【偵察】闇の行方

■イベントシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:18人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月07日

リプレイ公開日:2009年12月16日

●オープニング

 その日訪れた依頼人に、冒険者ギルドの係員は驚きを隠し‥‥はしなかった。
「いろいろ世話をかけたな」
 やってきたのは円卓の騎士パーシ・ヴァル。
「なんだか変わられましたか?」
 係員はなんだか根拠も無くそんな事を問いかけた。
 表情が明るい、だけではない。
 何か地面に足が付いたと言ったらおかしいのだろうが今までに無い何かを彼が得たように感じたのだ。
「そうか? 自分では解らないがそう思われるならそうなのかもしれない」
 照れたように笑う彼は、だが直ぐにその表情を真面目なものに変えた。
「それよりも仕事の話だ。緊急の件であるから多くの冒険者に手を借りたい」
 そうして彼はある冒険者が得た情報の話をしたのだ。
「数日前、ある冒険者達が森でデビル達の会話を聞いたという」

『‥‥いいか? クロウ‥‥を、‥‥する為に、‥‥次第すぐ‥‥』

 それは冒険者ギルドにも届いている報告書。
 確かに下級デビルと上級デビルの会話のようだったと記されていた。
 
「彼らはクロウの名を口にしたと言う。クロウ‥‥それはおそらくアスタロトと共に姿を消したクロウドラゴンの事のはずだ」
 彼は悔しげに唇を噛む。
 クロウを復活させた心臓は、親友トリスタンのもの。
 その危機に何もできなかった自分を彼はまだ、悔いているのだ。
「アスタロトも、クロウドラゴンも‥‥勿論エクスカリバーや王妃もあれからいろいろと手を尽くして探させているが、手がかりは本当に無いに等しい。今、ここで僅かでも手がかりがあるのだとしたら、それを手にしたいのだ」
 だから、冒険者に手を貸して欲しい、と彼は言う。
 先の情報が聞かれたのはキャメロット北に2日程の山中。
 だが他にどこにどんな情報があるかも解らないから、そこに限ってのことでなくてもいいと。
「手がかりが殆どない以上時間をあまりかけても意味が無い。だから3日間。それでできる情報を集められるだけ集めてくれ」 
 どこに行くか、何をするかそれは任せるという。
「俺は城を離れられないが、できる限りの手助けは約束しよう。頼んだぞ」
 彼はそう言って城に戻っていった。
 
 つかみどころの無い仕事ではある。
 だが、今できることをしなければきっと後悔する。
 ただ、待っているより今できる何かを。
 冒険者の心も、騎士の心も同じなのかもしれない‥‥。

●今回の参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ ルシフェル・クライム(ea0673)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ リオン・ラーディナス(ea1458)/ キット・ファゼータ(ea2307)/ ネフティス・ネト・アメン(ea2834)/ リ・ル(ea3888)/ 葉霧 幻蔵(ea5683)/ ギルス・シャハウ(ea5876)/ アルテス・リアレイ(ea5898)/ アンドリュー・カールセン(ea5936)/ ピリル・メリクール(ea7976)/ エスリン・マッカレル(ea9669)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ クリステル・シャルダン(eb3862)/ シリル・ロルカ(ec0177)/ 百鬼 白蓮(ec4859)/ フェザー・ブリッド(ec6384

●リプレイ本文

○旅立ち、大切なものを守る為に
 元より掴みどころの無い依頼であった。
 姿を消して久しいデビルの魔王と、ドラゴンの捜索。
「パーシ卿の言ったとおり手がかりは殆ど無いから、心当たりを手当たり次第ってことになるか。皆、どこに行く?」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)の問いに依頼に参加した冒険者達はそれぞれに考え告げる。
「目撃情報のあった場所、ってのは北の山、なんだろ? じゃあ、俺達はそこに行ってみるとするか?」
 リ・ル(ea3888)の言葉に呟くキット・ファゼータ(ea2307)。
 彼が言う目撃証言とはある小さな依頼を受けた冒険者のもの。
 護衛者を連れてキャメロットに戻る途中の山中で彼女らはデビルの集合を目撃しある言葉を聞いたのだという。

