【英雄 想う人】目指す背中

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月14日〜01月19日

リプレイ公開日:2010年01月22日

●オープニング

 いつも、彼の背中を追いかけていた。
 隣に立ち歩きたいと思いながらも、その背中はあまりにも大きく、遠い。
 やっと追いついたと思った時にはさらにその先を歩んでいる。
 それでも‥‥彼女は諦めたくないと思っていた。
 先を歩くが故に孤独な彼の隣に立ち、共に歩くことを‥‥。

「シルヴィア。円卓の騎士になりたいか?」
 クロウ・クルワッハとの決戦から数日、目覚めたシルヴィア・クロスロード(eb3671)が最初に見たものは光を集めたような柔らかい金髪と新緑の瞳であり、最初に聞いたのはそんな驚くべき言葉であった。
「パーシ‥‥様?」
 尊敬し、忠誠を捧げる円卓の騎士。
 パーシ・ヴァルの言葉の意味をまだ完全に覚醒しない頭で考える事数秒。
「えっ! パーシ様!」
 我に返ったシルヴィアはベッドから飛び降り跪く。肩口にかけられていたマントが床に落ちた。
「クロウとの戦いの疲労はまだ抜けていまい。無理はするな」
 労わるような優しい言葉にシルヴィアは、自分達の勝利を思い出す。
「ああ。お前達のおかげでクロウ・クルワッハは滅びた。イギリス滅亡の危機から救われたのだ。心から礼を言おう」
 微笑むパーシの顔は眩しく、優しい。
 直視できず頬を赤らめてシルヴィアは顔を背けた。
「礼だなんて‥‥私はただ‥‥」
「シルヴィア」
「えっ?」
 彼が自分の名を呼ぶ。彼女は顔を上げた。
 その呼び声は、今までに聞いたことの無いイントネーションを孕んでいたからだ。
 言葉で表現するのは難しい。
 優しさと厳しさ、甘さと強さが入り混じったようなそれで彼は彼女にある問いをかける。
「お前はまだ、円卓の騎士になりたいか?」
 と。
「それは‥‥」
 返答に詰まるシルヴィア。彼女はかつてパーシ・ヴァルに
『私は円卓を目指します』
 そう宣言したことがあった。
 部下ではなく、仲間でもなく彼と対等の存在となり、共に歩く為に。
 その気持ちに今も勿論変わりは無いけれど‥‥。
 押し黙ったシルヴィアにパーシは言葉を続ける。
「もし、お前が本当に、本気で円卓の騎士を目指すと言うのなら推挙してもいい。いや、お前だけではなく我こそはと思う冒険者がいてそれが円卓に相応しい者であるならば、円卓の騎士の候補として迎えようという話が出ている」 
 ここ数ヶ月にイギリスを襲ったいくつもの事件のおかげで、イギリス、特にキャメロットの王宮騎士には小さくない被害がでていた。
 円卓の騎士にも空位が出ている。新たなる優秀な戦士、騎士がいれば迎え、騎士団を再編しようという考えは理解できる。だが、あまりにも突然のチャンスにシルヴィアは言葉を返すことができなかった。
「勿論、誰でもという訳ではない。俺と戦い、勝てたらということになるだろう。最低俺にくらい勝てなくては円卓の騎士は務まらない」
 俺にくらい、とパーシは笑うが、彼の実力は確か。間違いなくイギリストップクラスである。
 つまりその彼を破るくらいの実力が無ければ中途加入は認められないということ。
「剣でも、槍でも、弓でもなんでも構わない。俺に負けを認めさせたら俺はそいつを王宮騎士、ひいては円卓の騎士に推挙する。最終的な判断は王がされるがおそらく円卓の騎士候補と認められることだろう」
「なんでも‥‥それは、集団戦闘でも構わない、ということですか?」
 顔を上げたシルヴィアの目を見てパーシはああ、と頷いた。
「その時は俺が指揮する騎士隊と、冒険者達の戦いということになるな。集団戦闘の指揮能力を見る、ということでも構わないだろう」 
 そこまで聞いて彼女は立ち上がった。
 真っ直ぐ背筋を伸ばし、パーシ・ヴァルを見つめる。
「ならば、お受けいたします。でも、円卓の騎士を目指すだけでの意味ではありません。自分自身を見つめなおし、目標を定める為に、この試練に挑ませて頂きたいと願うのです」
 揺るぎの無い輝く瞳を見つめ、パーシは優しく微笑し、満足そうに頷いた。
「良かろう。良い日を決めて知らせる。体調を戻し、待つがいい」
「パーシ様!」
 去りかけたパーシをシルヴィアが呼び止める。
 彼は足を止める。その新緑の瞳に見つめられると声がでない。
 だが、勇気を出して彼女は告げた。
「私は‥‥負けません。絶対に‥‥」
 その様子に彼は小さく笑って振り向くと去っていった。

