【となりのだれか】世界一のパートナー

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月09日〜02月12日

リプレイ公開日:2009年02月17日

●オープニング

 彼女はちくちくと、慣れない手で何かを縫っていた。
「あいたっ! また、針指しちゃった」
 指を舐める少女。その手には白い包帯がいっぱいである。
「手伝いましょうか?」
 見かねた裁縫指導のシスターが声をかけるが、少女はううん、と首を横に振りテーブルに乗せたもの見る。
 それは布で大事そうに包まれた卵であった。
「大丈夫。自分でやる。だってこの卵の私はおかあさんだもの」
 誇らしげに言う少女に、シスターは微笑んで
「じゃあ頑張りましょう。あと少しよ。ここをリボンに縫ってね」
 裁縫の指導を続けた。
「はい! あ、‥‥でも、いつ孵るのかなあ? 孵ったら‥‥どうしたらいいんだろう? あっ!」
「こら! よそ見しない!」 

 北の海の不思議な沈黙の最中、その少女は変わった格好で現れた。
「おや、君は」
 係員は楽しげな声と笑顔で彼女を迎える。
 その少女はこの冒険者ギルドではいろいろな意味で有名人なのである。
 ちなみに、変わった格好である、と言っても着ぐるみを着たりしているわけではないし、ド派手なドレスを着ているわけでもない。
 地味なシスターの衣装に彼女は、卵を持っているのだ。
 赤ん坊を背負うような紐と布で作った小さな袋で大事そうに前抱きにしている。
「こんにちわ。ちょっとお願いがあるんだけど‥‥いい?」
「お願い? なんだい?」
 躊躇いがちな少女に係員は問いかける。
「あのね。この卵をね、大事なお兄ちゃんにもらったの。私がね、この子のお母さんなんだって」
 この少女は父親が忙しく滅多に家に帰ることがない。
 決して嫌われているとか愛されていないとかではないが、それでも寂しい少女に冒険者の一人が卵を与えたのは先月の誕生日の事であった筈だ。
「それから、ずっとこうして持ってるんだけど、まだ全然動いたり、生まれたりしてないの」
「貰ってまだ一ヶ月だろう? それは仕方ないさ」
「うん、それは解るんだけど、私ね、ペットって初めてだから、ペットってどんな風にしたらいいのかとか、解らないの。だから、冒険者のお兄ちゃんやお姉ちゃんに、教えて欲しいの。ペットってどんなのか」
 冒険者は皆、ペットを飼っているんでしょ。と続けた少女に
「なるほどね」
 係員は苦笑に近い表情で頷いた。
 確かに最近の冒険者の多くは何らかの形でペットを飼っている者が多い。
 冒険者街は魔境か、牧場か、と言われるほど、少し歩けば変わったペット達に出会える。
 最近はそれを目当ての観光者さえいるとかいないとか‥‥。
「それにね。教会のとか、最近知り合った友達とかね、ペットとか見たこと無い人が多いの。だから、冒険者のお兄ちゃん、お姉ちゃん達にいろんなペットさん、見せてもらえないかなあって」
 場所は少女の家の庭。
 かなり広いので多少大きな動物でも大丈夫、と言う。
「あ、でも、あんまり怖いのは止めてね。うんとちっちゃい子もいるから‥‥」
 報酬は本当に微々たるもの。
 これではペットの餌代にもなるかならないか‥‥。
 でも‥‥
「お父さんが前に言ってた。ペットって家族の一員なんだぞって。お兄ちゃんや、お姉ちゃん達の自慢の『かぞく』を見せて」

 依頼を受理した係員は、ふと、友達が言っていたある言葉を思い出した。
『猫好きは皆、自分の猫が世界一可愛いと思ってるんだ』
 彼はそう言って、自分の愛猫を見せびらかしてくれたっけ。
 それはきっと、猫だけに限らない。
 誰でも自分のペットが世界一。
 そんなペットの自慢会というのも面白いかもしれない。
 自分も覗きに行ってみようかな、などと思いながら彼は依頼書を貼り出した。

