【キャメロットの放火魔】 炎との対決
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月03日〜10月08日
リプレイ公開日:2004年10月07日
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●オープニング
蝋燭の炎が見える。
まるで、幻を浮かばせるように、ゆらり、ゆらり‥、揺らめいて‥
それは10年ほど前のこと、ある山奥で恐ろしい疫病が流行したことがあった。
連絡を受け、村を見に行った司祭が訪れた時にはもう殆ど手遅れ‥。屍積み重なる、そこはまさに死の村だった。
司祭はあまりの凄惨さに、村に足を踏み入れるのも恐れた。
(「この村をこのままにしておいたら、病は国全体に広がるかもしれない。仕方ない、仕方ないんだ!」)
そうして、彼は‥村の全てに火をかけた。
生存者がいたかもしれない。治療すれば助かったかも‥。
その思いは繰り返し
『仕方ない、仕方ない!』
自分自身にそう言い聞かせて頭から消した。
病を灼き、全てを喰らいつくし、燃え上がる炎。
‥一つの村が跡形も無く消え去った。
ただ一人、生き延びた少年は保護されるまで、炎を見つめていたという。
身体が焼かれるのも気付かずに‥まるで、炎に魅入られたかのように‥
「知っているか? 教会に放火予告があったという。3日後、深夜だそうだ」
新しい依頼を壁に貼りながらも係員の表情は重い。
予告などを出すのは相当の実力者が遊んでいるのか、それともよほど、何かがおかしいのか‥
「相手は実は解ってるんだ、高レベルの炎の魔法使い。頭もいいし、応用力もある。だが‥かなり‥イってる‥」
自分自身の妄想と炎という魔法に従属した哀れな男だ、と彼を知る者は語る。
自らが炎の使い道、炎を自由に動かす炎の使徒であり、使途だと‥
「実力は間違いなく相当なものだ。魔法も柔軟取り混ぜていろいろ使うし、ファイアーエージェンシーで分身を作ったりもするらしいぜ」
その能力で街中を混乱させたこともあるという話を聞いた者も‥いるかもしれない。
「実は‥教会にいるある司祭が告白したんだ。最近噂になったキャメロットの放火魔と呼ばれるやつがいるんだが、その風貌に心当たりがある。とさ」
彼は、かつて病に冒された村を見捨て、治療を放棄し、病気が広がらないように焼き捨てた。病に感染するのが、自分も屍になるのが怖かったのだと懺悔した。
唯一人、村の生き残りの少年がいたと彼は後に聞いた。放火魔はその少年が成長した姿かもしれない。
『教会には関係ない! 恨むなら私を恨め!』
彼はそう言って、泣き叫んだという。
だが、狂気を帯びた犯人の耳にその言葉が耳に入るとは思えない。
司祭は後に処罰される。だが‥
教会は放火の阻止と犯人の捕縛を依頼してきた。
炎に執着する男。復讐の為だけに生きてきたというのでは多分無い。
キャメロットの教会に、犯人たる司祭がいたことさえ、偶然だったのかも‥
10年間、彼は何を思い生きていたのだろうか?
ずっと心に燻ぶっていた何かが‥弾けたのだろうか?
彼は心のどこかが壊れているのかもしれない。
‥命を惜しいはと思っていないのかも‥しれない。
「誰かが、こいつを止めてやらなきゃならない。頼めるか‥?」
暗闇の中、教会を見つめる暗くて赤い瞳
「神は、この世に居ない。私には必要に無い。炎の王よ。現れよ。偽りの神を灼き、わが元へ」
彼は祈る。神ではないものに‥。
「‥炎よ、我と共にあれ‥」
●リプレイ本文
キャメロットの中央に位置する教会は、人々の信仰と心の支えである。
その荘厳な建物を橋の上から見上げた男が小さく呟く。
「‥判らんな‥」
「あ、ゼディスさん、どうです」
駆け寄ってきたシエラ・クライン(ea0071)の声、我に帰ったようにゼディス・クイント・ハウル(ea1504)は、ああ、と頷くと手の中の灰を見せた。
「放火の跡だから当たり前だが灰はあった。全部潰してきたから心配ないだろう」
「そうですか‥こっちは空振りです。師匠の情報は探せませんでした」
「‥‥」
「どうしました? ゼディスさん?」
何か思うようなゼディスの表情がシエラは気になった。
「ああ‥判らないだけだ。場所と日時を予告した理由が‥『炎以外はどうでもいい』と言っていた男には不自然だ‥」
