ドッキリ? ひなん訓練?

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月15日〜01月20日

リプレイ公開日:2008年01月22日

●オープニング

 ジャパンであれば正月ボケ、とでも言うところであろうか?
 聖夜祭+新年明けで、屋敷の中は緩みきっていた。
 元々、この家の主は城での仕事が忙しくめったに家に戻ってこないし、子供も教会に預けられている。
 普段は使用人に管理が任されているので手を抜こうと思えば、正直いくらでもできた。
 それがなされず、家が常に清潔丁寧に守られているのは使用人の頭であるところの家令の力と目があることが大きな理由であった。
 ‥‥とはいえ、いくら家令とは言え一人では目が届かないところもあるし、使用人達も人の子。
 偶に仕事をサボる事があった。
 棚の上を拭くのをしなかったり、庭の掃き掃除を寒さに負けて早々に戻ってきたり。
 一日、一日の引き算は小さなものでも積み重なればけっこう大きなものになってくる。
 用事があって一日彼が留守をしようものなら、それはさらに倍になる。
 窓枠を指でひとなで。
 そして溜息をつく。
「やれやれ。ここ暫くリフに任せておいたらこの有様ですか。これではお暇を頂くどころかろくに休みを取る事さえできません」
 本当なら今、主に仕えていることさえ許されない立場なのに。
 まだ、使用人達を完全に掌握しきれていない家令見習いと、ちょっと気持ちが緩みがちの使用人達。
 ここらで一つ活を入れてやらなくては。
 主と使用人は似たもの同士。
 静かに微笑んで、彼はどこかにでかけていった。

 届けられた依頼に使用人は腕を組む。
 これは、少し変わった依頼であると言えた。
 屋敷を襲撃して欲しい。というのだ。
「無論、冒険者に依頼するのです。本当にではありません。いわゆる模擬訓練と思って頂いて構いません」
 依頼人である屋敷の家令はそう言った。
 場所はある貴族騎士の屋敷。
 屋敷の使用人は家令であるところの依頼人スタインと家令見習いのリフ。そして五名の使用人達。
 彼らの危機対応能力を見たいのだという。
「私の勤めるお屋敷は主が留守がちで、その間の管理は我々使用人に任されているのです。ですが、聖夜祭明けのせいか、彼らはどうもだらけ気味。口で注意するのは簡単ですが彼らにもっと緊張感を持って欲しいのです」
 依頼内容はシンプルなもの。
 屋敷の中に盗賊として侵入した冒険者がスタインを人質にし屋敷内の一角に立てこもったという設定で滞在して欲しい。
 それを助け出し、盗賊を捕らえるように使用人達を動かせたいというのだ。
 期間は最大二日。無論使用人達が早く対応できたら縮むことはありうる。
 逆に二日経っても事態を使用人達が解決できない時には冒険者が叩きのめしてしまってかまわない。
 方法は自由。但し、屋敷と使用人達へなるべく傷を与えないようにして欲しい。
「けっこう難しいな。家を司るあんたがいないとなる使用人達立ち往生ってこともあるんじゃないか」
 心配そうな係員にごもっとも、とスタインは頷く。
「ただ、それくらいの対応ができねば貴族騎士の留守宅を守る使用人は務まらないのです」
 故に勝負と思って貰って構わない。
 屋敷と使用人を傷付けず、二日間、屋敷の占拠ができれば冒険者の勝ち。
 使用人達が襲撃者(冒険者)を対処し、スタインを奪還できれば冒険者の負けだ。
 相手は戦闘の素人なので、できる限り戦闘は避けて彼らを近づけないように工夫して欲しい、と彼は言う。
 勿論屋敷の主には了承を受けている。
 最終的にはネタ晴らしもするので冒険者が犯罪者と追われることもない。
 使用した傷薬や食料も負担するとか。

 新年の避難訓練。
 使用人達には災難であろうが考えてみれば家令の言う事も一理ある。
 ここいらで新年ボケを振り払い一つ気合を入れたほうがいいのかもしれない。
 彼らも。そして自分達も。

●今回の参加者

 ea2913 アルディス・エルレイル(29歳・♂・バード・シフール・ノルマン王国)
 eb5450 アレクセイ・ルード(35歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb5463 朱 鈴麗(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

クリステル・シャルダン(eb3862

●リプレイ本文

○招かれた、招かれざる来訪者
 聖夜祭節も終わった小雪の舞う冬の日。
 街外れのある屋敷の前に集まる者達がいた。
「あらー、パーシ卿のお屋敷だよコレ」
 帽子を微かに上げて呟いたシフールのバードは、彼を肩に乗せていた騎士に少し困り顔で告げる。だが騎士はといえば
「うむ、やはりそうだね」
 頷いたものの表情は楽しそうだ。
「わらわもそうではないかと思っておった。主に似て胆の据わった方よ」
「ええ、気の緩みは思わぬ事態を引き起こすのは商売も同じ。その考え方、心より尊敬致しますわ」
 女声の僧侶と魔法使いも微笑みあう。
 楽しげな会話が彼ら四人の間から弾けていた。
「噂に聞けば、最近確かに館の住人達の様子にだらけや甘えが見えるそうじゃ。まあ、主不在の家を守るのもつまらないものであろうが‥‥」
「けれども、それに甘えてはいけません。やっぱりあの人の言う事は正しいと思います」
 女性二人の言葉に頷いて、騎士は前を向く。
「さぁ。彼の期待に応える為にも、ついでにこの寒さを凌ぐ為にも、存分に楽しもうじゃないか」
 武器も殆ど持たない彼らは正面から、堂々と屋敷へと入っていく。
 彼らが数刻後、何を引き起こすか。知る者はまだいない。

