【ステキな招待状】縁の下の力餅
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月21日〜05月26日
リプレイ公開日:2009年05月30日
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●オープニング
きっかけはお菓子作りが得意な、ある女性冒険者の一言だった。
彼女は天使の様に愛らしい笑顔で「手作りお菓子がい〜っぱいのお茶会にモードレッドさまをご招待致しますわ♪」と言った────いや、言ってしまった。
その魅惑的なお誘いを受け、心の底から甘味を愛するモードレッドが彼女からの招待状を待ち続ける事、数週間。
楽しみで楽しみで眠れない夜を過ごすモードレッドは、日増しに不機嫌になっていった。
中々届かない招待状に業を煮やし、冒険者ギルドに赴いて権力を笠にその女性冒険者の家を突き止めようと思った矢先、念願の招待状が届いた。
その時の彼の喜び様は────ここで記すと彼の沽券に関わる程、嬉々としていたそうな‥‥。
「それで? 俺にも招待状が、というわけか?」
従騎士から差し出された手紙を手に取り円卓の騎士が一人パーシ・ヴァルは小さく苦笑した。
正体主はモードレッド・コーンウォール。
場所はモードレッドの屋敷。
甘味を主役としたお茶会を開くので『良かったら来てもいいぞ。部屋の中で仕事ばかりしていると気分が落ち込むばかりだぞ』と大きな文字で書いてあった。
どうやら、これも彼なりの気遣いであるらしい。
北海でリヴァイアサンを取り逃がし、ライオネルを奪われて後、仕事に逃げ出すフリをしていた自分。
それも見通しての気遣いということだろうか? それとも‥‥
「あいつがそこまで考えているとは思えんがな‥‥」
微笑とも苦笑とも言えない笑みを浮かべて後、パーシは手紙の封を戻すと従騎士の手に戻した。
「出欠のご返事はどうなさいますか?」
「せっかくの気遣いだが欠席すると伝えてくれ。まだ、いろいろ手配しなければならないこともあるし、仕事はやはり詰まっているからな。それに‥‥」
パーシは小さな噂を思い出し、今度は間違いの無い苦笑を浮かべた。
「ケイがモードレッドを気遣い参加すると言う話を聞いた。彼は俺の顔を見るのは嫌がるだろう。下手な火花を散らしてせっかくのパーティを台無しにしては申し訳が無い。代わりといってはなんだが、材料と料理人を手配しよう。最近注目されている若手の料理人だ。パーティの菓子作りを担当してくれる筈だ。彼の手伝い役の冒険者も手配してくれ。いろいろな知識を持つ冒険者ならお菓子のアイデアもすばらしい筈だ。モードレッド達も喜ぶだろう」
「解りました。そのように‥‥」
お辞儀をして去りかけた従騎士は、ふと振り返ったところで久しぶりに珍しいものを見る。
何かを思い出しながら、楽しげな笑みを浮かべるパーシ。
ただ、彼が思い出し笑いをしている理由を、従騎士は勿論知ることは無かった。
ふと思い出す。
偶然、出会ったあの美しい少女。
誰が言っても信じまい。彼女がケイの‥‥であるなどと。
「ケイは甘いものが嫌いだが、彼女はそうでは無かった筈だ。彼の人の為にお土産を選び帰るケイの顔というのは見物だが、それをやったら今度は嫌われるではすむまい」
あれ以降、以前にも増してケイに嫌われている自分をパーシは感じていた。
だがパーシはあれ以降、ケイが前ほど嫌いでは無くなった。
モードレッドと甘味を愛する者達。
そして‥‥ついでにケイと美しい人の為に。
パーシは書類に向かってペンを走らせた。
●リプレイ本文
●楽しいパーティの裏側
キャメロット郊外にあるモードレッド・コーンウォールの屋敷は趣味のいい作りをしていた。
早朝の爽やかな光の中。
「こんな時でもなければ入ることは無いのでしょうね」
楽しげに周りを見るショコラ・フォンス(ea4267)。
彼とは別の意味で桃代龍牙(ec5385)も興味深げである。
「キャメロットにアーサー王。円卓の騎士にモードレット‥‥ね‥‥」
「どうかなさいましたの? 何か解らないことがありましたらお手伝い致しますわ?」
「あ‥‥ああ? 別になんでもない。心配かけてすまんね。でもお姉さん、日本‥‥、じゃ無くてジャパン語上手いんだね? 俺はイギリス語得意じゃないから助かるよ。ノルマン語ならちょっといけるんだけどね」
「クリステル・シャルダン(eb3862)と申します。どうぞお見知りおきを‥‥」