『自慢のペットを見せて下さい!』
 そう書かれた依頼を。

●今回の参加者

 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

○夢との出会い
 幸い、と言っていいのか。多分いいだろう。
 その日の空はどこまでも澄み切ったように青。
 風もなく太陽が静かに、だが優しく空で笑っている。
 二月とは思えない小春日和のその日。
 子供達は朝、目覚めた時からワクワクとした期待にその瞳を輝かせていた。
「俺、妖精見て見たいな」
「私ね。大きなお馬さんに乗りたいの♪ 仲良く‥‥なれるかな?」
 ある母親は、昨日の晩から楽しみにして眠れなかったようだ。と知り合いに話す。
 円卓の騎士の娘、ヴィアンカ・ヴァルが主催した
『動物といっぱい遊ぶ会』
 はもうじき開催されようとしている。
 ヴィアンカは庭に集まった子供達に飲み物を渡したり、掃除をしたりと大忙しだ。
 胸に大事そうに卵を抱いたまま
「えっと‥‥、皆が座る場所を用意して‥‥それから‥‥?」
 かいがいしく働く。
「ねえねえ、ヴィアンカ。どんなどうぶつさんとあえるの?」
 ヴィアンカの服の端をくいくいと引っ張る子がいる。
 まだ5〜6歳というところだろうか?
 小さい少女にヴィアンカは膝を折り、目線を合わせて微笑む。
「それは、見てのお楽しみ。きっとステキな動物さんがいっぱい来るよ‥‥。あ、ほら来た!」
 ヴィアンカが良く知った気配に空を見上げる。
 透き通った青空を気持ち良さそうに滑空する一羽の鷹が‥‥
「うわあ〜っ!」
 子供達が歓声を上げた次の瞬間。
 今度は彼らの目の前を一面の薔薇吹雪が舞う。
「れでぃーす&、じぇんとるまん! 良い子の皆。元気にしてるかなでござるぅ〜〜」
「ええっ?」
 ピンク、赤、黄色、白、紫。
 舞い散る幻の花びらの中。今度は変な物体が歩いてくる?
「麗しき薔薇を口に
 麗しいバラの花吹雪の中を
 麗しい まるごとわんこ を纏い
 麗しくゆったりあるく、麗しいモアに乗り
 麗しい忍者の、ゲンちゃん。麗しく登場!」
 カッコよくポーズを決めてモアから飛び降りた忍者だが‥‥
「はいはい。そこまでにしておいて下さいねぇ〜。子供さんたちが怯えてしまうですぅ〜」
 絶妙のタイミングで突っ込みを入れた優しい目の男性に、足元を払われ‥‥ズベンと転ぶ。
「いた、いててて‥‥、怯えるってそんなに拙者の登場変ではござらぬよな。のう? 芭蕉?」
 ほこりを払いながら立ち上がった忍者は、横の猫(?)に声をかけ、猫ははあ、と深い溜息をつき肩を竦めるように手を広げた。
「すっげええ〜〜〜! 猫が立ってる!」
「あ〜。こっちの鳥さんも立ってるよ〜」
 驚きに身動きできなかった子供達の目が嬉しさに輝く。
「掴みはバッチリだったようですわ。ご苦労様です。幻蔵様」
 くすくすと微笑むシスターに、騎士や魔法使い達も現れ、彼らと彼らの連れたペットに子供達は歓声をあげる。
「それじゃあ、冒険者の皆も来たし物といっぱい遊ぶ会。はじめまあす!!」
 ヴィアンカの宣言と共に円卓の騎士パーシ・ヴァルの庭は、楽しい夢の広場に変わったのだった。 