(「‥妨害される事を望んでいる? まさかな‥」)
「彼の考えは判らない‥でも」
「クライン?」
押し黙ったシエラに今度はゼディスが問いかける。彼女は頭を振った。
「もう、みんなが準備しているはずです。行きましょう」
教会の周囲は片付けられ、広く開けていた。
「お帰りなさい。綺麗になったでしょう?」
シャーリー・ウィンディバンク(ea6972)が戻ってきた仲間に手を振る。
「ゴミ拾いをかねてお掃除しました。これでゴミとかに火が着く事も無いでしょう」
「ご苦労様です。深雪さん」
頭を下げたシエラにいえいえ、と藤宮深雪(ea2065)は手を振った。
「おーい、こっちも手伝ってくれないか?」
水桶を手に提げてライノセラス・バートン(ea0582)が彼らを呼ぶ。その後からも両手に水桶を持つ速水兵庫(ea1324)黒畑緑朗(ea6426)の姿が見え皆は慌てて駆け寄って手伝った。
ほぼ準備が整った頃、教会の前でリュウガ・ダグラス(ea2578)は仲間を呼んだ。
「今回の相手は放火魔、しかも炎の魔法使い、かなりの使い手と聞いた、なんか阻止と捕縛をしなければ‥」
教会を火にかけることは何としても!その決意が伝わってきた。
「役割分担は‥バートンと速水,それに黒畑が前衛、ダグラスとクラインが中衛に近い場所で援護、藤宮とウィンディバンクが後衛で回復と消火、でいいな」
「貴方はどうするおつもりか? ゼディス殿」
兵庫の心配そうな言葉に、ゼディスは目を閉じた。
「奴と話がしてみたい。まともに話せたら、だがな」
直接対決の因縁を持つ彼の願いに反対の言葉は出なかった。その隙に前衛が突入の期を窺えるというのもある。
「判った。だが無理はされるな」
心配する緑朗に頷くと細かい相談をして、彼らは配置に付いた。
秋の夜風は爽やかな快感さえも与えてくれる。
だが、それは今夜の冒険者達には当てはまらなかった。じりじりと心が熱い。
一刻を待つ長さはそれを追う十倍の時間に匹敵すると、誰かが考え始めた時‥それは現れた。
「来たか‥」
ゼディスはその光景に見覚えがあった。橋を渡ってくるランタンの炎。一つ、二つ‥五つ。
橋を渡り終わった『彼』らの前にゼディスは立った。おや、と微笑むのは紛れも無くこの間出会った放火魔である。
確信するとゼディスは前に進み出た。
「本当に予告通りに来るとは‥律儀な男だ」
「貴方こそ、またお会いできるとは。嬉しいですよ。心から」
五人の彼らの中から声がする。分身に守られているのだろう。何故か本当に喜んでいるような放火魔の言葉を無視しゼディスは続けた。
「前に言っていたな、『炎以外はどうでもいい』『邪魔はして欲しくない』と。気でも変わったのか?」
「変わっていはいませんよ。私の望みはいつも、ただ一つ。炎の祝福を‥」
冷静で、論理的に聞こえる言葉。瞳の奥にあるものをゼディスは感じた。そして何かを納得したのだ。
「‥そうか」
その言葉が合図だった!
潜んでいた前衛の冒険者達が一気にゼディスの横をすり抜け彼らに近づく。同時に魔法が発動され周囲は煙に包まれる。
「くっ! スモークフィールドか!」
彼らの足が止まった所で、もう一つの魔法が完成する。服に火が付くが、燃え上がらない。ランタンの炎を操るファイアーコントロール。
「皆! 教会の方向に奴がいる。反対側にいるのは全て偽物だ!」
リュウガは仲間達に呼びかけた。探査魔法で居場所を捜す。煙の中の剣士たちは誘導に従って身体の向きを変えた。
煙の中で生まれる蒼い光。
「この近辺から離れろ! 実験だ!」
詠唱された呪文が生み出す冷気がゼディスの手から湧き上がる。
「アイスブリザード!」
空に向けて放たれたブリザードは渦と、空気を巻き起こすが‥期待した効果は与えなかった。
「やはり魔法を魔法で拡散させるのは無理か‥、皆! 頼むぞ」
「そっちじゃない、もっと右だ!」
リュウガの指示に従い、前衛の剣士たちは少しずつ彼に近づいていった。
二体目の分身を返す剣で灰に変えたライノセラスは、彼がいる方向に向かって叫んだ。
「犠牲なんて出させない。アンタも恨みは晴らすものじゃない。忘れるものだろ!」
言わずにはいられない言葉だった。その言葉の先に‥かすかに揺れる炎が見える。
彼の本体の手から炎が空に向かって放たれた!
