【ラーンス決着】決意
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月16日〜11月21日
リプレイ公開日:2009年11月25日
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●オープニング
●決着の時
その日届いた手紙は、王宮を震撼させるに足るものであった。
運んできたのはただの行商人。宛先はアーサー・ペンドラゴン。
そして差出人は―――
「――ラーンス・ロット」
エクスカリバー奪取事件に始まり様々な事件を経て、イギリス王国最強の騎士は今や追われる身となっていた。
その彼からの手紙である。
行商人の話によると、旅人らしき男が商いをしている自分に話しかけ、保存食を買った代金を渡すと同時にこの手紙を渡してきたとのこと。
言葉はなく、しかしその手に握られたのは金貨。よって行商人は手紙に書かれた宛先へと持ってきたのだった。
(「‥‥監視されているのを恐れている、か?」)
行商人の言葉通りなら手紙を渡した男――ラーンスは、誰にも知られないよう手紙を届けてほしかったのだろう。
そこまでしてラーンスが届けたい内容とは‥‥アーサーは、意を決して手紙を広げる。
ある森の中。日は既に落ちて、月明かりも入らないその森を支配するは夜の闇。
しかし、闇も獣も恐れていないような佇まいで、男は目の前の焚き火を眺めていた。
「―――わざわざ姿を表すとは、どういう風の吹き回しだ?」
言葉を発するはラーンス。
そして、いつの間にかラーンスと焚き火を向かい合うような形で倒木に腰掛けている男がいた。
ぱっと見には猟師のように見えるが‥‥実際そうでない事は問うまでもないことだろう。
「チャンス、なのでねぇ」
「お前を斬る、か?」
すらりと抜いた剣を猟師の首に当てるラーンス。だが猟師は表情一つ変えない。
「王妃がどうなってもぉ?」
「‥‥‥ッ」
ラーンスが敬愛し、そして忠誠を誓った王の愛する人――グィネヴィア。
アスタロトにより誘拐された今、彼女の命を握っているのはデビル側だ。
「そう、いい子だねぇ。王妃が大事ならばどうすればいいか‥‥分かるよねぇ?」
『――そしてデビルは、王妃の命を盾にある事を私に要求した。
それは、王宮の襲撃。
デビルの話によると、円卓の騎士の離脱といいバロールの復活の騒ぎといい、今が絶好の機会らしい。
狙いは王の命。最悪でも円卓の騎士クラスの重要人物の命。
なら何故以前襲撃した時に狙わなかったのかと問うてみたものの、さすがにそれには答えなかった。
‥‥潮時、なのだろう。
自分の過ちから重大な事件を引き起こし、それが更に多くの悲劇を生み出した。
私はそれが許せぬとして、自分の力で何かを掴む‥‥そう思っていた。
だが結局、その自己満足の行動の結果はこれだ。
最早、私1人でできる事は‥‥無い。
王妃の命を盾に取られている以上、私はデビルの言葉に従う他は無い。
デビルもそれを分かっているようで、襲撃の際は私に力を貸すという。監視のついでだろうが。
‥‥そう、私はイギリス王国に剣を向ける。
それは変えようのない事実だ。
しかし、襲撃予定日時と予定ルートをここに記す。理由は語るまでもないことだろう。
王よ、騎士よ、イギリス王国を守る戦士達よ。
全身全霊を持って、イギリス王国に仇名す悪を――討ち滅ぼしてほしい』
王宮を守る騎士達にあの日の悪夢が甦る。
王妃とエクスカリバー。
王国の誇りを奪われたあの日の事が‥‥。
しかも、あの時と同じように、いやそれ以上に王宮の守りは崩れている。
トリスタンは生死不明、パーシ・ヴァルは不在。そして‥‥ラーンス・ロットは敵として現れる。
イギリスの円卓は、瓦解寸前であった。
だが、そこに王が立つ。
「王宮を、王都を死守せよ」
と命じて。
騎士達は自らの使命を思い出し、戦いの準備を始めた。
パーシ・ヴァルは必ず戻り、ラーンス・ロットもデビルも必ず止まる。
いや、止めて見せると。
王宮から出された依頼は王城、そして王宮の守護。
ラーンス・ロットを直接止める部隊、そしてデビルを迎え撃つ部隊とは別に、王都に住む人々を守ること。
それが依頼の全てである。
ラーンスの手紙がが真実であるか否かはこの場合、関係ない。