 それぞれの思い、それぞれの願い。
 言葉で尽くしても伝わらないことが剣で話すことで伝わる事もある。
 
 ‥‥シルヴィアは仲間に声をかけようと思った。
 ずっと届かないあの背中に少しでも追い付くために、あの背中をいつか、抱きしめる為に‥‥
 

 
 

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

レイア・アローネ(eb8106)/ トゥルエノ・ラシーロ(ec0246)/ クローディア・ラシーロ(ec0502

●リプレイ本文

○円卓の騎士を目指す者
 円卓の騎士。
 それはイギリスの騎士の最高位であり憧れでもある。
 騎士の多くが目指す高み。
 だがそこに至る者は何を思い、そして何を得るのだろうか‥‥。

『優れた剣士、騎士がいれば円卓の騎士に推挙する。但し、最低でも俺に勝てたら、だ』
 円卓の騎士パーシ・ヴァルはシルヴィア・クロスロード(eb3671)にそう告げた。
 だから、彼女は冒険者ギルドにその伝言を込めて依頼を出したのだ。
『円卓の騎士を目指す方と、集団戦闘の試験を手伝ってくれる方を求む』と‥‥。
 そして
「今回は、集まって下さりありがとうございます」
 集った冒険者達に、シルヴィアは心から感謝を込めて頭を下げた。
「礼はいらない。俺は俺自身の目的があって参加したんだからな」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)は小さく手を振って、手に持った槍を握り締めた。
「私も同じです。円卓の騎士の座。本気で狙うつもりです」
 リースフィア・エルスリード(eb2745)も微笑むが、逆に言えば円卓の騎士のテストに参加するのはこの三人だけ。
 残りはシルヴィアを助け、参加者を応援する為に来た、ということ。
「シルヴィたいちょ、召命に従いはせ参じましたわ」
 丁寧にお辞儀をするミシェル・コクトー(ec4318)。
「ま、何が出来るか解らんけど、隊長さんの為や。全力でお手伝いさせてもらうわ」
 と笑うジルベール・ダリエ(ec5609)らベイリーフ隊の仲間。
「大事な親友のお手伝いをさせて下さいませ」
「うちも、お役に立てるようがんばるからな」
 親友クリステル・シャルダン(eb3862)や藤村凪(eb3310)。
 見知った尾花満(ea5322)、フレイア・ヴォルフ(ea6557)夫婦や葉霧幻蔵(ea5683)だけではない。
「キャメロット出身、パリ査察官のセイル・ファースト(eb8642)よろしくな」
「セイルさん‥‥。貴方も来てくれたんですか?」
 少し驚いたような表情を見せるシルヴィアに、まあな。という表情でセイルは笑って頷いた。
「いろいろあって今はノルマン王に剣を捧ぐ身だがこの地の生まれ。アーサー王や円卓に対する畏敬は失った事は無い。だから‥‥見届けたく、そして試してみたいんだ」
「なにを、ですか?」
 とシルヴィアは問わなかった。
「解りました。よろしくお願いします」
 ともういちど頭を下げて仲間達と歩く。
 会場はパーシ・ヴァルの館。
 今までパーティや訓練で何度となくやってきた場所であるが、今日はどこか緊張を感じる。
 だが、一度だけ深呼吸をしてシルヴィアは足を踏み入れた。
「ようこそ。お待ちしていましたよ」
「あっ、貴方は‥‥」
 微かに目を瞬かせるシルヴィア。
 彼らを出迎えてくれたのはいつもの家令ではなかった。
 いや、正確に言うなら家令はいるのだが、もう一人シルヴィアの良く見知った人物が側に立って声をかけたのだ。
「ジーグネ様‥‥」
「久しぶりです。シルヴィアさん。元気そうで何よりです」
 とっさに膝をつき礼をとるシルヴィア。
「ジーグネって‥‥ひょっとしてパーシ卿の副官の?」
 七神蒼汰(ea7244)の問いにそうです、とシルヴィアは頷き、彼はシルヴィアに立つよう促すと冒険者達に頭を下げた。
「改めまして。パーシ様の副官をしておりますジーグネと申します。今回は皆さんの案内と明日の準備を仰せ付かってここに」
「どうぞ。皆様。お部屋は用意してございますので、まずはおくつろぎ下さい。それから、館をご自由に‥‥」 
 微笑んだジーグネと家令スタインの案内で冒険者は館の中を進む。
 その途中、小さな声でセイルは呟いた。
「あんた‥‥只者じゃないな」
「どうでしょう? さあ、どうぞ」
 本当に小さな声だったにも拘らずしっかり返った返答。そして落ち着いた態度。
 セイルは無意識にその手を強く握りこんでいた。

