【乙女道】手荒な招待
 |
■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月12日〜08月17日
リプレイ公開日:2009年08月20日
|
●オープニング
乙女道。
それは、キャメロットの新名所の1つである。
キャメロットの大通りから1本外れた通り。少し前までは、何の変哲もない、少しうら寂れた通りだったのだが、いつの頃からか若い女性が多く訪れるようになって、雰囲気やら何やらが一変してしまった。
廃業した食堂を改築した新しい店が出来たり、服を貸し出すという、何やら一風変わった商売が行われたりと、以前の姿はもうどこにもない。
そもそもの原因は、最近、巷で若いおぜうさん方に人気の冊子類‥‥だというのが定説となっているが、これも定かではない。
現在、乙女道と呼ばれている通りには比較的書物を扱っている店が多かった。
書物と言っても、一般的には縁のない者が多い。キャメロットの住民はまだしも、地方からやって来たばかりの者達には、字が読めない者もいたし、何よりも羊皮紙に難しい言葉を書き連ねた書物を読むよりも、吟遊詩人が語る物語の方が親しみやすかった。
それ故に、それらの書物を扱う店に出入りするのは、知識を得んとする者達がほとんどで、罷り間違っても若い娘達が出入りする場所ではなかったのだ。
だが。
とある種の冊子が若い娘達の間で爆発的な人気を得た。
最初は秘やかに。
こっそりと回し読みされているだけの冊子だった。
けれど、次第にそれは表に出、いつの間にやら小難しい書物が並ぶ店の一角を占拠してしまう程になったのだ。
そして、その通りはいつしか「乙女道」という名で呼ばれるようになった‥‥。
今回の依頼とはある意味縁遠く思われるかもしれないこの情報。
実は、とても深い意味を持つ。
その依頼に係員は耳を疑った。
「誘拐? 円卓の騎士の家の使用人が?」
確認するように問う係員に依頼人であるリフという若い執事見習いは息を切らしながら頷いた。
「そうなんです! 先ほど、ある用事の為に下町にスタイン様と出向いた時‥‥」
スタインというのがある円卓の騎士家の執事であると補足して、彼は話を続ける。
「突然、人ごみの中で手を強く引っ張られて、僕は裏道に引っ張り込まれました。それに気づいたスタイン様も追いかけてきて下さったのですが‥‥」
二人が気づいた時、周囲は不思議な仮面や布で顔を隠した人物に取り囲まれていた。
リフは引かれた手を後ろに掴まれ、身動きができない。
『リフ!』
追いかけてきたスタインは身構えるように襲撃者達を見据えた。
目的は金か、そう問いかけたその時『円卓の騎士 パーシ・ヴァル様の家の執事とお見受けする』
布で押さえられくぐもった声の一人が逆にスタインに問いかけてきたのだ。
二人は少し目を見開いた。
一瞬強盗かと思ったのに、まさか執事かと問われるとは。
『そうだとしたら、どうするおつもりですか?』
冷静なスタインの問いに、リフの後ろからリーダーらしい人物が答える。
『どうか我々とご同道頂きたい。抵抗されなければ、危害は加えぬとお約束する』
『もし、断れば?』
『力づくでも。我々にはあまり時間が無い。どうしても我々には優れた執事が必要なのだ』
リフは後ろ人物達の様子が解らないので憶測でしかないが、リーダーの答えは真剣に聞こえた。
リーダーの答えは。
他の襲撃犯は不思議な空気を纏っていたのだが‥‥。
『例の調査員がいつ来るかわからないしね〜♪ イギリス最高の執事にはちょっと手が出せないし〜』
『しっ!』
襲撃犯達とリフを交互に見てスタインは小さく微笑すると真っ直ぐ前を向き
『解りました。一緒に行きましょう』
そう真っ直ぐに答えたのだった。
『スタイン様!』
『但し、その者はお返し下さい。まだ未熟者であるし、心配する者もおります。どうか、私一人で。それでよろしければご招待をお受けいたしましょう』
背筋を伸ばした完璧な礼に、襲撃犯達も不思議にどよめく。
