【祝宴】戦いの後に‥‥

■イベントシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:20人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月20日〜01月20日

リプレイ公開日:2010年01月28日

●オープニング

 それは出陣前、王自ら騎士達に授けられた言葉であった。
「先の戦いも含め、おまえ達、そして冒険者達には世話をかける。無事に王妃と鞘を取り戻したらその労苦にしかと報いよう」
「では‥‥」
 先頭で膝を折るパーシ・ヴァルは顔を上げる。
「無事に戻ること叶いましたら、その時、ぜひ冒険者達にも苦労を労い感謝を伝える場を頂けませんでしょうか」
 王はその眼差しに優しく微笑み、必ず。と頷いた。
「ケイ。後の事は任せた。我らの留守を頼むぞ」
 背後に控える腹心の執事にそう告げるとイギリスの王、アーサーはマントを翻した。
 王の出陣。
 騎士達の多くがその後に続き、留守を守る騎士達はその後を見送る。
 敬意と信頼の眼差しで‥‥。

「ご無事のご帰還をお待ちしています」

 騎士達の旅立ちを見送って間もなく。
「ぼんやりしている暇など、我々にはありませんよ。王が不在の今こそ我らの役割を果たす時です」
 円卓の騎士ケイ・エクターソンは残った騎士達や使用人達に指示を与え始めた。
 城下の見回り、王宮の警備、そして‥‥
「パーティの準備、でございますか?」
 思わぬ仕事に驚きの眼差しを浮かべる騎士や使用人達に、
「当然でしょう」
 そんな眼差しでケイはため息を吐き出した。
「先ほどの話を聞いていなかったのですか? 王はお戻りになられたら冒険者や騎士の労苦に報いる場を作られるとおっしゃられた。その準備を整えるのです」
「ですが‥‥」
 部下の一人がある意味、勇気のある言葉を問いかける。
「まだ出陣されたばかりだというのに‥‥、よろしいのですか?」
 ケイに反論すると言う偉業を成し遂げた騎士は、
「出陣された、それだけで十分です。あなたもこの城の騎士であるのならば、自分の頭で考えなさい」
 当然のようにケイの言葉の剣に叩かれる。
「我らが王が出陣されて、目的を果たさず戻ることがあると思っているのですか? 王は必ず勝利される。我々は信じて、用意をして待っていれば良いのです」
 解ったら早く仕事に戻りなさい、と騎士達に改めて指示を出して後、ケイもまた動き始める。
 王の留守を守りながら祝宴の準備を整える。
 やるべき事は山積み。
 人手はいくらあっても足りないのだから。
 忙しく歩くケイはその足を、ぴたり、ある場所で止めた。
 覚えのある気配がした。感じるのは惑い、後悔、そして躊躇い‥‥。
「モル!」
「は、はい!!」
 柱の影で様子を伺うように向こうを見ていたモードレッド・コーンウォールは条件反射で背筋を伸ばした。
 身体の隅々まで染みこんでいる怖くも懐かしい声に‥‥、動いた身体に自分でも驚きながら。
「何をしているのです、あなたも早く手伝いなさい。今は猫の手も借りたいのです。ぼんやりとしている暇などありませんよ」
「は、はい! 先生」
「冒険者ギルドに遣いを、それから‥‥」
 戦いに向かった者達とは違う、残された者の信じて待つ、という戦いが今、始まろうとしていた。