「じゃあ、作戦はこれで。明日はよろしくお願いします」
 広間での打ち合わせを終えて立ち上がったシルヴィアは、仲間達に強い目線で告げる。
「今回目指すのは完全勝利です。誰一人脱落することなく、勝利する。優しくないテストですが、皆さんとならできると信じています」
 冒険者達はそれぞれに頷き笑顔を交わす。
 その中でセイルは一人、何かを考えていたようだった。
「何を考えている?」
 ぽん、とレイア・アローネが彼の背中を叩くまで、彼の目線は虚空を彷徨う。
「いや‥‥ちょっとな」
 言葉と態度を濁してそう言った彼は立ち上がると、バックパックの中から一本の剣を取り出してシルヴィアに差し出した。
「シルヴィア。これを貸そう」
「これは‥‥気高き騎士の剣。ルシファーとの戦いの時の褒章ではありませんか?」
 微かな迷いを見せるシルヴィアに、セイルはそれを強く握らせた。
「この戦い、難しいものになるだろう。これが、少しでも助けになればいい。お前さんの事は認めてる。円卓の座、勝ち取ってみせてくれ。‥‥恋の方もな」
 託された思い。微かに頬を赤らめながらシルヴィアはそれをしっかりと受け止めた。
「ありがとうございます‥‥」
 ここに来る前にトゥルエノ・ラシーロやクローディア・ラシーロも応援し励ましてくれた。
 たくさんの仲間の応援を受けている。負けるわけにはいかないと、彼女は思いを新たにしていた。
 凪やフレイア達は地の利を確認し、セイルはレイアと手合わせをして己を高めている。
「負けません。絶対に‥‥」
 自分に確認するように告げるシルヴィア。
 それをジーグネは何も言わず笑顔で見つめていた。

 その日の夜は穏やかに更けた。
 晩餐は満が屋敷の調理人と一緒に腕を振るった料理が並ぶ。
「おいしい!」
「流石だね」
 溢れる喝采に彼は、自分が行く道の喜びを再確認したようだった。
「この国に来れて良かったと思う。大切な物も随分増えたしな」
「満‥‥」
 手に感じる暖かいミルクのぬくもりと共に彼は愛する妻と笑顔と杯をかわしたのだった。

○伝える為の戦い
 翌朝の天気は快晴。
「皆様、よく眠れましたか?」
 心配そうに問うクリステルに冒険者達はそれぞれ笑顔だ。
「ええ、クリステルさんのホットミルクもよく効きましたよ」
「罠や仕掛け等もありません。こちらも仕掛けませんでしたし、お約束どおりの真っ向勝負になりそうですね」
 体調も万全。気力も十分。
 全てを整えた冒険者達は、約束の場所、約束の刻限を待っていた。
 やがて、時間丁度。
「待たせたようだな」
 ‥‥円卓の騎士パーシ・ヴァルはやってきた。
 彼の部下達と共に。
「そちらは十二名と聞いている。だから、こちらも同数で来た。ルールも理解している。少し時間を貰うがそちらの用意はいいか?」
「いつでも」
 頷くシルヴィアに、パーシと騎士達もまた戦闘準備を整え始めた。
 武器を整え、布を巻く。この布を取られたら敗北だ。
 パーシの部下の殆どは剣と槍の騎士。
 ただ一人、弓の用意をしているものもいる。武器はそれぞれ魔法を帯びたものか銀のものだ。
 装備で言うなら冒険者の方が遥かに上だが
「シルヴィア、油断はするなよ」
 騎士達の準備を見ていたマナウスがそっと告げた。
「元々油断などするつもりはありませんが‥‥何故です?」
「今まで相手をしてきたのは新兵とかが多かったろ? だが、あいつらは違うぞ。見る限りパーシの部下の中でも腕利きだ。並みの冒険者よりも純粋な戦闘力なら上だろう」
 首に布を巻きながら冷静に正確にマナウスは分析する。
 この場合、並みの冒険者というのであればジルベールやミシェルクラスを意味する。凪くらいまでいけば互角に渡り合えそうだ。
 無論、ジルベール達が弱いわけでは決してない。
 だが近接戦での打ち合いになった時負ける可能性がある。ということだ。
 下手に近づけさせられない、という意味で警戒しなくてはならない。
「それから、副官だ。あいつは油断するな。『あの』パーシ卿の片腕なんだろ?」
 セイルの言葉にシルヴィアはハッとする。
 見れば選ばれた十一人の戦士の中に、彼は加わっている。
 ‥‥今の今まで彼と戦うなど考えたことさえなかったからシルヴィアはジーグネの実力をまったく知らなかった。
 確かに彼は『パーシ・ヴァル』の副官なのだ。
「ま、とりあえずはお手並み拝見、だな」
 微笑したセイルも布を身体に巻く。
「まあ、相手がどうあれ、基本は変わらないだろ。シルヴィア。命令を‥‥我はそなたの手足故」
 フレイアの問いかけにええ、とシルヴィアは頷いて顔を上げた。
「パーシ様を足止めし、部下の皆さんを各個撃破。最終的にパーシ様を全力で倒す」
 それしかない、と。
「集団戦の大事な所は仲間同士が補い合うことです。協力の大切さを表し、完全勝利を!」
 シルヴィアの言葉に冒険者達はそれぞれが改めて決意を固める。
「こちらの準備はできた。さあ、始めよう」
 ぶん、とパーシの槍が空を切る。
 開始の合図は家令スタイン。
 高く上がった手が振り下ろされる。
「始め!」
 円卓の騎士試験二日目、集団戦闘が開始された。

