【黙示録】宝島の夢
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月24日〜02月03日
リプレイ公開日:2009年01月29日
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●オープニング
海は荒れ、闇は蠢く。
『まだだ。まだまだ、これからだ‥‥』
イギリスのみならず全世界に広がりつつある瘴気を感じたのか『彼』は空を見上げ呟いた。
『待っているがいい。お楽しみはこれからだ。‥‥お前の大事な者達も迎えてやろう。闇の賓客としてな』
『彼』はそう言って楽しげに笑う。
暗闇の奥の何かに向かって‥‥。
新年が明け、公現祭が終われば冬の休みも完全に終わる。
けれど、王宮に、冒険者に、そして北海に休みなどは実は無かった。
「北の海が再び荒れ始めています。デビルがまた多く、目撃されるようになってきたのです」
王城からの使者が係員に伝えるのと、ほぼ時同じくして、北海からはまたデビル襲来による退治や、調査の依頼が多く舞い込んできていた。
「これらの依頼に参加される方々に、依頼を追加したいと言うのが我が主の仰せです」
若い騎士は依頼書を差し出しながら告げる。
依頼主はパーシ・ヴァル。
依頼内容は先の時と同じ『船長』の捜索である。
「ご存知の方も多いことですので、もう隠しませんが今回の北海でのデビル騒動の影に常に一人の『人間』の姿があると言われています。その人物は『船長』と呼ばれている初老の男性。円卓の騎士パーシ・ヴァル様にとってかの方は身内同然なのだそうです」
その人物はデビルの出現や陰謀の表裏に常に存在し、人々を苦しめているという。自らをデビル。『海の王』であると名乗って‥‥。
「『船長』を発見した場合、可能な限り確保して欲しい。それが難しければ何らかの情報を。それがパーシ様からの依頼です」
デビルを指揮する者。
その正体が人であれ、デビルであれ発見し、会話し、可能であれば捕らえれば解る事がある筈だ。
「現在、パーシ様は城を動く事が叶いません。ですが、表に出さずとも家族を心配なさっているお気持ちはお持ちの筈。どうか、よろしくお願いします‥‥」
頭を下げた騎士の背後に見えた思いを係員は差し出された報酬と依頼書と共に受け取った。
「この手紙は子供からだな‥‥」
係員はシフール便が届けた手紙を見ながら呟いた。
『冒険者さんへ。おねがいがあります』
そう書き出された手紙には、この手紙の差出人である少年が例の『船長』と知り合いであったこと。
『船長』がデビルという噂が流れるに従い、子供なりに少年が悩んでいる事が書かれていた。
『僕は、船長さんが好きです。でも、船長さんは突然いなくなってしまいました。皆が船長さんがデビルだと言います。僕は、信じたくありません。それで、思い出しました。船長さんが、前にいろいろなお話をしてくれた時、「宝物があるんだよ」と教えてくれた場所があったことを』
「『船長』の宝?」
読み進んだ係員が手を止める。場所はメルドンから見える近い小さな島。
島、というより隆起した岩山に木が生えた程度のものだが自分も船乗りになりたいと語った少年に『船長』はあそこには素晴らしい海の宝があるのだと語ったのだとある。
「いつか大人になったらあそこの島に船をつけて一晩を過ごしてご覧。そうすれば君は素晴らしい宝を見る事ができるだろう」
船長の宝とはなんだろうと、少年は小舟で近づこうとしてみた。
だが、海の怪物に襲われて、近づく事が出来なかったという。
『僕は船長さんがいい人だと、信じたいと思います。だから、船長さんの宝物を見つけて皆に見せたいです。どうか力を貸して下さい』
添えられた報酬は、この子供のお小遣いなのだろう。
本当に微々たるもの。
だが小島にいるという敵は、手紙を見る限り下級のデビルとブルーマンと見られ、数もそれほど多くないようだし、ちゃんと用意をしていれば冒険者が負けることは無いだろう。
船長という人物が宝と呼ぶのは一体何なのか?
