【聖剣探索】最後の血族

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:11 G 76 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月07日〜11月15日

リプレイ公開日:2009年11月15日

●オープニング

 闇の中から声が聞こえる。
「簡単な事ですよ。あの人たちを手に入れることなど」
「確かにね。彼らは強いけど、いつも一人じゃない。それだけに弱点がバレバレだ」
「でも、本当に‥‥ですの?」
 問う部下にくすりと笑って主は答える。
『死者は嘘をつくまい。‥‥まあ、私も封じられている間のこと。詳しくは解らんがな‥‥』
 そして部下達に命じた。
『お前達に命じる。聖剣の血族を捕らえ、奴らの守る剣を手に入れよ。我らが手に入れてどうということはないが、奴らが希望を失う様はさぞ楽しかろう』
 無言で膝をつき、部下たちは闇に消える。
 彼らが増えようと、減ろうと彼にとっては何の意味も変化も無い。
 ただ、彼らよりも、彼らと戦う者達の方が彼を楽しませてくれそうで、それを思うだけで不思議に頬が緩むのであった。

 内密に‥‥とギルドにやってきて依頼を出したのは二人の男性であった。
 一人は円卓の騎士の家を守る家令スタイン。
 係員に彼は冷静さを装った声でこう告げる。
「実は私の仕える家の主たる親子が行方知れずになっておいでなのです」
「なんだってええ!!」
 思わず仕事を忘れ声を上げた係員にスタインは静かにと唇に指を立てる。
 彼が主と言うのは円卓の騎士パーシ・ヴァル。しかも親子というのならその娘ヴィアンカも‥‥
 状況に気づき口をつぐんだ彼に、スタインは
「ハロウィンの祭りの日、屋敷に来るはずだったお嬢様がそのまま行方知れずになっているのです」
 と告げた。
 彼女を送って来る筈の教会の護衛は首を刎ねられ路地に転がっていたという。
 異変を知らせたのは彼女の鳥。
 まだ幼いそれがたった一匹で戻ってきた事にスタインはその意味を知り、パーシ・ヴァルに知らせた。
 城から戻ってきたパーシは現場を調べ、やがて一枚の羊皮紙を発見する。
「そこから先は私が話そう‥‥」
 言葉を引き継いだのは王宮騎士ジーグネ。
 円卓の騎士パーシ・ヴァルの副官を勤める彼は『その場』に居合わせた。
「その羊皮紙にはたった二行の文章が綴られていた。
『呪われし血族の末裔よ。
 汝が最後の一人となりたくなくば、鍵と共に我らが元、汝の故郷に来たれ』と‥‥」
「最後の一人‥‥」
 円卓の騎士パーシ・ヴァルにとって血の繋がった家族と呼べる存在はもはや一人しかいない」
「その文章の意味は私とて解った。あの方が血が出るほど握り締めた手に何を思われたのかも‥‥。
 翌朝、あの方は姿を消していた愛馬と四日分だけの食料と共に‥‥。武器も槍は置いていかれたようだ」
 本来、彼は今、キャメロットを離れることを許されない身だ。
 城の警備、城下の警備、バロールの戦いで家を失った避難民と住民の調整。その多くを彼は担っていた。
 彼が消えたことが知れればキャメロットの治安は間違いなく悪化するだろう。
 先のようなデビルの襲撃があれば、どうなるかは考えたくも無い。
「だが! 我々はあの方の選択を責められないし、責めたくもない! けれどあの方はたった一人で行かれた。何も言わず‥‥。だから冒険者! 大至急その後を追ってあの方とお嬢様を助けてくれ!」
 手がかりはたった一枚の羊皮紙。二行の文以外地名も何も書かれてはいない。
 パーシがどこに向かったのかも解らなければ、犯人が誰であるかも解らない。
「それでも時間は無い。今、まだあの方の失踪を知っているものはごく僅か。我々でできる限りあの方が不在の穴を埋めるつもりだが、もって2週間だろう。それに1日経てばそれだけ敵の手にあるお嬢様、そしてあの方の身も危なくなる」
 たった2週間。
 それで消えた親子を探し出し、助けられるのか‥‥。
「お願い‥‥致します」「頼む‥‥」
 搾り出すような言葉と下げられた頭に彼らは、黙って差し出された書類を受け取った。

