【錬金術師の試練?】謎の門

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月01日〜08月09日

リプレイ公開日:2008年08月09日

●オープニング

『汝に挑戦する。
 我が元まで辿り着きし時、汝は価値ある宝を手に入れるだろう。

 第一の問い
「1に12を足して2+11にせよ」

 第二の問い
「1=3、2=○、3=3、4=4、5=5、6=3、7=○」

 正しき答えを導き出せし者よ。
 太陽が西に沈む時、汝らは先に進む資格を得る』

 ウィルトシャー地方、エーヴべリーの外れにフィーナ・ウィンスレット(ea5556)がそのダンジョンを見つけたのは偶然だった。
 大きな石の扉には太陽を象った彫刻が刻まれその太陽の真ん中に文字は、イギリス語で刻まれていた。
 第一の問題の下には石でできた
「o」「n」「e」「p」「l」「u」「s」「t」「w」「e」「l」「v」「e」
 のアルファベットの板がある。
「これは動かせそうですわね。細い溝にこれを正しくはめ込めばいいのかしら?」
 第二の問いの下にはやはり、1から10までの数字の石板が並んでいた。
「こちらは逆に正しい数字を取れ、ということでしょうか? 他に入れる場所もなさそうですし‥‥」
 指で数字をなぞりながらフィーナは考える。
「こういう謎解きのある扉っていうのは大抵、謎を解かないと開かない、というのが相場、でしょう。中に何があるかも解りませんし‥‥」
 一応扉も押してみたがぴくりとも動かない。
「一人では危ないですね。ギルドに応援を頼みましょう‥‥。必ず謎を解いて戻ってきますわ」
 その場を離れたフィーナは、静かに扉と、その向こうで待つ筈の先達に向かって微笑んだ。

「昔、ある地方に高名な錬金術師がいたそうです。彼は後に人里を離れ、地下迷宮を作り、そこに自分の財産を残した、という伝説があるのです」
 冒険者ギルドにやってきたフィーナの言葉に冒険者達の多くはへえ、と感心したように頷く。
 目を輝かせる者も少なくない。
 未知の世界に憧れと、夢を持つ。
 いつの時代もそれが冒険者と言うものであるから。
「ここから歩いて四日程のウィルトシャーの外れに不思議な扉を見つけました。どうやらその扉こそかの錬金術師のダンジョンの入口ではないかと思うのです。どうでしょう。一緒に探検してみませんか?」
 フィーナはニッコリと微笑んだ。
 それは、当然黒の聖母の、何か企んだような笑顔ではあるが、海洋での大きな戦いを終えた冒険者にかすかに芽生え始めた退屈を払うにはもってこいの誘いだった。
「まあ、まず扉を開けないことには中に入ることはできないのですが、その扉もどうやら謎に封印されているようです。その謎解きも手伝って下さいな。とりあえずの報酬はポケットマネーで出します。何か見つけたらそれは山分け、ということで‥‥。では、興味がありましたらぜひ。よろしくお願いします」
 そう言うと彼女は そう言って彼女は羊皮紙に描いた扉の絵と、謎の文章の写しを差し出し去って行った。
 
 扉の先に何が待つのか。
 そもそも扉は開くのか。

 試しの迷宮は、その門はただ静かに、冒険者を待っていた。

●今回の参加者

 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

サクラ・フリューゲル(eb8317

●リプレイ本文

○ウィンスレットの遺跡
 八月は暑い。
 容赦なく暑い。
「やれやれ、この暑さどうにかならないもんかねえ?」
 軽く愚痴一つ。そしてリ・ル(ea3888)は汗を拭った。
「夏が暑いのは当たり前の事ですわ。暑い暑いと言っていますと余計に暑くなりますよ」
 平気な顔と言葉でフィーナ・ウィンスレット(ea5556)は木々の間をすり抜け、先に進んでいく。
 エーヴベリーに全員が揃い着いたのが昨日の夜の事。
 これくらいでバテていては勿論、冒険者などは務まらないが全く顔色を変えずに進んでいくフィーナには驚かされる
「流石、黒の聖母というところですか?」
「何かおっしゃいましたか?」
 歩みを止め振り返るフィーナにシルヴィア・クロスロード(eb3671)は慌てて手を振る。
「いえ、こういう冒険者らしい依頼、冒険はワクワクしますね。という事です」
「それは、同感。遺跡探索って王道、だよな」
「どんな遺跡なのでしょうか? 楽しみです」
 閃我絶狼(ea3991)もワケギ・ハルハラ(ea9957)も同意と言うように微笑んで頷く。
「そうですか。‥‥そうですね」
 とフィーナもそれ以上の追求はしなかった。
「で、問題の遺跡ってのははまだ先か?」
 周囲を見回しジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)が問う。
 ここに来るまでにいくつも巨石や遺跡っぽいものを見た。だが問題の遺跡はまだ探索されていない未知のものだという。
「あと少しです。昼前にはウィンスレットの遺跡にたどり着けますわ」
「ウィンスレットの遺跡?」
 首を傾げるシルヴィアに
「この手の遺跡って、第一発見者に命名権がありますよね。地名などを取ってもいいのですが折角なのでウィンスレットの遺跡と名づけさせて頂きました。どんな遺跡かは見てのお楽しみです」
 フィーナはニッコリと微笑む。
「ほら、頑張って下さいな」
 その笑みにある者は肩をすくめ、あるものは苦笑しながらも後を付いて行った。
 未知の冒険に心を躍らせながら。

