暗黒竜との戦い
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2009年12月20日
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●オープニング
邪眼のバロール。
それはイギリスを滅ぼしかねない邪悪な存在の名である。
その巨大な体躯、視線のみで人を死へと誘うその邪眼。
そして彼に仕えるフォモールたち。
冒険者は幾度と無く戦い、その都度敗北に似た苦渋を味わい‥‥逃がしてきた。
そのバロールが再び出現したという。フォモールと共に戦いの準備をはじめ南方遺跡群の征服に乗り出したとも。
バロールに南方遺跡群の地を征服を許せば、恐らくは次にキャメロット狙うだろう。
南方遺跡群領主からの救助要請が届く。
キャメロットに緊張が走り人々は動き出した。
王城の騎士達も命をかけてバロールを止めようと戦いの準備をしようとする。
冒険者と協力してバロールの息の根をなんとしても止める。と。
まさにその矢先であった。
「大変です。冒険者の報告が! バロールの居城の側にきょ、巨大な竜が出現して!」
「なに!!」
「目撃者の話によるとあれは、伝説の悪しき竜‥‥クロウ・クルワッハではないか、と‥‥」
「なんと‥‥いうことだ」
クロウ・クルワッハ。
それは世界を滅ぼしかねない暗黒の名。
イギリスの存在を揺るがす大きな戦いが、今、正に始まろうとしていた。
それは、王宮からの正式な依頼。
円卓の騎士自らの訪れは当然なものと言えた。
「はっきり言っておく。下手を打てば死の危険があるぞ。相手は伝説の暗黒竜クロウ・クルワッハだ」
パーシ・ヴァルはそう告げて一枚の依頼書を差し出した。
その依頼書にはカオスドラゴンに近づきそれを足止めすること、と書かれてある。
「もう知っている者もいるかもしれないが、邪眼のバロールが姿を現した。バロールは自身の居城にて戦支度を整えているらしい。南方遺跡群領主は先手必勝とばかりにバロール勢への攻城戦を決意しキャメロットに応援を要請してきた」
住民にも、それを救出に向かった騎士達にもとパーシは唇を噛み締め告げる。
「これ以上バロールを放置してはおけない。だから、騎士団と冒険者、協力してバロールを倒す。その総力戦の準備を始めていた矢先だ。クロウドラゴン出現の情報が入ったのは」
それは調査に出ていたある冒険者が発見し、王城に告げられた。
「かのドラゴンの身体は王城の側に出現したが、その姿は城よりも大きく漆黒に染まっていたという。デビルが連れているドラゴンとも思われたが情報からしてかつて天使の島というところに封じられていたクロウドラゴンであることは間違いないようなのだ」
世界を滅ぼしかねないと言う暗黒竜。
かの竜の尻尾の一振りでさえ、一つの街が壊滅しかねない。。
「クロウドラゴンの能力はまったく解っていない。知性のあるなしすらも解らないが周囲にデビルらしきものがいたようだという情報もある。クロウドラゴンの心臓と呼ばれるものが今デビルの手にあるからおそらく、デビルの支配下にあるのかもしれない」
クロウの心臓。その名前を口に出した時のパーシの表情を後に係員はとても言葉では形容できないものだったと語った。
それはすなわち、抉られた親友トリスタンの心臓であるのだから。
「クロウドラゴンを放置など勿論してはおけない。だが、今はバロールを倒すのが優先、という指示が下った。両方を一度に相手にすることは不可能だからな」
故に冒険者に出された依頼はクロウドラゴンの足止めである。
