ハーフエルフ いじめっ子、いじめられっ子

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月29日〜12月04日

リプレイ公開日:2004年12月05日

●オープニング

 ――学園都市ケンブリッジ
 幾つもの学び舎が建てられ、様々な人々が勉学に勤しむ町である。
 この巨大な学園都市はハーフエルフを受け入れる事を宣言した。
 ――ハーフエルフ
 少なくともイギリスの民は、彼等が迫害の対象とされている事を知っている。
 ジ・アースでは、混血種を禁忌に触れた存在として忌み嫌う傾向があり、狂化という身体的特徴が神の摂理に反した呪いといわれているからだ。
 では、ケンブリッジに何故ハーフエルフが暮らしているのか?
「学問を受ける者に例外はないのです!」
 ――生徒諸君よ、平等であれ!
 学園理事会の言葉であった。ケンブリッジは寛大な町として、評価される事となる。
 しかし、学校とは閉鎖された小社会だといわれるものだ。
 光の当たらない場所で、ハーフエルフ達は苦汁を舐めているかもしれない―――― 

 ブワシャッ!
 彼らの頭上に大きな水の塊が重力の法則にしたがって落下した。
「何しやがる!」
「いい加減に、子供じみた悪戯は止めてくれたまえ」
 パタン、図書室から借りてきた本を閉じ、少年は立ち上がった。
 外見にそぐわない大人びた目線、凍ったような表情。ずぶぬれの子供たちは彼を見る。
 馬鹿にされたような顔に、嫌、実際馬鹿にされているのだろう。
 冷えた身体、顔だけ真っ赤にして彼等はせめてもの怒りを彼の背中にぶつけた。
「お前なんか、呪われた化け物の癖に! 覚えていろ!」
 ドバシャッ! 
 再び落ちた水の固まりはさっきのより大きく、重く、子供たちを完全に押しつぶした。
 水びたしになった部屋と、廊下を立ち去る少年の背中と耳を見つめクラスメイトたちは深く、重い息を吐き出したのだった。

 彼、ミロン・ハースは学園に来て間もないハーフエルフだった。
 冒険者の両親を持ち共に旅をしていた、幼少時を幸せに暮らした数少ないハーフエルフの一人だと言えるかもしれない。
 剣士の父に剣を習い、魔法使いの母に魔法を教わった。その幸せな時がずっと続くと思っていた。
 だが、それはモンスターの襲撃により父母を失うまでのこと。
 ケンブリッジの教師が偶然彼を見つけ出すまでに何があったのかは定かではない。
 だが、その少年が笑顔を持たなかったことが、全てを物語っているのかもしれない。
 ケンブリッジ魔法学園に所属したミロンはみるみるその実力を上げていった。
 元々基礎知識は身についていたのに加えて。生来の素質もある。
 今や水の魔法については学園でも指折りに入るだろうと言われていた。
『出る杭は打たれる』
 ジャパンのことわざであるそうだが‥ミロンはその言葉の正しさを実感していた。
 その才能に嫉妬した一部の子供達がねちねちと彼を苛め始めたのだった。
 彼がハーフエルフであることも加えてその攻撃は半端ではなかった。
 靴を隠す、本を燃やすなどはまだ序の口。
 悪口を言われ、嘘の評判を巻かれ、攻撃までされる。
 旅の中でも感じていた人々の「ハーフエルフ」への迫害がこの学園でもちゃんと行われていたのだ。
 悲しいことに。
 だが、ミロンは大人しく苛められてなどやらなかった。
 服に炎の魔法が点された時、速攻で放った相手に専門クラスのアイスコフィンをお見舞いしたのをきっかけに彼は自分に敵対するものに遠慮することなく魔法を使った。
 無論それは褒められたことではなく幾度と無く注意を受け、味方を減らし敵をを増やしていった。
 ある時、心配したクラスメイトの一人がさりげなく注意をした時、彼は表情を変えずに言ったという。
「心配は感謝する。だが彼らなどゴブリンと同じだ。取るに足らない」
 その言葉に怒り心頭にきた少年たちはある事を企んだ。一つの罠を‥

「俺たちがゴブリンだと抜かしたな。ゴブリンがとるに足らねえとも。なら勝負だ」
 少年たちのリーダーは学園から少し離れた森にミロンを誘い出した。
「いいか、度胸試しだ。森の奥の切り株においてあるアイテムを早くとってくる。俺が勝ったら俺たちは以降お前にちょっかいは出さない。お前が負けたら俺たちの手下で奴隷だ」
「そんな勝負を受ける意味は僕には無い、帰らせてもらう」
 踵を返しかけたミロンの足が止まったのは少年があることを呟いたからだ。
 その言葉によってミロンは勝負に参加することになった。
 そして‥森から帰っては来なかったのだ。