「ほう〜、あんたジャパン人か? 俺もだぜ。俺は田原右之助(ea6144)。よろしくな!」
「拙者もジャパン出身のニンジャでござる。名は葉霧幻蔵(ea5683)。こっちは精霊の風美香で、こっちは相棒でケットシーの芭蕉でござる」
「ござる〜〜!」『ふにゃっ!』
幻蔵の言葉に応えるようなペット達の挨拶に、龍牙は、ハハハと笑う。
「面白いとこだね。このイギリスは‥‥」
その意味を知るものはいない。
「あ、ジャパン語でばっかり話しては申し訳ないかな?」
気遣うように振り返った龍牙を見て、お気遣い無く、とショコラは手を振る。
「僕もジャパン語、少しですがわかります。皆さん全員が解るならジャパン語で話して下さい」
「ありがとう」
そんな話をしていた彼らを
「みなさーん!」
イギリス語で誰かが呼ぶ。
「おー! リオンじゃねえか。久しぶり」
走り寄ってきた青年に右之助は嬉しげに手を振り、クリステルも笑顔で会釈した。彼が多分、今回のメイン料理人であると右之助が紹介するとリオンと呼ばれた青年は冒険者達に向けてぺこりと頭を下げる。
「こんな大役、始めててどうしたらいいか解りませんが、皆さんと一緒にお客様に喜んで頂ける料理を頑張って作るつもりです。どうぞ、よろしくお願いします」
リオンの言葉が龍牙はまず、ぱちぱちと拍手し、他の冒険者もそれに続いた。
言葉は通じなくても心は通じる。初めて会う者同士の不安など、もうそこにはなかった。
●新しい知識
「荷物をおいてこちらへ」
「へえ〜。なかなか設備はととのってるじゃねえか?」
右之助は嬉しげに案内された円卓の騎士の台所をチェックする。
「材料もいい感じに揃ってる。砂糖は‥‥まあこの規模のパーティなら十分かな。問題は豆‥‥かな?」
イギリスでこの時期手に入る豆類と言えばソラマメ位しかない。小豆はともかく龍牙が知る大豆はまだこの国で簡単に手に入れられるものではない。
「ソラマメでも甘く煮れば甘納豆はできるかな? おー、もち米がある。あとは柔らかく似てあんこもどきにして‥‥」
「基本的なものは僕が担当します。皆さんは自由な発想で作られて下さい」
リオンの『自由』の言葉に幻蔵がおお、と意気を上げる。
「自由とあらばお任せなのでござる。拙者がちょー独創的なお菓子をご披露するのでござる。なに。メイドドレスも失敗した時用のお菓子も山ほ‥‥」
『ふにゃっ!』
ノリノリの幻蔵の背中にケットシーがとび蹴りをかます。
『にゃっ! にゃにゃんにゃ!!』
どうやら説教をしているようだ。
幻蔵の相手はケットシーに任せ、冒険者は早速料理を始める。見れば他の依頼の参加者達も準備を始めているようだ。
お茶会までの時間はまだあるが、料理を作るに時間がありすぎるということはない。
「さあ、はじめましょうか?」
ショコラの促しに、冒険者達はそれぞれの準備を整えて、材料と仕事に向かい合った。
そして、開始後数刻。
「‥‥すげえな」
冒険者達、料理人全てが目を見張る事態がそこで起きていた。
料理とは縁遠そうに見えた龍牙が驚くような技術を見せたのだ。
「牛乳を室温で置いておいてくれと頼まれたときには牛乳を無駄にするのかと思いましたが‥‥」
牛乳の上澄みのような部分を樺の小枝で作った不思議な道具でくるくるとかき混ぜる龍牙。
すると見る見るうちに美しく真っ白で雪のようなふわふわに変わっていく。
「龍牙さん‥‥これはノルマンの技術ですの?」
「まあそんなとこ。生クリームっていうんだ。面白いだろ? ほら、味見味見」
冒険者に差し出された木匙のクリームをそれぞれがぺろりと舐める。
面白いことに反応は皆違っても、口に出た言葉は一つだった。
「「「「「「おいしい!!」」」」」」
「兄貴!」
がしっと右之助が龍牙の手を掴む。
「なんだ?」
「さっきのカスタードクリームも素晴らしかった。ぜひ、使わせてくれ!!」
「私も興味深いですわ」「僕も手伝わせて下さい」
「ああ、勿論自由に使ってくれ。新しい知識が広がるのはいい事だろう」
「やった! よーし。やるぜ〜〜」
跳ね上がる右之助を見ながら龍牙は不思議な笑顔を浮かべていた。
●お茶会メニュー
そしてやがて台所は戦場となる。
「はい! ミンスパイできあがりました。運んで下さい」
「こっちのケーキと団子も上がりだ。和室の方に運んでくれよ」
『にゃっ!』「はーい!」
幻蔵のケットシーやシフールたちが器用に、ある者は不器用に出来上がったお菓子を運んでいく。
