【茹で野菜を守れ!】 大きなカビ?

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2004年10月13日

●オープニング

 秋は収穫のシーズンです。
 夏野菜が終わり、畑には丹精込めた秋野菜がそろそろ収穫を待っていました。
 ある雨上がり
「いや〜、今年も良く育ってくれたのお。さあて、そろそろ収穫じゃ」
 嬉しそうに畑を歩き回ったおじいさんが、一つ一つの野菜を丁寧に見回っていくと、樹の陰にある巨大なものを畑の隅に見つました。
「なんじゃ、これは? 蕪か?」
 そこは、蕪を植えていたはずの場所でした。
 確かに周囲には今も蕪が植わっています。ですが、それは巨大な丸い緑の塊。形以外は蕪とは似ても似つかないものでした。
「葉っぱも無いし‥こおれは一体なんなんじゃ? おーい、ばあさんや」
 おじいさんは、おばあさんを呼んできました。おばあさんは、孫を呼んできました。孫は、犬を、猫を呼んできてみんなでそれを見上げました。
「何なんでしょうね。蕪の一種かしら‥収穫してみる?」
 孫がそう言ってそれに触ろうとした時です。
「チュチュチュー!」
 猫の足元を鼠が駆けて生きました。猫は鼠を追いかけます。
 鼠は猫から逃げ出し、緑の塊へ突進していきました。
 バフッ!
 塊からかすかに緑の煙が舞い上がり、鼠を取り囲みました。
「キャッ!」
 孫は慌てて後ろに下がりました。おじいさんも、おばあさんも、犬も、猫も。
 煙を吸い込んだ鼠は‥その場で死んでしまいました。

「言っとくがこれは童話じゃねえぜ、マジな話&依頼だ」
 ギルドの係員はそう言って冒険者達に依頼書を見せた。
『大きな塊の排除 方法は問わず
 但し、できるだけ畑に被害は加えない事を望む』
「その爺様からの依頼だ。畑からそいつを追い出して欲しいんだとよ」
「追い出す? 生物なのか? それ?」
 冒険者の問いに係員は首を捻る。
「さあな? モンスターだとは思うが、俺には解らんよ。ただ‥」
「ただ?」
「触ったら、緑の煙が沸いた。それを吸ったら鼠が死んだ。カビとか、そんな感じの毒かもしれない。それだけは頭に入れておいた方がいいと思うな」
 死、の言葉にかすかに冒険者達の肩が揺れる。それを見て、係員は小さく苦笑した。
「まあ、相手は農家だ。報酬は大したことは無いが、美味しい野菜料理くらいは期待できるだろうよ。あんまり固くならずに気軽に受けてみればどうだ?」
「大きな‥カビ‥か」
 

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0904 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1402 マリー・エルリック(29歳・♀・クレリック・パラ・イギリス王国)
 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2194 アリシア・シャーウッド(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2889 森里 霧子(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3117 九重 玉藻(36歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 お爺さんが、畑に蕪を植えました。
「甘い、甘い蕪になれ。大きな大きな蕪になれ」

 郊外の農家の畑で、一人の老人が暴れていた。
「え〜い、もう待っておれん。ワシが何とかする!」
「お爺さん‥ 危ないですよ」
 老女は止めるが‥老人の抵抗は止まらない。
「折角、丹精込めて作ったというに、あんなカビなんぞに負けてたまるか〜!」
 鍬を片手に老女を振り払うと‥大きな緑の塊に今まさに飛び掛らんと突進する。
「待ちな、じいさん」
 老人の無茶を長い手が止めた。マナウス・ドラッケン(ea0021)は老人の肩を掴み、ぐいと引き寄せる。
「は、放せ、若いの! ワシの畑を守るんじゃ!」
「ご老人。俺達はあなたの畑を守る為に来ました。お手伝いをさせては頂けませんか?」
「今時の若いもんに、ってあるかもしれないけど、ま、こき使って、ね」
 丁寧に礼を取る御蔵忠司(ea0904)の言葉にアリシア・シャーウッド(ea2194)もうんうん、と頷く。
 その言葉に老人も、鍬を下ろし暴れるのを止めた。マナウスも手を放す。
「判った。ぬしらに任せよう」
「了解、任された。危ないから向こうに行っててくれ」
 心配そうに見つめる孫娘に琥龍蒼羅(ea1442)は軽く手を振り遠ざける仕草をした。意味を理解し孫娘ははい、と答える。
「カビってあれ? 勘違いしてたよ。あ、借りたいものあるんだけど、いい? シーツに麦わら、水桶、農具。後でちゃんと洗うから」
「どうぞこちらへ‥」
 森里霧子(ea2889)を孫は物置へと案内する。
「じゃあ皆さん、すみませんがお願いしますね。終わったら美味しい料理をご馳走致しますから」
 老女の言葉に、喜び顔の九重玉藻(ea3117)とは正反対に樹の陰からの声は
「野菜‥嫌い‥美味しくないから‥」
「こら! マリー!」
 マナウスはマリー・エルリック(ea1402)を諌める。性格は解っているが農家で言う言葉ではない。
「とにかくお願いしますね」
「ワン!」「ニャアオ!」
 老女の言葉に、犬や猫まで頭を下げていく。
「頑張りますよ。ありがとう」
 表情を変えないアルカード・ガイスト(ea1135)だったが、彼らの気持ちは解る。頷くと改めて大きなカビを見つめたのだった。

