季節との競争
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月01日〜09月06日
リプレイ公開日:2004年09月08日
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●オープニング
それは、酒場の娘からの依頼だった。酒場からではないが‥
「ねえ、お願いがあるんだけど、少し急ぎの依頼なのよ」
酒場の看板娘はそう言って切り出した。
「あのね。ある村に荷物を取りに行って欲しいの。それも、至急に」
彼女は地図を見せた。指差された街はキャメロットの北東。特に何が有名と言う訳ではない農村だった。
「この村に3日以内に行って、2日以内に戻ってきて欲しいの」
要するに5日以内で戻って来い、ということだ。だが冒険者の顔はあまり笑顔ではない。と、言うのも‥
「この村、普通に歩いたら片道4日はかかるんだぜ」
行きはまあいい、毎日少しずつ早足で歩けばなんとかなるだろう。だが、問題は帰り。
通常の2倍の速さで戻ってこなければならないのだ。かなりキツイ行程になる。
「うちのお得意様に頼まれたのよ。その村にある品物を5日以内に食べ‥いえ、届けてくれって」
「その荷物はどんなもので、どれくらい重いんだ?」
「木箱に一つ、まあ、重量はそこそこってとこだと思うわよ」
「で? 中身は何だ?」
とたんに彼女の口は止まる。
「えっと‥それは‥ないしょ。大丈夫、ヤバイものじゃないし、犯罪とかそういうのは一切関係ないから」
貴族からの注文だというので、報酬はかなり高い。
だが、何も考えずに歩いただけでは間違いなく遅刻。馬をすっ飛ばすだけでは馬があっという間にバテてしまう。
到着は早ければ早いほどいい。日にち次第ではボーナスも出すとまで言っている。
街道を普通に歩いていればそうそう盗賊や、モンスター襲来の危険性は少ない。
だが‥。
「一人じゃあ無理だな。こりゃ‥」
その村にそれだけのお金と手間をかけるだけの一体何があるのだろうか?
今の彼らに知る由はない。
解っていることは一つ。
「かなりやっかいな『おつかい』になりそうだぜ」
●リプレイ本文
「では、確認しましょう」
門の前、ノア・カールライト(ea0422)は仲間の顔を見つめた。
「まず私が村まで行きます。馬に無理はさせたくないので2日をみて下さい」
無理すればもう少し早く行けるだろうが安全を取るならそれくらいが妥当だ。
「村に着いたら品物を受取って直ぐに道を戻ります。そして村から16km地点でフィルトさんに荷物を」
「了解した」
フィルト・ロードワード(ea0337)は腕組みしながら頷く。
「で、フィルトさんの次が僕。キャメロットから37km地点で待ってればいいの?」
「違います。キャメロットから48km地点ですよ」
指折り距離を数えるイリア・イガルーク(ea6120)の計算間違いを次の走者タイタス・アローン(ea2220)は指摘する。
「あ、ゴメン。危ないとこだった」
頭を掻くイリアに、大丈夫とタイタスは笑いかけた。どうやら気が合うようだ。
「で、たいたす殿の到着をまって、私が荷物を最終走者である梶本殿とリン殿にお渡しすればよいのじゃな。責任重大じゃが‥がんばるのじゃ!」
「私もご一緒しましょう」
最年少である村上琴音(ea3657)の頭を撫でながらエリンティア・フューゲル(ea3868)はニッコリと笑った。
「で、最後は私と司さんが責任を持って依頼人まで届けます」
「リンさん、無茶しないでくれよ」
「すると思うんですか? 司さん?(ニッコリ)」
まるで兄妹のようなリン・ミナセ(ea0693)と榎本司(ea5420)の和やかな(?)会話に皆は小さく吹き出した。
依頼人に頼んだ荷車と手紙も届いた。いよいよ行動開始だ。
「たかがおつかい、でもされどおつかい。成功させましょう!」
ノアは馬に飛び乗って腹を蹴る。
「では、依頼終了後にまた!」
