【挑戦】見えない力 伝えたい思い

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:夢村円

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 70 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月13日〜06月23日

リプレイ公開日:2005年06月20日

●オープニング

 森を行く子供達。背後から見守る影は深く、息を吐き出した。
「さて‥‥どうしたものか‥‥」
『彼』はそう言って腕を組んだ。
「俺は、本来こういうのは苦手なんだよな‥‥。予定狂ったし‥‥いい加減に‥‥戻らないと」
 だが‥‥
 ここ暫くの旅暮らしと、森暮らしで大分乱れてしまった髪と、汚れてしまった顔。
 そして、生えてきた髭を撫でながら、彼は槍を握り締めた。
「このまま放って置く訳にもいかない‥‥。ここは、一つ荒療治といくか」 
 
「山賊が出たあ?」
 その男、北からやってきたというキャラバンの長は、ああ、とギルドの係員に頷いた。
「北の森の街道を渡っていた時。子供達の一団に襲われたんだ。子供達が護衛をするから通行料をよこせ、とな。子供なんか、と馬鹿にして断ったらそりゃあ、もうボコボコにされたよ‥‥。荷物の半分近くを取られてまったく、大損害だ」
(「ヤバイな‥‥」)
「ん? 何だか顔色が悪いが‥‥どうかしたのか?」
 確かに浮かない顔の係員ではあったが、否定するように振られた手の意味をキャラバンの長は深く追求はしなかった。
「とにかく、俺達の依頼はその子供達、いや山賊から盗られた品物を取り返すことだ。あれは貴族の特別注文の布とか宝石とかだから、そう簡単に捌くことはできないと思う。売りさばかれる前になんとか取り返してくれ」
「品物の、内訳は? ふ〜ん。教会の蝋燭とか、小さな店からの注文品とか、薬とかは‥‥盗らなかったんだ‥‥」
「ああ。その辺は子供だと思うが‥‥。でも、いくら金持ちだからって盗られました、ごめんなさいじゃ、許してくれないしな‥‥頼んだぜ!」
 報酬と依頼書をおいて彼が立ち去った直後だった。
 青とも、白ともつかぬ困憊した顔でギルドに一人の婦人が入ってきたのは。
「あ、あんたは‥‥」
 頭を下げた彼女は、深い悲しみを顔に浮かべて係員を見つめる。
 何と言ったらいいのか‥‥。彼は、懸命に言葉を捜して、これだけ、言った。
「この間は‥‥力になれなくてすまなかったな」
「いえ‥‥無理な事をお願いした私が悪かったのでしょう。本来なら、顔も出すことも躊躇われたのですが‥‥これを‥‥見てください」
 そういうと彼女はハンカチに包まれた品物を、そっと差し出した。
「こ、こいつは‥‥」
 係員さえも、それを見て言葉が止まった。
 贅沢な金と銀で飾られた美しい指輪、美しい碧玉の入った首飾り。石が弾いた光が天井に映る。
「子供達が‥‥先日持ってきたものです」
 それが、明らかに盗品であり、高い地位を持つ者の持ち物であることはあまりにも明白だった。
 おそらくは、さっきのキャラバンの者が言っていた特別注文の品なのかもしれない。
「このようなものは受取れない、止めなさい、と子供達にそう申しましたらあの子達は言ったのです」

『これを持ってくるのは‥‥あの人との約束だから、仕方ない。俺達は‥‥勝手な大人とは違うんだ』
『僕らは、僕らなりの信念があります。それを止めろというのであれば、僕らにそれ以上のものを見せてください』
『今、俺達はもっと、強くならなけりゃいけないんだ。あの人に勝つためにも‥‥』

「私達には、力が足りませんでした。あの子達を止める力が‥‥」
 頬に流れた涙がぽつり、石の上に落ちる。
 困憊しきった顔の婦人は、精一杯の声を絞り出して頭を下げた。
「もう一度だけ、お願いします。どうか‥‥あの子達の目を覚まさせてください」