炎は細かく散り、雨の如く教会に降り注ぐ。
「炎よ‥止めなさい!」
言葉と同時に火の雨の半分が消えた。シエラの介入に炎が従ったのだ。
「炎が司る力は破壊だけではない事を‥。恵みと再生をもたらすものでもあると信じていますから、私達は貴方を止めます」
見えない魔法使いに向けてシエラは言い放つ。
「フフ‥」
かすかな声はシエラには聞こえない。
残り半分は、教会の壁に取り付き、燃え始める。
「シャーリーさん!」
「任せて! ウォーターボム!」
深雪の声にシャーリーは呪文を紡いだ。水の炸裂は教会の壁を洗い流し、炎を跡形も無く消し去った。
「やった! 放火阻止!」
手を取り合う深雪とシャーリーは心配そうに煙の中を見つめた。その頃‥
「心情はわかるが、人をかつてのお主自身のように苦しめる所行、捨て置けん!」
忍者が男に向かって肉薄していた。煙の向こうに見える彼の表情は笑顔?
「覚悟!」
緑朗は力と忍者のスピード全てを短刀に乗せて一気に切りかかる。だが‥
「ぐはあっ!」
緑朗は地面に倒れこんだ。彼に幸運だったのは転がって服の炎が消えたこと。ファイアートラップの炎が上がったのだと気付くのは暫く後のことだ。
「ふふっ‥ ! ぐっ‥」
笑うつもりだったのであろう男の声は呻き声で止まった。緑朗の背後から兵庫が男に向けて剣を振り下ろしたのだ。血が飛び‥男の膝ががくりと落ちた。
「どんな理由あろうとも、我が武士道は貫き通す! 真っ直ぐにな‥」
「大丈夫か?」
駆け寄ったライノセラスが緑朗にポーションを与えた。事前に水を被っていた事も幸いし直ぐに動けるように回復する。
「かたじけない‥」
そして‥薄くなっていく煙の外に出る四人の姿があった。
「さて皆、どうする? この男‥」
ゼディスは荒い息を放つ男を見つめた。兵庫の剣は致命傷ではない。だが‥このまま捨ておけば確実に命は消えるだろう。
「助けるんですか?」
助けても、この男が到底大人しくしているとは‥シャーリーはそう思ったが、それより早く動いた影があった。
「シエラさん‥」
自分のリカバーポーションを男の口に注ぎ込む。ほぼ同時、横にしゃがんだ影の手から白い光が男に向かって放たれた。
「‥深雪さん」
二つの力によって、男の身体を引き裂いた創傷は見る見るうちに消えて行く。
「いいのか? それで‥」
リュウガの問いにシエラと深雪はそれぞれに頷いた。
「死んで終わりにするという考え方は、あまり好きじゃないんです。生きているからこそ、出来る事が沢山ありますからね」
「罪を消す事は出来ないけど償う事は出来ます。だから‥死なせません」
誰も止めを刺そうとは‥言わない。
横たわる男の頬に、一滴の涙が光ったのをゼディスは‥見ないフリをした。
炎に全てを失い、少年は一人取り残された。
何も持たない少年に手を差し伸べたのは炎の魔導師だった。
彼にとって炎は家族であり、友、失ったもの全て。そして、唯一の自分のもの。
師を失い彼の炎への妄執は常軌を逸したものとなる。
たった一つ自分に残された炎に従属し、炎を広げる事を望む炎の魔法使いへと。
騎士団からの報告書を見て、冒険者達は深く息をついた。
炎の魔術師の思いが、彼らに直接語られる事は無かった。
ただ、推察はできる。
「‥誰かに止めて欲しかったのか? キャメロットを炎に包ませる。それ以上に‥望んだのは‥多分」
ゼディスは噛み締めるように呟いた。ライノセラスも深く息を吐く。
「炎以上の何かを、手に入れる事?」
「私も思いました。たくさんの人をその力で救えるのに‥って、でも‥」
「あいつには無かったのだろう。我が神のような炎以外の何かが‥」
深雪は数珠を、リュウガは十字架をそれぞれ握り締めた。そうせずにはいられなかった。
「悲しい奴よ‥」
「哀れな男だな」
「でも、同情なんかできません。彼がした事はいけないことです」
若く、素直であるが故の現実的なシャーリーの言葉に兵庫も緑朗も苦笑する。
そう、今生きて捉えたとはいえ彼の今後の命運が、安寧なものにはなりえない。
多くの放火‥極刑が与えられても不思議ではない。
「魔法使いは、いえ、皆、一人で正しく生きるのは難しい。彼を支える何かがいつか、見つかりますように‥」
「‥‥」
ゼディスは、シエラを、深雪を、そして仲間たちを見て思った。
あいつは、ひょっとしたら‥と‥
地下牢の中、彼は一人目を閉じていた。
火も無く冷たく寒い部屋。
手のひらを合わせ、祈るように微笑んでいる。
もう、炎に仕えない。本当に欲しかったものを手に入れたから。
教会よりも、炎よりも大きな心の支えを‥
その手には卵形の小さな空の容器がしっかりと握られていた‥