「バロールとの決戦を行う冒険者と騎士団。彼らがクロウドラゴンに背後を付かれない様にクロウドラゴンを動かさない事。それが依頼だ。倒そうとまでは思わなくていい。おそらく‥‥クロウドラゴンはバロールより遙かに強敵に筈だ」
足止めというだけでも勿論命がけであることはパーシも勿論承知である。
だが二者が同時にキャメロットを襲ったり、バロール退治に騎士団や冒険者が全力を尽くしている間にクロウドラゴンが暴れたりしたらどんな惨事になるかは、想像するまでも無いだろう。
何と言ってもバロール側には多くのフォモール、デビル。そして‥‥彼もいる。
第三の聖剣を手に入れたモードレッドも。
弟のように思ったモードレッドを助けたいと言う思いは勿論十二分にある。
だが、彼に与えられた役目は騎士団の指揮と、クロウドラゴンとの対峙。
微かに眼を伏せたパーシ・ヴァルは思いを振り払うように前を向き、そして告げる。
「クロウドラゴンが伝説どおりの力を持っているとしたら、おそらくその力はバロールよりも上だ。半端な能力の持ち主では足止めもできまい。言うまでも無く命がけだ。だから、今回はとにかく足止めに専念してくれ。可能であるなら戦いながら敵の能力や弱点を探ってくれればなおいい。だが無理に倒そうと思うな。下手に刺激しすぎて暴れられるのも拙い」
戦いになるのは避けられないだろうが、未知の力を持つ相手に無策で乗り込んでいくのは命を捨てる行為だとパーシは言う。
「イギリスを守る為にも、死んではならない。人の命は多くの人間の繋がりによって運ばれた未来への希望なのだから。‥‥頼んだぞ」
彼は王城に帰り、キャメロットの住民の避難や騎士団の指揮にあたる。
そして必要とあれば先陣に立つとも。
バロール。そしてクロウ・クルワッハ。
二つの災厄から人々を守るイギリスの命運をかけた戦いが今、始まろうとしていた。
●リプレイ本文
○願いと思い
そこは、すでに死地と呼べる戦場であった。
一瞬の油断が命取りとなるその地で
「‥‥違う、あれは‥‥」
エスリン・マッカレル(ea9669)は息を飲み込んだ。
暗黒竜を操るデビル。
それは、彼女が捜し求めるあのデビルではなかったのだ。
冒険者とパーシ・ヴァルの到着は決して遅いものではなかった。
だが既に死者の数、被害者の数は数え切れないほど。
指揮系統も乱れ混乱の様相を見せていた。
「パーシ卿、部隊の再編と、騎士隊の指揮をお願いはできまいか? クロウの方は我々に任せて欲しい」
その状況下でルシフェル・クライム(ea0673)が言った提案は最善のものであると誰にも思われた。
だがパーシは無言で槍を握り締める。拒否ではない。
残す思いがその沈黙にある事を冒険者達は、知っていた。
「卿‥‥、思いは同じだ。もしこの場にトリスタン卿の心臓を持ったデビルが現れるなら取り戻してみせる。我々を、信じてくれないか」
真剣なアンドリー・フィルス(ec0129)の言葉にさらに重ねるようにエスリンも言葉を重ねた。
「必ずや‥‥」
「パーシ様」
逡巡は一瞬。
目を伏せるパーシを気遣うようにシルヴィア・クロスロード(eb3671)が名前を呼んだ時にはもう彼は、マントを返していた。
「地上の雑事は気にするな。お前達はお前達のやるべきことをなせ」
部下に指示を与え歩き出す彼は小さく、さらに一言のみを残す。
「頼んだぞ‥‥」
その言葉の意味を気づけない者など、この場にはいない。
「急ぐぞ! もうヌアザは奴と戦ってる。ケイ達も動いている筈だ」
走り出すキット・ファゼータ(ea2307)の後を冒険者達は追っている。
「聖なる母よ‥‥」
愛する騎士の背中を最後まで見送っていたシルヴィアは誓いの短剣に祈りを捧げていた。
「愛する人々を守れるよう、お力をお貸し下さい」
