【月桂樹の冠】森の秘密

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 88 C

参加人数:15人

サポート参加人数:7人

冒険期間:09月20日〜09月26日

リプレイ公開日:2009年09月28日

●オープニング

 森の秋はその側に暮らす者にとって春より待ち遠しい季節である。
 美しく色づき始めた木々や、澄み渡る泉の蒼、はこの場合あまり関係ない。
 彼らが求めるのは木の実や果実。キノコ。森の恵みである。
 さらにはを越すための薪も森から集めなくてはならないし、森で狩りを、河で漁をして肉や魚も確保しなければならない。
 逆に言えば森の側で暮らす者は、森からの恵み無しには生きていけないのだ。
 だが、今年、この森の民達はその森に一歩も入れずにいた。
「森にすごく怖いデビルが出るんだよ!」
 そう最初に言い出したのは子供達だった。
「ほら、怪我させられたんだ。みんな、森に行かないほうがいいよ」
 少年はそういって、腕についた爪あとを見せた。
 やがて、柵が壊されたり、小屋から食料がなくなる事件が続発する。
 翌朝には爪あとや、足跡がぬかるんだ地面に残されていた。
 やがて森の中で、
『ギギャガギャヤ!』
 変な奇声や怪しい影を見た、という者も出始めた。
 聖杯戦争も、黙示録の時も、何も無いが故にデビルも訪れなかったこの村では、大人でさえデビルを見た事が在る者は少ない。
「デビルっていうのは恐ろしいもんなんだろ? そんなのに見つかったら直ぐに殺されちまうだ!」
 正体の知れない敵の存在に、人々は怯え、震えていた。
 そんな人々の様子を見て、村の長は決意したように人々に言った。
「けど、このまま森に入れなかったらどっちみち、冬は越せねえ。そんならいっそキャメロットで冒険者を頼んで退治してももらうべ!」
 裕福ではない村のできる限りの財産を持って使い役は旅立っていく。

「どうする? 冒険者が来たらバレちゃうよ!」
「あと少し、あと少しなんだ。なんとか冒険者を引き止めよう! 来たらいっぱい話しかけるんだ」
「俺、逆の方向で見たって言う!」
 そんな声が彼の背中を見送っていた事を知る由も無く。

 ドン!
「あっ!」
 その音と、衝撃にシルヴィア・クロスロード(eb3671)は自分が人にぶつかったことに気づいて、慌てて前を見た。そこには、しりもちをつきながら頭を抱える男性がいた。
「いたたたた‥‥」
 謝罪しながら手を差し伸べる。
「すみません! ちょっと考え事をしていて‥‥。大丈夫ですか?」
「ああ、すまねえな。前を見てなかったのはおらもいっしょだ。なにせキャメロットに来るのははじめてなもんで、なにがなにやら‥‥」
 差し出された手を掴んでよっこらしょ、と立ち上がった男は、ふむむと、シルヴィアを見る。
「あの‥‥何か?」
「おめえさん、剣持っとるがひょっとして、騎士とか冒険者って人かい?」
「ええ、まあ、その両方です」
「だったら、ちょっと頼みさ聞いてくんねえか? おら、冒険者ギルドってとこに行きてえだよ」
「冒険者ギルドに? じゃあ、ご案内します」
 そうしてシルヴィアは、彼を冒険者ギルドに案内し、その事情を聞いたのである。
「森にデビルが‥‥」
「んだ。うんとでっかくて2メートルはあるっていうだよ。足跡もでっけえしなあ〜」
「2メートル。それは凄いですね‥‥。でも足跡‥‥ですか?」
 ギルドに出された依頼を見ながら彼女は腕を組む。
 何か思うところがあるようである。
「これで、ええんか?」
「はい。依頼は受理されました」
「んじゃ、おらは村に帰るだ。なるべく早く来てくれって頼んでくれな!」
「解りました。ではまた‥‥」
 去っていく男性を見送りながら、係員はシルヴィアに聞いた。
「シルヴィアさん。この依頼受けられるんですか?」
 男性の最後の言葉に答えたのは係員ではなく、シルヴィアである。
 それを問われシルヴィアは、ええ。と頷いた。
「デビル、と聞いては黙っているわけにはいきません。ベイリーフ隊の皆に声をかけて行こうと思っています」
「それはそれは‥‥」
 係員は少し驚いたように目を見開き、そして微笑した。
 ベイリーフ隊といえば先の戦いでも活躍した実力者ぞろいのチームだ。
「でも、話を聞く限り彼らが言うほど凶悪なデビルじゃないかもしれませんよ」
 確認するような係員にええ、とシルヴィアは頷く。
「その時は皆で気分転換のピクニックを兼ねてのんびりいきますよ。一度、チームの皆で出かける機会が欲しいとは思っていたんです」
 先の戦いでのデビルの言葉は胸にまだ残っている。
『大事なものを‥‥』
「そんなことはさせません。絶対に」
 ‥‥予感がする。これから、何かが迫ってくる嫌な予感が。
 それを振り払い、前を向く為。
 そして仲間達と戦っていく決意を新たにする為。 
 シルヴィアはその依頼を手に取った。