ただ、確実なデビルの襲来から人々を、イギリスの未来を守るだけだ。
「もはや、デビルに何一つ渡さない。渡してはならないのです」
依頼にやってきた騎士の言葉が誰のものであるか、係員は問わなかった。
イギリスの生死を分ける戦いが、今、また始まろうとしていた。
●リプレイ本文
○王都を守る者
「俺たち8人だけでキャメ全域を守れとか無理だって。あんた達の協力が絶対に必要なんだ」
冒険者キット・ファゼータ(ea2307)はそう言った。
勿論、王都を守る騎士、戦士、自警団は存在する。
ただ、その指揮をとり指示を与える存在がはっきりとせず混乱を余儀なくされていたのだ。
またラーンスがやってくると聞き動揺する者達もいた。
だが、そこに冒険者がやって来た。
「キャメロットをデビルに蹂躙なんかさせないの! 頑張ろうね〜」
明るい声でガブリエル・シヴァレイド(eb0379)が笑いかけ
「俺達は4班に分かれる。騎士達も合わせて‥‥」
アンドリュー・カールセン(ea5936)がアリオス・エルスリード(ea0439)と騎士達に的確な指示を与える。
「いいですか? 命に代えても王都を守る。でも、望むことなら命を落としてはなりません。
皆それぞれが守りたいもの、それはここにあるのでしょう。でも命を落としてはその先の守れるものも守れません。生きて、大切なものを守り続ける覚悟。それが騎士道なのです」
「パーシ卿も必ず戻ってくる。彼は信じて俺達にキャメロットを任せたのだと信じてそれぞれの役割を果たすんだ」
アルテス・リアレイ(ea5898)と七神蒼汰(ea7244)の言葉は騎士達の心に決意を灯し、
「他の事は奴らを信じて、あたいらはひたすらやってくるデビルをやっつけれいればいい。それがあたいらに課せられたノルマだからな。簡単だろ?」
クリムゾン・コスタクルス(ea3075)の笑みは騎士達の心に勇気を輝かせた。
「どうか、皆さんに神のご加護がありますように‥‥」
クリステル・シャルダン(eb3862)の祈りを受けて、彼らは持ち場へと走る。
「何事も無ければいいんだがな‥‥な」
そう呟いて空を見上げるアリオスの頭上には見えない暗雲が立ち込めているようだった。
○やってきた『敵』
その日、無い裏通りを静かに通っていく一団があった。
「本当によろしいんですか?」
「ああ、あれには手出ししなくていい」
心配そうに問う騎士の一人にアンドリューは静かに頷いた。
「ラーンス卿、頼むから‥‥これ以上‥‥あの人を‥‥」
「ほら、見回りに戻るぞ」
辛そうに俯き言葉を噛み締めながら呟く蒼汰の頭をぽんぽんと叩いてアンドリューは王城の門に辿り着いた彼らに背を向けた。
「気持ちは‥‥解らないでもないんだがな‥‥」
頭上には微かに白く輝く仲間が見える。
(「彼らもまた今頃、同じ思いで『彼ら』を見つめているのだろうな」)
そんな事を考えながら、彼らは持ち場へ消えていき、それを見下ろす者達も、また視線を彼らから逸らそうとしていた。
「お城に、入ったね。やっぱりデビルと一緒に来たんだ。中は大丈夫かな?」
心配そうなガブリエルにアリオスは頷いて見せた。
「大丈夫だろう。雑魚程度なら遅れをとる連中じゃない」
「そうだね。まったく迷惑な人だ」
「確かに‥‥ずいぶんと身勝手な話だが、あれはあれで彼なりに筋を通そうとした結果なのだろう。そう思えば、身勝手とも‥‥いや、やはり身勝手としか言いようが無いか」
小さく苦笑しアリオスは肩を竦めた。
「とにかくあれの事は中にいる人物と王に任せればいい。俺達が守るべき者はもっと大事なものだ」
城壁の向こうで微かな火花が鳴っているのが見える。
同じ思いで戦っている者達が自分達よりも少し早い戦いをしているのだろうと思うと心強くもある。
そんな事をアリオスがぼんやりと考えていた時
「! アリオス! 見て! あれ!!」
ガブリエルが声を上げた。彼女の視線と指の先、街道の方を守る冒険者達のコースとは違う方向から近づいてくる何かが確かに見える。
「あれは‥‥デビルか?」
「なんだか纏まってるみたいだよ。早く、皆に伝えないと!」
「解っている。だが、少し近づいて様子を見るぞ。ガブリエル。笛で皆に合図を」
「解った!」
天馬をデビルの群れに向けるアリオス。それと同時にガブリエルは笛を吹き鳴らした。
ピーー!!
