【聖夜祭】 天使たちの舞踏曲

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2004年12月28日

●オープニング

 冒険者ギルドの依頼掲示板ではなく、壁にこんなチラシが貼ってあるのを冒険者は見つけた。

【シフール飛脚&冒険者酒場合同 
 冬の特別企画 聖夜祭パーティ開催 聖なる夜をステキな仲間達と共に‥】
『常日頃、シフール飛脚をご愛顧いただきありがとうございます。
 感謝の気持ちを込めて冒険者の皆様に、シフール飛脚主催、冒険者酒場協力で聖夜祭パーティを行います。
 開会は12月24日 夜7:00より 冒険者酒場にて
 会費は0.2G
 飲み放題、食べ放題。お土産付きです。
 余興用の舞台も用意いたしますので、腕に覚えのある楽師、ダンサーの皆様はぜひ技をご披露ください。
 また、シフール飛脚からの余興としまして秋の感謝祭にて好評でしたプレゼント交換会を今回も行いたいと思っております。
 何か一つ、パーティ参加の際にプレゼントをご用意頂きます。
 ラッピングとメッセージボードを添えるのをお忘れなく。
(ラッピング用の布、メッセージ用木板などは何種類か用意いたしております。良ければご使用ください)
 皆さんがパーティ参加中にそのプレゼントをシャッフルいたしまして、後ほど皆さんに一つずつお渡しいたします。
 誰に、どのプレゼントが渡るかは解りません。完全ランダムです。
 自分にどんなプレゼントが届くか。
 自分のプレゼントを受取った誰かが、どんな顔をするか、それもまた楽しみとなることでしょう。

 これをきっかけに新しい交流の輪が広がるかもしれません。

 聖なる夜を皆さんと共に楽しく過ごせればと考えております。
 皆さんのご参加をお待ちしております』

●今回の参加者

 ea0665 アルテリア・リシア(29歳・♀・陰陽師・エルフ・イスパニア王国)
 ea0885 アーサリア・ロクトファルク(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1706 トオヤ・サカキ(31歳・♂・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2231 レイヴァート・ルーヴァイス(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2388 伊達 和正(28歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3441 リト・フェリーユ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3747 リスフィア・マーセナル(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3803 レオン・ユーリー(33歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea5147 クラム・イルト(24歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)

●リプレイ本文

 それは、聖なる夜。
 冒険者酒場の中には天上まで見上げる、大きなクリスマスツリーが飾られていた。
 飛び回るシフールがにこやかな笑顔で、彼らパーティの参加者を出迎える。
 料理や、飾りつけの手伝いをしながら。
「あ、いらっしゃい。どうぞ、こちらへ」
 声に促され、集う冒険者達の腕には、大きなプレゼントと、期待が抱えられて‥‥。
 一日だけの天使たちの宴が今、始まる。

「やっほ〜! いいわねえ、こういうのも。こんばんわ。あたしはアルテリア・リシア(ea0665)よろしくね」
 スカートの裾を持って優雅にお辞儀をするアルテリアにプレゼントを預けたリスフィア・マーセナル(ea3747)は丁寧にお辞儀を返した。
「貴女も踊り子? ‥‥じゃないわよね。でも何だか同じ匂いを感じるわ」
 アルテリアの問いにリスフィアはええ、と明るく笑う。
「私は戦士よ。でも‥‥踊りは大好き。貴女も?」
 もっちろん、アルテリアはそう言って手を差し出す。後でお互いの踊りを披露しよう。そう約束しあって彼女達は手を握り合った。

