ダイエット大作戦!?
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月11日〜09月16日
リプレイ公開日:2004年09月16日
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●オープニング
キャメロットで最近話題のコンビがいる。
まだ若いが確かな腕で竪琴を奏でる人間の楽師と、歌声は天使のような、と褒められるシフールの歌姫だ。酒場や、広場で彼等はよく歌っている。その周りにはいつも笑い声が響く。
さて、ここまでで気がついた人はいるだろうか? 『「歌声は」天使のような』『いつも笑い声』。
彼等は別にお笑い芸人とかではない。シリアスな歌も得意とする吟遊詩人だ。だが最近の彼らにそんな歌を頼むものは居ない。
二人を見たものには笑顔が生まれるのだ。
それは‥
「太ってるシフールなんて珍しいよね」
「あの声とのギャップが凄いな」
「それに、楽師さんはすっごく痩せてるものね。まるで棒切れとお月様みたい」
そう。歌姫アリエルは世にも珍しい太ったシフールなのだ。
その日、広場で後片付けをしていた楽師ディーは肩からパートナーを降ろした。
「アリエル、また重くなったんじゃないか? 肩に乗せるのも大変になってきたぞ」
「えっ? そんな筈あるわけないじゃない!」
「でも、今のお前じゃ飛ぶのもやっとだろ? このまま太るとホントに飛べなくなるぞ‥ハハハ」
彼は、何の気なしの冗談のつもりで言ったに違いない。だが‥振り返ったそこに歌姫はいなかった。
「えっ? おい! アリエルどこだ!?」
ジャラ!
テーブルの上に金貨が散る。テーブルの上にばら撒かれたそれを、ギルドの係員は撒いた本人の顔を何度も見直し、そして聞いた。
「何を依頼したいんです。お嬢さん?」
「アタシを南東にある森まで連れて行きなさい!」
そう言ったシフールの声は澄み切って美しかった。まるで女王のような威厳さえも湛えている。
だが、それ故にギャップが激しい。丸い、あまりにも丸い彼女の体格との‥
書類の準備をするフリをして振り向いた係員は口元を押さえた。
「何を笑っているの! 失礼ね!」
「おや、失礼を。笑ったつもりはないのですが」
「いいえ、絶対笑ったわ。どうせ、アタシが太っているのが可笑しいんでしょう?」
そんなことは、と首は振っても顔はそう言っていない。だが、それでも彼はプロである。
「依頼を出すというならかまいませんが、その森で何をするおつもりなんです? それによって冒険者たちの集まり方も違ってくるんですよ」
何とか笑いを堪えて、彼は書類を準備した。彼女の顔を見るとまた笑ってしまう。それを我慢するにはかなりの忍耐力を要した。
「すぐ近くの南の森にいるアガチオンという魔物を捕まえて欲しいの」
「アガチオン? どんな悪魔なんです?」
首を捻る係員に彼女は続けた。
「そんなことは知らなくていいわ。私たちより小さくて、弱っちい敵よ。あ、アタシも一緒に行くからね。やるの? やらないの? どっちなの?」
冒険者ギルドに張り紙をして、冒険者の反応を見てから。
そういった係員に解ったわ。と言ってそのシフールはギルドを出た。
入れ違いに入ってきた冒険者は、よたよたと飛ぶシフールの小さな囁きをすれ違いざま‥聞いた。
「絶対に、捕まえて‥願い事を‥‥痩せなくっちゃ‥ディーが‥」
係員は冒険者たちを見つけて、新しい依頼を指し示した。
「よう! 我が儘なシフールからの我が儘な依頼だが、どうだい? やってみるかい?」
●リプレイ本文
「『知り合いと出かけてきます。気にしないで アリエル』って、どういうことだ?」
パートナーを探していた楽師ディーは、少女二人から差し出された手紙に声を上げた。
「あ、見苦しいところを‥」
彼も客商売。目の前の少女達の存在に笑顔を作る。
「アリエルお姉さんとね、隣町に行って来るの。女の子を綺麗にするお店ができたんだって、ね、フォリーお姉さん♪」
笑顔で手紙を差し出したミリート・アーティア(ea6226)の横でフォリー・マクライアン(ea1509)は頷いた。
「彼女とひょんなことで知り合ってね。頼まれたの。手紙渡したよ」
フォリーの言葉に、はい、と言ってみたが彼は‥納得はしてないようだ。
「なんで、いきなり‥」
考え込むディーの耳に届いた二つのため息は大きい。
「? なんです?」
「お兄さん、ホントに解ってないの?」
「は?」
「女の子って繊細なんだよ。デリカシー無いぞ!」
「へ?」
「ま・いいや。とにかくアリエルお姉さんはちゃんと連れて戻るから心配しないでね」
風のような笑顔がフォリーなら、ミリートの笑顔は日向の陽だまり。
だが、それも心に届かぬままディーは少女達と手紙を何度も見比べていた。
