【北海の港町】海に沈んだ財宝
|
■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月13日〜07月21日
リプレイ公開日:2008年07月22日
|
●オープニング
――大海が災厄の警鐘を鳴らすかの如くうねる。
5月15日頃からイギリス周辺の近海で海難事故が頻発するようになっていた。
始めこそ被害は少なかったものの、紺碧の大海原は底の見えない闇に彩られたように不気味な静けさと共に忍び寄り、次々と船舶を襲い、異常事態に拍車を掛けてゆく。
王宮騎士団も対応に急いだが、相手は広大な大海。人員不足が否めない。地表を徘徊するモンスターも暖かな季節と共に増え始め、犯罪者も後を絶たない現状、人手を割くにも限界があった。
「リチャード侯爵も動いたと聞いたが、去年の暮れといい、海で何が起きているというのだ?」
チェスター侯爵であり円卓の騎士『獅子心王』の異名もつリチャード・ライオンハートも北海の混乱に動き出したと、アーサー王に知らせが届いていた。自領であるチェスターへの物資の流入に異常が出ることも懸念しており、重い腰をあげたという。
「キャメロットから遠方の海岸沿いは、港町の領主達が何とかしてくれる筈だが‥‥後は冒険者の働きに期待するしかないか」
海上異常事態の解決を願い、冒険者ギルドに依頼が舞い込んでいた――――。
キャメロットから北東、徒歩4日で辿り着くロッチフォード東端の港町『メルドン』でも北海の異常による余波が訪れていた。
主に漁猟で支えられている素朴で小さな港町で、大らかな性格の民が多い。特色はないものの、漁で獲れた海の幸が民の自慢で、酒場や食堂、宿屋など幾つか見掛けられ、船乗り達の憩いの場だ。
メルドンからキャメロットの冒険者ギルドに依頼が届くようになったのは最近の事である‥‥。
最近、彼は朝、海を見るのを日課としていた。
故郷の山の中では見られない風景は雄大で、いつも心を浮き立たせてくれる。
「海は、やっぱり綺麗だなあ。よしっ! 今日も頑張るぞ」
彼はいつものようにギルドに行こうとして‥‥
「な、なにをしているんだろう? あの人は?」
港の端に立つ人物に気がついた。
ぼんやりと佇み、嗚咽を繰り返してた彼は、いきなり強く目を閉じると
「わああっ!」
ドボン!
海に飛び込んだのだ。
「な、何が一体? と、とにかく助けなくっちゃ。誰かあ!!」
少年の悲鳴にも似た声が海に、港に木霊した。
そして、暫くの後
「どうか‥‥助けて下さい」
一人の男が、少年フリードに付き添われて冒険者ギルドの入口を潜った。
彼の名はボルド。ノルマンとの交易船の船長であるという。
「メルドンの先の海域に私の船が沈んでしまいました。幸い乗組員は全員無事だったのですが、積んでいた荷物が全て‥‥」
運んでいたのは食べ物や酒、そしてノルマン渡りの宝飾品の数々。
「沢山の宝石原石に、いくつもの宝飾品。その損害は計り知れず、借金も莫大になってしまったんです。家族に迷惑をかけないためにも死んでお詫びをするしか‥‥」
「海に飛び込もうとしてたんです。助けたんですけど、ずっとこの調子で‥‥。なんとか助けてあげる方法は無いでしょうか?」
船はメルドンから海に少し行った先の海底に沈んでいる。
深さはかなりなもの。潜って捜すのはかなり困難だろう。
「死ぬよりも先にできる事をやってみましょう。と言ってここに誘ったんです。何かいい方法やアイテム、魔法などを皆さんならお持ちではないでしょうか?」
「積荷、全てが戻らなくてもかまいません。宝飾品の入った箱一つでも回収できれば、とても助かります。見つけられたら出来る限り、お礼をします。‥‥どうぞよろしくお願いします」
必死の願い。
今回の海の騒動では、きっとこんな悲劇がいくつも繰り返されたに違いない。
「どの程度の事ができるか解らないが‥‥」
そういい置いて係員は依頼を張り出す。
人が生きていく為の依頼を。
●リプレイ本文
○海の守護神?
