」
 呟いて東の空を見上げる。建物の影から太陽が見え始めていた。
 彼女が待っていたものだ。
「どうか、彼らが無事でいますように‥‥太陽よ!」
 金貨を空に掲げ、彼女は声を上げた。

 キャメロットに向かった子供を捜して欲しいという依頼を受けてから、冒険者達は早速街を歩き回っていた。
 しかしまだ初日。得られた手がかりは、まだそう多くは無い。
「門番さんが言うには二日前に二人の子供がキャメロットにやってきたとか。中に入ると街の中央部に向かって行ったそうです」
「二日前? じゃあその子達じゃない? ねえ、顔はどうだった? 服装は? 依頼人が言ってたのと同じだった?」
 問うリュミエール・ヴィラ(ea3115)を肩に止まらせながらマロース・フィリオネル(ec3138)は頷く。
 お揃いの手縫いのマントを着た兄弟。外見も依頼人から教わったとおり。ほぼ間違いはあるまい。と。
「キャメロットまで無事に辿りついていたか‥‥良かった」
 ジョン・トールボット(ec3466)は微笑んだ。ほんの少し他の冒険達者も安堵の思いを浮かべたが
「けれども安心はできません。どうやら子供達は二手に分かれているようですから」
 心配そうにマロースは告げる。乱雪華の占いの結果、弟はキャメロットの地図で言えば北の方向に、兄は左にいると出たのだ。
「東の方はともかく北の方にはお城があるだけだよね? お小遣いもそんなには無い筈だって言ってたし本当にどこに行ったのかな‥‥」
 胸は急く。最近朝夕の冷え込みはキャメロットでもかなり厳しい。
 宿屋に泊まっているならともかく、野宿などしていたら命に関わるだろう。
「とにかくサラン殿の魔法の結果を待って‥‥どうだったかな?」
 話を途中で止めジョンはサランの方を見た。彼女は掲げた金貨を溜息と共に下ろす。
「朝はどちらも『解らない』だったのだけと今は、ジルさん、弟さんは北に向かっている。ギルさん、お兄さんの方は解らない‥‥。ということだったの。どこか日のあたらない場所にいるのかも」
「日の当たらない場所‥‥か。心配だな」
 ジョンの呟きにサランは頷く。イヤな予感がする。
「ええ、早く見つけてあげましょう」
「では、とりあえず北と東に分かれて手分けして捜索を。定刻には必ず集まって下さい」 
 北にサランとマロースが向かい、東をジョンとリュミエールが探す。
 人手が足りないのが辛いところだが、そんな愚痴を言っている場合ではない。
「夢の国か、あわよくばそこがキャメロットであってほしいが‥‥」  
 祈りを込めた言葉を胸に、冒険者達はそれぞれの持ち場に向けて歩き出していた。

○兄弟を救え
 路地を歩いていたジョンは
「いた! こっち! こっちだよ!」
 後ろから聞こえてくる声に慌てて振り返り走って近づいた。
 リュミエールが引っ張った布の先、いくつかの木箱の陰にその子はいた。
「間違いない! 兄弟の兄の方だ‥‥」
 蒼白な顔、冷えた身体嫌な予感が胸に走る。
 恐る恐る手を取り、脈を確認する。そして呼吸を‥‥
「どう?」
 心配そうに問うリュミエールに答えるより早くジョンは立ち上がると、少年を抱きかかえた。
「どうしたの?」
「まだ生きている! 急いで教会に運べば間に合う筈だ! 後は頼む。俺は教会に連れて行くから!」
「あっ! 待って!」
 駆け出していくジョンを追いかけてリュミエールは後を飛ぶ。
「いけない! 大事なもの、大事なもの!」
 少年の身体から落ちたハンカチーフを拾い上げる。
「ハンカチさん。あの子を護ってくれてありがとね。でも‥‥これがあるってことは弟君は大丈夫かなあ?」
 空を見上げながら二枚のハンカチーフを抱きしめながら。

