小さくて大きな友達

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月09日〜04月14日

リプレイ公開日:2008年04月16日

●オープニング

 その二人はとっても仲良しだった。
 チムはジャイアント。
 ルーはシフール。
 一緒にいくつも冒険をし、一緒の家に暮らす仲間であり、家族である。
 だが、そんな仲良し冒険者に今、危機が迫ろうとしていた。 

「はっ‥‥ハッ!」
 ベッドサイドでタオルを絞ろうとしていたルーは、ビクリ、振り返る。
「ハッ、ハッ‥‥ハアアクション!!」
 ぶわん!
 空気が揺れて飛沫が飛ぶ。
「うわああっ!」
 ルーは慌ててカーテンを抱きしめた。戦士としてのとっさの判断。
 もし、対応が一瞬遅れていたら窓の外に吹き飛ばされていたかもしれない。
「る、ルー? だ、だいじょうぶ」
 ベッドの中から聞こえる弱弱しいが大きな声は、それでも友達を心配している。
「だ・だいじょーぶ〜〜。これくらいへーきだよ〜」
 実はあまり平気ではない。けれど友達を心配させてはいけないと答えるように小さな、精一杯元気に声は答えた。
「そっちこそ、大丈夫? もう三日も風邪、治らないじゃん。薬は? ちゃんと飲んでる?」
「飲んでるけど‥‥ゴホンゴホン。‥‥ごめん。もっかい寝るよ」
「うん、しっかり寝て、早く直して?」
「ありがと‥‥ごめ‥‥ん」
 トロトロと目を閉じるとチムは直ぐに眠りについてしまった。
 風邪で体力を消耗しているのだろう。
「困ったなあ。僕一人じゃろくな看病もしてやれないし‥‥。あー、もう薬もあんまりないじゃないか?」
 シフールである事を恥じた事は無いが、こういう時は真剣に困る。
 ルーは大きく溜息をついた。そして‥‥ある決意と共に財布を抱え、外に出たのだった。
 チムを起こさないようにそっと。

 シフールの冒険者からの依頼は二つ。
 一つは風邪で寝込んでいるジャイアント、チムの看病。
 そしてもう一つは‥‥
「キャメロットから少し離れた森の中に住んでる薬師の所に、風邪によく効く薬を取りに行くのを手伝って欲しい、ということだ」
 依頼人のルーはシフール族の戦士。
 自分の身を守るくらいは当然できるのだが‥‥。
「帰りはジャイアントのパートナーに飲ませる薬を持ってこないといけないから、一人ではちょっとキツイんだそうだ」
 係員はそう言った。
 目的地はキャメロットから片道一日ほど、それほど凶悪なモンスターが出るという話も聞かない。
 若手の冒険者達でも対応は十分可能だろう。
 大切な人の為に、頑張ろうとする。
 そんな小さな戦士の大きな思いが伝わる事を、係員は祈りつつ依頼を張り出した。

●今回の参加者

 ec1999 スティンガー・ティンカー(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec3660 リディア・レノン(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec3876 アイリス・リード(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

○天の助け
 冒険者街の小さな家。
「チム&ルー‥‥ここ‥‥ね?」
 メモを見て確認するレン・オリミヤ(ec4115)に頷いてスティンガー・ティンカー(ec1999)は扉をトントントン。
 軽くノックする。
「はい‥‥どなた?」
 返事はする。だが扉は動かない。
「私達は冒険者ギルドより依頼を受けました冒険者です。お手伝いに‥‥」
 アイリス・リード(ec3876)がそう答えると、ほぼ同時。
「来てくれたんだ! ありがとー!!」
 扉の中央、小さな窓が勢い良く開いて中からシフールが飛び出してきた。
「待ってたんだよ〜。ホント。嬉しいよ〜」
「く、苦しい。放し‥‥て」
 首元に飛びつかれたレンは、思わず息を求めて手をバタつかせる。
「あ! ご、ゴメン。つい‥‥」
 慌てて飛びのいて俯くシフールに
「そんなに喜んで貰えて嬉しいわ。地のウィザード、リディア・レノン(ec3660)よ。貴方がルーさん? 今回はよろしくね」
 冒険者達は笑いかけた。
 ルーは頭をかきながらとりあえず家の中へと冒険者を招き入れるが
「あ〜、本当に苦労していたようですね。ルーさん」
 一目見てアイリスは苦笑交じりの笑みを浮かべてしまった。
 家の中は正直少々、いやかなり荒れ果てていた。
 汚れた食器や洗濯物があちこちに積み重なり、部屋の隅やテーブルの下には大きな綿ボコリが鎮座している。
「これでも‥‥一生懸命やったんだよ」
「‥‥これは、シフールには無理ですよ。大変でしたね」
 ジャイアント用の大き目の家具や台所、服や毛布を見てスティンガーもリディアの言葉に同意する。
 聞けば普段はチムが家事をしているという。
 人間にも使いづらい道具を懸命に使って看病をしていたシフールの苦労が目に見えるようだ。
「ではルーさんは出かける用意を。後は私が引き受けますので」
 落ちていたルーのマントを拾い上げ、アイリスははい、と渡した。
「お薬を取りに行くのでしょう? 急いだ方が良くはありませんか?」
「えっ? でも僕がいなくなったらチムの看病は‥‥」
「チム様の為にも急いだ方がいいですよ。その為にわたし達は来たのですから。どうぞご遠慮なさらずこき使って下さい」
 スティンガーもウインクする。
 冒険者達のアイコンタクト。一度ルーは看病から離した方がいい。
「看病は‥‥アイリス一人で‥‥大丈夫。それに、私達‥‥その薬師の家‥‥解らない」
 レンと冒険者達の言葉に、迷い顔だったルーもマント受け取り
「ウン」
 と答えた。
「じゃあ、直ぐに準備するから。頼むね!」
 全速力で飛び去るシフールの背中を
「一生懸命ね。本当に力になってあげたくなるわ」
「ええ、頑張りましょう」
「留守はお任せ下さい。皆さんもどうぞお気をつけて」
 同じ思いを抱いた仲間達が見つめていた。  

