【円卓の騎士の娘】遠い彼方の夢
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月14日〜10月17日
リプレイ公開日:2009年10月23日
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●オープニング
『‥‥。‥‥‥‥‥‥!』
『誰? 誰なの?』
「待って!」
少女は手を伸ばす。
だがその手が伸びた先は白い天井。
クア?
ベッドの横。不思議なひな鳥が大きな声を上げた主を心配そうに見つめる。
「また‥‥あの夢?」
まぶたを擦りながらのぼんやりとした頭では考えても答えは出ない。
そうこうしている間に落ちていく目蓋はまた少女を夢の世界に運んでいった。
今度は楽しい、夢の世界へと‥‥。
冒険者ギルドにやってきたリースフィア・エルスリード(eb2745)は
「これは、依頼というよりお誘い‥‥ですね」
そう前おいて一枚の紙を差し出した。
それには、
『お茶会におさそいします。よければ来て下さい』
幼いながらキレイな文字で綴られたそんな文章が書き連ねられていた。
「え〜っと、なになに? 円卓の騎士パーシ・ヴァル家の娘、ヴィアンカ。
冒険者の皆さんにお話を聞かせて下さい‥‥か?」
「この間、町でバッタリ会ったんですよ。その時、これを依頼として出して下さいと頼まれまして‥‥」
リースフィアはにっこり笑うとその時のことを思い出す。
『どうしたんです? なんだか眠そうな顔をしていますね。眠いんですか? それとも退屈?』
『んーとね、たぶん両方。最近なんだか妙な夢見るの。だからねぶそく。ついでにお父さんはお城からもどってこないし、司祭様は冒険者になるのダメーって言うし』
『まあ、それは仕方ありませんね』
いろいろと抱えている少女だが、暗い面を出さずいつも笑顔を見せる。
そんなヴィアンカはリースフィアは嫌いではなかった。
『ねえ、リースフィアさん。いっしょにお茶しない?』
『それは構いませんが、私より誘いたい人がいるのではありませんか?』
『えーっと、まあ、それはそうなんだけど‥‥』
だからちょっとしたアイデアを彼女に提供したのだ。
「まあ、題目はお茶会ですが自由に遊んでいいと思いますよ。ヴィアンカもたくさん人が集まった方が喜ぶと思いますし、ぜひ。ああ、あと‥‥」
思い出したように彼女は足を止めて振り返った。
「これを気にいろんな人に会ってみてはどうかなあ? という意味もあります。これからいつ、何が起きるか解りませんし、平和なうちにやれることはやっておいた方がいいんじゃないかと思いますよ。私もそうするつもりです。では‥‥」
迷い無くギルドを後にしたように見えたリースフィア。
だが、その心は決して何の迷いも無い、わけではなかった。
いくつもの死線を超えて来て知らず得てきたものがある。
それをカンという言葉で片付けてしまうのは不適切かもしれないが、‥‥感じるのだ。
何かが起ころうとする前触れの空気を。
だから、今、やっておきたいことをやろうと決めたのだ。
誰の為でもない。自分自身の為に。
「その時」に悔いを残さない為に‥‥。
●リプレイ本文
○お茶会の準備?
シルヴィア・クロスロード(eb3671)は慣れた様子でその扉を開けた。
尊敬する円卓の騎士の館だが、もう勝手知ったるなんとやら。
「失礼します。おや、お一人ですか?」
忙しく働くティズ・ティン(ea7694)にシルヴィアは首を捻った。
勿論、厳密に言えば一人ではない。
丁寧に頭を下げる家令もいれば使用人達もティズの指示で部屋の掃除などをしている。
だが一緒に依頼を受けた筈の仲間は一人だけ。
「あ、シルヴィア。いらっしゃい。あのね、皆用事があるみたいなの。だからこっちは任せてって行って貰ってる。セレナは教会。キットは多分、パーシ様の所? ヴィアンカとリースフィアは‥‥どこに行ったのかな?」
パーシの名にシルヴィアは微かに反応し眉を上げた。
何を思ったか、ティズにすまなそうな顔をして声をかけた。
「ティズさん、すみませんが、私も‥‥」
「ああ、大丈夫。リースフィアも言ってたでしょ。やりたい事があるならやっておけって。こっちは任せていってらっしゃい」
笑顔で手を振り去っていく仲間を見送るティズ。
彼女の胸元には一通の手紙が大事に潜められていた。
町の外れの小さな墓地。
殆ど文字の刻まれていない小さな墓標の前にセレナ・ザーン(ea9951)は抱えていた花束を置いて膝を折った。
「少し、お話をさせて下さいませ。テイニス様‥‥」
彼女の呼び声に応える声は無く、ただ、静かに風だけが流れていた。
○剣の先にあるもの
キーン!
