【英雄 想う人】新たなる決意

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:11月06日〜11月11日

リプレイ公開日:2008年11月17日

●オープニング

 冒険者ギルドに呼び出されたシルヴィア・クロスロード(eb3671)は差し出された羊皮紙に書かれた文面に首を傾げた。
「これは‥‥? なんですか?」

『王宮戦士、騎士採用試験』

 大きく書かれた文字に戸惑うような顔で羊皮紙を見つめるシルヴィア。彼女に若い騎士は
「見ての通りです。シルヴィアさん」
 そう言って手を広げた。
 彼はジーグネ。円卓の騎士パーシ・ヴァルの部下で彼の副官のような存在である。
 シルヴィアも何度か顔を合わせた事があった。
「パーシ様はいつも騎士団の補強として新たなる人材を確保しようと考えておられ、時々、このように冒険者を中心に募集をかける事があります。
 試験の結果次第では、貴族出身者でなくても騎士への道が開かれるんですよ。現に我が騎士団には貴族出身で無いものも何人かおります。実力と精神があれば家柄など意味はないと、パーシ様自身が証明していますからね」
 ジーグネ自身は貴族出身であるのに、何の皮肉も無い笑顔でそう言い放つ。
 彼のあり方に、上司であるパーシの姿が見えるようでシルヴィアは知らず頭を下げていた。
「で、シルヴィアさんにもそれを受けて頂けないか、とお誘いに来たわけです。シルヴィアさんがパーシ様から入団の許可を得て紋章も授けられている事は解っていますし、お人柄や実績もわかっていますから反対する仲間はいませんが、知らない人間が見ればコネを使って入ったと可能性もあります。だから、シルヴィアさんの為にも実力をしっかりと示し、正式な道筋でイギリスの王宮騎士としての立場を得たほうがいいのではないか、と思いましてお誘いに来たんですよ」
 いかがですか? と続けられた問いに、シルヴィアの返事は決まっていた。
「勿論、お受けします。願っても無い事です」
「良かった。試験内容は秘密ですが、希望者は見学可能ですから不正はありませんよ。頑張って下さい」
 ジーグネはそう言うとお辞儀をし、その足でギルドにも同じ依頼書、というか告知文を出す。
 広く、人材を集めると言うのは本当なのだと思いながらシルヴィアは内容を確認した。
 試験日は一週間後、パーシの館。
 一日目は質疑応答と騎士としての心構えの確認。その後泊まり込み二日目が実技試験だと言う。
 何をすれば、合格なのか、何をパーシは求めているのかは解らないが、小細工を要する必要は無いだろう。
「私は、貴方の側に行きます。それが、私の信念ですから」
 手の中の羊皮紙と紋章、そして新たなる決意を彼女は握り締めていた。


『北海を始めとする様々な事件に対応するための人材を募集する。 
 テストの結果次第では、王宮戦士、騎士としての道も開かれる。
 熱意と実力、そして精神のある人物を求める。
 円卓の騎士 パーシ・ヴァル』

 

●今回の参加者

 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec0502 クローディア・ラシーロ(26歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec5421 伏見 鎮葉(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

奇天烈斎 頃助(ea7216)/ 天堂 朔耶(eb5534)/ レア・クラウス(eb8226)/ セイル・ファースト(eb8642)/ エリーゼ・サブレ(ec1648

