【黙示録】迷惑な宴会

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月03日〜12月08日

リプレイ公開日:2008年12月10日

●オープニング

 ――これは、或る森でモンスター退治の依頼を受けた冒険者の軌跡である。
「これで最後だ! そっちは片付いたか?」
 最後の1体を切り伏せたファイターは、仲間に状況を促した。
「こっちも完了した。所詮は雑魚、この程度の相手に‥‥ん? どうした?」
 剣を収めながら答えたナイトは、怪訝な色を浮かべる。瞳に映るのは、指輪を見つめ戸惑う若いクレリックだ。
「蝶が羽ばたいていますッ」
「蝶って、デビルがいるのか!? 魔法は!?」
 ナイトは静かに首を横に振る。経験も浅いパーティーはデビル対策を失念していたらしい。
 尤も、今回の依頼はモンスター退治。襲って来なければ問題はない。
「近づいていますッ。どんどん激しくなって‥‥ッ!?」
 刹那、冒険者達は何かの夥しい気配が通り過ぎたように感じた。
 沈黙と困惑に彩られる中、クレリックが安堵の溜息を洩らす。
「行ってしまったようです‥‥」
「行った‥‥って軽く無視かよ」
 彼等は気配が去った北の空を見つめた――――。

 最近、こんなデビルの目撃例が各地から報告されている。
 それに伴いデビル退治の依頼も多く出されていた。
 その日、近くの村からの来訪者から出された依頼も、そんな依頼の一つである。
「うちの村を助けて下さい!」
 やってきたのは親子。近くの村で農場を営む一家であるという。
 チリン。
 係員はふと、首を捻った。
 小さな鈴の音。それは、少年が握り締めていた赤いリボンからのものであると気付いた時、父親である男性は頭を下げた。
「どうか、お力をお貸し下さい。うちの村に今、デビルの集団が居座っているのです!」
「デビルの‥‥集団?」
 冒険者ギルドの中に緊張が走る。だが、話を聞くうちに徐々に緊張は薄まっていく。
 村にいるというデビルは殆どが背中にコウモリの羽を生やした鉛色の小鬼。
 数匹毛むくじゃらな爪の長い悪魔もいるという。
「なんだ。インプとグレムリンか‥‥」
 最近デビルの目撃情報が増えている。昔に比べてその数も質も凶悪化している事を考えるとインプやグレムリンなどはそれほど脅威でもない。
 係員はホッと胸を撫で下ろすが
「なんだ、なんて言わないで下さい! 私達の村にとっては死活問題なんです!」
 男性は遠慮もなく声を荒げ、カウンターを大きく叩いた。
 これについては係員も失言だったと謝罪し、改めて依頼を受理する。
 退治して欲しいでデビルはインプとグレムリン合わせて10匹強。
 今までデビルなど現れた事のなかった穏やかな村に、彼らは突然現れて居座ってしまった。
 小さな農場の一つに腰をすえ、毎日食っちゃ寝、食っちゃ寝。夜になれば物置を壊してビールを盗み出しては大宴会だという。
「夏の麦でできたビールがそろそろ飲み頃でした。冬の蓄えとして貯蔵していたのですが、それの匂いをかぎつけたのかもしれません」
 悔しそうに男は手を握り締める。
 デビルが毎日のように飲み食いする食べ物、飲み物は冬の為に彼らが必死に働いて蓄えたものなのだ。
「それに‥‥奴らは農場の動物達にも手を出しています。卵を取る為の鶏、綿羊もお構いなしです。それを止め様とした牧羊犬は‥‥食い殺されてしまいました。この子の‥‥大事な友達だったのに」
 チリン。また鈴の音。
 リボンとそれを握り締める手に雫が、ぽたぽたと垂れる。
「最近は私の家だけではなく、村全体に被害が及んでいます。このままでは村全体が奴らのせいで冬を越せなくなってしまうでしょう」
 お願いです。男はそう言って頭を下げた。
「デビルを村から追い払って下さい。お金は‥‥あまり出せませんが‥‥どうか、お願いします」
 男の横で少年も頭を下げる。
 カウンターにリボンごと、小さな銀の鈴を置いて‥‥。

