円卓の騎士は謹慎中
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月25日〜07月30日
リプレイ公開日:2009年08月07日
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●オープニング
事件に関して彼は完全に黙秘を続けていた。
園遊会終了間際に起きたエクスカリバー盗難事件。
犯人は円卓第一の騎士ラーンス・ロット。
だが、彼が城内に入ったことが今回の事件の原因であり、それは園遊会警備の騎士達にとって大きな失態となった。
故にその責任を取る形で警備責任者である円卓の騎士パーシ・ヴァルは城内で軟禁処分を受けている。
さらに彼にはもう一つの嫌疑がかかっていた。
デビル襲撃の混乱の中ラーンス・ロットの逃亡を幇助したとされる疑いである。
それをはっきりと口にしているのは一人の騎士の証言のみであるが、その人物が王妃付きの貴族騎士であること、さらに女性でありパーシは彼女を傷つけたという事がパーシの立場を悪くし、この処分となったのだ。
幾度か調査のための取調べがあったが、パーシは事件について完全な沈黙を守っていた。
彼が口にしたのは唯一言。
「俺はラーンス卿を逃がしたりしていない。我が忠誠は王と共にある」
それだけ。
その一言による反応は様々で、パーシを支持する者も逆に責める者もいる。
だがパーシはその全てに沈黙を守り、城内で謹慎に甘んじて仕事を続けていた。
事件から数日の後、アーサー王がパーシを呼び出したのはそんな状況が続く中であった。
「自宅謹慎‥‥でございますか?」
自分の横を歩く副官に、ああ、とパーシは頷いた。
呼び出されたアーサー王がパーシに告げた処分内容は、副官に告げたとおり監視付の自宅謹慎。
副官であるジーグネが監視役である。
「それは、良かったというべきでございましょうが‥‥」
パーシとて、副官が何を言いかけているかは解る。
そもそも本気で動こうとするパーシを本気で留めようと思うのなら、よっぽどの設備と監視がいるだろう。
自宅謹慎など出て行けというようなものだ。
まして監視役が副官の自分では‥‥。
「それは‥‥つまり‥‥」
「ああ。多分、そういうことなのだろうな。‥‥あいつ」
微かに微笑し、パーシは王と、立ち直りつつある友からの見えないエールを決意の拳としてしっかりと握り締めた。
「それで‥‥どうなさるおつもりですか?」
「とりあえずは、王命の通り、暫くは家で大人しくしているさ。久々の仕事抜きの休暇と思ってヴィアンカの相手をしてやったり‥‥そうだな。若い冒険者でも呼んでいろいろ話を聞いたりするのも悪くないだろう。今はまだ‥‥どうしようもないからな」
『暫くは』『今はまだ』
その言葉の意味を正確に把握してジーグネは彼の主に礼をとった。
「解りました。どうか、お心のままに‥‥」
心からの敬意を込めて‥‥。
かくして円卓の騎士パーシ・ヴァルから出された事件後最初の依頼は、冒険者の意表をつく穏やかなものであった。
『冒険者を目指す娘の話し相手と訓練相手の冒険者を希望する。但し、パーシの館に来ることができる者』
若手を対象に出された依頼。
無論、それだけで済むとは思わないが暗雲立ち込める未来に向けて、ひょっとしたら光を導くきっかけになるかもしれない。
そんな希望を込めて依頼は貼りだされた。
ボールス卿の依頼の横に。
●リプレイ本文
○やってきた冒険者達
ここはキャメロット郊外、円卓の騎士パーシ・ヴァルの館。
「いらっしゃーい! 待ってたよ〜〜♪」
冒険者の来訪を知らせるベルに明るい笑顔玄関にやって来たのは屋敷の主の娘ヴィアンカと
「やっぱりこうなったか」
「パーシ様!」
苦笑半分、笑顔半分で微笑む屋敷の主であった。
「パーシ様自らお出迎え下さるとは‥‥ありがとうございます」
膝を折りかけたシルヴィア・クロスロード(eb3671)をパーシは軽く手で制する。
「俺は若手にと声をかけたのだがな」
「若手じゃなくておばさんだが、ちょいと話し相手になりに来たよ。いいかな?」
フレイア・ヴォルフ(ea6557)がちょっと肩を竦めて笑う。パーシの返事は勿論、笑顔だ。
パーシの口調は決して残念がったりするものではない。むしろ気の置ける仲間への友愛に満ちているので冒険者も拗ねたりしているわけではないのだ。
