【フォモールの乱】希望を届けに

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 75 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月31日〜06月10日

リプレイ公開日:2009年06月08日

●オープニング

 思い出す度に理性が焼き切れそうになる程、忌々しい光だった。
 苛立たしさに囚われるほど疼くのは、人間如きに付けられた『屈辱』と言う名の傷痕。
「奇跡の乙女‥‥どうやら彼女は『特別』みたいだね」
 地味でつまらない顔立ちのくせに、ジッとこちらを見つめる瞳が気に喰わなかった。哀れむ様でいて、その実、強い敵対心を秘めたあの瞳が。
 リランが普通の人間ではない事は明らかであったが、その正体を知るには情報が足りなかった。だがそれは最優先事項ではない。
「彼に動かれる前に、早く『声』を聞かないと。その為にはまだまだ足りない‥‥もっと集めなきゃ」
 事を成し終えた後ならば、リランを屠るのは造作もないだろう。例え彼女が何者であってもだ。
 ルーグは闇夜の遺跡群に浮かぶ篝火の近くに降り立つと、そこに集まったフォモール達にゆっくりと近づく。
「お待たせして申し訳ないね。皆、集まっているかな?」
「‥‥代表は全員揃っている」
 声のした方に視線を移すと、静かな瞳の若者と目が合う。射る様な視線を受け流し、ルーグは一同の顔を見渡した。
「今こそ抑圧され続けてきた君達の想いを昇華する時だよ。傲慢なあいつらへの復讐を開始し、その屍の上にあの方の玉座を用意しようじゃないか」
 その言葉に次々と武器が掲げられ、中には声を押し殺して泣き出す者もいた。
 単純で便利な手駒達を見つめながら、ルーグは嘲りの気持ちと共に瞳を細める。広がる戦火を思うと愉快で堪らなかった。
 
 遺跡群付近の村がフォモール達に襲われたのは、それから数刻後の明け方のこと。
 村人は生きたまま遺跡群へと連行され、そこで次々と命を奪われた。まるで大地に血を捧げるかの様に。
 しかしその悲劇は、フォモール達による戦いの狼煙でしかなかった────。

 少年は遺跡に向けて静かに手を合わせていた。
 ここで眠る友の為に。
「約束するよ。いつか‥‥必ず‥‥」
 その時だ。
 ざわ、ざわざわ‥‥。背後で人の気配がする。
 とっさに彼は身を隠した。
 これは本能であった。近づいてくる者と出会ってはならない。
 いままでいくつかの戦いを潜り抜けてきた少年はそう感じて木の陰に隠れた。
 武器である弓を構えて‥‥。
「いやだー!! はなしてーー!!」
 聞こえてくる悲鳴。そして泣き叫ぶ子供を横に抱える浅黒い肌の男。あれは‥‥
「フォモール?」
 噂には聞いていた。フォモールと呼ばれる怪しい一族がこの周辺に現れることがあると。
 彼らの目的は定かではないが、遺跡を汚し、人々を苦しめているとも‥‥。
「でも、いったい、何を?」
 抱えられている子供は間違いなく人間。
 そして、遺跡にやってきたそのフォモールは近場の石台の上に子供を寝かせると、首を押さえ口を塞ぎ‥‥
「えっ!」
 その右手の大きな剣を振り上げた。
 とっさの事である。少年は番えた矢をそのままフォモールに向けて放った。
「ぎゃあああ!!」
 狙いは正確に、剣を持ったフォモールの手に矢は突き刺さり剣は間一髪子供の横に落ちて跳ねた。
「今だ!」
 少年は全速力で駆け出すと一瞬の隙をついて、子供を抱きかかえる事に成功した。
 そして傷にうめき声を上げるフォモールの前からまた全速力で逃げ出す。
 フォモールがそれほど深追いをしてこなかったのが幸いだった。
 なんとか遺跡から離れ森に逃げ込んだ少年は、泣き叫ぶ子供を抱きしめながら
「一体何が起きたんだ?」
 まだその時、事態の把握ができずにいた。