高く、高く響いた警告の音は、キャメロットの者達に彼らの思いと一緒に伝わり、危険とラーンスとは違う、確実な敵の襲来を知らせたのだった。
○黒い影
やってきたデビルの数は、百に届くほどではなかった。
その殆どがインプなどを初めとする下級デビルであったが、流れてきただけのそれらとは違い、微妙な統率をもって城の門を飛び越えると、城下を襲い始めたのだ。
元より、冒険者と騎士団の支持により一般の人々には外出禁止の命令が下されている。
家の外や路地にいるのは冒険者や騎士達のみだ。
その点では彼らは周囲を気にする事無く遠慮なく戦うことができていた。
「クリステル! あんまり前にでてくるんじゃないよ!」
「はい! クリムゾンもお気をつけて。騎士の皆様、援護をお願いします」
「解りました」
加護の魔法をかけてもらった幾人かが二人の前に立ち剣を振るう。
自分達よりもある意味強い冒険者であるが、女性を守ることを躊躇う騎士はいない。
そんな彼らの背中をクリステルと微笑しあい、頼もしげに見つめながらクリムゾンは次から次へと矢を放った。魔法を帯びた矢が次々とデビル達を射落としていく。
確かな連携で、デビルの数はその頃には目に見えて減っていった。
「よし、ここが片付いたら向こうの援護に行くよ!」
「まだです! 油断しないで!」
クリステルの声を聞いた次の瞬間だった。クリムゾンが何かの気配を感じ、飛びのいたのは。
同時に、
「うっ!」「ぐああっ!」
前衛で戦っていた騎士達が声を上げて膝をつく。
それぞれが首元と腕を抉られていた。
「眼‥‥に見えない、敵が‥‥、お気を‥‥つけ‥‥」
「大丈夫? しっかりして下さい」
クリステルが即座に治療に入る。命がなくなる事は無いだろうが直ぐには動けまい。
クリムゾンは彼らを背後に守るようにして周囲を見つめた。
目に見える雑魚敵の中に姿を消しているものがいるのだ。
「そんな強そうな気配はないけど‥‥やっかいだね」
クリムゾンの武器は弓矢。普通の相手なら素手でもそう遅れは取らないが姿の見えない相手に0距離で詰められるとやっかいになる。数も、また増えてきているようだ。
「あんた! 動けるかい?」
傷の治療の終った騎士にクリムゾンが声をかける。
「はい!」
「あたいが道を開く。誰かこっちに手伝いに来てくれと伝えるんだ!」
「でも‥‥」
「いいから! 早く!! 周りを気にせず行け!!」」
強い意思の篭った言葉に騎士は真っ直ぐに走り出す。
当然彼を追おうとデビルが寄るが、それは
「行かせない!」
言葉通り放った矢でクリムゾンが討ち取った。
だが、その後はだんだん不利になってくる。まるでここの手薄を知るかのようにデビルが集まってくるのだ。
空にはひらひらと笑うように翼の生えた黒猫が‥‥
「くそっ!」
「クリムゾンさん! こっちへ」
クリステルの結界に後退しそこから攻撃を続けるクリムゾンが
「まだか!」
声を上げたその時だった。真っ直ぐに飛んだ鷹が迫るデビルの視界を奪ったのは。
「大丈夫か!」
「キット!」「アルテスさん!」
向こうから走ってくる。キットとアルテス。
「邪魔だ!」「僕は人の希望になる‥‥コアギュレイト!」
二人とさらに彼らに続く騎士たちが、やがて次々にその剣でデビル達を消失させていく。
「すまない! でも、向こうは大丈夫なのかい?」
場のイニシアチブを取り戻した冒険者達が顔を合わせ、背中を合わせ戦う。
その時クリムゾンが見ていれば見れただろう。
キットの、苦笑と嬉しさの混ざったような表情を。
「大丈夫だ。あいつも‥‥帰ってきたからな」
やがて城下のデビルは完全に掃討される。
集合した騎士達と冒険者達。
そして中で彼らは見る事になる。
「良く戦ってくれたな」
騎士達を労うパーシ・ヴァルの姿を。
○戻ってきた『円卓の騎士』
「迷惑をかけた。感謝する」
冒険者達に膝を折ったパーシ・ヴァルに冒険者達の多くは微笑で答えた。
「冒険者の指揮と連携がなければ城下や部下に大きな被害が出ただろう。すまなかった」
「まったくだ。ちょっとは迷惑を考えろ」
ふくれっ面のキットを手で制してアリオスはパーシに近づく。そして小さな声で囁いたのだった。
「このデビル達は何者かに指揮されていた可能性がある」
「なに?」
「あのね。様子を見てた時、一人違った様子のデビルがいたようだったよ。金髪で美形でね。アイスコフィンかけてみようと思ったんだけど弾かれちゃった」
「ああ、それらしき者は俺達も見た。縄ひょうを投げてみたんだが届かなかった」
「明らかに格が違う感じで、側に黒い翼の生えた猫を連れてた。キット、パーシ卿。あいつはまさか話に聞く‥‥」
表情を変えた二人に蒼汰は静かに問う。
二人はそれぞれに口を開かなかった。だが、彼らがその事実に何かを感じ噛み締めたのは事実のようだった。
それから間もなくパーシ・ヴァルは城へと戻っていった。
城下からはその後、まるで水を引いたようにデビルが消え、キャメロットは静寂と平和を取り戻した。
冒険者達は後に城でラーンスが無事取り押さえられた事。
その場での処刑はなされず、王の判断に委ねられた事を聞く。
この襲撃で失われた命は一つとしてなく、僅かの破壊も人々の手によって修復されていくのを見ながら冒険者は戦いの勝利に喜びを感じていた。
しかし同時に『円卓の騎士の帰還』。それが意味する新しい戦いの予感の意味も彼らは十分に理解していたのだった。
『取り戻されたか。どこまでも半端な男よ。まあいい。退屈しのぎにはなったし、閣下もそれほどお怒りにはならないだろう。種も十二分に撒かれた』
キャメロットを見下ろす空の上からそんな呟きが聞こえる。
『後は時を待つだけだ。戻るぞ。向こうも見逃せぬ』
‥‥そうして飛び去った影の行く先も声も、冒険者は知る事はなかった。