と。
○戦場と言う名の地獄
「あれが‥‥クロウ・クルワッハか」
「伝説の暗黒竜ですかぁ、本物だとしたら大変な事ですねぇ」
「どう見ても偽物じゃあねえだろ? しかしでかいな‥‥。鱗太郎がチビに見えるぜ」
閃我絶狼(ea3991)とエリンティア・フューゲル(ea3868)が軽口のようにそんな事をいいあい笑いあう。
絶望的な状況だからこそ、心が折れるわけにはいかないのだ。
「今回の私達の役割は足止め、ですが、立ち向かう以上、全力は尽くさねばなりません」
天馬の手綱を握るリースフィア・エルスリード(eb2745)の言葉に冒険者達は頷いた。
「地上からパーシ卿が率いる部隊が攻撃を仕掛けます。それを挟むようにケイ卿の率いる冒険者が既にあそこで戦っているヌアザを援護している筈です。だから、私達は空から仕掛けましょう」
天馬やグリフォンなど飛行系のモンスターを飼う冒険者と、パラスプリントとフライの魔法を持つパラディンと騎士が頷いて今、飛立とうとしたその時。
「シルヴィア!」
キットはシルヴィアに駆け寄った。
「俺を乗せて飛んで、クロウの背中に降ろせ」
驚く提案にシルヴィアは目を丸くした。
「危険ではありませんか? 振り落とされたらどうなるか解りませんよ!」
「それでもあの体格だ、俺一人が乗り移ったって大した事ないかもしれない。その隙に翼とか狙ってみる」
「でも‥‥」
言いかけたシルヴィアの背後で悲鳴が上がる。
あれは地上部隊か、それとも
「悩んでる暇はない。早く!」
「解りました。乗ってください!」
その言葉が合図となってエリンティア以外の冒険者達の身体が宙に舞う。
「皆さん、気を付けて下さい〜。僕は地上から援護するですぅ〜。それからエスリンさん〜」
「えっ?」
エリンティアがエスリンに囁いた言葉を知らない冒険者は空へと舞い上がる。
「解った!」「気をつけて!」
そしてエスリンも唇を噛み締めて地面を蹴る。
浮かび上がった冒険者達のがクロウの眼前を突き抜けていく。周囲を飛ぶ。
今彼らの戦いが始まろうとしていた。
冒険者達の狙いはクロウの周りを飛び回ることで注意をひきつけつつ、ダメージを与えること。
背中に移り、翼の根元に渾身の力で突き立てかけた刀は硬い鱗に阻まれ微かに沈むのみ。
「くそっ!」
揺れる体勢を立て直す間もないまま身を揺るがせるクロウに、
「うわああっ!」
アンドリーは跳ね飛ばされる形で宙に放り出される。
「大丈夫か?」
「ああ、だが、攻撃がまともに入らない。奴には、弱点が無いのか!」
「その上、でかい図体の割りに素早いな」
フライで浮かび、なんとか姿勢を取り戻したアンドリーの横で絶狼が歯軋りする。
冒険者は幾度と無く攻撃を仕掛けているのにその全てが、目に見えたダメージに繋がらないのだ。
「リースフィアやシルヴィアのソニックをかわすなんてただ事じゃないぜ。ったく!」
逆にクロウの攻撃は、少しずつではあるが確実に冒険者や騎士達の力を殺いでいた。
「くっ!」
クロウの眼前に肉薄したリースフィアが爪の攻撃をぎりぎりで交わし再び、いや三度のソニックブームを放つ。
0距離に近い間合い。
それらはクロウの鼻先に吸い込まれ
『ぎしゃああ!!』
大きな悲鳴を上げさせた。これがチャンスと冒険者が畳みかけようとした瞬間
「! あれは‥‥」
「危ない!」
「えっ?」
クロウドラゴンの身体が大きく揺れて、黒い靄に包まれた。
そして
「きゃあああ!」
「リースフィアさん!」
彼女の手が黒い炎に取り付かれ燃え上がる。
「あれは‥‥魔法か? 魔法まで使いやがるのかよ。あいつは」
「天馬さん、リースフィアさんを後ろに運んで治療を。キットさん。そろそろいいですか?