「もう少し、もう少しだから‥‥ね? いい子だから‥‥。お兄ちゃん達、冒険者の人を上手く引き止めてくれるかしら?」
 振り返り、洞窟にむけてそう囁いた少女は去っていく。
『キキッ! あれ? うまそう!!』
 そんな声を知る由も無く‥‥。
 

●今回の参加者

 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5522 フィオナ・ファルケナーゲ(32歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 ec0246 トゥルエノ・ラシーロ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec1621 ルザリア・レイバーン(33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec3876 アイリス・リード(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

桜葉 紫苑(eb2282)/ 藤村 凪(eb3310)/ アペ(eb5897)/ レイア・アローネ(eb8106)/ セイル・ファースト(eb8642)/ ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)/ ユクセル・デニズ(ec5876

●リプレイ本文

○再会そして旅立ち
 キャメロットの門は冒険者達の出発地点。
 そこに人々が集うのは勿論珍しいことではない。
 だが今日集まった人々は道行く人々の目を少なからず引いた。
 種族で言うなら人間、シフール、エルフにハーフエルフ。
 職業で言うなら戦士に騎士に、神聖騎士、クレリックに僧兵、ウィザードにバードにレンジャー。
 外見で言うなら金髪、銀髪、黒髪、茶髪に青髪。
 目の色で言うなら‥‥止めておく。
 とにかく人種、外見、年齢、性別。様々な十五人がそこに集っていた。
「これだけ立派な冒険者の皆さんがお揃いだと、壮観ですわね」
「そうだね」
 その中に自分が入っていることに少し照れ笑いを浮かべながらリース・フォード(ec4979)はラヴィサフィア・フォルミナムの差し出す弁当を受け取り頭を撫でた。
 黙示録を共に戦った仲間達との久々の再会、そして何より
「ベイリーフ隊の皆さん、今日はお集まり下さってありがとうございます」
 笑顔で皆に声をかけるシルヴィア・クロスロード(eb3671)と共に過ごせる事を彼はとても楽しみにしていた。
「誘ってくれてありがとう、シルヴィア」
 トゥルエノ・ラシーロ(ec0246)も、いや仲間達全員が同じであろうとリースは確信する。
 朝露の如き光をその心に持つ騎士と‥‥。
「ベイリーフ隊で再び集まる機会があるとは思いませんでした。嬉しいですが、デビルが出るかもしれないとあっては気を抜く訳にはいきませんね」
 真面目な顔で考え込むシャロン・シェフィールド(ec4984)。その横でひらひらと舞いながら
「ホント、デビルってあとからあとから沸いて出るのね。もう顔も見たくないってのに。まあ、シルヴィアが出した依頼だから参加するけど」
 フィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)が大きなため息をついた。
 ベイリーフ隊は黙示録の戦いを共に戦ったチームである。デビルとの戦いのエキスパートでもある。
「確かにデビルについてはそうなのですが、今回はそれほど強敵では無いと思いますよ。ただ、油断は禁物ですね。体長2m近いという目撃証言があったとか、足跡があった。とか言いますから」
「デビルの足跡? そんなこと聞いた事も無いけど。だって、あいつら羽があるのよ。無い奴だって大抵空を飛べる。おかげでどれほど苦労してきたか」
「2mの体躯の目撃証言、それに足跡か‥‥。なるほど、ね」
 口で注意を促しながらも微笑を絶やさない隊長。口で言いながらもそれほど深刻さを見せないトゥルエノの様子にアルヴィス・スヴィバル(ea2804)は目配せした。
「人々が笑顔で生きていける世の中を守るのが俺達の役目だ。本当にデビルがいると言うのなら‥‥放っておく訳にはいかないな」
 真面目な顔のグラディ・アトール(ea0640)や
「ご一緒できること、とても嬉しく思います。私は私にできることを全力で行います」
「私もです。イギリスでの依頼は不慣れな身、お役に立てるといいのですが‥‥」
 真剣な目を見せるアイリス・リード(ec3876)や琉瑞香(ec3981)とは違い、同じように微笑するクリステル・シャルダン(eb3862)やヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)はなんとなく事の真相を感じているようでもある。
 勿論、隊長も‥‥。
 アルヴィスの視線を感じたのだろう。陰守森写歩朗(eb7208)は柔らかく微笑みを返した。
「助けを求める人を放ってはおけない、そんな隊の皆ですからね。何があっても全力で挑むというのは変わりがないでしょう。当然私も協力は惜しみませんよ」
「そうだね」
 頷くアルヴィスの視線の先では同じような思いを、数十倍の派手さで表現する者もいる。
「ふははははは! 確かに! ベイリーフ隊が揃っての任務遂行というのも久しぶりであるな。まあ、まだまだ不穏なこのご時勢ゆえ、我らの出動が無くなるのはもうちっと先の話になるやもしれぬのだ。
 しかし、行く先は風光明媚で有名なところでもある。事件解決の暁にはピクニックとしゃれ込むのもいいであるな」
「ええ、それを目標にしたいと私も思っています。人助けをして、それからピクニックを楽しみましょう!」
「おう!!」
 声と手と心が同じ、一つの方向を向いた。
「毒キノコとデビルには気をつけてな」
 ユクセル・デニズや友たちに見送られながら、真っ青な秋の蒼の下、ある者は天馬で空を、またある者は馬で地上を目的地へと向かったのであった。