 チリン。
 銀の鈴が小さく、揺れてまた鳴っていた。
 


 

●今回の参加者

 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec4989 ヨーコ・オールビー(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

クァイ・エーフォメンス(eb7692

●リプレイ本文

●迷惑な宴会
 12月の風。しかも夜風は思ったより冷たい。
 広々とした農場も、牧場も閑散として静かに冬を雪を待つばかりであった。
 本来であるならば。
 だが、今は少し様子が違っている。
 ここからも聞こえる甲高い声。
「あー。あれがデビル連中やね? お〜お〜。随分楽しそうにやっとるね?」
 どんちゃかどんちゃか。
 楽しげに踊り、騒ぐデビルを木陰から見つめたヨーコ・オールビー(ec4989)は愛犬の頭を撫でながら言った。
「確かにな。あんなに大騒ぎするなんて、デビルってのは、ほんっとに人の迷惑を考えんやっちゃ。困ったもんやね」
 ヨーコと藤村凪(eb3310)はどこか楽しげでどこか良く似た独特のイントネーションの言葉で話す。無論、目は周囲を把握しながら。
 農場の木立の下に陣取ってデビル達は夜更けだというのに大騒ぎをしていた。
 食べているのはおそらく肉とそれからエール。
 周囲には骨や食べかすが散乱している。リンゴの芯も転がっていた。
 彼らの場所からは扉が壊された納屋も見える。
 あの食料を蓄えるのにどれほど家族が手間をかけたかなど、デビルに言っても無駄ではあろう。
 そっと二人はその場を離れる。
「これは‥‥」
 足元に打ち捨てられていた牛や、羊より小さな動物の骨をそっと拾い上げて。

「あ、お帰りなさい‥‥」
 戻ってきた二人をエスナ・ウォルター(eb0752)は仕事と準備の手を止めて出迎えた。
「ただいま。ヴィタリーさんと孔宣さんは?」
 凪の問いにエスナは答える。
 ヴィタリー・チャイカ(ec5023)は村の人々に外出禁止の協力を、妙道院孔宣(ec5511)は台所で作戦の為に必要なものを揃えていると。
「どうですか? そちらの方は?」
 エスナの問いに二人は見てきた事を寸分洩らさず報告する。そして強い思いで告げた。
「ほんま、早いとこ片付けんとあかんわ」
「準備の方はどない? 明日の朝にはなんとかなるやろか?」
 と。
「勿論‥‥です。早くやっつけてあげましょう」
「本当に、やっつけられる?」
「えっ?」
 エスナは真後ろから聞こえてきた声に慌てて振り向いた。
 そこには
「リュンくん」
 一人の少年が立っていた。彼はリュン。この農場の息子だ。
 大事な友達であり、家族だった愛犬を殺されたショックから暫く口をきく事が無かったと父親が言っていた少年。
 だから戻ってきたヴィタリーや孔宣も驚いた顔で、少年を見つめる。
 彼は本当に、瞳に涙をいっぱい溜め縋る目で冒険者を見つめているのだ。
「大丈夫やって、向こうでも言うたやろ?」
 膝を折り凪は微笑みかける。
「絶対悪魔から村を取り返したる。安心してーな? そない泣いてばかりやと天に居る友達が心配するよー? ほれ、涙を拭いて」
 ハンカチを取り出そうとした凪の横でぺろん。突然一匹のコリー犬が少年の頬を舐めた。
「わっ?」
 驚いたように身を竦ませる少年。犬は少年の涙を拭うと主の下へ戻っていく。
「この犬はな、テオ言うんや。うちの大事な友達や」
 明るくヨーコは笑い、少年の頭をくしゅくしゅと撫でて笑う。
「ボンの友達は立派やったな。安心し。うちら冒険者とこいつがな、ボンの友達に代わって、村から一匹残らずデビルらを叩き出したる」
「ああ、だから安心しておやすみ。目が覚めた頃には全てうまくいってるからな」
 目線を合わせて会話してくれる冒険者達。
 リュンは安心したように息を吐き出すとヴィタリーの言葉と、冒険者達の眼差しに
「うん‥‥おねがいします」
 精一杯の思いと願いを込めて頭を下げたのだった。
 