 深夜、月のみが見守る夜。
 誰もいない中庭で、待っていた槍を持つ騎士はやってきた剣を帯びた黒い鎧の騎士に礼をとった。
「お久しく。ラーンス卿。お帰りを待ち望んでいた」
「パーシ卿。今の私は名も無い騎士に過ぎない。その名はもう‥‥」
 顔を背ける騎士。だが槍の騎士は、騎士に向け己の槍を突きつけた。
「いや。例え名を捨てようと貴方はラーンス・ロットだ。円卓第一の騎士でありながら我々を裏切った罪人よ」
「パーシ‥‥卿」
「王の許可は得た。ここで俺は貴方に決闘を申し込む。ラーンス・ロット!」
 真っすぐに騎士を見つめる眼差しに彼は兜を外した。現れた騎士は求められるまま剣を握る。
「貴公にはそれを為す権利がある‥‥。ならば受けよう。パーシ卿!」
 剣の騎士と槍の騎士。
 二人の戦いは合図の音も無く始まった。
 闇の中、鋼の音が甲高く響き、刃の煌きが火花のごとく散る。
 渾身の力を込めた一撃が放たれたかと思えば、フェイントで相手を誘う。
 間合いをつめてのつばぜり合いがあった次の瞬間、飛びのき間合いを探る。
 人が極める剣と槍の技。その頂点に近いところにいる二人の戦いは長く、長く続いた。
 二人の技量は互角、いや、剣の騎士の方が上であったかもしれない。
 だが戦いの趨勢は徐々に槍の騎士へと傾き始めたように見えた。
 その理由は何か。
 あえて言うなら武器を振るう理由。戦いに乗せる『思い』の差であろうか。
「全てに恵まれた騎士よ。お前はたった一人の女の為に全てを投げ出した。‥‥それそのものを責めるつもりは無い。だが! その為におきなくてもいい戦いがおき、傷つかなくていいものが傷つき、死ななくてもいい者が死んだ。忘れるな。それは、間違いなくお前の罪だ!」
 雷と言われる速さに怒りを乗せた打突が剣の騎士の肩口に刺さる。払い上げた剣が槍を天に向けるが回転した穂先は槍の騎士の思いと共に剣の騎士を逃がすまいと追い詰める。
「ウィル、ロジャー、クレオ‥‥沢山の部下が死んだ、多くの騎士も、そうでない者達も。もし、お前が立場を忘れ去らなければ、勝手なことをしなければもしかしたら彼らは死ななくても良かったかもしれない。リヴァイアサン、バロール、アスタロト、クロウ・クルワッハ。もしお前がいれば奴らとの戦いで死ぬ者を減らすことができたかもしれない! そして‥‥彼の命も!」
 剣の騎士の手が微かに震えた。彼の心のように。
 槍の騎士は渾身の一撃を振り下ろす。魂の叫びと共に。
「‥‥忘れることは許さない。お前は許された。だが、その上に多くの者達の血と悲鳴があるのだということを、忘れる事は絶対に許さない!!」
 キーン、高い音と共に武器が一つ空に飛んだ。
 地面に突き刺さったそれは、剣か槍か。闇に紛れ解らない。
「‥‥貴方には関係ないことだろう。ネームレス卿。‥‥だが、これから後も騎士として生きていくつもりなら忘れないで欲しい。『責任』その意味を。自分の身勝手が引き起こす結果を支払うのが自分だけではないのだと‥‥忘れないで欲しい」
 それだけ言うと槍の騎士は深く礼を捧げ自らの武器と共に去っていく。
 残された騎士の言葉も、それを見つめる者の言葉を待つこともせず。
 それは【最終決戦】前夜。月とたった一人と二人以外知る者のない決闘であった。


 月を仰ぎ彼は、微笑む。
 決戦が終ったならば、と。
 冒険者と酒を飲もう、一緒に笑い、語ろう。
 そして、別れを告げよう。
 それはほんの一時の事であるけれども、彼を信じる者達を裏切る事になるかもしれないと彼はよく解っていた。自らがさっきネームレスに告げた『責任』を捨てるのかと思われるかもしれないとも。
 しかし、彼の決意は揺るがず胸の中にある。
 彼は、彼の信じる道を貫こうと決めていた。

 時は、もう直ぐそこまで迫っている‥‥。


 

●今回の参加者

ルシフェル・クライム(ea0673)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ キット・ファゼータ(ea2307)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ エリンティア・フューゲル(ea3868)/ リ・ル(ea3888)/ 閃我 絶狼(ea3991)/ 尾花 満(ea5322)/ アルテス・リアレイ(ea5898)/ フレイア・ヴォルフ(ea6557)/ 七神 蒼汰(ea7244)/ リースフィア・エルスリード(eb2745)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ アレーナ・オレアリス(eb3532)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ 鳳 令明(eb3759)/ クリステル・シャルダン(eb3862)/ 宿奈 芳純(eb5475)/ アンドリー・フィルス(ec0129)/ シリル・ロルカ(ec0177

●リプレイ本文

○祝宴のはじまり
 そのパーティの準備は最終決戦と呼ばれる戦いの前には、すでに始まっていた。
 イギリスの執事、サーケイの完璧な手配とモードレッドのお手伝いによって整えられた祝宴の準備を見て、王妃を救い、無事王宮に戻ってきた王は嬉しそうに微笑んだという。
 そして冒険者ギルドに王宮への招待状が届く。
 いくつもの試練を乗り越え、王国を守った冒険者に対するそれは感謝と慰労の宴であった。
 それぞれがそれぞれの思いを抱いて王宮に向かう。
 幾人か、王宮に向かわぬ者もいたけれど‥‥宴はもうじき始まろうとしていた。