 元々、同数同士の対決であるなら戦いの分は冒険者の方にある。
 それぞれ騎士にはない得意分野を持つ仲間がいて、互いに補い合って戦えるからだ。
 逆に騎士達に有利があるとするなら、それは‥‥
「ちっ! 予想外だったな」
「ある意味予想通りではあるが‥‥」
「ほらほら、おしゃべりをしている暇があるのか!」
 鋭いスピード攻撃で点の攻撃を繰り出されたかと思うと、今度は横から薙ぎ払われる。
 横縦、前後左右。
 まさしく縦横無尽に動き回るパーシの槍の動きに、マナウスはある意味翻弄されていた。
 冒険者達の中の射手が一斉攻撃をしかけ、その間にパーシの元へマナウスとセイルが接近して二対一で追い詰める。
 それが作戦であり、実際パーシのところまで冒険者は簡単に到達することができた。
 本来であるならセイルが正面からパーシを攻めて、相手の余裕を奪う予定であったのだが、彼らには大きな誤算があった。
 パーシはこの集団戦、一人で戦ってはいなかったのだ。
「お相手仕る。ノルマンの査察官殿」
 銀の長剣でセイルの攻撃をジーグネは受け流し止める。
「情報収集は完璧ってことか?」
「いえいえ、貴方の実力や作戦までは把握しきれておりませんでしたから」
 笑顔さえ、見せるジーグネ。オーラの光は彼にもあるしセイルの攻撃は重く強い剛の刃。故に流されると威力は半減されてしまう。
 一人でも強いパーシ・ヴァル。だが背中を預ける者がいることで、その強さは倍以上になっている。
 相手はまだ余裕があるかのように
「左右に散開! 手薄な所を狙って各個撃破!」
「二対三でいい! 囲い込め!」
 部下達の様子を把握しながら交互に指示を与えている。
 しかも正味一対一で、実力は互角か相手が少し上かも、となれば冒険者も油断はしていられない。
「手加減なし、とはありがたいがだな。でも俺の首、取らせるわけにはいかない!」
 マナウスは槍を握り締めた。パーシにできることなら自分にも出来る筈。
 相手を見据えながらマナウスは次の次、相手がどう動くか、そしてそれに自分はどう対応すべきかを必死で考えていた。

