【錬金術師の試練?】扉の先に待つもの

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月15日〜11月23日

リプレイ公開日:2008年11月22日

●オープニング

 昔、その遺跡には錬金術師が住んでいた。
 彼はその知恵と力で大いなる財を成したのだという。
 妻に子孫がいて平和な毎日。
 だが、彼はやがて人里から離れ、迷宮に篭り、いつしか姿を見せなくなった。
 五年、十年が過ぎた頃、彼の財産を狙い多くの冒険者や盗賊、トレジャーハンターが迷宮に挑んだ。
 けれどその多くは最初の扉を開く事さえできず、諦め、僅かにその先に進んだものも生きて戻ってくることは無かったという。
 故に呪われた遺跡、と呼ばれ封じられた。
 そしていつしか人々の記憶からも忘れ去られていったのだった。

「遺跡捜索もいよいよ大詰めですわね」
 依頼人フィーナ・ウィンスレット(ea5556)はそう言って笑みを浮かべた。
 今まで三回に渡って調査を進めてきたウィンスレットの迷宮。
 近くの村で調べてきた事が正しければ遺跡の階層は四階層ということなので入ってきた第一層に、ラットの群れのいた第二層(地下第一層)を覗けば残りは第三層と第四層のみということになる。
「第三層への扉は開けた途端に古い小麦粉の袋が落ちてきましたの。これは半分冗談か警告、なのでしょうけれども、調べてみると扉が開くごとに別の袋が落ちるような仕掛けがしてありました。扉の先はかなり広い迷宮になっていましたし、仕掛けがこれだけとは思えませんわ」
 遺跡の主である錬金術師は、後世人との交わりを絶ち、侵入者を拒む仕掛けを迷宮に仕掛けたようだという話もある。
 それを直接知るものは、今は当然生きてはいないが
「悪いことは言わぬ。あの遺跡はそっとしておく方がいい。財宝目当てにあの遺跡に踏み込んで戻ってきたものはいない筈じゃ」
 僅かに遺跡の記憶を持つ古老はそうフィーナに告げたという。
 しかし
「でも、そう言われてあっさり諦めるようでは冒険者も、錬金術師も務まりませんわ」
 彼女はそう言って笑う。
「確かに、あの開かれた扉の先には唯ではすまない何かがありそうです。淀んだ空気に紛れ古い腐臭、死者の匂いもしました。アンデッドなどがいる可能性もあります」
 人嫌いの錬金術師が自分の財産を守るのなら間違いなくいろいろな『仕掛け』を施すだろう。
 その仕掛けに身を盗られたものはやがて、アンデッドとなり新たなる仲間を増やそうと地下を彷徨う。
 盗人を逆に迷宮を守る守護者とするのは皮肉以外の何者でもないが、錬金術師であればそのような事もありうるのかもしれない。
「かの錬金術師とは気が合いそうだと思いますわ。ですが‥‥この遺跡探索はもはや私とかの錬金術師の勝負、負けるつもりはありませんの」
 かきして黒き聖母はあっさりと次の探索を決めた。
 仲間を集め、三度あの遺跡に挑むという。
「今度の遺跡はおそらくモンスター退治だけでは終わりませんし、遺跡探索だけでも終わりません。トラップ&ラビリンス。どちらかでも疎かにすれば私達もまた呪いを胸に遺跡に取り込まれてしまうかもしれません。ですからそれなりの覚悟を持って頂きたいと思いますの」
 死の可能性もある遺跡。
 だが、
「それだけに最後までたどり着けば何かが見つかるかもしれないと思いませんか?」
 彼女はそう言って微笑む。
 その黒き微笑は、だが冒険者の胸を振るわせる。
 迷宮の奥に確かにあるのかもしれない。
 古き錬金術師が遺跡の奥に持ち込み、人の手を拒み、今なお眠り続ける財宝が‥‥。

 かくして遺跡の扉は三度開かれる。
 奥に待つのは死者か、それとも財宝か。
 それを知るものはまだいない‥‥。 

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec0886 クルト・ベッケンバウアー(29歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

