【マジカルシード 演劇】物語は突然に‥

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月14日〜11月19日

リプレイ公開日:2004年11月18日

●オープニング

 ――ケンブリッジにも秋が訪れた。
 寒さ厳しく感じる11月。自然とマジカルシードのイベントは室内中心へ移行する。
 今月開催されるイベントは『演劇』だ。呪文を記憶する能力を高める為にも、マジカルシードでは演劇を披露する決まりとなっているのである。
 題目と参加は自由。但し、限られた人数で行い、僅か5日間の相談で配役を決定し、5日間の練習の末、物語を紡がなくてはならない。
 ――演劇参加者募集。詳しくは担当まで☆
 そんな依頼がクエストリガーの壁に貼られ始めていた。

『演出、脚本家募集。皆さんのアイデアを教えてください』

「‥‥‥! ダメダメ! そうじゃないよ。もっとそこのところを‥もっとさあ‥」
「‥そんなこと言ったって‥」
「そうだよ。お話そのものが平凡なんだから、しょうがないよ」
「脚本だって昔話そのものだし‥捻りがなさそうぎるよ」
「でも、書き換えるなんて言ってもいいアイデア無いしさあ」
「なんか、もっと面白いアイデアを出してくれる人、いないかなあ」
「「「「「はあ‥」」」」」
「はあああ‥」
 子供達はため息をついた。
 担任は、さらに大きなため息をつく。
 マジカルシードの低学年クラスはこの秋の演劇で古いノルマンの民話を元にしたお話をすることになった。
 継母と継姉に苛められる少女が、魔法使いの力で美しく変身し王子様と結婚するというストーリーだ。
「こういうお話は、女の子の永遠のロマンなのよ」
 との女の子達の強引なプッシュでの選択であるが、そこは魔法使いの卵たち。
 やっているうちに妙に凝り始めた。
 ただの話ではつまらなくなってきた。ああでもない、こうでもないと毎日大騒ぎだ。
 かといって魔法以外の人生経験の少ない子供達に脚本の書き換えや、面白い演出など簡単にできはしない。
 そもそもこのイギリスにおいて舞踏会だの、王子様の花嫁だの言われてもピンとは来ない。解らないものをやれといわれてもリアルさにも欠けるのも解っている。
 大まかな指導以外子供達の自主性に任せるのが基本だと担任は口に出さずに見守っている‥
 そんな時、一人の子供がポン、と手を叩いた。
「ねえ、冒険者のお兄さんお姉さんに教えてもらえないかな、お話のアイデアとか‥」
「あ、それいいかも。冒険者の人たちとお友達になれるし!」
「でも、いいのかなあ。テストに他の人たちの手を借りて‥先生、いい?」
「う〜ん、ま・いいでしょう。その代わり依頼料は君たちの自腹よ」
「はい!」
 ポケットから銅貨や銀貨が少しずつ出てくる。
「じゃあ、私が依頼書出してきてあげる。練習してなさい」
 立ち上がって部屋を出て行く教師の背中を子供達は心配そうに見つめていた。
「誰か、手伝ってくれるかなあ‥?」

「‥と、言うわけで皆さんにお願いです。脚本のテコ入れとアイデア出しを手伝ってやっては頂けませんか?」
 真剣な顔の担任にそう、問われて冒険者達は問いを返した。
「子供って何歳くらいなんだ?」
「舞台に出るのは8歳から12歳くらいまでですよ。主役の王子と娘は10歳です」
「10歳か‥」
「皆さんのアイデアで、この劇を面白くしてやってください」 
「脚本をいろいろ変えてもいいのか?」
「もちろん、最終的に王子様と娘が結ばれればそれでOK。条件はそれだけです」
 いろんなアイデアを元に手を加えていくのだという。
 だが、このくらいの年齢になると口も、手も達者になるもの。
 子供の相手は思いっきり不安だった。
「大丈夫だろうか」
「大丈夫ですよ。やる気はある子たちです。子供達自身から出た提案を大切にしてあげたいんですよ」
 担任はそう言って笑った。
 子供というのは恐ろしく正直でつまらないと思えばあっという間に投げ出してしまう。
 それがどんなに大事なことでも。やらなくてはならないなどの説得も効きはしない。
 つまり、逆を考えれば子供達を集中させることは簡単なのだ。
 面白ければいい。自分がやりたいと思わせればいい。
 興味をひき、実践しながら指導する。教育の基本である。