 次に入り口を潜ったのはレディをエスコートする赤毛のナイト。
「‥‥ありがとう。レイ。あ、ボク、ちょっと準備手伝ってくるね!」
 照れたように駆け出すパートナーを、レイヴァート・ルーヴァイス(ea2231)は困ったようなでもホッとしたような笑顔で見送った。
 十年来の幼馴染で婚約者。アーサリア・ロクトファルク(ea0885)は聖母セーラに仕える神聖騎士。今までの聖夜祭も彼女と共に過ごすことはできなかった。彼女は、自分が楽しむより、他者を楽しませる事を望むものだから。
 だが‥‥。
 マントの下に握り締めた包みがカサリと揺れる。大切な人に、大切な物を贈る。それが聖夜祭。ならば‥‥今夜こそ。
 素敵な思い出と自分の気持ちを、彼女に贈りたかった。一緒に楽しみたいと心から、思っていた。

 キョロキョロ‥‥ キョロキョロ‥‥?
「う〜ん、イギリスの酒場は勝手が解らないなあ。どこを、どう行けばいいんだろう?」
 兎のような長く垂らした銀の髪を右に、左に動かしながら彼女はあたりを見回していた。
 ぱさっ! 
「わっ!」
「あ、ゴメンゴメン。大丈夫?」
 エル・サーディミスト(ea1743)は白いドレスの少女に振り返り、髪を払った。
「大丈夫です。ごめんなさい。私の方も少しボーっとしていましたね」
 エルフの娘はエルとは正反対の金の髪を揺らして微笑む。
「私はリト・フェリーユ(ea3441)と申します。貴女もパーティに参加されるのですか?」
「ウン! でもまだイギリスについたばっかりで、友達もいないんだよね。良かったら‥」
「なら‥‥」
「ご一緒してくれない?」
「ご一緒しませんか?」
 音楽的に重なった二つの声に、鮮やかな二つの笑い声が輪唱する。
「楽しくなりそうだね。お友達とかいたら紹介してくれる」
「ええ、後で良ければ私の親友にも紹介しますね」
 二人は肩を並べ会場へと入っていった。

「あら、伊達さん‥‥よね。お久しぶり」
 リスフィアのかけた声に伊達和正(ea2388)は嬉しそうに顔をあげて、丁寧にお辞儀をした。
「ああ、リスフィアさん。どーも面と向ってお会いするのは初めまして。伊達・和正と言います」
 ジャパン人らしい真面目な挨拶の後、リスフィアは? 疑問符を顔に浮かべる。
「どうしたの?」
 珍しそうに、嬉しそうに周囲を見回していた和正は、ああ、とニッコリと笑う。
「こんな静かな祭りもあるんですね、故郷の祭りは派出でにぎやかなんですがこっちも悪くないです。綺麗なお姉さんと出会えましたからその事はこっちの神様に感謝してます♪」
「静か?」
 結構賑やかだと思うが‥‥リスフィアは軽く和正のアプローチをかわしながら笑いかける。
 ふと、見ると向こうで和正と良く似た感じの若者がいるのが目に付いた。アルテリアに声をかけるレインフォルス・フォルナード(ea7641)はナンパスキル発動中。
「美しいお嬢さん。後で私と共にお食事でも‥‥」
「そうね、あ・と・で♪」
 ウインクして去っていくアルテリアの背中を見送りながらレインフォルスは肩をすくめ、ゆっくりと後を追いかけた。

 女二人、男女ペア、そんな組み合わせが多い中、男性二人のペアもなかなか目を引く。
「こっちに来て聖夜祭、初めてなんだ。いいよなあ。こういう賑やかなのもさ」
 レオン・ユーリー(ea3803)はクリスマスツリーや、忙しく動き回る人々を見ながら微笑んだ。
「何が起きるか、どういう人と知り合えるか、いや、楽しみだ。楽しみだ。ん?」
 自分ばかり話しているようでレオンは隣を歩く、友人に目をやった。
「なんだ? 何か俺の顔に付いてるか? トオヤ?」
 ほんの少し高い位置からの疑問を湛えた問いにトオヤ・サカキ(ea1706)は首を横に降った。
「何でもないよ。ただ‥‥」
「ただ、なんだ?」
 聖夜祭の空気を、人々の熱い思いを肌で感じる。
「いや、楽しくなりそうだなって‥‥さ」
 視線の先に楽しそうに踊る男を見ながら、彼はそう言って笑っていた。

