【子供達の領域】嘘つき少年の真実

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月10日〜04月15日

リプレイ公開日:2009年04月21日

●オープニング

 彼は嘘つき少年と呼ばれていた。
「なあなあ。俺、昨日、円卓の騎士に会ったんだぜ。将来騎士に取り立ててやるって言われたんだ」
 そんな言葉から始まった話はやがて、巨大怪物と共に戦った冒険譚となり、そして最後には
「アーサー王の息子なんだ」
 という大ぼらに終わる。
 彼はごく普通の商人の一人息子。
 取り立てて金持ちでも無いが、生活に苦労は無い平凡な少年だ。
 キャメロットから出たことも無く、両親も健在。
 ストリートの子供達や、店で働く使用人、近所の人間にすぐに嘘だ、というか夢だと解かるほら話をしているうちはまだ害は少なく、眉をひそめながらも悪く思う人間はそんなにいなかった。
 だが、それがある時期から一変する。
「通りの向こうで、デビルが出た!」
「グレムリンが姿を消して近づいてくる」
「大変だ。お前のところの子供がデビルに攫われたぞ!」
 丁度黙示録の時、キャメロット周辺にデビルが現れるようになり、人々がデビルの恐怖におびえ始めた頃の事であっただけに嘘つき少年の言葉でも人々は信じ‥‥そして騙された。
「ハッハハハ! 騙されてやんの! ああ可笑しい」
 そのつど大爆笑する少年に騙された人々は怒り、それが繰り返されるにつれ、少年の言うことを誰も、家族でさえ信じなくなった‥‥。

 そんなある日の事だ。
「大変だ! 俺の友達の家にデビルが潜んでいるんだ!」
 一人の少年がギルドにやってきてそう、告げたのは。
「デビルが人間の家に?」
 ニクトと名乗った少年は、近くの小さな家にデビルが住み着いていると話し、退治して欲しいと依頼を出したのだ。
「その家はさ、俺の父さんの知り合いがストリートの子供に貸してる孤児院みたいなとこなんだ。そこのチビが最近黒猫を拾ってきた。でも、その黒猫はデビルなんだよ。俺は見たんだ。その猫が翼を生やして飛んでいるところとか、黒い影みたいな奴と人間の言葉で話をしているところをさ!」
 人影に気づいた猫はこちらを見て、にやりと笑うと闇の中に消えていった。
 そして、ごく普通の猫のように翌日、子供達の腕の中に抱かれて見せたという。
「俺、言ったんだ。その猫はデビルだって。そいつらに。でも‥‥」
『なあ! レン! 信じてくれよ。あの猫は本当に化け物なんだ。きっとデビルなんだって』
『そんな嘘はもうたくさんだ。この間だってお前、チビどもが襲われてるって俺を騙して菓子を盗んでいったじゃないか。もうじき俺は家を出る。残されるあいつらの励ましになってくれるあの猫の悪口を言うなら許さないぞ!』
「誰も信じてくれなくて‥‥」
 だから、冒険者に依頼しに来たのだと彼は言う。
「あの猫を退治してくれよ。あいつが、連中に悪いことをしないうちにさ! お願いだ!」
 もし、この場に彼をよく知るものがいればこう言っただろう。
『そんな依頼受けるのはおよしよ。あの子は嘘ばっかりついているんだから、今度もまた嘘に決まってるよ』
 守って欲しいと願われた子供達も、こう言うに違いない。
『うっそだ〜! ニクトの言うことなんか信じないよ。こいつは僕らの友達なんだから!』
 噂を知らないから、冒険者ギルドは依頼を出す。
 一生懸命に集めたであろう小銭の報酬と、外で彼を待っていた小さな黒猫を信じて‥‥。