『船長』のひととなりを知る手がかりになるかもしれない。
何より、宝島。
そんなフレーズは男の胸を振るわせるものだ。
「誰か受けてくれる人がいるといいな」
依頼は貼り出された。
小さな願いと共に。
●リプレイ本文
○少年の旅立ち
漁師の子として生まれ、この海と街で育ってきた。
少年にとって海とは目の前に広がる場所。それが全てであった。
この海で、いずれ親の跡を継ぎ、漁師になる事を約束されていた少年が、それ以上の夢を見たのは一人の男性との出会いからであったという。
貿易船の船長である彼は、仕事の合間、子供達に教えてくれた。
海は、目の前に見えるものが全てではない。
あの水平線の向こうにも海は広がり、その先にはここと同じように人の住まう国があるのだと。
「僕も、船乗りになりたい!」
目を輝かせて少年はそう言った。
「お前さんは漁師になるんじゃなかったのか?」
「漁やこの海は大好きだけど、僕、もっともっと広い海を見て見たいんだ。まだ、見たことの無い海を!」
そう言った少年に彼は、優しく笑い、大きな手を少年の頭に乗せた。
「そうか。それじゃあ、お前に俺のとっておきの宝の秘密を教えてやろう」
「とっておきの‥‥宝?」
首を傾げた少年に、彼はある小島を指差して言ったという。
「そうだ。いつかあの小島で一晩を過ごしてごらん。きっとお前さんなら、宝を見つけられる筈だ。素晴らしい宝がな。その宝を見てから決めるといい。君の生きる海を‥‥」
「ふ〜ん、ええ事言うわ。その船長さん」
荷物の整理をしていたジルベール・ダリエ(ec5609)は、そう言って少年に微笑んだ。
「ええ。自分の生きる海は自分で決めなさい。ですか。とても素晴らしい言葉だと私も思います」
少し感動したようにラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)も頷く。
そんな冒険者達の様子に少年カシムは嬉しそうに笑う。
「だろ? 船長さんは本当にかっこいい海の男なんだ。大津波の前からこの街の皆はいっぱい助けられたし、世話になってたんだよ。それなのに急に悪口言い始めてさ‥‥」
俯くカシム。さっきまでのやり取りを思い出したのだろう。
冒険者がやってきて、依頼の話をした時、彼の両親は驚いていた。
少年は両親に依頼の話をしていなかったようなのだ。
当然近くの小島とはいえ、夜に泊まりに行く事は反対された。
デビルも出るし、夜の海、夜の孤島。何が起きるか解らない。
「それに、あの島には何度行っただろう? 何も無い、岩山だけの島だぞ!」
「だって、船長さんは言ったんだ! あの島には宝があるって!」
「デビルの船長のいう事など信じるのか? 絶対にダメだ!」
半ば取っ組み合いの大喧嘩になりかけたところを母親と、
「まあまあ、落ち着いて」
「話を聞いてあげてよ。『彼』が行かないと意味が無いんだから」
マール・コンバラリア(ec4461)やチュチュ・ルナパレス(ea9335)のとりなしもあってやっと、出発と舟の使用許可が出たのだ。
「宝島は男の永遠のロマンやものな。さ、少年、おにーさんらと宝探しに出発や。安心し。俺らがついてるで」
「うん! ありがとう」
ジルベールの言葉に微笑み海を見つめる少年の遠い後ろでは、両親が静かに冒険者に頭を下げていた。
○それぞれの役割
カシムはなかなか巧みに舟を操っている。
近場の漁に使う小舟とはいえ、大したものだ。とジルベールはお世辞無しにそう思う。
「ちっちゃくても立派な海の男やな」
「えへへ」
褒められ、嬉しそうに笑う少年。
だが、冒険者達の表情に笑顔は、今は消えていた。
「‥‥ジルベールさま?」
「ああ、解っとる。ラヴィちゃん。‥‥この子を頼むな」
「はい」
「?」
目で会話する二人の行動と言葉の意味が解らず瞬きする少年の背中でマールは声をかける。
「ほら! ボーっとしていないで! 舟を進めて。心配はいらないから」
「心配‥‥って、わあああっ!」
少年にとっては突然、目の前に現れたそれに驚きの悲鳴があがる。
だが、冒険者には予想されていた事だ。海を彷徨うブルーマン。そしてデビルの出現は。
「数は‥‥1〜2匹やな。今は、無理せず突破するで」
「了解。今は舟を進めるのが肝心よね。絶対! 島に着かなきゃならないの!」
船尾と船首にジルベールとチュチュが立ち、生命を憎むかのように襲ってくるモンスターを退治する。
「カシムさま!」
呆然とする少年の手をラヴィサフィア、ラヴィは強く握る。
「えっ‥‥あっ!」
「海の上での戦いは不利ですし、危険です。舟を進めてください。大丈夫。皆さんを信じて」
「は、はい!!」
少年は改めて櫂を握りなおすと船を進める。
二人を背後から援護するマール。そして何があろうと少年を守ると強い眼差しで敵を見つめるジルベールとチュチュ。
彼らは嬉しそうに頼もしそうに彼らに笑いかけると
「よーし。島まであと少しや」
「舟には近づけさせません!」
ブルーマンは矢に射抜かれ、インプは魔法に眠らされ羽ばたきを止め海に落ちる。
