●リプレイ本文
●小さな天使現る?
街に、小さな天使が現れる。
ほら、そこにもあそこにも。
「実用的で‥、邪魔にならないものが理想的ですよね?」
「店主? どれがいいと思う。冒険者への贈り物だ?」
「よき人に届くといいのじゃね。楽しみなのじゃよ」
「俺が持っていてもこれは日の目を見ない‥」
「え〜っとなんて書いたらウケるでしょうか? よし、安産祈願」
「このネックレスが一体誰の手に渡るのか楽しみです」
「福袋のアイテムが‥ あ、福袋から出てきた驢馬さんに名前つけなきゃ‥」
「! 痛った〜」
「大丈夫ですか? 注意して下さいね」
「だいじょぶ。ちょっぴり不器用だけど、この方がおしゃれだよね?」
「えっと、私から見知らぬ貴方へ。この子は〜」
「えげれす語は苦手じゃが‥ようはハートじゃ!」
「これでできあがりなの。届けてくるの〜」
「大切な荷物、気合を入れて運べよ!」
「はい!」
シフールは町を飛ぶ。天使達の思いを抱いて‥
●贈り物が届く♪
「お届けもので〜す」
「はい、ありがとうございます」
シエラ・クライン(ea0071)はシフール飛脚から包みを受取った。
簡素な袋に入った手に乗る程の小さな小さな贈り物。
「何でしょう?」
シャラン、優しい音を感じシエラはそっと包みを開く。
「綺麗です。十字架のネックレス?」
袋の中の板を取り出すと飾り気の無い字でこう書かれてあった。
『「見知らぬ誰かへ」
このプレゼントを受け取っていただきありがとうございます。
大切にしていただけると光栄です。
それでは、貴方に神の御加護があらん事を‥‥
―ラス・カラード―』
「‥ステキな贈り物を頂きましたね」
十字架を撫でシエラは微笑み首にかけてみた。それは優しく祝福の光を放ったという。
エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)への贈り物は大きく軽い布袋。
彼女は袋を丁寧に開ける。
もこもこっ‥
「かっわいい♪」
つぶらな瞳のカモメの被り物。彼女は抱きついた。小さな板が口に銜えられている。
『私から見知らぬ貴方へ
この子は世にも珍しいボウシカモメという種類のカモメの子供で、名前をフリューゲル君といいます。この子は群れからはぐれてしまったようで、私が育てていたのですが、やむにやまれぬ事情でこれ以上育てることが出来なくなってしまいました。
そこで貴方に託そうと思います。どうか大切に育ててやってください‥
注意点1;エサをあげないでください。ボウシカモメは食物を必要としません。
2;ボウシカモメは人間の頭の上が大好きです。被ってあげると喜びます。
3;この子は綺麗好きです。定期的に洗ってやってください。
貴方と良いご縁があればどこかで会えるでしょう。その時はよろしくお願いします。
ナロン・ライム』
「ふりゅーげる君、よろしくね♪」
カモメをしっかり胸に抱いて頬ずりした後、彼女は街の中央を見つめた。
この子の前の飼い主は解らない。なら、せめて‥
「ナロンさん。ありがとう。仲良くしますね」
精一杯の思いを込めてお辞儀をした。
「ほお、これは‥」
物見兵輔(ea2766)は貰ったプレゼントを嬉しそうに見つめた。
可愛く両端を赤いリボンで結ばれた白い包みから出てきたのは寝袋だ。
『これからの寒い季節、風邪をひかない様に、無理をしないで頑張って下さい。
贈り物を選ぶ楽しい時間、そして
大事なパートナーの名前を授けてくれてありがとうございますね
リト・フェリーユと驢馬のリーフより』
赤い実のついたドライフラワーと優しい思いが添えられている。
「間違いなくこれから役に立つ。ありがとう」
ラッピングごと彼はそれを大事にバックパックに詰め込んだ。
「随分軽くて‥ん、柔らかい?」
村上琴音(ea3657)は届けられた袋を押してみた。
薄手の綺麗な黄色と青い布が重ねられ、淡い緑色。
「なんじゃろう? なんかドキドキじゃね」
口の黄色と青のリボンをするり、解くと目に付くのは毛糸のマフラーと青い板だ。
