小さな木の実
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月08日〜09月13日
リプレイ公開日:2004年09月13日
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●オープニング
「お母さん! どうして!?」
「‥いつまでも、あんなものに囚われていてはダメよ。お父さんだって、きっと悲しむわ‥」
「‥解ったよ。でも‥一つだけ‥お願いを聞いて。そしたら‥母さんのいう通りにする」
その日、依頼に来たのは10歳くらいの子供だった。
「僕と一緒に近くの山まで一緒に行って欲しいんです」
ギルドにはたまにこういう子供も来る。冒険者は子供にとって憧れの職業の一つであるから。
「坊や、ここで仕事を頼むには基本的にお金がいるんだ。払えるのかい」
膝を折り、視線を合わせた係員はハッとする。その瞳は想像以上に大人びた目をしていた。闇色で‥寂しい瞳‥
「依頼料なら、私がお払いしますわ」
「えっ?」
少年からとはとても思えない声に、係員は頭を上げた。少年の後ろにドレスを纏った婦人が立っていた。
少年は黒い髪、黒い瞳。彼女は金髪、蒼い瞳。パッと見た限りでは似ていないが、良く見るとかすかに面差しが似ており、少年の母親であろうことがなんとなく想像がついた。
「ルーク、下がっておいでなさい」
「‥はい、お母さん」
母親の言葉に少年は黙って従い店の外にでた。小さく、だが深いため息をついて彼女は係員に向かい合う。
「つまらない簡単な依頼ですわ。あの子を東の山まで連れて行ってどんぐりを捜させてやってください」
「は? どんぐりを山まで?」
もう秋である。木の実などもあちらこちらで実り始めている。どんぐりくらいなら、山に行かなくても近くの森や林でいくらでも拾えるはずだ。
ましてその指定された山に行くまでは少し歩く。最低2〜3泊は必要になるだろう。
「どうして、って聞いてもいいですか?」
「あの子の‥我が儘ですわ。私の家系は代々王宮にお仕えをしておりますの。夫は縁あって知り合った猟師でした。でも‥」
婦人は語った。
去年の冬、森で怪物に襲われ夫を亡くしたこと。直前の秋、夫は息子とその山に行き、一緒に狩りをした。
その時にどんぐりを拾ってきたのだという。
「息子は夫を心から慕っていました。将来猟師になりたいと願っていたようです。ですが、私は息子には危険なめにあわせたくありません。街で安全な商人の道に進んで欲しいのです。それで‥」
彼女は口ごもった。だが、決意したように言う。父親の形見で息子が大切にしていたどんぐりを、捨ててしまったのだと。
「だって、あんなものにいつまでも拘っていてもらっては困るのです。家に戻った以上、もっともっと勉強して王家にお仕えする優秀な文官になってもらわなければならないのに‥」
少年は当然怒るかと思ったが、しばらく黙っていたかと思うとこう母に言った。
「‥もう一度だけ、あの山に行かせて。そしてどんぐりを拾ってこさせて。そしたら、もうお母さんに逆らわないから」
父親の形見を捨ててしまったことに、多少なりとも罪悪感はあった。それに、もう逆らわない。と言う。なら‥
「依頼料は私がお払いします。ですから、あの子を無事に連れて戻ってください。あの子は私の宝です。お願いします」
店の外で、壁に背をつけたまま少年は、手のひらを見つめていた。
寂しい時いつも一緒にいてくれた父も、父のどんぐりも今は無い。
「‥お父さん、どうして行っちゃったの? 僕もお父さんのところに行きたいよ‥」
彼の手の中には小さな雫と決意が握り締められていた。
●リプレイ本文
一月前には猛暑で眠れない夜を過ごしていたのに、今はもう涼やかな風を宿す‥空気はもう秋の気配。
その中を若き冒険者達が、賑やかに歩いていく。
「ルーク君、大丈夫?」
彼等は歩幅を合わせゆっくりと進む。リース・マナトゥース(ea1390)は依頼人でもある少年ルークに優しく声をかけた。
「はい、大丈夫です」
「無理してはいけませんよ。焦る必要は無いんですから」
驢馬を引きながら前を歩くシエラ・クライン(ea0071)は背後を歩く子供達をまるで保護者か教師のように優しく諭した。ルークの弓以外の荷物は騾馬に乗せてある。
「仲良くして、いっぱい遊ぼうね。ルーク君」
「よろしくお願いします。えっと‥エルシュナーヴさん?」
「そうだけど‥あたしの事は、エルって呼んで♪ って言ったよね」
