【血の宿命】呪われし宿命

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月09日〜05月14日

リプレイ公開日:2009年05月16日

●オープニング

 彼女は何より自分自身を憎んでいた。
 どうして自分だけ、ハーフエルフに生まれたのだろう。と。
 自分が弟と妹を守らなければならないのに、いつもこの身は弟達に守られるばかり。
 自分がいなければ彼らはもっと楽に、幸せに生きられた筈なのに。
 そしてあんな目に合う事も‥‥。

 暗い廃屋の片隅で彼女は膝を抱えていた。
 買出しに出たときのままで蹲る姉を
「姉さん。もう止めようよ。ユーイの敵は討ったんだから。後はもうキャメロットを出て静かにさ‥‥」
「嫌よ!」
 心配そうに覗き込んだ弟に、彼女は吐き出すようにそう応えた。
「ユーイを殺した奴は確かに殺したけど、彼女を苦しめた連中はまだいるわ! そいつら全部に思い知らせないうちはユーイだって浮かばれないわ! それに‥‥」
 彼女は目を閉じる。思い浮かぶのは妹の笑顔。
『私ね、ハーフエルフの人を好きになったの。姉さんと同じよ』
 幸せそうだった妹。それを踏みにじったのもまたハーフエルフだったのだ。
『人間なんてすぐ消えちまうような蝋燭みたいな命のくせに!』
 立ち上がり拳を握り締める。
「私はエルフも、ハーフエルフも許せないの。だから教えてやるのよ。呪われた宿命を持つ私たちは人に関わっちゃいけないって!」
「姉さん‥‥」
 唇を噛み締め立つ姉。
 その苦しみを誰よりも知っているから、彼は最後まで着いて行こうと決めていた。
 
「いつだったか聞いた事があるの。ハーフエルフが人間やエルフと結婚した時には相手の種族で子供が生まれるって‥‥」
 ギルドのカウンターで独り言のようにトゥルエノ・ラシーロ(ec0246)は呟いた。
 エルフと人間の間に生まれたハーフエルフはある意味、半端者。
 種としては弱い存在なのだ。
 ハーフエルフとしての種を残す事ができない。
 ただ一つの例外を除いては‥‥。
「けれどハーフエルフとハーフエルフの間にはハーフエルフの子供が生まれることがある。人とハーフエルフとエルフのどれが生まれるかは解らない‥‥」
 ハーフエルフからハーフエルフが生まれる可能性はこの場合だけ。
 そして通常この場合のみハーフエルフと人間のきょうだいが生まれる可能性がある。
 彼女の仲間にもハーフエルフと人間のきょうだいがいるが、この例である。
(「私や、マティアスは例外なのよね‥‥」)
 自嘲するように笑って、トゥルエノはまた真剣な顔になった。
「あの時、ハーフエルフの男を刺した女は間違いなくハーフエルフだった。そして彼女を姉さんと呼び矢を放った男は‥‥人間だった」
 年齢から考えても彼らもそのケースに当てはまると思われた。
 ハーフエルフの両親を持つきょうだい。それが何故ハーフエルフを襲う通り魔になどなったのか。
 考え悩むトゥルエノは気がつかなかった。
 ギルドに来客が来たのも、係員がそれに応対し
「おい。依頼人だ」
 と声をかけるまで。
「えっ? 私に?」
 振り返ったトゥルエノの目の前で一人の女性が、静かに頭を下げた。

 エナと名乗った女性はある男性を探して欲しいとトゥルエノに申し出た。
「人探し? だったら悪いけど‥‥」
 他をあたってと言いかけたトゥルエノだが
「彼の名はギアと言います。姉であるハーフエルフの女性と一緒にいる筈です」
 その言葉に声を止め息を飲み込んだ。
「ギア‥‥? ハーフエルフ? まさか!」
 はいと頷くエナ。
「彼が人を傷つけ、殺める手伝いをした事は承知しています。でも、彼は悪くないんです。妹の仇をとろうとしただけなんです!」
「どういうこと?」
 トゥルエノの問いに彼女は告げる。
 ハーフエルフの娘レニエラとギア、そしてエナは幼馴染であったという。
 もう一人レニエラ達の妹ユーイと共によく遊んでいたのだと。
「ただ‥‥、最初はギアの妹だと思っていたレニエラさんがハーフエルフだと知ってからは家族に止められてあまり近づくことはできなくなりました。レニエラさんがお父さんに連れられて家を出てからもハーフエルフの子としてギアとユーイさんはいろいろ苦労したみたいです」
 そんなある日、ユーイが遺体で見つかった。
 川に投げ捨てられていた彼女は本当に酷い状態であったという。
 だが犯人は解らず、母親は心労の為、病に倒れ亡くなった。
 それから数日後、悲しみに沈むギアの元にレニエラが現れ‥‥二人は街から姿を消した。
「後から聞いたら、ユーイさんはあるハーフエルフと恋をしたのだとか。でも、そのハーフエルフはたちの悪いごろつき崩れで彼女を弄んだ末捨てたのだそうです。その後、その男は裏町で顔役になったそうですが‥‥」
「まさか! この間殺された男は?」
 トゥルエノの声にはいと再びエナは頷く。
「多分‥‥。今、レニエラさんとギアのうちや周辺はその男の部下達が必死に二人を探しています。おそらく復讐をしようとしているんだと‥‥」
 彼らに二人が捕まればただでは済むまい。下手をすれば殺されたユーイの二の舞になるかも。
「お願いです。二人を探し出して下さい。そしてできるなら遠くに逃がして欲しいんです。それが無理ならせめて王宮騎士団に出頭させて下さい。そうすれば命までとられることは無い筈です」
 エナの願いは真剣なもので、断る理由は無い。
 逃がすわけにはいかないが、親友もいる騎士団の元で審問を受ければ情状酌量される可能性はあるだろう。
 それに‥‥
「解ったわ。私も、できるなら彼女と話がしてみたいから」
 ハーフエルフであるがゆえの苦しみ悲しみを彼女は知っているだろうか。