「ミロンが消えてもう3日になります。どうか‥ミロンを探し出してください」
 担当教師と、数名のクラスメイトがギルドの扉を叩いたのは、言葉どおり3日後だった。
「彼が入っていった森は安全な森ではありません、しかも彼等は謝った地図を渡し、道に迷わせたのです」
 彼らとはミロンを森に連れ込んだ者達だった。
 ミロンが戻らないことをクラスメイトが担当教師が相談するまで彼等は知らん顔をしていたが、問い詰められて白状をする。
 怖がらせ、恐れさせるために嘘の肝試しを誘いかけたと。
 地図は過ち、アイテムも無く、帰っても来ない。
「お願いします。ミロンを探し出してください」
「あいつは結構いい奴だよ。ああ見えて優しいし」
「ミロンが肝試しに乗ったのは、お前が標的にならないのなら別の奴を苛める。そう言ったかららしいんだ」
 心配そうに見つめる子供達の目に冒険者達の優しい笑顔が浮かぶ。
 任せておけと、言うように‥。

●今回の参加者

 ea0355 アクア・サフィアート(27歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea4910 インデックス・ラディエル(20歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea5352 デュノン・ヴォルフガリオ(28歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea6832 ルナ・ローレライ(27歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

 依頼の内容を聞いて、冒険者達が吐いた息は重く‥そして暗い。
「心痛むできごとですね‥」
「まったくだ、他人を苛めて何が楽しいんだか‥」
 ルナ・ローレライ(ea6832)の言葉に同意するようにデュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)は頷いた。手の中ではデュノン手製の焼きたてパンが暖かい。
 パンのぬくもりが気持ちいいと感じる秋、いや冬とさえ言える今。
 山奥で子供が一人、三日も行方不明‥。大丈夫なのだろうか?
「彼の体力でどのくらい歩けると思うのであるか? それによって、捜索の範囲も違ってくるのであるからして! ‥森の中である事を考えると一日5〜6kmと言ったところか?」
「本気で歩けば森を出られるだろうけど‥出てこないんだからまだいるんだよね。森の中に‥」
 マックス・アームストロング(ea6970)の肩からファム・イーリー(ea5684)のため息が聞こえる。
 彼らは担任から大よその森の地図と彼の行動範囲などを聞くことができた。
「大体、この半径5km内でござろう」
 図の中央を葉霧幻蔵(ea5683)は丸く囲む。
「早く、見つけ出してあげようよ‥」
 アクア・サフィアート(ea0355)は心からの心配の声でそう告げた。
「ほら! しっかり描いて! アンタ達のお陰で一人の命が消えかけているのかもしれないんだからね!」
 向こうの机ではユーディス・レクベル(ea0425)がいじめっ子達を怒るような顔で睨みミロンに渡した地図を書かせている。
「俺たちは‥別に命なんて‥、ちょっと脅かすだけのつもりで‥」
「そうだよ。元をただせばアイツが生意気だからいけないんだ。素直に謝まって出てくれば良かったのに‥」
 かすかな反省はあっても罪の意識はない。それがいじめっ子というものだが‥
 BAN!
 音に背を振るわせる少年達を机を叩いたユーディスはキッ! と睨みつけた。
「あんた達! 反省して無いの? 誰かをいじめても、自分の能力や価値は高まらないわよ。自分を磨きなさいよ」
 子供達は俯く。返事は‥ない。
 自分達が悪い事をしたのだと解って欲しい。息を吐いたユーディスが見つめる子達とは反対に、別の子供達と対するインデックス・ラディエル(ea4910)の言葉は優しく、笑顔は柔らかい。
「皆の素直な気持ちを書いて、ミロン君を本当に助けてあげれるのは君達なんだよ」
 ‥準備を整えた冒険者達。インデックスは受取った数枚の羊皮紙の束をそっと机の上に置いて走り出して行った。