『うわ〜、かっこい〜。さすが本物の執事だ〜』
『だから、しっ!』
『了解した。勿論、用が済み次第お戻り頂く。危害は一切加えないとお約束する。では‥‥』
『スタイン様! お前達! スタイン様を放せ!』
襲撃犯達の方に自ら進み出ていくスタインを勿論、リフは止めようとした。
掴まれた手から逃れようとする。
だが、それを
『リフ』
一本の手と、有無を言わせぬ言葉で止めたのもスタインだったのだ。
『リフ。暫くお休みを頂きます。どうぞご心配なく、とパーシ様に言伝を。頼みましたよ』
後頭部を殴打され、リフはやがて意識を手放し、気絶した。
『はーい! じゃあ、すこ〜し、おねんねしててね。後を付けられるとちょーっと困るんだ〜♪ なにせ極秘ぷろじぇくとなのだ〜』
妙に明るい声と
『これでマップ作成に‥‥』
『乙女‥‥の‥‥人気‥‥は‥‥』
意味不明な言葉。そして遠ざかる足音を聞きながら‥‥
「なるほど、確かに妙な襲撃者だな」
係員は依頼書を確認しながら首を捻る。
パーシの家の執事と確認してから連れて行く点、身代金その他の要求も無い点。
ただの誘拐とは不思議に違う気がした。
「だろう? しかも家に戻ってパーシ様に報告をしたら‥‥」
『放っておけ』
珍しくも屋敷に戻っていたパーシは事情を聞くと焦るリフにそう答えたと言う。
『あいつが心配なくと言ったのなら心配はないという事だろう。下手に事を荒立てるな』
パーシのいう事も解らなくは無いが、でもやはりスタインを放っておくことはリフにはできなかった。
ただ、襲撃犯の手がかりは皆無。
どこに連れて行かれて何をしているかの情報は0である。
「でも、こうしている間にもスタイン様の身に何かあれば‥‥頼む! スタイン様を探してくれ!」
リフの思いは理解できる。
係員は依頼を張り出した。
少し前に出された不思議なマップ作成依頼と並ぶ形になったのは偶然である。
だが、これが後に不思議な奇跡を呼ぶことになるとはまだ冒険者は知る由も無い。
●今回の参加者
ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
●リプレイ本文
○二つの依頼
「ん?」
依頼に出発しようとする冒険者達。
彼らはふと、誰がというわけでもなく足を止めた。
「乙女道マップ作成依頼‥‥? この時期にしては随分緊張感の無い依頼だね」
ヒースクリフ・ムーア(ea0286)は腕を組みながら自分達の受けた依頼の隣に張り出された依頼を見て見下ろすと呟いた。
「うん、‥‥でも、楽しそうだと思うよ。それにそれを言うなら私達の依頼だって微妙に緊張感ないし〜」
横でヒースクリフと同じ依頼を斜め下から見るユリゼ・ファルアート(ea3502)。
彼らが受けたのは円卓の騎士の行方不明になった執事を探すというものだ。
「緊張感が無いとは何を言うのだ! 円卓の騎士パーシ・ヴァル殿の執事を誘拐するとは、とんでもない事件なのだ! 先日の園遊会事件やデビルとも関わりがあるやも知れぬし、ひょっとしたらラーンス卿の足取りとも?」
「まさかあ〜」
手を振るユリゼの言葉をヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は微妙に聞いていない。
「新手の魔王とその配下であるか? それとも最強の変態紳士であるか? そのような陰謀、例え誰が許そうと教皇庁が! テンプルナイトが! この余が! 見過ごしてなぞおくものか〜!」
なんだか妙な方向にやる気を爆発されるヤングヴラドである、何故かそれに同意する者もいる。アーシャ・イクティノス(eb6702)は同意と大きく頷くとヤングヴラドに手を差し出した。
「その通りです! 執事といえばご主人様のスケジュール管理とか体調管理ですよね? 円卓の騎士様の執事なら、密命を受けて裏の仕事をしたり、謎の発明品を作って悪者をやっつけたりするのかも! だからきっと悪者が英国にダメージを与えるためにさらったのですよ。悪の組織の匂いがします。暴いてやるのです〜」