 父と母、妹に友‥‥そして親友。
 トゥルエノはいくつもの顔を思い出しながら宿命を理由に先延ばしにしていた事に決着をつけなくてはならない日が近いことを感じていた。。
 

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec0246 トゥルエノ・ラシーロ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec0502 クローディア・ラシーロ(26歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4310 ラディアス・グレイヴァード(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ラティアナ・グレイヴァード(ec4311

●リプレイ本文

●茨の子
 ハーフエルフと言う存在。
 そのものは、決して呪われたものではない筈だと言う者がいる。
 何故なら彼らの多くは深い愛ゆえに結ばれ、その命を紡がれたのであるから。
 だが、当事者に言わせればそれは現実を知らない者の甘い夢と言われるだろう。
 ハーフエルフとして生まれた者の多くに安住の地はごく僅かしかない。
 偏見と戦い、さらに自分自身の狂化とも戦わなければいけない。
 それは正に茨の道だろう。
「でも‥‥僕は、本当ならハーフエルフに生まれたかったよ」
 そう言うとラディアス・グレイヴァード(ec4310)は仲間達に寂しげに笑って見せた。
「ディー? どうしたの?」
「なんでもないよ」
 横で、彼を真っ直ぐに見つめる妹ラティアナ・グレイヴァードの頭を撫でながら。
「‥‥‥‥‥‥」
 仲間達は彼の思いにかける言葉を捜し、やがてそれを放棄した。
 彼の思いは知らない者が望まれず口を出していいものではないからだ。
 人間とハーフエルフ。
 同じ腹から生まれながら違う宿命を背負わされたきょうだい。
 それ故に冒険者達が追う犯人は自ら更なる茨の道を苦しみ歩んでいる。
 家族を殺した相手への復讐という。
「彼女らは同じ‥‥か。遺される者と置いていく者。どちらの苦しみが大きいかなんて俺にはわからんがな」
 二人を見つめ、小さく苦笑しながらマナウス・ドラッケン(ea0021)は呟く。
「それでも。復讐のみならず自らを否定し、自らの種さえも否定する彼女は間違っています。‥‥なんとか、救って差し上げたいのです」
 クリステル・シャルダン(eb3862)も手を前に組み祈るように告げた。
 彼らはエルフ。
 その長生故に、常に見送る者、である。その思いは深い。
「救う、か‥‥。私は彼らの復讐の気持ちそのものを否定するつもりはないな‥‥」
「レイアさん!」
 レイア・アローネ(eb8106)の言葉にシルヴィア・クロスロード(eb3671)は声を上げた。
 シルヴィアは王宮騎士。
 復讐による殺人を許せる立場には無い。それをわかった上でレイアは彼女の真っ直ぐな瞳に応える。
「復讐を肯定する訳ではないよ。ただ、愛するものを殺されたりしたら、理屈ではない感情が生まれるものだろう?」
「それは‥‥」
 否定できない真実に言葉を失うシルヴィア。
 騎士として光の道を歩んできた彼女とて、暗い思いを抱くことはある。
 もしあの人が殺されたら‥‥そう思うだけで胸は痛みを帯びる。
「でも、レニエラはそうじゃない。いえ、そうだったかもしれないけれど今は違う」
「トゥルエノさん‥‥」
 冷静に、静かにこの中で一番犯人の思いに近い感情を知るであろう親友トゥルエノ・ラシーロ(ec0246)は犯人の『思い』を否定した。
「事情を知ったからこそ、彼女達を放っておくことなどできない」
 自ら茨の中に閉じこもり、人を傷つけることで自分も苦しんでいる彼女を‥‥
「?」
 シルヴィアは瞬きをした。
「救うために。‥‥皆、行きましょう‥‥」
「罪は罪として裁かれねばならないものと思います。私にできる全力でお手伝いをさせて頂きます」
「無論だね。聞いたところによると依頼が出るまで、すでに数名、ごろつきどもを手にかけているらしい。あの子達がこれ以上無意味な罪を重ねないうちに止めないと」
 顔を上げたトゥルエノは同じ思いの仲間達に微笑みかける。
「ありがとう。フレイア。‥‥クローディアも。皆で役割を分担しましょう」
「彼女らが殺めたごろつきの部下達もまた復讐を狙っていると聞く。彼らよりも早く確保せねばな」
 フレイア・ヴォルフ(ea6557)やクローディア・ラシーロ(ec0502)に尾花満(ea5322)を加え冒険者達は打ち合わせを始める。
 だがシルヴィアは‥‥
「トゥルエノさん。貴女は、ひょっとして‥‥」
 さっき彼女が浮かべた表情が気になって一歩遅れた。
「シルヴィア! 何しているの?」
 呼ばれ輪の中に入るまで、いや入ってからも彼女は考えていた。
 トゥルエノとある人物。その背中を見つめ、疑問を胸に抱きながら‥‥。