 呪われし血族と、彼らは言った。
 パーシ・ヴァルは、己が身一つで馬を走らせる。
 鍵など知らないし、自分と娘以外の血族の存在など考えたことも無い。
 娘を攫った者が何者で何を狙っているのかなど想像もつかない。
 だが‥‥、遠い少年との言葉にしなかった約束が甦る。
 彼は振り返らず走り続けた。自分を呼ぶかの地へ。
 自分でも気づかなかった何より大切なものを守る為に‥‥。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

○一つの盲点
 冒険者達が、完全に失念していた事がある。
 誰一人、考えもしない事だった。
 それはパーシ・ヴァルという人間を信じていたからだろうと解っている。
 彼ならそんな落ち度はしないだろうと。
 だが、時間と事態を考えた時、それを想像すべきであった。
 彼は冒険者よりもずっと先行していたのだから。
 敵もまた彼という存在や冒険者を知りその上でおびき寄せていたのだから。
 だから考えるべきであった。
 彼にも想像が及ばないことがあると。
 彼が敵に捕らわれているということを‥‥。

 森にやってきた冒険者達は予想外の結果に微かに瞬きをした。
「えっ? 来ていない?」
 シルヴィア・クロスロード(eb3671)の言葉に森番の老夫婦は静かに頷く。
 行方不明になったパーシ・ヴァル。
 彼は
『お前の故郷に来い』
 と呼び出されて消えたのだと言う。
「正直、ほとんど分かんねぇ。でも分かんねぇからこそ、こっちから動かなきゃな」
 そう言ったクリムゾン・コスタクルス(ea3075)の言葉に頷きつつ、依頼を受けた冒険者達はいろいろな方向を考えた。
 そしてパーシ・ヴァルの故郷は子供の頃を過ごしたこの森ではないだろうか、とシルヴィアは仲間達に話しここにやってきたのだ。
「シルヴィア。オーラセンサーでパーシ卿の馬とか反応したか?」
「えっ? 馬、ですか?」
「そう。行きも何度か調べるように言ったけどな」
 諦めきれずオーラセンサーや指輪の魔力で捜索をするシルヴィアにマナウス・ドラッケン(ea0021)は問いかける。
 確かな盲点。シルヴィアは探索の先を変更した。
 勿論、反応は無い。
「じゃあ、こっちは外れだ。認めたくなくてもパーシはここに来なかった」
「そんな! じゃあ、ぺリノア領ですか? なら急がないと」
「少し待たれよ」
 焦った顔で駆け出しかけるシルヴィアを静かに尾花満(ea5322)は止めた。
「もう暗くなる。天馬も闇夜を飛ぶのは危険であろう。出発は明日の朝にしたほうが良い」
「ですが‥‥」
 反論しかけたシルヴィア。だが
「まずは落ち着くこと。そしてできる事をする事だ。‥‥パーシ卿なら大丈夫と信じてな」
「こっちに何か手がかりがあるかもしれないだろ。パーシ卿の気づかなかった事、ほら連中が言っていた『鍵』とかさ」
 仲間達に説得されて眼に力を取り戻す。
「解りました。ご夫婦。お話を聞かせて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
 動き始めたシルヴィアを見つめながら満はやれやれとため息を吐き出す。
「困ったお人だ。あの人はイギリスに無くてはならぬ存在だと言うのに‥‥」
「まあ、仕方ないさ。娘が攫われたってのに立場があるから動けない、なんていうような人なら俺達だって動かないしな。あっちに言ってる連中もいる。あの鳥とも約束したから全力で助けるさ。それに‥‥」
 マナウスは微笑の顔をフッと真剣なものに戻す。
(「嘘も真実も、自分でそれに触れなきゃ分からないってね。‥‥行動するしか無いんだよ」)
 言葉にしなかった思い。それは遠い地にいる円卓の騎士の行動への無言のエールであったのかもしれない。