 晩秋の森を吹く風は決して温かいものではない。
「ふう、寒〜いねえ‥。ミロン君大丈夫かなあ?」
 アクアは秋枯れの草を踏み、手に息を吐きかけながら呟いた。
 せめてもの救いは数日、雨や雪が降っていないことだが‥アクアにとってはちょっと不幸だった。
「水溜り‥無いです。がっくり‥」
 パッドルワードで情報を探そうと思っていたのに当てが外れた。俯くアクアの肩をデュノンは優しく叩く。
「まあまあ、気にするなって。方法はいろいろある。どうだ? 才蔵さん?」
 焚き火の跡や、足跡を調べていた才蔵は立ち上がるとパンパン、枯れ草、砂など服の汚れを落とした。
「ダミーなどでなければ、向こうへ行った可能性が高いでござるよ」
「よし、行こう‥あいつらを倒してからな‥」
「来た‥みたいね」
 木陰から頭を覗かせるゴブリン。5〜6匹というところだろうか? 向こうも気付いたようだ。
 意気揚々と近づいてくる彼らに、デュノンも才蔵も剣を構えた。
 まずはアクアが気合一発!
「ウォーターボム! ドッカーン!」
 手近なゴブリンにウォーターボムをお見舞いした。
「今は、ゴブリンさんなんて相手にしている時間は無いんだから一気に‥ありっ?」
 二発目の詠唱を始める必要は何故か無かった。剣も魔法も相手を失う。
 彼らは一目散に逃げ始めたのだ。一匹残らず。水の魔法を見た直後。
「? 何で?」
 その答えが出るのは、もう少し後になる。  

「ふ〜む、ここと、ここが違う。この辺から間違えたのかな?」
「おそらく、そうであるな。本当なら右に曲がるべき所を左に行くことになっているのであるからして‥」
 ユーディスはマックスと正しい図と、間違った図を並べ見て、間違った地点を割り出そうとしていた。
「ここだ‥ルナ殿!」
 指差された場所に立って、ルナは空を仰いだ‥。
「解りました‥。刻を見守る月よ。見守りし、刻の流れを今我に示せ‥‥パースト!」
 ふわり、目の前に少年の姿が見える。月の無い夜。
 細い金の髪、空色の瞳の少年が、ゆっくりと森の中を歩いていく‥そして‥!
「えっ‥嘘でしょう?」
 思わず押えた手が紡ぎだした小さな声、仲間達はその意味を長く知ることができなかった。

 森の上を飛ぶその影はあっちに行ったりこっちに行ったり‥
「‥おっとっと、ファムちゃん、そっちに何か見えますか〜?」
「ううん? まだ〜〜」
 空中から空飛ぶ箒で捜索をしていたインデックスはファムに声をかけた。
 空から捜す案は悪くなかったが森の中の一人の子供の捜索は少し無謀だと、今更ながらに思う。
「もう少し、下に降りて〜!? ファムちゃん、見て下さい。あれ!」
 森の奥に立ち上る煙が見える。
 人の気配などあるはずもない山奥。
 彼らは顔を見合わせると、頷き合って飛んでいく。風のように‥。

「これは‥一体?」
 冒険者達は、我が目を疑った。周囲に一面の累々たるゴブリンの死体。
 その数は10を超えるだろうか?
「夢や間違いじゃなかったのですね」
 呟いたのはルナ。彼女はパーストの幻で見たのだ。紅き瞳の少年が笑いながらゴブリンを屠っていくさまを。
 そこから暫く歩いた先に‥動く影。
「‥貴方達は?」
 目の前に立つ少年が不思議そうに問いかけた。
 そこには衰弱した様子も無い少年。彼らが捜していた金髪のハーフエルフ。ミロンが立っていた。