●追う者達
「おらおら! 隠し立てするとタダじゃおかねえぞ!」
 樽を蹴り飛ばし、人々の胸倉を掴み、男達は遠慮という言葉の存在を知らず町を練り歩いていた。
「頭を殺した奴は俺らの仲間を手当たり次第殺してるんだ。捕まえねえうちは、夜もおちおち眠れやしねえ」
「とっとと探し出してカタつけるんだ!」」
 そう言って他人の家の中まで探して人探しをする男達。
 下町で彼らを止められるものなどいない筈なのに、
「そこのあんた達。ちょっと待って。聞きたいことがあるのよ」
 彼女はまったく怯えた様子も無く微笑みさえ浮かべて、彼らの背後から声をかけた。
「なんだあ?」
 振り返った男達。そこには女戦士が立っていた。
 すっくと立った美しい姿勢。逆光からでも整った顔立ちが見える。
 普段であれば上物の女、と舌なめずりでもしたところであろうが、今回ばかりは様子が違った。
「その耳! お前、ハーフエルフか!?」
「まさか、頭を殺したのは!」
「馬鹿ね。ちゃんと話を聞きなさいよ」
 ナイフを取り出し、襲いかかる男の一人からひょい、身をかわすと彼女は二枚の絵を差し出した。
「貴方達、ボスを殺したハーフエルフを探しているんでしょ? でも、顔、ちゃんと解って探してる? 私達もそいつらを追っているのよ。情報を提供なさい。そしたら私達の情報もあげるわ。協力して探した方が得策だと思うわよ」
「うっ‥‥」
 言葉を失う男達。
「うるさい! ボスだけじゃないあいつらには俺達の何人かもケガを追わされたり、殺されたりしてるんだ。お前らなんかに横取りされるわけには‥‥」
 あくまでも面子にこだわる男達。だが、それでも暴力に生きるものたちだ。
「ふーん、そう?」
 目の前の女戦士が自分より実力が上であることも、その彼女が徐々に怒りを纏い始めていることも全身で感じていた。
 しかも気がつけば女は一人ではない。
 背後にもう一人、いや二人いる。女性ではあるが、かなりの実力者と男達ですら理解できた筈だ。
「冒険者か‥‥お前ら」
「交渉する気がないならそれでもいいわ。私の友人には王宮騎士もいる。彼女に連絡をとればいいんだから。いねえ? フレイア。クローディア」
 呼ばれた女性は瞬時に動く。一人は手前の男を蹴り飛ばし首元にダガーを突きつけ、もう一人は十字を切って小さな呪文と共に
「うわっ!」
 男の一人の身体を縛った。
 圧倒的な力の差。実力の差‥‥。
「わ、解った! 知っている事は教えてやる。その代わり二人を見つけたら必ず俺らに知らせてくれ」
「さあ、それは得られた情報次第ね」
 腕を組み、さあ、話しなさいと言うように立つ女戦士トゥルエノに男達は頭を下げながら、洗いざらいを吐き出させられたのだった。
 数刻前の彼ら、その傍若無人さを知るものがいたら驚くほど素直に。

