死者からの依頼 迷子の幽霊ホー

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月17日〜10月22日

リプレイ公開日:2004年10月25日

●オープニング

 キャメロットの夜は暗い。
 仕事帰りの彼は、通りを急ぎ足で歩いた。
(「そういえば、この間この辺で殺人事件があったんだよな。母親と息子が殺されたって、可哀想な話だよな‥」)
 先日の騒ぎを思い出す。子供を庇うように母親が死んでいた。
 父親らしい男が縋りつくように泣いていたのが涙を誘ったっけ。
(「仕事もしないで飲んだくれてばっかりのロクデナシって話だったけど、やっぱり妻と子供が死ねば悲しいはず」)
「ああ、丁度この辺だ‥」
 石畳が剥がれかかったある場所で、男は立ち止まった。
 もう、場所に名残は殆ど無い。地面にそうと思わなければ気がつかない小さなシミがあるだけだ。
「心を残さず、天国に行ってくれよ‥」
 彼が祈るように手を合わせると‥
『そうは‥いきません‥』
「え゛‥」
 背後からかかる地の底から響くような声。青白くぽう、と光る炎。
 男はおそるおそる後ろを振り向いて‥そして
「うわあああっ!!」
 悲鳴を上げた。本当は逃げたかったが足がまるで金縛りにあったように動かない。
『怖がらないで‥下さい。あなたに‥危害を加えるつもりは‥ありません』
「こ、怖がらないで‥ってったって、あ、あんんたた‥あんた、ゴーストだろ? 一体、な、なんのようなんだ?」
『私の‥願いを‥聞いてください‥』

「‥この中で、変わった依頼を、受ける覚悟のある奴はいるか?」
「変わった依頼? 覚悟? んな大げさな。別にそんなの珍しいことじゃないだろ。変わってない依頼なんてあるのかよ」
 いつになく真面目な顔をして問うギルドの係員を茶化すように冒険者は笑った。
 だが、彼の表情は変わらない。
「いや、言葉が悪かったな。変わった依頼人からの依頼を、怖がらずに受けられる奴だ」
「は?」
 冒険者達の頭に疑問詞が浮かぶ。ますます、訳が判らない。
「だから‥、まあいい、ちょっと着いてきてくれ」
 そういうと彼は未だに事態を理解していない冒険者を連れて店を出たのだった。

 ある路地に入ろうとした彼らとすれ違うように男が出てくる。
 まるで、周囲を窺うようにきょろきょろとした目線で。
「ん? どうしたんです?」
 軽い気分で冒険者が声をかけると、男は脱兎のごとく逃げ出していった。
「なんだ? ありゃ?」
 首を傾げる冒険者は、係員の呼ぶ声に慌てて駆け寄った。