 それから暫くの後‥‥。
 冒険者ギルドは二人の子供を迎えることになる。
 二人、と言えば語弊があるかもしれない。
 一人は係員も知るレンジャーフリード・レグザムであったから。
「どうしたんだ? 真剣な顔をして‥‥それにその抱いている子供はどうしたんだ?」
 4〜5歳であろう子供を抱いたフリードは黙って一枚の依頼書を差し出す。
「この子を村に返すための‥‥護衛?」
 確認するように問いかける係員にフリードは静かに頷いた。
「この子の村‥‥小さな集落のようですがその近くにフォモールが溢れていて、今にも襲撃しかねないという状況のようです」
 自分が子供を助けた経過を話した上で、フリードはこの子を村に返す為に冒険者に護衛を頼みたいと言ったのだ。
「僕達が必死で馬を走らせて来ましたが、その過程でも少なくないフォモールが動いているのが見えました。僕一人では村にこの子を返すどころか、村に近づくことさえできなかったんです」
「確かにこの地方で今、フォモールが乱を起こしていると言うのは聞いている」
 冒険者ギルドにも依頼が来ているし南方遺跡群地方の領主が派遣した騎士団が動きつつある。
「僕もその話は聞いています。でも、彼らに依頼しては戦いのお邪魔になってしまうし‥‥それに」
 静かに抱き下ろした子供は背伸びをして係員に告げる。
「あのね。ぼく、ひみつのぬけみち、しってるんだ!」
 聞けば森の中、街道を通らずに村に抜けられる方法があるのだそうだ。
 あまり多人数が通れる道ではないようだが‥‥。
「周囲はフォモールが確かに群れをなしていて正面突破は簡単ではありません。でも、あの子が言うのが本当なら戦いを避けて村にたどりつくことができるかもしれないんですよ」
 ただ、そこに辿り着くまでが容易ではない。
 だから、冒険者に一緒に来て欲しいと彼は言う。
 疲労困憊しているであろう村の人々に救援物資と、希望を運びたい。
「僕は、多分に戦いになったら足手まといです。でも、僕にできることはやりたい。どうぞよろしくお願いします」
 そう言って頭を下げたフリードの真似をしてか男の子も
「おねがいします! おとうさんやおかあさんや、いもうとを‥‥みんなをたすけてください」
 深く、深く頭を下げたのだった。
 

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3441 リト・フェリーユ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec0886 クルト・ベッケンバウアー(29歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●希望を届けに
「みなさん‥‥来てくださったんですか?」
 泣き出しそうな顔、震える声でそう告げる少年フリードと腕の中の男の子を
「あたりまえだろ。よしよし、二人ともよく頑張ったね」
 フレイア・ヴォルフ(ea6557)は両方胸元に引き寄せると、強く抱きしめた。
 一生懸命頑張り続けてきた彼らの緊張の糸がふと緩みかける。
「あたし達が来たからもう大丈夫。‥‥でも、あと少しがんばれるかい?」
 優しい、母のような眼差しに落ちかけた涙をぐいと横に拭いて、二人は
「うん!」「はい!」
 元気良く返事を返した。
「初めまして 私はリトって言うの。あなたのお名前は?」
 男の子に向かって目線を下げたリト・フェリーユ(ea3441)。その碧の瞳に少し頬を赤らめながら
「ラスティ! ラスでいいよ!」
 男の子ラスは元気よく応えた。
「じゃあラス君、教えてくれないかしら? 時間が無いからね」
 羊皮紙を差し出したルスト・リカルム(eb4750)が簡単に遺跡と街道。そして村の位置関係を記す。フリードの助け舟を受けながら地図を作成していく子供達。
「大丈夫。心配しなくてもいいからね」
 ルストに頭を撫でられラスは笑顔だが、それでも心に不安を隠しているのは簡単に見て取れた。
「いい子達だ」
 それを見ながらフレイアは本当に眩しそうに笑った。
「前の時は間に合わなかった。‥‥今度は間に合わせて見せよう。彼らの思いを無駄にせぬ為にも」
「ああ‥‥。絶対に‥‥ね」
 尾花満(ea5322)の言葉にフレイアは静かに頷き、彼のハンカチを握り締めこれからの戦いに向けて決意を固めていた。

