【黙示録】託された約束
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月25日〜04月04日
リプレイ公開日:2009年04月05日
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●オープニング
最初の出会いは敵同士だった。
「なんで、いきなり攻撃するんだよ! 僕はただ、依頼でこの遺跡を調べにきただけなんだってば!」
突然現れた巨人に、駆け出しの冒険者フリード・レグザムは声をかける。
『かえれ、だれも入れない。かえれ!!』
大きな棍棒を振り回し、聞く耳持たずの巨人。
「わっ!」
とっさに身をかわし、フリードは仕方ない、と弓を構えた。
だが
「えっ?」
矢を弓に番え、顔に向けたその時、フリードは気づく。
巨人の悲しそうな、寂しそうな、辛そうなそれらが入り混じった必死な顔に。
『ここはかみさまのだいじなおうち! やくそくした。だれもいれないって。かえれ! かえれ!!』
目元に涙さえ貯めているその表情に気づいた時、フリードは弓矢を降ろしていた。
『?』
「解かった。僕はこの遺跡に入らない。だから、もう攻撃しないで」
そして微笑み、手を前に差し伸べる。
「友達になろうよ」
と。
そしてフリードと巨人は友達になった。
正確には今は巨人ではないが。
彼はスプリガン。この遺跡を守る妖精だという。
『このおくにかみさま、ねむってる。起こすのだめ。だからまもる。やくそくした』
小さなパラのような姿になったスプリガンの横に座り、ふーんとフリードは頷いた。
「かみさま?」
『そう。かみさま。ぼくにここまもりなさいって。そして、これ、くれた‥‥』
これ、と差し出したものは不思議な光を放つ指輪。
小さな指には嵌められるが大きくなると無理なので長めの皮ひもで首にかけられている。
「別に悪いものじゃないよね。この指輪だって悪いどころかすごく、綺麗で安心できる感じなのに‥‥」
(「おかしいなあ? 僕にここの調査を依頼した狩人は何か良くないものが眠っているって言ってたのに‥‥。またデビルとか悪いアイテムとかがあるのかと思ったのに違うのかな?」)
『フーリード。どうした?』
考え込むフリードの顔を覗き込むようにスプリガンが丸い目で見ている。
「ああ、なんでもないよ。スプー。大事な君の神様のおうちに勝手に入ろうとしてごめんね。大事な人たちに物事を良く見て考えて行動するように、って言われてたのになあ」
お詫びにと差し出した焼き菓子。だが、それ以上に彼はスプーと、呼びかけられた事に目を丸くした。
『すぷー?』
「ああ、スプリガンだからスプー。ちょっと単純すぎた?」
『ううん! むかしかみさま、そう、ぼくよんだ。すぷーって! すぷーって!』
「そうか。僕も神様みたいにスプーって呼んでいい?」
『いい、いい。フリード。ともだち、ともだち!』
はしゃぐスプリガン。微笑む少年。
少年と妖精は友達になった。だが‥‥
それから数日後。
「どうしたんだ? 一体?」
いつものようにスプリガンに会いに来たフリードはいつもと違う様子に気づき、青ざめた。
周囲に感じるデビルの気配。
静かで平和だった森に一体何が‥‥?