一際高い鋼の音が響き、回転しながら飛んだ剣は地面に突き刺さった。
「どうした? もう終わりか?」
「くそっ! まだまだ!」
余裕の様子の騎士を前にキット・ファゼータ(ea2307)は悔しげに唇を噛むと再び剣を握り締め、突進していった。槍を構える騎士はそれを受け流し、右へ左へと雷のごとく走る高速の穂先でその動きを封じた。
槍の間合いにどうしても踏み込む事ができない。
「ちっ!」
舌打ちして構えをしなおす暇さえ与えず打ち込まれる攻撃に、防戦一方になるキットはそれでも騎士から眼を離さなかった。どこか見覚えのあるあの眼。
(「この馬鹿!」)
剣の柄を握り締める音が彼にだけ聞こえる強さを帯びる。
そしてキットは再び剣を構えた。小細工も考えも無い真っ向勝負。
相手に通じる訳は無いと解っている。
それでも彼は真っ直ぐに自分の思いを剣に乗せ、心と共に叩きつけた。
「手合わせは終わられましたか? パーシ様」
呼びかけるシルヴィアの声に、戦いを終え槍を払ったパーシ・ヴァルは振り返る事さえせず肩越しに鼻をならした。
「あんなのは手合わせじゃない。互いが苛立ちをぶつけて八つ当たりをしていただけだ」
「互いに‥‥パーシ様も苛立ちを?」
チッ、微かに彼らしくない舌打ちが聞こえる。
「それで、お前は何をしに来た?」
「私も手合わせを。お忙しいとは思いますが、どうか」
自らの主君の問いに彼女は騎士の礼を捧げて請い願う。もう正式には彼の部下ではないが、彼女にとって剣を捧げた誓いは絶対だ。
「‥‥いいだろう。だが動けない上夢見も悪くてイライラしてる。俺の槍はいつもと違うぞ。手加減はしてやれん。覚悟しろ」
彼は表情を見せぬ表情で、槍を構える。
「どんなに転がされても絶対に負けられません」
彼女もまた剣を構える。
そして、どんな言葉よりも雄弁に鋼は互いの響きでその思いを伝え合った。
遠くから鋼の鳴る音が聞こえる。
「あいつ、俺の時より本気になってやがるな」
キットは草の上に寝転がりながら悔しげに微笑した。
パーシとの立会いの末、起き上がれないくらい疲労した身体が悲鳴を上げる。
だが、その苦痛が彼には不思議に心地よかった。
ずっと悩んでいた事が、今、一瞬だけとは解っているが頭の中で薄くなる。
「大丈夫?」
その時、伸びた白い手と白いハンカチが彼の汗と頬の血をぬぐった。
「えっ?」
飛び起きた彼はそこに思った人影を見る。
「ヴィアンカ‥‥どうしてここに‥‥うっ」
「ダメダメ。怪我してるんだから寝てて」
顔を顰めるキットの肩を押してヴィアンカは無理やり横にさせた。
自然ヴィアンカの膝にキットの頭が乗る。膝枕の形だ。
「今、怪我治してあげるから‥‥」
杖を掲げた彼女から白い光が生まれ、キットを包み込む。
「もう痛くない?」
「ああ、ありがとな。ヴィアンカ‥‥」
キットは顔を真っ直ぐ上に向ける。自分を見つめる青い瞳を確かめて‥‥聞いた。
「その杖が、ヴィアンカの答えか?」
自分を癒したのは自分が与えた杖だ。
「エスキスの牙かそれか、どちらかを選んでおいてくれ」
そう言ったのも自分、ならばこれが答えなのだろうか。と。
「ううん‥‥実はまだ。ナイフもまだ返せない」
静かに微笑みヴィアンカは首を振る。
「私、大切な人を守る人になりたいの。それが結果として他の誰かを傷つける事になっても‥‥。私が大事なのは私の大切な人達。お父さんみたいに全部を守りたいのとは多分ちょっと違うんだ。私、キットや皆が思う程いい子じゃないから‥‥」
「ヴィアンカ‥‥」
「だから、何でもやってみるつもり。魔法も剣も勉強して‥‥大切なものいっぱい増やして、それを守れるようになれたらいいな‥‥って。欲張りだよね」
てへっと笑ってヴィアンカはキットの頭を解放した。
「そろそろ戻るね。ティズさんに任せっぱなしじゃ悪いもん。キットも必ず来てね!」
走り去るヴィアンカの視線の先には彼女を追うように羽ばたく鳥とそれを抱くリースフィア・エルスリード(eb2745)がいる。
去っていくヴィアンカを見送ったキットは拳で自分の顎を打っていた。
「いってえ!!」
もう一度身体を草の上に横たえる。