○見知った動物
「まずはお約束をして下さい」
 集まった子供達の前に立ってクリステル・シャルダン(eb3862)とシルヴィア・クロスロード(eb3671)は優しく話しかける。
 子供達は綺麗なお姉さんのいう事は比較的良く聞く。
 不思議なもので男の子も女の子も。だから子供達は一人も動かず、騒がず話を聞いている。
「ここに冒険者の皆さんが連れてきたペット達がいます。みんな、とてもいい子達ですが、それでも傷つけたりすると思いもかけない行動に出る可能性もありますわ。だから皆さんは静かに、そして優しく話しかけてあげて下さいね」
「怒らせるようなイタズラはしないこと。それから寒くないようにちゃんとお洋服は着て下さい。ペットさん達が引っかからないように気をつけて。いいですか?」
「はーい!」
 子供達は素直に手を上に上げる。何も言わないで後でトラブルになるよりは最初にちゃんと教えておいた方がいい。
「はい。いい返事です。じゃあ‥‥これから動物さん達に登場して貰います。最初はそこで見ていて下さいね。後で、近くに寄って一緒に遊べますから。いいですね〜」
「はーい!!」
 もう一度子供達の手が真っ直ぐに上に上がった。
 子供達と友の様子にリースフィア・エルスリード(eb2745)は微笑しながら拍手のように手を叩く。
「ケンブリッジの先生になれますよ。お二人とも‥‥」
「いや、どっちかと言うといいんちょ‥‥」
「もう、茶化さないで下さいよ‥‥。そう言うわけなので、皆さんお願いします」
 少し照れた顔のシルヴィアに促され、冒険者達は自慢のペットと共に膝を抱えて座る子供達の前に立つ事となった。
 本当にちょっとした野外授業である。
「それじゃあ、最初はキットさんからお願いします」
「俺?」
「一匹ですし、一番わかりやすいペットですからね」
 突然の振りに少し驚き、頭を掻きながらもキット・ファゼータ(ea2307)は子供達の前に進み出た。
 小さい子は本当に小さいが、大きい子はキットとそう大差は無い。
(「緊張なんてらしくないな」)
 一番後ろで微笑むヴィアンカと目を合わせ頷きあうとキットは布を手に巻くと空にその手を高く掲げた。
 ピイーッ!
 笛のなるような音と共に一直線に飛んできた鷹は一瞬の躊躇いも無く、キットの手に舞い降りる。
「うわ〜」「すげえ、すげえ!」
 子供達が驚きの声を上げる。無理も無い。手を傷つけないように止まる鷹に、それを引き寄せる仕草。
 神業のようなタイミングである
「暴れるな。ケンカもするなよ。みんなお前を見にきたんだからな」
 羽根を広げかけた鷹の額をこつんと小突いて、キットは静かになった鷹を子供達の前に差し出す。
「こいつはカムシン。俺と一緒に数々の依頼をこなしてきた相棒なんだ」
 キットの自慢げな笑顔に子供達もワクワクとした顔で二人、いや一人と一羽を見つめる。
 子供達の多くにとって冒険者は憧れの的。その生きた姿が目の前にあるのだ。
「おそらくカムシンほど多く報告書に登場した鷹はいないだろう。依頼では本当に大活躍だぞ。カムシンがいなかったら成功しなかった依頼もあった。倒せなかった敵もいたし、俺だって命がなかったかもしれない。それに‥‥」
 ちらり、ヴィアンカの方を見てからキットは息を吸い込んでとっておきの話をする。
「一度だけだが、俺とカムシンのコンビで円卓の騎士の一人に勝った事もある。戦闘における牽制や援護攻撃、偵察に索敵に情報伝達までこなしてくれる。俺達の力は協力し合う事で二倍にも三倍にもなる。それは人間の仲間とも同じ。だからこいつは俺の大事なパートナーなんだ」
 鷹の頭を撫でるキット。鷹もキットに甘えるように首を寄せ付ける。
「大空に羽ばたく力強いその姿は、俺に果てないまだ見ぬ「どこか」を想わせる。俺はカムシンの翼に、希望と勇気をいつも貰ってるんだ。言葉は通じなくとも確かに俺とカムシンの間には通じるものがあると信じている。それがペットってものじゃないかな?」
 キットの言葉にパチパチパチと誰からともなく拍手が上がった。
 思いもかけない反応にキットは微かに照れたように頬を赤らめると、小さく礼をとって退場する。
 拍手はまだ鳴り止まない。

「今度の掴みもどうやら完璧ですね。お疲れ様です。さて次は‥‥」
「はーい! 私が行ってきまあす!」
 馬に乗って準備万全のティズ・ティン(ea7694)が手を上げる。横にはひょこひょこと歩くディアトリマが‥‥。
「では、ティズさん。どうぞ」
 はーい、ともう一度手を上げたティズは手綱を握る。
「行くよ。ドット。ツッツ!」
 明るい声と共に風が子供達の前に現れる。正確には風と共に現れた騎士であるが‥‥、彼女らの素早い動きは子供達にそう錯覚させるほどであった。
「はじめまして、私はティズ・ティン。宜しくお願いします」
 礼儀正しい騎士の挨拶に、子供達は少し緊張の表情を浮かべるが‥‥
「なーんてね。硬くならないで。私も君達と一緒だよ。ほんの少しだけスタートが早かっただけだからね」
 鮮やかに笑いかけるティズに子供達の顔も破顔した。
 あっという間にティズは子供達と友達になり、囲まれる。
「はぁい、私のパートナーはドッドとツッツだよ。これでも騎士だから、一緒に戦う仲間って感じだね」
 武装された戦闘馬。黒い瞳が優しく子供達を見下ろす。
 ブルンと揺れた鼻先は熱い。その大きさ、逞しさにも驚かずにはいられなかったようだ。
 一方横のディアトリマは、それに比べると小さい。自分達と視線も合うくらいである。
「ツッツは今は成長中だね。皆と同じで今からどんどん成長するからね」
「へえ〜。凄いなあ〜。結構可愛いかも‥‥」
「あ、危ない!!」
 頭を無造作に撫でようとした子供の手がディアトリマの前に伸びたとたん、ディアトリマはキャアア! ともクアッ! とも似た声を出した。
 明らかな威嚇である。
「うわっ!」「怖いよ!」
 今まで憧れだけで見ていた子供達が怯えた声を出す。だがそれを受け止め、ティズは言い聞かせるように言う。
「動物って皆が大人しい訳じゃないんだよ。でも、それが悪いって訳じゃなくって、大人しいと一緒に戦えないしね。付き合い方次第。ツッツだって、優しく声をかけながら触れば怒ったりしないよ。‥‥ほら」
 怯えた子供の手を取り一緒に手を重ね‥‥ティズはディアトリマの身体に触れさせる。
 少し固めの羽根。だが感触は柔らかく温かい。
「ホントだ‥‥」
「ね?」
 ディアトリマの身体に顔を摺り寄せる子を見て他の子供達も羨ましくなったようだ。
「ねえ、ねえお姉ちゃん。お馬に乗ってもいい」 
「僕も」
「勿論、いいよ。おっこちないようにね」
 わあっ。歓声と共に子供達は動物達を取り囲み、最初の約束を思い出しながら、そっと触れようとしていた。

