【序章 パンドラの迷宮】閉ざされた扉
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月10日〜08月18日
リプレイ公開日:2008年08月18日
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●オープニング
「ずっと気になっていたのです」
と彼女は告げた。
その日、依頼にやってきたのはリースフィア・エルスリード(eb2745)
彼女はウィルトシャー地方、エイムズベリーにある遺跡に調査に行きたいと言って同行者を求める依頼をたった今、出したところだった。
「ウィルトシャー地方は遺跡が多いところです。良きにつけ悪しきにつけそれらの遺跡は私達冒険者や、多くの人に影響を与えてきました。この遺跡もおそらくは、そんな遺跡の一つであろうと私は考えます」
『希望の眠る遺跡』
他の街に伝わる古い文献にはそう書かれていたと言う。
洞窟の奥にある祭壇と、二枚の大きな石が合わさり刃一つ入らない不思議の扉。
そして彼女の宿敵とさえ言える悪魔アリオーシュもこの遺跡を気にしていたようだった。
彼は遺跡の扉を開封する鍵は失われたと言っていたが‥‥。
「けれども、何かがある筈なのです。人が希望と呼ぶ何かが。きっと‥‥」
それがもし手に入ればアリオーシュを滅する力になってくれるだろうし、多くの人を救う手立てになるかもしれない。勿論、簡単には手に入りはしないだろうが‥‥。
「昨今は何かと慌しいのですが、だからこそ早めに手をつけてしまいたいと思います。力を貸して頂けませんか?」
今回の募集人員は設計、伝承知識、精霊碑文字、古代魔法語、錬金術等の学問を修めた人、それから念のために護衛のできる人。
「パーシ様に同行や、冒険者以外の学者の派遣を要請したのですが、まだ何があるか。どうにも解らない遺跡に正式な人手は割けないと‥‥」
とりあえず正式な調査の前に少しでも多くの情報を得ることが今回の目的だ。
その結果次第で改めて捜索隊、調査隊を出すことになるだろう。
「まずは扉を開けることが第一になります。最近近くで発見された遺跡は謎を解く事で開くようだ、との事ですがこれはまた傾向が違うようなので、いろいろな方面からアプローチをかけてみたいと思っています」
だから幅広いレベルから、いろんな知識や考えを持つ人物を望む、と言う。
「今回の報酬は私からのポケットマネーですが、実用品、消耗品などの援助はして下さるとパーシ様も言っていましたし、よろしくお願いします」
いくつもの貴重な品々と、決して少なくない額の報酬。
これを出すと言う事に彼女の決意を感じて、係員は緊張の面持ちを浮かべながら依頼を受理した。
彼は自らの行動に少し苦笑する。
友人の依頼に同行し、かの地に赴く。
彼女には悪いが、彼の主目的はほんの僅か、別の所にあった。
「あの子は元気にしているだろうか」
その思いは静かに青い空に溶けていった。
●リプレイ本文
○パンドラの迷宮
「別に彼女に会うのが目的じゃないからな。この仕事を請けたのは!」
力説するリ・ル(ea3888)にはいはい、と頷きリースフィア・エルスリード(eb2745)は一枚の手紙を渡した。
「私達は後から行きますので着いたらこれを渡しておいて下さい」
「解った。じゃあ、先に行く。行くぞ。ウェイド!」
手紙を受け取るや戦馬を全力で走らせるリル。
「リースフィアさん。あれは何ですか?」
「あれ?」
リルの書類は、と問うシルヴィア・クロスロード(eb3671)にリースフィアは答える。
エイムズベリー領主家に宛てた遺跡調査の許可願い。パーシ・ヴァルのサイン入り。
「それなら私が持っていったほうが良かったのでは?」
これからウィルトシャーの西奥、シャフツベリーまで行く彼女はフライングブルームを使用する。
多分戦馬のリルより早く到着すると思うが‥‥。
「彼は仕事をちゃんとすると言いました。仕事が始まれば優先すべきは遺跡の調査。なら仕事が始まるまでの時間は自由にさせてあげてもいいかな、と思いまして」
「なるほど」
理解した、というようにシルヴィアは頷き箒を持ち直す。
「では、私達も先に行きます。向こうでお待ちしていますね。ヘンルーダさんもお気をつけて」
「あ〜。待ってくださいぃ〜。お願いがあるんですぅ〜」
同じフライングブルームを使って先行するエリンティア・フューゲル(ea3868)が慌てて後を追う。
その姿を見ながら
「そうで‥‥あるな」
リースフィアの言葉をマックス・アームストロング(ea6970)は噛み締めていた。
『優先すべきは遺跡の調査』
ほんの少しの感傷を振り切るように彼は首を振る。同じ思いを知るであろうワケギ・ハルハラ(ea9957)は何も無いかのようにマギー・フランシスカ(ea5985)と打ち合わせをしている。
エイムズベリー。
様々な事が起きたあの村との出会いからもう一年が経過しようとしている。
悲しい不幸が飛び出し続けたあの村の遺跡。そこに眠るのは本当に希望、なのだろうか?