遠ざかっていく馬影を見送り、冒険者達もそれぞれの馬に跨った。そして持ち場へと。
5日後の再会を約束して‥
どのくらい馬に乗り続けただろうか。
「疲れましたね。でも‥もう少しですよ。ほら、見えてきた」
馬に声をかけノアは前を指差す。地図の通り小さな村が見える。
今は2日目の夕方。周囲は薄暗いが畑に何人かの影が見えた。
「この村にデリムさんと言う方はいらっしゃいませんか?」
「この先の赤い屋根の家だよ」
「ありがとうございます」
第一村人に教えてもらったとおり行くと、赤い屋根の家が見えた。ノアは馬を降り手紙を取り出しドアを叩いた。
「はい、どなた?」
「キャメロットより参りました。デリムさんのお宅ですね。これを‥」
出て来たのは若い女性だった。その背後から男性がひょっこり手紙を覗き込む。女性は彼の夫人なのかもしれない。
「解った。明日の朝一番に荷を揃えよう。今夜は我が家で休んでいくといい」
デリム氏の言葉にノアは少し慌てて手を振る。
「あ、いえ。荷が揃い次第私は直ぐにでも」
だが、彼は首を横に振る。
「夜を嘗めないことだ。松明を片手に馬を操れるのかね?」
「あっ‥」
ノアは口を押さえた。自分を含め皆、荷物を最低限にしてある。夜に馬を走らせるのは確かに危険だ。
「急いでいる時こそ無理は禁物。今、夕食の支度をさせる。今夜はゆっくり休みなさい」
「はい」
その日、彼は暖かいシチューとサラダ、焼きたてパンのもてなしを受け、馬共々2日間の疲れを眠りに溶した。
そして翌日、夜明けと同時に村を出る。夫妻に見送られ、荷車に大きな木箱を載せて‥
フィルトは約束の地点で待機していた。
秋口の夜、毛布一枚で過ごすのは無理があったかも‥。疲れを実感しつつ彼は街道を見つめる。
そして‥
「やっと来たか‥」
「すみません」
「まあいい。後は早く片付けてやるさ」
やってきたノアの馬から荷車を自分の馬に素早く付け替えた。
「急ぐから、ゆっくり来い」
一泊したとはいえ、疲れきっていたノアはその言葉に甘え、荷を次に託した。
「気をつけて‥」
太陽を見る。まだ朝と言える時間帯。この調子なら‥
「クション! 火打ち石とか持ってくれば良かった」
鼻をすすりながらイリアは保存食を平らげる。幸い昨夜は何事も無く過ごせた。馬の首を抱くと‥暖かい。
「この子のおかげかな? そーいえばこのコに名前付けてないや…何て付けようかなぁ」
そんな事を考えながらどのくらい待っただろうか?
「来た来た、お疲れ様〜」
道の真ん中でに立つイリア。フィルトは手綱をひいた。
「危ないぞ。‥まあいい。いけるな?」
「勿論! 早く荷物を移そう」
ロープを結びなおし、細かい所まで女性らしい細やかさでチェックを入れる。
「無理するなよ。気を付けて行け」
「ありがと。じゃ!」
元気な笑顔でイリアは馬を走らせた。昼食の空腹にはまだ少し早いが彼女なら護衛はいるまい。
フィルトは近くに村は無いか捜してみることにした。
ふわっ‥
欠伸が出そうな長閑さに、タイタスは軽く肩をすくめる。
「のんびりできて、頑固ジジイどもの顔を見ずにすむ。美味しい依頼ですね」
軽く背を伸ばしかけて彼は慌てて手を降ろした。
休憩は終わりだ。
「うわ〜っと、セーフ」
タイタスの姿を見つけ、イリアはスピードを落とした。
「お疲れ様。随分と急いできたようですね」
「ちょっと無理させたかも。あと、よろしくね」
積荷を確認し終えると、イリアは馬の首を労うように撫でた。
「解りました。キャメロットでまた!」
走り出すタイタスをイリアは無理に追わなかった。
「お腹も空いたし、少し休憩してから帰ろ。ホント。ご苦労様」
愛馬は主人の労いに喜ぶようにヒヒンと声を上げた。
「遅いでござるなあ。えりんてあ殿」
「焦ってはいけませんよ。自分の役目を果たすために今はゆっくりおやすみなさい」
野営を畳んでから何度目か。街道を心配そうに見つめる琴音をエリンティアは優しげに諌めた。
この2日間、彼女と寝食を共にし、エリンティアは琴音が可愛くなってきていた。