『‥‥いいか? クロウ‥‥を、‥‥する為に、‥‥次第すぐ‥‥』

「彼女達は山奥に住む老婆を迎えにいった帰りにデビル達がそう囁くのを聞いたそうですよ」
「しかし! でござる。件の情報とやらが報告されて既に一週間以上。こちらの情報収集を開始する頃にそこにそのデビルがいるとは限らないでござるよ」
 アルテス・リアレイ(ea5898)の言葉に葉霧幻蔵(ea5683)が老婆心ながらと忠告する。
 ちなみに本当に老婆に化けかねない彼であるが、今の所は老婆に変装したりはしていない。
 一応、今の所は。
「それは解ってる。だが、そこで集まって何か話してたってことは、その辺でなにかあったってことかもしれないからな。一応調べてみないと。人数が多ければ山狩りするとかもできるだろうが、この人数だしな‥‥」
 今回集まった冒険者の人数は決して少ないわけではない。
 だがあまりにも情報が無さ過ぎる為、今回の調査は広範囲で行わなければならない。
 故に人手はいくらあっても足りないのだ。
「我輩は天使の島に行ってみようと思うのである。パーシ卿も言っていたのであるがクロウというのはおそらく暗黒竜クロウ・クルワッハのこと。かのドラゴンが封印されていた天使の島なら何か少しでも情報が得られるかもしれないのである」
「天使の‥‥島」
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)の言葉に唇を噛んだ者。手を握り締めた者は少なくない。
「トリスタン卿‥‥」
「エスリン?」
「大丈夫。貴女が言ったとおり落ち込んでいる暇なんてないものね」
 中でも特に厳しい表情を浮かべるエスリン・マッカレル(ea9669)を気遣うようにネフティス・ネト・アメン(ea2834)が声をかけるが、エスリンは顔を上げると首を振り優しく微笑みかけた。
 あの運命の日、天使の島で自分の力及ばず愛する人を失わせてしまった事はエスリンを深い絶望の闇へと叩き込んだ。
「トリスタン卿‥‥、私があの時‥‥」
 一時は浮上も叶わぬほど落ち込んだ彼女。
 だが彼女は今、ここに立っている。
 ネフティスはほんの数刻前を思い出して小さく微笑した。
『何ずっと呆けてるのよ、エスリン! 悔んでたらトリスタンさんは治るの? 違うでしょ? ちょっと来なさい!』
『ネティ? 一体何を?』
 そう言うと彼女は呆けるエスリンを強引にギルドに引っ張って行ったのだ。
 目の前に依頼を叩き付け彼女の手を引く。
『こんな依頼が出てたわ。自分のせいだって言うなら、取り戻す為に全力を尽しなさい!』
 ネフティスの真っ直ぐな思いと『やるべきこと』はエスリンの手を引き光へと導く。
『パーシ卿が依頼を‥‥そう、か。そうだな』
 彼女の目に徐々に力が戻る。
『ただ過去を嘆く私に、どうしてトリスタン卿を愛する資格があろう。己の為せる事に全力を尽さずして、再び卿の前に立てよう筈もない!』
 そしてエスリンはその場で依頼に名を連ねたのだ。
「天使の島は天使の島はヤングヴラド殿に任せ、私は主に書物を調べようと思う。君達はどうする?」
 問うルシフェル・クライム(ea0673)に
「私達は山の方に‥‥」
 言うエスリンはすっかり以前の彼女に戻っていた。
 それぞれの参加者が自分の行き先を表明する中、
「ネティ」
 エスリンに呼ばれネフティスは物思いから復帰した。
「なに?」
「一緒に手がかりを探して欲しい。頼む!」
 親友の心からの願いに彼女は微笑し
「当然でしょ? 友達と、友達の好きな人の為だもの。何だってするわよ!」
 そう答えたのだった。
 やがて、冒険者達はそれぞれの目的地に向けて動き出す。
「とにかく探るしかありません。皆さん、お気をつけて!」
 ペガサスで飛び立つシルヴィア・クロスロード(eb3671)。
 空路、陸路。方法は様々、行く先は別々。思いもそれぞれ。
 だが一つだけ同じ、揺ぎ無いものを持って彼らは行く。
 大切なものを守る為に‥‥。