●リプレイ本文

○騎士採用試験
「壮観であるな」
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は館の窓から外を見て感心したように笑う。
 円卓の騎士、パーシ・ヴァルの募集に応じ騎士を目指してきた人物はどうやらざっと見ても100人を下らない。腕に覚えのあるような冒険者から、まだ剣を取って間もないような青年も多い。
「それだけパーシ様の騎士になりたいと思う人物が多い、という事でしょう。彼女は大丈夫でしょうか?」
 まだ人の少なかった応援者控え室。入ってきた人物にヤングヴラドは声を上げた。
「おお! 久しぶりであるな、教皇庁直下・聖女騎士団が同志クローディア・ラシーロ(ec0502)殿! 青変わらずお美しい! 貴殿と再び轡を並べる栄誉が来ようとは」
「戦いに来たわけではありません。ただ、幼馴染で姉とも思うシルヴィアさんの晴れ舞台。姉が所要で不在なので私が応援に」
「いやいや、クローディア殿と再会がかなった、ここは全受験生を祝福するよい日和なのだ〜。全ての受験者に愛の奥義カリスマティックオーラ発動! ついでに試験官のお手伝いに」
 ひらひらと、踊るように去っていってしまったヤングヴラドを見送りながらはあ、とクローディアは溜息をつく。
「あの‥‥聞いておられるのでしょうか?」
「無駄無駄。あれは聞いてなんかいないわね。でも、心配はいらないわ」
「僕もそうおもいますぅ〜。シルヴィアさんは。大丈夫だと思いますぅ〜」
 伏見鎮葉(ec5421)やエリンティア・フューゲル(ea3868)も頷く。
「そう‥‥ですね。どの道我々は応援するしかできませんから」
「もう直ぐ、面接が始まるんじゃない? 私達も見に行きましょうか?」
 言って彼らは部屋の外に出る。
「シルヴィアさん、合格するといいですね」
 彼らが応援しようとする人物は、皆同じ一人の女騎士であった。

○騎士の心
 パーシ・ヴァルの館。
 その一階部分には多くの人物達が集まっていた。
「あ、皆さん‥‥」
 降りてきた冒険者達にエスナ・ウォルター(eb0752)は小さく会釈をする。
 彼女はやってきた受験者達の接待を手伝っている。彼女とは別の目的の人物を探そうとした冒険者達。
 だが
「あの‥‥あれは?」
 クローディアの指の先に見たものに彼らは息を飲み込んだ。
「へえ〜。君は貴族の出身のか?」
 受験者の間に違和感無く紛れ雑談をしている青年戦士。
 彼は‥‥まさか?
「ちょっと! 何であの人があんな所で?」
 エスナの手を引き物陰に引き込むと鎮葉は真剣な顔で問うた。
「声、出しちゃダメです。あれがパーシ様の面接試験なんだそうですから」
 エスナは鎮葉の口元を指で押さえ、シーッと告げる。
 髪型を変え、服装を変え、ちょっと見た限りではその辺にいる冒険者と変わりなく見える。
 見れば彼は雑談をしながら受験者達から上手に情報を引き出しているようだった。
「作られたものじゃない意見を知りたいって事なのかしら」
「おそらく。でも‥‥気付いていらっしゃる方はいるようですね」
 エスナの言葉を聞きながら改めて鎮葉は受験者達の輪を見る。
 ケイン・クロード(eb0062)は驚いた表情をしている。だがそれを表立っては出さずむしろ何かを噛み締めるように手を握り締めていた。
 マックス・アームストロング(ea6970)も同様。変わらないマイペースで受験者の中で一際の異彩を放っている。後は彼を微妙に意識している人間が何人か。
 アイシャ・オルテンシア(ec2418)とミシェル・コクトー(ec4318)も一度パーシと面識がある。変装はしているが何かを感じているようだ。
 ちなみにシルヴィア・クロスロード(eb3671)は言うまでもない。
 微かな微笑を浮かべ剣の手入れをしている。それを『彼』はちゃんと見ている。
 変装しても『彼』の力は隠せない。
「多分〜相手の力量を測れるかどうか、とかも見てるんですねぇ〜。面白いですぅ〜」
「じゃあ、騎士はどんなものだと思う?」
 ふと、雑談の中、パーシは豪奢な鎧を身に纏った戦士に聞く。彼はどこかの貴族の息子なのだろう。
「騎士とは人々の上に立つ者だ。イギリスを守るその使命は本当はイギリスに生まれた貴族である我々こそが受けるものなのだ」
 ふん、と鼻を鳴らし周囲を見下して笑い答えた。だが
「それは違うと思います」
 遮るようにケインは会話に割り入る。黙ってはいられなかったのだろう。
 ほお、とパーシより早くその男はケインに問う。
「では、なんだと?」
「騎士は民を護る為に、その地位を力‥‥剣を与えられし者。掲げる剣は力の象徴であり、そして重大な責任を負う者の名です。人の上に立つという事はその結果に過ぎません」
「同感であるな。慈愛、寛容を兼ね備え、正義を行うが騎士‥‥と思っていたであるがそんなに特別どうこうでなく、騎士とて、ごくごく“普通の人”である。違う何かがあるとすれば己を律する心。そして他者を思い守ろうとする意思である」
 マックスが頷き、若いハーフエルフの戦士もそれに同意する。
「騎士を特権だと思うような奴らがいるからこそ、聖杯戦争のような悲劇が起こるんだ。騎士はあくまで人々を守る剣であり、盾。そんな存在にこそ俺はなりたいと思う」
「下らぬ! 神に許されぬハーフエルフなど合格する筈もない。黙っていろ!」
「例えハーフエルフであろうと、この国の為、人々の為に思う気持ちは同じ。ハーフエルフとして生きてきた人生は私の誇りです!」
 仲間を侮辱されたアイシャは冷静に答え、彼女を庇うようにミシェルは男を強く見る。
「『騎士たる者は謙虚たれ』生きるということは、他の命を奪うこと。自分が、奪われた命の上に今ここにいる事を忘れず、命に対して常に謙虚でなければならないのです。剣を振るう者は常にその覚悟を持たなければならない。王やパーシ様のように貴方にその覚悟はあるのですか?」
「こ‥‥この!」
 怒りに顔を紅くした男の手を、シルヴィアは強く掴んだ。
「騎士の剣には守るべきもの命運がかかっています。みだりに振るうものではありませんよ」
 明らかな実力差を感じたのだろう。
 男は罵倒の言葉を残し去っていく。人々から拍手や喝采が上がる。
 パンパンパン。
「見事だったな」
 『彼』もまた、強き心を見せた戦士達に心からの笑みと拍手を贈ってくれた。
 その意味を知る者は、そう多くは無かったけれども‥‥。