彼女の故郷の話を聞いたり、イギリスの昔話をしたり。
今は昼寝から起きた彼女の頭を、膝に乗せている。
「あ、来たのじゃ!」
馬の足音と共に彼女は飛び起きて街道に出た。
「後は、お願いします。大丈夫ですか?」
「お任せなのじゃ。あ、後片付け、えりんてあ殿お願いしてもよろしいか?」
「もちろん」
エリンティアは服の埃を払うと微笑した。
「行ってきますなのじゃ」
荷物は無事、最終走者の所に届くだろう。小さくても責任感のあるあの志士なら。
秋の日は釣瓶落とし‥
「この調子だと今夜も野宿かな‥。あ、リンさん、そこの紐を、こっちへ」
「紐が見え無くなってきましたね。これでコップと箒はもうバッチリです」
リンは手に絡めた糸をピンと引くと元の毛糸の輪に戻る。これはジャパンの秘技「綾取り」だと司は教えてくれた。
待ち時間がとにかく長かった二人にとっていい退屈しのぎだ。
「で、リンさん、今夜も俺が寝ずの番?」
「勿論(ニッコリ)」
「(ぼそ)ずるい‥」
「何か言いました?(さらにニッコリ)」
「別に何も‥あ、来たみたいですよ。リンさん」
司は話を絶好のタイミングで打ち切った。解っている。この可愛い妹分には叶わないと。
「‥後はよろしく‥」
琴音はもうぐったりモードのようだ。リンは優しく声をかけた。
「お疲れ様。今からなら余裕で間に合わせられます」
「荷車も移し終わってる。じゃあ、琴音さん、後で。リンさん、早く乗って‥ん?」
「何です? 司さん。早く行かないと‥」
「リンさん‥前に乗せたときより‥」
「何・で・す・か?(さらに×2 ニッコリ?)」
「いえ、何でもありません。行きますよ!」
司は馬に鞭を入れた。時間を気にしてか、それとも? 見送る琴音にはよく解らなかった。
キャメロットが眠りにつき、今日が明日になる直前。一台の荷車がある貴族の館の前に止まる。
「夜分遅く申しわけありません。冒険者ギルドから頼まれた荷物をお届けにあがりました」
金髪の美少女と、主人からの証に門番は直ぐに彼らの来訪を中へと告げた。
やがて数人の男が荷車から荷物を降ろし屋敷へと運ぶ。そして中の一人が少女の前に立った。
「お待たせいたしました」
微笑む少女に、彼は一通の手紙を渡す。
「ご苦労様。皆さんお揃いの後どうぞここへ足をお運びください。報酬もそこで」
それだけ言うと彼は屋敷へ戻る。
「リンさん、何だって?」
「この手紙の場所に皆で行きなさいって」
封蝋を外し手紙を開く。
‥2日後 夕刻 酒場にて‥
「荷物の中身はぁ、一体何だったんでしょうねぇ?」
依頼を終えてホッとしたエリンティアは酒場のテーブルの一つに座る。そこは『貸し切り席』
「俺は多分‥アレだと踏んでる」
「アレって?」
腕組みする司にリンは問う。だが答えの前にテーブルに料理が運ばれた。極上のエールと‥
「空豆? 私達は注文してないのじゃが?」
「いいの。依頼人からのお疲れ様だから。それに皆も食べたいでしょ。運んで来たんだから。そ・れ♪」
「えっ? それ‥ってあの木箱の中身は‥」
琴音とイリアの問いに酒場の娘は頷く。
「空豆&夏野菜でしたあ」
やっぱり、何人かは頷いている。
「空豆はホントは初夏の野菜だよ。だけど今年最後の空豆があの村に生ってたの。貴族の奥さんの大好物で誕生日に出してあげたかったってのがこの依頼の意図」
空豆は三日豆と言われるほど足が早い。
「喜んでたよ。誕生日の前に着いたからいい料理にしてあげられたって」
ボーナス額は最初に提示された額よりもずっと多く、彼らを喜ばせた。
「乾杯するとしようか。依頼の無事終了に‥」
冒険者達は杯を掲げる。何人かはミルクだったりもしたのだが‥
「乾杯!」
ジョッキから中の飲み物はそれぞれの口へと流れる。
「はあ〜依頼を終えての酒は格別だな」
「空豆も美味しいですよ。‥もう夏も終わりですね」
過ぎ行く夏を惜しみ、訪れる秋を迎える。
口に運んだ翡翠色の実はどこか甘く爽やかな味を残し静かに溶けていった。