○昔からのメッセージ
 図書館の扉が開き、一人の人物が入ってくる。
 だが、中で懸命な調べものを続けるピリル・メリクール(ea7976)はそれに気づかない。
「ピリルさん?」
「わっ! クリステルさん。脅かさないで下さいよ」
 ごめんなさい。と謝りながらクリステル・シャルダン(eb3862)はピリルの手元と書物を覗き込んだ。
「どうですか? 何か、めぼしい事は解りましたか?」
 手元の羊皮紙は既に文字でびっしりだが、ピリルは微かに眼を伏せ首を横に振る。
「めぼしい事、というのであればないとしか今は言えませんね。クロウドラゴンの伝承そのものがはっきりとはあまり伝えられていないんです。イギリスを滅ぼしかけた暗黒竜隠されていたのかもしれないと思います。そちらは、どうですか?」
「こちらも同じ、ですね。封印されてかなりの時間が経過していますから難しいか、とは思ってはいたのですが‥‥」
 それにしても文字で残されている情報は少なかった。
 クロウ・クルワッハの復活を避ける為にあえて情報を残さなかったのかもしれない。と思う程、だ。
「ただ、クロウドラゴンは力あるものを取り込み、その力を増大させたという記述はありました。どのようにして、かまでは解らないのですけど」
「私が聞いた中では、クロウはその強大な力を暴走させ、イギリスを壊滅寸前に追い込んだと言う話が気になったでしょうか」
 それでもここにある情報は少ない。
「失われたと言う書物があれば、何か解ったのでしょうか?」
「そうかもしれませんね。消えた書物は竜に纏わる伝承の本らしいですから‥‥。ひょっとしたら情報とかも‥‥」
 項垂れるクリステル。
「後は文書ではない情報が残されていないか。他の皆さんの調査に期待するしかありませんわね」
 そんな彼女にピリルは笑いかけた。
「ええ、でももう少し調べてようかと思います。何か少しでも手がかりが見つかるかもしれないですから」
 前向きな彼女にクリステルも頷き、横に座った。
 向こうにはピリル以上に必死の顔で本を調べるルシフェルがいる。
(「トリスタン卿‥‥場に居合わせながら、私は、私達は救えなかった。しかし、まだ、まだ望みはある‥‥待っていて下さい、卿」)
「もう少ししたらアルテスさんも来るはずです。頑張りましょう」
「白き竜の一族、赤き竜‥‥。あちらこちらに出てくる名前だな、一体なんだ?」
 ページを繰る音、ペンの音は止まることを知らない。
 三人の調査はまだまだ続きそうである。

 正直に言うならこちらも空振りに近い状況であった。
 幸い、キャメロットの警備は指揮系統も回復し、治安も改善されつつある。
 少しずつではあるが人の動きも見られるようになってきた。
「よっ、そこのかーのじょ♪ もうじき夕暮れだ。一人歩きは危ないぜ。よし、俺が送って‥‥」
 買い物帰りらしい女性に明るい声で声をかけるリオン・ラーディナス(ea1458)の
「リオン! いい加減にしないか!」
「あて! いててて!」
 耳を引っ張ってアンドリュー・カールセン(ea5936)は彼を自分の方へと引き寄せる。
 かくてナンパは失敗。
「ちぇっ、ナンパじゃないって、立派な情報収集だよ。女の子の情報網って侮れないんだぜ」
 頬を膨らませるリオンだが、アンドリューはつい先ごろ結婚したばかり。
 冗談は通じまいと解ってはいる。肩を竦めるリオンに 
「で、その情報網とやらからは何か掴めたのか?」
 アンドリューは真面目な顔で問いかける。だからリオンも口調は変えずでも、真面目に答えた。
「あー、それだけどね。デビル連中は襲って来た時、何かを探してたみたいだってことは聞けたよ」
「探す? 城ではなく、城下で‥‥か?」
「そう。街を襲ったデビル達が女の子達のアクセサリーとかを狙ってたって話。キラキラ物が欲しかったのか、それとも別の何かがあるのか。その辺はわかんないけどね」
「そうか‥‥」
「アンドリュー? どうかしたのか?」
 リオンの声も聞こえない程、その時アンドリューは考えに耽っていた。
(「何故、デビルは二度も王宮に現れたのか。勿論エクスカリバーを奪ったりラーンス卿を貶めたりと理由はあるだろうが、他にも‥‥何か?」)
 城を許可を得て調査しても、情報屋に話を聞いてもめぼしい情報は得られなかった。
 だが
(「デビルは更なる何かを狙っていたのか?」)
 キャメロットから脅威は去っても、まだ何も終ってはいない。
 アンドリューは解っていたそれを改めて再確認したのだった。
「そこのおねーさん。俺と一緒にあ‥‥」
「リオン!」

