【バロール侵攻】守るべきもの
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月24日〜10月29日
リプレイ公開日:2009年11月02日
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●オープニング
南方遺跡群の地に封印されていた邪眼のバロールの復活から間もなく、領主は騎士団を再編成しバロール討伐隊を領地内の各所に配置した。
しかしその人数は決して多いとは言えず、今回も各町村から有志の男性が集まり、騎士と住人による混成部隊がいつ来るかもしれないバロールとその軍勢の警戒に当たる事となった。
不安と緊張の中で過ごす日々は1日1日が────いや、1秒でさえも長く感じる。
「神経が焼き切れちまいそうだ‥‥あんた達はいつもこんな辛い事を俺達の為にやっていてくれてたんだな」
見張り番の男性は、隣で篝火を炊く騎士をジッと見つめ口を開いた。
「ありがとよ。改めてあんた達騎士を尊敬するぜ」
「当然の事をしてきただけだ。礼を言われる程の事はないさ」
騎士は感謝の言葉に頭を振ると、鼻の下を擦って照れ臭そうに微笑む。
「寧ろ貴殿達住民の皆には感謝してもし切れない。この地を守る為に力を貸してくれてありがとう」
「よせやい。体中がむず痒くならぁ」
今度は男性が気恥ずかしそうにぼさぼさ頭を掻き、暮れ行く空へと視線を移す。
そして騎士が淡い微笑と共に空を見上げた、その時であった。
ぞわり、と体中が粟立つ感覚が2人を襲う。
武器に手を伸ばし周囲へと彷徨わせた視線を真正面に戻した2人は、驚きに目を見張る。
「お前‥‥いつからそこに?」
音もなく現れたフードを目深に被った人物に、男性は掠れる声でそう尋ねた。
「遥か昔からだ‥‥地の奥深くに追いやられている間も、片時とて忘れた事はなかった‥‥この胸を焦がす憤怒と憎悪を」
「デビル風情が訳のわからぬ事をっ!」
「‥‥否。我はデビルに非ず。我は‥‥邪眼のバロール」
「なっ!?」
体の心が凍える程の冷たい声音の後、その人物は揺らめく炎に包まれ始める。
事態を悟った2人は町中に駐在する仲間の元へと走り出すが、背中から襲う熱風に吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ‥‥」
「大丈夫か!? くそっ、背中を焼き焦がされているな。すぐに手当てを‥‥」
倒れたまま動かない男性を抱きかかえる騎士は、ふと上げた視線に映るものに再び目を見張る。
「な、何だあれは‥‥」
左右にある森を焼き尽くす炎の中に佇んでいるのは、まるで塔の如き巨大な何か。
そしてその背に迫り来るのは、空を覆う黒い影。
「人間どもよ‥‥この地を汚し我から娘を奪った大罪を、その命を以って購うがいい‥‥」
────憎しみに満ちたその言葉が、一方的な進攻戦の狼煙であった。
それまでの沈黙が嘘の様に、邪眼のバロールはデビルの大軍を率いて南方遺跡群にある町への蹂躙を開始した。
人々は成す術もなく逃げ回り、混成部隊は防戦を強いられその数を減らしていく。
そして程なく、南方遺跡群領主はキャメロットに向け救援要請を出すのだった。
その依頼は円卓の騎士パーシ・ヴァルとキャメロットの教会。両方の連名で出されていた。
「知っている者もいるかもしれないが邪眼のバロールと呼ばれる復活し、南方の街々を襲っている。現在領主の騎士団が迎撃に当たっているが、敵の数があまりにも多く、またバロールの力も強大で対応に苦慮している。キャメロットからも騎士団を派遣する手はずを取っている。こちらにも調査、討伐の依頼が出ているだろう」
確かに、係員は頷き、そして首を捻る。
では、この依頼は討伐の依頼ではないのだろうか。と。
パーシ・ヴァルは頷いた。
「現在、キャメロットは皆も知っているように人手不足に襲われている。度重なるデビルの襲来、王城が襲われ王妃とエクスカリバーが奪われたのもつい先日のことだ。調査の手は動かしているが、まだ明確な情報は得られていない。その上ラーンス卿は行方不明。そして‥‥トリスタンはデビルにその心臓を奪われ‥‥生死不明の状況だ」