 賑やかに飾られた街並み。明るく響く歌声。それは影に生きる彼には無縁のものだった筈だった。
 だが‥‥
「めり〜、栗酢馬巣でござる!」
 礼服に身を纏い、マスカレードを付けた男は明るく手を上げた。
 忍者、葉霧幻蔵(ea5683)の仮の姿である。
「キャメロットよ! 拙者は、帰ってきた!!」
 彼にはある思い出があった。
(「あれは‥‥決して忘れぬ!」)
 秋のある日、同じシフール便のプレゼント交換企画の時のリベンジ!
 彼のところに回ってきたプレゼントは誰が出したのか‥‥恐怖のアイテムだった。
 ラーン・スロット卿の肖像画‥‥[裏]
「今度は、どんなオモシロな一品と出会えるでござろうなぁ♪」
 リベンジ? に浮かれる男の横を、男装の少女の、冷静で、そっけなく、鋭い視線が刺していく。
「‥‥変な奴?」
 クラム・イルト(ea5147)の声が聞こえたのかどうかは解らない。だが、幻蔵もまたクラムの後を追っていく。

 主催者のシフールがホールの中央でくるりと回る。
「では、そろそろ皆さんがお揃いのようです。料理の用意も整いました!」
 酒場から回してもらったクリスマス特別料理が、温かいウィンターエールやミルクと共に湯気を立てる。
「では、ジョッキをどうぞ」
 エール、ミルク、ミード、気の抜けたエールを頼むものは今日はいない。
 それぞれの手がしっかりとジョッキを握った時、一際大きく、強い声が真っ直ぐに宣言する。
「今日は、楽しんでください。皆さんの聖なる夜に幸せが降り積もりますように‥‥メリー クリスマス! 乾杯!」
「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」
 ゴン! 鈍い音が、喉を鳴らす音がホールに響き渡る。
 聖なる夜、楽しい夜が今、始まった。 
  
 テーブルに並ぶのはいつものローストビーフに、ローストチキン、付け合せの茹で野菜もクリスマスカラーに見える。
 それに加えて柊とクリームで飾られたクリスマスプティング。星の形のジンジャークッキー。ミンスパイ。
「う〜ん、華やかよねえ。いただきまあす」
 むぎゅむぎゅ、もぐもぐ、まずは腹ごしらえと料理に手を伸ばすものが多い。
「これ、兎の肉じゃ‥‥ないよね」
 ミンスパイのフィリングをつんつんと突くエルの横でアルテリアは大丈夫、大丈夫と笑いかける。
「なかなか美味しいわよ。やっぱり食事は人に作ってもらうのに限るわ」
「もう少し、お酒のつまみのようなものがあってもいいんだけどねえ。まあ、味が濃い以外は‥‥なかなかいける」
「まあな、ほら、そこの男衆も一緒に飲もうぜ!」
「俺は、まだお酒はあんまり‥‥まだ17だし‥‥」
「イギリスの酒はサッパリしているな‥‥。故郷のものとは一味違う‥‥」
 酒を飲みあう男達の横で女性陣は、甘いクッキーやきらきらのクリスマスプティングにうっとりだ。
「このプティング、とっても美味しいです。リーフは‥‥食べられないなあ。食べさせてあげたいけど」
「食べすぎには注意しないとね。太っちゃう」
 無言で料理の山に手を伸ばすクラムの後ろでは、
「はい、レイ! どうぞ」
「ありがとう。これは、アーサリアが?」
「ううん、運んできただけ。でも、飾りつけは少し手伝ったかな」
「そう‥‥とっても美味しいですよ」
「良かった!」
 甘い会話が繰り広げられている。
「お二人は、仲がいいんですね」
 旧知の恋人たちの甘い様子を羨ましそうに見つめるリトに、仮面の男はそっと手を伸ばす。
「お嬢さん、良ければ拙者と‥‥」
 肩に伸びた男性の手が、彼女の肩に触れようとしたその時!
「あ、プレゼント交換が始まるみたい」
 スカッ! 男の手は空を切った。
「む。無念‥‥まあ、良いか。拙者も行かねば‥‥」
 握りこぶしで残念がっている暇は無い。彼も駆け出した。カウンターに向かって。
 もう冒険者達は集まっている。
 ジョッキも、グラスも、お皿も、ナイフも。ほんの少し休憩を貰ってそれを見つめていた。