ほぼルークと同じ身長で、まるで一対のように隣を歩いてたエルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)は軽く頬を膨らませて首を横に振った後、しっかりと手を繋いだ。
少女のぬくもりに、ルークの顔と頬が朱に染まる。
「青春だねえ」
まるでどこかのオバサンのような台詞だが、言ったアーシャ・レイレン(ea1755)は実年齢はともかく外見年齢はまだ若く、そして小さい。
とぼけた彼女の言葉は皆の笑みを誘った。
「で、どうでした? お母様の方は?」
明るい前方グループに比べ、後方二人の表情はやや暗い。アクテ・シュラウヴェル(ea4137)の問いに帰った答えは横に振られた首だ。
「行きたいけど、仕事があるからダメだって。後悔したくないなら、って言ったのに」
「そうですか。彼女は王宮で仕事をしているとの事。忙しいのですね。それが‥彼を寂しくしている原因の一つでしょうに‥」
二人は頷きあい‥深い息をついた。リーベ・フェァリーレン(ea3524)は母親に同行を求めたがそれは拒否された。
「あたし、どーも苦手っていうか嫌いなのよね。この手の甘えかましたお子様とか、独り善がりな心配かます母親みたいなの」
(「‥昔を思い出しちゃうもの‥」)
俯くリーベににこぱ。明るくアルノー・アップルガース(ea0033)は笑いかける。
「ま・楽しくやろうよ」
仲間を気遣うアルノーに、リーベもそうね、と肩をすくめて笑顔を返す。
一番後ろを守るデュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)の足元、伸びた鎧と同じ色の影が彼らを見守るように静かについていった。
「へえ〜、意外って言ったら失礼かもだけど、上手♪」
料理の手伝いをするルークの肩でアーシャはお世辞ではない褒め言葉を口にした。
早めにキャンプを張った冒険者たちは節約の為に狩りと食料探しに出た。狩り組のうち、鳥の一羽を見事な腕で仕留めたのは誰であろうルークだった。
「父さんが教えてくれた。この弓も‥父さんが」
自慢げに、でも、どこか寂しそうな顔を見せるルークは黙って鳥の羽を毟る。
鳥と兎、野りんごに焼き栗。それにデュノンが用意したパンで楽しい夕食が出来上がった。
「動物も植物も、冬を控えた今が一番大変な時期ですね。それ故に‥美味しいのですけど」
シエラは微笑む。秋の恵みは冬への備え、大事な命。それが解っているから一欠片さえも残しはしない。
「あー美味しかった。‥そういえば、ルーク君、お父さんってどんな人?」
ほんの、雑談のついでのようにエルはルークに問いかけた。半分は情報収集、そして半分は‥本心で聞きたかった。自分は父親の記憶など無いから‥
「凄く腕のいい狩人だったんだよ。でも、決して無駄な殺生なんかしなかった。森のこと何でも知っていて、狩人は森と共に生きる森の番人だって、いつも言ってた」
どことなく暗かった少年の顔がパッと輝く。嬉しそうな顔を見ているだけで解る。
「本当に、ステキなお父さんだったんだね」
心からのアルノーの言葉、だがその返事がルークの口から帰ることは無かった。
テントに無言で潜り込んだルークを守るように火の見張りを続ける彼らは声を押し殺して泣く小さな泣き声を、聞かないフリをして、焚き火に薪を投げ入れた。
森の奥に、開けた場所があった。暗い森の中、そこにだけ、真っ直ぐ光が差し込める。
「うわ〜、どんぐりがもうこんなに落ちてる〜」
「僕と父さんの秘密の場所だったんだ」
くぬぎ、こなら、樫、一面のどんぐり。冒険者たちは、一瞬、目を奪われた。
「ここで拾うんですね。どんな‥どんぐり‥って! ルーク君?」
慌てるリースの言葉に彼等は慌てて周囲を見回す。どこも‥少年の影が見えない。
「捜しましょう!」
シエラの言葉よりも早く、8つの影が森に散った。
青よりも深い蒼の光る湖の前で、彼は水に映る、自分の影を見つめていた。
「‥父さん‥」
一年前、父と一緒にここで同じものを見つめた。だが、今、水面は一つの影しか映してくれない。
残酷なまでに。手の中の木の実も昔と同じではない。
「父さん‥」
彼は歩みを進める。一歩、また一歩。
水にぬれるのも構わずに‥
「危ない!」
小さく細い手が少年を引き止める。
「あ‥」
「ルーク君、ダメだよ!」
エルの必死の呼び声が森に響き、仲間たちも集まってくる。
「死ぬ‥つもりじゃ‥ でも、冒険は、自由はどんぐりを拾ったら‥終わり。父さんの事も‥忘れなきゃ。だから‥だから‥」