 アーサー王の言葉と杯により祝宴は始まり、人々は楽しげに笑いさざめいていた。
「しかし〜、今回の主役の一人とも言えるパーシ様は今日も裏方ですかぁ〜」
 飲み物を手にとって笑うエリンティア・フューゲル(ea3868)の横でそうですわね。とクリステル・シャルダン(eb3862)は微笑んだ。
 正装こそしているが忙しそうに部下に警備の指示を与える姿は、人ごみに紛れとてもリヴァイアサン、クロウ・クルワッハを倒した英雄とは思えない。
「まあ、あの方らしいと言えばあの方らしいです。それに、暫くあのお姿も見納めですから、じっと見ているのも悪くはないと思いますよ」
 彼の背中を愛しげに見つめ、微笑むシルヴィア・クロスロード(eb3671)に側でシリル・ロルカ(ec0177)は黙って竪琴の音を合わせる。
 シルヴィアを見つめながら‥‥。
「ふむ‥‥忙しそうだな。出発前の暴言を‥‥謝りたかったのだが‥‥」
 オルステッド・ブライオン(ea2449)の呟きを耳にしたシルヴィアはふと目を見開き微笑んだ。
「パーシ様はそんなことを気にされる方ではないと思いますよ」
 絶対の信頼。小さく笑ってそうだな、とオルステッドは頷くとありがとうと礼を言った。
 彼の手の飲み物のカップは殆ど開いてはいない。
「ふはははははは! 大勝利の後は祝宴なのだ! しかも今回は色々と大規模ゆえ、ホール内複数エリアをはしごなのだ〜次なるは3件目! まだだ、まだ終わらんのだ!」
 既に完全に出来上がっているヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)とは正反対だ。
「陰陽師の宿奈芳純(eb5475)です。また皆様とお会いできる機会があり感謝致します」
 精霊達を伴ってやってきた芳純は丁寧にお辞儀をし
「せっかくですもの。思いっきり楽しみましょう」
 フィーネ・オレアリス(eb3529)はアレーナ・オレアリス(eb3532)の手を引いた。
「イギリスの決戦の祝勝会でしょう? 参加してもいいのかしら」
 僅かに遠慮気味であったアレーネであるが美しい装いのフィーネを見て、そうね。と微笑んだ。
 せっかくのパーティ。悩んでいるのはもったいない。
「じゃあ、エスコートいたしましょう。フィーネ」
 優雅に手を伸ばした先で、フィーネは纏ったドレスよりも美しく微笑んでいた。
 その頃、別方向では
「私‥‥こんな華々しい場所に、来ていいのかしら‥‥」
 さっきのアレーナと同じように躊躇い気味のヘンルーダ・ロールの手を
「大丈夫!」
 七神蒼汰(ea7244)は強く握ってエスコートしていた。
「ん‥‥ありがとう。蒼汰」
 彼女は小さく頷いて蒼汰の胸に頭を軽く寄せる。まるで、存在を確かめるように‥‥。
『やぁヘンルーダ‥‥ただいま』
『‥‥蒼汰!!』
 彼女が泣きじゃくって彼を迎えたのはほんの数日前の事。そして今、彼女と自分は共にいる。
(「戻ってこれて良かった‥‥」)
 それが彼には本当に幸せに思えた。
「おりょうりいっぱい。おさけもいっぱい。すごいにょ〜。さすがはアーサー王の祝宴にゃのじゃ〜」
「うわー! かっわいい!!」
 鳳令明(eb3759)は後ろや周囲から上がった声に小首をかしげ振り向いた。
「キャアア!」
 彼の動きを見て女性陣が黄色い声を上げているのだ。
 ちなみにホワイトハットを被った身長50センチのぬいぐるみがふよふよと空を飛んでいる様子を想像すると現状の把握が可能である。
 可愛いもの好きの女性達は彼を取り巻き嬉しそうである。
 その中でピンクのドレスの少女が一際楽しそうな声を上げてやってくる。
「ヴィアンカ! ベルも‥‥」
 やってきた二人の少女にリースフィア・エルスリード(eb2745)は小さく瞬きした。
 金と銀の二人はなかなかに目を引く。
「ほら、見てみて。ベル。キアラ。犬さんだよ〜。だいじょーぶ。キアラを食べたりしないから」
 どこか警戒しているようなペンギンを手招きしながら帽子を取ってお辞儀をする令明をヴィアンカはもふっと思いっきり抱きしめた。
「だってこんなにかわいんだもん! わー。きもちいい!!」
「う、うれしいにょ。で、でもくるしいにょ〜。ちょっとゆるめてにょ〜〜」
 じたばたジタバタ。
「ハハハハハ‥‥」
 楽しそうな笑い声が溢れる。パーティ前の一時。
 だがそれは
「アーサー王、おなりでございます」
 会場は一瞬、水を打ったように静まった。
 聞こえるのは響く靴音と流れる絹の音。
 そして現れた王と王妃は中央に立ち、集う者達に笑いかけた。
「この場でまたこうして皆と集えた事を嬉しく思う」
 暖かく力強い声が、会場に広がる。
 警備の騎士達は膝をつき、人々は緊張し沈黙する。
 だがそれは一瞬の事。
「邪竜との戦い、そしてグィネヴィアと鞘の奪還‥‥どれも諸君らの力があってこそだ。此度の宴はそれを労うものであり、また勝利の祝いの場でもある。戦果や身分は気にすることなく存分に楽しんでいってほしい」
 王の声でパーティは改めて開幕し、ぶつかり合う杯の音と笑顔が会場に広がっていった。
  
  
○祝宴の中で‥‥
 祝宴の最初にアーサー王からクロウ・クルワッハ討伐に参加した者達に勲章が授けられた。
 さらに三人の円卓の騎士候補が加わったことと、円卓の騎士パーシ・ヴァルがトリスタンの心臓を捜しに行くことが告げられその後は文字通りの無礼講となった。
 たくさんの料理と酒に人々の笑顔の花が咲く‥‥。
 
