【聖夜祭】遅れて来たサンタクロース

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月24日〜12月29日

リプレイ公開日:2007年12月31日

●オープニング

「お父さんを探して!」
 飛び込んできた少年は、係員に向かっていきなりそう懇願した。
「おい!、ちょっと待てよ。何が一体どうしたんだ?」
 泣きじゃくる少年をなだめ係員は話をなんとか聞きだす。
「つまりだ。フィルナス。お前のお父さんが、森に聖夜祭の為のヤドリギやヒイラギを摘みに行った。ところが帰ってくる予定の昨日を過ぎてもまだ戻らない。と、そういうことだな?」
「うん」
 涙を拭いてフィルナス、10歳と名乗った少年は頷いた。
 彼は親子三人、キャメロット近くで農業をしている。
 生活は決して楽ではないが、親子三人がなんとか慎ましく暮らしていく事はできていたという。
 だがこの冬、母親が病に倒れた。風邪をこじらせて今もベッドから離れられないらしい。
 母親の薬代や、生活費、食費と予定外の出費が家計を圧迫する。
 その為、フィルナスの父親は冬でもできる仕事を探し、知り合いから一つの仕事を依頼された。
 それが聖夜祭の飾りの採集だったのだ。
 キッシング・ボウやリースなどの飾りに使用するヤドリギやヒイラギは聖夜祭には大変な需要となる。
 だから、フィルナスの父親はキャメロットから大人の足で片道二日程の山のふもとの森に行ったのだ。
『早めに帰ってくる。いい子にして、母さんを頼んだぞ!』
 荷車を引いて出かけていった父親。
 本当だったら昨日早くには帰ってくる筈なのに今日のこの時間になっても帰ってこないのだという。
「お父さんは約束を破ったりしない! 何かあったんだよ」
 そう言って少年は、僅かな銀貨をそっとテーブルの上に置く。
「母さんの容態が悪くて、僕、探しに行けないんだ。お願いだよ。父さんを助けて! きっと困ってる。約束したんだ。聖夜祭には親子でパーティをしようって」
 少年の涙ながらの訴えを拒否できるものは多くない。
「解った。きっとお父さんは大丈夫だから泣くなよ」
 もう一度、ポンと肩を叩いた係員に笑いかけられ、少年は
「うん」と初めて小さな笑みを浮かべたのだった。

 調べてみれば少年の父親は確かに五日前、三泊分の食料と防寒具のみで仕事に出かけている。
 目的地の近くには、狩猟にシーズン用にどこかの貴族が立てた狩小屋もあり、そこで宿を取っている筈だとも聞けた。
 ただ、キャメロットにちらちら降る雪。
 キャメロットがこうなら、北の森はもっと積もっているかもしれない
 モンスターに襲われていることだって十分に‥‥。
 やるべきことは一つ。だが、簡単な依頼ではない。
「せっかくの聖夜祭。子供の悲しい顔は見たくないから頼むよ」
 係員の言葉を胸に、冒険者達は無言で依頼書を見つめていた。

 それは、小さな祈り。
「神様。サンタクロース様。どうかお父さんとお母さんと一緒に聖夜祭を元気に過ごせるようにして下さい」
 と少年は祈る。
 忙しすぎる神とサンタクロースには届かないかもしれない小さな祈り。
 それを聞いてくれる彼のサンタクロースは果たしているだろうか?

●今回の参加者

 ea6605 アズライール・スルーシ(21歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

神島屋 七之助(eb7816)/ アヴァロン・アダマンタイト(eb8221)/ 狩野 幽路(ec4309

●リプレイ本文

○聖夜祭の夜
 聖夜祭に賑わうキャメロット。それに背を向け
「御父様、御兄様、パーティ行けなくってごめんなさい」。
 アクエリア・ルティス(eb7789)は小さく呟いた。
 でも、どうしても放っておくことはできなかったのだ。
 あの小さな少年の願いを。