「巨大カビの駆除か‥久しぶりに冒険者らしい真っ当な仕事だなあ‥」
「‥真っ当? いつもは真っ当じゃないの? 裏家業?」
「突っ込むなって‥まあ、こういうのも俺ららしいだろう。便利屋っぽくて」
「便利屋マナちゃん」
 マナウスの天然ボケにマリーが突っ込む。二人の掛け合い漫才を見ながら彼らは作業を進めた。
 カビが野菜に飛ばないように濡れたシーツや、藁で囲う。
 念のため皆、口元に特製マスクを着ける。さらに霧子はマフラーを口元に巻く。まるで忍者のようだ。エチゴヤマーク入りでムードは無いが‥
 作業の間アルカードはカビの前に立った。蒼羅に作戦の1を説明する。
「用意が出来次第、焼くのが一番でしょう。でも胞子が飛ぶのも避けたいので‥」
「解った‥‥誰か手伝ってくれるか?」
「力仕事なら俺が」
 忠司が意図を察して水桶を持つ。念のため薬草などを搾っておいたその水を‥
「‥ストーム!」
 蒼羅の呪文と同時に方角を合わせて空中に放った。ストームの暴風が水を空に運び‥大きな水の塊をカビの上に落とした。
「うわっ!」
 かすかにカビも舞い上がるが‥直ぐに地面に落ちる。
「霧吹きは失敗か‥でも、濡れたな。大丈夫か‥」 
 アルカードはそっと表面を指で触る。カビは落ち着いている。
「じゃあ、テントを被せる!」
 今まで大人しく仕事をしていた玉藻はおーほっほ! と高笑いで前に出てきた。
「いよいよ出番ですわね‥出でよ! エリザベス!」
 ドロン!
「‥カエル?」
 巨大な音と煙と共に突如出現した大蛙に冒険者達は、たじろぎを見せた。解っていてもやはり3mの巨大蛙はデカイ。
「蛙ではありませんわ。ガマです‥まあそんなことはいいですわ。エリザベス! このテントを上から被せなさい!」
『ゲオ!』
 大ガマは玉藻の命令の通り、忠司の持ってきたテントの頂点を素直に口に加える。そして‥
『ゲロ!』
 大きくジャンプしてテントをカビの真上に放ったのだった。
 ぶわっ! ジャンプの反動で胞子の風がエリザベスを囲む。
『ゲロオッ!』
「エリザベス!」
 カビは無事テントに囲まれた‥巻き起こる煙、エリザベスは‥平気だった。が、側の玉藻はかすかに煙を被る。
「うっ‥」
 呪文と命令のために緩めていたマスクの隙間から入った胞子‥。目眩に身体を揺らす玉藻に
「大丈夫? 念のため‥これ‥飲んで?」
 マリーは植物用解毒剤を渡した。
 蓋を開け、一気に飲み干した玉藻は目を閉じた。身体は動く。大丈夫のようだ‥。
「あ、ありがとうと、言っておきますわ」
 素直ではない玉藻の素直な礼に、マリーはうん、と微笑んだのだった。

 カビの周囲に薪を集める。テントを押さえるように薪を積むと‥マナウスは端にたいまつを置いた。
「後はじっくり火責めだったよな。アルカードさんよ。後は頼んだぜ!」
 手製の火矢に炎を灯すとマナウスは一気に松明に向けて放つ。松明とテントに燃え移った炎を言葉どおりアルカードがコントロールする。
「後はゆっくりと、焦らず殺していきましょう その間に皆さんは周囲の洗浄をして下さい」
 アルカードの補助に残った蒼羅以外は、早速作業に入った。
 周囲の土壌を集め焼くのは主に男達が担当。服の洗濯は女、と言っても家事の得意な霧子とアリシアに任されたが、孫や老女も手伝ってくれた。
 その時
「皆さ〜ん、来て下さい〜」
「何だ‥うわっ!」
 思わず皆の驚きの声が上がった。そこにはとてつもなく大きな蕪があったからだ。
 あのカビには叶わないが、直径1mは下るまい。
「周囲の蕪はあのカビのせいか全滅だったんですけど‥一番離れた所にあったこれは、難を逃れてしかも栄養を全部集めたようですね」
「これも‥神の思し召しです。念のためピュリファイ、かけてあげる」
 マリーの呪文で浄化された蕪を、仲間たちは腕組みをしながら見つめた。
「どうします? これ」
「どうするって、抜くしかないだろう。爺さん呼んでくる」
 マナウスの呼び声にやってきた老人は‥蕪を見て飛び上がんばかりに喜んだ。
「わしの、願いが通じたんじゃあ。よし、早速抜くぞ。ぬしらも手伝え」
「まるで、童話だな。まあいいか?」
 苦笑する蒼羅も手の埃を叩いて老人の言葉に従った。
 蕪を引っ張るおじいさん、それをひっぱるおばあさん、それをひっぱる孫、それを引っ張る犬と猫。それを引っ張る冒険者。
「うんとこしょ、どっこしいしょ!」
 大きな蕪は‥