「‥納得したか?」
「した‥。確かに変わった依頼人だ」
 冒険者達はその人物に引き合わされて、やっと彼の言葉を理解した。
 細く、暗い路地の一角。そこには美しい女性が、彼らを待っていてペコリと頭を下げた。
「この人は、ネリアさん。先日ここで亡くなったゴーストだ」
『はじめまして‥ ネリアと申します』
「あ、どうも‥」
 丁寧な挨拶に冒険者も慌てて頭を下げる。
「彼女が、冒険者に依頼があるんだとよ」
 係員の言葉に彼女ははい、と頷く。
『私の息子を‥捜していただきたいの‥です』
「息子?」
『はい、先日私と、あの子はここで‥死にました。天に昇ろうと思ったのですが‥何故か私はここから動けず、息子はふらふらとどこかに行ってしまったのです』
「ちなみに確認すっけど、あんたの息子も‥その‥ゴーストだよな」
 はい、と彼女は頷いた。
『もう身体を失った身、怪我などの心配はございませんが‥やはり、心配で‥どうか、捜していただけないでしょうか?』
 ゆらゆらと影が揺れる。表情ももはや薄い影でしかなく察するしかない。
 だが、子供を心配する本当の気持ちは、彼らにも伝わってきた。
「ま、いいか。タダ働きになっちまうが‥」
 小さくため息をついた彼らに、いえ、とネリアは首を振った。
『依頼料はお支払いします。‥その、石を避けていただけますか?』
「ん? この石?」
 指差された足元の石を一人の冒険者が軽くずらす。‥と、そこには‥
「うわっ‥、宝石?」
 美しい緑石の首飾りが隠されていた。手にとるとキラキラと美しく光る。銀でできた土台の細工も上質だ。
 死を予感して、予めそこに隠していたのだろうか。
「これか?」
 冒険者が首飾りを見せるとネリアははい、と頷いた。
『息子をここに連れて来て下さったら、それを報酬に差し上げます。私の母から譲られたもので‥売れば、かなりの額になると思いますわ』
「それは、そうだろうが‥本当にいいのか?」
『もう、私には必要ありませんから‥』
 寂しそうに笑うネリアに、冒険者達は言葉を失う。
「あ、でも‥旦那にとか‥  え?」
 気のせいだろうと、係員は後で思った。一瞬、ネリアの顔が只ならぬ表情を浮かべたような、気がしたのだが。
「いえ‥いいのですわ。どうぞ、よろしくお願いします。息子の名はホーウェル。私達はホーと呼んでおりました」
 そこまで言われて、断るわけにもいかない。
 死者からの依頼を、彼らは引き受けた。

「さ〜て、どう捜すかな‥ってん?」
 路地から出てきた所で、冒険者達は立ち止まった。そこに立つ、小さな影は‥
「‥子供の‥ゴースト‥? まさか!」
『お兄ちゃんたち、その首飾り‥パパのところに持って行っちゃ、だめだよ』
「お、おい! 待て!」
 冒険者の伸ばした手の先、かき消すように影は消えた。

『今の、ママの所には‥戻れないんだ どうしたら‥いいんだろう?』

 囁くような泣き声のような声だけが耳に残る。
「一体、何なんだよ‥」

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0459 ニューラ・ナハトファルター(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea0749 ルーシェ・アトレリア(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea4600 サフィア・ラトグリフ(28歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6237 夜枝月 藍那(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6609 獅臥 柳明(47歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 夜道を渡る足音が聞こえる。
「‥短い冒険者人生だけど色々あるし、今更ゴーストが依頼に来ても驚かないけど‥」
 花束を弄びながら呟くサフィア・ラトグリフ(ea4600)の言葉にくすっ、苦笑と微笑の間でシエラ・クライン(ea0071)は笑った。
「そうですね。でも、だからこそ冒険者としての生活は得がたいものだと思うのですよ」
「私も解る気がしますよ。それ‥? 柳明様、何浮かない顔をしてるんですか?」
 夜枝月藍那(ea6237)はため息をつきながら歩く獅臥柳明(ea6609)声をかける。
「いえ、私もまだまだだと思いましてね」
「仕方ないですよ。お仕事だっていうし‥考えてみればあの首飾りを彼が預かっているの知ってるのは私達だけですしね」
 依頼人を仲介してくれたギルドの係員が危険ではないかとガードを申し出た二人だったが、それはきっぱり断られた。
『冒険者の皆様、様子は如何でしょうか?』
 気が付くと目的地だ。依頼人、ゴーストのネリアがふわり現れた。
 初動捜査に本人への聞き込みは基本であると彼らはやってきた。
「もちょっと待ってくれよな。っとそれからこれ、この時期、あんまり花無くってさ粗末で悪いけど」
『私にですか? ありがとうございます』
 ネリアは微笑み花に顔を寄せた。触れられなくても心は伝わる。
「少し伺っていいですか?」
『どうぞ‥』
 シエラはネリアに事件当日の足取りやホーの事を聞いた。そして話のついでのように問う。
「そう言えば、あの首飾りは普段から身に付けていたものなのですか?」
『どうしてです?』
「いえ、とても綺麗なものですから‥」
『そう、ですわね。いろいろありまして‥』
 気になっていた事だがかわされた。
「大丈夫ですよ。必ずホー君を捜してきますから」
『はい、お願いいたします』
 去っていく冒険者を見送るネリアの足元で花束は静かに夜風に揺れていた。