 〜♪〜〜♪〜〜
 美しい音楽と楽しい会話の前には人々の笑顔と輪が出来る。
 アルテス・リアレイ(ea5898)が奏でる音楽横笛は優しい音色で人々の心に暖かいぬくもりを与えていた。
 そしてシリルがクロウとの戦いを音楽に合わせてシルヴィアの誉れを歌い、観客の心を冒険へと誘う。
「貴方の悩みは小さいものではありません。でも、大丈夫。貴方の側にはそれを支えてくれる人がいる筈です」
 芳純の占いカウンセリングにはいつしか人々の輪ができたし、他の冒険者達も冒険譚を聞かせてくれと人々に囲まれる。
「シリルさん、もうちょっと控えめにお願いします‥‥」
 照れるシルヴィアにそれを見つめるクリステルや仲間達。
 ローランドは来なかったがベルとヴィアンカは仲間達に囲まれ楽しそうである。
 人々の幸せな笑顔。それを嬉しそうに見つめながら
「こんな風景も暫く見納めですかねぇ」
 エリンティアは小さく呟いた。
 ヴィアンカは近いうちケンブリッジに向かい、パーシは旅に出るという。
 二人がいなくなることに加え旅立つもの、新たな道に進むものもいる。
 こう言ったパーティで冒険者仲間達と過ごすのはこれから暫く無いかもしれない。
「僕も〜、すこしのんびりしますかねえ〜」
 彼には気に入っている土地があった。遺跡に囲まれた静かな土地。
「まあ、どっちにしてもやるべきことが終ってからですよねえ〜」 
 エリンティアは目を閉じる。
 クロウは倒され、エクスカリバーや王妃、鞘は取り戻せた。
 でも、まだやるべきこと、なすべき事は残っていると彼は解っていた。
 きっと仲間達も解っているだろう。
 だからこそ、今、この時を楽しむのだ。
 小さく笑って彼は杯を飲み干した。

 宴会も冒険者らの出し物で賑わいを見せ始めてきた頃
「ほお〜」
 ある場所から歓声にも似た声が上がっている。
 新しい客に人々の目が集中していたのだ。
「あれが‥‥噂に聞くサー・ケイの奥方‥‥」
 皆ざわめく。それも無理はあるまい。
 ケイがエスコートする女性はとても若く、可愛らしい少女であったからだ。
「あの方が‥‥サー・ケイの奥方?」
 冒険者達がぼんやりとするなか 
「いや、お似合いだろう?」
 後ろからパーシが声をかけてくる。
「パーシ様は知っておられたのですか?」
 問いかけるシルヴィアにパーシは、まあな。と言いながら肩を揺らしている。
「本当に‥‥あのレディは‥‥人を見る目があるというか‥‥サー・ケイもまた‥‥」
 顔も背けているが、あれはどう見ても笑いをこらえているか、もう笑っている。
「何がおかしいのです? 私が妻を伴っている事が何か変であるとでも?」
「いいえ‥‥」
 パーシはそう言うとふっと表情を変えた。
 それは笑い顔とは違う優しい笑みと、この上もなく真面目な騎士の顔。
「サー・ケイ。 もうご存知の通り、私‥‥いえ、俺はトリスタンの心臓を取り戻す為に旅に出ます」
 パーシはケイを見つめ静かに礼を取る。
 だがケイは顔を背けてパーシと目を合そうとはしなかった。
 冒険者はその光景を見つめている。
 ‥‥思えばケイとパーシの確執は有名であった。
 ケイはパーシを田舎者と蔑み、その毒舌で責め立て、パーシは彼を口先だけの人物と嫌悪する。
 そんな関係が長く長く続いたという。
 考えてみれば身元も解らぬ田舎者で正式な騎士の修行もしていなかった若者がいきなり王宮騎士を飛び越え円卓の騎士に迎えられたのだ。
 アーサー王の側に最も近いケイが不審の目で見るのも、田舎者と蔑むのも全ては不審な者、危険な者から王を守る為であれば仕方がないと解らないでもない。
 考えるより動くタイプのパーシが、自ら身体を動かそうとせず、口先だけで人を動かすケイを嫌うのも理解できた。
 しかし共に頑固で意思が強い。
 二人の関係は修復できるものではないと、誰もが思っていたその時。
「部下には指示をしてありますがどうか王宮騎士、いえ円卓の騎士としての役割を一時とは捨てて行くことをどうかお許し下さい。そして‥‥後をお願いいたします」
 だが、パーシはケイにそう言って頭を下げ
「サー・パーシ・・・・私とあなたは宿敵でした。今でも私はあなたのことを認めたわけではありません」
 ケイは、細面をあさっての方向に向けたまま、冷たい声で告げる。
「ですが・・・・トリスタンは私の親友でした。彼の心臓を取り返すことは私の悲願でもあります。しかし私の役目は国王の側にお仕えし、この王国を護ること。たとえ何があっても、私が王城を離れることはあり得ません」
 そう言ってケイは、目を閉じて小さくため息をついた後、何かを決意したかのように目を開き、真っ直ぐにパーシ・ヴァルの瞳を見据えた。
「不本意ながら、あなたにはこう告げねばならないでしょう。・・・・トリスタンのことを、よろしく頼みます」
「サー・ケイ‥‥」
 パーシは目を見開く。初めてのような気がした。
 彼とこれほどしっかり目線を合わせたのは‥‥。
 彼の驚きに気付いたのだろうか? ケイは、パーシに向けてニヤリと笑ってみせる。
「キャメロットについては、あなたに言われるまでもありません。この私が守り通してみせましょう!」
 その笑みにパーシもまた心からの笑顔で返した。
「貴方にそう言って貰えるとは‥‥。これで心残りはありません。必ずトリスタンの心臓を奪い返して戻ってきます」
 ひょっとしたらケンカになるのでは。
 そう心配した二人の円卓の騎士候補はホッと胸を撫で下ろし、初めて笑いあう二人を見守ったのだった。