○夢の中で
 日が完全に地平に落ちてだいぶ経つ。
「そろそろ暗くなるわ。今日はこの辺で一度休憩しましょ?」
 周囲を見回してリディアは仲間達と、先頭を飛ぶルーに声をかけた。
「えっ! でも、あともう少し行けば薬師の家に着くのに」
「あと少しってでもさっき教えて貰った場所なら、まだけっこう時間はかかるわよ。それに今日薬を受け取れても戻るのは明日になっちゃうんだから急ぎたい気持ちは解るけど、少し休まないと‥‥」
「無理は禁物ですよ。お腹もすいているのではありませんか? 明日早く帰る為にも今日は休んではいかがでしょうか?」
 冒険者達に説得されて
「でも‥‥ルーはのんびりしてるから‥‥。早く薬を持っていかないと、きっとまた‥‥」
 しぶしぶに近い形で野営をすることを受け入れたルーであったか、食事の途中から舟をこぎ始め
「ゴメン、ちょっとだけ‥‥寝させて。火の見張りは‥‥後で交代するから‥‥」
 と言うとあっという間に寝てしまった。
 毛布で包んでレンが抱き上げても、ピクリとも動かない。
「よっぽど疲れていたのでしょうね。少し寝させてあげましょう?」
 膝にルーを乗せたレンは無言で頷いた。
「‥‥かわいい」
 長い髪をそっと撫でてあげるレンの柔らかい表情にリディアはクスッ、小さく笑った。
「あら? 随分優しいのね」
「だって‥‥この子‥‥」
「シッ!」
 指を口に立てるスティンガー。リディアとレンも背筋を緊張させて武器を握り締め周囲を伺った。
「どうしたの?」
「野営地の側に撒いておいた木の枝を誰かが踏んだ気配がしたのです。おそらく、獣か何かだと思うのですが‥‥」
 スティンガーの言うとおり、
 フーッ、フウーーッ。
 荒い獣の息遣いがこちらに近づいてくる。
 冒険者達は動かず、声も立てず、静かに静かにその場で息を潜めた。
 やがて炎の匂いに気付いたのか、それとも人の気配を察知したのか。
 幸いにもその獣の気配は、次第に遠ざかり、やがて森の奥へと消えていく。
「よかった。万が一の時には戦わなければならないかと思っていましたよ」
 握り締めていた弓を置いてスティンガーは、溜息と一緒に安堵の思いを吐き出す。
「そうね。戦闘はできるだけ避けるべきだもの。あれは熊だったのかしら」
 リディアも呪文詠唱の印を落とした。レンは無言。
 だが、手の中で寝息を立てるルーを見つめる眼差しは、仲間達の言葉に同意、と言っていた。
「そうかもしれませんね。念の為、交代で見張りはしましょうか。最初はわたしが見張りに付きますから。ルー様はリディア様とレン様のテントに入れてあげて下さいね」
 ウインクするスティンガーに、
「‥‥チム‥‥。無理しちゃダメ。‥‥ちゃんと‥‥寝て‥‥いて」
 リディアとレンは、夢の中でも看病を続けるルーに微笑み、頷いた。