「あいつら放っておいて良かったのかい?」
 場から離れたフレイアはトゥルエノに問いかけた。
「別にいいわ。どうせ後でシルヴィアが片付けてくれるだろうから。奴らの確保とか余罪の追求は騎士団に任せましょう」
 私達は忙しいしね。
 今回少し行動が噛みあわなかった友人の顔を思い出しながらトゥルエノは苦笑するように微笑んだ。
「しかし、最低な男だったんだな。殺されたハーフエルフって奴は」
「そうね‥‥」
 フレイアの言葉にそう答えながらトゥルエノも唇を噛み締めずにはいられない。
 死んだ人間のことを悪く言うべきでは無いのだろうが、それでも情報として聞いた彼らのボスであった所のハーフエルフの性質は女性陣達を嫌悪させた。
 沈着冷静で、優れた頭脳と技を持った戦士。
 彼は、女性と肌を合わせると狂化し、サディスティックになると。
 結果相手の女性、その多くが、傷つけられ辛い目に合わされた。
 彼の手で亡くなった女性も一人や二人ではなく、復讐を狙う相手もレニエラ達だけでは無かったろうとの話を聞いて冒険者達は、僅かではあるが安堵の息を浮かべたものだった。
「その辺が理解されれば情状酌量の余地も出てくれるかもしれないわ‥‥」
「ああ。だけどユーイという女性は逃げ出したようだった、と言ってたね。彼ら自身が殺めた訳ではないのか‥‥。いや、今までの悪行もあるから、これ以上の強行を防げれば‥‥まだ救いはあると思いたいね」
「ええ、これ以上の罪を犯させちゃいけないわ」
 仲間達と情報のすりあわせをしようと歩き出す二人の背後。
「それでも復讐という最悪の方法を何故、彼らは選んでしまったのでしょうか?」
 心から解らないと言うような口調で息を吐き出すクローディアに
「何故って‥‥」
「刃を向ければ自分にそれが返ってくるのは当然のこと‥‥考えればわかると思うのですが‥‥」
「貴女は本当に幸せに育ったのね」
「えっ?」
 トゥルエノが浮かべた微笑に、言葉にクローディアは返すものが無かった。
 なんとも形容の仕様がない、だがあえて言うなら笑顔の涙のような『言葉』がそこにある 
「‥‥頭では解っていても身体と心が言うことを効かない。何かに思いをぶつけなければやりきれない。それが人を強く想うということ。貴女にそんな思いが無いのならそれはとても幸せなことだと思うわ」
 その言葉の意味をまだクローディアは理解していない。フレイアは解るのだろうか。
 けれど、犯人達を捕まえなくてはならないという思いは間違いなくあるし、その為に全力を尽くすと言う覚悟はある。だから
「行きましょう」
 前を行く二人の後を、クローディアは追いかけていった。

 下町の住人とはいえ相手は人間である。
 力で脅されれば嫌な気持ちになるし、丁寧に頼まれればいい気分にもなる。
「突然お伺いして申し訳ないのですが、ハーフエルフの女性か、30代くらいの外見の男性がこちらにお買い物に来た、ということはありませんでしたでしょうか?」
 美しい物腰でそう問いかけるクリステルについさっき、ごろつき達に怯え逃げるように知らないと応えた雑貨屋の女性は、そうだねえ、と思い出すように考え出した。
「ハーフエルフの女、はともかく中年の男性がうちに買い物に来るのは珍しいからねえ。見れば気がついただろうけど‥‥」
「そうですか。ありがとうございます」
 頭を下げたクリステルに思い出したことがあったら知らせると、彼女は約束してくれた。
「なかなか手がかりは見つからぬな。他の皆はどうだろうか‥‥」
 数歩下がってクリステルを護衛していた満が肩を並べる。
「何か解っているといいのですが‥‥」
 クリステルは祈るように手を前に組んで呟いた。
 今のところ彼らの捜索範囲は全て空ぶりだった。
 かつて家族と暮らしていた家、一緒に遊んでいた場所、お気に入りの場所など。
「逃亡というのは不安なものです。よく見知った場所にいるのではないかと思ったのですが‥‥」
「そう言えば、フレイアが言っていたな。妹が死んでいるなら彼女の墓とか亡くなった場所になにか手がかりはないだろうか、と」
「そうです! そのとおりですわ!」
 ここで初めてクリステルの顔が明るくなった。
「復讐をなし終えた後です。墓前に報告をしているかも知れません。行ってみる価値はありますわ」
「よし! 確か場所をマナウス殿達が聞いていた筈だ」
 彼女達が歩き去って暫くの後。
「保存の利く食べ物を一週間分ずつ、二人分を」
 そう言って買っていった男性が現れる。
 雑貨屋の女性はそれをどうさっきの冒険者に伝えたらいいかと考える事となったのだった。

