【錬金術師の試練?】遺されしもの

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:11 G 76 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月15日〜03月23日

リプレイ公開日:2009年03月23日

●オープニング

 昔、その遺跡には錬金術師が住んでいた。
 彼はその知恵と力で大いなる財を成したのだという。
 妻がいて、子がいて平和な日々。
 けれど彼はやがて人里から離れ、迷宮に篭り、いつしか姿を見せなくなった。
 彼を最後に見た人間は、錬金術を追求し続けた彼がついに望むものに辿り着いたのだと思ったという。
 だが、その人物はそれを人々に伝える事はしなかった。
 なぜなら、生きて帰る事ができなかったからだ。
 そして彼も、彼の生きた証も忘れ去られ‥‥消えていった。
 時の彼方へと‥‥。

 遺跡の最奥、第四の階層へと繋がる道を開いた冒険者達は当然、その先へ進もうとした。
 細い通路が下に向けてどこまでも続いている。
 注意深く進めた歩みは、だが
「待って下さい」
 通路のおしまいで依頼人の制止の言葉と共に止められてしまう。
「どうしたんだ? 一体?」
 そこは扉も無い、次の部屋への入口。
 動こうとしない依頼人に仲間は声をかけた。
「ゴーレムです。しかも複数」
「なに?」
 依頼人の掲げたカンテラが照らすものを見て、冒険者達は域を飲み込んだ。
 かなり広いホールの両脇には、巨大な石像とガーゴイル像が確かにいくつも並んでいる。
 おそらく5〜6ずつはあるだろうか。
「ゴーレムにガーゴイル。やっかいだな」
「それだけじゃありません。あれを見て下さい」
 言葉に従い‥‥最奥を見た冒険者は凍りつく。
 入口から部屋を挟んで真正面。
 おそらく背に扉を守る守護者は暗闇の中でさえ輝く黄金色をしていた。
「あれはゴールド‥‥ゴーレムか? 何故、あんな所に‥‥」
「一度、戻ったほうが良さそうです。態勢を立て直しましょう。今、下手に踏み込むのは危険です。命取りになりかねません」
 踵を返した依頼人。だが、その瞳は諦めてはいなかった。
 いや、むしろ喜びと期待に満ちた目で最後の守護者を心の目で見つめている。
「あなたは辿り着いた‥‥ということなのでしょうか? でも、負けませんよ」
 挑戦にも似た呟きを聞く者は、今はもうこの世にはいなかったけれど‥‥。

 そして北海から帰還したフィーナ・ウィンスレット(ea5556)はその足で、冒険者ギルドに依頼を出した。
「ウィンスレッドの迷宮に挑みます。興味のある方は一緒にと依頼を出して下さい」
 いつもの余裕に満ちた軽やかさが今のフィーナにはない。
 北海の結果を知るが故に、ギルドの係員はそれは仕方が無いと思った。
「だが、こんな時にかい? 疲れているんじゃ‥‥」
「こんな時だからこそ、です」
 彼女は静かに、だがはっきりとそう言った。
「デビルにいいように動かされ敗北した。今だからこそ、私は知らなければいけません。先達の残したものを。その意味を。もう、逃げる事は許されないのですから」
 フィーナの決意にも似た言葉に係員は依頼を受理する。
 だが、今回の依頼は今までのものと比較にならないほど危険度は上がっていると思われた。
 地下迷宮の最後の扉を守るのは、石の門番、ストーンゴーレム数体とガーゴイル、そして一体のゴールドゴーレムであるという。
 ストーンゴーレムはともかく、ゴールドゴーレムに関するデータは殆ど無い。
 イギリスでの目撃証言もひょっとしたらこれが始めてかもしれない。
 だが、金でできたゴーレム。それが弱いと思う人間は誰一人いないだろう。
 勿論、ストーンゴーレムも侮る事はできない。
 一体一体とならともかく、数体がもし一斉に総攻撃をしてくるならいかに優れた冒険者であれ命の危険を得るだろう。
 己の死、ペットの死の可能性を孕んだ先達からの最後の試練。
 だが、その試練を乗り越えれば、冒険者は何かを見つけられるのかもしれない。

 胸の空虚を埋める、何かを‥‥。

●今回の参加者

 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クル・リリン(ea8121)/ 若宮 天鐘(eb2156)/ アルミューレ・リュミエール(eb8344

●リプレイ本文

○最後の命令
 ゴーレムとゴールドゴーレムには別に与えられた命令があった。
『部屋に 侵入した 者を 襲い 倒せ』
 それがゴーレム達に与えられた命令。
 ゴールドゴーレムに与えられたのは
『我等の 墓所を 守り 敵を 倒せ』
 ゴールドゴーレムとゴーレム、ガーゴイルを配置して奥の部屋に入り、二度と戻らなかった錬金術師の最期の言葉でもある。
 冒険者達は永遠に知る由もない事であるが‥‥。
 