「皆、ご苦労じゃった。思う存分食べてくれ!」
 翌々日の夕方、冒険者達は一面に並べられた料理を取り囲むことになる。
「いっただきます〜」
 遠慮せず、その味を堪能することにした。
「カビはよく焼いておいたし、土壌も火をかけました。多分もう大丈夫だと思いますよ」
 洗濯したてのローブの匂いを嗅ぎながらアルカードは冷静にそう告げる。
 遅れていた収穫も、冒険者の何人かが手伝ってくれたのでほぼ終わらせることが出来た。
「ん〜、お野菜おいひい」
「そうでしょう? 我が家自慢の野菜ですからね。シチューもどうぞ」
 手作りの料理は野菜がメイン。茹で野菜はシンプルな中に深い甘さがある。油で炒めた夏野菜の炒め物には半熟でとろりからまる卵の黄身が‥絶妙だった。
「始めての味〜」
 意外な味に冒険者を驚かせたのは揚げ野菜。特にタマネギはじんわりと口に広がる甘みが絶妙で‥
「う〜む、麦酒が進むわ」
 玉藻やアルカード達を喜ばせた。
「野菜をじっくり食べるのも、悪くないな」
「素材の味がしっかりしてますから‥あ、シチューお変わりお願いします」
 蒼羅と忠司も若いだけの食欲で皿を開けていく。そんな中、マナウスは隣の姉弟子の顔と皿を見た。
「こら、マリー、野菜も食べろって‥」
 シチューの中から肉だけを器用に拾って食べるマリーの前に茹で野菜の皿を置くが‥それはスッと戻される。
「嫌‥美味しくないもん‥」
「失礼だって何度‥うっ!」
 頭を押さえテーブルに倒れこむマナウスの横で、マリーは平然と肉を食べ続ける。横には血の付いた聖書
「‥ちょっといいの?」
「‥いいのです‥これも神の力の一端です‥」 
 アリシアの問いにも顔色を変えないマリーの前に老女が一つの皿を差し出す。
 淡い黄金色のスープ
「飲んでみて?」
「‥? はい」
 野菜は見えない。マリーはスープを‥口に運ぶ。
「どう?」
「‥優しくて‥甘い‥美味しい‥かも」
 良かった。と老女は笑う。一皿分のスープを空けたマリーを皆が優しく見守る。
 殴られた頭を撫でるマナウスも、仲間達も‥
 窓際に飾られた大きな蕪も‥

 翌日
「お世話さまでした」
「こちらこそ。世話になったのお」
 冒険者は老人達に頭を下げる。経費の支給に加え収穫を手伝った者には御礼まで出た。
「レシピ教えて貰ったし、今度実際に作ってみましょう」
 満足げな玉藻の横ではさらに嬉しそうにアリシアが頷く。
「兄さんのレストランに野菜卸すのもいいよ、って言ってくれたし、料理も美味しかったし大収穫〜」
 その向こうでの姉弟子と弟弟子の会話。
「なあ、マリー。野菜も美味いだろう?」
「私‥野菜なんか‥あっ」
 口元を押さえたマリーは始めて気付く。あのスープの正体を‥
「大体、食わず嫌いなんだよ‥ってマリー!」
「騙した‥ズルイ‥」
 聖書を持ってマナウスを追いかけるマリーを見て笑う仲間の中‥一人霧子は農場を見つめていた。
「何です? 心配そうな顔をして?」
 アルカードに霧子は微笑む。
「何でもないですよ。ただ大きなカビに大きな蕪。今度は大きな豆の樹、じゃなくて蔓なんて出たらどうしよう、と思ってね」
「ハハハ、その時はまたお世話になりますよ」
 忠司の笑い声に、皆、頷きあいそして‥楽しげに笑った。

 物語の終わり。
 収穫を終え大地は眠りについた。
 祝福に包まれた土が春に、人と野菜とどんな話を紡ぐのか。
 まだ誰も知らない。