【キャメロットの放火魔】炎の追跡者

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月19日〜09月24日

リプレイ公開日:2004年09月22日

●オープニング

 キャメロットでは最近火災の発生件数が頻発している。
 先日も宿屋で大きな火災があり、危うく死者が出るかも知れなかったことは記憶に新しい。
 だが、その後の調査でも放火であるということが解っただけで犯人に繋がる手がかりは一切出てこなかった。
 目撃者も、遺留品も、何一つ。
 だが、ある日、事件は急展開を迎えた。
 
「た‥助けて‥ください‥」
 その少女を見て、衛兵達は慌てて駆け寄った。
 必死の様子で駆け込んできた、少女の背中には大きな火傷の跡。長くて美しい金髪はあちこち黒く焼け焦げ、白くて細かったであろう指は、赤く膨れ、丁寧な手縫いの服は黒く煤けていた。
「教会に運べ! 直ぐにだ!」
 彼らのおかげで少女は命を取り留めた。だが、意識を取り戻した彼女の口からは恐ろしいことが語られた。
「私‥放火魔を‥見たんです」

 教会帰りの少女は、ふと、王城への橋の門に背をつける男を見つけた。
 黒いローブに、杖、見るからに魔法使いの風貌だが、冒険者の多いこの街で珍しいことではない。
 彼の足元を見て、少女は小さく声を上げる。焚き火の炎が彼のローブに点こうとしているのだ。
「危ない!」
 だが、炎は彼に喰いつきはしなかった。いや、それどころか、炎は彼の伸ばした指先に従うように伸び、空中に丸くとぐろを巻いた。炎のヘビは炎の玉となり、また炎のリボンとなる。
 まるで、粘土をこねる様に炎を従える彼に、少女は息を呑んだ‥だが‥
「炎は、美しい‥」
「えっ?」
 男は小さく呟く。音楽的な美しい声だった。だが‥纏わりつく様な恐ろしさを彼女は何故か感じる。
(「逃げなきゃ‥えっ?」)
 少女の身体は動かなかった。いや、動けなかった。彼女の体を炎の紐が縛る。
 一歩でも動けば‥それが解った。
「この‥美しい色。太陽を切り取ったような輝き。炎はこの世界の王だ。どんなものも炎の前では平伏し、その姿を変える。恥いて黒く自らを染めてね‥。君も、そう思うだろう」
 男は自分に語りかけているように見えているが、違っていたと思う。と後で考えれば思える。
 だが、その時には彼女の頭をよぎるのは恐怖だけだった。
「た、助けてください。‥お願いです」
「おや、この美しさが解らないのかな。悲しいことだ‥」
「キャアア!」
 彼がパチン、と指を弾く。炎の紐は、炎のヘビとなって少女を縛った。
 熱さを超える痛みの中で、少女の脳にある言葉が刻みこまれる。
「私は、炎の使途。キャメロットを美しき炎で焼き尽くすのが願い。これから7日ごとに炎の舞が街で見られることでしょう。君たちもそれを楽しんでください。命と財産を支払うものもありましょうが‥、その美しさの前には安すぎる報酬ですからね‥」
 遠ざかっていく笑い声と共に炎が消えた。まるで消えた炎に体力を全て吸い取られたように彼女の体は動かなかったが、必死の思いで彼女は橋を渡り、城へと向かった。そして‥倒れたのだ。

「それから、その言葉どおり、きっちり7日ごとに火災が発生している。
 最初はキャメロット東の森。ほら、あのL字を逆さにしたような家の横だ。
 次は東南の土色の橋の門 その次は停車場の横の岬で釣りをしていた人が少女と同じように焼かれた。
 で、おとといは酒場と橋を挟んで直ぐ向かいの館が燃えたそうだぜ。何人もが大火傷を負っている」
 いずれも、遠くから炎が飛んできてあっというまに燃え上がったと言う。
「王宮騎士団も捜索している、ギルドにも協力依頼があった。目的は犯人探しとこれ以上の放火の阻止だ」
 魔法を悪用する者。それを捜し捕まえることに異論は無かったが‥相手は確実に炎の魔法の使い手。
 しかもかなりの強敵になりそうだった。
 