○剣に乗せた思い
 翌日の実技試験に残った受験者はそう多くなかった。
 多くの者達がその夜のうちに館を後にしたからである。
 ある者は自らの実力不足に気付き、ある者はもう一度己を磨きなおすために。
 そして残った者の半分は試験前現れたパーシ・ヴァルを見て、昨夜の覆面面接官と気付き、己の行動を恥じ、赤面しながら去っていった。
「残った者はこれだけか‥‥」
 パーシ・ヴァルは寂しそうに微笑み、二次試験を開始させた。

 受験者は二つに分けられ実戦の戦いをする者とパーシが戦う者に分けられた。
「パーシ様と‥‥手合わせ?」
 アイシャは息を呑み、ミシェルも剣を握り締めなおした。
 彼が相手をすると決めたのは実力のまだ未熟な者達。
 決着はどの試合もほんの数合で付いた。
「まだ、これほどの実力差があるなんて」
「足でかき回す事さえ、できなかった‥‥」
 自らの無力を噛み締める若者達。
 だが、パーシは彼ら一人ひとりを冷静に見て指導をしていったのだ。そして
「まずは基本の反復、そして相手をよく見る事だ。強い相手と戦い、そして学ぶがいい。新しい場でな」
「えっ?」
 驚きを浮かべる二人にパーシは笑いかける。
「お前達の力は足りない。だが、そんなものは身に付ければいいだけのこと。本当に必要なものをお前たちは持っているようだ」
「それは!」
 パーシが去っていく。代わりに書記官が数名に合格を告げる。
 見習い合格者。その中にアイシャとミシェルの名があった。
「う、嬉しくなんてないんですからね。見習いなんて‥‥」
 そう言うミシェルの目元に自分と同じものが光っていた事をアイシャは気付いたが見ないフリをした。
 