「ルーラス!」
上空。魔獣二匹と共にもっとも高いところを飛ぶルーラス・エルミナス(ea0282)をフレイアは鋭いただ一言で呼んだ。声が届いた彼は、その意図を察して静かに下降した。仲間の下へと「すまない。高く行き過ぎたか」
苦笑するルーラスにいいえ〜。と力の抜ける声でエリンティア・フューゲル(ea3868)は首を振る。
「それもありますがぁ〜。そろそろラス君が言ってた村への秘密の抜け道のところにつくですぅ〜。このまま空から突っ切ってしまうのもありですけどぉ〜目立たない為にも下に下りたほうがいいかもですぅ〜」
「確かに上空からフォモールの軍団がいくつも見えた。街道の方もはぐれたフォモールが何人かいたね。下から来るあの子達。大丈夫ならいいけど‥‥」
「クルト殿が着いている。心配はあるまい。今の我々の役目は一刻も早く村に辿り着き、村を守ることだ」
 心配げなフレイアの肩を叩いて満は告げる。その言葉に冒険者達は自分達の役割を再確認し頷いた。
「あそこの大岩が‥‥そうだったな。確かあの岩の裏手に小さな洞穴があると‥‥」
「そういえばぁ〜。例の遺跡はこの近くなんですよねぇ〜。う〜ん」
 突然考え込むように首を傾げたエリンティアに
「どうしたんだい?」
 フレイアは問うが、エリンティアは今はなんでもないと首を振り
「後で考えますぅ〜。とにかく急ぎましょ〜」
 その言葉を合図に冒険者達は下降した。
 目的の場所はもう間近。今、彼らがすべきことは希望を届けることなのだから

●届いた思い 
 先行した冒険者から遅れること約二日。
「ラス!」
「お母さん!」
 リトの白馬から飛び降りた男の子は駆け寄ってきた女性の胸に躊躇う事無く飛び込んだ。
「心配したのよ‥‥。もう‥‥ダメかと‥‥」
「ごめんなさい。ごめんなさい‥‥」
 冒険者達は静かに、だが心からの満足の笑顔で微笑む。
 この光景を見る為に冒険者達は頑張ってきたのだ。
「おつかれさん。大変だったろ?」
 フレイアのねぎらいの言葉にまあね。とクルト・ベッケンバウアー(ec0886)は肩を竦めた。
「フォモールのメインの軍団はもっと大きな遺跡や村に行ってる。この近辺にやってきているのは多分、そんなに多くはないけど早く手を打たないと危険なことは間違いないと思う。多分、ぎりぎり‥‥だったと思うよ」
 クルトの状況分析は正しいと先行していた冒険者達も思う。彼らが到着した時、村は言いようのない不安に包まれていた。ラスを含む数名が行方不明。
 解り辛く見つかりにくい立地条件が幸いして本格的な襲撃こそ免れていたものの、村を出た者が戻ってこなかったり周辺でフォモールに襲われた者がいたりで、状況の解らない不安と恐怖がフォモールの襲撃より先に彼らを襲っていたのだ。
「一応、ここに至る道までの痕跡は鐶君が消してくれたけど、どうしても襲ってこられて数人倒してしまったんだ。明日明後日にはこの村も襲われるかもしれない‥‥」
 瀬崎鐶(ec0097)の顔をちらりと見てから仲間達と頷きあい、そして集まっている村人達に告げる。
「避難をしてもらえないか? この村は小さい。本格的な襲撃を受けたらおそらく守りきれないんだ」
「近くの騎士団の駐屯地に保護を申し出ました。そこまで辿り着けばキャメロットまで送って下さるそうです。住み慣れた地を離れるのが辛いことは承知ですが‥‥どうかお願いします」
 クルトとルーラス。二人の言葉に‥‥一人の老人が進み出た。
「冒険者。貴方達を信じますじゃ‥‥」
 それは説得にあたった二人にさえ驚く早い返事であった。
「僕らの言うことを信じてくれるのかい?」
 微かなざわめきは起きるが‥‥村人に反対の声は無い。
「正直、いきなり現れた貴方達の言葉だけだったら信じなかったじゃろう。だが、貴方達は村の子を助け、救援物資を持って、全力でこの村を救いに来てくれた。暖かい食事‥‥それが貴方達の心であることはよーく解った」
 長老の視線の先には鍋を取り巻く子供やそれに微笑む満の姿が‥‥。
「皆! 大急ぎで準備を。最低限のものだけ持ってここから逃げるのじゃ!」
 動き始めた村人達。その背中を見てクルトとルーラス、そしてフレイアはお互いの手を上げて
パン!
 笑顔で合わせたのである。