 少女ユーイは墓所の隅の隅、母親の墓の隣に静かに眠っていた。
 墓は、きれいに掃除がなされており、花も手向けられている。
「枯れたり、しおれたりもしていない‥‥。誰かが掃除をしているのは間違いないな」
 供えられた白い花を手に取りながらマナウスは呟いた。
 似顔絵描きや情報収集に強力してくれた犯人達の幼馴染エナ。
「エナではないそうだから、弟か姉‥‥おそらく弟の方だな。姉の方は目立ちすぎる」
「と言うことは、ここで待っていれば弟さんの方は、確かめられるのでしょうか?」 
 クリステルの期待に多分、無理であろうとマナウスは首を横に振った。
「墓参りっていうのものはそんなに何度もするものでは無いからな。誰かが一人、見張って、後は調査を続ける方が良いと拙者も考える」
「そうですね‥‥」
 クリステルはもう一度、墓石の前に立ち膝をつくと、十字を切って手を合わせた。
「ユーイさん。どうか力を貸して下さい。貴女のきっと大事な人を救う為に‥‥」
 その祈りが通じたのだろうか?
「おーい。みんな〜〜」
 手を振って向こうからラディアスが走ってくる。
 息を切らせているが顔の表情は明るい。 
「彼ららしい人物を見つけた。来てくれるかい。検証に人手が欲しいんだ」
 冒険者達は一度だけ振り返ると、仲間の下へと歩いていく。
 残された墓石の上の花が、クリステルの祈りに応えるように風に揺れていた。

●復讐という名の八つあたり
 灯台元暗しという言葉は後の世の言葉ではあるが、意外なことに彼らは冒険者にとって意表をつく場所にいた。
「冒険者街か‥‥」
 川沿いの小さな一軒家に彼らは暮らしているようだった。
 なるほどここならハーフエルフがいても目立つまい。
 ごろつき達も下手に手を出せないはずだ。
「周囲の聞き込みからも、ハーフエルフと人間が一緒に住んでいる情報が聞けた。間違いはあるまい」
 マナウスは頷く。
 30代の人間と20代前後のハーフエルフとなれば隠してもかなり目立つ存在であるからそこにいると解れば調査は比較的容易であった。
「彼らは中にいるのでしょうか?」
 問うクリステルにラディアスは首を横に振る。
「そこまでは確認してない。買出しに来てた男の方を着けて来たから弟の方がいるのは間違いないと思うけどね」
 冒険者達の間に緊張が走る。
 武器や食料品の買出しから調査したラディアスはクリステル達に、と頼まれた伝言から一人の男性を見つけ出し、そしてその居場所を突き止めた。
 マナウスたちが作ってくれた似顔絵とも特徴が似ているし間違いないだろう。
「‥‥中にいそうなら一気に突入してみない?」
 トゥルエノの提案に仲間たちも頷く。
「あの男の殺害後、彼女達が狙っているのは奴らの仲間だけだ。それまでの犯行はおそらく人間と親しいハーフエルフというだけで無差別に行っていただろうに‥‥」
 被害にあったハーフエルフ達から聞き込みを続け、レイアはそういう結論に達した。
 おそらくはハーフエルフを無差別に襲うことで、一人のハーフエルフへの復讐と言う目的をカモフラージュしようとしたのかもしれないと‥‥。
「今は、まだ最悪の事態になっている連中は自業自得の域だ。けど、万が一それを超えてしまったら、彼女達はなにをするか解らない。今、止めないと‥‥」
 みんなの心が一つになる。
「ハーフエルフの方はナイフを巧みに使う。男の方のメイン武器は多分弓矢だ。接近戦に持ち込んでしまえばあとはダガーにでも気をつければいい」
 もうじき夕暮れ。暗くなった時を見計らってまた彼らは襲撃を始めるだろう。
 その前に、動く‥‥!
「よし、突入だ」 
 マナウスの合図で冒険者達が散った。
 その時、シルヴィアは一瞬だけ、親友を振り返った。
 彼女は迷いを見せることは無かったけれど‥‥。