板を指で摘んで返すと‥裏に言葉が刻まれていた。
『些細で、ささやかかもしれません
私の贈り物は、良い物でもないかもしれません
けれど、この品を受け取った貴方に
何かしらの幸いが、心暖まる出来事が訪れますように
Christopher Terrance 』
小さな木の実がころんと転がり出る。
「おお! マタタビではないか? 懐かしいのお」
文字は三種の国の言葉で書かれていた。その一つは‥琴音の故郷の言葉。
「くりすとふぁーどの。ありがとうなのじゃ」
ジャパン原産の実の匂いに、琴音は故郷をほんの少し思い出していた。
「何か届いている‥あの企画の贈り物か?」
スプリット・シャトー(ea1865)は荷物を両手で持ち上げた。
心が浮き立っていると彼は感じる。自分で驚く程に。
「可愛いな。中身は何だろう?」
ちょっと見、それは林檎にしか見えない。
真っ赤な布に包まれ、葉の形のメッセージ板まで丁寧に林檎である。
「なになに? 【お友達からの贈り物に守られた事がありました。貴方の冒険の助けになりますように】か‥ 子供、女の子かな?」
女の子っぽい丸い文字に知らず頬が緩む。教師の性である。
壊すのが惜しいが‥そっと林檎を割るとふわふわの綿に包まれていたのは、ヒーリングポーションだ。
(貴方が無事でいられますように‥)
優しい思いが伝わってくる。
「‥ありがとう。気持ち、確かに受取ったよ」。
自分が贈り物を用意したときの気持ちを思い出し、スプリットは微笑う。
「『贈り物』というのも案外いいものだな。いろいろと面白い経験ができたし、思い切って参加して良かった」
若き学生達にも荷物が幾つか届けられた。ナロン・ライム(ea6690)の元に届いたのもその一つ。
シンプルな赤い包み。厚手の布で包まれ上下左右を綺麗なリボンが結んでいる。
「誰からでしょう? 何でしょう?」
蝶々結びの端を軽く引っ張ると、お行儀よく二本のポーションが並んで顔を出した。
「これは‥リカバーポーション?」
添えられたメッセージもシンプルに、だが強い文字で綴られていた。
『このアイテムが、貴方のこの先の冒険に少しでも役立ちますように‥』
それは先輩冒険者からの激励の言葉。
「これに頼ることの無い冒険者になれるように頑張らなくては!」
差出人の思いに彼はきっと答えるだろう。
ラス・カラード(ea1434)は淡い水色の布包みを受取った。
軽く下げると液体の揺れる感じがする。
「薬? 違う飲み物?」
袋に添えられた板は広葉樹の形。裏を返すと‥
「【砂か、色水をかけて見てね】?」
裏に引っ掻き傷が見える。ラスは砂をさらさらかけてみた。
文字が‥見えてくる。
『もしかしたら用の無いものかも知れないけど、
どこかしらに用途は転がっていると思うので。
何かの役に立てば倖い…かな?
―Iria Igaliouk 』
「これは楽しい。心の篭ったメッセージ、実に気持ちのいいものですね」
包みの結び目を解いて瓶の蓋を開ける、ツン‥甘い香り。
「これは‥馬乳酒?」
部屋に戻り彼はグラスにほんの少し酒を注ぐ。白い優しい匂いが心地よい。
「ありがとうございます、大切にさせて頂きます」
見知らぬ友に彼はグラスを掲げた。
少女が駆けてくる。クリストファー・テランス(ea0242)は手を振るイリア・イガルーク(ea6120)を心配半分笑顔半分で迎えた。
「ねえ、クリス。荷物届いた? 何だった?」
手に大きな荷物を抱えたイリアは頬まで真っ赤。クリスは背を擦ってやった。
「まだ開けてません。落ち着いて」
「じゃあ、ね! 一緒に開けようよ」
興奮気味のイリアにクリスはええ、と頷いた。
イリアの青い綺麗な草木染の袋と、クリスの白木の箱。
「1・2の3!」
同時に開けられた中から贈り物が顔を出す。
「あ、僕のは防寒具だよ。暖ったかそ〜。ロープも入ってる」
嬉しそうなイリアと反対に品を巻いてあった布を解いたクリスの顔は真剣だ。
「‥これは、シールドソード? かなり高価な筈なのに‥」