 ティズの動物達とのふれあいをきっかけに子供達と動物達の関係は一気に縮まった。
 シルヴィアも、自分が連れてきた鳥達を子供達の間に放す。
「ほお〜。イワトビペンギンですかぁ〜。珍しいですね〜」
「ですね〜」
 感心したように言うエリンティア・フューゲル(ea3868)の足元でちょこちょこと歩くのもペンギン、である。
 ちなみに肩口で言葉尻を真似ているのはエレメンタラーフェアリー。こちらも大事なペットである。
「そちらのペンギンは、コウテイペンギン‥‥ですか? 噂には聞いていましたが‥‥」
 腕の中で抱いていた梟と一緒にシルヴィアは首を傾げた。
 イギリスは当然ながら普通はペンギンが住める環境ではない。
 ペットとして飼われているモノ以外はまず見る機会はないだろう。
 冒険者とて、こうして仲間が飼っているもの以外を見る機会は殆ど無いのだから。
 ふむふむと、興味深そうにエリンティアは二匹のペンギンを見比べる
「向こうは頭に鶏冠があるんですねぇ、でもお前の方が身体も大きいですし名前も偉そうですぅ、何と言ってもエンペラーペンギンですからねぇ‥‥」
 くえっ?
 褒められたのかそうでないのか解らない呼びかけに首を傾けるコウテイペンギンエール。
 気がつけば、シルヴィアのイワトビペンギンも並んで同じようにしている。
 二匹が並ぶと良く解る。
「それにしてもペンギンと言ってもいろいろ種類があるんですねぇ〜」
「ペンギン、って兄ちゃん。この二匹、同じ鳥なの?」
「う〜ん、なんと言っていいのか〜。そうですねえぇ〜。同じ鳥ではあるけどぉ〜種類が違うんですよぉ〜」
 そこまで言って、エリンティアはふと思い出したように
「鳥というだけならぁ〜、キットさんのカムシンやぁ〜、あ、あれも同じなかまですよぉ〜」
 興味を持って集まって来た子供達に、あれと指し示したもの。
「同じ仲間‥‥ことは‥‥鳥?」
 子供達はさぞかし驚いただろうとエリンティアは笑みを絶やさず、また隠さない。
 それはティズのリッリと、葉霧幻蔵(ea5683)のモアである。
「そうですよぉ〜。キットさんの〜鷹のカムシンやクリステルさんのホワイトイーグルとも同じ鳥ですぅ〜」
 正確にはクリステルのホワイトイーグルはクリーチャーではあるが、それはこの場合言わなくてもいいことだ。
 頭上を今も優雅に美しく飛んでいるホワイトイーグルを見上げ、顔を下ろした子供はもっともな疑問をもう一度、あれ、とモアを指差して口にする。
「だって、あれ、飛ばないよ。ずっとずっと走ってる」
 少年の一人の言うとおり、モアは走ることにしか興味はないようだ。
 子供達に触られたり引っ張られたりされても、むず痒そうに身じろぎするだけで、いつの間にか逃げ出し広い庭を駆け回っている。
「あれは拙者の“愛馬”でござる。で、こっちは“愛猫”」
「地を最も疾く駆けるのは“馬”でござる。なので、ヴァッシュは二本足でも“馬”に違いないでござる」
「えっ? 鳥じゃなくて馬なの?」
「そうでござるよ。ふむ、ということはペガサスも馬に見えて“鳥”という事になるでござるな」
『にゃにぅゅう!』
「ペガサスはぁ〜、馬ではなく天使ですぅ〜。いたいけな子供に変なことを吹き込まないでほしいですぅ〜」
「いてっ!」
 本気の顔で冗談を言う幻蔵に、エリンティアとケットシーがツッコミを入れた。そして
「ペンギンは飛べない代わりに泳ぎが得意なんですけどぉ、あの二羽は走るのが得意なんですねぇ、飛べない鳥も色々な種類があるのですねぇ? それに、シルヴィアさんが抱っこしている、あれも鳥ですよぉ〜。梟だから昼間はのんびりさんですけど、夜になると大活躍するんですよぉ〜」
 面白いでしょう? とエリンティアは子供たちに笑いかける。
 五種、七羽の鳥達はどれもがあまりにも違う。
「でも、それが個性っていうもんだと思うんですよぉ〜。人間も鳥も動物もみんなおんなじですう〜」
 目を輝かせる子供達に彼はそう言って微笑んだ。
 