●行き場の無い思い
 レニエラは薄紫になった空を見つめながら思っていた。
 何故、自分はハーフエルフなのだろう。と‥‥。
 もし、あの日自分がハーフエルフでなければと思わない日は一度も無い。
 そうであれば、大事な妹を、その命を助けられたのかもしれないのに。と‥‥。
「姉さん、そろそろ時間だ。今日も行くつもりなら‥‥」
「行くわ。まだ、これからだもの」
 呼びかけてきた弟に時間の経過を思い出し、今日の襲撃の為に立ち上がろうとした、その時だった。
「! なに?」
 家の周りを誰かが取り囲んでいる気配。
 それは明らかに自分達を目標に補足している。
「しまった! 奴らなの? 見つかった? ギア!」
「姉さん!」
 弟に声をかけ、横においていたナイフを掴むと、レニエラはドアの横に身を潜めた。
 既にドアは開かれ、中に人が入ってきた気配がする。
「僕がつけられたのか?」
 戸惑うギアの様子を見ながらレニエラは冷静に考えていた。
 侵入者達の気配は近づいてきている。
 強硬手段を使ってくる相手とは思えないほど、驚くほどに殺意や敵意は感じられないが、こんな風に家に入ってくる以上自分達の事を知っている相手の筈だ。
「捕まるわけにはいかない。まだ、やることがあるんですもの‥‥」
 とっさにそう判断してレニエラは、ナイフを強く握り締めた。
 ギアは弓は巧みだが他の武器はそれほどではない。
 室内の接近戦となれば圧倒的に不利となってしまう。彼を背中に庇い、レニエラは背筋を緊張させた。
「玄関の方はもう押さえられているわね。‥‥気の利いた冒険者なら、窓の外にも人を配置しているでしょうけど、他にもう方法はないわ。ギア! 窓から脱出よ。私から離れずに着いてくるのよ」
「解ったよ。姉さん‥‥。ごめん」
「いいいから。行きましょう!」
 ドアから離れたレニエラは弟の手を取り、窓へ数mを注意深く移動する。
 そして、窓から身を翻そうとした、瞬間だった。
 シュッ!
 放たれたダガーofリターンが彼女の足元、数cmに突き刺さる。
「くっ‥‥」
 それが威嚇であること。窓の外にも敵がいることを察知したレニエラは唇を噛んで室内に戻った。窓を閉め深くため息をつく。
「ここまで、なのね」
「姉さん‥‥」
「ギア。貴方はこれ以上付き合うことはないわ。戻りなさい。あいつを殺したのは私なんだから、私が行けば奴らも‥‥」
「そんなこと!」
 苦しい会話を続けていた二人。
 だが彼らは
「「えっ?」」
 数分後扉を開けて、侵入者達の前に自ら姿を現した。
「レニエラさん、ギアさん。出てきて頂けませんか? 私達は冒険者です。あなた方が抵抗しなければ危害は加えないとお約束します。あなた方をお助けしたいんです」
 そう呼びかけたクリステルの言葉に従うように‥‥。