身体の傷は癒えたのに彼の心はまだ軋みを上げていた。
○それぞれの
「じゃあん! どうだ!」
お客達を前にテーブルの布を取り去ったティズは自慢げに胸を張る。
自慢する価値は十分の成果に、お客達はそれぞれが拍手をした。
栗やクルミのケーキにクッキー、焼き菓子。アップルパイも甘い匂いを出している。
ハーブティーやお茶の用意も完璧。
「あ、クッキーはヴィアンカ特製ね」
見事なお茶会の支度が整っていた。
「すごーい。こんなに量が増えてる〜。ありがとう。ティズさん」
「本当に美味しそうですね」
「見事ですね。ティズさんは素晴しいです」
「ありがと。喜んでもらえたら嬉しい」
頬を赤らめるティズ。それはヴィアンカ達の賛辞は勿論だが特別ゲストに招いた青年の言葉が原因であろう。
「じゃあ、皆いっぱい食べてね。かんぱーい!」
ヴィアンカの声で彼女主催のお茶会が始まる。
会はおおむね和やかに進んだ。
浮かない顔のシルヴィアや、姿を見せないキットをヴィアンカは勿論心配しているだろう。
だがそれを見せず、ホスト役に徹するヴィアンカを頼もしげに見つめていた。
「わたくしは15歳の誕生日をもって、ザーン家の家督を継ぐ事を決意しました」
お茶会の中でセレナはそう参加者達に告げた。
「自分の守りたいものよりも、守らなくてはならないものを自ら守る、それがわたくしの生きる道と心得ます」
そう自信を持って告げる彼女はヴィアンカがキットに告げた言葉を勿論聞いている。
「私ね、いつかケンブリッジに行って勉強する。大切なものを守れるようになるの」
けれど過去にこだわりはないのか問うた時、失われたものよりも前を見ると返事を聞いてさらなる決意を固めたようだった。
「それに皆様がいれば、わたくしの大切なものは決して失われないと信じますから」
違う決断のようで同じ道を行く友に、セレナはそう言って微笑んだ。
そしてお茶会の裏側。そっと中庭に出た青年と少女。
「ねぇ、自分より強い女の子って嫌い?」
首を横に振らなかった青年からの贈り物は、小さな手作りの対のペンダント。その片割れ。
「大好きです。心から‥‥」
「ヴェル!」
二つだった影は一つとなり、二つのペンダントは互いの胸で小さく口付けた。
それぞれの主のように‥‥。
○決意の行く先
庭で真剣な声が聞こえる。
「「互いの剣にかけて!」」
リースフィアとヴィアンカ。
「デビルを打倒して平和を取り戻す事を」「大切なものを守れるようになる事を」
「「ここに誓う!」」
二人の剣の交換を木の上から見つめるキットにシルヴィアは声をかけた。
「いいんですか?」
「良くは無いがあいつが選んだ道だ。選べる今のあいつはそれでもマシろうさ。それよりお前はいいのか? あいつ、『戻っちまうぞ』」
キットの指摘にシルヴィアは返事を返せない。
トリスタンを失い、王の剣を守れずそれでも動けないジレンマはパーシに一度は振り払った筈の呪いを思い出させたようだ。怒りと共に何かを拒絶するような槍をシルヴィアはまだ超える事ができなかった。
『愛しています。永久に変わらず貴方と共に歩き続けたいのです』
『俺と歩く事はさせない。今のお前でもだ』
「解って‥‥います。でも、その為には私がもっと強くならないと‥‥」
「そうか。俺はヴィアンカを守る。それだけだ」
木から飛び降りたキットはヴィアンカの元に行き頑張れよと声をかけているようだ。
お守り、と何かを渡しているヴィアンカの姿が見える。微笑むリースフィアやセレナも。
だがシルヴィアは動けなかった。
握り締めた拳が音を立てる。彼女が追う背中は今もなお果てしなく遠かった。
ティズの胸に残ったのは片割れのペンダントと唇に残るぬくもり。
セレナの心に残ったのは新たなる決意と友の心のように透き通った水晶と励まし。
キットの手のひらに残ったのは愛する少女の気遣いとお守り。彼女が選んだ未来。
シルヴィアに残ったのはまだまだ届かぬ、相手への思い。
そして‥‥リースフィアに残されたのはヴィアンカが自分で買ったナイフと彼女との誓い。
それぞれの決意が生まれ動き始める。
だが彼らの未来の行方はまだ見えはしない。