 事の起こり今から数刻前に遡る。 
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、お父さんをお願い!」
 真摯な眼差しで見上げる少年に
「大丈夫。縁の糸はまだ切れてはいない。きっと無事連れ帰る」
 アズライール・スルーシ(ea6605)は静かに告げた。
「そうとも! 俺らに任せときな!」
 明るく笑う日高瑞雲(eb5295)に同調するように
「お姉さん達に任せなさい、あんたはパーティの準備をしてお父さんを待っていればいいから」
 アクエリアも告げて、頭を撫でた。
「アクアさん?」
 いつもと違う様子のアクエリアにマリエッタ・ミモザ(ec1110)は心配そうに声をかけるが、当の本人は妙にテンションが高い。
「ようしっ! 急ぎましょうか。っと、その前にお願い。フィルナスくん。お父さんの匂いのするものを貸してもらえないかな?」
 ジャンプするように立ち上がったかと思うと、そのまましゃがみこんで少年と目を合わせる。
「匂いのするもの?」
「ええ。お父さんの後を追うのに必要なのです。うちのワンコ達に匂いを追わせようと思うので」
 もう、行方不明から一週間。
 匂いが残っているかは怪しいところだが、とりあえず打てる手は打っておかなくては。
 カイト・マクミラン(eb7721)の言葉に頷くと少年フィルナスは箪笥の中からマントを取り出した。
「これ、お父さんのマントだよ。よく出かけるときに来てた。寒がってると思うから持ってって。お姉ちゃん」
「分かったわ。必ず見つけ出して渡すから」
 本当はカイトはお姉さん、ではないのだがあえてそれを否定はせずにマントを受け取る。
「じゃあね。お母さんと一緒にいい子にしているのよ」
 フィルナスはアクエリアの言葉に
「うん!」
 大きく頷いた。そして、冒険者達はキャメロットを離れ冬の山へと向かったのだった。

「急いだ方がいいわね。冬の森でしょ、お腹すかせたおっかない連中とか出てきても不思議じゃないわ」
 カイトの言葉に頷き、冒険者達はそれぞれ魔法の靴で先を急いでいた。
 この分なら夜には目的地に着けるだろう。
 思いながらマリエッタは
「ねえ、アクアさん? 大丈夫なの?」
 心配そうに先を行くアクエリアに問うた。
「何がです?」
 作り笑いの少女。なんとなくマリエッタは彼女の思いを察し、それ以上を言葉で問うのを避けた。
「頑張って、早く依頼を終わらせましょう。あの子が一生懸命集めたであろうお金を受け取った依頼だもの。いい聖夜祭を迎えられるように」
 マリエッタの優しい気遣いに預かった荷物を落とさないように抱きしめ
「ええ」
 アクエリアは笑って頷いた。

○冬山登山?
「うわっ! なんだよ。これは!!」
 瑞雲は声を上げた。
 昨夜のうちに目的地に着いた冒険者達であったが、夜も遅かった為、森の入口で彼らはテントで野宿をした。
 そして迎えた翌朝。
 始めの驚きの声に繋がる。何事かと出てくる仲間達もビックリした顔で瞬きする。
「これは‥‥なに?」
 冒険者達のテントのドまん前に、見れば不思議な物体が立っているのだ。
 大きな雪玉を二つ重ねて顔を描いた様なもの。
「こいつは‥‥雪だるまってやつか? でも、なんでこんなところに」
 テントを畳んだ瑞雲はぽすっ、軽くそれを蹴飛ばす。なんの気なしにだが、
「うわっ! 待って それはダメ!!」
 カイトが止めた時には遅かった。
「ん?」
 振り返った瑞雲にその「雪だるま」はいきなり、体当たりをかましてきたのだ。
「うわあっ!!」
 思ったよりも硬い身体に弾き飛ばされる形で尻餅をつく。
「なんだ? こいつは一体って、おい!!」
 立ち上がろうとした瑞雲も、それを後ろで見ていた仲間達も驚きに目を丸くする。
 気がつけば、周囲をぐるりと取り囲む「雪だるま」
 その数はざっと見て、10体近く。
 この人数で不意打ちを受けた状況では、不利なのは否めない。
「困ったわね。この子達に、スリープは、効かないものね‥‥」
 カイトの呟きにアズライールは頷く。
「とりあえず逃げよう。サンワードの反応もないし、探し人は小屋にいる可能性が高いから。ピョートル。先導して」
「チップも。頼りにしてるわよ!」
 二匹の犬がワワンと吠える。その声に合わせて冒険者達も身構え準備をした。
「突破口を開けるわ。急いでいきましょう! マリエッタの名において、風の精霊に雷撃を命ずる!」
 ライトニングサンダーボルトの呪文が目の前の雪だるまに吸い込まれる。そこを
「いくわよ!」
「おりゃああ!!」
 瑞雲とアクエリアが左右に切り開いた。
 まるで雪を切るような感覚で手ごたえはないが、道は開けた。
「みんな! 走って」
 全力で走り出す冒険者達。雪だるま達はぴょんぴょん、ごろごろと追いかけてくる。
 懸命に道なき道の、その中でも人が通れそうな道を走る冒険者の前に、やがて小さな丸太小屋が見えてきた。
 きっと子供から聞いた狩小屋だ。そう確信したカイトは
「あそこに入って! 早く!」
 仲間達を促した。そして、仲間と犬と連れて来た妖精も全てが中に入ったのを確認して扉を閉じた。
 息を整える冒険者達。その時アクエリアは気付いた。
 入口の側にヒイラギの入った籠と、荷車。そして、あそこ。小屋の隅に丸い何かがある?
「みんな! 来て。こっち! ここよ!」
 アクエリアの呼び声に全員が駆け寄る。
 そして、かけられていた毛布を取り払う。
 そこには、青ざめた表情の男がいたのだった。