「なあ、これ、本当に放火だけが目的なのかな?」
 ある冒険者が口にした。
「? どうしてだ?」
「だって、炎が燃えあがるのを見るだけだったら、無差別に住宅街とか狙った方がいいだろう? 岬とか、森とか、橋の門とか、不自然なところ多いじゃないか」
「言われて見ればそうだな」
「何か、他の意味があるのかもしれないと思わないか‥?」
「その意味が解れば、次の放火地点もわかるかもな」

●今回の参加者

 ea0396 レイナ・フォルスター(32歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1812 アルシャ・ルル(13歳・♀・志士・エルフ・ノルマン王国)
 ea3438 シアン・アズベルト(33歳・♂・パラディン・人間・イギリス王国)
 ea3524 リーベ・フェァリーレン(28歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5678 クリオ・スパリュダース(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 力は果たして正義だろうか?
 全ての者が正しい心を持っているとは限らない。
 力あるものが、その力を邪悪に依ったら‥、力に従属したのなら‥どうなるのだろうか?

 地図を確認していたギルドの係員の顔が青ざめる。
「‥俺、大変な事を‥」
 彼は駆け出していく。地図を握り締めて‥

「黒いローブに、杖を持った冒険者を見かけなかった?」
 クリオ・スパリュダース(ea5678)の問いに、酒場でもギルドでも聞かれた者たちは肩を竦める。
「そんな冒険者は山ほどいるぜ。服は着替えればいい、杖は置けばいい」
 目撃した少女から聞けた風貌も‥黒髪、赤い瞳、比較的若い男性。それくらいの意味しか持たない。
「冒険者など、キツイし儲からないしそんなに居るとは思わなかったんだけどな‥」
 自分も冒険者だろう、とは誰も突っ込まなかった。
 イギリス冒険者数千、その中の魔法使い数百。冒険中の者も多い。ギルドに来ないものもいる。絞り込むには難しい数だった。それに冒険者であるとも限らない。
 闇雲に捜すのは少し難しかったかもしれない。
「もう一回、場所の方から調べなおすか。地図も貰いなおしたし」
 係員は冒険者たちに平謝りして新しい地図を置いていった。
 地図の知識が足りず言うべき方向を間違った、と。
 広げた地図には正しい放火地点が記されている。西の森、南西の橋、教会横の橋の前の建物‥
「これはひょっとして?」
 ここ2日、情報収集をして酒場戻ってきた冒険者達は、印の場所を睨みつけた。それは‥明らかにある形を示している。
「六角形‥だな」
 ゼディス・クイント・ハウル(ea1504)の指示に全員が頷いた。教会を中心とした六角形を描いている。
 すでに何人かは正しい地図を貰う前にそれに気付いていたが‥
「教会に恨みを持っているものかもしれませんね。でも、調べてみた限りでは教会周辺から火を放っている人はいなかったようですよ」
「こっちも。教会から火災現場まで、というもの少し遠すぎるしね」
 火元周辺で聞き込みをしてきたアルシャ・ルル(ea1812)とリーベ・フェァリーレン(ea3524)は放火魔にはそれぞれの思いがあった。
「と、いうことは次の放火地点は六角形の最終点、この船のドッグで間違いないでしょう。教会から放火っていうのも外していいと思います」
 冷静なシアン・アズベルト(ea3438)の言葉に、皆頷く。ここに戦力を集中しよう。と決めたが、ただ一人、レイナ・フォルスター(ea0396)だけは別行動を仲間達に申し出た。
「教会を完全に手薄にはできないと思う。だから、私は一応教会に張り込んで見るわ。もちろん、ドッグに出たら、すぐに急行するから」
 それぞれの考えたうえでの行動に反対はできない。それに
「放火地点=居場所とは限らない ドッグが放火場所、ではあろうがな」
「教会から、っていうよりも教会側に向けて、って感じらしかったんだよね。いくつかの情報だと」
 というカシム・ヴォルフィード(ea0424)の意見もあり、二手に分かれることになってしまった。ドッグにシアンとリーベ、スニア・ロランド(ea5929)。そして周辺をクリオとカシム、そしてゼディスが見回ることにした。
 アルシャは作戦に従うということでドッグと月道の周辺を見回ることにした。
「なんとしても、捕縛しましょう。あんな奴に炎のマギウスを名乗らせてはいけません」
 彼女の決意は、敬愛する兄への思いだろうか、強く、深い。
 そして、それぞれが勝るとも劣らない思いを持って立ち上がったのだった。
 予定通りなら、明日が‥予告の日
 