「失礼致す」
 扉をノックした僧侶を出迎えたのは若いメイドだった。
「はい、何か御用でしょうか?」
「少々、用事があるのじゃがご主人か、責任者の方はご在宅であろうか?」
問われてメイドは直ぐに奥へと入っていく。
 屋敷の扉は開いたまま。冒険者の入室を妨げるものは誰もいない。
「あら。随分と簡単に入り込めるものですね」
 中の広間に入る。本気で行けば奥まで楽に侵入できそうだ。微笑む魔法使いに騎士は目配せをした。
 やがてやってきた家令とメイド。
 彼らに気付かれないように‥‥それぞれが位置についた。
「どちら様でしょ‥‥ん!」
 一番前の騎士に挨拶をした家令。その背中にくるりと回りこみ
「失礼。動いてはいけないよ!」 
 騎士がナイフを首元に添えたのだった。
「スタイン様!」
 慌てたメイドの隙を突いて、彼らは彼女を突き飛ばすと、その背後、一番奥まった客間に走っていく。
「待ちなさ‥‥」
 追おうとするメイド。だが不思議な光を受けて後、彼女は悲鳴をあげる。急に目が見えなくなったのだ。
 転び、ぶつかり、倒れた音。メイドは遠ざかる意識の向こうで
「だいじょーぶ? 怪我はしないでね」
 そんな声を聞いた気がした。
 きっと気のせいだったのだろうけれど‥‥。

○襲撃者と使用人
 事件発生から数刻後。
 屋敷の使用人達は、部屋を遠巻きに伺いながら困り顔を浮かべていた。
「スタイン様が捕まった?」
 家令見習いの青年リフにメイドははい、と答えた。
「入り込んだのはシフールを入れて四人。彼らはいきなりスタイン様にナイフを突きつけると、私に魔法をかけてあの部屋に篭ってしまったんです」
 あの部屋、と指差したのは屋敷の奥の客間。
 小さいが設備は整った部屋だ。
「で、奴らは何と?」
「快適な部屋で愉快に過ごしたいので屋敷を襲った。危害を加えるつもりは無いので黙って我々の要求に応じて欲しい。さもなくば人質がどうなるか分からない、と」
「ふざけやがって‥‥どうする?」
 若い庭師が呟いた。直ぐに騎士団に助けを求めたほうがいいだろうか?
 だが、そうすれば留守中の主に事が知れ、大騒ぎになるのは必至だ。
「とりあえず、言う事を聞いていればスタイン様に危害は加えないのだろう。要求に応じつつ、なんとか奴らを追い出す手段を考えよう」
 青年の言葉に使用人達も頷いた。
「よし、作戦を‥‥」
 彼らは相談を始める。彼らの様子を伺う者を知る由も無く。

 ‥‥溜息が吐き出された。
「どうやら抗戦するつもりのようだね。どうする?」
 魔法で聞き耳を立てていたシフールの言葉に、捕らえられている筈の家令は騎士とのチェスの手を止めて答えた
「迎え撃って下さい。徹底的にでかまいません」
 はっきりと。
「了解じゃ」
 飲みかけのお茶を置いて僧侶はニッコリと頷いて、シフールや騎士、猫を抱く魔法使いと笑顔で顔を見合わせたのだった。

 犯人達が篭る部屋には暖炉があり薪もあり、暖房には事欠かない。
 だが食べ物はすはいかない。早速
「美味しい料理をお願いするよ」
 との指示が届いた。
「要求された食料を誰が運ぶ?」
「俺が行こう。そして隙を見て誰か女を捕まえてやるよ」
 コックにしては屈強な男はそう笑った。本当なら食事に一服でも盛りたいところだが犯人達はスタインにまず食べさせると言っている。
 用意周到だ。
 そこで一番腕に自信のある彼が様子の把握と人質の奪還に行く事にしたのだ。
 ノックをし声をかけた。ゲルマン語の会話はピタリと止まり、ゆっくりと扉が開かれた。
(「よし! まず出てきた相手を突き飛ばして‥‥それから」)
 考えていた計算は
「やあ、ご苦労だったね」
 出てきた騎士の前に全て霧散する。自分より強いと一目で解ったのだ。
「料理ご馳走様。‥‥探るのはお互い様と言う事だね」
 あっさり料理を受け取られ、料理人は追い出されてしまった。
 考えはお見通し、というように‥‥。
「く、ふざけやがって〜!」
 怒りに肩を震わせた料理人は、その夜、止めるリフの言う事も聞かず庭師を誘い襲撃に出た。
 ドアの付近は警戒されているので息を潜ませ、窓から侵入しようとする。
 だが‥‥
 カランカラン!
「何だ?」
 窓など侵入接近ができそうな場所に暗闇に紛れさせた鳴子の仕掛けがしてあったことを彼らは気付かなかった。
気付いた時には目の前に、深夜だというのにバッチリと目覚め武装した賊達が立っていて二方向から睡魔に動きは止められて‥‥
「くそ‥‥」
「お帰りはあちらだ、またのご来訪をお待ちしているよ」
 あっという間に彼らは縛り上げられ廊下に投げ出されていた。
「なんなんだ? 奴ら‥‥」
仲間のロープを解きながら、余裕綽々の賊達に歯噛みをしたのだった。