 どこか空振りの印象が否めない先の二チームに比べ、こちらには僅かではあるが確実な成果があった。
「余は教皇庁直下テンプルナイト、ヤングヴラド・ツェペシュ。先の依頼にてトリスタン卿に同行したものである! クロウ・クルワッハ討伐の為、天使の島の皆様のお力をお借りしたいのだ」
 そう名乗り正式な手続きの元やってきたヤングヴラドを天使の島の者達は拒否せず受け入れてくれた。
 勿論と言っては辛いがクロウの復活に落ち込む者達から得られた情報は多くは無い。ただ
「何も、残されてはいないのであるか? 伝説の武器などと贅沢は言わぬ、何かどんな些細なことでもヒントがあれば‥‥と」
 そういうヤングヴラドに島の長老はある昔語りを語ってくれたのだった。
「遙か昔、イギリスは白き竜と赤き竜によって治められていた。
 赤き竜に恨みを持つバロールはそれを滅ぼす為に闇の力を持つ黒き竜を呼び出したのだという。
 黒き竜。バロールが召還した暗黒竜クロウ・クルワッハはカオスの力を秘めた巨大な竜であった。
 召還者のバロールでさえ、制御しきれない程の力を持ち、イギリスを治めていた赤い竜さえも殺しイギリスを壊滅直前にまで追い込んだと言う。
 だが、白き竜の血を引く人間が、赤き竜の残した剣を持ち、命がけでその心臓を身体から抜き取りその力の多くを奪った。
 心臓を抜き取られてもなお暴れたクロウであったが心臓が人の手に渡った事で、やがて力を失い大いなる魔術師によって石化され、天使の島に封じられた。
 そしてその心臓は護りの一族の長子の心臓として代々受け継がれていくこととなったのだった。
 心臓はクロウの力を制御するもの。それを持つ者が願い使えばクロウを操ることができる。
 だが心臓がクロウの身体に戻った場合、その力が解放され世界は無に帰すと言われている‥‥」
 昔語りを聞いてヤングヴラドは腕を組む。
「クロウ・クルワッハの心臓がトリスタン卿の心臓、と言われていたが、今まで力の媒介的なものかと思っていたのである。今の話が本当だとすると‥‥クロウ・クルワッハの心臓は身体の中には無い? 心臓を奪われてもクロウは死なず、まだ真の力を発揮してはいない‥‥と?」
 ただの昔語り、と聞き流すこともできる。
 だがクロウが封じられてきた島で、クロウを封じてきた一族の長老が語った物語に偽りがあろうとは思えなかった。
「バロールは敵としてケルトの神々を怨んでいると聞くのである。では赤き竜というのがケルトの神々であるというのなら、白き竜とは一体‥‥?」
 重要な情報であるのは間違いないが、あまりにもつかみどころがない。
「とりあえず、皆と相談してみるのである」
 ヤングヴラドはそう言ってペガサスに跨った。
「長老、そして皆様方。どうかデビルに気をつけて。トリスタン卿は必ず救い出して見せるのである! はい!!」
 手綱を持ち空に舞い上がった天馬と騎士を見て、ある者は祈りを捧げ、ある者は姿が消えるまで涙と共に見送った。
 それぞれの思いと願いと共に‥‥。