「何でしょう? この胸騒ぎは‥」
 もう一度、聞き込みをしようとアルシャは東の森の周囲を調べていた。
 どうやらカシムの言うとおり、
『教会から』ではなく、『教会に向けて』炎は放たれていたようだ。
「やはり、教会に何か‥思うところがあるのかも」
 キャメロット城以外の各放火地点には人さえも近づきたくないのか、まだ黒々とした灰が多く残る。寒々とした黒き‥森。
「‥とにかく、早く行きましょう‥」
 身震いすると彼女は馬を走らせた。
 灰を踏みつけて‥
 その横をマント姿の青年が通っていったことも、気が付きはしなかった。
 彼らは、気付かなかった。誰も、考えなかったのだ。
『なぜ、その地点に炎を起こす必要があったのだろうか、と‥』
 
 放火魔というものは昼、出ることは少ない。
 出るならば‥間違いなく‥夜だ。
 秋の日は早く、もう横の人の姿も、見えなくなってきた。そろそろ‥来るだろうか?
 周囲を通る人物を頭に入れながら、クリオは深く息をついた。いい加減、人の顔を覚えるのにも飽きてきた。
 横のカシムも同様のようだ。路地でブレスセンサーなどやっていたらキリも無い。
 何十人目かにマント姿の青年が酒場の脇から橋を渡ってくる。カンテラを掲げながら‥
 ローブ姿でもないから、と思った、その時! カンテラの炎が弾けた。炎は腕が指差す方角そのままに、ドッグへと放たれ‥
 ボウッ!
 小さな船へと喰らい付いて行った。
 ドッグを見回っていたまるでシアンの眼前で、生き物のように炎が燃え上がる。
「しまった! リーベさん!」
「解ってる! ‥‥‥ウォーターボム!」
 船に向かって放たれた炎は、水の爆発で消えうせた。
「万が一の為に、消火と注意をお願いします。行きましょう!」
 スニアは、シアンと共に火球の来た方向に駆け出して行った。