悔しげに手を握り締めるパーシ。
彼は本来であるなら真っ先に前線に立ち人々を守ることを望み願う騎士。
だが、今彼がキャメロットを離れれば王都を守る戦力は激減する。
城を、王都の人々を守る為に彼は動けないのだ。
顔を上げて彼は依頼内容を説明する。
「デビルの襲撃を受けた人々の避難先兼、キャメロットから派遣する騎士達のベース。そして前線で戦う騎士達の治療場所として南方の小さな町にキャメロットから司祭やシスターを派遣することになった。冒険者には彼らの護衛と、逃げ送れた人々の捜索、そして人々の避難誘導を頼みたい」
今回の仕事は「守る」ことだと彼は言う。
「救出した人々はキャメロットへ。時は一刻を争う。頼んだぞ」
そう言って彼は城に戻っていった。
邪眼のバロール。
彼がどんな存在で、何を思い人を襲うのかは解らない。
だが、例えどんなことがあろうとこの地を、生きる人々を苦しめる存在を許す事はできないのだ。
これ以上誰も傷つけさせず、また殺させない。奪わせない。
そんな決意を持って彼らは戦場へ向かう。
守るべきものを守る為に‥‥。
●リプレイ本文
○守るべきもの
「俺はまだ納得はしてないからな。ヴィアンカ。でも仕事はしっかりやる。いいか? 無理はするなよ」
「うん、解ってる。でもキット。きちょーめんだね。ハンカチなんて気にしなくていいのに」
「一応礼儀だ。気にすんな」
馬車や馬に乗って移動する者が多い中、徒歩組の者達の中からそんな声が聞こえる。
くすくすと笑い声も。
「なかなか、いい光景であるなあ〜」
「本当に」
楽しげに言うヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)にクリステル・シャルダン(eb3862)も笑顔で同意する。
煩いと眼で言うキット・ファゼータ(ea2307)は勿論気にしない。
これから行く先は厳しい戦地。精一杯の急ぎ足で、周囲への警戒も一時も怠れない。
だからこそこんなひと時、一場面こそが大事であるのだから。
「しかし彼も律儀と言うかなんというかであるなぁ〜」
大きなため息に似たものをヤングヴラドは吐き出す。キットと楽しげに会話する少女の顔と名前には見覚えがある。
「別に娘を頼むとはっきり言ってもベースとクレリック防衛任務にいささかの問題も無いであるのに」
「まあ、あの人はそういう人です。それに避難民の受け入れとその護衛、これも重要かつ立派な戦いですからね」
主語がなくても冒険者には意味が解っている。
リースフィア・エルスリード(eb2745)の言葉にアーシャ・イクティノス(eb6702)もセレナ・ザーン(ea9951)も頷いていた。
一人、厳しい顔をしていた空木怜(ec1783)も勿論それを否定するわけではない。だが
「だが、バロール。ついに神と呼ばれるものまでが戦いに加わるとは。スプー‥‥南方の遺跡で起きていたことはこの為の‥‥?」
行く先の現状を考えると笑う事はできなかったのだ。
「今、考えても仕方ないことは考えないことですわ」
ぽんと怜の肩を叩いて微笑む美人シスター。外見からだけ見れば和む風景だ。
『彼女』が葉霧幻蔵(ea5683)性別男性だと知らなければ。
「ああ、そうだな。今はできることをまず考えるか」
それでも怜は素直に礼をいい前を向く。
彼らの前には愛すべき子等、守るべきものがある。
それを守ることが最優先。冒険者達は思いを新たに、決意を固めたのであった。
○地獄に似た風景
穏やかな風景は勿論、その地に辿り着いた瞬間に終った。
あちこちで火の手があがり建物が半壊した村々には人々の悲鳴と涙が木霊していた。
それは地獄であり戦場。
荒れ果てた村は即座に最前線とは違うそれ以上の戦いの場と化したのだ。
「まずは消火だ! 動ける者は急げ!」
「ベースは教会周辺の広場に取ります。怪我人は大至急連れて来て下さい! この布をつけて」
「私は空から捜索を。‥‥大丈夫ですよ、私達に任せてください」
最前線から、この村は少し離れている。
だがそこからでもバロールと呼ばれる魔人の姿は簡単に見て取れた。
「でかいな‥‥」