○出現 黒き竜
 一時期の、この近辺はデビルで溢れていた。
 溢れたとまで言えば言い過ぎかもしれないが、キャメロット近郊から、北の山から南の遺跡群のあたりまでは多くのデビルが出現し村々を襲い人々を苦しめていたのだ。
「その時期に比べると、デビルの数は減った‥‥のでしょうか?」
 シルヴィアは天馬に跨り、空から地上を見下ろしてそんな事を呟いた。
 特に目に付くほどのデビルは見られなかった。
「でも、油断はできませんね。急がないと‥‥」
 地上を行く仲間達を目で確認し、シルヴィアは馬首をさらに北に向けた。
 目撃地点やその周辺の調査は仲間に任せておけばいい。
「シルヴィア殿!」
 フライングブルームに跨る幻蔵が声をかけた。
「そろそろ村が見えるでござる。調査を開始するのでござる」
「解りました」
 シルヴィアは頷いて頭を横に振る。気持ちを切り替えるように。
 自分達は機動力を生かして先に行って調査を進めることこそが役割なのだから。
「彼らの目的は、一体何なのでしょう‥‥」
 答えの出ない、答えるものの無い問いを呟きながら、シルヴィアは首を横に振った。
 自分達はそれを調べる為に動いているのだから。と。

 太陽に金貨をかざす。
 目を閉じ、背中を合わせていた二人の太陽の術師は
「「ふう〜」」
 異口同音に同じため息を吐き出した。
「どうだった? ネティ。フェザー殿も何か解ったか?」
 声をかけたエスリンに
「いいえ」
 フェザー・ブリッド(ec6384)は横に頭を振る。
「何を聞いても太陽の反応は無いわ。家の中にでも閉じ込められているのかしら?」
「アスタロト、トリスタン心臓、クロウ・クルワッハ、エクスカリバー、王妃、色々と聞いてみたけど、殆どが『解らない』の返事だったのだから。
「殆ど?」
 ネフティスの言葉にエスリンが反応した。ネフティスは小さく頷く。
「ええ。トリスタン卿の心臓とクロウ・クルワッハには微かに反応があったの『心臓は移動している』クロウは『動いてはいない』って。肝心のどこにいるのか、までは解らなかったんだけど‥‥ね」
「つまり、心臓を持ったデビルは移動していて、クロウはどこかに身を潜めている、ってことなのね」
 多分ね、とフェザーは地図を描く手を留め、頷いた。
「この辺であるのは間違いないと思うんだけど、はっきりしないって事は何かで日の光が見当たらない場所にいるって事だから‥‥」
 地図にはあちらこちらに書き込みがしてある。エスリンが調べたデビルの痕跡と周囲の様子を調べた結果、だ。
「もう少し、デビルの足取りを調べたら、向こうの人たちと合流しましょう。向こうの村で情報を刷り合わせてもう少し、場所を絞らないと‥‥。って何を」
 ペンを持ち直したフェザーはそう言ってネフティスとエスリンに声をかける‥‥エスリンは唇に指を一本当てて、ネフティスの顔を見た。
 フェザーもネフティスがやろうとしている事は解ったので、静かに口を噤む。
 友の為ネフティスが呪文を唱える。未来を垣間見る。未来視の魔法フォーノリッヂ。
 その時、彼女が見たものは、恐ろしい地獄絵図だった。