『彼女の旦那? あいつはロクデナシ。仕事もしないで飲んだくれてばかり』
『ネリアに暴力を振るってた。ホーも時々顔に痣を作ってたっけ』
『ダナン、ああ、ネリアの旦那だけどね、厄介な連中に追われてるらしいよ。どうせ借金でも作ったんだろうさ』
「少し聞き込んだだけでこれだけの悪評とは。大したものですよ。まったく」
 椅子に乱暴に腰を下ろし、ファング・ダイモス(ea7482)は深いため息をやりきれない思いと一緒に吐き出した。
 ギルドで先に待っていた仲間達もやっぱりという表情だ。
「でも本当にあの想像が当たりそうですわ」
 悲しいことですけど。そう続けたルーシェ・アトレリア(ea0749)の吐き出す息も重い。
「多分‥ああ、カシムさんこっちですよ」
 遅れてやってきた一人をファングは手招きした。美少女と思って声をかけてきたナンパ男の希望を上手に踏み砕いてカシム・ヴォルフィード(ea0424)は勧められた椅子に座った。
「結論から言おうか。証拠は無い。でも、多分間違いない」
 彼は事件の状況を調べていたのだ。彼が知ったこと。それは
 夕方聞こえた夫婦の争う音と飛び出した子供。
 それを追ったネリア。ダナン。一人帰ってきた父。
 そして‥今は無人の散らかった部屋だった。繋ぎ合わせれば‥導き出される答えは一つ。
「第一目撃者が彼らしい人とすれ違った気がする、とも言っていた。でも証拠は何も見つからなかったよ」
「依頼はホー君を捜すことだけですから、どうでもいいと言えば良いのですが‥気になります」
 ルーシェの言葉にシエラは頷いた。
 話を聞いていたファングは‥一度深く目を閉じ、仲間達を見る。
「一つ提案があるんです。聞いてもらえますか?」
 彼の説明に、ルーシェは顔を顰めた。
「危険ではないですか?」
「でも他に方法は無いようです。首飾りは?」
「シフールの姉ちゃんが借りてくって持ってったぜ」
 仕事の手を止め、係員はそう答える。
「なら、彼女とホー君の心残りを少しでも減らすために‥やってみますか?」
 もう反対意見を出すものは誰もいなかった。

 ランタンが照らし出す小さな空間。
 葉っぱのお皿に乗せられた保存食。
 まるで子供のおままごとの様でサフィアは不安を拭いきることができなかった。
 飛び回るニューラ・ナハトファルター(ea0459)の肩をちょんと突いて。
「なあ、ホントにこれでいいのか?」
「いいのです。おもてなしの心です。後は‥」
 深く深呼吸をして彼女は夜に向けて‥
「ホー〜ちゃん。あっそびましょ♪」
「まて、そんなんで‥」
 明るいノリに脱力しかけたサフィアはニューラに抗議しようと手を伸ばすが‥
『お姉さん、だれ? なんで僕をよぶの?』
 さらに脱力することになる。
「それで、いいのかよ‥まあ、いいけどさ」
「私はニューラ、ホー君よね」
『うん‥』
 小さな子供のゴーストは冒険者を見ている。
『ママに頼まれたの?』
「ああ、心配してたぜ、なあ‥何か知ってるなら‥知らなくてもいーけど。話しようよ。俺と」 
 兄のような笑顔で彼は微笑みかけた。彼が兄ならニューラは姉?
 暖かい二人の存在に‥ホーは小さく首を前に動かす。
『あのね‥』
 彼が語った話はあまりにも‥悲しく彼らは一瞬言葉を失った。
『ママが怒ってる。僕は‥ママの所に帰れないよ』
 身体があるなら泣き出したに違いない子供の影にニューラは手を伸ばす。軽い目眩。でも精一杯微笑む。
「大丈夫。怒っていたら一緒に謝ってあげる」
「それに、ひょっとしたら母さんを助けられるのはお前だけかもしれないぞ」
 ニューラの思いを、サフィアは引き継ぐように語った。
『僕が‥母さんを?』
「ああ、だから、一緒に行こう」
『うん!』
    