○嘘と真実、思いと願い
 そして数日後、目的地となった村は
「おー、凄い凄い!」
「やんややんや」
 思わぬ喝采と拍手で溢れていた。
「我輩は闇を運ぶ大いなる魔王。人々のうめきと悲しみが何よりの喜びなのだ! さあ、我らの前に膝を折り、その全てを捧げよ!」
 巨大なマントを広げ人々に襲い掛かるヤングヴラドの演技は迫力満点。
 村人の多くはその演技に引き込まれている。
 しかし、本来だったら最前列で夢中になっている筈の子供達の何人かは、妙に気もそぞろで落ち着きを見せない。
「おい、どうするんだよ?」
「皆で行ったらバレるぞ。それにチビ共はすっかり夢中だ」
「でも、あの冒険者達じゃ‥‥隠さないと直ぐに見つかっちゃうよ‥‥」
「じゃあ、俺がこっそり行ってくる。お前達はこっちにいろよ」
 こっそりと一人の少年が、観客席から離れて森へと向かう。
 それを見ていた冒険者達は、静かに頷き合ってその後を追いかけて行った。

 遡る事約一日。
「うーん、これは‥‥」
 あごに手を当てて考え込むジルベール・ダリエ(ec5609)の顔を、
「やっぱり、何か悪いデビルなんでしょうか?」
 心配そうに側で見ていたが婦人が覗き込んだ。洗濯物を抱えたままの彼女を心配させまいとジルベールは
「ちゃうちゃう。あ、いや、ぜんぜんちゃう、ってわけやないけど、ま、そんな心配するほどのこっちゃないから、安心してええから。な? グラディさん?」
 同行する騎士に話しかけた。突然向けられた矛先に戸惑いながらもグラディは
「え、ええ。大丈夫です、心配はいらないでしょう。ただ、デビルは変身ができるので小さな隙間から入り込む可能性もあります。気になるなら小さな隙間も塞いでおくといいかもしれませんよ」
 とジルベールの意図を汲んだ返事をする。
「そうですか。解りました、さっそく、主人と相談してみます。ありがとうございました。‥‥よろしくお願いします」
 少し表情を明るくして去っていく彼女を見送り、
「ありがとな」
 と笑うジルベール。その笑顔は振り向いたジルベールの背後から
「ジルベールど〜の〜」
 疲れきった声が名前を呼ぶまで続いた。
「あ、ルザリアさん。お疲れ〜、そっちはけっこう大変だったみたいやな〜」
「お疲れ様です」
 ハハハと苦笑半分の笑みで労うジルベールに真面目に労うグラディ。
 けっこうなんてもんではなかったですよ! とルザリア・レイバーン(ec1621)は口にしない代わりに大きくため息をついた。
「集合時間です。行きましょう」
「そやな」
 村はずれの目立たない広場。夕暮れも近いが、まだ仲間達の表情はよく見える。
 集まったジルベールは仲間達の明らかな表情の違いに、悪いと思いつつも思わず小さく吹き出していた。
「いやはや、ご苦労さんや。皆、たいへんやったんだねえ〜」
 顔を見るとどの役割だったか解るような気さえする。 
 子供のパワーとは並大抵のものではない。
 彼女のみならずアイリスやミシェル・コクトー(ec4318)も振り回されて疲れきっている様子だった。
「いや、子供って元気だね。泣いたり、笑ったり、走ったり大忙しだよ」
「本当に。ついていくのがやっと、ですわ」 
 アルヴィスやクリステルも彼女ら程ではないが表情に疲労を見せている。
「なんだ。だらしないのだ。もっと元気を出すのだ〜〜」
 子供担当で、あいも変わらず元気なのはヤングヴラドくらいのもの、というのはさておき。
「でも、一つ確認した事がありますわ。あの子達は何かを森に隠していますの」
 ミシェルの言葉にアイリスも静かに頷いた。
 彼らは意識していなかったであろうが子供達の担当を作ることで、逆にそれ以外の担当は自由に動くことができるようになっていた。
 流石に15名の冒険者に子供達も全員が貼り付けない。
 だから、子供達は二手に分かれたようなのである。
「今回、僕達の方に来たのは足止め役だね。森に近づけないように一生懸命なのが見て取れたよ」