○第一の謎、第二の謎
「これが、問題の扉ですか‥‥」
 ワケギは注意深く扉に触れながらそれを観察した。
 たどり着いたウィンスレッドの遺跡。
 そこにはフィーなの言うとおり太陽を象った意匠が扉全体に細かく掘り込まれていた。
 古い、とはいえ何百年も前の、という感じではない。ストーンヘンジのような超常の力も感じない。
 人の手によって作られた遺跡のようだ。
「あ、埃が積もってる」
 手で扉のあちらこちらに積もった埃を払うと、扉に刻まれた文字がよりはっきりしてきた。

『汝に挑戦する。
 我が元まで辿り着きし時、汝は価値ある宝を手に入れるだろう。

 第一の問い
「1に12を足して2+11にせよ」

 第二の問い
「1=3、2=○、3=5、4=4、5=4、6=3、7=○」

 正しき答えを導き出せし者よ。
 太陽が西に沈む時、汝らは先に進む資格を得る』

「どういう事でしょうね‥‥」
 羊皮紙に問題を写しながらシルヴィアは呟く。
 扉の前では男達が扉を叩いたり、押したりしている。
 扉に力を入れてみても固く、前には動かない。
 やはり謎を解かなくては開かないのだろうか。
「‥‥この扉の下の溝は、もしかして‥‥」
「第一の問題そのものは、簡単だよな」
 扉の下方を見つめていたジョーイはあっさりと言うリルを少し驚いた顔で見上げる。
「解ったのか?」
「まあな。フィーナもこれくらいは最初から解ってたんじゃないか?」
「ええ、単純なアナグラムですから」
 笑いあう二人を他の冒険者達は驚きの眼差しで見つめる。
「どういうことなんですか?」
「つまり、足し算でありながら答えとなる文字がアルファベットであるところがポイントなんです。この下にある石の文字。これは取り外せて動かせるようなので並べ替えればいいんですよ。リルさん、手伝って下さいますか?」
 フィーナはリルと共にしなやかな指で石の板、いや引き抜いてみれば小さな石柱を取り出し並べ、入れ替える。
「one plus twelve から two plus elevenへ‥‥、あら?」
 ジョーイは耳を欹てる。滑るように滑らかに動いたそれは
「フィーナ。その揃った石を押してみろ!」
 彼女も気付いたのだろう。頷いて文字列をリルと共に単語ごと押す。
 すると、吸い込まれるように石は壁の奥へと消えていった。
 カチリ。微かな音だけを残して。
「どういう仕掛けなのでしょうか? でも、あれで正解、ですわよね」
「石のサイズかもしれません。一つ一つが微妙にサイズが違っていて正しいところに入れば奥に落ちて何かの仕掛けを動かす、のかもしれないと思います」
 ワケギの分析に冒険者も頷く。
 扉には指を入れられるような空洞が残った。
「とすると‥‥こちらも同じような仕掛けでしょうか?」
 シルヴィアが第二の問題を指差す。
 1から9までの文字が並んでいる。この数字も引けば取れそうだ。
「おそらく‥‥。でも、正しい数字を取らないといけないんですわね。何でしょうか?」
 首を傾げる冒険者の前にシルヴィアの羊皮紙を見つめていた絶狼が進み出る。
「絶狼さん?」
「これは、俺がやっていいか?」
「どうぞ」
 フィーナの促しに彼は扉の前に立つ。
「こういうのはイギリス語に慣れてない奴の方が解るかもな。単語を見て覚える事が多いから」
 指で昔、覚えたイギリス語の最初の読み書きを思い出す。
「one、two、three、four。1がoneで三文字だから3。2がtwoでまた3。3はthreeだから5。それを考え合わせると‥‥」
「ああ、なるほど」
 冒険者達も皆でポン、と手を叩く。
 頷いて絶狼は数字の中から3と5を引き抜いた。
 何の力も要らず石は引き抜かれた。
 全員の視線が扉に集中する。だが‥‥。
 今度は何も音がしない。
「あ〜? 間違ってはいない‥‥よな?」
 絶狼は頭を掻いた。
 まだ扉は開かない。
 押して見ると何かが外れたようで微かに前後に動くのだが人が入るような隙間が開かないのだ。
「第一の問い、第二の問いを解いたのに‥‥どうして?」
 フィーナの疑問に答えられる者は誰もいなかった。