「うわっとおお!!」
「ジルベール!」
 踏み込んできた騎士の一直線の突撃を、ジルベールはとっさに飛びのいてかわした。
「大丈夫かい?」
 駆け寄ろうとするフレイアに大丈夫だと笑った後
「組し易く見えたか‥‥あかんなあ?」 
 大きくため息をついた。
 戦いが開始して直ぐ、敵はパーシとジーグネ、二人を背後に一直線に並んでいたが、相手の矢の攻撃が始まった瞬間、
「散開!」
 左右から三手に分かれて、突撃を始めた。
 右手、左手。そして一直線の後方狙い。
 前衛左のリースフィアと蒼汰の二人に三人、前衛左のミシェルと満に三人。
 そして、彼らを足止めする間に踏み込む三人は、シルヴィア達の横をすり抜け、真っ直ぐに後衛を狙ってきたのだ。
 彼らは集中砲火をものともしないで突進に近い形で前に進んできた。
 クリステルの結界をスマッシュ三撃で打ち砕くと彼女を無視して射手たちを狙って走り寄る。
 最初に狙われたのはジルベールだ。
 ウルの弓の攻撃はいくつか彼らに当たっていて、確かにダメージを与えているはずだが、それさえも超えて彼らは突撃してくる。真っ直ぐに、揺ぎ無い信念で。
 既に目の前には二人の騎士。逃がすまいと剣を構える様子は確かに自分よりも格上で、逃亡の手が薄いことをジルベールは感じずにはいられなかった。
「矢の攻撃を読んで射手狙いで盾で阻んで一直線‥‥かい?」
 雷雲の指輪をちらりと見るが、今日は快晴。
 雲を作る準備をしていなければ、魔法は使えない。
 凪は一人の騎士と既に立ち会っていた。
 シルヴィア達は動かない。
 指揮官である彼女が下手に動けないのもあるが、パーシ達の後方、一人残った騎士が的確に矢を放ってくるからだ。
「くそっ! 隊長さんの為にもこんな早くに負けるわけにはいかないんや!」
 悔しげに吐き出すが仲間達も思わぬ騎士達の奇襲に対応で手一杯。
「ジルベールさん! こちらへ!」
 クリステルが声をあげ、援護にコアギュレイトの魔法を放つ。
 一人は動きを止めるがもう一人は魔法を振り切り、ジルベールの腕を掴んだ。
「わあっ!」
 切り裂かれた布が空に飛ぶ。それは敗北の印だった。
 直後、コアギュレイトで固められた相手の布も取られて数的には互角であるが、先制は相手側。
 冒険者達には小さくない衝撃が走ったのであった。

 二対一。もしくは三対二。
 騎士達は常に相手より多い人数で、冒険者側に攻撃をしかけてきていた。
 特に狙われたのは狙撃手と若い騎士。
 彼らは一直線に冒険者達を狙い、突撃してきていた。
 弓の攻撃は覚悟の上、盾で受けたり矢が刺さっても気にせず走りこんできたり。
「くっ!」
「フレイア!」
 満はジルベールを脱落させた騎士に攻め寄られるフレイアに心配な声を上げるが、今の彼にはそちらに気を寄せている暇は無かった。
「尾花さん!」
 ミシェルの助けを求めるような声に彼は、迷いを振り切り駆け寄った。 
「元より一対多の方が得意なのでな。そう簡単にはやられぬぞ」
 満はスマッシュの攻撃を放ってきた騎士に踏み込み、ポイントアタックで彼の腕を狙う。
 だが、それをさせまいと騎士の一人がソニックブームを放つ。
 とっさに避ける満。だが、隊形を崩したところを二人がまたさらなる攻撃を仕掛ける。
「させぬ!!」
 スタンアタックを乗せた蹴りが、止めを狙った騎士の腹にめり込む。
 その隙に腕の布を切り落とす。だが一人を囮にした攻撃。
 もう一人への一瞬対応が遅れて彼はポイントアタックによって左腕の布を奪われた。
「くっ!!」
 その頃、ミシェルは王宮騎士との一対一の戦闘に破れ、布を失っていて脱落者は三名を数える。
 凪を足止めた騎士はまだ互角の戦いを続けている。
 弓を捨てシークレットナイフで戦う凪。
 クリステルは幾度かコアギュレイトでの援護をしようとしてくれているが、彼らもまたオーラの力で自らを高め、弱い詠唱ではなかなかその動きを止めてはくれなかったのだ。
 乱戦になるとホーリーフィールドは効果を発揮しない。
 フレイアの方も弓を捨て日本刀「菊一文字」での斬り合いに入っていた。だが彼女は弓兵。
 近接戦闘になってしまうと明らかに不利だった。
 押されている様子が目に見えて
「許して、下さいね」
 クリステルは目を閉じると己の最高の力でコアギュレイトの術を発動した。
「くっ!!」
 凪とフレイアに対していた騎士、そしてミシェルと満を倒した騎士がその動きを止める。
 瞬間、今まで護衛に専念していた幻蔵が二人の騎士の布を風のように切り落とし、凪とフレイアもまた相手の布を落とした。
「‥‥なんだかちょっと悪いような気もするね」
 自嘲するような笑みで自分を倒すかもしれなかった騎士を見つめたフレイアは、直ぐに武器を取り直し、持ち場に戻る。
 まだ、戦闘は終ってはいないのだから。

 こちらに対しても騎士は二対三で襲ってきた。
 彼らの実力は決して低くはなく、蒼汰は本気での打ち合いを余儀なくされていた。
 ブラインドアタックをかわされた後の互いの技と技のとのぶつかり合いは
「くっ!」
 中衛からのシルヴィアのソニックブームが決め手となって蒼汰になんとか軍配が上がる。
 リースフィアの方は二人の攻撃を今はまだなんとかさばいている。
 負けはしないが動くこともできない。蒼汰はリースフィアの援護に向かおうと走りかけ、
「えっ?」
 そこに稲光を見た。
 金の閃光が、真っ直ぐにシルヴィアの方に走っていったのだ。

