【運命の神へのリベンジ】血塗られた結婚式
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月06日〜09月11日
リプレイ公開日:2004年09月08日
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●オープニング
それはある宿屋の主人からの依頼だった。
「俺の宿の常連さんが、殺されそうになったんだ」
そう言うと、彼は冒険者達の前に一枚の手紙を差し出す。
『私には、同郷の友人がおります。
彼は魅力的な人で、多くの人に愛され幸せに暮らしていました。ですが‥その魅力が仇になったのでしょうか?
彼は、罪を犯しそしてそれを隠したまま偽りの幸せを掴もうとしています。
私はそれを止めるために来ましたが、力及ばず倒れる運命だそうです。私が死んで見つかった時には、その時はどうか、この手紙を冒険者ギルドかお城に持っていって再調査を依頼してください。
彼の故郷の木の根元に証拠が埋まっています。
私の荷物と全財産を残します。それを宿代と調査の依頼料に。
よろしくお願いします。 クラウス』
「実際死ぬかもしれなかった所はなんとか助かったが、この人はまだ意識不明の重体だ。今は恋人が付き添っているけどな。で、俺は猛烈に腹が立っている。もちろんこの人を殺そうとした犯人にだ」
主人はそう言って、冒険者達の目を見つめた。真剣な瞳だ。
「はっきり言おう。犯人はもう解っている。この人の同郷の友人でアベルっていう貴族の使用人してた奴だ」
先にある冒険者がそれを調べて解ったのだという。
彼はその友人を自首させようとして、逆に殺されかけた。先の手紙は死を覚悟した遺書だったと主人は言う。
「だが、明確な証拠はねえ、生き証人は意識不明だしな。しかもだ、このアベルって奴は5日後に自分の仕えてた貴族の娘と結婚することになってる。そうすれば奴は貴族さまだ。もう簡単に手は出せねえ。実はその結婚の為に女を一人すでに殺してるらしいのによ」
だから、彼は依頼に来たのだという。いつしか息子みたいに思っていた常連の、最後になるかもしれなかった願いをかなえる為に。
「やることは唯一つ。結婚式までにこいつの罪を暴いて報いを受けさせてやってくれ」
方法はいろいろあるが、全てに優先されるのがしっかりとした証拠固めだ。でないと彼のバックの貴族がもみ消しにかかってくるかもしれない。
「この手紙にある証拠を取りに行くのもいいかもな、ああ、彼の住所は宿帳に書いてある。ここから歩いて1日くらいのとこの村だ。ただ、彼の証言を当てにするのは止めてくれよ。5日後までに意識が戻るかなんて解らねえからな」
告発の場所も考えなければならない。この依頼ははっきり言って難しくなりそうだ。
「だけど、こんな奴をこのままにしておいていいはずが無いからな。頼むぜ。協力は惜しまないからよ」
主人はそう言って席を立とうとした‥が、帰り間際にふと何かを思い出したように振りかえる。
「それから、アイツには仲間がいるかもしれない。この人が殺されかけた時、魔法の痕跡があったって話だ。二人か、三人か‥。ひょっとしたらこの人や恋人の命を狙ってくるかもしれない。それも頭に入れておいてくれよ」
そんなことになったら絶対に報酬は払わねえからよ! 厳重に念を押して彼は帰って行った。
(「ひょっとしたら、運命の神へのリベンジチャンスかもしれない‥最初で、最後の‥」)
依頼を聞きながら、そう思った冒険者も、いたのかもしれない‥
教会の一室で彼女は祈るように、彼の手をとっていた。
「私は、あなたが生きていてくれればそれで構いません。どうか早く目を覚ましてください。言わなくてはならないことがあるんです」
彼女の胸にはピンクのリボンで結んだ小さな袋がかけられている。
「そして、これを私に‥ちゃんと‥」
かつて人の未来を見ていた彼女は、今、彼だけを見つめている。
だから、彼女は知らない。自らに迫る危険も‥これから先の運命も‥
●リプレイ本文
白いドレスを纏った娘が、嬉しそうに微笑む。
「ねえ、アベル。似合う?」
「ああ、とても美しいよ」