 警備に戻ろうとするパーシを
「ちょっと待ってもらえますか?」
 蒼汰は引き止めた。
「なんだ?」
 問いかけるパーシに彼はモル、モードレッドはどこか知らないか?
 と問うたのだ。
「ああ‥‥彼ならこっちだ」
 微かに声を潜めた様子の彼に蒼汰は静かについていき‥‥そこで不思議な変装をしたモードレッドを見たのであった。
「モル? 何をしてるんだ?」
 蒼汰に声をかけられモルは微かに慌てた様子を見せ、それから息をつくとそっと彼に近づいていった。
「僕は、もう騎士じゃないからな。この祝勝会も手伝いはさせて貰ったが本当なら‥‥」
 寂しそうに言いかけたモードレッドの手を蒼汰は黙って握りしめる。
「モルがモルである限り、お前は俺の友人で可愛い弟分だよ‥‥おかえり」
 暖かいぬくもりと心からの言葉。
 それにモードレッドが何を思ったかは解らない。
 ただ、彼は答えた。微笑んで
「‥‥ただいま」
 と。

 彼らを見つめるパーシの視線に気付いたのだろうか?
 モードレッドは蒼汰との会話を終えるとパーシの方につかつかと歩み寄ってきた。
 そして
「パーシ!」
 真っ直ぐに声をかける。
 剣を帯びていないだけ。以前と何も変わっていないモードレッドらしい姿である。
「お前、トリスタンの心臓を捜す旅に出るそうだな!」
「ああ」
 柔らかく頷くパーシにモードレッドはビシッと指を指す。
「お前の事だから心配ないと思うが、いざとなったら冒険者を束ねて加勢に行ってやる」
 騎士ではなくなったモードレッドの彼なりのエール。
「ありがとう。期待している‥‥」
 パーシはそれを笑顔で受け取り、少し照れた感じでモードレッドはパーシを見つめた。
「だから‥‥トリスの事を頼んだぞ。アイツも僕にとって大事な兄貴分だからな」
『アイツも‥‥』
 その言葉の意味を抱きしめて、パーシはポンと肩を叩いた。
「大事にしてやれ。‥‥大切な人をな」
「ば、馬鹿! お前の方こそちゃんとしたらどうなんだ!」
 互いの会話にどちらがどれほど赤くなったかは見ていた者以外、知る由もない。

 そして宴会も半ばを過ぎた頃
「三人とも、少し来てくれ」
 パーシに呼び出されたのは三人の円卓の騎士候補達。
 彼らはパーシに促され、ある部屋に入った。
 そこには一人の人物が彼らを待っていた。
 その家を見た瞬間三人はとっさに膝を折り、頭を下げる。
「アーサー王陛下」
「イギリスの未来を担う円卓の騎士候補生達よ‥‥」
 パーシすらも退室した部屋で彼らに王がどんな言葉を与えたのかは、それぞれ以外知る術はない。
 ただ、三人が部屋から出てきた時、それぞれは円卓の騎士候補としての証を持ち、誇り高く真っ直ぐに顔を上げていたのだけは確かなことである。 

「よーし、満。これでひと段落だよ〜」
 メイドドレスを身に纏ったフレイア・ヴォルフ(ea6557)は空になった盆を運びながら厨房にそう声をかけた。
「見事にほぼ完売。お疲れ様だね」
「それは良かった。少しでも喜んで貰えたのならこれ以上の喜びはない」
 調理着を脱いだ尾花満(ea5322)は確かに空になった皿を見て幸せそうな笑顔を浮かべる。
「拙者はやはり人々に美味しいと言って貰うのが幸せであるな」
 そして空になった皿を見るのと同じ、いやそれ以上の笑顔で愛する妻を見る。
「意外と似合うな。その服‥‥」
「そうかい? そりゃあー嬉しいね」  
 満にもたれかかり甘えるフレイア。丁度その時走り寄ってきたシルヴィアは
「フレイアさん、お疲れ様で‥‥!」
 二人のあまりにも濃厚な空気に、思わず足を止めて回れ右をしかける。
「もう! 何を今更遠慮してるんだい」
 笑ってフレイアはシルヴィアを止めると、
「おめでと。良かったね」
 強く抱きしめた。シルヴィアは頷くと授かったばかりの手の中の宝剣を差し出す。
「それから‥‥お許しも頂きました」
「そうか‥‥頑張るんだよ」
「はい‥‥」
 まるで母のように姉のように優しく見守ってくるフレイアの微笑みに彼女は心からの言葉で頷いたのだった。