○山の番人
 幸い、その男性の呼吸ははっきりとしていた。
 だが、あちらこちらに凍傷があり、意識も無いようだ。
 小屋に備蓄されていたであろう薪は使い切られていたので、手持ちの毛布と防寒着を着せて暖める。
「飲んで‥‥くれるかしら?」
 アクエリアに持ってもらった麦酒を、カイトはそっと男性の口に注ぎ込んだ。
 こくん、と喉を通った音がして微かに頬が赤らんでくる。
「良かった。これならとりあえず、大丈夫かしら」
「でもどうすんだ? これから。多分、ここも囲まれてるぜ」
「かこまれてる。かこまれてる。ゆきだるま、ゆきだるま」
 瑞雲の妖精が繰り返す。周囲の木が雪だるまが外に沢山いると言っているらしい。
「多分、このお父さんもあの雪だるまに襲われて、ここに逃げ込んだのね。敵に回すにはあの数はちょっとやっかいかも」
 アクエリアが言う頃、カイトは昨年の冬、あの雪だるま達と出会った事を思い出した。
「それ以前に、あの子達は雪の精霊。山を守る存在だと聞いています。できるならあまり傷つけたくないのですが‥‥」
 本来好戦的ではない彼らが襲ってきたのは、きっと冒険者が雪山に入ってきたから。
 彼らは山の番人なのだ。
「ぶった斬っちまえば早いが、そうなると荷物やこの男を連れて帰るのも大変になるな。仕方ねえ。さっきと逆に一点集中突破と行くか」
「では、お父さまは私が連れて行きます。皆さんは援護をお願いできますか?」
「分かった」
 さっきと同じように冒険者達は一点集中を狙うことにした。
 マリエッタとアクエリアが先に出て父親を運び、残りは雪だるまを足止めし、順次雪山を一気に走りぬけていく。落下の危険性もあるのでのんびりとはしていられない。
「とにかく一気にいく。皆、気をつけて」
 周囲を伺うアズライールが脱出のタイミングを計る。そして
「よし、今だ!」
 扉を開け、飛び出していくマリエッタ達。
 一歩遅れてアズライール達も。だが
「おっと、いけねえ!」
 瑞雲は後戻りして忘れ物を引っ張り出した。余計な荷物であり足手まといである。
 それでも、これを置いていく事はできない。
「手伝うわ。瑞雲さん。チップもお願い!」
 カイトと犬も一緒にその荷物を、荷車を引く。
 それには、沢山のヒイラギとヤドリギ。
 父親の思いが乗っている。
「よし、行くぜ!」
 瑞雲も走り出し一気に山を駆け下りた。

○遅れて来たサンタクロース
「お父さん!」
「フィルナス!」
 冒険者の帰還を見つけ外に駆け出してきた我が子を父はよろめきながらもしっかりと抱きしめた。
「よかった。サンタクロースが願いを叶えてくれたんだ」
 嬉しそうに涙を流す少年を冒険者達は嬉しそうに見つめる。
「へへっ! サンタクロース役っつーのも悪く無えな」
「そうですね。‥‥これでよかったんですよね」
 照れくさそうに笑う瑞雲に頷きながらアクエリアも小さく微笑んだ。
「さて、このヒイラギは業者にもっていきましょうね。あ、でも‥‥ちゃんと加工した方が良い値で売れるかも‥‥」
 商人であるマリエッタはヒイラギの荷車を見つめながら呟き、ポン。と手を打った。
 そして‥‥
「皆さん、手伝って頂けませんか?」
 冒険者に向けてニッコリと笑ったのだった。

 数日後。
 冒険者はフィルナスと元気になった父親に報酬とあるモノを受け取った。
「これは聖夜祭のリースです。皆さんが持ってきて、作って下さったもの。売れ残りではありますが受け取って頂けませんか?」
 それはヒイラギで編まれたリースだった。
 マリエッタのアイデアの下、フィルナスや冒険者も手伝って作ったもの。
 聖夜祭には少し遅れたもののなかなか好評でいい値で売れたという。
「ありがとうございます。大切に飾らせていただきますね」
 頭を下げるマリエッタに親子は逆に頭を下げた。
「こちらこそ。これで親子で新年を迎えることができます。本当にありがとうございました」
「お姉ちゃん、お兄ちゃんありがとう」
 冒険者達はそれぞれ照れくさそうに笑いながら言った。
「どういたしまして」
 と。

 そうして遅れて来たサンタクロース達は親子と共に古い年を見送り新しい年を迎える。
 心からの感謝と笑顔という最高の報酬を胸に‥‥。