結婚式の用意は進められていた。もうすぐ‥自分は彼女と結婚し貴族となる。だが‥
(「‥いいのか? 本当に‥」)
一人の人間を死に至らしめ、大事な友を傷つけたのだ。いい筈は無い。でも‥もう後戻りできない。
「アベル、ちょっと話がある‥」
呼ばれた声に、彼は頷いて、近づいていく。もう自分の運命は決まった、いや、決めたのだから‥
教会奥の一室、まだ眠り続ける男性がいた。
「必ず守り抜く。どんな手を使っても」
廊下から見つめ、白服のスニア・ロランド(ea5929)は呟いた。それは‥誓い。彼女は後悔していた自分の‥甘さを。
「ハハ、意外と似合ってるんじゃないか? ‥ほい、スニアさん」
レオン・ガブリエフ(ea5514)は預かっていた剣を投げた。無言でキャッチした剣をスニアは彼、クラウスのベッドに隠す。今の自分は彼と恋人シャーラの友人。看護の手伝いに来ただけなのだから。
「人の未来を決めるのは人だ、運命じゃない」
「気にしすぎてはいけませんよ」
薬草師に化けたロット・グレナム(ea0923)の言葉をクリス・シュナイツァー(ea0966)も肯定するように頷く。
「奴らは‥来るかしら?」
「本人は来ないだろうが、仲間は来るだろうな」
「シーンさんや出雲さんがが撒いた餌が効果を発揮すれば確実に‥」
「そうね‥」
シーン・イスパル(ea5510)は自分と同じ思いを抱いているだろう、とスニアは感じていた。調査をしている希龍出雲(ea3109)も証拠を取りにいった仲間もきっと‥
「運命の神になんて負けない。必ず‥守って見せるわ」
のどかな村。彼等は手綱を引いて馬をとめた。
「ここが彼らの村‥まず二人の家に行ってみましょうか‥」
「そうだね‥すみませ〜ん」
馬から降りて沖田光(ea0029)とイリア・イガルーク(ea6120)は聞き込みを始める。小さな村のこと。思った以上に話は早く進む。
「アベルとクラウスか、親友だったぜ」
「祭りでお揃いのナイフを買って大事にしてたよな」
村人達がそう語るほど二人は愛されていたらしい。クラウスの身内はすでに亡く、アベルの家族も年老いた祖母だけと聞き、二人はアベルの祖母の元へと向かう。
「あの子は、今度結婚が決まったそうですわ。嬉しいですねえ」
嬉しそうな祖母に彼等は口ごもる。だが聞かなければならない。
「あの、アベルさんとクラウスさんの思い出の木ってあります?」
光の問いには、あっさりとはい、の返事が返る。
「そこの樫の樹。あそこが子供の頃から二人のお気に入りでしたよ。良く宝物を隠したりして‥」
イリアはそっと家を出て樹の前に立った。根元には、掘り返された跡がある。
丁寧に掘り返してみると‥
「あった‥」
砂だらけのハンカチに包まれた何かが埋まっている。手に取り広げた‥
「これ‥?」
それは‥正しく証拠だった。アベルの名の刻まれたナイフ。刃には赤黒いものがこびり付いている。
しかも、包まれたハンカチは手縫いで、しかも紋章入りだ。
「どうして、捨てずに埋めておいたんだろ。見つかれば終わりなのに」
疑問は残る。だが、これを持って帰れば‥
イリアは証拠品をしまうと光に声をかけ、帰路に着こうとした‥
「冒険者とお見受けしますが‥あの村に何か御用ですか」
村を出て直ぐの所で、すれ違った一人の魔法使い。光はいいえ、と首を振る。だが、その目は敵を見逃さない武士の眼差し‥
「イリアさん!」
「了解! ダークネス!」
二人は魔法と同時に馬に鞭を入れる。突然の暗闇に驚く隙に二人は街道を駆け進む。
「私達の今の役割はこの証拠の品を持ち帰ることです」
追跡の気配を感じなくなるまで、二人は馬を走らせた。
「噂は撒いてきたよ。館の前の使用人とかにね。アベルさん今は貴族の養子なんだって」
「こっちも酒場と宿屋の宿泊客に話してきた」
2日目の夜。証拠探しと情報収集を担当していたシーンと出雲が帰ってきて彼らの緊張の糸も張り詰める。
村に行った仲間はまだ帰ってこない。ならば‥
ここ数日窓の開閉さえも気を使っている。
「‥今日、明日ってところかな」
そう推理したロットの予想は‥的中した。
その日の深夜。
「来るか」
寝起きの悪いレオンも流石に目を覚ます。外から気配が近づいてくる。一つ、二つ?