「ああ! いくぜ!」
後方に下がるリースフィアとすれ違うように前に出たシルヴィアは目を狙って攻撃を仕掛けた。
回避されるのはある程度覚悟の上。
本命の攻撃をするのは彼女ではないのだから。
「援護するぜ」
「絶狼さん! でも、アンドリューさん達は?」
無言で顎をしゃくった絶狼。
シルヴィアの視線が彼が指した先を見る隙に、次の場へと飛ぶ。
「おいデカブツ、デビルなんぞに良い様に使われやがって悔しくねえのかよ!」
『ギャアアア!』
「ヤツラの呪縛なんか振り切って見せやがれ!!」
そして絶狼は渾身のチャージングをシルヴィアと、そして背中のキットとタイミングを見て打ち付けたのだった。
『グアアアッ!!!!』
痛みに身体をうねらせるクロウ、いくつもの痛みが襲う中、最大の痛み。背中のキットを追い出そうとするかのように動かしていた。
「絶対、振り落とされたりしないぞ!」
刀身の半分が身体にめり込む。その柄を離す事無くキットは剣をめり込ませていった。
だがやがてクロウは口を大きく、大きく開いた。
「キット! 気をつけろ。ブレスが来る!」
「ちっ!」
上がる声にキットの舌が鳴る。
選択しなければならなかった。
やっと入った渾身の一撃。より強いダメージか、それとも‥‥。
迷いは無かった。
キットは剣を引き抜きその背中を頭に向けて走ると、頭上で高く掲げた。
聖剣の放つ守りの光が眼下の人々を包み込む。
「間に合ったか?」
と同時、漆黒の闇そのものの息が冒険者に向けて放たれたのだ。
「うわああっ!」
クロウの頭は大きく揺れる。
地震など比ではない振動。キットは剣を握ったまま振り落とされた。
「くそっ!」
翼の無い自分を呪いながら、目を閉じ、身を硬くしたキットがやがて覚悟した衝撃の代わりに受けたのは柔らかい反動と
「まったく、無茶しないで下さい!」
暖かい笑顔に満ちた声であった。
「でも、間に合いましたよ」
天馬でキットを救い上げたシルヴィアは眼下の騎士や冒険者達を指差す。
彼の行動が、クロウのブレスから幾人の人間を救ったかは今知ることではない。
ただ、間違いなく彼の行動が無ければ数名以上の人間が即死していたということだけは確かであった。
「あのブレスの直撃は絶対に食らうなよ。食らったら大怪我じゃすまないぞ」
仲間達に告げて、キットはシルヴィアの背後で、再び剣を握り締めた。
「シルヴィア。ヌアザがクロウに攻撃を入れてる。援護するぞ」
「解りました。行きま‥‥えっ!!」
手綱を引きかけたシルヴィアの手が硬直する。
彼女だけではない。冒険者全てが凍りついた。
眼前で広がった、信じられない光景に、息をすることさえ忘れたように冒険者は、ただ見ることしかできなかったのだ。
「あれは‥‥一体なんだ?」
「く・・・・クロウ・クルワッハが・・・・【銀の腕】を・・・・喰らってい‥‥る?」
○裏切りと絶望と
クロウとの命を賭けた決戦の最中、いつの間にか消えた者達がいる。
彼らは逃げたわけでは勿論無い。
「お前は、一体誰だ!」
ルシフェルと、エスリン、そして空に浮かぶアンドリーはデビルと相対していたのだ。
クロウとの戦いを上空から見つめる一人のデビルと。
彼は明らかに他のデビルと一線を画していた。
歴戦の冒険者でさえこうして向かい合っていても冷や汗が出るほどに。
『私はアリオーシュ。それ以上の自己紹介が必要か? これから死に行く者達に』
悠然と笑うとそのデビルは
「避けてください! 皆さん!」
冒険者の背後から放たれた、ソニックブームを軽く身を逸らせてかわした。
「何故、ここにいるのです! アリオーシュ!」
「大丈夫ですか? リースフィアさん」
荒い息のリースフィアを心配するようにエスリンが声をかける。ほんの少し前まで黒き炎に焼かれていたリースフィアはだが、そんなことはもう忘れたと言うように強い眼差しで目の前のデビルを睨んでいる。
「彼は復讐と裏切りを司る悪魔です。彼のせいでどれほどの人間が苦しみ、弄ばれ、死んでいったか。そのお前がここにいるのは一体何故なのです!」
『勿論、我が役目の為。アスタロト閣下の命にてクロウを操り人々を苦しめよと。そして‥‥希望を抱く者達に絶望を与えよと‥‥』
微笑し彼は右手に不思議な光を掲げた。それは小さな球。
「クロウの心臓ではないな。エリンティアも、クロウの心臓を持つ者はここにはいない、と言っていた。だが、お前がクロウを操っているのは事実。では、それは一体何なのだ?」
エスリンの問いに彼は楽しげに答える。