○ステキな友達
「やあ、遅れてすまないね」
 笑いながらやってきたのはフレイア・ヴォルフ(ea6557)と尾花満(ea5322)の夫婦。
 彼らの登場に会場はざわりと、音を立てるようにざわめいた。
「ほら満。子供たちが驚いているじゃないか? なんで埴輪なんか連れて来たんだい?」
「いや、フレイア。皆が驚いているのは埴輪では無いと思うぞ」
「「「「「「「「「「うんうん」」」」」」」」」」
 免疫や対面がある冒険者たちは皆、満の言葉に頷くが、フレイアはそうかい? と首をかしげ振り向く。
 フレイアの後ろにいるのは犬のニルと‥‥
「やっぱり、みんな怖いか‥‥」
 無言で立つ妖怪ぬりぼうの姿があった。
 顔も無く、ボーっと立ち尽くす壁の存在はやはり怖いであろう。
 涙ぐみかけた子もいて、幻蔵のケットシーが慰めに走っている。
「エステル。貴方もお願いしますね」
 リースフィアの頼みにふわふわと妖精の少女も飛んで、震える女の子の髪を撫でる。
 まるで太陽の欠片をちりばめたような金の髪に、優しい微笑みに、そしてケットシーの柔らかい手に女の子の涙が止まったのを確認して、フレイアはそっと女の子の前に膝をついた。
「驚かせちゃったみたいだね。ごめんよ。でも、この子達、怖くないだろう。塗坊もね、ある意味この子達と同じなんだよ」
「おんなじ?」
 隠れるようにしていたケットシーの背中から出てきた少女に、そう。とフレイアは頷く。
「あたしらや、このニルや他の動物たちと違う存在だ。妖精や、クリーチャー。そして塗坊や満の埴輪もね。違う命を持っているもの。でも‥‥この子達だけじゃない。みんな、同じなんだよ。あたしも、この子達も、みんな、みんなね‥‥」
「‥‥おんな‥‥じ‥」
 もう一度、そう、と頷いてフレイアは女の子を抱き上げる。
 そして、ぬりぼうの側に連れて来た。
 微かに身じろぎする女の子。だが、さっきのような脅えはない。
「どうだい? 怖いかい?」
 促され、彼女はぬりぼうを見る。目も、鼻も口も無い。なのに、ゆらゆらと揺れる体がまるで笑っているか、手招きしているか‥‥例えていうなら足元で尻尾を振っている犬と同じに見えて‥‥
「ううん」
 はっきりと彼女はそう言っていた。フレイアも破顔する。
「そうかい? そりゃあよかった。塗坊お友達ができたよ」
 それが、きっかけであった。
 今までわずかにあった、動物以外のペットへの恐怖、驚き、脅え。怯えが子供達から完全に消え去ったのは。
 遠巻きになんだろうと見つめていたリースフィアの雪精霊に近づき、触れる少年。
 クリステルのヒポカンプスの美しさに見惚れていた少女も勇気を出して近づこうとしている。
 気がつけばぬりぼうにはやんちゃな子が登山のようにアタックさえかけ‥‥
「塗坊、がんばれ!」
 そんな声援まで飛んでいる。
 もう、子供達とペットの間に垣根は無い。
 本当の意味でのペットとの触れ合う会は、今、始まったのだった。