『怒らないし大人にも黙ってるよ。だからさ、ね?』
『うん‥‥でも‥‥あのね‥‥』
『こらー! 黙ってるって約束しただろ。あ、ゴメン。兄ちゃん、なんでもないから!』
 必死なまでの子供達の様子を思い出し、含み笑いながらアルヴィスは告げる。
「逆に言えばそれは森に何かがあるという事です」
『俺が森であそんでいたらさ、突然、ぐあっって襲い掛かってきたんだ。俺、足元にあった木をそいつの足に思いっきり刺してやったんだけどさ、そしたらそいつ、俺を突き飛ばして‥‥。だから、姉ちゃん達も森に行かないほうがいいって。見上げるくらいでかかったんだからさ!』
 リーダー格の少年はそう言っていたが、そこに既に明確な嘘がある。
 デビルはその辺に落ちている木などでは決して傷つけられないのだ。
「他の子供達の証言も矛盾が多かった。森に、何かを隠しているのは間違いないようだな」
「そして、重要なのはデビルを見た、と言っているのが子供達だけ、という点だ。大人は影以上のものを見てはいない」
 メモを見ながら語るルザリアの言葉を裏付けるようにグラディは言葉を継いだ。
「壊されたと言う柵なども見せてもらいましたが、デビルが壊したにしては生易しい壊し方でした。大人が壊したとも思えないくらいの‥‥子供の手によるものではないか、と思います」
 修理を手伝った瑞香が言うのだから確かだろう。そして‥‥
「森に入って偵察を、と思ったのですが子供達に撒かれてしまいました。でも、足跡は確認しました。大きな足跡の側にそれを作ったであろう者の小さな足跡の痕跡も」
「あの足跡はデビルとちゃうな。見た皆は解ってるやろうけど、足の跡、大きいだけでまっ平らなんや。デビルどころか生き物ならもう少し浮き沈みがあるやろ」
「村の人達はデビルだから、で納得していましたがあれは作られたものである可能性が高いと思われますわ。つまり‥‥」
 一日調査をした冒険者の結論は一つ。
 シルヴィアが仲間達の意見を纏めるように、確かめるように告げる。
「村を襲った2mのデビル。それは子供達の捏造だ、ということですね」
 全員が静かに頷いた。
「でもね、シルヴィア」
 トゥルエノは親友である騎士の瞳を見つめる。
「嘘は必ずしも暴くべきものじゃないって思ったりするの。それが優しい嘘なら尚更‥‥子供達は確かに嘘をついている。何かを隠しているのだろうけど注意して、それこそ私達にまでなかなか悟られないほど隠しているのはよっぽど、大切なものなのよ」
 なんとか、子供達の気持ちを汲んであげる訳にはいかないだろうか。幾多の悲しみを知ってきた目がそう言っている。
「勿論、子供達をこのままにはしておけないわ。でも、できるならその嘘を守ってあげたい。‥‥ダメかしら」
「僕は賛成しないな。どんな嘘もいつかバレる。そしたら余計に子供達を傷つけることになる。嘘で隠すよりも真実に向き合わせる勇気を持たせないと」
 文句の付けようのないリースの正論。だが、トゥルエノはそれに抗議する。
「子供達だって真実を告げられるならきっとそうした。嘘をつかなければならない理由があるからこそ、嘘をついたのだと思わないの?」
「‥‥何にせよ。真実を確かめる必要があります。そして、子供達と、森をデビルから守らなくては‥‥」
「デビル? それは‥‥」
 二人の言い争いを静かに納め、シルヴィアは瑞香と森写歩朗を見る。
 森写歩朗の手の錫杖が揺れている。小さく呪文を呟き‥‥目を開けた瑞香も頷く。
 歴戦の冒険者達である。それだけで、彼らは全てを察した。
「子供達や村人をできるだけ森から遠ざける必要がある、ということですわよね。ならば、こういうのはどうかしら?」
 ミシェルが提案し、喜びいさんでヤングヴラドが協力を約束し、そして素早く作戦は決行された。
 作戦名
『優しいお兄さん、お姉さんと聞く良い子と悪い子のデビル講座。奥義 カリスマティックオーラ発動!』
 命名が誰であるかは、誰も知らない。