「と、言うわけでお願いします。脚本だけではなく衣装の監修や、メイクとか演技指導とか好きにやってくださってもかまいませんから。用意しなくてはならないものなどはこちらで全て準備します」
 依頼料は少ないが‥子供が出したにしては多い。きっと‥
 照れる担任の思いと、ちょっと演劇にも興味があって、冒険者達は頭の中に童話を、子供の頃感じた心のトキメキを思い出し微笑んだのだった。


●今回の参加者

 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4910 インデックス・ラディエル(20歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea8444 コーダ・タンホイザー(46歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8446 尾庭 番忠太(45歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

 マジカルシードは魔法使い育成学園。
 学園の卒業生にも冒険者を多く輩出しており、在学中の生徒も殆どが冒険者に憧れ、目指している。
 だから‥ 
「うわ〜! 本当の冒険者だ〜♪」
 依頼に応じてきた冒険者達を子供達は輝く目で取り囲んだ。
「おじさん、でか〜い。これが本当のジャイアントなんだ」
「おじさんなんて失礼でしょ? お兄さんって呼ばなきゃ」
「あ、そっか、今の無し。お兄さん。よろしくお願いします。握手して〜握手〜」
 目の前での会話に怒るも怒らないも無いが‥困る。
「た、助けてくだされ〜」
 纏わりついて来る子供達を引き離すことも出来ず尾庭番忠太(ea8446)は主、小坂部小源太(ea8445)に助けを求める視線を放つ。
 だが小源太はクックッと笑うばかりだ。
「で、どうかな? こんなお話‥」
 同じマジカルシード在籍インデックス・ラディエル(ea4910)が書いた脚本を、演出担当生徒は読みふけっている。
「はい! とっても面白いです」
「後は、少し書き直して‥手伝っていただけますか? 先輩」
「勿論。がんばろう!」
 先輩。くすぐったい気持ちを感じながらインデックスはペンを取った。
 向こうでは光月羽澄(ea2806)が両手一杯の服を、子供達に合わせている。
「こっちは少し裾を詰めて‥、王子様役のマントはこれでよしっと‥」
 鼻歌を歌いながら、針で服にサイズの印をつけていく腕、子供達も感心せずにはいられない。
「ラストの結婚式の衣装は任せてね。ステキなのを作ってあげるから♪」
 子供達の笑顔が声と一緒に跳ねる。
 パチン、指の音が鳴った。それから聞こえる楽しげな横笛の音色。子供達の視線が一つに集まる。
「では、練習始めましょう。時間もあーりませんしネェ、演じるのは皆さんです。ミー達は手伝うだけですよ。頑張って下さい」
「「「「「ハイ!」」」」」
 元気な子供達の声にコーダ・タンホイザー(ea8444)は嬉しそうに微笑み再び楽しげな曲を奏で始めた。

 一日目

「脚本って、むずかしいよぅ」
 涙目で爪を噛むインデックスの頭を小さな手がよしよし、と撫でる。
 脚本ばかりは個人作業。他の人の手は借りられない。
 焼き菓子をつまみ、紅茶を飲みながら一生懸命物語を綴っていく。
「あ‥また誤字った‥」

 二日目
 
 キン! 潰した剣のそれでも響く、鋼の音。
「王子様、しっかり!」
 王子役の生徒の剣術指導を小源太はかって出た。
 正直に言えばまだ小源太自身も駆け出し。実戦経験は殆ど無い。だが‥
(「人に教えるのは、自分自身に教えるのと同じことなんですね‥実になります」)
「最後は、剣を正眼に構えて‥ 一気に!」
「ハイ!」
 バサッ‥横から手を沿えた少年の剣が敵役のシーツを見事に切り裂く。
「その調子です‥ 次は‥」
 剣術指導は続く‥ 