「いや〜。しかし壮観だね〜。これだけペットが集まるとさ」
 フレイアの言葉に冒険者達は心から同意する。
 もうすっかりふれあい広場となったパーシ家の庭には沢山の鳥、犬、猫(?)、精霊にクリーチャー、海馬に馬にモンスターと、色々なペット達が子供達と触れ合っている。
「防犯にも役立つ、丈夫な良い子だ。流石に子供を乗せて動けるほど力はないがな」
「おっもしろーい」
 くるくると手を動かして踊っている埴輪の真似をして踊っている子もいれば
「ねこさん、ねこさん♪」
 とケットシーを抱きしめて頬を摺り寄せる少女もいる。
 本当の猫であれば、逃げ出していそうだが、賢いケットシーは爪も出さず少し困り顔で抱かれている。
「いいねえ〜。子供って」
 少し羨ましげなフレイアの目に、
「どうしたんです?」
 とクリステルは問う? フレイアが見ているのはクリステルのホワイトイーグル。だろうか?
「あたしも触らせて貰って良いか? 鳥って好きなんだ」
「勿論、どうぞ」
 クリステルの促しに良かった。とフレイアは微笑み白い羽根に触る。
 少し固い、でも鳥の羽の感触はとても心地よかった。
「本当にどの子も可愛いですねぇ」
 エリンティアも目を細めて子供達と一緒に遊ぶペット達を見ている。
 子供達と追いかけっこをしている自分のエレメンタラーフェアリー、リインは元気いっぱいではしゃいで遊んでいる。子供とほぼ同じだ。
 同じエレメンタラーフェアリーでもリースフィアのミスラは少し、落ち着いていて子供達やリインの事を見守るようにして一緒に遊んでいる。
 あまりにも楽しげな様子に
「リインも成長するとあの子みたいになるんですかねぇ。でも、ルイズやソウェルも連れてきてあげればよかったですぅ〜」
 留守番の動物達が少しかわいそうになるほどだ。
「今はいろんな動物やモンスターや精霊がペットとして飼う事ができる。ペットは冒険者にとっては自分の使えない魔法を使うものだったり、偵察役だったり、乗って走る足だったりもするな」
「でも、僕達はそんなペット飼えないよ。冒険者のお兄ちゃん達のペットはカッコよくて凄いけど、そんなのはとても‥‥」
「問題なのはなにを飼ってるか、じゃなくてどんな風に飼ってるかだと思うぜ」
 俯く少年に、そして他の子供達にもキットは真っ直ぐな目で話しかける。肩の鷹に触れながら告げるその目は真剣だ。
「収集意欲を満たす為じゃなくても、大きくなくても強くなくても魔法が使えなくても、たった一つの命はそんなもの関係ない。命なんだ。珍しい動物だから、役に立つから大事なんじゃない。ただそこにいるだけで命は俺達に大事な事を教えてくれる‥‥」
 少年の手に大事なパートナーを触れさせ、そしてキットは笑う。
「もし、いつかお前が何かペットを飼う日が来たら大事にしてやってくれ。そいつはきっとこいつと同じ目でお前を見てくれるよ」
 鷹の澄んだ瞳が少年を見つめる。
「うん!」
 頷いた少年の様子、そして動物と触れ合う子供達の笑顔を見ていた満は小さく呟いていた。
「ふむ‥‥いずれは拙者らの家もあんな風になるのであろうかな。子等が育ち‥‥ペット達と仲良く遊ぶ様に‥‥」
 それは本当に小さな独り言だったけれど、
「?」
 小さく当たった肘と振り向いた妻の笑顔に満は頭を掻いて微笑んだ。