「シフールには無理だって」
「冒険に出るのよ。装備は必要でしょ」
「知らねえぞ‥」
『アガチオン‥身長1mくらいの悪魔。人や動物に化ける。捕まえられると願いを一つだけ叶えると言われている』
事前の調査で解ったのはこれくらいだ。
「悪魔にしては弱そうじゃが、油断は禁物じゃのお」
髭を撫でながらオーガ・シン(ea0717)は怪しく笑った。表向きは好々爺の彼だが‥(沈黙)
「普通の武器攻撃は効かない‥か。仲間に化ける可能性もあるし対策は必要かな?」
セレス・ハイゼンベルク(ea5884)は言ったが、彼とウォル・レヴィン(ea3827)はオーラパワーが使える。問題ない筈だ。
「後は合言葉でしょうね。対語でお互いを確かめませんか?」
スニア・ロランド(ea5929)の提案は受け入れられた。
そこに到着の遅い依頼人を捜しに行ったユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が飛び込んできた。
「そこで依頼人が倒れておる!」
「何?」
冒険者達はそこに駆けつけた。言われた場所に倒れていたシフールは、らしからぬ体格、フル装備、ショートソードまで装備して、完全に目を回している。間違いなく‥依頼人だ。
「こりゃ倒れるのも当然だ。おい、しっかりしろよ」
ウォルは、装備を外しぺちぺち、軽く頬を叩いた。
「あ‥」
喘ぎが、口からこぼれ目を開けた直後‥
「キャー!」
出てきたのは悲鳴だった。伸びた細い手が彼女を掴む。
「可愛いですぅ」
いきなり抱きしめられて彼女は暴れ始める。
「何よ。放して!」
「プニプニしててぇ、赤ちゃんみたいで可愛いですぅ」
手や足が身体に当たっても、何を言われてもエリンティア・フューゲル(ea3868)は気にも止めない。
「棒っきれ! 放しなさい、でないと酷いわよ!」
悪態が次々口をつくアリエルを、それでも放さず感触を楽しむエリンティア。
大騒ぎはしばし止まなかった‥
「アー。酷い目に会った」
ワザと息をつくアリエルに冒険者達は苦笑し、キャンプを張った。
重い体重で飛ぶことすら思うとおりに行かない彼女。
オーガ老のバックの中でふて寝を決め込んでいるようだ。
森の中にアガチオンがいるらしいので拠点を作り。そこを中心にに捜すことにしたのだ。
とはいえ、捜索は明日から。
「アリエルさん、歌、聞かせて貰えない?」
ダメ? ミリートの言葉にアリエルは頷いた。根性は捻ね曲がっていても歌が何より好きだからこそ歌っているのだから。
「いいわ、特別よ。あ・音楽はいらない。ディーとじゃなきゃ合わないから‥行くわよ」
立ち上がり深く深呼吸すると、彼女は歌いだした。
「Kyrie Eleison〜〜」
何の曲か彼らは解らなかった。聖なる母を讃える聖歌であると気付いた者はいただろうか?
まあ‥どうでも良かった。
音の隅々まで渡る響き、芯のある声、存在感がありながら透明感に溢れ‥いや、言葉はいらない。
ただ‥彼等は聞き入った。
「‥ふう。久しぶりに真面目な歌、歌えた‥ってどしたの? あんた達?」
彼等は暫く答えられなかった。
目元の涙を拭うものさえも。
「‥凄い。人の声ってこんなに凄かったんだ」
「いや、お見事じゃ」
溢れる拍手に、アリエルは優雅にお辞儀する。
表情が動かないスニアは‥実は一番歌声に魅了されていた。
(「この歌声に‥一時、剣を捧げよう」)
そう、決心していた。
「アリエルさん、アガチオンに叶えて貰いたい願い事って‥痩せること?」
翌日、調査に出た仲間を拠点で待つウォルはさり気に聞いてみた。彼女の表情は変わる。
「! どうして? まだ何も‥」
「ダメですぅ、プニプニしてて可愛いのにぃ」
「煩い! 人の気も知らないで!」
人形のように自分を抱きしめるエリンティアのお腹にキックをみまって、アリエルはどこぞに行ってしまった。
「アタタ‥、どうしてあんなに気にするんでしょう?」
「我々には些細な問題でも、その方にとっては‥しまった!」
慌ててアリエルの後を追おうとした時、探索班が戻ってきた。頭を抱えて‥
それを見て残った者も頭を抱えた。
そこにはアリエルがいる。同じように暴れ、同じように罵声を浴びせあう、二人のアリエルが‥
二人は見分けがつかなかった。
癖などもあるしれないが、正直まだ彼らには解らない。十字架を使っても変化無しだ。
「アリエルさん。一曲歌ってよ。本物なら簡単でしょ?」
「イヤよ! そんなこと」
「私が解らないの?」
見分けがつかない事で拗ねているらしい。ならば‥
「ディーさんと歌えなくなってもいいの?」
ピクッ その言葉に反応したのは‥
「こっちが本物よ!」
「ケケ!」
飛び掛る冒険者たちの腹を蹴り飛ばし、偽アリエルは翼をはためかせた。が、化けたのはアリエル。重く‥動きは、遅い。
ビシュッ!
