【バレンタイン】バレンタインパートナー
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月21日〜02月24日
リプレイ公開日:2005年02月25日
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●オープニング
冬の長い眠りから、木々や動物達が目覚め始める2月。
川辺の鳥が巣をかけ、新たなる命の芽生え迎えるこの時期は、人間達にとっても大事な季節であった。
愛や、結婚を祝い家々で、村々で小さな祈りと祝いが行われる。
恋人達が、白い雪や生まれ出る花に愛を誓い合うという。
そして、もう一つ、大切な日があった。それはバレンタインデー。
愛をつかさどる聖人の日である。
古い伝説の語る昔、戦争の中での恋愛や結婚は士気を衰えさせると言われ、禁止されていた時があった。
恋する者が奪われ、愛し合う者同士が引き裂かれる。
そんな時、命を賭けてその禁止に立ち向かい、彼らの結婚を成就させた一人の司教がいた。
彼の名はバレンタイン。
後に彼は、聖人に列せられ2月14日は愛を讃える祝祭日として、人々をの間に広まっていったと伝えられている。
さて、そんな2月14日。
冒険者ギルドにこんな張り紙が貼られた。
依頼掲示板とは違う場所に、イベントとして貼り出されたそれを冒険者は軽く見やった。
「バレンタインパートナーと過ごす夜。バレンタインパーティはいかが? なんだ? これ?」
顔を見合わせる冒険者に、係員は知らないのかい? とにこにこと笑って教えてくれた。
「この辺では昔の風習でな、バレンタインデーにパーティをするところが多いんだが、その時にバレンタインパートナーっていうのを決めるんだ。くじ引きとか、ゲームのことが多いかな? そのくじ引きで決まったパートナーと一緒にパーティを過ごし、プレゼントを交換する。1年間このパートナーと仲よくするといいことがあるって言われてるんだぜ」
「‥‥素朴な疑問なんだが、男と男がくじ引きでパートナーになったらどうなるんだ?」
「勿論、男同士でパーティを楽しむさ。俺が以前参加したパーティでは70近い爺様と、10歳の女の子なんてペアもあったな。確か‥‥」
「‥‥」
無言で額を押える冒険者に係員はくっくっと口元を押えた。
「まあ、早い話がお友達つくりパーティってとこだな。それを今度酒場でもやってみようって話だ。参加料1G、食べ放題、飲み放題、お土産が当たるくじ引き付きだぜ」
パーティ、プレゼント交換、そして占いつきくじ引き。楽しそうな出し物がいろいろ書かれている。
「最近怪盗だのでいろいろ騒がしいしな、のんびり楽しむのもいいんじゃないか?」
恋人同士で楽しむもよし、新しい知り合いも作るのも、また楽しいかもしれない、と思うものもいた。
「だけど、男同士でパーティするのもなあ」
「でも、そういうのも面白いかもしれないぜ。女同士のパートナーも見ていて華やかで楽しそうだしな」
他人事のように係員は笑った。
「おいおい‥‥」
そう言いながらもちょっと興味も沸いてきた気もする。
貼り紙の真ん中には恋人同士の絵が美しく描かれていた。
●リプレイ本文
パーティ会場にはお客が集まってきた。
特に目を引くのは姿勢正しく凛々しい女騎士。仮面の彼女に横に立つ青年は笑いかける。
「楽しみですね。ナラクさん!」
元気な沖田光(ea0029)の声にナラク・クリアスカイ(ea2462)はそうだな、と相槌を返す。
「まぁ‥‥たまには羽を伸ばすのも悪くない」
まるで兄と妹、いや姉と弟のようだ。
木箱を抱えて出てきた係員は、まず最初に二人に声をかけた。
「パートナーを決めるくじ引きです。どうぞ」
「えっ? パートナー、くじで決めるんですか?」
すっかり彼女と‥‥決めていた彼は箱と、係員、そしてナラクの顔を見返して子犬のような表情を見せた。
「ええいっ! あっ!」
光の顔が嬉しさに咲く。手の中の木板の印は鳥。無造作に引いたナラクと同じである。
「わーっ、これって運命ですよね、絶対」
満面の笑顔で手を繋ぐ光の手にナラクは小さな温もりを感じていた。
「いいなあ〜」
(「前のアレがうまくいってれば、今回ペアで参加できたのになァ‥‥」)
声にならない声で呟くリオン・ラーディナス(ea1458)はちらり、奥を見た。