○何よりも大切なコト
「みんな、楽しんでくれてよかった♪」
 その言葉通り楽しそうに、動物達を遊ぶ子供達を、一人少し離れた所から見ていた少女がいる。
「ご苦労様です」
 リースフィアやシルヴィア。そしてクリステルはその少女ヴィアンカに笑いかけた。
 気がつけばフレイアと、その愛犬ニルもヴィアンカの側にいる。
「うん、ありがとう」
 ヴィアンカは満面の笑顔で頷く。
 彼女は今日のいわばホスト役。
 皆を楽しませる為に裏方に徹していたのを冒険者達は知っていた。
 ティズの作った食事を皆に配り、動物にしり込みする子がいれば背中を押し、そして餌の準備や糞の世話もする。
「本当にリトル・レディはパーシ様にそっくりですね」
 シルヴィアは心からの愛情の篭った言葉でヴィアンカに微笑む。彼女にとっては最高の賛辞だ。
「それがキットさんから貰った卵?」
 こんなさりげない時も片手で卵を入れた袋を支えている。
 それに気付いてクリステルは問いかけた。
「うん。何が生まれるのかなあ?」
「黒い斑点の卵は選択肢が多いからねえ〜」
「爬虫類、鳥、ドラゴンの可能性とかもあるでしょうか」
「ドラゴン? トカゲ?」
 ビックリした顔をするヴィアンカ。だが、卵を見る目は変わる様子は無い。
 その眼差しと丁寧に作られた袋にクリステルは思わず笑みが浮かんでくる。
「卵さんの事を愛している事がよく判るもの。その気持ちさえあれば大丈夫よ」
「そうだね。卵、声かけてやると良いよ。いろんな事、一杯中で聞いてるから、楽しいこと嬉しいこと、一杯話して早く一緒に暮らそうね、ってね。そうすれば、きっといい子になるからね」
 フレイアの言葉に頷くヴィアンカ。
「でも、忘れないで下さいね。ヴィアンカさん。生き物を飼うという事は責任を持つという事でもあるんですよ」
 厳しいかもしれない。けれどヴィアンカならきっと理解すると信じてリースフィアは言葉を続けた。
「さっき、キットさんも言っていましたね。ペットというのは大切な命です。ペットを飼う上での大原則ですが、自分が責任を持つということが一番重要です。何が生まれるのかはわかりませんが、生まれたての生き物は非常に弱く、常に世話をしないとすぐに死んでしまいます。注意を払い、面倒でも投げ出さずにしなければなりません」
 真剣な眼差し。それを蒼い瞳は受け止めている。
「そして、大きくなってきたら言うことを聞かせて周囲に迷惑をかけないようにします。周囲に、社会に受け入れられるかどうかはそこにかかります。居場所を確保するには厳しくても絶対に必要なことなのです。生まれて来るのはモンスターかもしれない。けれど、ヴィアンカさんはこの卵のお母さんです。ちゃんと教えて、どんなものからも守ってあげる事ができますか?」
「ほら、小さい子供達の世話を考えてごらん? そうすれば分かってくるだろ? 生まれた後は心を込めて、叱る時はきっちり叱ってそうすりゃ心は通じるから」
「うん! 私、頑張る。絶対に大事に育てる。私の大事なお友達。ううん、家族になるんだもんね!」
 少女の笑顔に冒険者達は安堵する。
 彼女なら、きっと大丈夫だ。
 どんな生き物が生まれようと、大事に愛情を込めて育てる事ができる。
 そう確信できると、解ったから‥‥。
「そう言えば、名前は考えてあるのか? この子にとって母親のヴィアンカの最初の仕事だぞ?」
「おや、お父さんの登場ですね」
 お父さんってなんだ! 頬を赤らめ抗議するキットの横をすり抜け、ティズもヴィアンカの顔を、卵を覗き込む。
「私は同じ音の間に間を置いた名前に統一してるんだ。絆というかつながりが感じられるからね」
「う〜ん。まだ決めてないの。男の子か女の子も解らないし。でも、お星様とか‥‥昔話の神様から名前を付けてみようかなあって思ってる。どんなのがいいかなあ?」
「こればっかりは俺達が助けられる事じゃないからな。悩め。考えろ。それが‥‥一番大事で楽しいんだからな」
「キットのイジワル。でも私頑張るよ。世界一の子にするんだもん」
 顔を見合わせ、二人は微笑みあう。
「卵さん、お父さんとお母さんが待っていますよ。早く出てきてあげて下さいね」
「だから、お父さんってなんだって!」
 ふれあいの広場に、幸せで鮮やかな笑い声が高く響いている。