「出てきて下さったんですね。ありがとうございます」
 走り寄ろうとしたクリステル。だが
「近寄らないで!」
 まるで手に持った抜き身の剣のように鋭く、レニエラは彼女を拒絶した。
 背後に弟を庇い、八名、いや、窓の外から戻ってきたラディアスを入れて九人の冒険者を相手にしても怯えた様子はまるでない。
「そもそもあんた達は一体何者なのよ?」
 レニエラは勿論、自分達を知るまい。
 優しく微笑しクリステルは答える。
「エナさんから依頼を受けてやってきた冒険者です。貴方方を見つけ出し、騎士団に出頭させてくれないかと‥‥」
「エナが‥‥。じゃあ、彼女は僕達の事を‥‥」
「知ってるよ。その上であんた達の復讐を止めてくれ。助けてくれと言って来たんだ」
「復讐の事まで知っているのなら私達を放っておいて! 私達の妹を弄び苦しめた相手を私達はまだ倒し終わっていないのよ! あと少しなんだから‥‥」
 項垂れるギアとは正反対にレニエラは居直るように声を荒げた。
「妹さん、というのはユーイさんですか? あなた方が殺めた相手に傷つけられ、殺されたという‥‥」
「そうよ! あの男はハーフエルフの妹と迫害されていた妹にハーフエルフであることを利用して近づいて、さらに弄んで、傷つけたのよ! そいつと仲間達に復讐する為に、私達は生きて来た。だから! 放っておいて!」
 必死の願い、その思いに嘘は無いことは解る。だが、だからこそ
「ダメよ。罪は罪だもの。それに‥‥貴方達は彼だけではなく、何の関係もないハーフエルフ達も傷つけていた。実行犯である犯人を殺しても貴方達は止まらない。このまま行けば犯人の仲間だけでなく、同じハーフエルフ、いいえ。それを生み出した人間やエルフさえも憎み続けるから‥‥」
 トゥルエノはきっぱりと否定した。
 レニエラの思い、そしてその行動の全てを。
「そ、それのどこが悪いのよ。どうせ貴方達になんて私達の気持ちは解らない。全てが終わったら、私は自分自身を殺すわ。ハーフエルフは呪われた存在なんだから。生きているだけで人を不幸にするのよ。だから、人と関わって生きてはいけないのよ。」
「私もハーフエルフよ」
「僕はハーフエルフの両親ときょうだいを持つ人間だ。君達と同じだよ」
「そして私は人間と一緒に育てられました。兄弟達に守られる思い、やりきれない苦しさ。全て知っていると言うつもりはありませんが、少しは理解できるつもりです」
「エルフ、にんげん、そして‥‥ハーフエルフ?」
 彼ら眼差しはどこまでも優しい。今まで感じたことのない、与えられたことの無い感覚に戸惑うようにレニエラは顔を背けた。
「貴女の復讐は果たしたわ。それ以上やる必要はないでしょう?」
「何故、ハーフエルフを憎むのですか? 妹さんを殺したのは確かにハーフエルフであったかもしれませんが、ハーフエルフ全てが彼女を殺したわけではない。私の友人にもエルフやハーフエルフがいますが、種族だから好きなのではなくその人個人が好きなのです。種なんて関係ありません」
「でも! ハーフエルフでなければ、私は‥‥私は‥‥」
 彼女の叫びは慟哭にも似たものであった。
 それを見て冒険者達の間にある思いが芽生える。
「貴方が本当に許せないのは、妹さんを守れなかった貴方自身ではありませんか?」
 膝をつくエニエラ。姉よりも青ざめた顔のギア。彼らの様子が何より真実を物語る。
「大事な妹を守れなかった。その苦しみが君たちを復讐に走らせたのだろう。その行為を全否定するつもりはないし、その権利も我々にはない。だが、第三者だから言えることもある。生まれてきたものに呪われた存在などない。まして君達は類稀な愛の結果として生まれてきたのだから」
「それに復讐で得られるのなんて一時の自己満足だけだ。その後は、自分の罪に押し潰されるかそんな現実を作った世界を憎むか、或いは狂うか‥‥。なあ。その先に、誰かの笑顔が一つでもあるのか?」
「なあ、なぁあんた達の大切なユーイは笑ってるか? 胸ん中でユーイは復讐してくれてありがとう。HE達やエルフ達に危害を加えてくれてありがとうって‥‥微笑んでるのか? 愛した姉弟が闇に落ちるのを喜ぶ、そんな妹だったのかよ」
 一言の反論も無い。彼らとて本当は解っていたのだ。
 それでも、縋らずに入られなかった復讐と言う間違った支えをレイア、マナウス、そしてフレイアの言葉が一本、一本、倒していく。
「‥‥貴女はただ八つ当たりがしたいだけなのよ? 妹を見殺しにした世界と、守れなかった自分に。だから、自分自身と言う存在を否定し、他者を傷つけることで自分を傷つけている。相手を思って、ユーイさんの為なんて嘘っぱちよ」
「‥‥‥‥」
 トゥルエノの厳しい言葉にレニエラの顔が上がる。怒りを込めた顔でトゥルエノを睨みつける。
 けれど‥‥反論は無かった。
「エニエラさん。ハーフエルフを否定するという事は、あなたのご両親も否定する事になります。妹を失い、目の前で姉と両親を否定され続けるギアさんのお気持ちを考えた事がありますか? それでもギアさんは貴方を慕い、側にいるというのに‥‥」
「‥‥姉さん」
 ギアはクリステルの言葉に背中を押されるように一歩、前に進み出た。
 そしてレニエラの手を握り締める。姉を守るように側に寄り添うギア。
「僕は、本当は姉さんと同じハーフエルフに生まれたかった。ユーイも一緒だったよ。だから、ハーフエルフに憧れたんだ。ハーフエルフに生まれていれば姉さん達と同じ時間を一緒に生きられたのに」
「ギア‥‥」
 二人をラディアスは見つめ微笑んだ。寂しそうに‥‥。
「僕ら兄妹と君達姉弟はまるで鏡だね‥‥僕には君達の気持ち、判らなくはないよ。でも、だからこそ僕は君達を止める。こんな事、もうこれ以上止めるんだ。亡くなったご両親や妹さんの為にも」
「復讐は、もう終わりにして下さい。そしてもっと自分達を大切にして‥‥。それをこそ、ユーイさんは望んでいると思います」
 促し差し出されたシルヴィアの手を、レニエラは立ち上がり、握り締めた。
 弟と一緒に。ずっと握り締めていたナイフがカランと音を立てて床に落ちる。
「出頭するわ。罪を認めます」
「姉さん。僕も一緒に行くよ」
「ギア‥‥」
 歩き出す二人を守るように冒険者は寄り添っていく。
 その最後尾でトゥルエノはレニエラが落としたナイフを拾い、そっと抱きしめたのだった。