 
○それぞれの思い
「‥‥ヴラド卿。‥‥適当にしておくことだ」
 パーティで酔っ払い、暴走を続けるヤングヴラドをオルステッドは何度目か諌めた。
 その頃の彼といえば
「そういえば余のような外国の職にある者でも円卓を兼務って出来るのであろうか? 余自身も興味があるし、逆にテンプルナイトへの道を薦めたい神聖騎士もいるのだ。教皇庁との友好関係にもなるかと思うのだが‥‥」
と武官捕まえての交渉の真っ最中であった。わざと大きくため息をつくと
「ぬー! なにを邪魔するのだ。我が輩は結構本気なのだ〜」
 こん、とヤングヴラドの頭を叩いて注意する。
「‥‥テンプルナイトになる為にはドラゴンや魔王を退治するという試練も課せられるし、教皇庁からの縛りも出ると、知っているだろう? まったく、もうこんなのがベイリーフの一員とはシルヴィアさんも苦労が絶えないだろうな」
「だから〜、その暴言は〜〜〜」
 いいかけてヤングヴラドは止める。オルステッドの表情が深いものに変わったからだ。
「おぬし‥‥」
「残念だが、まだアトランティスの戦況が収まってない‥‥中座させてもらう。皆には言わなくて良い」
 黙って武器を握り締める彼に
「解ったのだ!」
 ヤングヴラドは大きく胸を貼った。
「こっちはどーんと任せるのだ」
 その言葉に安心したわけではないだろうが、オルステッドは微笑んで歩み去っていく。
「‥‥ありがとう。仲間達よ」
 彼は大切な仲間とイギリスの思い出を胸に持って。

 オルステッドとはまた別に、宴会からそっと抜け出た者がいた。
「なに‥‥蒼汰‥‥」
 手を引かれているのはヘンルーダ。そして彼女の手を引いて人気のない庭にやってきたのは蒼汰である。
「ここらへんでいいか‥‥ヘンルーダ。大事な話がある」
 微かな灯りの中、見えるのは互いの姿と影だけ‥‥。
 蒼汰は唾を飲み込んで、ヘンルーダを。ヘンルーダだけをじっと見つめた。
「ヘンルーダ‥‥」
 ヘンルーダもまた彼を、彼だけを見つめている。
 だが伝えなければならない言葉が重く、喉からなかなか出てこない。
 けれど勇気を出して彼はヘンルーダに全ての思いを込めて話しかけた。 
「俺の気持ちは前に伝えた通りだ。ただ‥‥ひょっとしたら何年後か判らないけど俺の上司が地位を返上して故郷へ帰る可能性が出来た。おれは、あの人から離れるつもりはない」
 こころから敬愛する上司、あの人の力になりたいという思いと誓いは今も変わらない。
「だけど、俺はヘンルーダを失いたくない。ずっと共に歩きたい。だから‥‥」
 ヘンルーダの手をとって蒼汰は『告白』する。
「もし‥‥この国を離れる事になったとしても俺に付いてきてくれるなら‥‥俺と結婚してくれ」
「馬鹿!」
 それがヘンルーダの返事だった。
 一瞬拒絶かと思って打ちひしがれた蒼汰は、しかしクロウとの戦い直前の事を思い出して顔を上げる。
 そこには今まで見たことのない美しい笑顔のヘンルーダがいた。
「バカ‥‥。私がいかないと言うとでも思ったの? どこまでも着いていくわ。約束したでしょう? 答えはイエスよ」
「ヘンルーダ!」
 抱き寄せたヘンルーダとその思いが熱く蒼汰の心を焼く。
「ずっと、一緒に歩いていこう‥‥」
「ええ‥‥ずっと。一緒に‥‥」
 二つだった影は一つとなり、長く長く重なり合っていた。
 二人の心のように‥‥。

 宴会から抜け出した二人とはまた別に、宴会の中にあって華やぎに背を向けていた男達がいた。
「アンドリー。向こうに行かなくていいのか?」
 その中の一人アンドリー・フィルス(ec0129)は声をかけられたパーシに礼をとりながらも、結構と静かに首を横に振った。
「パラディンは教義で酒を禁じられている。お構い下さるな。それに‥‥」
 微かに伏せられた目。それが示す彼の思いを
「この喜びの日をトリスタン卿と共に味わいたかった‥‥だろう?」
「ルシフェル殿‥‥」
 代弁したルシフェル・クライム(ea0673)にアンドリーは静かに頷いた。
 アンドリー、ルシフェル。そして‥‥パーシ。
 彼ら三人が心からこの祝宴を楽しめぬ理由は、唯一それだけである。
「アンドリー殿も、追われるのか? アスタロトを‥‥」
 ルシフェルの問いに、ああ、とアンドリーは頷く。
 彼だけではない。パーシだけでもない。
 他のトリスタンを慕う幾人かの冒険者もキャメロットを離れ、トリスタンの心臓を取り戻す旅に出ると冒険者は聞いていた。
 トリスタンの心臓を捜すという事は地獄の魔王アスタロトを追うということ。
 命の保障など当然ない。だが
「それでも‥‥俺は追う。あの人々の幸せの笑顔の中にあの方のそれを取り戻す為に」
 アンドリーは迷いなくそう答え、ルシフェルは静かに頷いた。
 彼らの視線の先には人々の幸せそうな笑顔がある。
「今は、この勝利を喜ぼう。そして、共に誓おう。いつか、共にアスタロトと戦いトリスタン卿の心臓を取り戻すと。必ず救い出して見せると」
 誰が言うともなく重ねられた手は、誰が言うともなく静かに引かれた。
 言葉の誓いはない。だが、それだけで十分だった。
「私にも護るべき大切な人がいる故、すぐには追えぬが‥‥遠からず再び剣を共にすることになるだろうな‥‥その時は、よろしく頼む」
「ああ」「共に戦おう。彼を、取り戻す為に‥‥」
 そして彼らは心に焼き付ける。人々の笑顔と、大切な誓いを心に深く、深く‥‥。