矢が羽の脇を掠めた。バランスを崩し‥落ちる!
「今だ!」
オーラパワーを付与した武器2つに一気にボコにされ、頭にこぶの山をダースで作り奴は正体を現した。
醜い小人‥。それがアガチオンだった。
「アタシに化けるなんて許せないわ!」
「ケケケ! デーブ」
‥アリエルは縛られたアガチオンの顔に蹴りをいれた。
まあまあ、と宥めるスニアだったが
「ケケ! 年増」
「‥斬る!」
「落ち着け‥」
今度宥めたのはセレスだった。他にも言いたいこと言っていた奴だったが、やがて口をつぐむ。
「本当に死にたいのなら遠慮するでないぞ?」
オーガの凍りつくような邪笑に‥だ。
悪魔にアリエルは向かい合う。
「捕まえた人の願い事を一つ叶える筈よね」
「捕まえたの、おまえ、無い」
「いいの! 願い事、叶えて貰うわ‥」
「待ちなされ」
オーガ老がアリエルの耳元に何かを囁きかける。
「彼女の美声は体重が減ると、出なくなるらしいんだよなあ」
「やっぱり駄目! 痩せてアリエルさんの声質が変わったり声量が落ちたりしたら、世界の損失よ」
「痩せたらもったいないです〜。こんなに可愛いのに〜」
それぞれが呟きながらアガチオンをちらり、見る。
悪魔は捻くれ者、反対の事を言って願いをかなえさせよう、という思いがあるが‥複雑な駆け引きが通じるだろうか‥。
「アタシの贅肉の量を全体的に4分の1にしなさい!」
「ケケ!」
魔法の光が彼女を包み込み‥そして
「キャア!」
悲鳴と共に彼女は倒れた。腹から、顔から、血が流れている。駆け寄る冒険者達の顔を見てアガチオンは悪魔の笑みを浮かべる。贅肉が切り取られたのだ。
「身体、傷つけずになんて、言わなかった。ウケケ!」
「この!」
ウィルは慌てて自分のリカバーポーションをアリエルに使う。怒りの視線がアガチオンに集まった直後、その姿は無くなった。
「消えた?」
違う、蝿に変わったのだとユラヴィカと、エリンティアは気付く。そして‥無言で近づき‥
「「必殺 蝿叩き!」」
「ウギャ!」
蝿は地面に落ち小人の姿に戻る。
「元に戻しなさい。早く!」
突きつけられたフォリーのナイフに、アガチオンの指がパチン、と鳴る。
アリエルの血が止まり、怪我がふさがっていく‥
「良かっ‥あっ!」
安心した隙にアガチオンはナイフを跳ね飛ばすと、ダッシュで森に逃げる。
後を追う事を‥彼等はしなかった。
「アリエル‥無事でよかった」
「ディー‥ ごめんなさい」
二日後、再会した二人を冒険者達は微笑ましく見守った。
帰路、怪我は塞がったが体力が落ち、行きと見違えるほど殊勝になったアリエルはこう語ったのだ。
「笑われたくなかったの。私だけならともかく、ディーまで笑われるのイヤだったし、ディーに笑われるのはもっとイヤで‥」
変わらぬそれは乙女心。
「気にする必要、無いとおもうよ」
「‥その身体は天上の声質を維持される為に必要なことでしょう?」
「今度、一緒に歌お、ね?」
皆の優しさを感じるほど、今までの自分が恥いるようで、アリエルはオーガ老のバックパックに潜った。
「ま、悪魔になんか頼っちゃダメだって事だな。ダイエットは健康的に、だ」
ウォルは呟く。悪魔の願い事で本当に幸せになどはなれないのかもしれない。
「ヲトメ心をもう少し勉強することじゃ」
ディーの頭の上に降りたユラヴィカは、軽く頭を蹴飛ばした。だが‥彼はアリエルだけを見る。
「そんなこと、気にしたことなかった‥。ゴメンよ」
「‥アタシこそ‥ごめんね」
お互いの気持ちは、通じ合っている。あの二人は大丈夫。
彼らは、そっとその場を離れた。
エリンティアはディーの前で顔を赤らめるアリエルを見て、小さく呟いた。
「やっぱり可愛いですぅ、痩せなくて良かったですぅ」
街で評判の二人は今も一緒に歌っている。
最近レパートリーが一曲増えたらしい。
「優しき冒険者」