未知との遭遇?
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月16日〜05月21日
リプレイ公開日:2008年05月23日
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●オープニング
五月のある日。
仕事に埋もれるパーシ・ヴァルの元に一人の冒険者がやってきた。
「よおっ! 相変わらず忙しそうだな」
「リ・ル‥‥(ea3888)」
軽くサインをきる旧知の冒険者にパーシは軽い笑みを返すと、書類を見る手を止めた。
「この間の件では、いろいろ世話をかけたな」
円卓の騎士の謝罪にリルは軽く手を横に振った。
「気にしないでくれ。それにどっちかっていうと、こっちが後手に回ったようなものだからな。まだまだあいつの手のひらの上ってところだ」
再び、軽い笑み。
「だが、このまま済ますつもりはないのだろう?」
「勿論だ。あんたも‥‥そうだろう?」
互いに目を合わせ浮かべたそれは、口に言わずとも理解できる歴戦の戦士同士の言葉であった。
「で、本題なんだが出した申請書、見てくれたか?」
「ああ‥‥。エリシュナを冒険者街に見学に連れ出す、という話だったか?」
そうだ、とパーシの言葉に頷いてリルは改めて申請の意図を説明する。
ある事件で犯人に操られ罪を犯した少女エリシュナ。
子供の頃に家族を失い、そして今、彼女はたった一人頼りにしていた『兄』を失った。
もはや彼女にとって雛から育てたと言うコカトリスが唯一残された家族であるが、コカトリスは魔獣。
エリシュナが保護観察されている教会側で、コカトリスは今、檻に繋がれていた。
いずれ、彼女が自由の身となる日が来ても魔獣使いとしてコカトリスを完全に掌握していなければ、また不幸な事態を引き起こしかねない。
「だが、冒険者街には魔獣を飼っている連中がたくさんいるからな。しかも、絆を深めている奴も多い。そういう連中に魔獣パートナーとの暮らし方を教えて貰いたいんだ。できれば魔獣を街へ連れ出して一般人への理解も深めさせたいんだが‥‥」
「それは、却下だ」
パーシは書類から目を上げ、リルを見る。
「例え冒険者に懐いている魔獣であっても一般人の不特定多数の前に連れ出すのは許可できない。万が一の事が起きれば大変な事になる」
冷静な執行者の言葉にリルは
「しかし!」
食い下がる。
「俺は、子供の笑顔が見たいんだ。‥‥大事な家族を失ったエリシュナ。このままじゃあの子は未来に希望を失ってしまう。だから不幸な生い立ちをなんか努力次第で打ち破れると教えてやりたいんだ!」
と。いつになく力と思いの篭った目で、真っ直ぐにパーシを見つめる。
「だから‥‥なんとか‥‥、頼む‥‥」
「勘違いするな」
「へっ?」
目の前の円卓の騎士が浮かべた表情に、リルは珍しく困惑の表情を浮かべる。
それは‥‥言ってみればリルこそが得意とする‥‥邪笑と呼ばれるものに近かったから。
「別にエリシュナを連れ出すことと、冒険者街に行く事を却下しているわけじゃない。魔獣をむやみに街中に連れ出すことを反対しただけだ」
「と、言う事は‥‥つまり?」
「そうだ。お前が知り合いである冒険者の家に、エリシュナを連れて行く分には問題ない。それほど多くないなら興味のある子供や見学者を同行させてもいいだろう。万が一の時の責任は取ってもらう事になるかも知れんが、な」
今度、浮かべられた笑みは紛れもない邪笑。
「こっの〜。脅かしやがって。依頼却下かと思って心配したじゃないか! この風船騎士!」
リルは、やがて大爆笑をはじめた円卓の騎士に、ただただ溜息をつくばかりだった。
そして冒険者ギルドに冒険者リルの名でこんな張り紙が出された。
『魔獣を飼っている冒険者募集
自慢の魔獣を子供達に見せて下さい。
希望参加条件:冒険者街に絆の高い魔獣と暮らしている冒険者』
パーシからの援助もあるので一人につき3〜4Gのお礼は出せそうだ。
とも書いてある。
『魔獣への思い。魔獣とどう生きたらいいか、熱く語って下さい。
未来を築く子供達の為に、先達の意見に期待しています』
今、魔境とさえ言われるキャメロット冒険者街。
魔獣、妖怪、怪物と言われる生き物達がひしめいている。
けれども、そこにいるのは一つの命であり、誰かにとっての大事な友達。
この空の下にどんな生き物がいて、どんな風に生きているのか。
そんな事に思いをはせながら、リルもまた未知との遭遇に微かな心をときめかせていた。
●リプレイ本文
○差し出された手
彼はその日教会の門の前で待つ彼女の前に現れて笑顔で手を伸ばした
「さあ、出かけるぞ」
と。
「あの一体‥‥何、ですか‥‥リルさん」
少女は来客を見つめ、瞬きする。
彼の名はリ・ル(ea3888)
自分を助けてくれた恩人。忘れる筈も無いが、彼女がリルを見る目は何故ここにいるのかという驚きの眼差しだ。
「あれ? パーシの旦那から聞いてないか?」
微かな苦笑。だがいいサプライズだと思い返す。
「これから出かける。用意をしてくれないか?」
「あの、どこへ‥‥」
腰に手を当て答えを返す。
「行き先は冒険者街。知ってるか? 冒険者街には魔獣やモンスター系ペットを飼ってる奴が沢山いるんだ。それを見せてやる。コカトリスと一緒にな」
「えっ? あの子‥‥と?」
驚きと戸惑いを顔に浮かべる少女。
まだ、正直状況は解らないという顔。
けれど‥‥
「冒険者街は辛いか? 大丈夫か? でももし、行けるなら未知との遭遇を思いきり楽しもう。一緒に」
差し伸ばされた手を彼女は戸惑いつつ、だがしっかりと握り締めた。
○キャメロットの魔境(?)