 そしてこれはパーティとは離れた場所での一場面。宴会の華やぎから背を向けた男の話。
「フー、リリン」
 閃我絶狼(ea3991)は華やかで賑やかな王宮のパーティから抜け出してある姉弟を前にしていた。
「どうなさったのですか? 絶狼様?」
 やってきた彼らはその華やぎから少し呼び出され怪訝そうな顔で首を傾げている。
 絶狼に誘われやってきたパーティ。楽しげな場所で、何故彼はこんな苦しそうな顔をしているのだろうというように。
 絶狼は手を握り締めた。
 彼らは近いうちに主と共にキャメロットを離れるという。なら言うのは今しかない、と思ったのだ。
「悪いな、場違いな所に呼び出して‥‥ミシアの事だ」
「お姉さまが‥‥どうした、と?」
 心配そうなリリンに唾を飲み込むと絶狼は顔を上げて、告げた。
「‥‥死んだ、俺達が、殺した。彼女を闇から救い出す事が出来なかった‥‥」
「えっ」
 震える二人。その慟哭から目を逸らさず絶狼は続ける。
「酷だと思う、知らなければ日々を平穏に過ごせただろう、それでも俺は隠すべきじゃないと思った、だから‥‥それを言いに来たんだ」
 そして二人の前に一本のナイフを投げる。
「もし、許せないんなら、俺を憎め、全て受け止める」
 絶狼は目を閉じた。リリンが例え自分を刺したとしてもその罪は自分で被るつもりだった。
 だが彼の手に触れたのはナイフの鋼ではなく、暖かい手と小さな雫。
「リリン‥‥フー‥‥」
 目を開いた時、彼が見たのは目元に溢れる涙を流しながらも、絶狼の手をしっかりと握り締める二人の姿。
「ありがとう‥‥」
 それ以上の言葉を紡げずにいる二人を、それでも自分を許そうとする二人を絶狼は、強く‥‥強く抱きしめたのだった。

 そして王宮に背を向けた船着場。
 リ・ル(ea3888)は一人酒を飲んでいた。
 ある一人の少年が旅立っていった。彼の事を、いや彼だけではない。
 沢山の出会った友、そして去って行った友を思い出していたのだ。
 足元には銀の子猫と、愛猫がいる。まるで彼の心に添うようにその身を寄せて。
 彼の手には小さな勲章がある。クロウ討伐に参加した者にと与えられたもの。
 だが、少年はこれを受け取ることなく去っていったし、元々こんなものが欲しくて戦った訳でもない。
 ぴんと指で弾いたメダルは地面に落ちる。
 それを拾うこともしないで彼は、一人酒を飲んでいた。
 遠い月とこの場にいない懐かしい仲間と見えない杯を合わせて。

○祝宴の終わり
 楽しいパーティもいつしか終る。
「フレイアさん!」
「フリード! 間に合ったんだね。良かった。ダメかと思ったよ!」
 最後の終わり間際、やってきた黒髪の少年をフレイアは強く抱きしめた。
「すみません。仕事が押してて‥‥」
 最近は冒険者ギルドやパーシなどから事前調査などの仕事を受けることが多いのだと笑うフリードにフレイアは
「で、あんたはどうするんだい」
 ふと真顔で問うた。本当に少年だった頃から知っている弟のような子。
「騎士を目指すのか、それとも‥‥」
 彼の将来がほんの少し気になったのだ。彼は小さく笑って答える。
「僕は冒険者を目指します。騎士に、確かに憧れたけどそれはパーシ様やその煌びやかな姿に憧れただけ。僕がしたいのはみんなの笑顔を守ることだと解りましたから」
「そうか‥‥いい子だね」
 少年の決意をフレイアは受け止め微笑んだ。
「拙者なぞ、今の道を決めたのはつい最近のことだ。あまり固く考えずに、回り道をしても良いから、焦らずじっくり自分のやりたい道を探すといい」
「満‥‥」
 暖かいお茶を運んだ満もまた少年を妻と同じ眼差しで見つめる。
「そう言えばパーシ卿が家を引き払われると今後、困ることもあろう?」
「だからキャメロットでな、居るときは家にくるといい、宿代も馬鹿にならないだろ? ‥‥まぁあれだ、たまには顔出しにおいでって事だよ」
 それはわが子を見るような暖かさであった。
「うちのちびどももあんたにあいたがってるしね。その〜だ帰る場所の一つにしてくれれば嬉しい」
「フレイアさん‥‥満さん、ありがとうございます!」
「わっ!」「フリード?」
 その優しさを抱きしめてフリードは満面の笑顔で、二人に抱きついたのだった。