 パーシとジーグネ、マナウスとセイルの戦闘はある意味、一番戦闘らしい戦闘となっていた。
 パーシとマナウスはややパーシが優勢、セイルとジーグネはセイルの方が上。
 しかし、互いが互いを補い合い、どちらも互いの背中を守りあってどちらも止めを刺すことができずにいたのだ。
 そんな戦闘が長く続き、パーシは攻め込んだ部隊の様子を見て小さな笑みを浮かべてジーグネに呟いた。
「そろそろ、行くぞ‥‥」
「解りました」
「なんだって、言うんだ? 何か仕掛けてくるつもりなら、こっちからも行かせて貰うぞ!」
 マナウスが地面に穂先を向けようとした瞬間、
「えっ!?」
 二人は左右に身体を避けた。その背後には完全に戦闘に参加せず、射撃に専念していた騎士が一人、マナウスに向かってシューティングポイントアタックを放つ。と同時ジーグネもまた大きく動いた。
「狙いは‥‥首か!」
 穂先を下げていた分、一瞬対応が遅れたが、それでも彼は槍で首をガードする。
 だが、そこを
「あっ!」
 パーシのすれ違いざまの攻撃が襲う。マナウスの首元を槍がスッとすり抜けて、布がはらりと落ちた。
 彼はそのまま陣営に踏み込んでいく。
 追おうとしたセイルはバックアタックをしかけたジーグネを討ち取るが、パーシを止める事はできなかった。
 リースフィアと蒼汰の横を真っ直ぐに雷光のごとく、パーシは駆け抜け、冒険者陣営の中衛まで踏み込み、シルヴィアの眼前に立つ。
「あっ‥‥っ!」
 ソニックブームも間に合わず構えられたパーシの槍を託された剣で防御しようとしたその時。
 パーシとシルヴィアの間に矢が突き刺さる。一瞬の足止め、そして‥‥
「! 俺の‥‥負けだな」
 彼は動きを止め柔らかく笑い手を上げた。
 幻蔵の無言の攻撃が、パーシの右腕、その布を切っていたのだ。
「そこまで!」 
 戦闘の終了が宣言され、戦いは終った。
 だが、冒険者は勝利の喜びに酔う事はできずにいた。

○鋼の歌、未来の歌
 三日目も快晴。
 一月とは思えない暖かい天気の中、多くの冒険者達はその役割を追え、静かな時を過ごしていた。
 キン! キン!
 鋼の音が響くが、これもまた穏やかな時の歌声。
 キーン!!
 鋭い音と共に、刃が飛び
「ここまでですね。ありがとうございました」
 膝をついたセイルはパーシに頭を下げた。
 彼がパーシに願った手合わせは、槍と剣のリーチの差、そしてほんの僅かの実力差でパーシの勝利に終る。
「キャメロットで生まれパリにて剣を捧ぐ主を見つけた。その俺が今望むはイギリスとノルマンが今以上に手を結ぶ事のできる掛け橋となる事‥‥失望されずに済んだであろうか?」
「君にならできるだろう。今日は勝てたが、明日はそうであるとは思わない。‥‥期待している」
「ありがとうございます」
 互いに笑顔と手を交わしあった二人を見て、マナウスとリースフィア。二人は顔を見合わせ立ち上がった。
 その気配に振り向く彼に騎士の礼をとって願う。
「パーシ卿‥‥、どうか手合わせを」
「私も円卓を目指します。ですから‥‥」
「良かろう‥‥」
 彼の返事はそれだけだった。二人の挑戦者を驚く事無く迎え入れる。
 先にマナウス。次にリースフィアが彼に挑んでいく。
「昨日の借りを返させて貰いましょうか!」
 マナウスは躊躇いなく、槍を構え
「そろそろ貴方から一本とりたいと思っていたのです」
 リースフィアは己の全ての技を見せると誓い彼に切りかかった。
 常に先の先を読む変幻自在の槍の動き。
 だがマナウスはそのさらに先を狙って、立ち位置、攻撃に隙を探す。
 リースフィアは教本どおりの完璧な剣筋を見せたかと思うと、足払いや格闘技で冒険者としての戦いを表す。 パーシ・ヴァルはその全てを、戦いながら新緑の瞳で見据えているようだった。