少し気になるリーラル・ラーン(ea9412)
どうやら彼女の花の札は黒い髪の戦士オラース・カノーヴァ(ea3486)と一致したようだ。花束を抱いて嬉しそうに挨拶をしている。
トホホな気分を振り払うべく、彼は顔を上げた。
「まあいいや。女の子はまだいるし。やぁ、まだ寒い日が続いているけどここにはもう綺麗な花が咲いてるみたいだね」
『えっ?』
突然の言葉に空流馬ひのき(eb0981)は首を傾げる。彼女はどうやらイギリス語が解らないらしい。
「悪いが彼女の相手は俺だ‥‥」
そう言うとひのきの肩に伸びた手を払い、同じ髪と瞳を持つ青年は同じ言葉で語りかけた。
『俺は琥龍蒼羅(ea1442)今宵の君の相手だ。よろしく頼むよ』
『わあっ、同じ国の人。よろしく』
果実の札に結ばれた同士の楽しそうな様子に、俯くリオンの背後からポカリ! 軽いゲンコツが頭に落ちた。
「だからお前はフラレーなのだ。気障な軟派者を気取るから下手を打つのだよ、この馬鹿弟子がっ」
「‥‥師匠?」
振り向くリオンの背後にはレイヴァント・シロウ(ea2207)が立っている。女性扱いの師匠と仰いでいるのが彼。
ちなみに本日、礼装を完璧に着こなし、マスクを付けて、胸元には紫の花。完璧な紳士(?)である。
「ほら、そこに彷徨う女性が。かような方に、おぬしどう声をかける?」
彼の差す先には確かにきょろきょろと周囲を見回す少女がいた。
「見本を見せてやるから、見ているがいい‥‥ハロー、美しい方。レイヴァントと申します。何かお困りですか?」
突然現れ膝を付いた仮面の騎士に、薄桃色のドレスも美しい少女は目を瞬かせた。そして‥‥ゆっくり口を開くと
「あのさ、君、月の札の人?」
「は?」
「違うのお? 僕のパートナー捜してたのにぃ」
彼女はぶすっ、と漏らし口を尖らせた。彼女の印象は青い果実。レイヴァントが思い、告げようとした時だ。
「はいはいっ! 俺が月の札!」
ドン! 師匠を押しのけリオンは少女の前に立つ。明るい顔になった彼女はホッとして笑う。
「良かったあ。心配してたんだ。僕はイリア・イガルーク(ea6120)よろしく!」
「俺はリオン。こちらこそ! いやあ、やっぱりいるんだねー、神サマって」
「何の事?」
「こっちの話。さあ行こうよ」
リオンはイリアと手を繋ぐ。一人残されたのはレイヴァントである。
「‥‥私は?」
「おい!」
膝を付いたままの彼の背を強く押す者がいる。振り向いた先には無愛想な青年が‥‥。
「それ、太陽の札だな。俺はアルス・マグナ(ea1736)今日の相手だ」
彼の手には、自分と同じ太陽の札。
(「男‥‥」)
‥‥下を向いたレイヴァントだったが復活までに要した時間は僅か数秒。
「よし! 行くぞ。アルス君! 愛の伝道師たるものまずは挨拶から」
「お、おい!」
いつの間にか掴まれた腕を払う間もなく、アルスは会場に引きづられた。
パートナーと繋がれた手が、聖なる愛の夜の幕開けを告げる。
「ナラクさん、ちょっといいですか?」
「? 何だ?」
始まって早々。光はナラクの袖を引いた。
そして会場の少し外れで、彼は彼女を見つめ、包みを差し出した。
「誕生日おめでとうございます‥‥あの、これ、プレゼントです。気に入って貰えると嬉しいんですが」
「誕生日? ああ!」
言われるまで忘れていた。2月14日は、自分の誕生日だ。
「光、ひょっとして私をパーティに誘ったのは‥‥?」
光は、開けてみてください。と促した。指が開いた包みの先からキラキラ、銀の光がこぼれる。
「これは‥‥」
入っていたのは銀のネックレス。つまんで持ち上げると蝋燭の光を弾いて輝く。
「?」
ふと、視線を感じナラクは光を見た。上目使いでジーッと見つめる‥‥目。付けて貰えないかなあ、と顔に書いてある。
(「まあ、良いか‥‥」)
礼服の首元に彼女は銀の鎖を回した。細い首筋。仮面がずれて刹那、覗く、蒼と黒の美しい目の素顔。
「これでいいか?」
首飾りはあるべき所に収まり輝く。
「良かった、とってもお似合いです」
鼓動がを止められないまま、心からの思いを込めて光はそう笑った。
彼の頬が赤いのは酒のせいではないだろう。
〜♪〜♪
柔らかいメロディが胸を包む。
ひのきは蒼羅の竪琴の音にうっとり聞きほれていた。
『素敵。ジャパンの歌とはだいぶ違うね』