「とりあえず、入ってくれ。屋敷内は自由に使って構わないから」
促され屋敷の中に入る冒険者達。前を歩く円卓の騎士の背中に
「ところで、お前は本当にパーシなのか?」
アンドリュー・カールセン(ea5936)は冗談めかしてそんな問いをかけた。
「アンドリューさん!」
責めるようなシルヴィアの言葉を気にする様子も無い。
「そういえば、以前共に旅をしたあの男の子はどうしているかな? マレアガンスを探しに言った時の‥‥」
「ウィンスロットか? あいつなら今、王城で騎士の見習いをしている。まだ従騎士以前だがやはり、父と同じ道を歩もうとしているようだな」
試すような問いかけになんの躊躇いもない返事を返してくる。アンドリューはそれだけで目の前の人物が自らの知る円卓の騎士だと確信した。
「そう言えば結婚式をあげたと聞くが新婚生活はどうだ?」
「! なんでそれを!!」
しかも反撃まで。小さく両手を挙げてアンドリューは降参の仕草をする。
「大丈夫ですよ。あの方は変わらぬあの方です」
後ろからクリステル・シャルダン(eb3862)がかけた声にシルヴィアの肩の力も程よく抜けた。
「そうですね‥‥」
シルヴィアの視線の先にいるのはパーシだけではない。
「あのね。もう少しで卵孵りそうなの!」
「そうですか。楽しみですわね」
セレナ・ザーン(ea9951)と楽しげに話すヴィアンカがいる。
その笑顔に自分がここに来た目的を思い出す。それは‥‥
「解りました。私は私のするべき事をしましょう」
決意と共に彼女は思いを握り締めた。
○少女の『戦い』方
よく手入れされた庭は新緑の緑に包まれている。
その木陰に場を作った女冒険者五人は軽い雑談をしながら、一人の少女の決意を確かめていた。
「ヴィアンカ‥‥昔の事、剣は怖いかい? それらを乗り越える気はあるのかい?」
ここにいる冒険者達はいろいろな形で知っていた。
この少女ヴィアンカがかつて人を殺める暗殺者であったことを。
「剣が怖いって逃げたり、見たくないって忘れるつもりならあたしは冒険者になること、反対するよ。そんな相手には背中を任せられないからね」
フレイアの言葉を手の中のナイフを撫でながら聞いていたヴィアンカ。その答えがあまりにも長い沈黙であった為
「ヴィアンカ様?」
心配そうにセレナは顔を覗き込もうとした。だが、その瞬間彼女の手はひらりとまるで踊るように動いてナイフを握りなおした。
「忘れようと思ってもけっこう忘れられないんだね。一度、身についた事って」
どこか寂しそうな囁きはだが、一瞬。ヴィアンカは顔を上げて真っ直ぐ冒険者達を見た。
「私、逃げないよ。だって逃げてたら皆を守れないもん。だからその為にはなんでもやる。ナイフの使い方も忘れるのを止めたの。剣の使い方も覚える。でも‥‥」
大事な人から貰ったナイフ。彼女はそれを抱きしめそっと卵の入った袋にしまう。
「自分からは絶対に剣は、ナイフも抜かない。大事な人を守る時にだけ使う。それが、私の剣の使い道だと思うから」
青い瞳に迷いはもう無いようだった。
「剣とは武の象徴であり、剣を持つ事は『自分はいつでも他者と戦う事ができるのだ』という意思表示でもあると以前お父様が言っていました。だから、私はもしヴィアンカ様が剣を持つというのであれば、剣は自分も他人も傷つけることができるということを知って、その覚悟を持った上で使って欲しいと願っていました」
でも‥‥セレナその先を紡がなかった。
自分の大事な親友は、冒険者と過ごしてきた事で『それ』をちゃんと知っていると解ったからだ。
「では、あくまで基本ですが正しい剣の使い方を教えますよ。ヴィアンカ。剣を使うには目的が必要。それを忘れないで下さいね」
「はい! あ、セレナ。卵お願い」
立ち上がるシルヴィアにヴィアンカは元気よく立ち上がってついていく。
「後で弓とかも触ってごらん。護身用の武器とかも教えてあげるから」
「はーい! じゃあ、おねがいします!」
「行きますよ!」
青空の下にコン、コンと軽快なリズムが響き渡った。
○真実の欠片
「俺は、剣を持つだけが人を守る事ではないと思っているけどな」
夕刻、ヴィアンカが寝付いた深夜の一室でアンドリューはそうパーシに語りかけた。
冒険者になりたい、剣を学びたいと願う娘に対するパーシの行動へのそれは忠告であるとパーシは解っているのだろう。静かに、だが無言で微笑んでいた。