 ケインの試合は敗北に終わった。
「あっ‥‥」
 目覚めた彼は差し出されたハーフエルフの戦士の顔を見られず目元を押さえる。
 実力は互角。だが彼の技と何より、気迫に勝てなかったのだ。
「完敗です‥‥」
 けれど、彼マティスは首を振りケインに手を差し伸べる。
「実力は殆ど同じです。ただ、俺には願いがあった。譲れない願いが」
「願い?」
「あらゆる種族が互いに尊重しあい、共に歩める世界を作る為、彼らの笑顔を守る事。その為にどうしても騎士になりたかった」
 ケインは微笑する。そして彼の手を取った。
「僕も同じです。貴方と戦えて良かった」
 握手する二人に拍手が重なる。二人の合格者へのそれは祝福であった。

 マックスの相手はクローディア。
 長い戦いの後
「うおおっ!」
 最後の猛攻に膝を折ったのはクローディアだった。
「参りました。マックス殿。その気迫。何より国を人を思う強き意思に」
 膝を折ったクローディアにさらにマックスは膝を折り、胸に手を当てた。
「感謝するのである。クローディア殿。そして我が輩、改めてここに誓うのである」
 剣を掲げ彼は神に誓うように告げる。
「ただ、そこにある幸せ。それを命をかけて守る。と‥‥」

「手加減の必要は無かったのであるな」
 剣を取り落としたヤングヴラドにシルヴィアは丁寧な礼を取る。
 フェイントからのカウンターアタックの見事さに、その素早さにテンプルナイトである彼も叶わなかった。
「パーシ様からの教えです。常に相手を見て、考えながら戦えと」
 ヤングヴラドはそうか、と頷き微笑む。
「二人がかりではかなわないであるな」
 シルヴィアはもう一度頭を下げ、そして顔を上げた。
「やっとここまで来ました」
 彼女の視線の先にはパーシ・ヴァルがいる。
 今まで背中を追いかけるしかなかった騎士の正面に、彼女は今、やっと立ったのである

○新たなる騎士の誕生
 教会は静寂に包まれ、多くの人々がいるとは思えない程である。
 彼らの視線は全て壇上に立つ円卓の騎士パーシ・ヴァルと
「新たに王国に剣を捧げるものよ。前へ」
 壇上に上がる新たなる王宮騎士達に注がれていた。
 先頭にシルヴィア、マックス、そしてハーフエルフの戦士マティス。
 次列にケイン。後方にはアイシャとミシェルの姿がある。
 試験を受けたのは100名余。その中で正騎士として選ばれたのは三名。従騎士が二名。見習いが五名。
 難関を潜り抜けた者として壇上に立つ彼らの表情は、自信に満ち輝いていた。
 王宮書記官や司祭が見守る中、パーシは自らの剣で一人ひとりの肩を叩いていく。
 重たい剣の鋼の感覚が、重みが騎士達の決意を問うようだった。
『汝は何の為に剣を使うのか』
 と。
「新たなる騎士達よ。誓いをここに‥‥」
 促され正騎士達三人が、前に立つ。
「神は邪に心犯されし者を懲らしめ、この世に正義を行う為に剣を使う事を許したもう」
 マティスは震える声で『神』の名を呼び高く剣を掲げる。
「なれば我らは己を律し、みだりにその力振るう事無く、善と義に心を置き‥‥」
 マックスは一度だけ目を閉じ、見開いた決意の眼差しで剣を見つめ
「真実を見極め、人々の笑顔を守る為に剣を遣うことをここに誓うものなり」
「新たなる王国の護り手に栄光を!」
 人々から歓声が沸き起こり、輝かしき騎士達の誕生を祝福した。