唇を噛み締めるキット。その大きさはキャメロットの王城の塔に匹敵する。
下手な戦士や魔法使いどころか、冒険者でさえ簡単には傷つけられないかもしれない。
「キットさん」
「解ってる」
前線の戦士達の事は気になるが、今はここを、ここに逃げ込んでくる人々を守るのが彼らの使命。
リースフィアの言葉に振り返ることも無くキットは自らの持ち場へと走って行った。
冒険者達は大きく分けるなら二つ。さらに分けるなら三つのグループに分かれて動き始めた。
「キャメロットより助けに来ました、逃げ遅れた人いませんか〜?」
「アーシャ! あそこ!」
怜が指差した先の森の中、数名の子供を連れた一団がデビルに追われているのが上空からはっきりと見て取れた。
「はい! 行きます!!」
馬首を下げ直滑降に近い形で降りたアーシャは地面に降りたと同時に剣を抜き、デビルと人々の間に立ちふさがっていた。
「デビルども、その人達から離れなさい!」
言うより早く放たれたソニックブームにデビルは悲鳴を上げた。
『グギャアア!』
「逃がしません!」
「大丈夫か?」
怜は前の敵の数が大した事無いと見て取ると、後ろの人々に声をかけた。
震える者、怯える者。その表情は皆硬い。だが彼らに微笑みかける笑顔と美しい天馬、そして
「ああ‥‥痛そうだな。良く我慢したね。もう大丈夫だ」
聖なる宝玉を掲げる暖かい眼差しに徐々に笑顔を取り戻していった。
「向こうにベースキャンプがある。そこまで避難しよう。あと少し頑張ってくれ。ブリジット前を頼む」
「怜さん」
「‥‥解ってる。アーシャ。前を頼む」
天馬の先導に従っていく人々、彼らの意識が前を向いたのを確認して怜は最後方で俯きながら歩く子供の手を静かに強く引いた。
「ぎゃっ?」
「悪いな。お前は入れるわけにはいかない」
さっきの戦いでアーシャが使用した矢の魔法に『彼』が反応したのを怜は勿論見逃さなかったのだ。
今、石の中の蝶もこれ以上ないほど反応している。
「殺して入れ替わったのか? それとも化けたのか? どちらにしてもサヨナラだ」
抵抗する子供の胸に彼は躊躇い無く短刀を突き刺した。
微かな悲鳴と共にそれは本当の姿を現し消失した。
「あれ? うちの子は?」
「後で私達が探しておきます。皆さんは先に進んで」
心配そうに『彼』を探す人々にアーシャは怜の方を一度だけ見てからそう嘘をついた。
○何かの始まり
「早く治してくれよ。痛ぇんだから」
情けない声を上げる男を一瞥しクリステルは静かに首を横に振った。
「重傷の方が優先です。もう少し待って下さい」
彼の腕には布は無い。赤い布をつけた瀕死の人物から手を放せる筈は無い。
「何だよ。皆そう言って。助けに来たんだろ‥‥だったら!」
治療を続けるクリステルと不満げな男の前にふさがるようにヤングヴラドが立ち笑い顔を向けた。
「ふははは! 男が情けないことを言わないのだ。なればそなたに教皇庁直下テンプルナイトが、聖女騎士団が、この余が奇跡を見せて進ぜよう。秘儀カリスマティックオーラ発動!」
きらきらと眩い光を放つ彼の前に男は沈黙し、引き下がる。
「さすが、ですわね」
毛布の束を運びながらセレナは心から微みその光景を見ていた。彼はああしてキャンプ内を見回っている。
見かけほど楽なことでは無い筈だが苦労を見せない彼に敬意を表しつつ彼女もまた教会に戻った。
「お帰りなさい。皆さん、落ち着いているようですよ」
リースフィアとシスターが荷物を受け取りセレナを出迎えた。
教会内には避難してきた人々や仮眠を取る司祭、シスター達がいる。
「良かった。なんとか体調を崩さずキャメロットまで送り届けたいですね。あとで幻蔵さんにまた竪琴を奏でて貰えるといいんですけど」
「おはよう‥‥。先に休ませて貰ってありがとう」
話をする二人の間に眼を擦りながらヴィアンカがやってきた。彼女もまた休み無しで働く一人だ。
「もういいんですか?」
「うん、交代にいかなくっちゃ」
「じゃあ、送りましょう。セレナさん、こちらをお願いします」
リースフィアはヴィアンカを伴い外に出た。外に出れば否応無しに眼に入るバロールの巨体から眼を逸らしたその時。
ピー!!