●取立人現る?
 空を覆っていた黒のベールが徐々に剥がれていく。
 漆黒から、黒へ、そして濃い紫へと徐々に明るくなっていく空気の中で一晩中暴れ騒いでいたデビル達も徐々にその動きを緩めていた。
 酒に酔ったように頭を振り回す者、大きく欠伸をしてふらふらと枯草の上に大の字になるものと様々である。
 そろそろ夜の宴会もお開きとなろうとしたその時、
『キキュ?』
 デビル達の何人かが首を傾げるように鼻をひくつかせた。
 臭いがする。
 嗅いだ事の滅多に無い、だが食欲をそそる塩の香りが牧場の方から漂ってきていたのだ。
『キキッ?』『キウ?』
 興味をもったのだろうか? 何匹かのデビルが寄って来ている。
 程なく彼らは嬉しそうに声を上げた。
 沢山の食べ物がそこに並べてあったのだ。保存食や手作り料理がいろいろ。大きな魚まで置いてある。
『キュキュウ!』
 仲間に向けて呼び声を上げると、さっそく食べようと手を伸ばすデビル。
 だが、その手は永遠に食べ物を掴む事ができなかった。
『ウギャア!!』
 手を上げたデビルは声を上げる。その手には深々と光の矢が刺さっていた。
 周囲のデビル達が動揺しざわめく。
 それが合図だった。影から隠れていた人間。
 冒険者達が躍り出る。
「始まりや! さあ、さんざ飲み倒した分の、お代の取り立てに来たで!」
 完全に油断しきっていたデビル達の頭上に彼らにとっての災厄が今、降りかかろうとしていた。 
 