懸命に櫂を繰る少年の願い。
それは冒険者達の援けを経て、やがて叶う事となる。
宝島の上陸と‥‥宝の発見と言う形で。
○深夜の戦い。そして‥‥
深夜。
冒険者達は見通しのいい場所にキャンプを張った。
「ここが僅かに人の痕跡があった所だからね」
チュチュはラヴィと調べた島の様子を思い出しながら、右は海、左は岩場。
見たところ何も無いようだが何故、ここに古い竈の跡があったのか‥‥。
「朝になれば解るかな? 何も無いとちょっと気の毒だよね」
ちらりと後ろを見る。そこには子狼と、小瓶を抱きしめて眠るカシムの姿があった。
カシムの親が持たせてマールが作ったホットワインの効果で、きっと朝まで何事も無ければ目覚めまい。
「何も無いっちゅーことはないと思うで。あれだけあの子が信じる人や」
ジルベールは火を見つめながら答える。
少年が眠るまで冒険者達は彼から船長の話を聞かされた。
優しさと男気に溢れた船長の話を聞くに付け、今は会った事も無いのに不思議な親近感さえ湧いている。
「宝は、船長があの子に見せたいと思ったものはきっとある。だから‥‥守るで。絶対」
ちらりと手と、チュチュの目を見たジルベールの様子にチュチュは頷き立ち上がる。
罠の音も、石や貝を踏む音もしない。だが確かに近づいて来る存在がある。
灯りを掲げ彼女は星の美しい空を見上げた。
ジルベールはラヴィとマールを起し、少年も目覚めさせる。
「絶対にラヴィさんの側から離れたらアカンで。敵に手出してもアカン」
寝ぼけ眼だった少年は、ジルベールの言葉に状況を察し
「でも!」
と身体を起す。少年の思い。それをジルベールは指で制し微笑んだ。
「でも、ホンマにピンチの時は俺らを大声で呼んで、これを敵にぶちまけるんや。男やから出来るやんな?」
差し出された瓶と、思いの意味を知りカシムは頷く。
「うん!」
会話は実質数十秒の事。だが、その頃にはもう戦端は開かれていた。
「ジルベールさま! 上です」
「レイオス。その子を守って!」
冒険者達は上空より襲ってきたデビルとの戦いに入る。
風鐸の音に守られブルーマンは‥‥入って来ない。
守るべき者と
「〜老船乗りが少年に託せし宝
試される一晩の勇気
誰も邪魔をしてはならぬ
悪夢を退け覚ましても
少年は夢を見なければならぬ〜♪」
自分達を意気立たせる歌と共に‥‥。
そして、夜明け。
勝利で終わった戦いの後、冒険者達は見たのである。
一面に広がる黄金を‥‥。
○海と太陽の導き
キャンプを張った場所の直ぐ横に夜明けと干潮と共に小さな道が出来ているのを発見したのはマールだった。
「そこが宝の隠し場所かもしれないよ」
横に波立つ道を彼らはそっと歩き、奥へと踏み込んでいった。
一本道は程なく突き当たる。岩場の頭上からの水の流れがあるが、他には何も無い。
突き当たった岩に触れながらジルベールはそこに特別な仕掛けは無い事を確認した。
「真水‥‥やな。これが宝なのか‥‥?」
ふと彼の指が、壁が不思議な光を、輝きを帯びる。
「えっ?」
冒険者達は振り向いた。
そして、次の瞬間、言葉を失ったのだ。
洞窟の丁度先から上る太陽の光が、一筋の道筋を作っている。
冒険者達は駆け出した。
そしてそこに見たのだ。
水平線の先から上りだした太陽が、始めは小さく、そして徐々にその光を水面に反射させていく。
金色の道はやがて黄金の野となって冒険者達を包み込む。
それは、まるで冒険者に海と太陽が、道を指し示すかのようで‥‥。
「キレイ‥‥」
「この世のものとは思えない‥‥」
冒険者達は暫し立ちつくしていた。
ふと、ラヴィは自分を見送ってくれたリース・フォードの言葉を思い出す。
『宝物はきっと‥‥形あるものではないと思うよ』
「本当でした。リースさま」
ラヴィは目の前の光景を目と心に焼き付ける。
「きっとこれが、船長の宝や。‥‥キレイやな。‥‥ラヴィちゃん」
無言の少年と、仲間と隣に立つ人と共に。
「彼は、どちらの道を選ぶのでしょうか?」
帰路、手の中のコインを見つめた後、同じ馬の手綱を握るジルベールにラヴィは問うた。
「さあて、それは解らん。漁師か、それとも船乗りか‥‥選ぶのはあの子や」
ジルベールは肩を竦めるが正直心配はしていない。彼の懐には貰った彼の宝物の感触がある。
少年は島で見た事を話すだろう。それを信じてもらえるかは解らない。
「でも大丈夫。あの子は強い。きっとどんな道でも真っ直ぐ進んでいくやろ」
深夜の戦いで約束を果たし、光の導きを受けたあの子ならきっと‥‥。
「そうですね‥‥」
「いい歌ができそうね」
ハミングを口ずさむチュチュと、ラヴィ、ジルベールの馬の間を飛んだ後、マールは空の高みからもう一度海を見つめた。
いつもと変わらぬ海。
当たり前のようにあるもの。
だが、その大切さを知り、輝きを知る人物なら
「船長さんは、きっと悪い人ではないわね。悪い事をしているとしたらきっとさせている人物がいる筈」
それが誰か今の彼らには解らないが‥‥。
海は全てを見守るように今も静かに輝いていた。