 その頃、弟の方はハンカチの加護も及ばない絶体絶命のピンチに陥っていた。
「おい! お前、この間のチビじゃないか? まだこんな所うろついていやがったのかよ!」
 睨み付ける男達には見覚えがある。
「わっ! おばけ!」
 逃げようと走る子供を大人気ないことにその男は逃がしてはくれなかった。
「たすけて〜! はなしてよ〜!」
 マントの首筋を掴まれて猫のように持ち上げられる。じたばたと動かす足が宙を踊った。
「おばけとは失礼な奴だな。親のしつけがなってないやつはおしおきが必要だ」
 ヒヒヒ‥‥。楽しそうに意地の悪い笑みを浮かべる男達。彼らを
「お仕置きが必要なのはどちらです!」
 突然の強い口調が厳しく諌めた。
「Trick or Treat ! いじわるお化けさんにはお菓子とおしおきどちらがお好みかしら?」
 現れた二人の美女に男達は子供をぽいと放り投げると
「じゃあ、変わりに姉ちゃん達があそんでくれるのかい?」
 下卑た笑いを浮かべた。美しい女性二人。だが男たちは知らなかったのだ。
「やっぱり、お菓子よりもおしおきのようね。マロースさん」
「ええ、あの子達の為にもきっちりと!」
 二人が冒険者である事、彼らのようなチンピラよりもずっと強い事を。
「ハルヒュイア ! ソール!」
 サランは二匹の友の名を呼ぶ。空から鷹が、地から犬が敵に向かって突進する。
 そして彼らが向かって行っている間にサランは呪文を完成させ、マロースは子供を素早い動きで救出した。
「大丈夫です。ジル君は救出しました!」
「うわっ! なんだ!」
「止めてくれ!!」
 マロースの声を確認するかのように鷹と犬が襲い掛かる。
 散々人々を泣かせてきた男達は今度は泣かされる立場になって言った。そして‥‥。
「お金を返しなさい」
「もうねえよ!」
「そう。なら仕方ないわね。あの子達の仇とらせてもらうわ!」
「「うわああっ!」」
 太陽の怒り、サンレーザーの魔法をもろに喰らった男達は衛兵に預けられる事になった。
 子供はマロースの腕の中で目をぱちぱちさせている。
「おねえちゃんたち、てんしさま? それよともハロウィンのよいおばけ?」
 守りにとクロスを持たせたマロースは首を横に振る。
「どちらでもないわ。貴方はジルくんね?」
「うん! あ! お兄ちゃんをたすけて!」
 勿論、と駆け出した冒険者達の背後には彼らを見守るようにキャメロットの王城がそびえ立っていた。

○子守唄の国
 聞こえてくるのは懐かしい調べ。
 壁で微笑むのは懐かしい顔。
「おとうさん、おかあさん」
 そこは夢の国。少年たちはハンカチを握り締めて涙した。
 
 教会で目覚めた少年ギルが最初に見たものは心配で顔中くしゃくしゃにした弟の顔と、その後ろで気遣うように見つめる冒険者だった。
「あれ? ここは?」
「教会だ。気が付いて良かった」
 ジョンはぶっきらぼうに、でも優しさの篭った声で呟いた。
「貴方は、凍死寸前だったのですよ。でも身体も温まってきたようですしリカバーもかけました。後は体力の回復を待つだけです‥‥よく頑張りましたね」
 額に置かれたマロースの手が今度はギルを優しくかき抱く。
「僕は‥‥何もできなかったよ。おとうさんも、おかあさんも探せなかった。夢の国を‥‥ジルに見せてやりたかったのに‥‥」
「おにいちゃん‥‥」
 涙ぐむ兄を見つめ、弟も目元に雫を浮かべる。
 顔を見合わせる冒険者。そして、少し考えてからサランは
「ジルくん、ギルくん。明日の夜は貴方達が待っていたハロウィンなの。一緒にパーティをしましょう。貴方達に見せたいものがあるの」
「みせたいもの?」
「なに?」
 首を傾げる少年達が案内されたのが酒場だったのだ。
「これ、お父さんの歌だ!」
 マロースが竪琴を奏でリュミエールが歌うその歌はキャメロットの酒場で歌い継がれていたもの。
「おとうさんと、おかあさんだ!」
 壁に飾られた絵は子供達の両親の絵。昔と同じ笑顔で微笑んでいる。
「ねえ、ハロウィンに亡くなった人に会えるのは本当よ。私も会った事があるわ」
 立ち尽くす少年達にサランは微笑む。
「でもね亡くなった人に会えるのはなにもハロウィンだけではないわ。姿が見えない時でも、いつもご両親は二人のことを見守っているのよ」
「君達の夢の国はここキャメロットだ。そして故郷でもある。寂しがる事は無い。いつも君達を見守っている。ご両親も、そして我々もだよ」
「うん」「ありがとう」
 ジョンの言葉に涙ぐむ少年達。だがその顔には笑顔が浮かんでいる。
 前を見つめる強い眼差しが戻っていた。
「よ〜し! じゃあ、パーティだね。思いっきり楽しもう!」
 踊りだすリュミエール。マロースの竪琴が今度は楽しい音を奏でる。
 養い親も招いたパーティは夜遅くまで、笑い声と共に続いたのだった。 

○巣立ちの時
 翌日キャメロットまで迎えに来た商人と共にギルは旅立っていった。
 マロースから貰った竪琴とサランから貰った銀の十字架をしっかりと抱きしめて。
「いつか、必ず迎えに来るからな。元気にしていろよ」
 そう弟の頭を撫でて。
 少年は商売を学びながら父と同じ吟遊詩人を目指すと言う。
「これが無くてももう大丈夫だから」
 お礼にと渡されたハンカチーフを見つめながらサランは少年達の背中に告げた。
「離れていても四人はずっと大切な家族ね」
 冒険者達は思う。
 子守唄の国から飛び出した子供達。きっと夢と願いは叶うだろう。
 それこそがハロウィンの魔法だから。
 彼らを見つめるように明かりの消えたジャック・オ・ランタンが静かに微笑んでいた。