「盗られた品物は、まだ処分されていないはずだ。村か、森の隠れ家にでもあるんじゃないか? 急げばまだ取り戻せるだろう。どうするかは任せるよ。山賊の子供達を倒すかどうするかその辺も‥‥な」
「どうして、そんなことが言えるんだ? 品物が処分されてないなんて‥‥」
 確信に近い言いっぷりの係員に冒険者は問い詰めたが、その返事は発せられなかった。
 代りに冒険者達に山賊の子供達の数と、技術。そして婦人が置いていった周辺の大雑把な地図の内容を全て知らせる。
 剣士、魔法使い、神官の見習いがそれぞれ一人ずつ。
 親と一緒に狩人をしていた子供はレンジャークラス。その他は普通の子どもで計7人だという。
 皆、あの森はおそらく知り尽くしているだろう。子供だからと言って舐めてはいられない。それに‥‥
「子供達の背後にいるっていう人物にも気をつけろよ。彼は‥‥槍の名手だ」
「おい! ‥‥何か、何か知っているのか?」
 彼は沈黙した。何も答えなかった。

 自警団に届けてもかまわない。
 罪は子供達と背負うから‥‥。
 婦人がそう言って置いて行った宝石を係員は見つめた。
 もう一つ。
 こっそりと取り出したそれは、先ほど届いたばかりの手紙。
 理由と、事情と詫びと‥‥そして、一つの祈りが書かれていた。

『俺は‥‥信じたい、信じている。彼らの力と心を‥‥』

●今回の参加者

 ea0923 ロット・グレナム(30歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1131 シュナイアス・ハーミル(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 ズシャ!
 襲いかかってきたズゥンビをリ・ル(ea3888)は一気に切って捨てた。
「ふう、まだこの辺にズゥンビがいるのか」
「確かに‥‥やっかいだな。事も酷くなってきているし」
 刀を鞘に収め、ため息をつくリルに同意するようにギリアム・バルセイド(ea3245)は頷いた。
 村を出て少し歩いただけでこれだ。かなり危険な地域であると言えそうだった。
「全く‥‥こんな所で子供らが山賊の真似事、いや、真似事で済む域は超えているな。一体何を学んできたんだ? そいつらは‥‥」
 周囲を注意深く伺いながらも隠さない声でシュナイアス・ハーミル(ea1131)は告げた。
「そうだね。でも‥‥」
 エル・サーディミスト(ea1743)は頷くが周囲の森の様子を見て言葉を続ける。
「この辺‥‥荒れてるね。向こうには焼けた森もあったし‥‥大変なのかも」
 かつて、この近郊ではズゥンビの大襲来があった。各地は小さくない被害を受けた。
 まだその爪跡は消えてはいない。
「確かに。だが、それを言い訳にしてはならぬのだ。どんな理由があろうとも、罪は罪なのであるから」
 かつての戦いを知っているからこそ、黒畑緑朗(ea6426)の思いは深い。
 逆にそれらを知らないからこそ、チカ・ニシムラ(ea1128)は純粋に思う。
「あたしは、お友達になりたいのにな。皆と‥‥」
「俺に大した力はない。だけど、後輩の進む道をほんの少し正す程度の力は‥‥あると信じたいんだ」
 チカに、そして自分に言い聞かせるようにロット・グレナム(ea0923)は拳を握り締めた。
「信じましょう。思いは伝わると。伝えられると」
 自信など無い。
 だがイェーガー・ラタイン(ea6382)は信じようと、いやできると信じて、最後尾を歩いていく。
 鬱蒼と茂った森が、まだまだ続いていた。