 戦いは混戦の様相を見せている。
「くそっ。やっぱり想像以上に硬いぜ! っとお!」
「リル! 大丈夫か?」
 正面のゴーレム。上空のガーゴイル。
 双方向からの攻撃にバランスを崩し膝をついたリ・ル(ea3888)に横で戦う閃我絶狼(ea3991)が声をかけた。
 駆け寄りたいところであるが、彼自身も手が痺れるほどの衝撃に対応するのが精一杯。
「大丈夫」
 そう言って手を振るリルの様子を確認して絶狼も戦いに戻った。
 足元には動かなくなったゴーレム数体、ガーゴイルも地面に何匹か落ちている。
「避けて下さい。射線にいると巻き込まれますよ!」
 言うと同時の魔法。青ざめた二人が身をかがめた瞬間、横を風の刃が走り抜けていく。
『!!!』
 羽を奪われ落ちていくガーゴイル。また残骸が積み重なる。
 いつもであれば
「少しは周りを見て行動しろよ!」
 とでも言う所のリルも、今日のところは何も言わない。何も言わずフィーナ・ウィンスレット(ea5556)とバックパックをちらりと見て、また戦いに戻る。
 まだ敵の数は半分を切ってはいなかった。
「潰れてないといいんだが‥‥」
 壁を背にしてフォーメーションを組んで戦う冒険者たち。
 彼らの戦いはまだ始まったばかりであった。
 
○動き出した脅威
「ゴールドゴーレムが相手ですかぁ、噂には聞いていましたけど見るのは初めてですぅ〜。楽しみですねぇ〜」
 いつものように危機感のない声でエリンティア・フューゲル(ea3868)は細い廊下の先を見つめ微笑んで見せた。
 無論、彼とてこれから先が真剣勝負であることは判っている。
 ゴーレム達を倒さなければ遺跡を攻略できないことも、それが簡単ではない事も。だ。
 突入の前にどうするべきか。冒険者達はいろいろ考えた。
「今は彫像のようですがゴーレムやガーゴイルは接近すると動き出すそうです。あれらもそうだと見るべきでしょう」
「だが、あれだけ硬い相手だ。普通の武器はなかなか通用しないぜ」
 フィーナの言葉にリルは石造りの壁をとんとんと叩く。
 ゴーレムなどと戦うのはこの石壁に攻撃するのと同じようなものだ。
 石に風は通用しない。電撃も同じこと。剣だとて弾き返されてしまうだろう。
「それにあの数も始末が悪いな」
 腕を組んだ空木怜(ec1783)も頷く。
「でも幸い戦闘開始のアドバンテージはこっち持ち。そこで優位に立てれば‥‥」
「例えばこういうのはどうであるか? ホールから一人が出て動き出したゴーレムを通路におびき寄せて‥‥」
 マックス・アームストロング(ea6970)が提案したように扉の外から遠距離攻撃をするとか、一体一体おびき寄せてみるとか本当にいろいろである。
 けれどそれらを踏まえたうえで
「扉の、そしてこの迷宮の謎掛けを見るにこの迷宮を作った者は、誰かが迷宮を踏破することを望んでいるようなのですが‥‥」
 リースフィア・エルスリード(eb2745)の言葉を同じように思う冒険者達はあえて、正面から挑むことを決めたのだ。
「ここから先には死者の反応はない。待ち受けているのはゴーレム達だけのようだな」
 カンテラを掲げるメグレズ・ファウンテン(eb5451)。
 彼の照らす光の先には沈黙を守るゴーレム達がいた。
 おそらく、部屋に入れば動き始める。
 覚悟を決めた上で
「いきますよ!」
 フィーナの言葉と共に冒険者達は一気に部屋に踏み込んだのだった。
 最初に目指すは目的のゴールドゴーレムの守る部屋ではなく、この部屋の左隅。
 そこを拠点に戦うつもりだ。
 暗い影でよく見えなかったが、部屋はそう広くはなかった。
 一直線に並んだゴーレムとガーゴイル約10体分。
 それを直線とする正方形の部屋は隅まで少し全力で走れば着けそうに思えた。
 予想通り彼らの侵入と同時、ゴーレムとガーゴイルは瞳を開けたように動き出し、冒険者達に迫りくる。
 ゴーレムの攻撃は早く硬い。だが
「コアギュレイト!」
「飛刃、砕!」
 足止めの呪文と攻撃で、なんとか作った僅かな隙は攻撃の合間を縫って走る冒険者を守っていた。
「危ない!」
 声を上げるマックス。最後尾に近いところを走っていたエリンティアの背にガーゴイルの爪が迫っているのが見えたのだ。微かに爪がエリンティアの背を掠る。
 スクロールを広げている暇はない。思わず目を閉じ体を硬くしたエリンティアの頭上に
 ゴウッ!
 と風が音を立てて通り過ぎた。天井に叩きつけられたガーゴイル。
「急いで!」
 リースフィアに手を引かれなんとか壁沿いで仲間と合流したエリンティアは呼吸を整えながら
「ありがとう‥‥ございますぅ〜」
 黒く笑う聖母に微笑を返したのだった。