「では、皆さん、目を閉じて。小さな天使が皆さんの下へ、プレゼントをお運びいたします」
 案内役のシフールの言葉に、彼らは目を閉じて手を前へと差し出した。
 やがて、手に不思議な感覚が伝わってくる。
 あるものは、重く、あるものは軽く。あるものは小さく、あるものは軽い。
 かさかさ、手の中の感触を確かめたり、揺らしてみたり。
「さあ、目を開けて。そしてプレゼントをお開きください。誰からのどんなプレゼントか。自分のプレゼントが誰の元に行ったのか。私たちからの贈り物は皆さんの笑顔です。では、どうぞ‥‥!」
 わあっ、小さな歓声。そして期待。子供のようにワクワクしながら彼らは一人一人、プレゼントを開き始めていた。

 一際大きな荷物が届いたのはアルテリアの所。
「な、なんだか随分、おっきいわねえ〜。何かしら?」
 自分の頭よりも大きい、一抱えもあろうかという品をアルテリアは見つめた。包む白い布地には手描きの白い兎の絵が描かれている。
「可愛いわねえ‥‥。きゃああ! 可愛い!!!」
 丁寧に開いた包みの中から出てきたのは純白の駿馬‥‥の被り物。
 添えられたカードには可愛く、綺麗な文字でこう書かれてあった。
『貴方の一年が、駿馬のようにしなやかで美しくありますように‥‥ノルマンの兎師、エル』
「エルさん、どうもありがと! まるごとメリーさんと並べておこう♪」
 実際としてみれば実用性とか扱いには困る品ではある。でも‥‥
「いいの。可愛いし、気持ちが嬉しいわよ。これで、後で仲間をおどかしちゃおうかしら」
 楽しめるものではありそうだった。エルもホッとしたように微笑んだ。

 次に大きい荷物と言えばアーサリアの所に届いたものだろう。
「大きい割には、軽いですけれど‥‥」
 シンプルな包装を開けると中には丁寧に紡がれた暖かい防寒服一式が入っている。
「これからの季節にはいいし、重要だよね」
 優しく手で撫でて温もりを確かめる。手に触れたカードに書かれたメッセージもシンプルで飾り気は無い。
『暖まってください』
 無骨で名前も無いが、優しい思いは伝わってくる。
「これをくれた優しい人と、セーラ様に感謝を」
 聞こえてきた祈りの言葉に、一人の戦士は嬉しそうに杯を掲げた。

 二人の品に比べるとトウヤの手元に届いたものはとても小さい。
 手のひらに収まるほどだ。白く、小さな箱に桃色のリボンがかかっている。
 とても可愛い感じがする。
「軽い。これは、ネックレスかな?」
 開いた中には予想に近い十字架のネックレスが入っていた。
 可愛らしい包みのイメージから少し離れる和風のメッセージカード。
『この贈り物を受け取る方に愛を込めて贈ります カズマサ・ダテ』
「あ、それは、俺からです」
 生真面目な侍の生真面目な笑顔。そして、生真面目な贈り物。
「ありがとう。大切にするよ」
 満面の笑顔と共に彼は十字架をしっかりと握り締めた。