春のキャメロットを二人は手を繋いで歩いていく。
二人を取り巻く人たちは道を開ける。
まるでデートのようと、誰か知り合いが見れば冷やかすだろうか?
紐で繋がれたコカトリスが後ろにいなければ。
「ごめんな。エリュ、なんだかギルドが大忙しで人があまり集まらなかったんだ」
すまなそうに頭を掻くリルに、少女エリシュナ。エリュは首を大きく横に振った。
「そんな‥‥事。私、もう忘れられているかと」
「そんな事、言うんじゃない。誰も‥‥エリュの事を忘れたりしないさ」
エリシュナと彼女を呼んだという男性の一人は、もうこの世にはいない。
俯く小柄な十六歳の少女の髪を優しく撫でてからリルは指を指す。
「でも忙しい中受けてくれた人がいてよかったよ。ほら、もう直ぐ冒険者街。あそこで待っている筈‥‥」
彼の視線と指の先には二人の少女とペガサス、一人(?)の男性(?)とグリフォンがいる。
「あ‥‥ベルさん?」
「お? ベルも来てたんだ? リースは知っているよな。こっちはベル」
リースフィア・エルスリード(eb2745)とマリーベルは小さく会釈した。
「元気そうで何よりですね。コカトリスさんも」
「はい」
「今日はよろしくお願いします」
余計な事を言わず微笑むリースの優しさに、エリュは頭を下げた。
ベルも優しく笑いかける。教会で共に過ごしているが普段あまり話す機会も無かった貴族の娘。冒険者は微かな緊張をエリュに見て取る。
「で、こっちは‥‥」
だがリルが紹介するより先
「下は火事、上も火事。‥‥さ〜で、ごれなぁ〜んだあ?」
「えっ?」
その緊張を吹き飛ばす着ぐるみを着た大男がぐわっ、と両手を挙げるようにエリュの前に立ちふさがったのだ。
「我が名はすふぃんくす! 我が問いに答えよ。さもなく‥‥」
『グワアッ!』
「えっ?」「ぎゃっ!」
『すふぃんくす』の語尾と、突然響いた魔獣の鳴き声が重なって冒険者街に響き渡る。
エリュやベルは勿論、冒険者、コカトリスまで驚きに目を見開く中、
「く、くるしいでござる。は、放すでござるよ。名飛丸!」
グリフォンに足蹴にされた『すふぃんくす』が手を伸ばす。
「どうやら、ペットの方が常識派なのかもしれないな」
故意か偶然かは解らないが手間が省けた。
くすと笑ってリルは『スフィンクス』をグリフォンの足元から引き出した。
「こっちはゲンちゃん。ある意味彼こそキャメロット一の珍獣だ」
「よろしくでござる。エリュ殿。ベル殿もお久しぶり。パーシ殿たちは休暇中でござるが、こっちはこっちで楽しむでござるよ」
身体の埃を払いながら、ニッコリとゲンちゃん、こと葉霧幻蔵(ea5683)は笑う。
「そうですね。せっかくですから楽しみましょう」
リースフィアもベルもニッコリと微笑む。
彼らの背後の獣達も笑ったようで‥‥エリュの顔に光が浮かんだのをリルは微笑み、見つめた。
「冒険者街って予想以上に広いんだよな」
幻蔵の先導で知らぬ界隈を歩きながらリルは説明半分、本音半分の呟きを口にした。
「何せ自分の家のあるあたりですら、奥の方は良く解らない」
「ドラゴンやケルピー、ララディや変わった所では塗り壁などを飼っている人もいるそうですよ」
リースフィアも説明する。彼女とて全てのモンスター達とであったことが有る訳ではないが、コカトリスも決して特別ではないと言外に伝えられれば良いと思ったのだ。
そして、それは伝わったようでもある。
「本当に‥‥いろんなモンスターがいるんですね」
安堵の笑みを浮かべる少女にリルも嬉しそうだ。
「ああ、みんな家族のように暮らしてるよ。そうだ、そのコカトリス、名前は無いのか?」
ふと、思い出したように彼は横を向いてエリュに問う。後ろのコカトリスも大人しくついてくる。
「名前‥‥ですか?」
そう。頷いてリルはどこかの誰かの家を指差す。
見えるいくつもの獣。感じるいくつもの命。
「ここにいる連中も皆時分だけの名前を持っているんだ。ないなら付けてやりな」
考えた事もなかったという少女は首を傾け考え始める。
「お、着いたでござるよ。さあ〜! メイヴ、ご挨拶〜!」
『ーーーー!』
突然目の前にウイバーンが翼を広げるまで。
「おい! ゲンちゃん。あんまりエリュやコカトリスを脅かすなって!」
「油断は禁物でござる」
「やりすぎも禁物ですよ」