「スプー!」
『フリード!』
フリードを見つけ駆け寄ったスプリガンも、この様子を察知しているようだ。
『デビル、来る‥‥たくさんじゃないけど‥‥くる』
「確かにグレムリンがいるね。僕も手伝うから、なんとかやっつけよう?」
『ダメ!』
「スプー?」
グレムリンは思いもかけぬ顔を見せ、フリードの言葉を拒否した。
『フリード、たすけよぶ。デビル、きっとまだまだ来る。だれか、たすけて! いって来て。つれて来て!』
「あ、ああ、そうか。僕ら二人だけじゃ倒しきれないかもしれないか。けど‥‥一人で大丈夫かい?」
『だいじょうぶ。スプーじょうぶ。まってる。だから‥‥』
「解かった。待ってて、必ず戻ってくるから!」
自分の青いスカーフをスプリガンの小さな手に巻いて、フリードは全速力で走り去っていった。
残されたスプリガンが巨人の姿に戻ったのも、彼の前に緑の服の狩人が現れたのも知らず‥‥。
そして、全速力で駿馬を走らせ二日後の夜。
脅威のスピードでキャメロットに戻ったフリードは、その足で倒れこむようにしながらも冒険者ギルドに依頼を出した。
「スプー、スプリガンの守る遺跡にデビルが近づいています。もう、多分襲ってきているから、誰か、助けてください」
デビルの数や種類はそれほど多くない。
「とにかく急いで。お願いします!」
フリードはそれだけ言うと、本当に倒れこんでしまった。
報酬はないに等しい。
「これは本当に急いだ方がいいな。それにこの子は‥‥気づいているのか?」
小さなつぶやきを口にした係員に爆睡するように気絶した少年は気づくことができなかった。
『生意気な』
緑の服を着た狩人は、そういうと足元に倒れる自分よりはるかに大きな体のスプリガンを蹴り飛ばした。
頬には微かな赤い線。
スプリガンの必死の抵抗のこれが結果である。
『冒険者にお前を殺させて遺跡を汚そうと思ったのに、冒険者と友になどなるから、計画が丸崩れだ』
もう興味をまったくなくしたようにスプリガンをもう一度蹴ると『彼』は周囲のデビルたちに命じる。
『お前たちは適当に遺跡を壊しておけ。冒険者が戻ってきたらやつらとそいつの血で遺跡を汚すのだ』
それだけ言って振り返ることなく去っていく『彼』にスプリガンは必死で手を伸ばす。
『フーリ‥‥ード』
違うな目を呼びながら‥‥。
●リプレイ本文
○決まっていた運命
親友を送り出した時から彼は、自分の運命を知っていたのかもしれない。
「そんな‥‥」
遺跡を取り巻くデビルたちを蹴散らし、最高速でたどり着いた冒険者達。
「君は‥‥」
だが、そこで彼らが見たものはあまりにも悲しく、悲惨な定められた結末だった。
「依頼を受けて下さってありがとうございます。どうか、よろしくお願いします」
依頼人フリード・レグザムは頭を下げる。知っている顔、知らない顔。歴戦の冒険者達が集まった。
「じゃあ、僕は先に行きます。スプーが心配なんです!」
彼らの参加を確認し、即座に振り向き走り出そうとする少年の襟元を
「まあ、待てフリード」
筋肉質の片手がひょいと掴み止めた。
「‥‥満さん」
名前を呼ばれた尾花満(ea5322)は彼の足が止まったのを確認し、手を首元から肩へと移す。
「元気にして居ったか?うちのが心配して居ったぞ。またどこかで無茶していないか、とな」
「あ‥‥すみません」
満の奥方はフリードにとって尊敬してやまない人物の一人、彼女の顔を思い出し自分の行動を省みて彼は小さく項垂れた。
「でも‥‥胸騒ぎが止まらないんです。今頃、デビルに囲まれてスプーは‥‥」
「心配なのはわかりますぅ〜でも一人で先走っては駄目ですよぉ、フリード君の実力では返り討ちに遭うだけですぅ、僕達と一緒に行きましょうねぇ」
「そゆこと。だからもうちょい、待ってくれフリード。俺らに同行する方が速い事は保障するからさ」
諫めるようにエリンティア・フューゲル(ea3868)は微笑む。空木怜(ec1783)も説得されて。
それでも、と食い下がるフリードに
「守ることなら、ばっちりだから、お姉さんに任せて! ね、いい子だから」