「なんだろな♪ なんだろな♪」
 木箱に添えられた緑の柊の葉をくるくると回しながらエルは蓋を開けた。
 中に入っているのはシンプルなランタン。
 ゆっくりとそれを取り出して見る。
「へえ〜、綺麗だねえ。実用的だし。こんなの貰ってもいいのかな」
 ぎゅうっ、胸元で抱きしめる。
 リボンで綺麗に飾られ‥‥丁寧に包装されている。
 高価な物ではない。珍しい物でもない。
 だが、ぬくもりが伝わってくる感じだ。
(「それなりに、飾れるものになってればいんだがな‥‥」)
 火を入れてみたランタンの光が、メッセージプレートに映る。文字が浮かぶ。
『寒い冬だけど、少しでも暖が取れますように。』
 心に小さな灯りが灯った。

 一番、軽く小さいかも知れないプレゼントに首を傾げるレイヴァートの手元をアーサリアは覗き込んだ。
「何だったの? それ?」
 金と、白のリボンに飾られた赤い花と、一枚のカードだった。
『仕立屋招待状 これをお持ちの方に礼服一式をお仕立ていたします エチゴヤ』
「素敵だね。礼服がもらえるんだって」
 直接物を持ってくると性別が合わなかった時困るだろう。そんな贈り主の心遣いだろう。
 優しい思いやりと、見回した参加者の中で顔を赤らめた様子に差出人の予想はついた。
「ああ、その心遣いに感謝を‥‥」
 星型のメッセージボードはポケットにしまった。アーサリアには見せない。
『大事な人との特別な時間の為に。 宜しければお使い下さい。素敵な巡り合わせがありますように』
 自分には、大事な人がいる。彼女との時間に使うことになるのだろうか‥‥ 
 
「寿?」
 見慣れた、だが、聖夜祭には不似合いな文字に和正は風呂敷のような、布の包みを開いた。
 幾重にも包まれた布の奥から出てきたものを手の中でそっと揺らす。
 小さな貝殻が繋がれた、船乗りのネックレス。
『霊験粗方な、酔い止めのお守りにござる』『お酒にも効くかもしれないでござる』
「まったく、霊験粗方ってなんです。でも‥‥」
 頬に浮かぶ笑みが止まらない。
「あら、何を貰ったの?」
 近寄ってきたリスフィアの手をしっかりと握り締めた。
「やったぁ、贈り物なんてもらったの久しぶりだよ。すっごく嬉しい!」
 はしゃぐ笑顔は侍と言うより17歳の少年の顔。
 見るものの心を弾ませた。

 薄青の布に包まれた小さな小箱が、リトの手のひらに乗っている。
「何だろう、嬉しいなあ」
(「なんだか、開けるのが‥‥勿体無いみたい」)
 丁寧に施された包装に、贈り主のひととなりが見えるようだ。
 何度も、手で撫でて、感触を確かめて、そしてもう一度抱きしめる。
「本当に、ありがとう」
 布を破かないように、そっと剥がして箱を開ける。
 弾ける光。繋がれた銀の飾りがキラキラと輝く。
「銀のネックレス‥‥綺麗‥‥‥」
『何か小さな無くしたくないものを通すのに使ってください』
(「いつか、私も出会うのかな? この鎖に通して繋ぎ止めたいほど大事な物、大切な‥‥人に」) 
 ほろ苦い思いを胸に抱きながら、鎖を早速首にかけた。白いドレスに美しく映える。
「大切に‥‥しますね」
 彼女は知らなかったかもしれない。
 その大切なものを抱きしめる笑顔が見つめる送り主に幸せな思いを与えていたことに。

「私のプレゼントは‥‥何かしら」
 不思議に細長い品物に正直予想が付かない。
 リスフィアはそれを両手で持つと赤いリボンを解き、白い布をゆっくりと外していく。
「あらら♪」
 釣り道具一式と横笛が二つ嬉しそうに並んでいる。
 自分だったら絶対に買うことの無い、自分には縁の無い出会うことの無い品だと思っていた。
 メッセージボードには3つの国の言葉で同じ言葉が綴られている。
 彼女に読めたのは自分の母国語イギリス語
『受け取りしあなたに、新たな世界が広がりますように。太陽の娘(イハ・デル・ソル)ことアルテリア・リシアより』
 アルテリア‥‥自分のはす向かいに立つ娘に目線を送った。
 見つめる彼女は‥‥軽くウインクして微笑む。
(「確かに広がりそうね。新たな世界。新しい友達が‥‥」)
「ありがとうございます」
 静かに微笑む彼女の心は太陽の娘に照らされていた。