スニアに目配せすると彼は壁を軽く、コツンと叩いた。
そして窓が開き、登ってくる影が‥部屋の中に入った瞬間! レオンは剣の腹を一人の腹部に思いっきり撃ちつけた。
「グハッ!」
静寂だけの部屋に低い唸り声が響いた時、襲撃者のは自分達が誘い込まれた事を知った。
「くそっ!」
「まだ、やる気か? このまま治安組織に突き出されればどうなるかは分かってるよな? なんなら俺がこの場で始末してもいいんだし」
敵の抵抗をさらに削ぐため、ロットはあえて脅しをかけた。元々容赦をするつもりは無かった、だが‥襲撃者はあっさりと剣を落とし手を上げる。
「解った、降伏しよう」
あまりの素直さにほんの少し不安を感じ、スニアはロープで襲撃者二人を捕縛した。
「‥貴方達には証人になってもらうわ。アベルに命令されたと皆の前で証言しなければ、私は必ずあなた達を見つけ出して始末する」
襲撃者は目を瞬かせた。そして、くっくっと下を向いて、やがて上を向いて今度は大声で笑い始める。
「何が、可笑しい?」
スニアは抜き身の剣を二人の前に突きつける。
「いや‥。いいぜ、いくらでも証言してやる」
思い通りになったはずなのに、まるで侮辱されたような印象をスニアは感じずにはいられなかった。
教会は荘厳な静寂を湛えていた。
神の前で、今、結婚の誓いが成されようとしている。
「汝はこの者を妻とし永遠の愛を誓いますか?」
新郎は神の前に膝をつき‥横の少女を見つめ、もう一度前を向いた。
「誓いま‥」
「その結婚! ちょっと待ったあ」
参列者、関係者、そして‥新郎新婦は一斉に同じ方向を振り向く。そこには優雅な貴族のいでたちで立つ二人の人物とその背後の冒険者たち。彼らの通る声が静寂の空間を切り裂いた。
お祝いを言いたいと言ってやってきた一行だ。
「そなた達?」
突然の暴挙に花嫁の父が睨みつける視線を気にせずクリスは参列者に、大事な式の邪魔をしたことをまず詫びた。
「幸せな日を壊すようなマネをお許しください。ですが、このまま式を続けることこそ悲劇であるとお知らせしたいのです。新郎アベルの罪を、どうぞお聞きください」
クリスはシーン達から聞いたこの事件の始まり、そしてアベルへの告発を語った。
この結婚の為にアベルは恋人を殺し、それを止めようとした友人さえも、手にかけた。と。
話が進むごとに参列者と、そして何より新婦の顔がから血の気が引けていく。当のアベルはと言えば薄い微笑を浮かべたまま、反抗もせずに目を閉じていた。
「し、証拠はありますの?」
新婦の声は悲痛なまでに悲しかった。嘘だと、否定して欲しいのにアベルは何も反論をしない。だから彼女が言うしか無かったのだ。
「証拠は、ここに‥」
「証人もいる」
イリアは大切に持ってきた証拠の品を手の上で開いた。シーンがそれをマジカルミラージュで拡大して参加者皆に見せる。
血染めのハンカチ。そして彼の名入りの凶器。
捕まえられた襲撃者は、アベルに頼まれて親友を殺そうとしたと皆の前に告げた。
「こんなもの!」
幻影さえも突っ切って駆け寄ってきた新婦は、証拠のナイフを奪い取り捨てようとする。その手を止めたのは‥アベルだった。
「‥もう、いいんだ。許して欲しい」
ざわめく参列者、彼は新婦の手にそっと口付けすると、ナイフを手に取った。そして‥ナイフを収めた。
自分の‥胸に。
「えっ‥!?」
誰も、アベルを追及することだけに気を取られ‥その後の事を‥このことを想像さえもしていなかった。
「アベル!」
駆け寄る新婦のドレスが純白から真紅に染まる。
「君を‥好きだったよ。‥冒険者たち‥見つけてくれてありがとう。‥伝えてくれる‥かい‥クラウスに‥ゴメン‥と」
ほんの僅かの間。ほんの僅かの油断。もう、祈りも薬も効かない。
犯人を追い詰め、式を止めた。依頼は成功した。