少し背伸びをしてティズ・ティン(ea7694)はわしわしと頭を撫でた。
年齢も背もフリードの方が少し上。けれどお姉さんのようティズと母親のようにも思う人、そして冒険者達の言葉にフリードは
「解かりました。お願いします」
ともう一度頭を下げた。
彼の言葉に手早く役割と分担を決めた冒険者は遺跡への道と場所、そしてフリードの知りうる限りの情報を受け取って、早速の翌朝キャメロットを飛び出す。
ある者は空から、ある者はフリードと共に地上を、そしてある者は中空を急ぎ走る。
「? どうしたんだ?」
そんな空を行く二人。怜はふと横を飛ぶジークリンデ・ケリン(eb3225)の表情に気づいて問う。
「いえ、胸騒ぎが‥‥フリードさんがあまり心配するから、でしょうか?」
静かに答えたジークリンデの思いは怜にも解かる。
頭の中から幾度と無く追い払った最悪の想像。
「とにかく急ごう。頼むぞ」
怜はペガサスの轡を上げた、跡はスピードを上げた。
それを振り切るように‥‥。
○残った思い
「スプー! どうして! どうしてこんな事に!」
「フリードさん」
死骸にすがりつきフリードは涙を流している。
王冬華(ec1223)はその肩に手を伸ばそうとするが、満に首を振られ行き場の無いその手を握り締める。
フリードの慟哭。
遺跡の守護者スプリガン。
彼の死骸は、遺跡の入り口にまるで冒険者に見せ付けるように高く掲げられていた。
「これは‥‥酷いのである」
歴戦の騎士であるマックス・アームストロング(ea6970)でさえ息を呑む。遺跡内のデビル達を蹴散らし、やってきた冒険者達にもそれは目を背けたくなる有様だった
全身に血の跡、爪の跡があり、手や腕の‥‥人間と同じであるなら骨のようなものも粉々になっている。
さらに四肢も引き裂かれ、側に打ち捨てられていた。
「僕が‥‥間に合わなかったから‥‥、もっと早く戻ってきていれば‥‥」
「それは、違う。フリード」
「えっ?」
怜はスプリガンの遺骸を見ながら首を横に振る。
「人間と同じ判断はできないけど、殺されて二日は経っている。きっと君がギルドにたどり着いた頃には」
「それじゃあ‥‥スプーは‥‥」
「たぶんね。自分が殺されるかもしれないのを解かってて、それでフリードを逃がしたんだよ」
「そんな‥‥、そんな‥‥」
冒険者に失敗は無い。だがそれ以上にデビルに慈悲は無かった。
圧倒的な数の敵をスプリガン一人が食い止められる筈も‥‥。
それでも、スプリガンは殺されること無く生きている。
そう思っていた冒険者達もそれぞれに噛み締める。
これがデビルであり、戦いであるのだと‥‥。
「それに‥‥あれを見るんだ」
怜が指差した扉の前には残像のように立つ影が見える。
「あれは‥‥スプー?」
「死んでなお、遺跡をあの子は守ろうとしているんだ」
「スプー! 僕だよ。フリードだよ!」
フリードは必死に呼びかけマロース・フィリオネル(ec3138)は静かに竪琴を奏でる。
鎮魂の思いの篭った子守唄をスプリガンの為に。
けれど彼はフリードの声も竪琴も聞こえないかのように、ただ立ちつくしている。
ゴーストになった彼を開放する方法はただ一つ。
「解かりました」
手で涙を拭いたフリードは改めて頭を下げた。
「どうか、この遺跡と彼を助けてください。お願いします!」
八つの首はためらうことなくまっすぐに頷いた。
○守れなかった願い
追い払われたデビル達が戻ってき始まったのは直ぐだった。
数を増やし遺跡を壊し、血で汚そうと集まってくる。
その数は数十。
「スプー殿は守れなかった。でも、この遺跡は絶対に守ってみせる!」
「幸い、体力は残っている。使う筈だった魔力もな」
聖なる釘でスプーと彼の守った遺跡の周りに結界を貼ってから怜は手に持った杭を握り締めた。
「遺跡の内部にはまだデビルは入っていないようです。スプーさん以外の反応はありません。その意味ではまだ間に合ったと言えるかもしれません」
マロースはデティクトアンデッドの結果を仲間達に告げる。