 剣が音を立て空を飛んだ。膝を付く少年を見下ろすような眼差しで、男が立っている。
 彼の持つ槍の柄が、剣を弾き飛ばしたのだ。
「くそっ、どうして勝てないんだ?」
「相手の実力を見切れないようでは、いつか死ぬぞ」
「馬鹿にするな。俺は、絶対に強くなるんだ! 誰にも負けないくらい!」
「ディーノ!」
 息を切らせながらその子供は少年剣士をディーノと呼んで駆け寄ってきた。
「森に人が来たよ。なんだか強そうな男。俺達を捕まえに来たのかも。女、子供もいるんだけどさ」
「解った。今行く。逃がすなよ! 戻ってからまた勝負だ!」
 少年達は走って行く。
「来たか‥‥」 
 一人残された男は、小さく、見えないほど小さく微笑んだ。

 ロットは三度目の魔法を唱える。
 一度目と二度目は兎や獣の呼吸が聞こえたのみ。今度もそうだろうと目を瞑った直後、彼は、ハッと顔を上げた。
 仲間の様子に先頭を歩くギリアムが足を止めたと同時、足元に一本の矢が突き刺さった。
「動くな!」
 声に次いで二本、三本。矢が降り注ぐ。
「誰だ!」
 答えは解っていたが、リルは盾を構えながら矢の飛んできた方向に顔を向ける。
 街道の側の木の上から、いくつもの声が聞こえてきた。
「ここは俺達の縄張りだ。通行料を払ってもらおうか?」
「さもなくば荷物を頂きます。命と引き換えるよりは安いと思うのですが‥‥」 
 右の木、左の木の上からもバラバラに聞こえてくる声。すでに囲まれているようだ。
 だが、ここは予想範囲内。リルは仲間を背中に庇い、深く息を吸い込んで、吐き出した。
「止めるんだ! ディーノ!」
 木々が揺れる。子供達の動揺が波のように広がっていくのが解る。
「誰だ? お前らは?」
「俺達は冒険者だ。お前達を止めに来た」
 彼らはここにくる前、村に寄って聞いた。今回の事情。思いを全て。その上で言うのだ。
「たとえ事情があったとしても、君達のやっている事は、他人を不幸にする、単なる逆恨みに過ぎません」
「悪い事をしたお子様にはお仕置きが必要だな」
 前方に立つ大柄な男達が、武器を閃かせ身構える。
 それを見て、一際大きな声が冒険者達に降り注いだ。広がった不安をかき消すような強い言葉で。
「煩い! 大人達に任せておけるか! 俺達の運命も、村も! 行くぞ!」
 声と同時に強い風、そして白い粉が木々から冒険者達の上に舞った。小麦粉、だろうか。急な不意打ちに冒険者達は軽く咳き込んだ。
 それと同時にいくつかの影が木から飛び降りた。冒険者達の方に降りた影は5つ。
 だがその一つは、動く事なく地に釘付けられる。
「うわあっ!」
 弓を伸びた胡桃の木に絡め取られ、少年の一人が攻撃のタイミングから脱落した。
「ケホン! 子供だからって容赦はしないよ!」
 一瞬、仲間を気遣い先に下りた少年達が背後を振り向く。その隙を冒険者達は見過ごしてくれたりはしなかった。
「どんな理由があっても、お前らは冒険者全体を裏切ったようなものだ。俺はそんな奴を冒険者と認めない。‥‥力を持つ者の責任! 分からないなら、力尽くで教えてやる!」
「お兄ちゃん達、射線開けて! 裁きの雷!」