「おお! 同士!」
がっちりと手を合わせあう二人に
「あ〜、パーシ卿もあんまり事を荒立てるなと言っていたし、とりあえずは落ち着きたまえ」
ヒースクリフとユリゼは苦笑を浮かべた。
「確かに‥‥そうですよね」
「えっ? なに? リディさんもデビルとかの陰謀とかって思ってたり?」
後ろから発せられた囁くような言葉にユリゼは振り返り、それを発した人物に問いかけた。
「あ、はい‥‥、ではなく」
真っ直ぐな瞳に覗き込まれたリディエール・アンティロープ(eb5977)の顔は微かに依頼書を見つめている。
この場合は自分達の受けた依頼をだ。
「執事さんを名指しで連れて行ったのは何故でしょう、と思いまして。円卓の騎士の執事であれば特別な何かをお持ちで、それが理由なのでは‥‥と」
「だが、この国の警備を担当し、危機管理に関しては常人以上のパーシ卿が動かない以上依頼人殿やヤングヴラド卿達が心配する程の事までは無いと思うが」
「それでも誘拐は誘拐だし、放ってもおけないし、早く探そう」
「ここで考えていても仕方ありませんしね。とりあえずリフさんから話を聞いてから、聞き込み、でしょうか」
「少し時間が貰えるなら誘拐された現場で、パーストも使えるよ」
「よし! では、出発なのだ!」
歩き出し、動き出す冒険者達。
その出発の直前、ヒースクリフは係員に、何かを囁いて一枚の紙切れを受け取っていた。
○乙女の道
その道は、一見、ごく普通の何の変哲も無い商店街である。
「ここが乙女道と言うところか‥‥」
周囲を見回すヒースクリフは微かに声を潜めた。書店や衣類を扱う店が並び、飲食店もある‥‥キャメロットの一般の市街とそれほど大差ないように見えるが、確かに客層は違うようである。
「なにやら空気の違う路地に出たのだ‥‥」
年頃の女性から、妙齢の女性まで普段、あまりアクティブに動くことの無いような女性までが楽しげに歩いている。自分やヤングヴラドが浮く程にやはりここは空気が違う‥‥。
「うん、気持ちは解るけど‥‥」
引き気味の男性二人(ちなみに男性はもう一人いるが彼は妙に違和感がない)を気遣うようにユリゼは頷き、前を見る。
「でもキャメロットに乙女道っていうのは、ここしかないからパーストでもこっち方向に来てたし、やっぱりこの辺を探すしかないんじゃないかな? ね? アーシャさん?」
「え? ‥‥あ! ごめんなさい」
初めての乙女道に興味津々で女性向のアクセサリー売りや書店に目を輝かせていたアーシャは首をふり、仕事モードに自分を戻す。
「お二人が浮くくらいに、この辺には男性が多くありません。もし、こんなステキな執事さんが歩いていれば割りと解りやすいと思うんです」
こんな、と彼女が指し示す羊皮紙には初老で落ち着いた感じの美男性が描かれている。
「出歩いていれば、の話だがな‥‥」
腕を組むヒースクリフ。普通、誘拐した相手をあまり外には出すまい。
だが、その会話の最中‥‥
「ちょっと、皆‥‥あれ!」
アーシャは驚いた顔で人ごみを指している。
「何があったんですか?」
リディエールが問い返す。彼らは彼女が驚いたものを確認する事はできなかったのだ。
「今、この似顔絵そっくりの人が向こうに向かって歩いていくのが見えました。女の子と‥‥腕を組んで‥‥」
「なに?」
見返しても今はそれらしいものは見えない。だが、アーシャの見たものが見間違いではないのなら‥‥。
「よし、引いている場合じゃないな。本格的に情報収集を始めよう。特に向こう側を中心に聞き込みだ」
「「「「了解!」」」」
冒険者達は動き出した。
乙女の聖地で。
そして暫くの後。
一軒の店に彼らは辿り着いた。地面から下に向かって階段が降りている。珍しい地階の店だ。
少し前までここは地上階で飲食店をやっていたという。
だが最近りにゅーあるおーぷんの為と銘打って暫く休業している。
煉瓦で組まれた壁、周囲には丁寧に育てられて蔦の絡まる薔薇の花。