 三日目&四日目
 
「出でよ、大ガマ!」
 ゲヨ〜ン!
「わわっ!」
 番忠太が呼び出したコンストラクトに悪魔役の子は目を見張らせる。始めて見た‥忍術。
「ねえ‥噛まない?」
 おそるおそる近づく子供に、番忠太は優しく笑って背を押す。
 ベオン!
「ワッ!」
 長く生暖かい舌が子供の頬を擽る。照れた様に笑うと少年は大ガマの身体に触れそっと撫でた。
「よろしく」 
「ゲオ!」
 向こうで子供達と大ガマが友好関係を築き始めた頃、向こうでは‥
「もっと近づいて‥顔を見合わせて‥ハァイ、いい調子。もっとラブラブにいきましょー」
 コーダが特に力を入れたLOVEシーンの演出指導中だ。
 10歳の少年少女には刺激が強いかもしれない。
「あ、あの‥お疲れ様‥」
「あ、ありがとう‥」
 顔中を林檎のように真っ赤にして俯く主役二人に、コーダはパチン、指を慣らした。
「若いっていいですねェ」

 五日目
 
 準備はほぼ整った。
「いよいよ明日は本番。頑張ってね」
「「「「ハーイ」」」」
 確認の後、子供達は寮へ帰って行く。早く寝るのも役割のうち。
 そう言って送り出したインデックスは、夜更け、準備室に灯る明かりを見つけた。
「羽澄さん? 何を‥」
 声をかけてみたが、見ればそれは簡単に解る。
「明日の衣装。ラストの結婚シーンの衣装だけでも新しく作ってあげようと思って‥」
 他は直しで間に合せたから‥羽澄はまた針を動かす。
 松明の灯りの下、銀の髪と手元の白い服が光を弾く。その頑張りに素直に彼女は頭を下げた
「ご苦労様です」
「そちらもご苦労様、いいお話になったみたいね。小さい頃に‥母様が聞かせてくれた話‥。結構好きだったし」
「‥思い出‥」
 言いかけて閉じられた言葉を掘り返すような事を羽澄はしない。インデックスもまた言わなかった。
「明日‥上手く行くといいわね」
「ええ‥」
 窓から見上げる星空が、明日の晴天を約束していた。

 当日
 大講堂には生徒、教師、そして冒険者などが次々と集まってくる。
 準備を始める子供達の顔、浮かぶ緊張の色。
 これも一種のテストであるし、何より多くの人の前での公演。緊張しない方がおかしい。
「‥大丈夫、成功しますよ」 
「やってきたことをちゃんと出せれば大丈夫じゃよ」
「ミー達もここで見てまーす。Fhigt!」
 冒険者達の励ましに子供達からの笑顔が答える。
「はい、綺麗になった。そして最後のおまじない‥」
 少女たちの口元に引かれた紅。何故だか大人の香りと味がして勇気をくれる。
「次は‥『灰被りの王妃と水の娘‥』」
「さあ、出番よ。頑張って!」
「「「「「ハイ!」」」」」
 幕が上がってしまえばそこは俳優の世界。
 冒険者達は黙って見守るしかなかった。


 かつて灰被りと呼ばれていた娘は、王子と出会い結ばれ王妃となり、幸せに暮らしていました。
『灰被り』は別の古き言葉で『火に愛されし者』
 良き魔法使いと火の精霊の祝福によって国は栄え王子も授かり、永遠に幸せが続くと信じられていました。。
 ですがある時、王妃は悪魔に呪いをかけられました。
 救うためには水の精霊の祝福を受けた娘を捜し、王子が娶ること。
 母を愛する王子は、その娘を捜し旅に出ました‥