 詰め物で壊れないように守られたそれは、銀のネックレスと、十字架のネックレス。
 名前は無い。メッセージも無い‥‥。
「う〜ん、お礼も言えないな。誰だか知らないが‥‥ありがとう!」 
 レオンは品物を高くあげてそう声を上げた。多分、誰かには聞こえただろう。
 守護の思いが込められた十字架のネックレス、身を飾る銀のネックレス。
 自分から買おうとすることは少ない。
 だからこそ、嬉しかった。
「大事に使わせてもらうよ。いつか自分か、自分以外の大切な誰かが使うときまで」
 それが兄妹か、恋人かは解らない。でも、その時まで、大事にしようと思った。

「聖書と十字架のネックレスか‥‥」
 ジーザス教の神聖母セーラ。故国では縁遠く、傭兵という職業も神の救い多き職業とはとても言えない。
 だから、自分と関わってくるものだとは思ったことが無かった。
 だが、縁というものは驚くところから近寄ってくるものだと思わずにはいられない。
 飾り気の無い、質素な袋に赤いリボン。中のメッセージボードも簡素だが丁寧に文字が綴られていた。
『セーラ様の愛が幸せを運びますように‥‥』
 自分は剣。愛を得る資格があるかどうか解らない。だが‥‥
「使えるときが来たら、使わせてもらおう‥‥」
 真実の思いで贈り主に答える。贈り主に伝わる事を信じて‥‥。

 布とリボンで割れないように包まれた卵型の二つの瓶には丁寧な封印が施されていた。
「薬‥‥か」
『このプレゼントが使われない事を願っています』
 ボードを手の中で弄ぶと‥‥
 ぽい!
 クラムは空中に放った。
「‥‥いらんな。邪魔にはなるまいが‥‥」
「よっと! ダメでござるよそのようなことを言っては!」
 身軽な動きでボードをキャッチした男はそう言ってクラムに板を差し出した。
「贈り物には人の心が込められてござる。ましてやその薬は受取り手の身を案じたもの。大事にされるがよかろう」
 思いがけぬ男からの、思いもかけぬ説教にクラムは目を瞬かせた。
 正論であるが故に反論の言葉が暫し思いつかず、ボードを受取った後、視線をそらす。
 ふと、男の手に目が止まった。薄ピンクのリボンのかかった小さな包みに覚えがある。
(「あれは‥‥」)
「解った。これはこれから使う可能性もあるし大事にさせてもらう。おまえも早く開けたら? その贈り主の心の篭ったプレゼント」
 どんな顔をするのだろう。この男は‥‥あれを見て。
「くすっ‥‥」
 小さな笑い声に、彼は気づいてはいなかった。