 どんなに楽しい時間でもいつか終わる。
 伸びてきた影が子供達にそれを知らせた。
「もうさよならなのか」
「ヤダー。オスカー君ともっと遊ぶ〜」
「アスール君と離れたくないなあ」
 名残惜しげな子供達に、冒険者達は静かに首を振った。
「もう、時間ですよ。いつまでも一緒にはいられません」
「うん‥‥」
 子供達も頭では解ってはいるのだ。ただ‥‥
「ん? フィーはどこです?」
 シルヴィアが声をあげた。もう夕暮れ、なのにペンギンのフィーがいない?
「あの子は好奇心旺盛なんですが、そのくせ方向音痴ですぐ迷子になるんです。まさか、また?」
「お庭からは出てはいないと思うよ。皆で捜そう!」
 ヴィアンカに促され、冒険者だけでなく子供達も一緒になって広い庭を捜した。
「フィー。どこだ〜」「お魚あげるからおいで〜」
 皆で一生懸命捜して、時間の過ぎた本当に本当の夕暮れ。
「いた! いたよ!!」
 少女の一人が声を上げた。
「フィー! 心配をかけて!」
『ピイ!』
 主の声に羽根をばたつかせながらフィーは飛びついた。
 見れば木の根元に足をひっかけたのだろう。
 小さな足から血が流れている。
「ああ、転んで動けなくなったのですね。まったく‥‥誰に似たのですか?」
「‥‥かわいそう。ねえ、足を見せて」
 リカバーをかけてあげようとしたクリステルをそっとキットとリースフィアは手で制した。
 少女の一人がポケットから虹色のリボンを取り出して、包帯のようにフィーの足に巻いたのだ。
「これで痛くないからね?」
「いいのですか? 大事なリボンなのでは?」
「ううん。皆でね。お小遣いを出して買ったの。みんなへのお礼、友達の印に‥‥ね?」
 子供達は頷きあうと、ペット達一匹一匹にそっとリボンを結んでいった。
 足にリボンを結んで貰ったカムシン。同じように足にリボンをつけた梟や白鷲と不思議に顔を見合わせている。
 ペンギン達や、モア、ディアトリマも足に、犬達は首にリボンを結んで貰った。
『ふにゃ?』
 照れたようにリボンを結んで貰った尻尾を揺らすケットシー。陽妖精二人はお揃いに髪に結んで貰ったリボンに嬉しそうだ。氷妖精は首元にまるでマフラーのようにリボンが揺れる。
「似合ってるよ」
 戦闘馬には似つかわしくない飾りだが鬣に結んだリボンにティズも微笑む。
 埴輪は手にリボンをつけて踊っているが、ぬりぼうにはリボンを結ぶ所が無い。
「どうしよう‥‥」
 困り顔の少女に、大丈夫とフレイアは笑った。
「ちょっとティズ、その子を貸しておくれ」
「いいよ」
 それから数分後。箱に結んだリボンのように頭の端にリボンを結ぶぬりぼうの姿があった。
「まったく、落ちるかと心配したぞ」
 戦闘馬の上からひらりと飛び降りたフレイアは夫の心配に肩を竦めながらも、ポンとぬりぼうを叩く。
「よかったね。似合ってるよ」
「なんなら拙者の大ガマも出して‥‥」
『ふにゃあ!』
 ペットに怒られる幻蔵の様子を皆で笑いながら見つめると、もう陽は完全に落ちようとしていた。
「じゃあ、お別れだ。いいか?」
「時間があったら冒険者街においで。もっと珍しい子が見られるよ」
 冒険者達は子供達とペットに別れを促す。
「‥‥うん」「でももう少し‥‥」
 まだ名残惜しげな子供達に、
「じゃあ、今晩、最後の一晩だけ、皆で過ごそうよ!」
 ヴィアンカは明るく、提案した。
「えっ?」
「お庭で皆で泊まるの。皆で、ね?」
 子供達の家族や教会への了解も取ると笑うヴィアンカに‥‥冒険者達も苦笑しながら頷く。
 確かに依頼期間はまだある。
「やった!」「もう一晩、一緒にいられるんだ」
 かえって離れられなくなるのではと心配もあったが、笑顔の子供達にそれ以上をいう事はできなかった。
 かくしてその夜。
 子供達は庭に張られたテントで冒険者やペット達とだんごのように眠り、そして夢を見た。
 ペット達と共に冒険する夢を‥‥。

 翌朝。ペット達と子供達の本当の別れの時だ。
 だが朝の光に助けられてだろうか。子供達はそれぞれが美しい笑顔を見せている。
「おねえちゃん。わたし、もうぬりぼう、こわくないよ」
 そう言って、顔を摺り寄せる女の子。
「また、遊ぼうね。猫ちゃん♪」
『にゃにゃ!』
 ケットシーと握手する少女。
「兄ちゃん、俺もさ、兄ちゃんみたいな相棒見つけて冒険者になる」
 キットにそう告げる少年もいれば、
「私もお兄ちゃんや、お姉ちゃん達みたいなお友達、ううん。自分の家族を見つけられるよね」
 と問いかける子もいる。
「勿論ですわ」
 クリステルは心から頷き、微笑むと帰路に着く子供達を見送った。
「さよーならー」「ありがとー」
 子供達は、何度も何度も振り返り、ペット達と冒険者に手を振っていた。

「楽しかったですね〜。普段は見られない子も見られて本当に満足ですぅ〜」
「おいおい。自分が楽しんでどうすんだい? ま、解るけどね」
 エリンティアを笑いつつフレイアは大きく伸びをする。楽しい依頼だった。
 ペットの自慢もできたし何より彼女の目蓋の裏には今も、子供達の笑顔が残っている。
 あの子達は忘れないだろう。
 冒険者達が言った事を。
 彼らは自分のペットを見つけた時に大事にしてくれる筈だ。

 キットとヴィアンカ、子供達の笑顔、そしてその確信が冒険者にとってリボンと、思い出と共に大切な報酬となったのである。