○日が沈む時
 扉の前で冒険者達は、輪になって座り込んだ。
 謎かけの扉。第一の問い、第二の問は解けたのに未だ扉は開かない。
「何か見落としがあるのでしょうか?」
 フィーナの呟きに返ったのは唸り声ばかりだった。
「『正しき答えを導き出せし者よ。
 太陽が西に沈む時、汝らは先に進む資格を得る‥‥』 何かあるとしたらこの辺だと思うんですけれど‥‥」
 シルヴィアの写した羊皮紙を見つめていたワケギが指を指す。
「確かに‥‥な。西に沈む時。これは扉を西に向けて動かすって事じゃないのかな?」
 絶狼のアイデアをジョーイはその可能性はある、と肯定する。
「この扉は押し扉じゃない。よく見ると扉の下のほうに溝がある。引き扉なんだろう」
「でも、手をかけるところもなしにこの重い扉は動きませんよ」
「手をかける‥‥ところ?」
 絶狼はさっき抜き取った石を見つめる。
「日没はsunset。それをもしかしてどこかにsetすれば‥‥」
「もしかしたら! 貸して下さい!」
 ワケギの言葉に何か気付いたようにシルヴィアは石を取ると扉に向かった。
 さっき石を抜き取った数字の後穴に5と3を入れ替えて嵌めなおす。
 二つの石はどちらも奥まで刺さらず止まる。まるで扉を開く取っ手のようになって。
「ここと、さっきの第一問でできた穴に手を入れて、皆で押しましょう!」
「そうか!」
「解った!」
 フィーナを除く全員が力を合わせて扉を横に引く。けれど扉は動かない。
「西はそっちではありませんわ。反対方向」
「あっ!」
 改めてもう一度力を入れて扉を西に向けて引く。すると扉は静かな音を立てて動き、太陽は西へと沈んだ。
「以外に簡単な仕掛けでしたのね」
 微笑むフィーナは手の中でレミエラを発動させる。
 冒険者達も喜びと同時にそれぞれの武器、道具に手をかけた。
 彼らの前に深い闇が口を開けていたのだから。

  

○迷宮の王国
 冒険者達は地下迷宮を進む。
 カンテラの灯りだけが頼りの真の暗闇。
 幸いそれほど道は複雑ではなく、モンスターらしいモンスターも出てこない。何よりも‥‥
「以外に涼しいな‥‥」
 冒険者達は驚いていた。かなりの年月封じられていた洞窟なのに、空気はさほど淀んではおらず、風さえ感じる。
「不思議な迷宮ですわね」
「ん?」
 ジョーイはふと足元を見た。
 足元に無造作に転がる黒い塊。
 そこに普通ではない何かを感じたのだ。
「皆、ちょっと待っててくれ」
 仲間を下がらせると注意深くそれを拾い上げる。
「見かけより‥‥重いって‥‥こいつは!」
「どうしたんです?」
 声をかけるシルヴィアの前に、ジョーイの手はさっき拾った塊を差し出す。
 中央を布で拭って。
「なんだか、光って‥‥ってこれは金?」
 そうその塊は金塊だった。それほど大きくは無いが紛れもない純金。
「錬金術師の迷宮ってのは伊達じゃないようだな」
「そのようですわね‥‥。どうしました、ワケギさん?」
 マッピングをしていたワケギの手が止まる。
「あの先に階段が‥‥でも、何かが‥‥います!」
 冒険者の間に緊張が走った。
 それぞれが武器を持ち直し、ゆっくりとゆっくりと進む。
 ワケギの言うとおり階段があり、それを下っていく。
「! こいつは!」
 バチン!
 冒険者に向けて爆ぜた石。それを片手で受け止めてカンテラを上げたリルは唇を噛む。
 後に続いた絶狼やワケギ達も息を呑んだ。シルヴィアにいたっては悲鳴を上げる一歩手前であった。
「これは‥‥今回は引き上げて対策を立て直した方が良さそうですわね」
 フィーナの言葉に誰も反対しない。歴戦の冒険者達でさえこの先に無造作に進むのは躊躇われた。
 キキーッ! キュキュキュッ!
 振り向き去る冒険者達をあざ笑うように鳴き声が謡う。
 その先にいたのはラットの群れ。
 決して狭くないであろう部屋を埋め尽くす、無数のラットの群れだった。