○彼の行方
「ちょっと‥‥ニル! お待ち!?」
 シャフツベリーの外れ、聖剣を守る一族の墓所、ぺリノア領に向かう途中、フレイア・ヴォルフ(ea6557)は愛犬の様子がおかしいのに気づいた。
 目的地の場所は向こう。
 なのにニルと呼ばれた犬はまったく違う方向に行こうとしているのだ。
「どうしたのですか?」
 心配そうに問うシェリル・オレアリス(eb4803)にフレイアは犬の首を抱きしめながら、うーんと唸り事情を説明した。
「そのニルさんにフレイアさんは何を命じたのですか?」
「パーシ卿の捜索だけどね。借りてきた荷物の匂い嗅がせて。‥‥でも、流石にさあ、シャフツベリーの街の方にいるってことは‥‥ないだろ?」
 歯切れの悪いフレイアの言葉。
 だがその時は聞き流たそれはやがて一歩進むごとに冒険者達に重くのしかかって来る。
「‥‥! 気配がありません。周囲にパーシ卿の姿はおろか、デビルのそれさえも‥‥」
 上空から周囲ぺリノア領を確認したリースフィア・エルスリード(eb2745)、周囲の聞き込み、そして調査を続けていたエリンティア・フューゲル(ea3868)とリ・ル(ea3888)も知らず唇を噛んでいた。
「確かに道すがらパーシがシャフツベリーに向かっていた情報はあったのに、ぺリノアに来ていないというのは一体、どういうことなんだ! じゃあ、あいつとヴィアンカはいったいどこに‥‥?」
 こちらが外れでウェールズのほうにいつ、というのであれば問題は無い。向こうの仲間がなんとかしてくれると信じている。
 だが‥‥何かを見落としていると冒険者達の魂が告げていた。
「う〜ん、この間の調査の帰り出会わなかったのはぁ〜、彼がこの辺の地理に長けていて最短距離を突っ走っただけだからと思えるんですけどぉ〜、じゃあ、あの人はどこにいったんでしょうかぁ〜」
「あっ!」
 エリンティアの言葉に、ふとセレナ・ザーン(ea9951)は青ざめた。
 円卓の騎士パーシ・ヴァルがはこの辺の地理に長けている。
 それが、あのヴィアンカの鳥から聞いたあること、と、もう一つ気になっていた事と今、重なったのだ。
「皆様、私達は重大な勘違いをしていたのかもしれませんわ」
「えっ?」
 仲間達の目視の中セレナは静かに顔を上げて告げた。
「私達はパーシ卿の故郷がぺリノア領だと知っていた。そしてパーシ卿もそこを目指していると思っていた。ですが、パーシ卿はいつそれを知ったのでしょうか? 彼が出発したのはその情報を伝える前の筈です」
「それは‥‥確かにそうなんだがあいつのことだから、もう察しがついてたとかで‥‥」
「ええ、私もそう思っていました。ですが、ヴィアンカ様を攫った敵の中にシフールがいたとキアラは教えてくれました。私達は知っている。でも、先行していたデビルやその配下の者達がパーシ卿の故郷がウェールズであるとか其の他の事を私達以上に知っているでしょうか?」
 言葉が無い。パーシ・ヴァルと長く付き合い、互いを知り尽くしているからこそのそれはミスだった。
「じゃあ、彼らはどこへ‥‥」
 震えるフレイアの声にはっきりとした声が答える。
「シャフツベリーですね」
「エリンティア?」
「はい、私もそう思います。このウィルトシャーにパーシ卿が向かったのは事実。そしてこの地にはもう一つ彼が故郷と呼べる場所があるのです。妻を向かえ、子供を得て家庭を持った唯一の場所が‥‥シフールリトルDはそれを知っている筈です」
「彼の家!? ニル!!」
 ワン!
 拘束を解かれた犬は命令を受け一目散に走っていく。
 冒険者は真っ直ぐにそれを追った。
 まだ、間に合うことを信じて‥‥。