幸い、メルドン近辺の天気は晴れ。
海は凪。この天気は2〜3日は続くだろうと地元の船乗り達は言っていた。
「良かったですわ。もし天気が悪いようでしたら作業しやすいようにそこから魔法を使わなくてはなりませんもの。ねえ? ジークリンデ?」
「ええ。フレイアお姉さま。今日、準備を整えましたら明日には作業が開始できますわ」
海を見つめながらフレイア・ケリン(eb2258)の言葉にジークリンデ・ケリン(eb3225)は同意するように頷く。
だが
「確かにな。でも、果たして間に合うかねぇ〜」
苦笑しながら閃我絶狼(ea3991)はぽりぽりと頭を掻く。
明日船を出してくれる筈の船乗りのみならず、荷運びの人足。別の船の乗組員。
さらには通りすがりの人間どころかわざわざやってきたであろう街の住民達までが彼ら冒険者を遠巻きに見つめている。
ヒソヒソ、ヒソヒソ、囁く声。
あまり気分の良いものではないが、絶狼には彼らの気持ちがよく分かった。
「‥‥ま、確かに見物に来たくもなるわな」
言いながら後ろを振り返る。そこには彼の賑やかなまでの仲間達がいた。
ケリン姉妹はエルフとハーフエルフ。
確かに姉妹としては珍しい組み合わせだがここは港町。エルフやハーフエルフ自体ではここまで驚きはすまい。
『彼らは、何に驚いているのでありましょうか?』
『いや、驚くのは無理も無いと分かっちゃいるがね。ましてこんな田舎だし』
黄桜喜八(eb5347)の言葉に磯城弥魁厳(eb5249)は首を傾げる。
二人の言葉はジャパン語。そして二人は河童である。
河童はモンスターではない、と説得しても違いすぎる外見に慣れ、理解するには時間がかかるだろう。
ましてその側で、楽しげに水と戯れるケルピーやスモールシェルドラゴンがいた日には‥‥。
「河童にケルピー、スモールシェルドラゴンにホルス。豪華なペット達だが、あ〜船乗り達、腰が引けてんなあ〜」
さて、どうするか。絶狼の漂う不安を
「あれぇ〜。何をしてるんですかぁ〜」
いつもながらのマイペース。エリンティア・フューゲル(ea3868)の気の抜ける声は吹き飛ばした。
足元にはペンギン。取り巻いていた人々も道を開ける。
「準備はいいんですかぁ〜。明日ははやいですよぉ〜」
「だがな‥‥」
絶狼が言いかけた時
「連れてきました!」
同じように取り巻く人々の輪を抜けて一人の少年がやってきた。一人の男性の手を引きながら。
「ボルドさん」
冒険者も港の船乗り達も動きと手を止める。
彼は、本当に真剣な眼差しをしていた。
「冒険者の皆さん。今回は依頼を受けてくださりありがとうございます。明日の捜索には私と店と、家族の命運がかかっているのです。どうぞ、どうぞよろしくお願いします」
河童にもモンスターにも怯える事無く頭を下げるボルド。
ふと、絶狼は船を見た。彼の気持ちが、想いが解ったのだろう船乗り達もてきぱきと動き始める。
「余計な心配だったかな。さて、後は全力を尽くすか。フリード。お前も手伝えよ。お前が連れてきた依頼人だ。最後まで見届けろ」
「はい!」
明るい少年の返事の後、準備に入った冒険者は暫くしてふと気付く。
いつの間にか人々の好奇の輪は静かに消えていた。
○見つかった沈没船
翌日。快晴の太陽の中、
「大丈夫ですか〜?」
フレイアはほぼ真下に向けて声をかけた。
正確には真下の海に浮かぶ男達へ。
「大丈夫だ!」
絶狼が手を挙げる。3m上のさらに船上から見えるかどうか解らないだろうが、声は聞こえる筈だ。
男達の周囲には直径30mを壁がぐるりと取り巻いている。
「この辺の筈ですわね?」
そう船長に確かめてジークリンデがマジカルタブエイドをかけたのだ。水位が下がり今、丁度冒険者は円筒の底にいる形になる。
魔法に守られているとはいえ、この水の壁が一気に落ちてきたらと思うと、多少ゾッとはしない。
けれど、のんびりしている時間はあまり無いのだ。
「すみません。魔法の重ねかけはできないみたいで、これ以上水位は下がりませんの。でも、その円の中央が沈没船の筈ですわ。もうそれほど深くはありません」
ジークリンデが場所を指し示す。二人の女性魔法使いがその『目』で確かめた情報だ。
「了解だ。いくぜ。皆。タダシ、オヤジもついてこい!」
大きく息を吸い込んで喜八は水に沈んだ。次いで魁厳にエリンティア。そのペットのペンギンも姿を消したのを確かめてから
「行けるか? フリード?」
気遣うように絶狼は最後に残った少年に声をかける。
「魔法は唱えたので。海に潜るのは初めてですけど、頑張ります」
懸命な少年に微笑を向け
「よし! 行くぞ」
絶狼もまた海へと潜っていった。
この真下、沈没船が待つ筈の場所へと。
絶狼はフリードと共に水中に潜っていった。
海中は少し潜るごとに水の色を濃くしていく。
水色から蒼へ、そして紺から濃紺へと変えていく中、絶狼は
「?」
自分の背の服を食む水馬に気が付いた。
(「こっちへ来いと、呼んでる?」)
近くにいたフリードを引っ張って絶狼はその馬の後に付いていった。
そしてそこで見たのだ。
「!」
よっ! とサインを切る喜八と微笑むエリンティア。魁厳も向こう側からやってきていた。
喜八の指差す先、そこには濃紺と黒の丁度境目色した海の底。
静かに佇む船が冒険者達を待っていた。
○サルベージ
これは何度目の潜水だろうか?