 背景に合った絵、丁寧に作られた衣装。要所要所で使われる魔法。
 子供達の演技は拙い所も多い。だが、何よりの一生懸命さが観客の目を惹きつけた。

「ゲオ〜〜!」 
「大丈夫かい? 怪我は?」
「ありがとうございます」
 王妃を救う旅の中、王子は水の魔物に襲われた一人の少女と出会います。
 王子は大振りの一刀両断で魔物を切り捨てました。
(「美しい‥ん?」)
 その時王子は気付きます。魔法使いから預かった靴が輝いている事を‥
『この靴をピッタリと履くことの出来た娘こそあなたの運命の人。そして、あなたご自身の力で運命の人を捜すのです』
 娘に王子は靴を差し出しました。靴はまるで誂えたように娘の足を納めます。
(「この子が‥? だが‥運命に結婚を強いられるなんて‥」)
 複雑な思いを抱えながら王子は娘アリアを城へと誘いました。
 王子の願いにアリアは従い二人は城へと向かったのでした。
 
「ガマよ‥ご苦労。なかなかいい腕じゃのお‥」
「練習を頑張っていましたからね‥さあ、そろそろ」
 舞台は‥クライマックスだ。

「ハハハ! ご苦労だったな。王子よ。その娘を渡してもらおうか?」
「何を! 母上の命を救うために絶対に彼女は渡さぬ!」
「ほう、そなたにできるか。私を倒すことが!」
 襲い掛かる悪魔に王子は懸命に剣を振るいました。
 正眼から、また突き、そして鋭い斬激‥ですが悪魔に剣はまったく通じません。
「くそっ! 僕は‥こんなにも無力なのか‥」
「さあ、死んでもらうぞ!」
 悪魔が爪を首に伸ばした時‥ 王子の身体と剣が光りだしました。
「何ぃ!」
 その時悪魔は気付きます。淡く光に包まれたアリアの祈りが、王子の剣に宿るのを‥
「アリア‥ 行くぞ!」
 王子は全ての力を一刀に込めて剣を振るいました。
「うぎゃあ!!」
 悪魔の姿は闇に溶けるように消えていきました‥

「ミーの出番ですねェ。思いっきりロマンチックに‥」
 舞台袖で彼は唇に笛を当てた。

「ありがとう‥アリア」
「私は王妃さまの呪いを解いたなら村へ戻ります。どうか‥ご自由に‥」
「いいや、僕は気付いたんだ。君の美しさ、そして‥それ以上に美しく優しい心を愛していると。呪いなど関係ない。結婚して欲しい」
「‥王子様!」
 柔らかく、豊かな音色の笛の音が静かに恋人たちの上に、まるで透明な雪のように降り積もっていきました。

 暗転。舞台袖で最後の衣装を子供たちは着付けて貰う。
「最後のシーンよ」
「あと少し、頑張って」

 二人は呪いをかけた悪魔を倒し、無事お城へと戻りました。
 その功績と願いに王と王妃も二人の結婚を許し、水と火と良き魔法使いの祝福を受け、二人は末永く幸せに暮らしたということです。


 幕が閉じ‥再び開く。
 溢れる拍手の中、子供達は深く観客に向かってお辞儀をした。
 そして‥衣装のまま舞台袖に駆け込むとまた舞台の中央に戻る。
 王子は小源太を、アリアは羽澄を、悪魔役は番忠太を誘い出し、手を繋ぎその手を掲げた。
 王妃はコーダの手を取り、そして最後に現れた王は優雅に一人の少女をエスコートして舞台の最中央へ誘った。
「あ、あの?」
 インデックスの顔は炎のように赤く燃える。
 拍手は彼らにも惜しみなく注がれ‥喝采の中、無事舞台は幕を下ろした。

「あの子達、いい評価を貰いましたわ。ありがとうございます」
 祭りが終わり、冒険者達には報酬と共に小さな封筒が託された。
 それは‥子供達からのお礼の手紙。
「ステキなお話と、舞台をありがとうございました」
「いつか皆さんのような冒険者になります」
「その時はいろんなこと、また教えてください」
 中に入っていた学食チケットは子供達からの純粋な贈り物だろう。

 舞台は夢。
 どこよりも美しく花開く。
 一つの夢を作り出した冒険者達はまた旅立つのだろうか。
 
 物語のように、誰かの幸せという花を、咲かせるために‥