○少女の価値
 彼は、もはや自分が円卓の騎士ではないと思っていた。
 騎士の使命とたった一人の家族。
 いざと言うときは見捨てなければならないと覚悟していた筈なのにできなかった。
『たった一人を守ることを選択してしまったら、全てを守る騎士にはなれないのさ』
 そう言った友の気持ちが痛いほど解る。
 縛り上げられ、吊るされ、鞭打たれ体中痛くないところなどないが、その苦痛よりも心の痛みの方が遙かに大きかった。それでも‥‥彼はその道しか選べなかったのだ。
「ねえ〜。そろそろ白状してくんない? 君は聖剣の血族の最後の末裔。間違いなく扉を開く鍵を預かっている筈だろ。それをどこに隠してるの?」
 目の前をひらひらとシフールが飛ぶ。
 彼を鞭打ったのは勿論シフールではないが、抉られた肩の上に立ち足で強く傷を抉る。
「うっ! 知る‥‥ものか。聖剣の‥‥血族だの、鍵だの、初めて聞くことだ。心当たりなどなにも‥‥ない」
「まあ、嘘は言ってないみたいだけど、それでもあいつらの様子からして何かは持っているはずなんだよ。一族の人間が扉を開くことを期待してるんだから」
「パーシ卿。何か、形見などは預かっておられませんか? 十字架とかアクセサリーのようなものであるとか‥‥」
「形見‥‥。知ら‥‥ない。俺はそもそも、父親の顔を知らないし、話も聞いた事がない‥‥。俺がそんなものに関係しているなど、何かの間違い‥‥だ」
 シフールと、もう一人の青年が顔を見合わせた。このままでは話が進まない。
「君がそう、であるのは間違いないんだよ。あの子もそう言ってたしね。こりゃあ〜、詳しい事はあの子に聞いたほうがいいかなあ?」
「! ヴィアンカに手を出すな。約束の筈だ!」
 弱った、動くことさえままならない筈の身体。だが睨みつける眼から力は失われていなかった
「そんな約束した覚えは無いけど、でも、大丈夫だよ。あの子は‥‥! フレドリック!!」
 あげられた声と同時、二人はとっさに窓から離れた。
 それは強襲と言っていいものだった。
 砕かれた窓から、飛び込んで来た冒険者達が一瞬で、場を支配したのだ。
「大丈夫か? パーシ?」
 リルは彼を見つけると背後に庇うようにしてリースフィアと共に前に立った。
 一瞥してリースフィアは微笑む。
 彼が偽物である可能性は無いとその眼を見れば解ったからだ。
 パーシの治療と拘束を解くのは後方の仲間に任せ、二人は眼前の二人。
 幾度と無く対してきたデビルの手先を睨み付けた。
「ヴィアンカはどこだ? ここにいないのは解ってる。早く返しな」
「フレドリックさん。もういい加減に終わりにしましょう。お姉さんの為にも貴方を逃がすわけにはいきません」
「フレドリックと言う名の人間は死にました。姉の名を言われても僕は動揺などしませんよ」
「まったくいきなり他人のうちに入ってきてそれかい? 窓まで壊しといて冒険者は礼儀を知らないね」
「ここは貴方のうちではないでしょう? そんな事を言われる筋合いはありませんよ」
 話を聞いているだけなら冗談のようだ。
 だが見ている人間達には、そうではない。
 互いに間合いと機会を計り踏み込む機会を狙っている。
 そんな一触即発の空気の中。
「待て」
「パーシ卿!」
 シェリルの止める声を背にパーシ・ヴァルが立ち上がった。
 全身の傷は塞がっているが体力はそうではない筈。微かによろめきながら、だが彼は取り戻した強い眼差しで眼前のデビルの使い達を睨みつけた。
「何度も言う。俺は自分の一族について知らないし、鍵など持っていない。だが俺ができることであるならばする。ヴィアンカを返してくれ」
 真剣に注げる彼に微苦笑しながらシフールは答える。
「こっちも何度も言うよ。君が鍵を持っている筈だと彼女が言っている。鍵の開封には鍵と一族の命が必要だと言うし今は殺すつもりはないけど、君がしらを切り続けるつもりならどうなるかは解らないよ」
「だから!」
 一触即発。平行線な二人の会話に
「なら、鍵とヴィアンカを交換すればいい」
 リルが言葉で割って入ったのはそのタイミングだった。
「リル?」
「へえ〜。君が鍵を持ってるのかい? 預かった筈の本人が知らないっていうのに」
 眼を見開くパーシをリースフィアとフレイアは手で制してリルの言葉を進ませる。笑うシフールにいいや、とリルは首を横に振った。
「だけど、その鍵は今は多分俺達の仲間の手にある。元々、仲間が貰ったものだしそいつも、パーシもヴィアンカと引き換えっていうなら文句は無いだろ。ただ‥‥」
 その眼差しが眼光と呼ばれるものに変わる。相手を逃がさず射抜くかのように。
「もし、ヴィアンカに髪の毛一筋の傷でも付けてみろ。その時は鍵なんかぶち壊して、地獄の果てまでだろうとおいかけてやるさ。いいか? 俺だけの言葉だと思うな」
 そう思う人間は一人では無いのだと彼の目が言っている。
 くす、小さく笑ってシフールは青年に顎をしゃくった。
「行こう。フレドリック。彼らにとっては聖剣よりも少女が大事らしい。帰って彼女の扱いは丁重にと言っておかなきゃね」
「王都に戻られるならお忙しくなる筈です。お気をつけて」
 彼らは泰然と冒険者に背を向けて歩いていく。 フレイアの矢やエリンティアの魔法が狙っていると解っていても‥‥
「後で連絡するよ。聖剣とヴィアンカ。引き換えよう。まあ、今はヴィアンカじゃないけどね」
「お待ちなさい! それは、どういう意味です」
 セレナは声を荒げて呼ぶが、彼らは振り返りもせずに去っていく。
 その背中を彼らはそれぞれの思いで見送っていた。