「途中から数えるの止めましたぁ〜。樽を落として下さいぃ〜」
微笑むエリンティアは船から落ちてきた樽を開けた。
そして中のウォーターダイブのスクロールをまた唱え水色の光が自分を包むのを確かめてまた沈んでいく。
「ロープ取ってくれ。ロープ!」
エリンティアと入れ替わりで絶狼が海上に顔を出す。後ろから出てきた水馬の頭を撫でながら船に合図をし船から落ちてきたロープを水馬の背中に乗せた荷物に結びつける。
「よし! 引き上げてくれ。戻ってくれていいぞ」
前半は船に向けて、後半は水馬に向けて絶狼は言う。その言葉に応えるように水馬は即座に海にまた潜っていった。荷物はロープと共に船に。
「これです! 間違いありません!」
船に乗っていた船長は歓声を上げた。
船の外見や船首は下で仲間達が確かめている筈、その上で持ってきたということは
「ああ! 良かった! 中身も殆ど無事です!」
やはり彼が命で償おうとした宝物、なのだろう。
フレイアが覗き見る。緩衝材になっていた布や干草などは水を含み嫌な匂いを放っているが、宝石や金銀は材質を確かに変えてはいないようだ。
「まだまだ、安心していてはダメですよ。これから荷物は沢山来ます」
喜びに泣き出しそうなボルドを励ましてジークリンデは耳を済ませる。
『お願い致しまする!』
今度は魁厳の声だった。
「はい! 少しお待ち下さいな」
ロープを持ってジークリンデはまた甲板の端へと走っていった。
船の損傷は激しく、船体は中央でほぼ真っ二つに折れていた。
「これは、修理はむりですねえぇ〜」
少し残念そうなエリンティアであるが、品物の調査には丁度良い結果である。
割れ目から中に入り込み、冒険者達は繰り返し、繰り返し船内を調べた。
「フリード、周りに注意しろよ」
「了解しました!」
『可能な限り、できるだけ多くの荷物を!』
その思いで男性達はほぼ休憩もなしに作業を二日間繰り返した。
船に目印をつけ、海に潜る。何度も何度も。
マジカルタブエイドで水位を下げなければどれほど潜らなければならなかったか考えるだけでも恐ろしい。
魔法で息ができ、河童がいても繰り返しの作業は辛く正直身体がふやけるかと思う程だった。
だがその結果は
「よ〜し、オヤジ。これが最後だ。落とすなよ!」
全ての荷物の回収成功と言う確かな成果になって現れる。
「よーし! やったぜ」
海上に最後の荷物と一緒に上がった五人の男達は、顔を合わせ微笑み合い、互いの手を高く上げる。
そして
パン!
手を合わせる。依頼の大成功を祝うようにその音は高く、海に響いていった。
○感謝の輝き
「本当に積荷を引き上げて頂けるなんて‥‥」
引き上げられた荷物を見て、ボルドは顔面をくしゃくしゃにしながら彼は、冒険者達にそう言って頭を下げた。
商人が依頼した荷は酒一箱を除きほぼ全て引き上げられ、他の荷物も僅かだが冒険者は引き上げに成功していた。
食べ物はダメになっていたが、服の方は思ったよりダメージが少なく直せば実用品くらいには使えるようになるかもしれない。そして何より
「ほお‥‥」「これは美しいですわね」
冒険者が最優先で引き上げた小箱の中身は海の底から太陽の下へと引き上げられ、太陽の光を浴びて美しく輝いていた。サファイア、ダイアモンド、エメラルド、クォーツ。宝石の原石達。黄金や銀などの地金も少し磨くと元の輝きを取り戻す。
「これで借金を返すことができます。なんとお礼を言ったら良いか」
「いいんですよぉ〜、本当は船も引き上げたかったんですけどぉ〜、そっちは失敗でしたしねぇ〜」
エリンティアは苦笑交じりに応えるが、ボルドは首を何度も横に振る。
「いいえ。貴方方のおかげで私達は救われました。生きていて‥‥本当に良かった。ありがとうございます」
そう言って彼は冒険者全員に報酬と、一つずつの宝石を握らせた。
「美しいですわね」「ありがたく頂こう」『かたじけない』「いい土産になるかな?」「僕も頂いていいのでしょうか?」
手の中で冒険者は感謝の証を手の中で転がしながら微笑む。
「海は富をもたらし、また災禍をもたらす。けれども日は沈んでもまた昇るもの。頑張って下さいませ」
微笑むジークリンデにはいと答え、商人はもう一度深々と頭を下げた。
見れば海は丁度日を沈ませる所。
オパール色の夕日を見つめながら冒険者達は、二度とこのような事が無いように祈りながら街を後にした。