●今回の参加者

 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

アルミューレ・リュミエール(eb8344

●リプレイ本文

○寂しい嘘
 依頼人の少年ニクト。
 彼に対する周囲の評判はすこぶる悪い。
 近くの家の女の子は言う
「だって、あの子いっつも嘘ばっかり言うんだもん。この間もおいしいお菓子をタダで配ってるって言うから行ったら嘘だったの。がっかり」
 近所の男性は怒ったような顔で腕を組む。
「デビルが出た。早く避難しないと家が燃やされるよって言われた時は焦ったぜ。結局嘘で扉に落書きがしてあった。許せんよ」
 まだいくらか好意的だったストリートの子供達。だがその纏め役の少年レンでさえこう言う。 
「だってあいつさ〜、俺達の大好きな女の子がケガした。なんて言うんだぜ。仕事放り出して行ってなんでもなくておやじさんにうんとこさしかられたんだ」
 だから冒険者が彼から依頼を受けたと聞くと人々は皆、一様にこう言う。
「そんな依頼受けるのはおよしよ。あの子は嘘ばっかりついているんだから、今度もまた嘘に決まってるよ」
「まさに嘘つき少年って奴か。なんだって嘘なんかつくんだか」
 リース・フォード(ec4979)はため息をつくように大きく息を吐いた。
「注目して欲しいんですよぉ〜。たぶん〜。お父さん、お母さんは仕事で忙しい。嘘をつくことで注目して欲しい。自分の行動で人が動くのを見るのが楽しい。まあ、甘ったれと言われても仕方が無いですぅ〜。信じてもらえないのも自業自得でしょうかぁ〜」
 エリンティア・フューゲル(ea3868)はにっこりと笑顔で、だが容赦の無い真実を告げる。
「まあ、確かにな。でも誰にも信じてもらわれへんくても、諦めんと俺らに頼んだんや。なかなか友達思いのエエ子やと思わんか?」
 微笑するジルベール・ダリエ(ec5609)にそうですね。とソペリエ・メハイエ(ec5570)も頷いた。
「あくまで私の主観ですが、子供達を救いたいという気持ちは嘘ではないと思いました。‥‥ですから私は信じる事にします」
 ソペリエの言葉を否定するものはいない。
『騙されたのならそれでいい。後から信じてやれなかったことを後悔するくらいなら私は愚か者になろう』
 そう言ったのは誰だったか。だが、その気持ちは皆同じ。だからからこそ彼らはここにいる。
「嘘というのは薬のようなものでござる。時に人を救い、心を癒すが使い方を誤ると人の心を傷つけてしまうのでござる。嘘は正しく、用法用量を守って使いましょう。なのでござるよ」
 シーン。
 静まり返った周囲に
「な、なんでござるか? ほら、そこでツッコんでくれないと!」
 猫の着ぐるみでほらほら、と盛り上げようとする葉霧幻蔵(ea5683)。けれど今回の静寂は別にギャグが滑ったからではない。
「なかなか良いことをいいますねぇ〜。ゲンちゃんの言うとおりですぅ〜」
 最高の笑みを浮かべるエリンティアにリースも同意するように頷く。
「ああ、そうであるなら今回の嘘は間違った嘘だな。人を傷つけるだけの寂しい嘘だ」
「へっ?」
 思いもかけない賛辞に目を丸くする幻蔵をだがしっかりスルーしてエリンティアは仲間達の方に向かい合う。
「とりあえずぅ〜、下調べをしてぇ〜、本当だったらデビルを退治しましょ〜。いいですよねぇ〜」
「それでエエと思うよ、ニクトと子供達の関係回復は本人が頑張るしかない。俺らができるのは手伝いだけやからね」
「デビルの確認は魔法を使えばすぐに。あとは‥‥」
「あ、拙者も手伝うでござるよ。あそこの子供達とは実はちょっと顔見知りで‥‥」
 打ち合わせを始める冒険者達。
 その輪に入りながらリースはある一つの思いを胸に抱いていた。

○眩しい願い
 家の中からはにぎやかで、楽しげな声が聞こえてくる。笑い声、楽器の音。
それを眩しそうに聞き、じっと見つめていたニクトは
「俺は‥‥いいよ」
 子猫を抱いたまま、そう言って首を横に振った。
「デビル、いるんだろ?」
 ニクトの言葉に黙ってソペリエは頷く。
「デティクトアンデッドに反応がありました。間違いなくデビルの類です。猫がそうであると断言はできませんが、屋敷の中にデビルがいるのは間違いないでしょう」
「だったら兄ちゃん達がデビルをやっつけてくれよ? 俺、信じてるからさ」
「‥‥駄目だよ」
 逃げ出しかけたニクトの手をリースはしっかり捕まえ首を横に振る。
「デビルの退治は俺達がやる。だけど、猫がデビルであることを子供達に知らせ、猫を手放させる。それは‥‥君がやるんだ」
「無理だよ! 皆は俺の言うことなんか聞いてくれない。信じてくれないよ!」
「それは君が嘘をつき続けていたからだ。どうしてどうして嘘をつくんだい? 皆をからかって、慌てふためいているのが、見ていて楽しい? それだけ? 本当は寂しいんじゃないのか? 誰かに相手にして欲しい、そんな思いは?」
 ニクトは頭を下げる。返事は返らない。力の入った腕に抱かれた子猫が小さな声をあげた。
「けれど、こんな事を繰り返しても友達は出来ないよ。今回の事でよく分かっただろう?信じてもらえないのは苦しい。でも心の殻を外さなくっちゃ誰も自分を分かってくれようとなんてしないさ」
「きっと最初で最後のチャンスや。嘘つきて思われたままなら、いざってとき誰も助けてくれへんし、大事な人も助けられへん。大丈夫、冒険者に頼んでまで助けたい友達やろ? ちゃんと話したら、きっと信じてくれるわ。ニクトも友達を信じるんや。な?」
「‥‥うん」
 リースとジルベールの言葉に嘘つきと呼ばれた少年は、驚くほど素直に頷いた。無言でぽん、とニクトの背中を叩く男達二人。彼を守るように佇むソペリエと共に
「それじゃあ、いきましょ〜か」
 冒険者達は扉を開けた。