○扉を開く『鍵』
「この槍は受け取れない」
 リルが差し出した聖槍をパーシはきっぱりと拒否した。
「槍は、その、あんたの方が似合うだろ」
「俺にはそれを持つ資格は無い。もう円卓の‥‥いや、騎士である資格さえ無くしたと‥‥」
「馬鹿言うんじゃないよ。今、あんたの身に何かあったり、あんたが退いたらそれこそデビルの思う壺だろ? もう少し落ち着いて。罠に飛び込んでくれるな」
「別に〜、最初から無かった聖剣なんてデビルに奪われたって大した事ないと思うんですよぉ〜。それより〜パーシ卿を失った方がよっぽど痛手ですからねぇ〜」
 冒険者達はパーシにそれぞれの言葉をかける。ヴィアンカの為に職務を投げ出し、あげく救えなかった事を責めるような彼に。その中で
「確かに貴方もまた自らの責務を投げ出した。誰がなんといってもやはりそれは責められるべきことです」
 リースフィアは静かに、だが真っ直ぐにパーシに慰めではない言葉を放つ。
「ですが何より悪いのは誰にも相談しなかったことでしょう。その上、さらなる罪を重ねるつもりですか?」
 エリンティアが運んできた槍をリースフィアはパーシに差し出す。
 無言のその行動の意味を理解した冒険者達は、彼を、彼の選択を見つめる。
 その視線とリルの持つ槍の前にパーシは一度だけ眼を閉じて‥‥
「‥‥確かに、これ以上の罪を重ねる訳にはいかないな」
 差し出された己の槍を力強く掴んだ。
「奴らの言葉が事実なら、王都で何か起きているのかもしれない。大至急戻る!」
 馬に跨り手綱を握るパーシをセレナは一度だけ呼び止めた。
「ヴィアンカ様は?」
「‥‥必ず迎えに来る。あいつは負けたりしないと、信じる。それにまた‥‥お前達は助けに来てくれるだろう?」
 そう告げて微笑み走り出した彼の速度は雷光。街道を愛馬と共に疾走する。もう姿は遠い。
「やっとらしくなったか?」
「もともと彼の行為はらしいですよ」
「勿論、許されるなら力を貸すわ。少なくとも私は手を差し伸べれば救える命を救いたいと思うもの」
 その後を追う冒険者達は彼の決断と思いを、眩しく思い、後を追いかけていった。

 キャメロットに戻った冒険者はウェールズから戻った仲間達からあるものを受け取る。
「やっぱり、多分これだな」
 それはパーシが最初に握って戦い、ある冒険者に託され、彼がパーシに返し、最後に母親に捧げられた一本の剣。
 聖剣への道を開き、少女を救い出す為の『鍵』であった。