●神の無慈悲
 戦いの中クァイ・エーフォメンスが言っていた事を薙刀を振るいながら孔宣は思い出していた。
『今回のデビルは欲望しか頭にない相手でしょうから、一匹倒したらおとなしく逃げる、という事はないと思います。
残らず退治するのがお勧めです』
「デビルには神の慈悲は伝わらぬ、という事ですね。‥‥鏡月!」
 守りを無視したスマッシュは勢いに任せて攻撃してくるだけのデビル達を次々に一蹴していく。
 自分より実力者が多いとは言え、魔法使い達は接近戦には向かない。
 後方にいるエスナには一歩も近づけないという気迫さえ見て取れた。
 それに答えるようにエスナも手加減無しの魔法を群れに叩き込む。
「‥‥あの子の思いを知りなさい! アイスブリザード!」
 どんな厳寒の風より冷たい氷はデビル達の足を止める。その隙を逃さず
「逃がさへんで!」
 凪はデビルの中へと斬り込んで行った。
「よっ! とお〜」
 右手の十手で受けたデビルの爪。その勢いを殺さずに逆に左の小太刀で相手に返す。
 動きの鈍っていたデビルはそれだけで大地に落ちていった。
「ふ〜。これで、全部かいな?」
 凪と孔宣が持っていた刃を下に向けたのは戦闘が始まって半刻ほど。
 周囲からデビルの姿が消えてからの事だった。
 太陽も完全に姿を現し、残っているのはデビルの死骸だけ。
 だが‥‥一人、ヴィタリーはまだ緊張を崩してはいなかった。
 指輪を押さえる彼。その意味に気付き、冒険者達もまた身構え周囲を見回した。
 デビルの姿は確かにない。けれど‥‥ヨーコの犬がある方向に視線を向ける。
 そして目を閉じていたヴィタリーが大きく声をあげた。
「凪君! 後ろだ!」
 振り返りざま凪は地面を蹴り、前へと飛び込む。
 間一髪でデビルの爪と思しきものは空を掻いた音だけを残しまた消えようとしている。
「させへんで! ムーンアロー! そこに隠れとるデビル!」
 金の矢がヨーコの手から真っ直ぐに何も無い空間に突き刺さった。
『ぎぎゃああ!!』
 姿を現したのはグレムリン。痛みにのた打ち回るデビル。だが、冒険者は容赦はしなかった。
「あんたを逃がせば、まーた、どっかで悪さする。悪いけど逃がすわけにはいかんのや」
 十手を首元にあてる凪。
「リュン君のような悲しい子を出したくないんです」
「どーかん。ボンと約束したしな」
 エスナとヨーコも手を伸ばし、
「御仏もお許しにはなりません。せめてその苦しみから解き放ってあげましょう」
 すらりと薙刀を孔宣は眼前に指し出し強い眼差しで言い放った。
 必死の形相で周囲を見回すデビル。だが最期に見たヴィタリーの眼差しに彼は絶望を見つけたようだった。
「平穏な生活を、ある日突然打ち切られる絶望と恐怖。
 暗い波を、絶望と恐怖を俺は憎む。
 神よ‥‥。どうぞお力を‥‥」
 そのデビルの瞳に最期に移った光は何色であったかは解らない。
 だが、地上に魔法の光が弾けた後、太陽が照らした農場に暗い影は、もうどこにも存在しなかった。

●小さな誓い
「これで‥‥いいでしょうか?」
 エスナは布で丁寧に結んだ十字架をヴィタリーに差し出した。
 彼は頷きそれを受け取ると地面に静かに立てた。
 凪達が見つけた犬の骨が埋められた墓標の前にはいくつかの食べ物と飲み物が捧げられている。
「冬でなければ花でも供えてやれたんやけどなあ〜」
「そうやね‥‥ほれ、テオ。これ」
 ヨーコに言われてコリー犬は膝を付く少年の隣に肉のついた骨をそっと置いた。
 村を襲ったデビルが消え、冒険者達は歓待を受けた。
 報酬はそれほど多くは無かったけれど、食べ物飲み物は、村中からの感謝の気持ちで使用した分以上に補充された。
 だが、彼らはそれ以上の感謝を断りここにいる。
 被害を受けた家族の農場の後を片付け、余剰の保存食を持ち込み‥‥そして小さな葬儀に参加する為に。
「家族を守りし勇敢な魂よ。大いなる神の身元でいつか見えん‥‥」
「宗派は異なりますが御赦しを。尊き魂よ、安らかに‥‥」
 二人の神職の祈りの後に続いてリュンと両親、そして冒険者も手を合わせて祈る。
「どうか‥‥安らかに」
 と。
「ほら、泣いたらあかんていうたやろ。あんたの相棒が心配するで」
「君の大事な家族は君の思い出の中でずっと生きているよ。精一杯生きなさい。それが一番の祈りだろう」
 冒険者の言葉にリュンは
「うん! 僕、もう泣かない。僕が強くなって今度は皆を守るから」
 顔を上げて立ち上がり強く誓った。
 十字架に結び付けられた銀の鈴は‥‥チリン。
 美しく歌う。彼の思いに答えるかのように。

 何故、デビルがこの村に現れたのか、冒険者が調べてもそれは解らなかった。
 だがここから少し離れた空をデビルが飛ぶのを見た者がいた。
 黒い影は真っ直ぐに、北へ向けて飛んでいったという。
 それが意味する事を村人は知ることは無かったけれど‥‥。