「そう、願いたいですわね‥‥」
思いを口に出したつもりは無かったが横でセレナ・ザーン(ea9951)が同意するように頷いた。
異国の伝説パンドラの箱は、不幸が飛び出した箱の底、最後に残ったのは希望であったという。
「そうであるな!」
完全に感傷を振り切りマックスは歩き出す。
悩んでいても意味が無い。それを確かめに行くのだから。
○封印の鍵
到着した冒険者達をエイムズベリー領主家は暖かく出迎えてくれた。
リルが事前に持っていった書類も功を奏し遺跡調査に全面的に協力すると言ってくれたのだ。
「あれから遺跡について我々も調べてみたのです。そして一冊だけそれらしい書物を見つけました。とはいえ私達には読めないのですが‥‥」
領主ジュディスが案内してくれた書斎ではエリンティアが
「えっとぉ、この単語は‥‥だから前後の関係からするとこの解釈はこうですかねぇ」
楽しそうに本に埋もれていた。
「ふむふむ成る程そうですかぁ‥‥ダメですダメですぅ、本来の目的を忘れるところでしたぁ、ってあれぇ? 皆さんいつの間に来ていたんですかぁ?」
相変わらず天然のエリンティアに冒険者達は脱力するが、そうしている暇も実は無い。
「どうでしたか? 何か手がかりはありましたか? エリンティアさん?」
問いかけるリースと仲間達にエリンティアは少し真剣な顔で、ええ、と答える。
広げられた文献には紋章と古代文字が書かれていた。
「この文献にはぁ〜『我ら大いなる希望をここに封ず。遺跡の封印を解くは一族の使命。なれど扉を開け希望を手にするのは真の勇者のみ』とありますぅ〜。他にもいろいろ書いてあるのですがぁ〜、前後の文章から察するにぃ〜ウィルトシャーの遺跡の多くがそうであるようにぃ〜遺跡の守護者の血が封印を解く鍵のような気がするんですぅ〜」
「シャフツベリーと同等の物でしたら、エイムズベリーの領主一族の血が鍵となっている、と考えるべきですわね」
「でも、私達はおそらく領主家の血を継いではおりません。その血が開封の鍵であれば扉の鍵はもう失われたという事に‥‥」
「どうしたんですか? シルヴィアさん、ヘンルーダさんも」
手に持った人形を見つめながら何かを考えているシルヴィアにリースフィアは声をかける。一方のヘンルーダは書物の紋章に目が行っているようだ。
「いえ、この人形に掘られていた紋章が、その書物の紋章に似ていて‥‥」
オルウェンの形見として預かった家小人の人形。今まで、人形そのものをじっくりと見た事は無かったが、オルウェンの墓参りに行った時、気付いたのだ。その足の裏に小さく紋章が刻まれていた事に。
「この紋章はエイムズベリーの領主家の家紋に酷似しています」
「エイムズベリーの領主家‥‥」
考え込んでしまったヘンルーダをちらり、見てからリースフィアは
「とりあえず、遺跡に行ってみましょう。ヘンルーダさん。エリシュナさんも一緒に来ていただけますか?」
皆に声をかけた。仲間達がそれに答え動き出す中で
『遺跡開封の鍵は失われた』
リースフィアの頭の中でアリオーシュのその声が頭から離れなかったけれど。
○開かれた扉
「オルウェンさんの妹は先代領主の子である。という噂があったそうです」
遺跡内で調査をしていた仲間達に重い口調でワケギはそう報告した。
村での聞き込みをしていた時、今はもう当事者は誰もいないから、と老人の一人が話してくれたのだ。
「その事情は当時の人々を傷つけることですから、今は言いません。けれどオルウェンさんもまた領主家の血を引いていた可能性は否めません」
だから、オルウェンが死んだ時あの悪魔は封印の鍵は失われたと言ったのだろうか。
「でも、オルウェンは遺跡で血を流した。その時封印は揺れなかった筈ですが‥‥」
遺跡の前での調査はあまり進展はしていなかった。
祭壇や扉を改めてもう一度調べなおす。