「パーシ卿」
 ほぼパーティ中を動き回って仕事をしていた円卓の騎士を冒険者達は最後に呼び止めた。
 それぞれが思いを込めて言葉をかける。
「旅立たれると聞きました。どうかご挨拶を‥‥」
 礼をとる芳純の後ろにはヤングヴラドやリースフィアもいる。
「いつまでも冒険者の心を失わない、困ったちゃん揃いの円卓の中でも抜け出た困ったちゃんパーシ・ヴァル卿。だが、キャメロットの守りは余らに任せるがよいぞ!」
 どうどうと胸を貼るヤングヴラド。
「‥‥いろいろ世話になったようでいて、世話の押し売りに何度も行ったような気もします。これからある意味同僚ですし先輩でもあります。まだ今後お会いすることもあるでしょう。だからここぞというときには必ず呼んで下さい。必ずお力になると誓います」
 揺ぎ無い心と瞳で笑いかけるリースフィア。
「戦いはようございませんな。戦う者も、そうでない皆様も殺伐としておりました。やはりこの国は、安泰で、誰もが楽しく暮らせるのが何よりでございます」
 そう真摯な心で告げる芳純。彼らの思いを受けて、パーシはああ、と頷いた。
「ああ。俺はこれからも全力で騎士として戦い続ける。戦いから苦しみから人々を守る為に。だから、またその時には力を貸してくれ」
 三人だけではなく、話を聞いていた冒険者達がそれぞれに頷く。
 彼らにパーシ・ヴァルは騎士の礼をとり、深い、深い感謝を捧げたのだった。

 パーティの終わり。
 寂しげなヴィアンカに
「どーしたにょ?」
 令明はそっと肩に降りて問いかけた。
「あの‥‥やっぱり、なんでもない」
「そうなにょ?」
 それ以上の追求はしない代わりに暖かいぬくもりで、彼女を慰める。
 ヴィアンカはそんな彼を慰めながらリースフィアの顔を言葉を思い出していた。
『ただ、本当に困ったことがあれば遠慮せずに連絡するように。いいですね』
 よっぽど相談しようと思った。けれど‥‥。
「ヴィアンカちゃんは、どんな女性になりたいの?」
 フィーネに問われた時、ヴィアンカは告げた決意を、思いを心の中に静かに押し込んだ。
「大好きな人を守れる人に、助けられる人になりたい」
 それは探したけれど見つけられなかった相手への、告げられなかった言葉。思い。
 いつかそれを手渡せると信じて‥‥。

 そしてパーティの最後の最後。
「‥‥どうか、お願いします」
 自分のかつての上司に願い事をしてきたシルヴィアは彼の返事を胸の中で抱きしめていた。
『パーシ様は必ず連れ帰りますから、あの人の戻る場所をよろしくお願いします』
『解りました。お二人の帰る場所を守ってお帰りをお待ちしています』
(「良かった。これで心残りはありません」)
「シルヴィアさん。お疲れ様です」
 シリルは俯くシルヴィアの髪を撫で‥‥
「えっ?」
 優しく、柔らかくキスをした。
「シリルさん‥‥何を?」
 驚きに目を丸くするシルヴィアにシリルは笑って首を振る。
「太陽を奪う狩人にちょっとした意地悪を」
「?」
 さらに意味が解らないという様子のシルヴィアの手を取りシリルは高貴な姫君にするように再び口付けた。
「人々を導く銀の太陽、麗しき戦乙女。あなたの旅路に月桂樹のご加護があらんことを‥‥。
 何かあればいつでも声をかけて下さい。地獄のはてだろうと駆けつけます。貴女の為に‥‥」
「シリルさん」
 彼の真心を受け止めながらシルヴィアはさっき一瞬感じた視線の主は誰だったのだろうと考えていた。

「よろしいのですか? あんなことをさせて」
「解っている‥‥何も言わなくていい」
「あらあら」
 クリステルは滅多に見られぬ人物の滅多に見られぬ顔をうれしそうに見つめ、美しく微笑んだ

「さて、そろそろ良い時間だろうか」
 アーサー王は静かに冒険者達に声をかける。
「楽しんでくれたようでこちらとしても嬉しい限りだ。‥‥宴は終わり、明日がくる。我々はこの明日を掴み取る為に戦った」
 噛み締めるように告げる思い。
 それはこの国と共に歩んできた冒険者達にもよく解る。
「だからこそ、明日が‥‥未来がより良いものとなるよう願い、奮起しよう!」
 王の声に誰からともなく掲げられた手と声が応える。
 拍手と暖かな思いに彩られて『祝宴』は終わりを迎えた。

 冒険者の手に確かに残ったものはそう多くはない。
 小さな勲章一つ‥‥くらいなものだ。
 だが心に残ったものは沢山ある。
 それをそれぞれが胸に抱いて、静かに城を後にする。

 イギリス王国の王城は、降り返る時いつでもそこにある。
 明日も、明後日も‥‥ずっと。