○最後の守護者
 いかに硬く強固な体を持ったゴーレムでも、ちゃんと準備をした熟練の冒険者達には実は大きな脅威ではない。
「フォーメーションは崩すなよ。焦らずに一体ずつ倒して行くんだ!」
「判っているのである!」
 現にこの戦いでも壁を背に前衛、中衛、後衛と陣形を組んで敵と向かってからは、戦闘の主導権は常に冒険者が握っていた。
「っと!」
 ゴーレムの攻撃を受け流した絶狼はその返しに足を狙うが剣の攻撃は弾かれる様な手ごたえを与える。
「しまった。ゴーレムにはバーストかまさなきゃならんかったんだなっ!」
「しっかりして下さいね」
 倒れたゴーレムを足場にして飛び上がり攻撃を入れるリースフィアと同タイミングで、絶狼はゴーレムの足元にバーストアタックをかけた。両足を奪われたゴーレムは地面に崩れ、やがて動かなくなる。
 数時間が経過し、幾度かのピンチはあったものの玲やポーションの力も借りて冒険者達は最終的にすべてのゴーレムとガーゴイルを倒すことに成功した。
「残るはあれだけですね‥‥」
 呼吸を整えるフィーナの視線の先には、まだ不動で佇むゴールドゴーレムがいる。
 ゆっくりと歩いていくフィーナ。
 その体がゴーレムの後方。『部屋』を目指している。と誰もが気づいた時、最後の敵は音を立てて動き出し、その拳を振り上げた。
「危ない!」
 などとは誰も言わない。言葉よりも早く、
「飛刃、砕!」
「くらえ! ソニック!」
 フィーナを庇う様にリルとメグレズが攻撃を入れる。
 ブンと音がするほど振り回された腕が、繰り返される攻撃で切り落とされても、冒険者もゴーレムはその動きを、攻防を止めることはしなかったのだ。微かに動きを鈍らせても‥‥。
 エリンティアがスクロールを開き呪文を唱える。
「ムーンアロー!」
 魔法は当たるが体に弾いて、やがて消えていく。
 多少なりとものダメージは与えているようだが、やはり魔法ではダメージが薄そうだった。
「怪我したら一人ずつ下がってくれ。治すから」
 心配する玲の言葉を背に、だが冒険者達は長期戦を覚悟して向かい合った。
 最後にして最強の黄金の守護者に思いを込めて。

○遺された思い
 フィーナは扉に両手をかけ強く押した。
 鍵のかかっていない扉は静かに開き、冒険者達を最奥の部屋へと招き入れてくれる。
「罠はぁ〜、無いようですねぇ〜」
 若宮天鐘のアドバイスを思い出しながら注意深く周囲を探るが異常らしいものは見つからなかった。
「ここが伝説の錬金術師の部屋、ですか‥‥。思っていたのとは少し違うようですね」
 フィーナは少し拍子抜けの顔で部屋を見た。
 特別な実験道具も、書物の一冊もそこには無かった。
 あるのはベッドに戸棚、テーブル。大きな鍋のかけられた竈のある台所。ありふれたどこにでもある家と同じ生活の空間であった。
 無造作に置かれた金塊や宝石。戸棚に飾られた水晶玉は部屋のアクセサリーのようでもあり、ベッドには子供が遊ぶような人形さえ置かれている。
 溜まった埃さえ取れれば普通に暮らせるようなその部屋に、ただ似つかわしくないものが二つあった。
 洞窟の端に小さく立てられた十字架と、その足元に横たわる白骨である。
 横には杖が転がっている。
 おそらく彼が遺跡の主である錬金術師なのであろう。
「彼はここで一人亡くなったのでしょうか。何を思って‥‥」
「『私はたどり着いた』」
「えっ?」
 冒険者達の顔が玲の方を向く。彼の手には一枚の肖像画と‥‥一枚の羊皮紙がある。
 机の上に置かれてあったこれは彼の遺言だろうと言った後、玲はフィーナに瞬きして、100年の時を超えた先達の言葉を静かに紡いでいった。
「『私はたどり着いた。だがそれは私にとっては意味の無い事だったと家族を失ってから気づくとは。
 金よりもずっと大切なものを私は最初から作れていたのに、金により何よりも大事なものを私は失った。
 いつか再びたどり着く者があればその者は同じ過ちを犯さぬようにと祈る‥‥』」
 冒険者達はおぼろげに察した。錬金術師と家族に何があったのか。
「あれだけの知恵を施した迷宮で、本当に守りたかったのは家族と自分の安息、ですか。どうやら彼は本当の意味での錬金術師には向いていなかったようですね」
 フィーナは静かに歩き竈の鍋の前に立つ。大きな鍋は澄んだ黒色。よく手入れされたそれはきっと薬や鉄を煮た事はあるまい。きっとこの鍋が煮たの料理でありそれを食べる人の笑顔。
 この肖像画のような‥‥。
「でも、人としては敬意に値する人だったのかもしれませんね」
 絵の中で夫婦と少女は幸せそうに、心からの笑顔で笑っていた。

 かくしてウィンスレットの迷宮は再び眠りにつく。
 閉じられた扉と、忠実だった守護者の前に捧げられた早咲きの花の香りに包まれて‥‥。