洞窟の奥、扉の周囲をマギーは何度かウォールホールの魔法で土を除去し調べてみたが石造りの壁が出てくるだけであった。ここが地下である事を考えると大きな何階建てかの建物が最上階のみを残して地面に埋まっている感じなのかもしれない。その最上階の入口が、目の前の扉で‥‥。
「遺跡の壁にはウォールホールは効かないようじゃ。材質はよくある大理石を加工したものそれに何らかの魔法がかかって‥‥」
「結局の所この扉を開くしか中に入る方法は無い、という事だろう」
ぽんぽん。所在無げに様子を見つめるエリシュナの頭を叩いてリルは言う。
エリシュナはオルウェンと血は繋がっていない。もし、自分にオルウェンと同じ血が流れていたら。
そんな事きっと考えたに違いない少女を慰めるように。
「遺跡全体が何かに守られるように魔法を帯びているようです。中は透視できません」
「ここにも同じ文字があるですねぇ〜。『我ら大いなる希望をここに封ず。遺跡の封印を解くは一族の使命。なれど扉を開け希望を手にするのは真の勇者のみ』封印を解くのは一族。扉を開くのは真の勇者。どういうことなんでしょうかぁ〜」
「何か、扉を開ける鍵としてのアイテムが必要‥‥ってことも‥‥ヘンルーダさん?」
今まで沈黙を守っていたヘンルーダが、セレナや冒険者たちの横をすり抜け祭壇の前に立つ。
「試してみたい事があるの? いい?」
頷くリースフィアの前でヘンルーダは自らの手首に冒険者から貰った剣を当てる。
「私が兄様から貰ったたった一つのものにも同じ紋章が記されていたの。今は手元に無いから証明はできないけどもしかしたら‥‥」
「ヘンルーダ殿!」
マックスの声と同時、翻った刃はヘンルーダの手首に紅い筋を作る。滴る紅い雫が祭壇に落ち紅い円を描いた瞬間
「あ‥‥っ!」
目の前の重い石の扉が音も無く左右に動く。
開かれた扉。
その奥にはどこまでも暗い闇が冒険者を招くように口を開いていた。
○希望と絶望への道
扉は、落ちたヘンルーダの血が乾く頃、再び音も無く閉まりまた入口を閉ざした。
二度目を性急に冒険者達は開こうとはしなかった。
「強いプレッシャーを感じます。無思慮に中に入るのは危険です」
リースフィアの言葉に従い冒険者達は今回はその周辺の調査に専念したのだ。
中の捜索はもっとちゃんと準備をしてからだ。
村の墓地の前、アルバや亡き領主家の家族の墓石の前で手を合わせるマックスやワケギと祈りを捧げたセレナは
「ヘンルーダ様の一族はエイムズベリーを守る騎士の一族。その過程で何度か婚姻もあったようです。一番近くでは前領主の娘の一人が降嫁したとか」
古老から聞いた真実を報告する。
「ヘンルーダ。本当にいいの?」
領主家に迎えると言うジュディスに首を振りヘンルーダは手首に手を当てる。
「私はいいわ。今、十分幸せだから」
早くに死んだ両親について兄は何も言わなかったが、少し胸が温かくなる。
自分も何かに役立つ事ができたのだ。と。
一方リースフィアは複雑な顔だ。彼女の血で扉が開いたのは望ましい事である。だが
「彼がヘンルーダさんに気付かなかった筈は‥‥。まだ、何かあるのでしょうか」
不安は去らず答えは出ない。
「何であろうと、この村と希望は俺達が守るさ」
強く告げたリルの目線の先には蒼い髪飾りをつけて彼に微笑む少女の姿がある
彼女にとってこの村での生活は辛い事も多いだろう。
けれど
「私、この村で頑張るから。お兄ちゃんの分も」
そう言った彼女の笑顔を守ると彼は誓ったから‥‥。
その後、冒険者達は調査の準備の事もあり、キャメロットへと戻った。
遺跡の警備を強化すると知らせた領主の手紙に少女からの拙いが懸命な手紙が添えられていて冒険者を微笑ませたと言う。
冒険者は即座に戻り遺跡の調査に再出発するつもりだった。
翌日、それを吹き飛ばす悪夢のような事件が知らされるまでは‥‥。