●宿命のきょうだい
 ハーフエルフレニエラとその弟ギアは冒険者に付き添われ、騎士団に出頭した。
 ハーフエルフを狙った通り魔事件と、ハーフエルフ殺人事件の被疑者として罪を認めていると言う。
 無関係の人間を傷つけた罪。そして例え復讐の為とはいえ幾人もの人間を殺めた罪は決して軽くは無いが、相手が無頼の人間であることなどから情状酌量もされるであろうから、最悪の刑は免れるだろうとシルヴィアは言っていた。
「本当に、そう願いたいわね」
 依頼を終えたトゥルエノは、そう呟いて持っていた花と、ナイフをそっと墓石の前に置いた。
 レニエラとギアの死んだ妹、ユーイの墓だ。ここに参るのは二度目になる。
「ねえ、ユーイ。教えて。ギアが言っていたわ。貴方はハーフエルフの姉を持ち、人間でありながらハーフエルフでありたいと願っていたと。ハーフエルフの宿命に殺されても、貴方は姉を許していたのかしら」
 もう、当分訪れる者もいないであろうここで、トゥルエノは膝をつき誰にも言えない思いを吐き出した。
 あの後、冒険者達はシルヴィアを通じて、レニエラとギアの事情聴取の結果を耳にする事ができた。
 そしてレニエラがハーフエルフを、自らをあれほど憎んでいた理由を知ったのだ。

『あの日、ユーイはあの悪党から酷い目に合わされ、それでも命からがら悪党の元から逃れてきていたの。私は偶然、ユーイと出会い、見つけ‥‥一緒に家族の下に戻ろうとしたわ。それは覚えている。でも‥‥その時空には満月が昇っていた‥‥』
 レニエラの狂化条件は満月の月を見ること。そして狂化の結果は全てに無関心になる‥‥。
『姉さんはその時、まだ12歳前後の力しか持っていませんでした。そして多分、自分の狂化の条件や内容を知らなかった‥‥』
 気がついた時レニエラは、繋いでいた筈の妹の手を離して一人、家に帰っていた。
 そして翌日、川に投げ捨てられていた妹を見ることになったのだ。
『その時、何があったかは今も良く覚えていない。けど! 私があの時狂化してユーイの手を離さなければ、少なくともユーイは死ななくてもすんだかもしれない! 私がちゃんと成長していれば、きっと、守ることができた!』
 それ以降、レニエラの人生はユーイの死の原因を突き止めることと、ユーイを死に至らしめた相手に報いを与えることの全てに費やされた。
 冒険者の言うとおりそれが、レニエラにとって自らの宿命のせいで妹の手を離してしまった苦しみから唯一逃れる術だったのだ。

「あの子は許せなかった。妹を忘れた自分自身を。そして‥‥怖かった。妹を忘れ、幸せになることで彼女に拒絶される事を‥‥。ねえ、ユーイ。私達は貴方が復讐を望んではいないと言った。そうであると信じたいけど、もし共に育っていなかったら、貴方はハーフエルフの姉を受け入れられた? 教えて。‥‥答えて!」
 いつの間にか震えている自分の肩を抱きながら、トゥルエノは還らない問いの返事に涙ぐむ。
「そう、怖いのよ。
 やっとわかった。あの娘の為なんて言い訳。
 私は怖いの。
 あの娘に姉と名乗って、拒絶されるのが‥‥。
 レニエラは‥‥私だわ」
 墓地を流れる風は、トゥルエノに何も答えず、応えず、ただ静かに彼女の側を流れて消えていった。

 そして冒険者ギルド。
「どうしたんだ? 相談があるっていうから来たんだが?」
 トゥルエノとクローディアを除き集まった仲間達を前に、シルヴィアは静かに自分の考えを告げた。
「トゥルエノさんの様子が最近様子が変です。何かに悩み、苦しんでいる。そう思われませんか?」
「確かに元気が無かったり、何か考え込んでいるように見える時があるね」
「そうか? 拙者は付き合いが深くないので解らんが‥‥」
「クローディアさんを気にしているように見える時もありますわ‥‥。あら、そう言えばクローディアさんはどうしたんです?」
「呼びませんでした。彼女がトゥルエノさんの異変の原因であると思うからです。クローディアさんのお父さんの名前を聞いた時から」
「異変って‥‥ちょっと大げさじゃあ? クローディアさんとトゥルエノさんて苗字が同じ以外接点なんて‥‥、って、ちょっと待って苗字が同じ? お父さんの名前を聞いてって?」
「シルヴィア。それは‥‥つまり‥‥だって言いたいんだね」
 ええ、と頷いて彼女は口を開く。
 今はまだ、推察でしかない。彼女自身が言い出さない限りは真実は解りはしない。
 これを言葉に出すことで、ひょっとしたら多くの人物を傷つけるかもしれない。
 トゥルエノに憎まれるかもしれないとも。
 けれど、大切な友の苦悩をこれ以上放っておきたくはなかった。
 唾を飲み込み、シルヴィアは告げる。

「私は、トゥルエノさんとクローディアさんはきょうだいではないのかと思います」

 静かなる嵐の始まりを。