 集まってきた冒険者はミロンに事情を話す。
 級友と担任の依頼によって彼を捜しに来た。と。
 だが、それを聞いた少年の顔に浮かんだもの。喜びよりも戸惑い、とマックスは見た。
「そうですか‥」
 言ったきり黙りこくった少年との沈黙を破ったのはデュノンだった。
「‥お前、最初からこんなの出任せだって知ってたんじゃねぇか?」
 再びの沈黙がそれをイエスと肯定する。やっぱり。そんな気持ちが冒険者達に流れた。
「ねえ‥キミ、寂しくないの? こんなところで、一人で‥」
「僕には‥ここは悪い住み心地ではありません‥」
 さりげなく答えを擦りかえる替えていることに問いかけたファムも冒険者達も気付いている。
「心配してたよ。教師も‥アンタの友達もさ‥」
 ユーディスの言葉もどこか虚しい。心配していたのは本当。だが彼の心を動かすには弱い気がして‥。
 予想通り喜ぶ返事は返ってこない。首を彼は静かに横に振った。
「僕は、あそこにいない方がいい気がします。‥学校で暴れたら皆に迷惑をかける。それくらいなら‥」
 ここは結構住める、と彼は言う、ポケットに入っていたナイフ一本で火をおこし木の洞に身を隠し。水は魔法で、食べ物は木の実や捉えた動物。
 ゴブリンの着ていた毛皮で寒さをしのぐ。親に教えて貰った知恵と語るミロンの声を少女が止めた。
「でも‥寂しいんでしょ? 帰ろうよ。一緒に」
「‥アクア‥」
 仲間と、少年が見つめるアクアの蒼い瞳は同じ色の涙を湛えている。
「アクアはお友達になりたいよ。同じ水のウィザードだもん。あのね、種族が違うというだけで偏見の目で見る人もいるかもしれない、分かり合えない人達もいるかもしれないけどすべてを拒絶しないで。みんながみんなそうじゃないもの」
 一生懸命、アクアは話す。
 学友をゴブリンと同じと言っていた少年。だが今、彼を取り巻くゴブリンと友達が同じであって欲しくないとアクアは強く思う。
(「魔法を恐れられるか‥屍となって横たわるか‥そんなの‥絶対にダメ!」)
 屍に囲まれたままなど、寂しすぎる。
「冒険者は、一緒に冒険する者との信頼が大切にござる‥そなたの父君、母君もそれを知っていただろう? だから貴公が生まれたのだから‥」
 才蔵は長い説教は止めた。ただ一言。思いを伝えたかったのだ。
「でも、僕は‥」
「お前の気持ちは解る。俺の故郷も異種族への迫害は激しかったしな。いや、ここよりももっと凄かったかもしれない。お前だけじゃないんだぜ。苦しんでいるのは‥」
 口の中が苦くなる思いを噛み締めながらデュノンは思い返す。お前だけじゃない。という言葉は何の解決にもならないかもしれないが、あのような苦しみを抱く人々をもう見たくは無いのだ。
「まあ、帰りたくなきゃ帰りたくなるまで待つさ。それまで俺も残る」
 ドッカリ、座り込んでデュノンは下からミロンの顔を見つめるとニッコリ微笑んだ。
「アクアも残る。でも‥できれば一緒に帰ろう。皆‥待ってるよ」
 皆、待ってる。それは‥嘘だ、と実はミロンは思っていた。
 でも‥
「‥帰ります。ご心配をおかけしてすみませんでした」
 頭を下げる。誰の為でもない。自分の為に。両親以外誰も構ってくれなかった自分の為に迎えに来てくれた冒険者に感謝したい。
 その気持ちは、本当だったのだ。
「よっしゃ! なら帰ろうぜ。ほら、これやるよ。食いもんはあったとしても腹は空いたろ?」
 デュノンはカバンに持っていたパンをポーンとミロンに向けて放った。
 もう固く、焼き立てとは言えなかったけれど、受取ったパンにミロンは、ほのかな温もりを感じたような気がしていた。

 戻っても、実は何も問題は解決していない。
 ゴブリンを恐れさせ、屠るほどの水の魔法。そして‥ルナは誰にも言わなかった狂気の瞳の彼。
 月の無い夜が彼を狂わせる。
 それを皆が受け入れると、断言する自信は誰にもなかった。
「でも‥です」
 信じようとインデックスは思う。人の心を。そして‥子供達の思いを‥
「主の御加護がありますように‥」

 数日振りに教室に戻ったミロンを、子供達は笑顔で出迎え‥はしなかった。
 腫れ物に触るように遠巻きに見つめる彼らに肩をすくめ、彼は席にカバンを置き席に付く。
「?」
 カサッ。
 机の上の幾枚かの羊皮紙に気付きミロンはそっとそれを手に取った。
『ごめんね。君の事嫌いじゃないよ』『僕は、優しい君を知っている』
『今度、魔法を教えて』『友達になってくれる?』
 これも嘘ではないか。そう思ってしまう自分にミロンは苦笑した。
 悲しい目に遭い続けてきた種族の自己防衛本能だろうか?
 でも‥
 ミロンは立ち上がった。
 逃げ出すのはいつでもできる。ならば信じてみよう。もう少しだけ。
 自分も欲しいから。信じられる存在が‥。両親のように、彼らのように‥。
 いじめっ子、いじめられっ子。
 でも、それより先に、自分達は一人の同じ命なのだと冒険者達は教えてくれた。
 深く深呼吸。そして、手紙の宛名の人物達の前に立つ。
「ありがとう‥。友達になってくれる?」
 ミロンは手を差し伸べた。心を、信じて‥。
 
 差し伸べられた手が‥ぬくもりを掴んだかどうかは解らない。
 でも、ミロン少年を捜す依頼が二度と出ることは無かったという。