○互いの思い
「チムさん。お具合はいかがですか?」
 ノックと共に入ってきたアイリスに気付いたチムは慌てて身を起こす。
「すみません‥‥、もうだいぶ‥‥ゲホンゴホン‥‥」
 咳き込むチムに駆け寄るとアイリスはその背中をそっと撫でた。
「無理はいけませんわ。どうぞお楽に。これはミルク粥とスープです。少しお腹に入れられませんか?」
 頭のタオルを交換し、身体の汗を拭き、着替えを手伝う。
「大丈夫です。昨日より本当に楽になりました。アイリスさんが魔法をかけて下さったからでしょうか?」
「それは良かったです」
 アイリスは心からの笑顔でそう答えた。
 昨日から今日にかけての二日間。
 アイリスは一人で留守居役の仕事をこなした。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
 終始チムは恐縮気味だったがアイリスは
「一人で頑張ったルーさんに比べれば何でもないことですわ。どうぞお気になさらず」
 と言って止めるまもなくくるくると働いてくれたのだ。
 部屋を掃除し、買出しをし、食事を作って、チムの身体を清拭する。
「病気の時は体を清潔に保つ事がとても大切なのです」
 女性に身体を拭いて貰う事を恥ずかしがったチムにアイリスはそう言って笑ったものだ。
「ルーの時は気にした事無かったんですけどね」
 苦笑するチム。でも彼が語るルーは
「いつも一生懸命で、頑張りやなんです。そしてとっても優しいんですよ。口はちょっと悪い所もあるけど‥‥」
 優しさと愛情に溢れていた。
「仲がいいのですわね」
 アイリスが問うと
「家族ですから」
 そうはっきりと答えるチム。互いが、互いを本当に大切に思っているのが伝わってくる。
「お2人は素敵なご関係ですね。人との繋がりはとても愛しく尊いもの。家族ともあれば尚更‥‥」
 自らの血の宿命があるからだろうか。アイリスは手を祈りに組んだ。
「どうか、その繋がりを大事にして下さいませ」
 チムは何か答えるが、返事はアイリスの耳には届かなかった。
「ただいま! チム! 薬持ってきたよ!」
 大きな扉が開くより早く、小さな扉が開いてルーが飛び込んできたからだ。
「ルー様、焦らないで。薬はここですよ」
「もう! 心配な気持ちは解るけどね」
「足‥‥じゃなくて、飛ぶの‥‥早すぎ‥‥」
 少し遅れて大きな扉も開く。息をきらせた冒険者達。でも、その表情は明るかった。
「あ! ゴメン。‥‥チム。お薬。ちゃんと飲んで早く、良くなって‥‥」
 スティンガーから受け取った瓶をはいと、差し出すルー。
「ありがとう。みなさん。ありがとう‥‥ルー」
 小さくてけれども大きな思いの篭った小瓶を、チムはしっかりと受け取った。
 アイリスはその行為にさっき聞こえなかった返事を聞いたような気がしたのだった。

○小さくて大きな友達
 それから二日後。
 全ては完全に元に戻った。
 アイリスと戻ってきた冒険者の手伝いもあって家は完全に掃除され、薬と看病のおかげでチムの風邪も完治したのだ。
「本当にお世話になりました」
「いえ、こちらこそ。昨日のお夕飯美味しかったですわ」
 頭を下げるチムにアイリスは手を振る。
 お礼代わりにともてなされた料理は心が篭っていて確かに美味しかった。
「本当に頑張ったのはルーさんだから。私達はそのお手伝いをしただけ。残った薬草は今後に使って下さいな」
 レンの後ろに隠れるルーの顔が赤いのはリディアに褒められたから、だけでは多分、ない。
「良くお似合いですよ。恥ずかしがらないでルー様」
 笑いながらスティンガーがルーを押す。
 彼に作って貰ったドレス姿のルーが照れた顔で、チムの隣に立つ。
「本当だね。ありがとう。ルー」
「‥‥もう、風邪引いたりしないで。僕が大変だから」
「うん、気をつけるよ」
 暖かい思い、暖かい会話。暖かい二人。
 それを冒険者は心から嬉しく思い見つめていた。

 帰路、レンは手の中に残ったアクセサリーを見る。
「僕には大きいからあげる」
 ルーがそう言ってくれたものだ。
 振り返ると手を繋いでいる二人。
 恋人とか、そんな言葉ではないけれど確かな絆で結ばれている二人はこれよりも確かに輝いている。
「‥‥ありがと」
 春の日差しのような暖かい何かを目に見えない報酬として、冒険者はいつまでも見送る二人に、手を振りかえし家を後にしたのだった。