 かくして村人は大人も子供も村の広場に集まって、冒険者達の話を聞く事になった。
「ぐあっはは! 人間など心脆きもの。嘘で真実を塗り固め、いつも心惑う弱気きものなのだ〜〜!」
「確かに、人は弱いかもしれない。けれど、力を合わせることでどんな困難も乗り越えていけるのです!」
 ヤングヴラド扮する魔王にミシェルの演じる騎士が肉薄している。王妃が今、正に目の前で攫われようとしていたのだ。
 寸劇仕立てのお話は子供達の心を引き、大人達も退屈させずお話の世界に引き込んでいく。
 だが、一人の少年だけはそれに背を向けて村はずれへ、そして森へと走っていった。
 手に持ったランタンだけが闇の中に線を揺れながら描いていた。
 やがて木々の間から、茶色い岩肌が覗く。
「も、もう直ぐだ。間に合った‥‥?」
 少年が安堵の息を吐き出したその時だ。
「こんな夜更けに森の中の一人歩きは危ないですよ」
 静かな声が彼の足を止めたのだ。
 少年は慌ててカンテラを声のほうへと向ける。
 そこには闇の中静かに立つ銀の髪の騎士の姿があった。
「ね、姉ちゃん。俺の後、ついてきたのか?」
「ええ。でも、早くに解ってはいました。貴方達の言うデビルというのが嘘だ、ということは。知らなかったでしょう? デビルは聖別されたアイテムで無いと傷つけられないことを」
「えっ?」
 驚く少年に銀の騎士。シルヴィアはさらに続ける。
「貴方達が隠しているものも、解りました。‥‥クリステルさん」
 背後の気配に振り返った少年は、そこに立っている者を見てがっくりと膝を折る。
 そこには数名の冒険者。そして、彼らに守られるように立つクリステルの姿があったのだ。
 彼女は腕に赤い縞模様のある小熊を抱いていて‥‥。
「さっき、うちのベニがみっけたんや。あんたらこいつを庇ってとったんやな。犬猫ならともかく、困った子らや」
「ジルベールさん。その話はまた後で‥‥はい。お返しします」
 肩を竦めるジルベールの横から一歩、二歩と歩いて近づいたクリステルは、小熊を自分の腕から少年の腕へと移動させる。
「えっ?」
 怒られる、諌められる、小熊を奪われる。
 冒険者や親に見つかった時、覚悟していた、予想していた結末とは違う冒険者の行動に少年は目を丸くした。
 夢かと思う程だが、手の中で安心しきった寝息を立てる小熊が夢ではないと知らせている。
「暫く、その子と一緒に静かにしていて下さい。そこから、動いてはいけませんよ」
 シルヴィアはそう少年に微笑むと、彼らに背を向けた。
 一度上空に顔を向け、頷くと仲間達に指示を与える。
「皆さん、デビルが近づいているそうです。数は20程。ジルベールさんとシャロンさんは彼らの側から援護射撃を頼みます。クリステルさん、アルヴィスさん後方はお任せします。後は皆さん、持ち場に。手加減はいりません。一気に片付けてしまいましょう」
 隊長の指示にまるで冒険者達は一つの生き物のように動いて陣形を作っていく。
『ウキキ? 太ったクマ、どこ? どこだ?』
「貴方達に渡す命など一つもありません!」
 いくつかのカンテラ以外は照らすものもない漆黒の闇。
 なのに少年には彼らがまるで光を放っているように眩しく思えた。
「大丈夫ですよ。心配しないで。貴方達は私達ベイリーフ隊が、必ず守ります」
 シャロンとクリステルが優しく笑いかける。だが、それが聞こえていたかどうかは解らない。
 少年は目の前で繰り広げられる冒険者達の眩しい戦いから目を離す事無く、見つめ続けていたから‥‥。

 やがて舞台はクライマックスを迎えようとしていた。
 正義の騎士の剣が、魔王の胸に突き刺さる。
「うわああっ! だ、だが、我らを滅ぼせると思うな。人の心に悪や偽り、人を妬む心がある限り、我々が消える事は無いのだ」
「ならば、何度でも打ち倒して見せましょう。人の心に誰かを守りたいと言う光がある限り、私達が負ける事は無いのです!」
 悲鳴を上げて消えていく魔王。王妃を救い出し微笑む騎士。
「‥‥かくして、魔王は正義の騎士に撃ち滅ぼされ、世界に平和が戻ったのでありました。めでたしめでたし」
 満場の拍手が演技者達に注がれる中、彼らは舞台上から仲間達と、消えた筈の少年がその拍手に加わっているのを見つけ満面の笑みで、お辞儀をしたのだった。