 目の前に現れた男はマントを脱ぎ捨てると‥杖を傾け‥ニッコリと微笑んだ。
「私の邪魔をするおつもりですか? 私は炎の使途‥ 我が王の君臨の邪魔は、してほしくないのですがね‥」
「炎はもとより魔法もそうだが、所詮道具や手段の延長に過ぎない。にもかかわらず『炎は世界の王』か‥大した信仰だな。偏執狂の思考は理解に苦しむ‥」 
 ゼディスは男の前に立った。挑発するように放つ言葉には思いっきりの毒を込める。
 自分に、炎の魔法を使って来い。そう願っていたほどだ。
 炎を再び手の中で持て遊びながら、男は笑う。
「信仰‥、いい言葉ですね。その通りですよ。私にとっては炎以外は、どうでも構わない。炎は、全てを焼き尽くす。邪悪も善なるものも全て。私は‥私の神、炎の意志に従って炎を動かす。その使い道、道具‥それでいいのですよ」
 我は使徒であり、使途。彼はそう言うと二発目の炎を放った。ゼディスにではなくドッグへ向けて。別の小船がまた音を立てて燃え上がった。
「力とは誰かの為に何かを為す為のもの‥貴方など真の炎のマギエルなどではない!」  
 この敵は絶対に倒す! アルシャは真っ直ぐに敵に向かって飛び込んでいった。オーラシールドだけは張ったものの重傷覚悟の特攻だった。だが‥
「えっ?」
 彼女の攻撃は赤い、かすかな光の残像をすり抜けただけだった。
 顔を上げたところに、彼はいない。いや、見えない。
「くそっ! スモークフィールドか?」
 一歩後ろに下がっていたクリオは小さく舌を打つ。考えていなかった訳ではないが対応策は考え付かなかった数少ない魔法だ。
 ゼディスも完成していたアイスコフィンの魔法が宙に浮く。この状態で打てば味方に当たってしまうかもしれない。
 リトルフライの魔法で背後から、そう考えてワザと黙っていたカシムにも煙は纏わり付いた。
「ええい! 行け!」
 目も見えないまま放ったウインドスラッシュは男の手を僅かにかすって消える。
「うっ! なかなかやりますね‥。ですが‥あなた方にかまっている暇はありません!」
 三発目の炎が打ち上げられる。何故か空へと向かって。
 それは絶好の目印となった。集まってきた仲間たちが、煙に向かって声を上げた。
「みんな! 大丈夫?」
 仲間という名の天使の呼び声。冒険者達は僅かの感覚を頼りにその声の方に向かった。
 周囲を支配していた灰色の煙から逃れた時‥彼らは見ることになる。
 6人、いや、走ってきたレイナを加えた7人と相対しても笑う‥、炎を弄ぶ‥マギウス。
「結構な人数でお出迎え下さったのですね。最初からこの人数で一気に迎え撃たれていたら怖かったかもしれません。ですが‥もう用事はすみました。御覧なさい。美しい炎の陣を‥」
「えっ‥!」
 彼が指差す先‥冒険者達の背後を振り返ったとき、その背筋は凍りつく。
 キャメロットの街に一つ‥二つ‥いや、四筋の煙と炎が舞い上がっているのだ。
「な、何を、一体?」
「私の分身に命じたのですよ、合図と共に火を放て、と。だが、やはり炎の陣は完成できませんでしたか‥王城を閉じれなかった以上仕方がありませんね‥、おや、6つ目の陣も邪魔されたようだ」
 ドッグに放たれたはずの二発目の炎が生み出した煙も、今は静かに消えていく。
「だが‥この街に私は陣を刻んだ‥私は‥今よりも、もっと偉大な炎使いになれたはずだ。炎の王もお喜びになるだろう‥」
 陶酔しきったように、自らを抱きしめる男に二つの影が迫る。
「黙れよ!」
「させません!」 
 クリオとシアン二人の突進は、炎の爆発に妨げられた。
 それでも突っ込んだクリオのダガーにほんの微かな手ごたえだけを残し炎と煙の彼方に男は消えた。
 煙と血、とチェーンの切れた、十字架一つ。それだけを残して。

 後に、彼らは知ることになる。
 火事の後に残された灰から生み出された分身たちが、炎の合図と共に火を再び同じ場所に放ったのだと。
 魔法を介さないただの炎は直ぐに消され、分身も僅かの攻撃で灰に戻った。
 6箇所に同時に炎を灯したかったのだろう。
 何故、そんなことをしようとしたのかは解らない。それが完成していたら何が起きていたかも解らない。
 だが、キャメロット城には分身は作れず、最後のポイントでの放火はリーベの活躍で阻止された。
 何かが起きたかもしれない、最悪の事態は避けられたのだ。

「あんたたちの行動は間違ってなかったぜ、誤った情報なのに正しい推理を導き出した‥」
 ギルドの係員は落ち込む彼らにそう声をかけるが、冒険者達の表情は冴えない。いや、暗い‥
「でも、我々の言葉も、力も‥奴には届かなかった。敗者は‥我々か」
 手元に残った銀のクルスを握り締め、クリオは自嘲するように笑う。
「私も‥一歩間違えばあのようになるのか‥ 力を追い求め‥使われるようになれば」
 スニアには偉大な炎使いになれたと喜ぶあの男が‥、いや、と首を振る。ああはならないと。
「魔法は‥いい事に使うべきだよ。違うのかな?」
 違わない。
 カシムの問いに、彼らは心の中で答える。
 
 いつか、伝えられるだろうか。伝えたい。
 魔法の持つ、力を持つ者の本当の意味を‥、使命を‥、あの男に‥