 若き騎士達にその夜、パーシの館は開放された。
 数日前の試験会場は今宵祝いの宴の場となる。
「おめでとうございます。飲み物は如何ですか?」
「まあ心配なんかこれっぽっちもしていませんでしたけどねえぇ〜」
 クローディアの差し出した飲み物を受け取りながら、マックスは容赦ない、でも心からの友人からの祝福に
「‥‥感謝をするのである。‥‥うれしいのである! うおおっ!」
「暑っ苦しいですよぉ〜。マックスさ〜ん」
 男泣きに喜んでいた。涙はなかなか止まらないようである。

 その背後ではケインが別の涙を目元に微かに浮かべていた。
「おめでとう」
 自分を見つめる愛する人を前に。
「あの後パーシ様に問われた。騎士として生きる時、本当に愛するものをこそ守れない時が来るかもしれない。その時どうする? と」
「どう‥‥答えたの? ケイン」
「それでも立ち止らない。迷わない。迷う間に動く。全力を尽くす。愛する者を守る為に、と」
「ケイン‥‥」
「これからきっと苦労をかけてしまう。けどそれでも一緒にいて欲しい。いいかな?」
 こくん。エスナの首が小さく前に動く。ケインはその小さな身体を抱きしめた。
 思いを込めて‥‥。
 
 宴が終わろうという頃。シルヴィアは場の中央に進み出た。
 視線の先には彼らの主として座すパーシ・ヴァルがいる。
 彼の前に立ち、腰の剣を抜き、掲げると膝を折った。
「正式な騎士となった今、改めてお願い致します。私の剣の主となって頂けますか?」
 パーシは立ち上がり、その剣を受け取ると口付けをしてシルヴィアに返す。
「パーシ様」
「お前の剣は、我が剣、お前の命は我が命。無駄に散らす事は許さぬと心せよ」
「はい!」
「良かったであるな」「おめでとう!」
 祝福に集うクローディアやヤングヴラドに、もみくしゃにされながらシルヴィアは笑顔を見せる。
「ふ〜ん」
 その祝いの輪の中から少し外れた所で、鎮葉はシルヴィアとパーシを見つめ呟いた。
「前途多難、ね‥‥」
 皮肉ではない。
「騎士ってのは時に心を殺さなければならない、さてさてシルヴィアに、彼の心を守る事ができるか。がんばりなよ」
 これほど近づいても変わらない二人の距離へのさりげないエールだった。

「貴方はライバル! ですわ!」
 ミシェルはビシッとアイシャに向けて指を指す。
「ライバル?」
 自分を真っ直ぐに見つめる少女に首をかしげ、アイシャは見つめ返した。
「王宮の騎士に認められたとはいえ、私と貴方はパーシ様に倒された同士。そして同じ目的を目指す者。ライバルと言って何の間違いがあるでしょうか?」
「それはそうですけど」
 妙に説得力のある言葉。しかしアイシャは気付く。
 ミシェルはシルヴィアとパーシを見つめながら呟いていた。
「私たちはまだあそこにも届きませんの。長く遠い道のりになるでしょう」
 寂しげな眼差し。だが強いそれを振り払う思いと共に手が差し出される。
「だから共に頂を目指しましょう。そしていつか私達が王国を支える柱となり、灯火となるのです。よろしいですわね?」
 クス、小さく笑ってアイシャはその手を取った。
「友でありライバルですね。望む所です。共に切磋琢磨して参りましょう」
 そして二人は大いなる騎士の背中を見る。
 高い頂。自らの目指す道を‥‥。

「新しきイギリスの騎士達に祝福をですぅ」
 掲げられた杯は人々の祈り。
 イギリスが、世界が動く大いなる時を前に運命に立ち向かう新たなる騎士がここに生まれたのだった。