○ベイリーフへの思い
 翌日。
 美しい秋晴れの空の下。
「ハハ、冷たくて気持ちいですねえ。あ、ダメですよ。顔にかけるのは反則です」
 そんな歓声が森の中に響いていた。
「ん〜、やっぱり羽を休めてピクニックって気持ちいいわね」
「もう。子供達と一緒に裸足になって水に入るなんて変なところで子供みたいな隊長ですわね。‥‥でも、負けていませんわよ。私も‥‥えいっ!」
「わっ! ミシェルさん。ウィンプルが濡れます!」
「なら脱いでしまえばいいのよ。昨日、王妃様役をやった時みたいね。大丈夫。この天気ですもの。直ぐ乾きますわ」
「で、でも‥‥!」
「とっても気持ちいですよ。ルザリアさんも、シャロンさんも早く早く!」
 無事任務を終えた冒険者は約束どおり秋の森でのピクニックを楽しんでいた。
 良い場所はないか、という冒険者の問いに子供達がとっておきの所と連れてきてくれたここは穏やかで美しい河の流れがあり、周囲には腰を落ち着けるに調度いい岩場や、木の実の生る木があったりと本当に最高の場所でまだ到着して一刻足らず。でも歓声は途切れることを知らなかった。
「あらあら。皆さん、もう秋ですからね。風邪など引かれないように気をつけて下さいね」
 食事の用意をしながら声をかけるクリステルにハーイと返事をする娘達の様子は年相応かそれ以下に見える。
 とても昨日の夜、剣を取りデビルを撃ち滅ぼした戦士達とは思えないだろう。
「う〜ん、あんまり水を散らされると魚が逃げちゃうと思うんだけどなあ〜」
「まあ、いいんじゃないかな? 魚釣りはお昼ご飯の後でも、さ。なんかご馳走や差し入れで食べるものはいっぱいみたいだしね」
 釣竿の様子を見ながら顔を合わせるアルヴィスとリースは河と川辺を交互に見た。
 川辺に小さく作った場にはたくさんのお菓子にケーキが並んでいる。
 クルミパンに、きのこのソテー。栗と鳥の煮物に野りんごのパイ。
 村の食材でクリステルと森写歩朗、そして子供達が作った超豪華弁当だ。
「うむ、どれもおいしそうなのだ。どれ、早速一口」
 パイに伸びかけたヤングヴラドの手をパチリ、クリステルが軽く叩いた。
「お昼まで待って下さいね。つまみ食いは許しませんよ」
「むー、つまらないのだ〜」
 膨れるヤングヴラドの様子は河の娘達にも笑顔を咲かせる。
 そんな光景を楽しげに見つめながら手を動かしていたジルベールは
「楽しそうやな〜。後で混ぜてもらお、っと、できたで。これはお前さんの分」
 紐を口できゅっと結んで完成したものを少年に手渡した。
「ありがとう」
 手作りの釣竿。だが受け取る少年の笑顔は微妙に暗い。
「どうしたんや? 気にいらへんか?」
「ううん、そうじゃなくって‥‥」
 自分達が一緒に楽しんでいいのか、という意味だろう。 
 彼の足元では瑪瑙熊の小熊が水を突いている。
 河に興味があるのか、魚を探す本能か。
 その両方かもしれないが‥‥物怖じせずころころと転がりまわっていた。
 昨夜デビルの襲撃を冒険者が退けた後、少年はこの小熊は傷ついて死にかけていたのを自分達が見つけたのだと語った。
「多分、母親は死んでる。数日前に狩人の一人が瑪瑙熊をしとめたって言ってたから。で、その時こいつも傷つつけられたんだと思う。俺達が見つけた時には本当に死にかけていて‥‥皆で一生懸命手当てして助けたんだ」
 森の奥の小さな洞窟に子供達が代わる代わるに世話をし、やっと峠を越えたのが2週間ほど前、そして怪我が治りかけた小熊がちょろとちょろと歩き始めたのが丁度デビルが出たと、人々が騒ぎ出す少し前だった。
「俺達がずっと側についてられればいいんだけど、そうもいかないだろ? でも、大人に見つかったらこいつも殺されちゃう。だからせめて怪我が治るまで‥‥と思ってさ」
 怪我が完全に治ったら、別の山に逃がしに行こうと思っていたと少年は語る。
 それまでの時間稼ぎに大人を森に入れない為、デビルが森に出たと嘘をついたのだ、と‥‥。
「まさか本当のデビルが出るなんて思ってなかったから‥‥ごめんなさい」
 謝る少年を冒険者は誰も責めなかった。
 だが、事情を知る村人は違う。
 特に少年は村長の息子であったが故にストレートな怒りを受ける事となった。
「どれほどの迷惑を皆にかけたか解っているのか!」
 渾身の平手打ちは少年の小さな身体を弾き飛ばすほどの怒気を孕んでいた。そのままであれば何発の怒りが少年を打ったか解らない。だが、冒険者達はそれを止めた。
 文字通り自分達が盾になるようにして。
「自分以外を思いやる、彼らの気持ちを解ってあげて下さい」
 その後、冒険者達がどんな説得をしてくれたか、部屋を出された少年は知らない。
 けれど村人の多くはデビルが退治されたことを喜び、自分はここにいる。
 村長が、父が今回の件を心に納めてくれたのは確かのようだった。
「嘘で本当に大切なものは、守れないよ。君達がこの子を守りたいと思ったその気持ちは嘘じゃないんだろう?
 隠すんじゃない。周囲を説得して納得させられなくっちゃ守れない。こんな事は繰り返しちゃダメだからね」
 リースの言葉は少年の胸に静かに、だが確実に染みこんでいった。
「はい」
 小さく、だがはっきりとした声で答える少年と熊を、彼を見守る男性達、ひょっとしたら水を掛け合う女性達も優しく、心からの慈しみをもって微笑み、見つめていた。