 二人を庇うように立っていたシュナイアスとギリアムが幕を開けるように身体をすっと、横にかわす。
 雷光が二本、鋭く少年達を襲う。
 先頭に立つ少年は素早く交わす。だがもう一本は回避が遅れた子供の腕に突き刺さった。ナイフが地面に転がり苦痛に顔が歪む。
「痛ってえ!」
「あっ」
 膝を付いた子供を見つめるチカの顔が涙に震えた。
「どんな信念があったって‥‥皆がやってるのはただの犯罪行為だよ!」
「勝手な大人になんか、負けない!」
「大人の勝手? 法を犯すのは、勝手以外の何でござるかな? 許すわけにはいかぬ!」
 キン!
 二刀流の剣を走りこんだ少年は一本の剣で受け止める
 いや、受け止めさせられた、が正確だ。二本の刀にロングソードを挟み込まれて、額の前に剣を構えたまま、少年はもう剣を引く事もできない状況に追い込まれていた。
「「ディーノ!」」
 仲間の援護に向かおうとしたのだろう。二人の少年達がそれぞれに小さく唇を動かしかけた。だが
「アイスコフィン!」
「!」
「大人しくしてろ!」
「うっ!」
 詠唱は氷によって阻まれた。祈りは当て身によって崩れ落ちた。
「‥‥」
「ディー‥‥ノ」
 仲間が捕らえられていた事を、彼は、感じていたかもしれない。だが、ディーノはただ、真っ直ぐに緑朗を睨み付けていた。
 力は削られていく。体格の差はどうしようもなかった。やがて、ディーノの膝が崩れ落ちた。
 剣が落ちる。
「ここまでだ! 覚悟!」
 襲い掛かってくる二本の剣。避ける体力さえもうディーノには残されていない。
「くそっ!」
 目を閉じた。衝撃を覚悟して。
 だが、いつまで経っても覚悟したそれは‥‥来ない。ゆっくり目を開けた時、そこには笑顔があった。
「あ、あんた達」
「黒畑、相手は子供だ。熱くなりすぎるなよ」
「すまぬ、なまじ力がある故に、加減が効かなくなったようだ。だが、究めれば、この世に切れぬ物無し!」
 リルに諌められ剣を収めた緑朗の横をつつと、チカが歩み寄る。
 ぺたん、と眼前に座る自分より小さな少女をディーノは瞬きをして見つめていた。
 やがて、その瞳が涙で緩むのも‥‥。
「お願いだから降参して。あたしは、こんな戦いしたくない。こんな出会い方しなければ皆とお友達になれたかもしれないのに‥‥」
「うわっ、な、泣くなって!」
 泣き出すチカにディーノはひたすらおろおろおろおろ。
 少女の涙にうろたえる姿は、健全な少年に見える。
 小さく笑うエルは、コツン、とディーノの頭をグーで軽く叩いた。
「ご両親に心配かけちゃダメ。みんな、本心ではそんなことして欲しくないんじゃないかなぁ。僕は‥‥そう思うよ。僕もそうだから」
「君達が村に戻ってなお、夢を叶える事ができると信じています。‥‥俺はかつて君達と同じ様な経験をした者として、いつか君達が来るのを待っています」
「冒険者になる方法は学校に行くだけじゃない。やり方はいろいろある。俺達も手助けはできる。山賊なんて犯罪に走る前に、もっと考えるんだ」
 ディーノは項垂れた。
 側で傷つきながらも、自分を見捨てない仲間達。
 そして‥‥冒険者達の優しい視線に、まだ頷く事はできなかったけれど、反抗しようという気は、もうどこにも見つからなかった。