 暗い闇の中、月の光だけが冴え渡るように道を照らす。
 その僅かな光を頼りに地面に這い蹲る男が一人。
「家にも無い。死体も持ってなかった。なら絶対にこの辺に‥」
「よう! ダナン、やっと見つけたぜ」
 ビクッ! 背中におびえと恐怖を浮かべて男はゆっくりと後ろを振り向いた。
 そこには巨漢のジャイアント。他に幾つも影が見える。男、ダナンには捜される理由が、心当たりがはっきりとあった。
「金の都合は出来たのか? もう待てねえぜ!」
 かさり、足に何かが触れる。でもダナンは気にせず彼らに腰を下げ、必死の形相で頭も下げた。
「待ってくれ! 当てはある。直ぐに探し出すから待ってくれ!」
「直ぐに? 冗談は程々にすることです。どこにそんなものがあります?」
 彼を下がらせたのは銀の髪の剣士。たおやかな外見とは違う殺気を彼は放っている。
「ああ、ここであんたの奥さん達死んだんだっけ? ここに形見が残ってるとでも? でも強盗にやられたんだろ? 宝なんてとっくに盗まれてるよ。残念だね。やっぱりあんたの命で‥」
 ローブを纏った魔法使いが手を上げる。魔法が紡がれるのか‥
「違う! 誰もあいつから盗んではいない。だからこの辺にある筈なんだ。あのガキがきっと、この辺に‥」
「どうして、そう言い切れるのです?」
「それは‥」
 完全に取り乱した彼は気付かなかった。追い詰められる恐怖に、とうとうあの言葉を口走ったことを‥
「それは‥俺が殺したからだ。あの女を! 息子を! だから、誰にも盗まれてなどいない! 絶対に」
 グシャッ。
 ダナンの足が何かを踏む。
 潰された花びらと、緑の香り‥。そして‥死者の匂いを冒険者とダナンは嗅いだ。
 見た。香りと共に現れた青白い影を。
「‥お前、ネリア?」
『そう、貴方は殺した‥私を、そして‥ホーを。命を奪い花を踏みつけ‥そして首飾りまで奪おうとするの? ‥許せない。許さない!』
「ネリアさん!」
 藍那は必死で彼女に呼びかける。落ち着いた婦人だったネリアの面影はどこにも見えない。
 恨みに取り付かれた悪霊そのものだ。
「ダメです!」
 立ちふさがる藍那をすり抜け、ネリアの腕が腰を抜かしたダナンの首に触れようとした時‥
「待って!」
『ママ!』
 飛び出してきた二つの影が、彼女を止めた。物理的なものだったら彼女はすり抜けただろう。
 だが‥
『止めて! 僕が悪かったんだ』
『ホー!』
 一つの影はネリアにしがみ付く。変わっていく。ゆっくりと恨みを抱える鬼から、子を思う母の顔へと。
 そしてもう一つの影は‥シャラン、小さな音と共に男の首にあるものをかける。あの‥銀の首飾りだ。
「外したら‥死にますよ♪」
 オッドアイの瞳に射抜かれ、男は氷のように動きを止めた。
『僕が首飾りを隠したりしなければ、パパはママを殺したりしなかった。ママもパパを恨んだりしなかった。僕が‥僕が‥』
『‥いいの。いいのよ。首飾りより‥貴方が何より大事なの』
 涙さえも出せない身体で、母に縋りつくホーを見て、サフィアは思い出していた。さっきのホーの言葉
『僕はパパが嫌いだった。酔っ払うと僕やママを叩いたから。でも、それよりもずっと首飾りが嫌いだったんだ。それを見る時ママは僕を忘れる。そしてパパは首飾りを出せとママを殴る。だから、だから僕は‥』