『クロウの心臓であると思ったか? だが、これはリア・ファル。七つの冠と呼ばれるルシファー様の力を称える至高の宝玉だ。長く捜し求めていたが、クロウ封印の島で手に入れたと聞く。まったく意外なところにあったものよ』
「それで‥‥お前はクロウを操っていると?」
振り絞るようなリースフィアの言葉に彼はそうだ、と笑う。
『クロウの心臓がお前達の手に渡れば、クロウは弱体化する。そして、希望を抱くだろう。勝利への希望を。それを打ち砕きイギリスを絶望へと追いやる。それこそが我が役目だ』
「お前は‥‥我々の思いを弄んだのか!」
エスリンの唇が音が鳴るほど噛み締められた。
敬愛するかの人の面影が、笑顔が目蓋の裏に浮かび涙と共に‥‥消えた。
「許さない! お前は絶対に!」
番えられた矢がアリオーシュに向けられた。
と同時アンドリーはパラスプリントで、ルシフェルはその身ごとの突進で懐へと飛び込んだのだった。黄金の刀を掲げ閃光を放つ。その隙にルシフェルの組み手とエスリンの攻撃でリア・ファルを狙う。
それは本来ならトリスタンの心臓奪還の為の作戦。
連携は完璧で、普通のデビルであれば確実にその動きを封じていたのは間違いなかった。
だが彼らの攻撃は空を切る。
それは高位デビルの瞬間移動能力。
アリオーシュはクロウの頭上へと一瞬で舞い降りていた。
『楽しいな。お前達のその顔、希望の末の絶望こそが我らの喜び。一人ひとりの人間を貶めるのも悪くないが初戦退屈しのぎにしか過ぎない。圧倒的な力に打ちのめされる人間を見る事こそ最高の気分だ!』
そして‥‥
『ほお〜』
凍りついたように動かない冒険者と、その足元のドラゴンを見やってアリオーシュはさらに満足げな笑みを浮かべた。
『素晴らしい。素晴らしいぞ。クロウ! 本物の神を、取り込んでしまうとは! 感じる。お前の更なる力を‥‥、さあ、その力でここにいる人間どもに絶望を味合わせてやるがいい!』
リア・ファルを掲げアリオーシュは高らかにそう声を上げた。
輝くリア・ファル。だが‥‥クロウは動かなかった。ピクリとさえも。
『どうした! 我が命に従え!』
動揺するアリオーシュ、その瞬間を冒険者は見逃しはしなかった。
「今度は逃がさぬ!」
踏み込むアンドリーからの連携攻撃。それに今度はリースフィアと冒険者達もアリオーシュを狙ったのだ。
『ぐあああっ! く、くそおっ!』
悲鳴をあげ、アリオーシュはクロウの頭上から叩き落された形で宙に浮かんだ。
翼を広げ、左手にリア・ファル。右手に斧を構えた戦闘態勢で憎憎しげにアリオーシュは冒険者を見つめていた。
アリオーシュは、おそらく最期の時まで気づかなかったであろう。
冒険者でさえ、その目を疑った。
『大人しく絶望に打ちひしがれていればいいものを。だがお前達の未来は決まった。絶望の果てに死が‥‥?』
最後まで彼の言葉は紡がれることは無かった。
「な‥‥」
パクリ。
アリオーシュの背後で開かれていた大きな口が彼を飲み込んだからだ。
完全に閉じられた口の中、微かな声が聞こえる。
『なぜだ、私は、リア・ファルをもっているのだぞ! これさえあればお前は制御可能とアスタロト様は! ・・・・私ではない、人間達を・・・・開けろ! やめろ! やめてくれ! ぐあああっ!!』
何かが砕ける音がして、静寂が戻る。
張り詰めた空気の中、微かな音を立てアリオーシュの斧が地面に突き刺さった。
それをまるで合図とするかのようにクロウは声を上げる。
『ぐおおおおおっ!!』
声と共にクロウの内に持つ強大な力はさらに大きく増大していった。
そして天地を揺るがす声をイギリスに響き渡らせたのだった。
「グオオオオォォォォォォォォンッ!」
ピイーーッ!
笛の音が高く鳴る。
「冒険者! 下がれ。退却だ! 死ぬぞ! エリンティア!」
パーシの声が凍りついた冒険者達を正気に戻す。
「あっ、はいですぅ」
エリンティアのファイアーボールがクロウの眼前で破裂する。
『ぎゃああっ!』
その隙を見て、冒険者達は戦場から離脱した。
○暗黒竜の復活
後にバロールは冒険者達の手によって倒されたという報告がなされた。
冒険者達は役割を果たした事になる。
だが、イギリスを襲う脅威は減ってはいない。
クロウドラゴンはまだ倒せていないからだ。
むしろ事態は悪化している。
神とデビルを取り込んだ暗黒竜は、間違いなくその力を増大させているからだ。
心臓こそ戻っていないもののイギリスを滅ぼすといわれたかつても暗黒竜そのもの。
クロウ・クルワッハは今も、かの地で雄たけびを上げる。
さらなる闇を纏って‥‥。