遺跡は小さな祠とそれを取り巻く神殿のようで、祠の扉は今も硬く閉ざされていた。
スプリガンを殺した彼らは中に入る方法を知る事ができず、今もなお扉の前に動かないゴーストに進入を阻まれ腹いせと別の入り口探しにあちらこちらを壊そうとしていたのだ。
冒険者がたどり着いたのはその直後。もう少し遅ければ遺跡の破壊が始まっていただろう。
「スプリガンに会いたかったですぅ〜。これは八つ当たりだと思ってくださいねぇ〜」
微笑みながらもエリンティアの目と紡がれた魔法は笑ってはいない。
「同感。蹴散らしてあげるわ!」
魔法の光を身に纏って冬華は鉄扇を翻す。
「皆さん。遺跡を傷つけませんように。ジニール。頼みましたよ」
ゴーストと遺跡の入り口を守るように飛んだジニールを確認し、
「フリード。無茶は駄目だよ。敵討ちなんて考えるのも駄目」
ティズは自分の後ろで矢を揃えるフリードを諫めた。
「フリードは自分が得意な方法で守ればいいんだよ。だから、私の後ろで弓で攻撃してね」
「解かっています。僕が先走って迷惑をかけたらまた、この間と同じだ」
寂しげに笑ってフリードは一度だけ振り返った。
ほんの僅かの間だったが確かに何かが自分達には生まれていた。
小さな友達。
「彼の為にも遺跡を守ります!」
「デビルの群れがきます」
「来たのである!」
マロースとマックスの声、そして白い粉とそれを巻き込む炎があげた爆発音が戦いの開始を告げ、冒険者達はデビルの群れに踏み込んでいった。
炎に巻き込まれ姿を消すこともできなくなったデビル達。ある者は杭に足を折られ、ある者は仕込み下駄に頭部を砕かれた。石化させられたデビルはまだましだったろう。
ホーリーの白い光が、ソニックブームが、そして祈りの込められた矢が、デビル達を退治していく。
気迫の篭った攻撃はデビル達を蹴散らしていく。
デビルをこれ以上、一歩たりとも遺跡に近づけない。
その決意と共に‥‥。
○託された約束
スプリガンの埋葬を終えた冒険者達は光の中、今も佇む薄い影の前に立った。
「スプー。遺跡は守ったよ。‥‥もう、眠っていいんだ‥‥」
「君が守りたかった神様は、俺達が必ず守ってみせる‥‥だから。お休み」
怜とマロースはそれぞれに祈りを捧げる。
強制的に浄化させる事もできる。
だが、できるなら自分の意思で彼には旅立って欲しかったのだ。
そんな気持ちが届いたのだろうか。今まで虚空を彷徨っていたスプリガンの目と心がフリードに、冒険者に向かい‥‥そしてやわらかく微笑んだ。
冬華の足元を指差すスプー。彼女は慌てて自分の足下を見た。
「これは?」
青いスカーフに包まれたそれは、小さな指輪‥‥。
『‥‥かみ、さま‥‥おね‥‥がい。ぼくの‥‥かわ‥‥り‥‥ま‥‥って』
「解かった。ちゃんと伝えるから」
手の中に指輪を握り締め冬華は頷く。
それを確かめて安心したのだろうか。気が付けばもう目の前の影は驚くほどに薄い。
「スプー!」
『フー‥‥リード。あり‥‥がと。だい‥‥す‥‥』
「スプー!!!」
マローネの光に包まれた神殿。
そこで泣きじゃくるフリードを、妻の代わりに満は父のように優しく、強く抱きしめていた。
いずれ、遺跡の探索をする事もあるだろう。
指輪を元の場所に戻し帰路に着いた冒険者達。
そこで二人の賢者はある会話をする。
「もしかしたらフリード君に依頼をした人物がデビルだったのかもしれないですねぇ、余りにもデビル襲撃のタイミングが良すぎますぅ。彼ではないかもしれませんが、おそらく上位のぉ〜」
「そのようですね。デビル達の記憶に指揮する者の存在が感じられました。緑の服のデビル」
「モレクかもしれない。‥‥許せないよ!」
人々を苦しめ、多くの者を不幸にするデビル。彼らの行く所、常に不幸が付きまとう。
「でも、このままにはしておかないのである!」
「ああ。必ず!」
「僕も戦います。スプーの命に懸けて!」
黙示録の時。
近く必ず起こるデビルとの対決の前に、冒険者達は託された約束を胸に、決意と思いを新たに前に進んでいった。