弾き終えた蒼羅に向かって贈られた素直な賛辞に、彼はそうだな。と頷いた。
『この、竪琴という楽器も悪くは無い。だが、世の中にはもっと様々な楽器がある。広い世界も。俺はそれと出会う為に異国に来たのだ』
ポロンと音を合わせると、蒼羅はひのきを見た。今まで男性を意識して見た事が無かったが‥それ故に少し緊張してしまう。
照れた顔を隠すように俯くと自分の事を思い返してみた。
『あたしの夢はねぇ、お金を貯めて世界を旅する事。いろんなものを見てみたいの。目指せ一攫千金!』
そう言って手を上げたひのきの顔に蒼羅は胸が微笑むようだった。
お互い、どこか近いものを感じる。同胞、という事を差し引いてもだ。
『乾杯しようか!』
『‥‥そうだな』
酒を断り果汁を入れたカップを軽く、持ち上げる。
『お互いの夢に』『お互いの未来と‥‥みかんに』
『『乾杯!』』
コン! 小さな幸せの音がする。
「あ! あのケーキ、美味しそう!」
「そうか、じゃあ持って来ようか?」
「ううん! 自分で行く。あ、一緒に食べる?」
「‥‥いや、いいよ」
あちらの料理、こちらの料理、まるで泳ぐようにイリアは会場を皿を持って跳びまわった。
リオンはそれにニコニコ付いて歩く。
(「うん、可愛いなあ〜」)
一目会ったその日から、恋の花咲く、などという劇的な展開にはきっぱりならない。
まだ、色気より食い気の彼女は元気な女の子だった。
ケーキやプティングはもう、見ているだけでお腹一杯だが、気持ちもまた一杯だ。
(「まあ、こういうのもありかな?」)
「ねえ、あっちで目隠しゲームやるんだって。行こう!」
自分の世界に入っていたリオンを元気な声が現実に引き戻す。腕を引っ張って、こっちこっち、と。
「待ってくれよ。今行くから!」
笑って少女を追いかけた。
目隠しゲーム。
白いハンカチで目元を隠し、オラースはパートナーを探す。
「俺の姫君はいずこかな?」
「こっちだよ」「ううん、向こうだってばあ!」
ぽんぽん、と手を叩きあちらからも、こちらからも声がする。
賑やかな声、明るい声‥‥だが。
「よっし、見つけたぞ!!」
「うわっ!」
後ろから抱きすくめられてリーラルはビックリしたように身体を硬くした。
「よく、お解りになりましたね?」
「まあな。鼻はいいんだぜ。俺は、なんせこんなに鼻がでかいから」
真っ赤な付け鼻を指差しておどけるオラースにリーラルはくすくす、と笑う。
「よし、いい笑顔だ。今夜ここでは、あんたは俺の、俺はあんたのもんだ、楽しもうじゃねぇか」
「‥‥はい」
荒っぽいが、どこか優しい彼の言葉にリーラルは静かに頷いた。
「ふわあっ」
アルスはエールのカップを口元に運びながら小さく欠伸をした。パートナーは女性全員に挨拶回り中。
参加者からウェイトレスにまで女性全員に、だ。
そのマメさは正直言って呆れるのを通り越し関心する。
「ん〜、まぁ、息抜きも必要だよな〜」
軽い暇つぶしで参加したが、人間観察としてなかなか興味深い。
そんな事を考えていた時だ。彼が戻ってきた
「おお! アルス君、暇そうだ。どうだね。私と一緒に女性の皆様に愛を贈りに行こうではないか!」
「いや、いい。しかし、アンタも節操が無いな。女なら誰でもいいのか?」
ちょっとした嫌味であるが、レイヴァントはそれを上手にスルーした。
「節操無しなのではない。博愛主義者なのだ。では、一人寂しいアルス君、女性を紹介して進ぜ‥‥」
「いらん、女は一人いれば十分だ!」
(「しまった!」)
余計な事を言ったような気がして慌てて口元を閉じた。だが、もう手遅れ。
愛の伝道師は楽しそうな笑みを浮かべる。
「ほお、君は恋人持ちか‥‥それはいい!」
「おい、何を?」
「ちゃんと、恋人に愛を告げているのかな? よろしければ、女性の心の掴み方を‥‥」
「え〜、間もなく占いくじ引きを行います」
係員の言葉に乗じてアルスはその話題を打ち切った。
本気ではない、盛り上げる為にやっている、と解っているが‥‥いや、考えてみれば解ってるかどうかも解らない。
「どうされた? 行こうではないか!」
(「なかなか、侮れない奴だ‥‥」)
彼はそんな事を考えながら、白い仮面の友の、後を追いかけた。
まずはレディーファースト。
そう、促されリーラルがまず、前に出た。テーブルの上に並べられた札の一枚を選び、軽く捲る。