○漆黒の山
 森に入った時から、冒険者達はその周辺の空気に異常を感じていた。
「ん〜、小動物が見えませんね〜。冬だから、では無い感じですぅ〜。ルーニー君たち、騒いではいけませよ〜」 
 愛する犬達の首元を撫でながらギルス・シャハウ(ea5876)は周囲の様子をそう分析した。
 女性の冒険者達に比較的山の下の方の調査を頼み、奥に進んできた冒険者達。
 犬の嗅覚やデビル出現の方向を計算し、さらに奥へと進んでいった。
 原因はシリル・ロルカ(ec0177)が聞いた一言である。
『あの日、村の側まで飛んできたんだ。大きなドラゴンがさ。村が潰される! と思ったけれどドラゴンは裏山まで来るとふいと、消えちゃったんだ』
「消えた、か。手品とかでもあるまいし、ドラゴンは流石に瞬間移動を使えまい。
「じゃあ、どこに‥‥」
 そしてその調査も兼ねた翌日探索。
 日の光も殆ど届かぬ森の最奥で‥‥彼らは信じられないものを見る事になったのだった。
「あれは‥‥まさか?」
 言われなければ小高い山にしか見えない黒い山。
 だが、それは落ち葉などが降り積もったそれは微かな振動と共に僅かに揺れていた。もっと詳しく見ようと近づこうとした時。
『グキキ! 誰だ!』
「くそっ!」
 現れたデビルをリルが袈裟懸けにする。だが、その時には断末魔の悲鳴に吸い寄せられるように周囲のデビル達が冒険者に襲い掛かってきた。そして‥‥その背後、いや正確には頭上から
『目覚めよ。クロウ・クルワッハ』
 深い声が聞こえたのだ。
「誰だ!」
 キットの声に応えず、逆光で見えにくい空から、もう一度声が聞こえる。
『目覚めよ!』
 その声と同時に黒い山は大きく揺れると空に飛び上がった!
 体長は‥‥50mはありそうだ。翼と首を入れればもっとかもしれない。
 呆けるような瞬きを冒険者がしたのはたった一瞬。
 羽ばたきによって吹き飛ばされそうになりながら、
「待て! どこに行く!!」
 冒険者達はクロウに駆け寄ろうとする。 
 けれどクロウは冒険者達の真上で大きく羽ばたきすると悠然と、ゆっくりと飛んで行ったのだった。
 先頭に立つデビルと共に。

○荒らされた遺跡と、現れたクロウ・クルワッハ
 南方の遺跡の側、ある街でマナウスは
「最近色々と聞きますからね、今のうちに南方の民間伝承を調べて見たいと思ったのですよ。なあ、レン?」
 そう言って村人達に笑いかけ、百鬼白蓮(ec4859)に話しかける。
「はい、主‥‥じゃなく、マナウス」
「お二人はご夫婦かの? お似合いじゃの」 
「まあ、そうです‥‥。ありがとうございます」
 照れた風の二人は竪琴と歌で共に人々の心を解きほぐしていく。
「最近デビルがまた出現するようになりましてな。皆、緊張しているのですよ」
 長老の笑顔とは反対にマナウスと白蓮の表情はふと、硬くなった。
「デビルが‥‥ですか? フォモールではなく」
 問う白蓮に子供達がうんうん、と頷く。
「うん、デビルだよ。あいつら、手当たり次第に遺跡に入って、遺跡を壊して行ったんだ」
「なんか、探してたみたいだよね」
「そういやさ、デビルが遺跡から、なんだかキラキラするもの、持っていかなかったか?」
 子供達が口々に言う中、マナウスの表情はさらに白くなる。
(「遺跡から、何かを? デビルは探していたものを見つけたのか? それはなんだ?」)
「長老、この地方に何か宝の伝説などはありますか?」
「そうじゃのお〜。確か‥‥」
 マナウスの問いに老人が手を叩こうとした、その時だった。
『ギシャアアア!!』
 すさまじい叫び声があたりに木霊したのは!
 と、同時冒険者の頭上を巨大な影が通る。
「レン! 子供達を護れ。人々を避難させるんだ!」
「心得た! 皆、慌てるな!」
 突然の事に動揺した村人を白蓮が誘導する間、マナウスは武器を手に村の外へと走り出た。
「こいつは‥‥」
 流石のマナウスも息を呑まずにはいられなかった。
 手の震えを止めることができなかった。
 そこにいたのは身の丈50mはあろうかという巨大なドラゴンであったのだから。
 漆黒の翼、闇色の身体。
「暗黒竜クロウ・クルワッハ‥‥」
 マナウスの脳に、一瞬、悪夢が過ぎる。
 ドラゴンは村の目と鼻の先に座している。
 少し尻尾を振るうだけで、この村は潰されてしまうだろう‥‥。
「チッ!」
 小さく舌を打ちマナウスは白蓮の元に戻り、村人の避難誘導にあたった。
 そのおかげで人々の被害は最小限に抑えられた。
 おかげでネフティスが見た地獄絵図、暗黒竜の復活で滅ぼされた村と人々の嘆きは回避されたのだ。

 だが、勿論、何も終ってはいない。
 むしろこれから始まるのだという事を、冒険者達は感じ、その身を震わせたのだった。