「俺は!」
 マナウスは声を上げる。こうして戦っていてもパーシの腕にはまだ届かないと解っている。
 だが心で負けない為、気圧されない為に彼は自らを言葉で奮い立たせていた。
「俺には夢がある。誰もが笑って隣人でいられる場所、そういう場所を作りたい。多くの種の子供が戯れられるような場所を。エルフも、ハーフエルフも‥‥勿論人も、皆だ!」
 まだ世は人間の世界。偏見もある。
 イギリスにはエルフの貴族はいても円卓の騎士はいない。だがもし、自分がそれに成れたら少しずつでもこの国を、世界を変えていけるかもしれないと、彼は思っていた。
 ジルベールが言っていたことがある。
『冒険者が円卓に就いてくれればいつか種族や宗教が違ってもお互い尊重し合えるような国にしてくれるんやないかって思ってな』
 それは、遠い、でも叶えたい彼の夢でもある。
 その為に、今、どんなに傷ついても膝をついても、彼は立ちあがる。決して諦めるつもりはなかった。
「只の理想だと笑わば笑え、でも俺の子供達にはそんな世界で生きてほしい。その為に傷つき汚れ続けるなら本望だ、その先に子の笑顔があるのなら! 俺はその為になら全てを賭けられる!」
 それは渾身の攻撃に乗せた彼の思いであった。

 リースフィアは言葉を紡がない。
 ただ剣でのみ語り、全てを戦いに乗せる。
 腕は互角、だが経験でまだ彼には多分及ばない。
 十本戦い一本取れればいい方だろう。
(「ならばこの戦いにその一本を持ってくるまで!」)
 鋼の打ち合う音が、全てを語る。
 パーシが大きく身構えた。
 彼もまた彼女に槍で問うのだろう。
「はあああっ!!」
 彼の全てを乗せた突きをリースフィアは受け止め、そして全てで返したのだった。

 二つの戦いを終え、彼は挑戦者達に静かに、微笑んで告げた。
「お前達の、勝ちだ」
 と。

○新たなる道
 そして最終日。
 冒険者達はパーシが用意した酒や飲み物を手に取り、満が用意した食事を前に笑顔を向けていた。
「乾杯!」
 五日間、ある種の合宿のように過ごした日々の終わり。
 パーシが用意した宴席で、彼らはその疲れを癒そうとしていた。
「隊長さん、あんまり役にたてんでごめんな?」
 ジルベールの言葉にシルヴィアはいいえ、と首を振る。
「皆さんがいたからこそ、なんとか合格できたんです。ありがとうございます」
「なあ、隊長さん。みんな隊長さんの心意気に惚れてついてきたんや。目指すものを掴んで欲しい。円卓の座も、好きな人の心も。だから、頑張ってえな?」
 ジルベールの励ましにシルヴィアは笑顔で頷く。
「いや、ジーグネ殿の講義、すごく勉強になってさあ。流石パーシ卿の副官だね」
 蒼汰は楽しげに仲間達に話す。円卓の騎士の補佐役同士いろいろと弾む話もあったようだ。
「なあ? 蒼汰はんや満はんも騎士やろ? フレイアさんは騎士やないけど十分強い」
 カップをいじりながら凪が尋ねる。
「円卓の騎士、目指さんでよかったの?」
 蒼汰と満の動きが止まる。一瞬の間の後二人はそれぞれに
「「いいんだ」」
 そう答えた。
「俺はあの人の側で、あの人を支えていくとこの刀に誓った身だからな。円卓の騎士候補生‥‥僅かに心は揺れるけど、今はまだいい」
 まだ実力も足りないし、と蒼汰は笑う。最終日、パーシどころかジーグネにも手合わせでコテンパンにのされていたから。得るものは確かにあった。今は、それでいい。
「必殺のブラインドアタックはかわされると後が弱い。もっと自分に磨きをかけないと、大事な者も守れないからな‥‥」
 決意を固めるように言う蒼汰と同じ顔で、満も頷く。
 彼の手には自身で作った料理がある。
「拙者は円卓の騎士になれるような貫目ではないからな。拙者が守りたいのは自分と自分に連なるごく一部の幸せだ。それ以上、国のすべてを背負えるほど器用ではない」
 それに、と愛妻を見ながら彼は続ける。
「騎士ならまだしも、円卓にまで上がってしまえば、おちおち料理などしている暇も無くなりそうである。フレイアとのんびり狩りに出かけるなどと言うのも難しくなりそうだし」
 彼にとって妻が一番大事。言外の言葉に凪はごちそうさま、と笑っていた。
「桜根湯はいかがですか?」
 湯気の立つカップを運んできたミシェルはちなみに同じ問いに、まだ未熟だからと共にこう答えた。
「ケイ卿がどうして英国の執事なのか分かる気がするわ。私と同じで、戦場以外の事も考えてしまうんだと思うの。他の人にどうすればベストを尽くしてもらえるかも。そう考えると、私が目指すのは女ケイなのかも」
 彼女は見習いが外れ、正式に王宮騎士の称号を得た。
 自分自身を高めていけばいずれ、もっと上に上ることもできるだろう。
 三人の合格者と共に。
「あたしは国を護りたい、という大きな願いはない。でもキャメロットを護りたいと思うし、大切な人たちを護りたい、関わった人たちを護りたいとは思う。
 だから円卓候補生の手伝いに来たんだ。彼らを通じて、架け橋となれるように。ま、ただの猟師が候補生ってのはおかしいしね。思いは同じでも、進む道っていくつもあると思うんだ。シルヴィアや、マナウスなら道を迷っても…後ろからどーんとなにしてるんだーーって言えるだろ? だから、あの子達が合格できて本当に良かったと思うよ。‥‥みんなと出会えて幸せだよ」
 フレイアは軽く言い、軽く笑うが、そこには深い思いと願いがあった。
 それが解るから満は彼女を抱きしめる。強く‥‥優しく。
「あら、そう言えば隊長さんは?」
「パーシ様も、いませんね?」
 周りを見て探そうとする者達を、フレイアとクリステルは、そっと押し止めた。
「今は、二人にしておいておやりよ」
「彼女ならきっと大丈夫ですから」
 と。