「これ! つまみ食いは程ほどにするのでござるよ」
幻蔵が一応言っていたがどれほど効果があるかは‥‥。
聞けばお茶会は二室に別れ和室設えと庭でのガーデンバーティに別れているようだ。
それで、主なメニューはこんな感じになった。
お茶会メニュー
クッキー(各種。ジャムを挟んだもの。動物の形に切り抜いたもの。なぜか和風の煎餅風も)
ミンスパイ(洋酒漬け刻んだドライフルーツを包んだパイ)
フルーツ&ナッツケーキ(洋酒漬けフルーツとナッツ入り)
ロールケーキ(ホイップクリームと果肉を残して作ったジャムを挟んでいる)
スコーン(クリームとジャムをたっぷり添えてある)
ショートブレッド
アップルクランブル
ハートの形のケーキを四個くっつけた、四葉ケーキ
四種類の味が楽しめる。
茶風味ケーキ、甘納豆添え
団子(ソラマメで緑のアンコを作って)
おはぎ(同じくソラマメのアンコを添える)
どら焼き
幸せに香る桜餅
エチゴヤのももだんご
桜蕎麦
甘いものが苦手な人の為に
サンドイッチ各種
きゅうり、スモークサーモン、ハム、チーズ等色々挟んで
シェパーズパイ
キッシュ
飲み物
紅茶
お好みでミルク、砂糖、桜のハチミツを。
ジュース
果実水 など‥‥
「それからなあ〜、これを頼む。あ、モル様にな」
クリームで飾った美しいケーキを龍牙は給仕の手伝いに来た女性に耳打ちして差し出す。
「なんでござるか? それは?」
「ああ、さっきなんだか苦心して作ってたみたいだな?」
「これは、秘密だ」
ウインクする龍牙の笑顔に冒険者達もついついつられ笑顔になった。
だが仕事はまだまだ終わらない
「ミンスパイ追加頂けますか? トリスタン様がお気に入りのようです」
「ロールケーキ。切れました。カスタードクリームのお菓子ももうあと少しです」
「和風菓子は追加できませんか?」
ひっきりなしに催促の使者がやってくる。
「悪い。おはぎや団子はもう無いんだ。後はできる限り作るからもう少ししのいでくれ」
「クリステルさん。何をバスケットに詰めていらっしゃるのですか?」
「ないしょ‥‥ですわ」
厨房の仕事は果てなく続くのであった。
●夢のあと
「はは。そりゃー見たかったな。モル様かわいいな」
皿を洗い、戦場となった厨房を片付ける冒険者達。
彼らの会話の肴はやはりお茶会の参加者の笑顔である。
『人参の‥‥ケーキ?』
差し出されたケーキに慄いたモルはなんと
『トリス、食べさせろ』
『なっ!? ‥‥あ、あーん』
トリスタンに食べさせたと言う。
『うん、美味いな!』
そう言って皿は見事に空になった。冒険者はその後の執事対決の結果を知らない。
「あら、トリスタン様も可愛いですし、ケイ様も可愛らしいと思いますわ」
くすくすと思い出し笑いをするクリステル。
円卓の騎士を可愛い扱いできるのは彼女くらいかもしれないが、彼女のイメージでは二人とも可愛いのだ。
セッターとまるで置物のように見詰め合っていたトリスタン。
「お揃いのリボンでも用意したかったですわね」
そして
『ケイ様。これはお土産にどうぞ。‥‥大事な方へ』
お土産を差し出した時、一瞬驚いたような顔をし、その後小さな、本当に微かな笑みを浮かべて受け取ったケイは本当に可愛らしかった。
「ま、何より料理完売はめでたいことだな。喜んで貰えれば万々歳だ」
「ええ、お土産用に取り分けていなければ、それも食べつくされていたでしょうね」
「新しい料理法も覚えられたしな。リオンも店で出したら売れるんじゃないか?」
「ええ。できれば。よろしいですか?」
「勿論」
洗い物と片付けも果てる事無く続く。
彼らへの報酬は僅かのお金とジャムが二瓶。
そして
『感謝するぞ。料理人。これは俺からの土産だ。遠慮なく受け取るがいい!』
そんな尊大な感謝の言葉と共に渡されたお土産のスイーツバスケット。
「しかし俺ショタ属性は無かったんだが、アレはいいものだ。‥‥パリにあの本もってったらはやるかな? いっそ作るか? 浮世絵の技法使えば‥‥」
「何の話ですの?」
「いや、こっちの話だ」
だが、料理人達は一番の報酬をもう手にしていた。
「みなさんの美味しい笑顔が何よりの喜びですわね」
「いや、ゲンちゃんはもう少し活躍を‥‥。せっかくのメイドドレスコレクションが〜」
『ふにゃ!』
彼らの笑い声がそれを証明する。
パーティの大成功。円卓の騎士達と参加者の笑顔と楽しいひと時。
それを作り出せた事が最高の喜びであり、報酬であると‥‥。