「これは‥‥」
『貴方にこれから優しい出会いが訪れるでしょう。薔薇の祝福を貴方に』
小さな、ローズキャンドルを彼女は受取った。
「次は僕。えっと‥‥いつも貴方の上に楽しい時が訪れるでしょう、だって僕も薔薇の祝福だ」
イリアの次に引いたのはナラクだった。後ろから光が覗き込む。
「貴方には誠実な光がいつも共に有るでしょう。ですか‥‥ふむ、これも薔薇の祝福ですね」
「薔薇の祝福しか無いのか? 光はどうだ?」
促しに光も一枚の札を引いた。
「本当の強さを持つ限り、星が貴方を導くでしょう‥‥ですか。星の導き? あ、やっぱりこれですか?」
渡されたのはラッキースターだった。
『これは‥‥何て読むの?』
ひのきに渡された札を蒼羅はどれ? と受取った。
『いつか誰よりも見せたい人の為に白き心を持たれん事を‥‥だな』
『うわあっ〜』
真珠のティアラをひのきは抱きしめた。白い真珠は故郷を思い出させる。
その笑顔を見ながら蒼羅も自分の札を捲った。
『澄み切った心あれば必ず願いはかなう‥‥か』
水晶のティアラは光を通し、全てを見通すようだ。自分の未来はまだ、見えないが‥‥。
「貴方の友、思い人を大切に。薔薇の祝福を‥‥か」
苦笑しながらアルスはローズキャンドルを手の中で転がした。
「強き心は光となって人々を照らすでしょう。星の導きが貴方の上に‥‥」
「お、俺も星の導き。いついかなる時も自分の心強くあれば、必ず行く先を導く星が現れるでしょう。か」
レイヴァントとオラースが札を読んでいる頃。リオンはもう一度、確認するように手の中の札を開いた。
「これは‥‥ひょっとして当たり? 俺が?」
『貴方を取り巻く笑顔が、貴方を守り、未来を照らすでしょう。いつか貴方の愛する人の指に捧げられん事を‥‥愛の聖人の名において』
「うわ〜、いいなあ」
イリアが素直な感嘆と賞賛の声を上げた。リオンは貰った小さな布袋を開く。手の中に転がった二つのリングは美しい愛の姿をその身に深く、刻んで輝いていた。
賑やかなパーティもやがて終焉に向かう。
二人は暖炉の側で。
「僕、これからももっとナラクさんの事をよく知って、そして、もっと仲良くなりたいです」
「真っ直ぐで曇りが無く‥‥見ているだけで眩しい。お前の笑顔はまるで晴れ渡る空で輝く太陽のようだ。迷う者が道を見失った時はお前が道標となれ。ずっと、お前は今のお前のままで‥‥な」
刺繍のハンカチと、白いスノーマン人形をお互いの思いと共に交換した。
二人はテーブルの側で。
「これ、僕からのプレゼント。まだ寒いし使ってよ」
「あ、ありがとう‥‥! 凄く、嬉しいよ。あ、あのさ‥‥これで髪をまとめてみても、綺麗じゃないかな」
毛糸の手袋と虹色のリボン。暖かい思いと、輝く思いがお互いの身につけられていく事だろう。
二人は椅子に座って。
『いつか夢をかなえられる事を願っている』
『これは、お守りにする。いつか‥‥出会う時まで』
彼は、彼女にリボンを贈った。彼女は彼に手袋を自分で作った。それぞれの未来に幸せがあらん事を願って。
二人は背中合わせに。
「あいつ‥‥‥拗ねているだろうな〜」
「ほお、ならばこれを土産にな。君の大切な人に‥‥」
紫の花が添えられたペンダントは、小さな雌の駒鳥が空に向けて歌っていた。
大事な人へ、大事な友へ、思いを込めて‥‥
そして二人は星を見上げて。
「私の夢はいつか世界を巡る事。力を付けて、いろいろな物を見て‥‥そして誰か大事な人ができたら星空とか一緒にみてゆっくり話したいなって思っています」
(「こんな風に‥‥」)
夜空の下、互いの贈り物の酒を彼らは交わした。
「イギリスに来て何もいい事なかったが‥‥最後にあったかな?」
二人の間に甘い香りが漂う。ワインの香り、それより甘い‥‥花の香り。
「ここでの出会いも、大切にしたいです。これからも、よろしくお願いしますね」
その言葉に彼の、返事は遠かった。
「俺はキャメロットを離れるつもりだ。いつ戻るかは‥‥解らない。ああ、そんな顔するなよ!」
目元に浮かんだ小さな雫を彼は指で拭う。
「手紙を書く。俺のこと忘れんなよ」
「‥‥はい」
冬の冴えた星が天上に輝いていた。
彼らはどんな道を歩むのだろうか。どんな夢を見るのだろうか。
その行く先は、まだ誰にも解らない。
冒険者達の上に、愛の聖人の祝福のあらん事を‥‥。