茶色のコートに頬擦りしたイリアはポケットに入っていた板に気付く。綺麗な薄水色に蒼い文字。
「『これからの季節をいつも暖かく過ごせるように…
様々な使い道のあるロープと共に役立ててほしい。
この小さな出会いに感謝して スプリット・シャトー』だって。嬉しいなあ」
「『この品が御身の旅路の一助にならん事を切に願う』良いのでしょうか?」
彼にとっては重い品だ。いろいろな意味で‥
「名前も無いし‥お礼も言えませんね」
「大事にすればいいよ。それが一番のお礼でしょ?」
深刻な顔のクリスにイリアは明るく笑ってコートに袖を通す。くるり回って
「似合う?」
「ええ、似合いますよ」
微笑むイリアを見てクリスは頷いた。剣に触れて心に誓う。
(「大事にしますね‥」)
「ちょっと重い‥何かなこれ?」
驢馬に声をかけリト・フェリーユ(ea3441)は不思議な風呂敷包みを抱えた。
外布を外すと黒々としたインクで書かれた不思議な言葉の紙が目に付く。
「ねえ? なんて読むと思う? リーフ」
「ヒヒ?」
リトに読めない。リーフも当然読めない。意味も解らない。謎の言葉である。
『お歳暮』
だが中の板はイギリス語なので何とか読めた。
『名も知らぬ貴殿にこの「ちぇす」一式を贈る。願わくば、このものと共に我が思いも届かんことを願う。貴殿に良きことがあるよう願う』
見事な美術品である大理石のチェスにリトはちょっと以上に嬉しくなった。
「嬉しいですね、リーフ。お家に飾ろうか。重いけど頑張って運ぼう。壊さないように」
よろめきながらリトはチェス一式と、愛驢馬リーフを何度も笑顔で見つめたのだった。
唐草模様の風呂敷包みに木板のメッセージを見て大隈えれーな(ea2929)は笑った。
「あら? 同郷の人でしかも‥ご同業?」
『我、出自、ジャパン。 職業”シノビ” 名前、明かせない。
送った物、ティアラ、これ、イイモノ。
これで、二人の男女、幸せの一歩へ、行けた。
これで、あなた、幸せ、なるか、どこか、誰か、幸せへの、キッカケ、して欲しい』
拙い文字で一生懸命にそう綴られている。
入っていたのは水晶のティアラ。
髪に当てえれーなは呟く。
「ステキな物をありがとう、ですね。あ、でも‥まさか私の品がこの人に当たったら‥?」
思いっきり『遊んだ』自覚はある。忍びにアレは拙いだろう。でも‥彼女は考えを頭から追い出した。
「そんなことあるわけ無いですよね‥」
‥実はあるわけ有った。
「なんじゃあ? これは一体?」
感慨深く浸るはずだった葉霧幻蔵(ea5683)は思わず声を上げる。シフール飛脚が最後に届けた一番大きな品が彼の所に届いたのだ。
「これが‥貴方宛です。くれぐれも‥お大事に」
意味不明な言葉を口にしたシフールを見送り、幻蔵はその贈り物に触れた。
白いレースの包みにピンクのリボン。見た目はとても可愛らしい。
だが透けて見えるそれは‥笑顔と褌姿も眩い‥
「男の裸? 何故拙者がこのような物を?」
湖の騎士の肖像画。もっぱら『裏』と評判の『怪しい』作品だ。
「メッセージ、メッセージはどこ‥っと有った!」
リボンに結ばれた御守袋を取り、幻蔵は慌てて中を開いた。手の中に転がされた木の板には一言。
『安産祈願』
ガクッ‥。膝をついた忍びの横を生暖かい周囲の視線が優しく(?)取り巻いていた。
その後、彼は『裏』肖像画のオーナーとして微妙に名が高まったと言う。
●切手の無い贈り物
「そうか、ご苦労」
配達を終えたシフール達に冒険者からの差し入れの飴を与えて、地方統括は空を見上げた。
シフール飛脚にとっていつもの数倍の手間と人手を使った今回のイベントだが、なかなか好評だったのではないかと思う。
受取人の笑顔という最高の報酬を貰ったシフール達を見ながら彼は考えた。
「今度はぜひ、受取った人の笑顔を送り主に与えられるイベントにしたいな」
秋の天使が飛びそうな蒼い空の下。
小さな天使の思いと心は、どこかの誰かに確かに届き、小さな幸せを贈った事だろう。