「おお、そうだ。拙者へのプレゼントを早く開けねば!!」
 ピンクのリボンが十字にかかった可愛らしい包装の、小さな包み。
 添えられたボードの字も、また可愛らしい。
『愛しいあなたのために‥‥』
「おお、これはきっと可愛らしい女の子からの贈り物に違いない。しかも、布の感触がする。手編みのマフラーか、手袋か‥‥楽しみじゃ‥‥」
 幻蔵は凍りついた。中から出てきたのは‥‥褌。しかもそれは‥‥
「これは、噂に聞く‥‥れーすのふんどし、と呼ばれるものか?」
 純白のレースで織り込まれたこの褌は店で売りに出されることはなく、まだ多くの人物にとって噂の存在であった。
(「がっかりするか? 怒るか‥‥どんな顔になるか‥‥見ものだな」)
 クラムは幻蔵の様子をまじまじと見つめた。さあ、怒り出すか、5・4・3・2・1‥‥
「ふむ、使い心地は今一のようだが‥‥なかなか面白いものを頂いたわ!」
「へ?」
 嬉しそうにプレゼントをバックパックにしまう幻蔵にクラムの目が丸くなる。
「‥‥嬉しいの?」
「ああ、オモシロな一品と出会えてなかなか満足でござる」
「‥‥そんなものでも?」
「かつて、拙者が秋に同じ企画で受取ったものを知っておるか? 誰が出したかは知らぬが‥‥肖像画[裏]じゃ。あれを超える衝撃はそうそうあるまいて‥‥」
 ハッハッハッ!
 豪快に笑う幻蔵にクラムもつられた様に笑い出す。忍び笑いから爆笑へと。
 笑いなど、忘れたつもりだったが‥‥。
 聖夜祭の魔力か。
 二人は笑っていた。

 プレゼント交換は終わってもパーティは続く。
 舞台の上ではリスフィアの静かで、落ち着いた踊りが終わった所。
 やがて舞台の横で詩人達は楽しげな音楽を奏で始める。
「イスパニアの踊り、得とご覧あれ!」
 礼装からいつもの服に着替えなおしたアルテリアは軽いステップを踏み始める。
 トン! トトン! 
 跳ねるような楽しいリズムは人々の心を浮き立たせる。
「見事なもんだな‥‥、俺は芸に疎いけど、なんだか楽しくなるよ」
「懐かしい、故郷の匂いがするな」
 レオンは隣で酒を飲むトウヤの表情を見た。懐かしげで‥‥どこか寂しげな‥‥。
「トウヤは踊らないのか?」
「俺はいい、まだ人前で見せれるような踊りじゃないよ」
 ああ、そうだ。話題を変えるようにトウヤはがさごそ、と包みを取り出した。
「はい、これ。いつもお世話になってるから。俺からのささやかなプレゼント」
 差し出されたベージュの包みに、レオンも思い出したように何かを取り出す。
「俺も用意したんだ。ささやかだけどな。特別プレゼントだ」
 爽やかな笑みを交し合いレオンとトウヤはプレゼントを交換する。
「あ、直ぐに開けないようにな」
「まだ、開けるなよ‥‥」
 彼らは知らない。彼らは鏡に映したように同じ物を交換し合った事を。
 手描きで芸術的な絵の描かれた、ジャパン特産の下着。
 その名を‥‥褌という。

 踊りの後は、余興、だそうだ。
「さて、一つ、手品をお目にかけよう」
 怪しげなマスカレードを身につけた男が舞台の上で、優雅にお辞儀をする。
「ここに取り出したる樽。元はエールの入っていた樽。中には何も入ってはござらぬ」
 中を改めさせた後、彼はストン、と中に飛び込んだ。
「この中に入った拙者が消えうせて美女に変わったらご喝采。‥‥ワン、ツー、スリー!」
 ぼわん! 
 不思議な音と共に出てきた姿に、クラムは口の中の料理を吹き出した。
「お、俺??」
 服装も、まったく同じ鏡のような存在に、クラムは拍手も忘れ、暫し呆然としていた。