「大丈夫ですわ。ヴィアンカさんは解っておいでです。それに身を守る術は多いに越したことは無いと思いますわ」
訓練を見守っていたクリステルは優しく笑って飲み物を二人に差し出す。
同じクレリックのクリステルの言葉に話をアンドリューはそこで切って話を戻すことにした。
日中、警備のデブリーフィングの時に聞いた事を改めてパーシと共に語ったのだ。
警備の隙を抜けてのラーンスロットの侵入。
王妃との密会の末、彼はエクスカリバーを持って逃亡した。時を同じくして王城に侵入したデビルと共に‥‥。
「それで、メリンダという方がパーシ様がラーンス卿を逃がしたとおっしゃったのですか? そんな事がある筈ないのに!」
「だが相手は女性。しかも王妃様付きの貴族騎士。言葉の信用度は高いな」
憤るシルヴィア。だがパーシは微笑んで杯を揺らしている。
「むしろ、そのメリンダさんという方が怪しいのではありませんか?」
「率直に言えば、確かにメリンダが仕込んだ可能性が一番高いが、ラーンスの傍にいたデビルというのが気になるな」
そこでシルヴィアはパーシが沈黙を守っている理由に気がついた。
一つはメリンダを彼が冒険者達と同様に疑っていること。だがそれは同時に王妃の立場を危うくする事でもあるので確証も無いうちに口には出せない。
そしてもう一つは
「ラーンス卿の事を考えておいでなのですね‥‥」
彼が本当にデビルに操られているのであれば、もう同情の余地は無いだろう。
だが円卓の騎士がデビルに堕ちたとあれば王や円卓の騎士に傷がつき、さらにはイギリス全土を揺るかも。
「パーシ様。まさかいざという時は一人で‥‥などとは考えておられませんよね?」
確かめるように問うシルヴィアの返事にも無言。パーシはただ、静かに微笑んでいる。
「ここまで語って下さったのに、まだ我々を信じて下さらないのですか!? 解りました。パーシ様。その代わり私と手合わせして下さい。負けたら後は何も聞きません」
「俺に勝つ気、なのか?」
眉を上げたパーシにシルヴィアははい、と答える。
「最近慌しくてパーシ様も満足に腕を磨かれていないでしょう。私もただ負けませんから」
ふっ。
瞬間彼に浮かんだのは笑みではあったが、どんな意味を持っていたのか。
「よかろう。手加減はしないぞ」
立ち上がったパーシの背中を見送る冒険者達の多くは、理解していたようである。
○見つめる瞳
彼とこうして戦うのは何度目だろうか。
シルヴィアは剣を合わせながら考えた。
最初の数度は相手にもならなかった。
彼に認めて欲しくて、いろいろな形で剣を合わせその度、負けてきた。
そして、今もこうして剣を合わせまったく勝てる気はしない。
技量は‥‥正直届く日も近いだろう。だが戦い方、先を見る能力、そして誰にも負けないという強い意志にまだ及ばないと知ったのだ。
(「でも、良かった」)
シルヴィアは負けを確信しながら安堵する。
彼の槍筋には一片の迷いも無い。
(「あの人はすべき事をきちんと見据えている。ならば、私はそれを助ける為に全力を尽くすだけ」)
キン!
一際高い音と共にシルヴィアの剣は飛び、地面に突き刺さった。
「そこまで!」
アンドリューの合図に礼を取り負けを認めるシルヴィア。
「まだまだ、お前達に負けはしないさ」
「そうですね。‥‥でも、負けませんから」
互いを見詰め合う瞳は真っ直ぐでゆるぎない。
「きっと何が起ころうと‥‥大丈夫ですわ」
「ああ、そうだね」
クリステルの微笑にフレイアは頷く。
今回の件がさらに動けばイギリスはまた揺れるであろう。
「お茶にしませんか? お疲れでしょう?」
「クッキー焼けたよ〜。プレゼントのお礼。シルヴィアさんのよりきっと上手だから」
「ヴィアンカ! 笑わないで下さい。パーシ様!」
皆、否応無しに戦いに巻き込まれていくだろう。
けれど、あの迷いのない瞳達が見つめる先に不幸な未来などある筈が無い。
冒険者達は、この依頼でそれを信じることができた。
パーシから聞いた話は冒険者に伝わり、やがてそれぞれが動く。
パーシとヴィアンカ。二人もきっと先頭に立つ筈だ。
(「その時は全力を尽くそう。この瞳を、見つめる未来を守る為に」)
冒険者一人ひとりがそう決意していた。
「あっ!」
お茶を入れるヴィアンカが声を上げる。
胸元で抱いていた卵が、微かな音と共に割れ
「可愛い!」
新しい命となった。
丸い無垢な瞳が少女を、そして冒険者を見つめていた。