「死の直前、あの子が首飾りを持ち出して隠したそうですわ。母親にその事を伝えた直後、殺されたそうなのですけど」
 ニューラの説明でシエラの疑問は一つに繋がる。
「彼女は首飾りと死の恨みでここに縛られた。でも、ホー君がいなくなって気がついた‥」
「首飾りより‥もっと大切なものを‥なら! どうか復讐など止めてください。ホーくんの為にも」
 ネリアとダナンの間に割り込むようにルーシェが立った。カシムもファングもその横へと。
「僕も止めるよ。意地でも‥。人に危害を加える様なら倒さなけりゃならない。そうは‥したくない」
「今父親を手に掛ければ、恨みで来世へ旅立てなくなる、貴方の無念はきっと晴らす、だから‥成仏して貰えないか?」
 自分の手の中の愛し子。そして‥真剣に自分を見てくれる冒険者達に、ネリアの頬に浮かんでいた怒り、恨みの相がゆっくりと消えていくのが皆に見て取れた。
『私は‥逝けるのでしょうか?』
「逝ける筈です。きっと。首飾りを自分で手放し、恨みを捨て、そしてホー君が戻ってきた。もう貴方を縛るものは無いと思いますよ」
 シエラの言葉にネリアはそっと頷いた。ゆっくりと地面を蹴る。足元を縛っていた見えないくびきが静かに消えていく。
『一緒に行こう。ママ。パパなんか置いてさ』
 母は息子の手を、息子は母の手をお互いにしっかりと握り締めた。
 もう、離れることは無いだろう。
「なあ、あの銀の‥本当に貰ってもいいの? 大事なものなら墓に入れてもいいよ。俺」
 ネリアはゆっくりとサフィアの言葉に首を振った。
『もう、いいのです。それに‥あの首飾りには私の分まで世にあって欲しいので‥』
「そっか。OK」
「こいつのことは、任せておいて欲しい。必ずや罪に相応しい罰を与えよう」
 どさくさに紛れて逃げ出そうとしダナンをロープで縛り上げ、柳明はにっこりとたおやかに笑った。
 お願いします。と答えたネリアの表情は間違いなく笑顔を作っていた。
『行こう。ママ。お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう』
『本当にご迷惑をおかけしました。お花、そして皆さんの心、嬉しかったですわ』
 二人はゆっくりと空へ浮かんでいく、銀色の月の光の中を。
 数珠を鳴らし祈る藍那。見送る冒険者達。
 やがて二つの影はゆっくりと月光に抱きしめられ、消えていった。

「ご苦労さんだったな。あの父親は官憲に差し出しといたから、もう心配いらんさ」 
 ギルドの係員は金貨を数え冒険者に渡した。首飾りは簡単に値がついた。これで依頼終了だ。
「まったく、あの男。命を何だと思っているのかな?」
「せめて成仏した先で、幸せになっていて欲しいものです」
「そうだな‥」
 呟く冒険者達の思いもどこか虚しい。
 怒り、願い、それぞれを抱え、いくら思っても失われた命は還ることは無いから。
 でも‥
(「きっと月を見るたび思い出します。このこと‥」)
 ニューラは秋風を運ぶ窓の外を見た。金貨色の月が空に浮かぶ。
 
 あの親子と出会うことはもう無い。
 だが、きっと彼らの思い出は生き続けるだろう。冒険者達の心の中で‥