「やっほー、クラム。和正、あと欲しい人、皆さんどーぞ。暖かい薬草茶」
 エルは舞台から降りてきたアルテリアや、参加者達に厨房から借りてきた手製のお茶を振舞って渡した。
 香草にお湯を注いだ簡単なものだが身体が温まる。
「ふー、ホッとしますね」
「段々寒くなってきたしねえ。ああ、美味しい」
「お上手ですね。エルさん」
 褒め言葉に照れたように頭を掻いたエルは、
「酒場って当たり前だけどパリもキャメロットも飲み物、下戸には辛いんだよねぇ」
 照れ隠しにかテーブルの上のまだ誰も飲んでいないジョッキに手を伸ばしてあおる。
「うわっ! 待て! それはウィンターエール!」
 慌ててレインフォルスが手を伸ばすが、時既に遅し。喉に流れたエールは彼女の頬を赤く染めていた。
「キャー! ウサギさんがいっぱあい。遊ぼう、遊ぼう!」
 スーパーハイテンションと化したエルは誰彼構わず抱きつき、そして笑う。
 楽しそうにキャラキャラと。
「あー、元気ねえ」
「巻き込まれるのは‥‥カンベンなんだが‥‥おっと!」
「よくもここまで楽しめるものだな‥‥」
 穏やかな傍観者に回るつもりだったアルテリアも、トウヤも、クラムもエルの抱きつき攻撃からは逃れられない。
 彼女の酔いが回り、うとうと眠り出すまで賑やかな騒ぎは続いていた。

 やがて、寝息を立て始めたエルに和正とリスフィアが毛布をかけ穏やかなパーティが蘇った頃。
 リトはふと、クリスマスツリーの影に二つの人影を見つけた。
 覗き見るつもりはないがひょいと覗くとそこにはアーサリアと、レイヴァート。
「アーサリア。ちょっと‥‥いいですか?」
「うん、いいよ。なあに? レイ」
 肩を凝らして椅子に座るアーサリアの後ろに静かに近づいたレイヴァートはふんわりと、手の中のそれを少女の頭上に乗せた。
「何‥‥ってこれ! レイ!!」
 立ち上がって自分を見つめる恋人に、レイヴァートは照れたように顔を赤らめ、でも、真っ直ぐにその瞳を見つめた。
「オレから‥‥アーサリアへ。聖夜の‥‥愛を込めて」
「レイ‥‥」
 彼女が喜んでくれているのが解る。それだけでレイヴァートは十分嬉しかった。満足していた。
 だから、アーサリアが何か考えるような仕草の後、ちょっと屈んで、と手招きしたことの意味は深く考えてはいなかった。
「何? アーサリ‥‥うっ!」
 突然唇に感じた温もりにレイヴァートの目は見開かれる。‥‥甘い、それはキス。
 どのくらいの時間が過ぎたのか解らない。レイヴァートの首に回された手が解かれ、唇に風が触れた時、目の前の少女は恥ずかしそうに俯いた。
「ボ、ボクからのプレゼントは、ボクの初めてのキスだよ」
 柊の実よりも赤い頬を光らせてアーサリアは走り出す。皿や椅子がいくつか巻き添えになるが二人のどちらも気にはしない。
 呆然と立ち尽くすレイヴァート唇にはまだ柔らかい感触が残り続けていた。

(「いいなあ、ちょっと羨ましい」)
 リトはそっとその場を離れた。穏やかで楽しい時ももう直ぐ終わり。
 お土産のお菓子も配られ始めている。
「最後に、ちょっと歌ってもいいですか?」
 頷いた楽師の言葉に礼を言うと、ちょんと軽く舞台へ上がった。
 踊り子たちのような専門の技ではないけれど、幸せな二人と、この日、この時出会った仲間に、心からの感謝を込めて。
「白き雪が舞う 聖なる夜。心からの祝福を乗せて〜♪〜〜♪」
 澄んだ声に答えるかのように、天からの白い天使が街に祝福に訪れる。
 
「楽しんで頂けましたか?」
 シフールの世話役の言葉に、彼らの返事はどう帰ったか?
 それは解らない。
 
 戦いは止むことはなく、人の心も荒れている。
 でも、今宵、聖なる夜。
 例え神は信じられなくても、天使を信じよう。自分の隣の天使を‥‥。
 そんな気持ちを誰かが、いや誰もが感じていた。

 白き雪とツリーとシフールと‥‥
 そして皆の祈りが空に溶けていった。

 I wish you a merry Christmas and a happy new year!

●ピンナップ

アーサリア・ロクトファルク(ea0885


PCツインピンナップ
Illusted by 飛鳥れいむ