 そして冒険者は秋の一日を心から楽しむ。
「おーい、そろそろ本当にあがってくれないか〜。魚が全部いなくなってしまうよ〜」
「え〜、もう、ですか? もう少し遊んでいたいところなんですけど」
「いいんじゃない? なかなかいい眺めだし。水も滴るいい女ってやつ? 服、透けてるけどね♪」
「! あがります!!」
「では、私がお昼ご飯は腕を振るいますわ」
「! えっ? ミーちゃんが調理係? い、いや〜、ミーちゃん。ほら、これからアルちゃんが魚釣り大会しよーって、ミーちゃんはこっちの方に参加したらどないやろ?」
「? どうしたんです? ジルベールさん? そんなに震えて‥‥」
「釣り大会ですか? ‥‥まあ、よろしいわ。その代わり何か賭けないと盛り上がりませんから優勝者には賞品をつけましょう。‥‥優勝者のいう事を、負けた人は一つ聞くとか」
「ほう‥‥面白そうだね。負けないよ。僕が優勝したら、うん、そうだね。男性陣にお酌をしてもらおうか、女装して。あ、服は貸してあげるから心配要らないよ」
「‥‥フフフ、私にこの竜王の竿がある限り敗北など無いと知りなさいな。私が優勝したらジルベールにキスをしてもらいますわ。‥‥リィのほっぺに☆」
「甘いね、釣りの極意はぼぉっとしていること。意を消せば釣れるものさ。負けないからね‥‥」
「? 隊長。何を餌にしておいでで?」
「スイカですが‥‥なにか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥、まあ、いろんな魚がいますよね。ひょっとしたらスイカが好物の魚がいないことも‥‥」

 そして皆で釣り糸を垂れる穏やかな時。
「皆さんにとってベイリーフ隊、とはどんなものですか?」
 シルヴィアは独り言のように問いかけた。月桂樹に集う仲間達が託す思いを、彼女はずっと聞いてみたかったのだ。
「そうですわね」
 隣に座るクリステルが微笑みながら答える。
「絆‥‥輝ける未来を作る力、でしょうか」
「俺にとっては自分に多くの事を教えてくれた大切な仲間達、それに恥じない存在になりたい」
 グラディは真剣に考えて自らの思いを告げ
「”全てはより良き明日の為に”かな‥‥。仲間といる間はそれを信じられる」
 アルヴィスは照れくさそうにだがはっきりと告げた。
「『抗い』。強大な力にも屈せずに立ち向かう意思と心‥‥と格好つけすぎかな? 」
 ルザリアは慣れぬ言葉に自らの思いを乗せ
「感謝、でしょうか。『仲間』の、心強さ、素晴らしさを教えて下さったチームでした」
 アイリスは目の前で手を組みながらそう祈るように答えた。
「長い戦い‥‥一人では疾うに心折れ絶望していたでしょう。最後まで歩み続けられたのは‥‥皆さんがいらしたから。わたくしにも、果すべき役割がある‥‥そう思わせて下さったから」
「そう、ですね。私も感謝であり、そして‥‥『希望』でしょうか? こうして、このチームの一員であれたこと、一緒に楽しむ機会を与えてもらったことを心から感謝します」
 ハーフエルフであるアイリスや瑞香が『仲間』という存在に思うものは、そうでない者が思うより深いのだろう。
「育って来た環境も、考え方も、生き方も…何もかもが違う一人ひとりが集まってでもこんな風に楽しく過ごせる仲間に会えて‥‥俺は幸せものだ。言葉に出してしまえば陳腐だけど女神の導く『幸せの場所』だと思う。ベイリーフはね」
「俺にとっては『誇り』やね。駆け出しに過ぎへん俺を快く迎えてくれた皆と、勧誘してくれたリィには感謝してる。相談して、助け合って、何度も皆で死線を乗り越えてきたな。このチームで戦えた事は俺の誇りや。間違いなくな。隊長さん、いつも俺らを引っ張ってきてくれて有難うな」
「そ、そんな、照れますよ」
 リースとジルベールの素直な賛辞に頬を赤らめるシルヴィアの肩で
「これで後はイギリスが平和になることと、シルヴィを幸せにできれば最高よね。むっふっふ。シルヴィが結婚するまで見届けるわよ!」
 くるりんと回ってフィオナは微笑んだ。
「私のことは別に‥‥」
 さらに顔を赤らめるシルヴィアとそれを見つめ笑う仲間達。その笑い声に隠れ
『ねえシルヴィ、ベイリーフはずっと残るよね? みんないなくなってバラバラになったりしないよね?』
 そんな言葉にならない小さな思いがシルヴィアの心に届いた。目を見開き仲間を見るシルヴィア。
 だが彼女が答えるまでもなく
「当たり前、ですわ」
 揺ぎ無い思いが答えてくれていた。
「ベイリーフは故郷のようなもの‥‥ですもの人がいて仲良しができて旅立つ人もいるけれどまた戻って来る人もいて‥‥巡る輪のように縁が続いていく。だから、仲間の幸せの為にはいつでも力を貸すし、集まります」
 フィオナの呟きをミシェルは知らない。だが
「そうなのだ!」「同感ですね」
 言葉に出す者も、出さない者も月桂樹の冠に託す思いは同じ。
 シルヴィアは心からの感謝を込めて微笑んだ。
 朝露よりも、弾ける水の流れよりも美しい笑顔で。