「パーシ様‥‥、ワザと布を切らせて下さったのではありませんか?」
 シルヴィアは一人、夜の庭、賑わいの輪から離れてエールを握るパーシ・ヴァルにそう尋ねた。
 ずっと、気になっていたことだった。
「考えすぎだ。部下は既に全滅に近い状況だった。だから、あの場合は直接俺が指揮官を討つしかないとそう判断したまで、伏兵の存在を忘れていたのは俺のミスだな」
「ですが‥‥こちらはクリステルさんの魔法がなければ勝利は難しかったですし、狙っていた完全勝利もできませんでした。一人ひとりの実力や武器の性能、汎用性の高さはもこちらの方が上でしたのに‥‥」
「どんな相手であろうと侮らないことだ。自分ができることは相手もできるかもしれない。それは忘れてはならない」
「はい」
 結果は勝利であった。
 だが責務を果たすこと、そして皆を無事に連れ帰ること。
 自らに課した『目指すもの』に今回届かなかった。
 悔しげなシルヴィアにパーシは静かに告げる。
「‥‥どんな戦でも犠牲は必ず出る。そして戦を指揮するものは時に犠牲を最小限にする為に味方に死を命じさせなければならない時もある。だから、指揮官は常にその犠牲を受け入れ無駄にせず、勝利を導く。そんな覚悟も必要だ。
 全てを救う事はできない。全ての人物を満足させることもできない。永遠に勝ち続けることもできない。
 どんなに強くあろうとしても人は無力な存在だ。万能にはなりえない。それでも高みを目指さなければならない。
 ‥‥円卓の騎士となりその身を捧げるなら、それも心得ておくことだ」
 この戦いはそれを冒険者に告げる為のものであったとシルヴィアは知った。
 パーシの部下達は、パーシの思いを受けて己が傷つこうと自らの死が近かろうと指示に従い敵に踏み込んでいった。自らの意思があってもそれを殺して自らに与えられた役割を果たそうとした。
 パーシもまた王の命令があればそれに従い死地に平然と向かう‥‥。
 それが騎士の役割。だが‥‥
「ですが!」
 シルヴィアは声を上げた。
「私には‥‥託された多くの想いがあります。確かに全てを救う事は夢物語かもしれません。
それでも私は諦めません。皆さんが私に与えて下さったように私も皆さんの助けとなりたい。笑顔と幸福を守りたい。
 円卓を、人々を救う希望の光になることを私は望みます!」
 それは魂の叫びであり、思いであった。
 彼女の思いをパーシはどう聞き、何を思ったかは立ち去った彼が無言であったゆえ解らない。
 その背中は今もなお遠い。
 ただ、彼が振り返りざま見せた彼の笑みはこの上なく優しかった。

 終宴の時、パーシは改めて冒険者達にシルヴィア、マナウス、リースフィアの三人を円卓の騎士候補として王に推挙すると告げた。
 最終的な決定や任命は王がするだろうが、おそらく実績からしても反対される事はないだろうと。
「俺は、暫くキャメロットを離れることになる。皆、こいつらを助け、導いてやってくれ」
 あまりにもさりげなく告げられた言葉があまりにも自然だったので、一瞬冒険者は驚くのを忘れた。
 ざわめく冒険者。
「キャメロットを‥‥離れる? それは‥‥どういう意味で‥‥」
 どこか震えるシルヴィアの問いにパーシは真っ直ぐな瞳で答えた。
「俺は旅に出る。トリスタンの心臓を取り戻す為に‥‥」
 と。