龍深城 我斬(ea0031)/ リリス・シャイターン(ec3565)/ リディア・レノン(ec3660

●リプレイ本文

○錬金術師の墓所
 ここに来るのは三度目の事となる。
 一度目は謎、二度目はラットが冒険者の行く手を阻んだ。
 先に進むな。入ってくるなと言う錬金術師のメッセージが聞こえるようだ。
「そしていよいよ地下迷宮、ですか。これだけの手間と時間をかけて作られた迷宮。一体最奥には何が待っているのか。知的好奇心が刺激されるというものです」
 静かにフィーナ・ウィンスレット(ea5556)は笑って呟く。
 今はいない誰かに向けて。
「手伝ってくれ、ってのは無理か?」
 二階層。
 かつてラット達の居住エリアだった場所を掃除してベースキャンプを張ろうとするマナウス・ドラッケン(ea0021)に空木怜(ec1783)。荷物を運んできたリ・ル(ea3888)も声をかけるがまったく耳に入っていない様子である。
 肩を竦め仕事を続ける冒険者の所に
「みなさ〜ん〜」
 エリンティア・フューゲル(ea3868)が手を振りながら戻ってくる。護衛についていた閃我絶狼(ea3991)も一緒である。 
「どうだった? エリンティア?」
 仕事の手を止めて遺跡探索の仲間達が集まる。遺跡の扉などの調査を彼はしていたのだ。
「やっぱり遺跡探索は楽しいですぅ。ワクワクしますね〜」
 言いながら彼は手の中の羊皮紙を広げ、指差した。
「なんじゃこりゃ?」
 冒険者の多くには解らない文字がいくつも書き込まれている。
「例の粉が振ってきた扉なんですけれどぉ〜、文字が刻まれてましたぁ〜。古代魔法語で解りにくく書かれていて読みにくかったですけどぉ〜。『ここより先は我らが墓所。妻と我が子の眠りを妨げる者に呪いあれ』とあったようですぅ〜」
 フィーナは瞬きした。思わぬ言葉でったのだ。
「墓所? 墓だ、というのですか?」
 頷くエリンティア。
「墓荒らしか‥‥そうなると少し気が進まないかな。まあ、せっかく呼んでもらったんだから頑張るけどね」
 手に持った棒で、トントン、床を叩きながらクルト・ベッケンバウアー(ec0886)は息を吐く。
「なるほど」
 リルは頷いた。これだけの仕掛けを施した迷宮。主たる人物はどのようにして利用していたのだろうと。
「だが、墓所となれば話は別だ。仕掛けを施して後は篭っちまえばいいからな?」
「本当にそうなのかな?」
「? どういうことだ? マナウス?」
 小さく吐き出された呟きを耳に留めたレイア・アローネ(eb8106)が問う。
「いや‥‥別に。ただな‥‥」
「とにかく先に進んでみましょう。そうすれば解る事もある筈です」
 依頼人の言葉は絶対である。
 歩き始める冒険者達。
 ただ彼らもマナウスの小さな呟きを心から放す事はできなかった。

『一体此処の錬金術師は、何を望んでいたんだろうな』

○アロースリットと吊り天井
「レイア! そこを動くな!」
「えっ?」
 クルトの声にレイアは足を止めた。その眼前、僅か数センチ。
 シュン! 
 微かな音と共に目の前を矢が掠めていった。
「‥‥あっ!」
 危ない所だったと知り立ち尽くすレイアと、冒険者達の横でクルトはトントンと足元や壁を手に持った棒で叩くと仲間達の方を振り返る。
「壁の彫刻に気をつけて。足元のどれかの石を踏むと仕掛けが作動するものがありそうだから。レイア!」
「あ、ああ‥‥」
 頷きレイアはクルトの行く斜め後ろについて進んでいく。
「彼らの歩いた所は安心、という事ですね」
 フィーナは羊皮紙に書き込みを加えながら、注意深くその後を追った。冒険者達も、だ。
「どうして解ったんだ?」
 問うレイアにクルトは自分達の真横を棒で指す。そこには‥‥おそらく何があったか解らぬままに没したであろう戦士らしき人物の白骨があった。
「うっ!」
 脳天に矢が刺さっている。これがおそらくは致命傷だ。
 ここまで来るのに既に何体かの死体に遭遇した。
「遠目にこれが見えたから、何か仕掛けがあるんだろうと思ったんだ」
「ありがとう‥‥」
「気にしない。気にしない。でも先行しすぎない様にね‥‥っで、どうする? また分かれ道だ」
 アロースリットの通路を抜けたところで、フィーナは止まって地図を確認する。
 手元を怜のたいまつが照らした。
「右に曲がった方が、構造上中心部に近づけそうです。行ってみましょう」
 依頼人の背中を守りつつ肩を竦めたリルはふと、顔を上げた頭上を見て、ごくり、唾を飲みこんだ。
「どうした? リル?」
 気付いた絶狼にリルは頭上を指差すと仲間達に声をかける。
「皆、戻って来い。ゆっくり、慎重にな‥‥」
「えっ? 何故?」
「いいから早く!」
 フィーナの手を強く引き、リルは彼女を自分の方へと引き寄せた。
 その瞬間カチリ。何かの音がした。
 異常に気付き冒険者も慌てて後に戻る。最後の一人が戻って来たのとほぼ同時に頭上から天井そのものが降ってくる!
「ビックリしましたあ〜。吊り天井ですかぁ‥‥。よく気が付かれましたねぇ〜」
 エリンティアの言葉にリルはまあな、と頷いた。
 彼が天井に見たのは剣である。床に刺さるように天に刺さったその剣は、持ち主だった人物の末路を物語っていた。
 体重か、それとも何かのトリガーか。
 戻っていく天井を見つめながら怜は自分達を救ってくれたかつての犠牲者に深く祈りを捧げ十字を切った。