●届かない言葉
 街道から外れた裏道を村人達はゆっくりと進んでいく。
 慎重に‥‥音を立てないように‥‥。
『‥‥クルトさん』
 頭の中に響いて聞いた言葉にクルトは小さく頷いた。
 見ればフレイアやルーラスはもう動き始めている。
「了解。今行く‥‥。いいかな?」
「解っているわ」
「僕も!」
 前に向かって走りかけたクルト達。
 その後を追おうとしたフリードをクルトは止めた。
「君はここに残ってくれ。避難経路は一緒に覚えたろう?」
「はい‥‥でも」
 自分ばかり、そう思う気持ちが伝わってくる。
「いいかい? この依頼の主は君だ。君が村人達を守るんだ」
 だからクルトは微笑み彼に告げる。信頼が、想いが‥‥届くだろうか?
「解りました。必ず」
 どうやら届いたようだ。
『クルトさん』
 もう一度環の声が聞こえる。クルトは走り出した。
 今度は振り返らずに‥‥。

「止めて下さい! このままだと貴方達を殺してしまいます!」
 リトは指揮官らしい人物に向けて、何度もそう呼びかけていた。
 だが、まともな返事は返らない。返ってくるのは全て
「うるさい!」「お前達の言うことなど信じられるか!」
 罵声と
「この村を守る為にあなた達をただ殺したりなんてしない。今のあなた達と同じになってしまうもの。引いて下さい。決着をつけるのは ここじゃないです!」
「黙れ!」
「危ない!」
 放たれる矢だけであった。
「もうお止め。あいつらにあたし達の言葉は届かない。奴らを止めようとしたら‥‥戦うしかないんだ」
「‥‥」
 矢を番えたフレイアの言葉はリトとて解っている。
 一人を逃がせば、二倍、三倍になって返ってくるだろうし、何より彼らを進めてしまったら背後にいる村人達が‥‥。
「この地を、この国を、貴様らの好きにはさせぬ!」
 強い声が上がった。フレイアの頭が前を向く。
「満達が行く。あたし達も続くよ!」
 前衛に走る戦士達。
 悲鳴と何かの落下音はエリンティアの魔法であろうか。
 環もいる。数はこちらの方が少ないだろう。早く援護に行かなければ‥‥。
 フレイアの矢が放たれたのと同時、リトは決意を拳と共に握り締めて
「風よ‥‥」
 呪文の詠唱を始めたのだった。

●届けられた希望
 無事に辿り着いた駐屯地にて
「お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 微かに疲労の色を浮かべ、座り込んでいた冒険者達にラスと、その妹が近づいてくる。
 冒険者達は立ち上がって彼らを迎えた。
「これ、ありがとう」
 リトに聖なる守りを返したラスはポケットの中から握り締めた手を冒険者に向けて差し出す。
「みんなを‥‥助けてくれてありがとう。これ、お礼だよ」
 渡されたのはぴかぴかに磨かれたソルフの実。
 あの慌しい避難の中、自分達の為にこれをもってきてくれたのかと思うと、愛しさが込み上げてきて
「ありがとう。ラス君」
 リトはぎゅうと子供達を強く抱きしめた。
 村人達はこれから騎士団に連れられキャメロットへと避難すると言う。
 希望は届けられたが彼らが故郷の村に戻れるのはいつの日か‥‥。
「フォモールにも子供はいるのかな‥‥」
 フリードがぽつりと呟く。
 フォモールはモンスター達とは違う、肌の色こそ違え同じ人間だ。
 彼らと戦わなければならない事は、やはり心が痛むだろう。
「どうでしょうねぇ〜。彼らがデビルに利用されているのは間違いないですけどぉ〜、それを証明して止める手段はまだないですしねぇ〜」
 森の向こうに煙が上がっている。遠くから剣戟の音が聞こえてくる。
 村人は救い出した。けれど戦いは彼らが目的を果たすか全て滅ぶまで止まるまい。
「数年ぶりの故郷を楽しむ間も無いようですね。このような凄惨な事件は繰り返してはならない。絶対に‥‥」
 ルーラスの誓いをフリードは黙って聞いていた。
「また‥‥何かあれば頼むぞ」   
「はい」
 満のねぎらいに冒険者の瞳で頷いて。

 フォモールの乱は冒険者と騎士達の活躍により鎮圧の方向に向かう。
 だが多くの血が流れたこの事件。
 完全に決着するのはまだ先の話である。