高く、高く笛の音が響いた。
「二人とも! 危ない。どいてろ!」
どこから侵入したのか十数匹の下級デビルがこちらの方に向かってくる。
追うのはキットと幻蔵。
「ヴィアンカに触れさせるか!」
「援護するのでござる」
二人ならこの数は問題ない。リースフィアがヴィアンカの守りに集中しようとしたその時。
『愚か者め!』
「えっ?」
聞きなれない言葉と魔力発動を感じリースフィアは振り返った。
ヴィアンカの手から白い光が生まれ放たれる。
『ギャアア!』
聖なる光に焼かれ動きが鈍ったデビルをキットが袈裟懸けにする。
幻蔵のソニックブームであらかたの敵が消えた時。
「ヴィアンカ?」
「キット。ゲンちゃん、助けてくれてありがとー」
いつもと変わらぬヴィアンカがいた。
「今のは‥‥! 何なんです?」
その時、まるで空気が凍て付く様な何かを感じ冒険者は振り返った。
見ればバロールの周囲が赤く染まり、その瞳が大きく見開かれている。
「何かあったのかな?」
「解らない。行くぞ!」
「うん!」
キットと共に走り出すヴィアンカ。
リースフィアも持ち場に戻り、だから聞く機会を逸した。
「あの時、何があったの?」
と。
○終わりではない終わり
結論から言えば冒険者が到着してからの被害は最小限に済んだ。
逃げ遅れていた多くの人々が救出され、治療を受けた。
命を落とした一般人はそれほど多くはない。
だが、最前線では少なくない死者はやはり出た。
特に前線で長く戦い疲労していた魔術師、クレリックの多くがバロールの魔眼が開いた瞬間に命を失い、その殆どが蘇生出来なかった。亡骸を前に唇を噛む冒険者。
生きてさえいれば治療はできる。
怪我を負った冒険者の多くは既にその傷跡も無いが、失われた命は戻らないのだ。決して。
冒険者とヌアザに追い詰められたバロールはデビルと共に消え、戦いは一時の終焉を迎える。
だが‥‥
「ホーリー覚えたのか? それからなんでこれ雌なんだ? 普通男が雄持つんじゃ?」
「まだ上手じゃないけどね。 あ、それは私なの。で、私の持ってるのがキット♪」
楽しげに話す二人を行きと同じように見つめながら冒険者は歩いていた。
多くの避難民をキャメロットまで護衛する。
彼らの苦難はこれから。あの戦場が回復し故郷に戻れるのはまだ先の話だ。
恐るべきバロールを倒す方法もまだ見えてこない。
そして
(「‥‥あの時のヴィアンカの様子。あれは一体?」)
リースフィアは一人考える。答えが出ないことだとしても。
人々を無事に送り届け、役割を果たし品物の補充を受けて依頼は終了した。
だが冒険者の誰もが解っていた。
「今回は失敗でしたけど簡単ですよ」
闇の中で笑う声。
まだ何も終っていない事を。