○ネタ晴らし?
 それからも使用人達の行動は常に後手、後手へと回っていた。
 彼らも彼らなりになんとかスタインを救出しようとあらゆる手段を彼らなりに考えて行動した。
 しかしそのことごとく全て看破、対応されていたのだ。
 正面突破はあっさりと迎え撃たれ、魔法に動きを止められ指一本動かせず。こっそりと忍び込もうとすれば幻覚を見せられる。
 時折オカリナの音色さえ聞こえる余裕は当然使用人達をイラつかせたが、実力が違いすぎた。
 経験差や姿勢もであるが。
「こんなに脇が甘いなんて、こちらのご主人はどんな教育をされているのかしら?」
 何度目かの侵入、奪還に失敗して転がされた庭師にそんな言葉が降る。
 反論さえできず彼らは唇を噛み締めていた。 

 かくて、膠着状態のまま二日が過ぎた翌朝の事。
「えっ?」
 突然の変化に使用人達は驚きに目を見張った。
「おはよう。いい朝じゃの」
 自分達から扉を開け、僧侶が出てきたのだ。
「な、何でお前が?」
「まあ、話は後じゃ。投降する。さあ中に入るが良い」
 そして僧侶は笑って彼らを招きいれた。
 無論使用人達は驚きながらもそれに従う。
 そこで使用人達は驚くものを見ることになる。室内で
「失格だ! なっておらん!」
「スタイン‥‥さま?」
 怒りに眉を上げた家令スタインとその背後で笑う『犯人』達を。

○訓練の正体
「解ったかね? 円卓の騎士の家に仕えるということの意味が?」
 まるで師の前でしかられる子供のように、使用人達は頭を下げて俯いている。
「君達のミスはいくつもある。第一に自分達で解決しようと焦った事、第二に自分達の能力を把握せず、相手の力を侮った事、第三に‥‥」
「うわ〜、こりゃ大変だあ〜」
 説教というものは自分に向けられているのでは無いと解っていても、どこか緊張するものだ。
 ましてや、自分達のせいで怒られているとなれば。
 シフールアルディス・エルレイル(ea2913)は肩をすくめて、騎士アレクセイ・ルード(eb5450)の背中に隠れた。
 使用人達の様子を肴にアレクセイはのんびりワインを飲んでいる。
 さっきまでの篭城事件が冒険者を使っての訓練だったと知り、使用人達は当然驚いたようだ。
 だが、正直言えば驚いている暇は彼らには無かった。
 捕らわれの筈だった家令からの説教攻撃が彼らを待っていたからだ。
「そのくらいにしてやってはどうかの? スタイン殿」
「まあ、彼らも素人ですし‥‥」
「いえ、素人としても結果はあまりにも惰弱すぎます。これではおちおち引退もできませぬ」
 僧侶朱鈴麗(eb5463)や魔法使いマリエッタ・ミモザ(ec1110)のとりなしもあまり効果を発揮せず結局、彼らの説教はかなり長く続いた。
 その様子を報酬として振舞われた上等のワインと料理と一緒に楽しんでいたアレクセイは立ち上がると微笑んで恐縮したままの使用人達に告げた。
「滞在は快適だったよ。料理も上手い。君達は使用人としては決して無能ではない」
 心からの褒め言葉を。
「だが、少しばかり油断が過ぎたのも事実のようだね。危機感を持ち頑張りたまえ。君達の主の為にね」
「うむ、楽しかったぞ。今度はゆっくりと客として滞在したいものだ」
「頑張って下さいませ」
「「「「「はい!」」」」」
 使用人達の言葉が唱和し、答えた。
「迷惑をかけたお詫びに音楽を一曲演奏するね。この‥‥オカリナでさ」
 アルディスが奏でる優しい調べを聴きながら冒険者達は思った。
 素直で真面目な良い使用人達。そしてスタイン。
「まったく、似たもの主従じゃのお」
 パーシを主とし、スタインの下で学び訓練されれば同じ過ちは繰り返さない、立派な人間になるだろう。
 その手伝いができたのなら良かったと、‥‥心から思ったのである。

 それから、使用人達がどんな罰と訓練を受けたか冒険者達は知らない。
 だが時折屋敷の庭や、買い物に覗く使用人達の顔から笑顔と意欲が消えることはもう無かったそうである。