「ふむ、いかにも怪しげなのだ。だが、話を総合するに、ここに例の執事殿がいるのは間違いなさそうなのだ‥‥よし、ここは一気に突入するのだあ!」
すっかりヤル気満々のヤングヴラドとは別に聞き込みを続けるうち、冒険者達にはもうなんとなく今回の事件の真相が見えつつあった。
だが、ヤングヴラドを止めはしない。事実はしっかりと確認しないといけないし、それには彼の行動はなかなかに丁度いい。それぞれに微笑を浮かべながら頷く仲間達を確認し
「では! 出陣!」
彼は剣を抜き階段を真っ直ぐに走り降りた。そして重厚な木の扉を思いっきり蹴り押した。
「やあやあ、我こそは教皇庁直下、聖女騎士団の白騎士。神罰の地上代行者にてテンプルナイト、ヴラド見参である! 覚悟せ‥‥よ?」
颯爽と名乗りを上げるはずだったヤングヴラドの声が詰まる。
後ろではユリゼがくくと笑いをこらえているのが解った。
突然の来客に何事かと目を丸くする多くの従業員達。その中、一人の男性だけは驚きを微塵も顔に出す事無く、丁寧に礼をとって『来客』にお辞儀をする。
「お帰りなさいませ。おぼっちゃま」
冒険者達の探す円卓の騎士の執事がそこに笑顔で佇んでいた。
○招かれた教師
「どうぞ。ご心配をおかけして申し訳ありません」
差し出されたハーブティを奨められた席に座り、冒険者達は促されるまま口につけた。
「‥‥おいしい」
入れ加減もお湯の温度も完璧。柔らかなハーブの香りが落ち着いた調度の並ぶこの空間に合っていて、冒険者達は自分達の心が和み、口元がほころぶのを感じていた。
「ひつじ喫茶?」
「執事喫茶、だってば。それを作ろうとしたの?」
ヤングヴラドのややこしくなりそうな言葉を制し問うユリゼにはい、と男性は頷いた。
執事スタインは彼をこの店の店長であると説明する。
「この店は明後日開店予定です。元々我々はここで家族経営の料理店を開いておりましたが、最近の客層の変化とライバル店の増加から若い女性にターゲットを絞った新しい店を作ろうと思い立ったのです」
背後にいる少女二人、男性二人は彼の子供達だろうか? そのうちの一人、少女があのねと微笑む。
「女の子って皆、自分がお姫様になりたいと思うの。だから自分をお嬢様にしてくれる執事さんにお茶を入れてもらったら嬉しいだろうなあって。でも、お兄ちゃん達、おもてなしの心がぜんぜん解ってないんだもん。だから‥‥」
「本物の執事に教えてもらおうと思った、というわけか。だがお嬢さん。周りに心配を掛けるようなやり方は止めなさい。彼の家族も心配しているだろう?」
「この道のマップ作成の噂もあって、急いでたから‥‥でも、ごめんなさい」
ヒースクリフの注意に肩を萎ませる少女。他の店の者達もしゅんと首を下げる。
しかし、それを庇うようにスタインは手を差し伸べ首を振る。
「確かに手荒な招待ではありましたが、良くして頂きましたし楽しませて頂きました。開店までお手伝いをしていきたいのですが‥‥」
「お茶の味もお菓子も上等‥‥なら、後は本当におもてなしだけですね」
憧れのロマンスグレーの執事の笑みにカップを置いたアーシャは優しく微笑む。
「喫茶店が上手くいったら返して下さい。それが条件です」
わあ、と歓声が上がり、執事は丁寧に頭を下げた。
冒険者達も微笑んで頷く。思いは一つだった。
この美しい空間に争いは似合わない。と。
○新名所 オープン
数日後、乙女道に新店舗がオープンした。
聞くところによるとその喫茶店、執事が来客をお嬢様として出迎え、おもてなしをする店として、人々の噂を集める店になったらしい。
貴族直伝のお茶の入れ方や美味しいお菓子も評判を後押ししているようだ。
初日にのみ現れた美少年店員や近々暇を取るという執事長を惜しむ声も多いが、彼らが消えてからもきっとこの店は長く愛され続いていくだろう。
扉を開けると彼らは今日も笑顔で出迎えてくれる。
「いつも笑顔で、主が心安らげるように」
その教えを胸に。
「おかえりなさいませ。お嬢様、お坊ちゃま」
と。