 楽しい時は夢のように過ぎていく。
「どうして優勝が隊長なのかな?」
「むー、竜王の竿が〜」
「これも人徳というものですよ。でもこれだけの魚が釣れれば村の人達にも十分振舞えますね」
「どんなお料理にしましょうか? 楽しみですね」
「お手伝いさせて下さい」
「僕も手伝う!」「私も!」
「おお! 良い子達であるな。いいお嫁さん、お婿さんになれるのだ。その時は余が挙式を手伝ってあげるのだ」
「村の人達も食材を出して下さるそうですから今日はパーティにしましょう。村に平和が戻ったパーティに」
「じゃあ、歌を歌ってあげるわ。隊長も一緒にどうぞ」
「えっ? じゃあ、はい‥‥」
 村に響く歌声は幸せを告げる約束の声。
「いいわね‥‥悪くないわ。できれば‥‥」
 幾つもの声と思いを重ねて長く、長く村に響いていた。

○月桂樹への約束
 抱えきれない程のお土産を持ってベイリーフ隊はキャメロットへの帰路に着いた。
 やがて何の問題も無く旅の始まりの正門に辿り着く。
 ここへの到着は冒険の終わりを意味していた。
「ありがとう。楽しかったわ」
 帰ろうとするトゥルエノを、仲間達を
「待って下さい」
 シルヴィアは引き止めた。彼女の手にはアペが届けてくれた小さな包みがある。
「これを‥‥持って行って下さいませんか?」
 そういうと彼女は中から出した小さな紋章のマント止めを一人、一つずつその胸に留めていった。
「これ‥‥は?」
「ベイリーフ隊の隊員証のようなものです。お願いして作って頂きました」
 幾重にも集まった月桂樹の葉を象った金色のそれは一人ひとりの名前とGRACEの文字を刻み、彼女の仲間への思いを形にしてそれぞれの胸に輝いている。
「一枚の葉に出来る事は僅かです。それでも葉は木となり、いずれ森となって、大いなる恵みをもたらします。私達もそうありましょう。皆さんにベイリーフの勝利と栄光がありますように! 」
 ここで別れればまた当分会えない仲間もいるだろう。
 だが彼らの絆の輝きは消えることが無いのだと、シルヴィアとこの証は告げている。
 ある者は証を握り締め、ある者は愛しげに手を触れてその思いを確かめていた。

「ベイリーフの名にかけて!」
 最初に手を上げたのは誰であったか。
 掲げられた手はそれぞれが友の、仲間の手と合わされ大きな音を上げる。
 どんなに離れても同じ冠を目指す志は変わることが無いと、告げるように。

 その後のベイリーフを掲げる冒険者の活躍は言うまでもないだろう。
 彼らは志を持って戦い続ける。
 小さな村が感謝の印に植えたベイリーフの若木がいつか、村のシンボルとなるほど大きく育つ。
 それほどに確かなことである。