‥犯人は、自らに裁きを下し、自らの運命を永遠に止めたのだった。
「そうですか‥アベルが‥」
クラウスが目を覚ましたのは、親友の命の炎が消えて間もなくだった。
「弁護するわけじゃありませんが、アベルは‥いい奴だったんです。いい奴過ぎた‥」
俯きながらクラウスは話す。あの日、アベルが語った真実を。
『俺は‥真実マリアを愛していた。
だけど大事に思って仕えていたお嬢様が俺を愛していると言ってくれた。
それも、俺は嬉しかったんだ。どちらも拒めなかった。
お嬢様との結婚は、何故か認められてどんどん話が進んでいく。いつの間にかマリアとの婚約破棄まで。
俺は話し合おうと思って‥マリアに会った。でも‥詰め寄られたはずみで‥、そして‥』
そこを、魔法使いと戦士が襲ってきた。彼らがどういう関係で事件を知り、アベルと関係したのかは今となっては解らない。
「凶器を大切な樹に埋めに来た時、思ったんです。あいつは‥止めて欲しがっていると‥あのままより、偽りの幸せを掴むより‥良かったと思います。ありがとう‥ございました」
クラウスの目元から溢れる涙を、彼は拭けなかった。誰も、拭いてやる事はできなかった。
たった、一人以外は‥
「どうか、後悔しないで‥あなたは一生懸命、やったのですから‥」
聖母のようなシャーラの微笑みに、クラウスはその胸で涙を拭った。
冒険者たちは‥黙ってその場を離れたのだった。
血に染まった花嫁は、今日、もっとも幸せになるはずだった少女は今、家で涙に暮れていることだろう。
花嫁のヴェールを飾っていた白い薔薇が、赤黒いシミを残し聖堂に落ちている。
イリアはそれを拾い上げると、小さな胸に抱いた。
「何が‥いけなかったのかな」
「何も、いけなくは無かった。ただ、俺達は忘れていたんだ。結婚式を壊す相手も、そして犯人さえも何かを思って生きている人間だってことを‥」
砂を噛むような虚しさを抱え出雲は呟いた。
「あいつは‥運命に流され、負けたんだ。弱い、弱すぎる!」
ロットの叫びもどこか虚しさを湛える。
「人は‥運命には逆らえないのか。俺は‥運命の神を切り捨てられなかった」
「悔いても、仕方ありません。我々は依頼を完遂した。できるだけのことは‥やったのですから」
レオン、クリス、そして光もまた大聖堂の輝きを見つめた。
「我らが父よ‥迷い子をどうかお導きください‥」
祈るイリアに答えるものはいなかった。
数日後、冒険者たちは三人の人物をキャメロットから見送った。
クラウスと、シャーラ。二人はアベルの遺品を持って村に帰るという。
娘を傷つけ、家名に泥を塗ったと貴族は怒ったが‥自らの命で罪を償ったアベルをそれ以上貶めることはしないでくれた。
アベルは全ての罪を被って死んだので、捕縛した襲撃者の背後は知れないままだったが‥
「皆さん、本当にお世話になりました」
頭を下げるシャーラの瞳は、もう占い師の目をしていないことに、シーンは気がついた。指には銀色の光が見える。
「私たちは‥」
自らを何度責めたか解らない、顔を合わせる資格さえ無いように俯くソニアの手に何かが握らされた。
「えっ‥?」
銀の十字架とシャーラの顔を何度も見つめる。
「皆さんは、私の願いを聞いてくださいました。少なくとも、運命から彼の命を救ってくださった。それで、十分です」
偽りのない言葉、心からの笑顔。それに、冒険者たちは救われた。ほんの僅かであったとしても。
「皆さんの上に心からの幸せがあらんことを‥」
二人はもう一度頭を下げて去っていく。遠ざかっていく二人を見つめ、彼等は思った。
運命は決して決まってはいない。それを決めるのは人の心なのだ。
一つ一つの行動、一人一人の心が動き、重なり、運命を決める。
それを、決して忘れないようにしよう‥と。