○明かされた真実
 白い光が部屋に広がる。包み込むようなその暖かい光の中で
「嘘だ!」
 子供達は目の前で起きている事柄を信じられずにいた。

 ついさっき、扉を開けて中に入ってきた人物達に屋敷の中で、彼らのリーダー少年の送別会をしていた子供達は瞬きをした。
 見たことがある顔、名を知る者も憧れるものもいる。彼らは冒険者。
 冒険者だけなら大歓迎だ。だが、同時に入ってきた人物に子供達は眉を上げた。
「なんだよ! ニクト。嘘つきは出て行けよ!」
「待て!」「待つのでござる」
 リーダーであるレンと冒険者であり、大好きな幻蔵が止めなければ追い出しかねなかった子供達にニクトは一度だけ、助けを求めるように後ろを向く。
 頷くリースとジルベールと目を合わせて‥‥ニクトは子猫を抱きしめ声を上げた。
「その猫から離れて、逃げて! そいつはデビルなんだ!」
「まだそんな事言って!」「嘘はいい加減にしろよ!」「そんなに言うなら証拠を‥‥あっ!」
 くってかかろうとした子供達は気づく。いつの間にか彼らと共にいた筈の黒猫が入り口から遠ざかるように部屋の奥に逃げていた事を、そしてソペリエの手に抱かれていることを。まるで凍りついたように動かず‥‥。
「お姉ちゃん。そいつを放して!」「ニクトの言うことなんか信じないでよ!」
 足元に寄りかけた子供達を一瞥してからソペリエは、子供達ではなくニクトに呼びかけた。
「ニクトさん。あなたは私の言葉を信じて魔法を受け入れる事ができますか?」
「うん!」
 躊躇いの無い返事に微笑んだソペリエは今度は子供達に呼びかける。
「これから私が使う魔法は邪悪な存在にしか効果のないものです。それをニクトさんと黒猫にかけてみせて証明します!」
 彼女の言葉と同時、白い光が部屋に広がった。何事も無いように立つニクト。そしてそれとは正反対に
『ぐっ!!』
「わあっ!」
 ソペリエの手の中にいた黒猫は悲鳴をあげると魔法を渾身の力で抵抗し、強くソペリエをその足でけり倒した。
「嘘!」
 子供達の前に立つのは巨大な蝙蝠の翼を持つ黒豹。
 紛れも無いデビルだった。
 冒険者達はデビルと子供達の間に割り込み、庇うように向かい合う。
 子供達を襲うかと思われたデビルは、くるり背を向けると窓に向けて飛翔する。
「逃がすかい!」「ムーンアロー。あのデビルを!」「ライトニング‥‥!」
 行く筋もの攻撃がデビルを追うが、子供達の微かな悲鳴が、ほんの一瞬それを躊躇わせた。結果
「えっ?」
 窓の外から放たれた黒い光がデビルへの攻撃を弾き、その逃亡を許してしまう。
「しまった! ‥‥!」
 追いかけたジルベール。だが全身で感じ動けなかった。
 圧倒的な力の差を。闇への恐怖を。

○始まる何か
「レン、皆‥‥今まで、ごめんよ‥‥。この子‥‥貰ってくれないか?」
 頭を下げ、躊躇いがちに手の中の子猫を差し出すニクト。
「どうする? 皆?」
 小さく微笑し問うレンと子供達の様子を確かめて後、冒険者達はその場を黙って離れた。
「ここから先は、ニクト次第だ」
「そうですねぇ〜。でも大丈夫だと思いますよぉ〜。もう、あの子はちゃんとわかっているようですからぁ〜」
『これから皆と仲良くしたいのでしたらぁ、後はどうすれば良いか分かりますよねぇ』
 エリンティアは思い返す。自分の言葉に返したニクトの思いが嘘でないのなら、大丈夫の筈だ。
「でもあのデビルは一体、何の為に現れたんだ?」
「ずいぶん、あっさりと逃げていきましたね。下級デビルだったのでしょうか?」
「‥‥ちゃう」
「えっ?」
 ソペリエは小さく呟いたジルベールの言葉に顔を向けるが彼はそれ以上は何も言わなかった。
 確証は持てない。だが、あの影を見た時の背筋を走るような恐怖が現実であるなら‥‥
「また、何か悪さをするかもしれないのである。油断は禁物であるな。リーダーであるレン少年も独立することであるし」
 まだ何かが起こる。これは前哨戦に過ぎないのだとそんな思いが、予感がジルベールのみならず冒険者達の心から離れなかった。

『詰めが甘かったな。まあ、よい餌場を見つけたという事で許そう。向こうとこちら‥‥これからが楽しみだ‥‥』
 子供達の仲直りと、冒険者達の不安を空の上から黒い影達が楽しげに見つめていた。