○ワンウェイドアとモンスター
 その扉自体に罠は無かった。
 石造りの扉を慎重に押したクルトの後ろを冒険者達はさらに慎重に扉を支えながら中に入る。 最後のレイアとクルト、フィーナと怜、マナウスとエリンティアが順に進み、最後に絶狼とリルが扉を潜るとその先にはまた通路が続いている。
「この先はまだ見ていませんね‥‥。行って見ますか?」
 隊列を崩さず、先に進もうとした時、最後列の絶狼は気がついた。
「待て! 扉が閉まったぞ!」
「こちらからだと開かない!」
 慌てて駆け寄って扉を押したり、引いたりしてみるが開かない。
 そうこうしているうちに
「!」「これは〜」
 今までと違う何かの気配にエリンティアと怜が魔法を張り巡らせたのだ。
「何かが来る! かなりの数だぞ!」
「でも〜ぉ、呼吸の気配は無いですぅ〜。おそらくアンデッドかとぉ〜」
「誘い込まれた、ということですわね。‥‥いいでしょう。望む所です。殲滅を!」
 フィーナは仲間達に指示するより早く、光の矢の呪文を紡ぐ。
 ゴオン!
 爆音にも近い音が響き渡り、何かが吹き飛ばされた。
 だがそれにも気を止めず文字通り、屍を踏みやってきた。 
 やがて冒険者達の目にも見えてきた。数多くのスケルトン。何匹かのレイス。
 アンデッド達は恐れも知らず、ただ冒険者に近づいてくる。
「アンデッド達がいる、ってことはこの先が目的地ってことなんだろうな。皆! スケルトンは任せた」 
 両刀を構えるマナウス。
 冒険者達は頷いて武器を構えると何より先にフィーナとエリンティアを後方へと押し出した。
「危ないのはどっちでしょう。邪魔はしない で下さいね」
 ホーリーフィールドの白い空間から魔法の閃光が再び走る。
「こら! 一声かけてからって言ったろ!」
 リルの声に返るのは勿論、黒き聖母の邪笑。
「聞いたか?」
 絶狼は自分が剣を合わせるスケルトンに、話しかけた。
 返事は返らない。
「哀れだとは思うがお前さん達もリスクを承知の上で挑戦したんだろう? 迷わず成仏しとけ! でないとまた地獄を見る事になるぞ!」
 横にまた光が走る。
 音をたて崩れ落ちる屍。妄執を抱いて彷徨う彼らを冒険者が救う方法はただ一つ。
 こうして倒してやる事だけであった。

○長い長い通路の先
 怜はたいまつを持たない片手の中で小さな小石を握り締めた。
 美しい宝石と呼べる石。さっきのアンデッドとの戦いで拾い、手に入れたものだ。
「こんなちっぽけな石の為に命を落とすんじゃ割に合わないよな」
 小さく呟く気持ちは本心だ。
 遺跡探索もそろそろ終盤。フィーナの地図も正方形を完成させつつある。
 だが、いくら捜しても目立った宝箱は見つからなかった。
 所々無造作に落ちていたり置かれていた宝石や金塊はあった。だが錬金術師の財宝というにはあまりにも少ない。既に死んだ先客の落し物かもしれない。
「‥‥構造上ここがこの迷路の中心点である筈ですね」
 ある小部屋でフィーナはそう宣言した。
 落とし穴や仕掛け扉。そして幾多のアンデッド。
 試練を乗り越えここにたどり着いたのにこの部屋には宝箱一つ置かれてはいなかったのだ。
 フライングブルームから降り何かは? と注意深く調べていたエリンティアは
「あれぇ〜。壁に絵が描いてあるようですぅ〜」
 あるものに気が付いて声を上げた。
 ローブ姿で立つ男の姿と、子供を抱く女の姿。
 二つは対であるように並んで立っている。
「えーっと、『再び‥‥まみえん?』」 
 肖像の足元に刻まれた古代文字を呼んだエリンティアの言葉を聞くと‥‥フィーナはぽい、と地図を投げ捨てると二枚の肖像の前に立った。絵の人物と視線を合わせ、周囲を調べた彼女は
「リルさん、ちょっと来て下さい」
 とリルを招きよせた。
 彼女に呼ばれて良い事は無いとリルは解っている。
 先の白い粉に塗れた一件が脳裏を過ぎるが、依頼人でもある彼女の願いを断れる筈もなかった。
「もうどうにでもなれ、だ! 何をすればいい?」
「この肖像画を思いっきり引っ張って下さい」
「引っ張る? 壁を?」
 不思議に思いながらもリルは言われるまま壁に手をかけた。隙間に手を入れると確かに壁は動く。
「マナウスさんはそちらの男性の絵を。二人一緒に、どうぞ!」
「1」「2」「3!!」
 声を合わせ二人が壁の絵を強く前に引き寄せた。
 瞬間。壁の絵が端の回転し扉のように開く。男女の視線が合った時。冒険者は知った。
 最後の道が開かれた事を。
 
 絵の裏に隠された通路は、さらに地下に向けて真っ直ぐに伸びる。
「これは‥‥最後の試練という事ですね」
 歴戦の冒険者達はその先に待つ何かの気配に、静かにその身を振るわせたのであった。