水の中に膝をついて彼は、泣きじゃくった。
「もっと父さんと一緒に居たかったんだ。いろんなことを教えてほしかったんだ。忘れたくないんだ」
「どうして、忘れる必要がありますの?」
深いリースの碧の瞳が彼に語りかけた。
「ここは君と君のお父さんとの大切な思い出の場所‥もし、君が死んでしまったら、それを忘れてしまったら、思い出も消えてしまう。だから、これからも生きて、その思い出を大切にしてあげて。ね?」
「父上様は見えなくなっただけで、キミの傍にいる。それで、キミのする事に喜んだり悲しんだりするんだよ。僕の言いたい事、わかるよね? 歩いて行こうよ。この足で。キミは父上様といつも一緒なんだから」
差し出された手、自分を包み込むいくつもの‥優しい笑顔。ルークは思い出す。父の言葉を。
『強く、生きろ‥お前はいつでも、一人じゃ無いんだ‥』
「お父さん‥」
自分自身を抱きしめるように、彼は泣いた。でも、それは弱さの涙ではない。父に誓う決意の涙。
冒険者達はその後ろに、誰かが微笑む姿を、見たような気がした‥
「ルーク君のお母様は一途ですね。ちょっと暴走気味ですけど」
濡れた服を魔法で乾かす手伝いをしながら、シエラは微笑んだ。でも、その思いは解らないではない。自分も似たような事を考えそうだ。
「ただ、自分の生き方を決められるのは常に自分だけ。これからのことをゆっくり見直して、お母様と話されてはいかがでしょうか?」
「私はどうしてもイギリスで魔法の勉強がしたくてノルマンから両親の反対を押し切ってイギリスに出て参りましたわ」
「そうなの?」
反対を乗り切ってきた、というアクテの言葉にルークの表情が少し変わる。
「ええ、本当にやりたい事があるのでしたらお母さんをきちんと説得しましょう。但し生半可な覚悟ではいけませんわ。家族の絆は何より大切です。それが自然の摂理ですもの」
一言一言を、心に刻み込むようにルークは手を握り締めた。その背に無言でデュノンが自分のマントをかけたのも気づかずに‥
数日後、彼らはキャメロットの街に無事帰り着いた。だが‥
「‥もう少しだけ、一緒にいて? 僕、どうしても母さんに言わなければならないことがあるんだ」
ルークの願いにリーベは、丁度いい、と頷いた。
「私も言いたいことがあったのよ。早く行きましょう!」
先頭をスタスタ行くリーベ、引きずられるようについていくルーク。彼らは慌てて追いかけた。
「お帰りなさい。ルーク。無事に戻ってきてくれてよかったわ」
「母さん、話があるんだ」
息子を抱きしめた母は、何かを感じたようだった。腕から抜け出しルークは話し始める。
「僕は、商人にも、文官にもならない。僕は猟師に、そして‥冒険者になるんだ」
「な、何を言うの? ダメよ! そんな危ないこと私は‥」
「ストーップ! 勘違い親子さん、勝手な思い込みは止めなさい。そして、話し合うの。親子の事情に口を出すつもりは無いけど、まずは話し合わなきゃ誤解の元よ」
それは、リーベが自分自身に言った言葉でもあった。自分の過去を思い出して‥彼女は二人の間に割り込んだのだ。
「追い詰めないで、ちゃんと話を聞いてあげてよ。このままじゃルークは逃げ場が無いよ」
アルノーも必死で語りかける。冒険者達の、そして、数日前と違う目をするようになった息子に、母は、何かを思い出したのかもしれない。
素直に‥こう言った。
「そう‥ね。考えてみれば、あの人が死んでからゆっくり語り合ったことも無かったわ。聞かせて、お前の気持ちを‥」
「母さん‥」
その笑顔は、聖母の優しさを湛えていた。
冒険者達は、そっとその場を離れ‥ようとしたアルノーのマントを、デュノンが引く。
「何? デュノンさん?」
イギリス語を話さない彼の為にアルノーはオーラテレパスを使った。ラテン語で語る彼は、たった一言だけでいい。伝えてほしいと頼んだのだ。
アルノーは断らなかった。
「ルーク‥『Take it easy』難しい事だろうが気張らず、自分の考えとペースで頑張れ♪」
自分が言いたかった言葉でもある。アルノーは軽くサインを切った。
帰ってきたのは、笑顔だった。
極上の少年の笑顔。
アーシャはひらり、青い空に飛ぶ。この空のどこかにいるかもしれない彼の父に伝えたいと。
「ルーク君は、もう大丈夫だよ!」
少年の手に握られた小さな木の実。
それは父の思い出。冒険の証。新しい誓いの証。
木の実がいつか無くなることがあっても、彼の心から思い出が、消えることはないだろう。