怯え顔でリルにしがみつく少女を見つめながらリースフィアも、ベルも楽しげに微笑んでいた。
○人の隣の友
足元に横たわる固い背中を撫でながらリースフィアは、エリュに言った。
「絶対に忘れてはならないことですが魔獣との絆は個人との間だけのものである、ということです」
この二日、エリュはコカトリスと共に幻蔵とリースフィアから幻獣、魔獣。人ではない獣と人間の付き合い方を学んでいた。
冒険者はこの事にはエキスパートと言ってよい。
「こうして‥‥ペットの危険な部位に皮袋などを被せ脱げない様に紐で縛る。そうすると鋭い爪などで怪我をすることが防げるでござる」
「トイレのしつけも大事でござるよ。何せ身体の大きな魔獣は食べる量も、出る“モノ”も半端では無く‥‥」
よく言えば具体的、はっきり言うとなかなか生々しい幻蔵の説明はけれど現実問題として役に立つものだったし、今日のリースフィアの話。
エリュは身じろぎ一つせずにそれを聞いていた。
「この子はウォータードラゴンパピーのウェルキン君。餌を与えてくれる相手には懐いたりと慣れれば付き合いやすい子ですが‥‥何分ドラゴンなので普通引きます。だから、あまり外には出しません」
ペガサスは天使に属するのでその外見から人に好かれやすいが、逆にペガサスの方が人を避けたりもする。
「いくら魔獣と絆を深めても、周囲から見れば魔獣は魔獣ですし、魔獣から見れば見知らぬ周囲の人は餌か敵です。ですから人のいるところに連れ出せば周囲から敵意を向けられ、それに反応して興奮し、あるいは主を護ろうとして魔獣が暴れだすという事例があるのです」
貴女ならお判りでしょう? リースフィアの言葉に頷くエリュ。
それがあったからこそ、彼女はオルウェンと共に孤独を味わい、デビルの手を取ったのだから。
「でも、それは仕方が無い事なのです。人々を責める事はできません。知らない相手を受け入れる事は人同士ですら難しいことなのですから」
これも、身体に染み付いた真実。でも、リースフィアは俯くエリュの手を取り教える。
「でも、これを解決する方法もあるんですよ」
と笑いかけて。
「人と一緒に生きるのに一番大事なこと。それは魔獣と一緒に社会に貢献すること。誰かの役に立とうと頑張る事です。最初は受け入れて貰えない事もあるかもしれませんが。いつかきっと伝わります。これは、人も同じですよ」
「魔獣との付き合いは、優しくするだけではダメでござる。厳しさと己が強さをもって接するでござる」
人も、魔獣も同じ生き物。
基本的な付き合い方は同じだと、二人は笑う。
人とさえも上手く付き合って来られなかった少女は顔を上げ、横で自分を信じて蹲るコカトリスと、反対側で自分を見つめて微笑むリルを見つめ、答えた。
「はい‥‥」
と。
○選んだ未来
冒険者街から程近い川辺。
冒険者達はパーシからの差し入れを広げながらのんびりとした時間を過ごしていた。
幻蔵はグリフォンの背中を枕に『すふぃんくす』の着ぐるみのままいびきをかいているし、ベルとリースフィアは、少女同士楽しそうに話をしている。
身の回りの事や、近況、話す事は尽きないというが、リルは彼らが気を利かせてくれた事が解っていた。
だからコカトリスと一緒に空を見上げる少女の側に座ると
「これから、どうするつもりなんだ」
と問うた。瞬きするリル。
「私、シャフツベリーに帰ろうと思う。この子と一緒に‥‥」
迫害もあるだろう。けれど‥‥
「教えて貰ったから。人のせいにして逃げてるだけじゃダメだって。自分から受け入れてもらおうとしなくちゃダメだって‥‥皆から、貴方から‥‥」
「そっか‥‥」
その決意にリルはそれ以上、何も言わなかった。
五月の太陽に目を細める。
「ん?」
ふと、頬に感じた感触に目を開ける。
「ありがとう」
触れた唇の暖かさに驚くリルに少女いや、エリシュナは花が咲くような笑顔を見せたのだった。
後日、ベルは冒険者達に連絡をしてきた。
エリュの保護観察期間はまだ続くが彼女の希望である帰還はいずれ叶えられそうだ。と。
それからもう一つ。エリュがコカトリスに付けた名前も教えてくれた。
『リィオ』
「大事な人達の名前を貰ったの」
彼女はそう微笑んだと言う。
ほんの数日の関わり。
でも彼女にとってはかけがえの無い心の支え。希望の光を与えてくれるものとなったようだった。