 罪を減じる代りに品物を返すこと。冒険者の提案を子供達はしぶしぶ了承した。
 氷に閉じ込められた仲間は神官見習いが解いたが、二人は縛られディーノは剣を奪われている。
「こっちだ。森の奥に‥‥俺らの基地が‥‥!」
 先頭を歩いていたディーノは突然、走り出した。逃げるのか、と思ったがそうでは無い。
 子供達と冒険者も後を追う。やがて、解った。彼が駆け出した理由。
 それは、洞窟の前に縛られた子供達の呻き声と横に立つ一人の人物の気配だったのだろう。
「ご苦労だったな。冒険者」
「ヴァル! どうして?」
 槍を、縛られた子供達に向ける青年。少年達は信じられないという表情を見せた。
「貴方は、パーシ・ヴァル殿」
「パーシ・ヴァル?!」
 子供達がざわめいた。
「ヴァルが? 嘘だ!」
 山奥の子供でさえ知っている、彼はアーサー王の円卓の騎士。
「この近辺を騒がす山賊が出ると聞いた。私は彼らを捕縛する為に来たのだ」 
「なんだよ! 騙したのかよ! ここにいさせろ。悪いようにはしないから、ってあれは嘘だったのかよ!」
 ここに来るまでに彼らは語っていた。自分達を打ち負かした人物が今、一緒にいる。と嬉しそうに。
 盗みには加担しないが護衛の手助けをし、文字や、戦い方を教えてくれたという人物。彼らは心の底で慕っていたのだろうと冒険者達は感じていた。
 だからこそ、今、彼らは衝撃を受けていた。目の前の青年の行動に。
「さて、罪を償ってもらおうか。王都に連れて行き、自警団の裁きを‥‥」
「そんなことをしたら、子供達が!」
「止めてよ!」
 冒険者達の懇願に眉さえも動かさず、パーシは縛られた子供達を立たせようとする。
「仲間を、仲間を放せえ!」
「ディーノ!」
 リルから剣を奪い、走りざまディーノはパーシに切りかかった。
 だが
「ふん!」
 パーシは綱を放し、槍を逆手に持って柄で軽く突く。それで十分だった。
 渾身の攻撃だったのだろうが、実力が違いすぎる。
「ぐ‥‥はっ!」
 ディーノの腹に槍の柄が突き刺さり崩れ落ちるように蹲った。さらに180度回った槍の穂先が向く。
「力不足、考え不足を恥じるが‥‥ん!」
 カシン!
「お前‥‥」
 槍の穂先が短剣によって跳ね上げられ、ディーノとパーシの間に一人の人物が立ちはだかっていた。
「アンタの言っている事は正しい。だが、罪を憎んで人を憎まずだ。こいつらなら、きっと解る。だから、連れて行かせない」
「もういいだろ‥‥間違えた道は戻ればいいんだ。自分達のやった事を自覚して、反省するなら」
「機転と度胸、実力があるなら、冒険者になれるでござる」
「俺は信じています。この子達を‥‥」
「おしおきは十分だ‥‥そうだろう?」
「お兄ちゃん、嫌いになっちゃうよ!」
「後輩を、見捨てるのも後味が悪いしな」
「子供は信じてあげなくっちゃ。ね♪」
 未だ、短剣を構えたまま眼差しを動かさずに見つめるリルの背後に、彼や、子供達を守るように冒険者達が一人、また一人集まってくる。
『フッ』
(「えっ?」)
 スッと槍が引かれた。パーシは、後ろを振り向くと足元のバックパックをひょいと、槍で引き上げた。
「この人数差は分が悪すぎるな。今回は‥‥君達に任せよう。二度とこのような事が無いようによく語ってやれ。盗まれた品は、俺が返しておこう」
 盗品を馬に乗せ去って行くパーシを、冒険者達は追わなかった。
 ディーノが、そして子供達が、それぞれに嗚咽を喉からあふれ出させる。
「‥‥ちっくしょう! どうして俺達子供なんだ。もっと強くなりたいのに‥‥」
「それが解れば大丈夫。もう一度俺達と冒険者としてやり直さないか? 人に喜ばれる為に戦ってみないか?」
 膝を折り、目線をあわせリルは言った。彼らに手を差し伸べて。
「うん、ごめんなさい」
 今度はディーノは素直に心からの思いで頷いた。
 手と手もしっかりと握られて‥‥。
 
 子供達を村に送った帰り道、チカはプンプンと怒り顔を見せる。
「見損なったよ。カッコいいお兄ちゃんだと思ったのに」
 冒険者達の苦笑を遮る声がするまで。
「そう、言わないでくれ。こっちにも事情と理由があったんだ」
「!!」
 冒険者達は改めて身構えた。
 木に身体を預けて立つパーシ・ヴァルがいる。
「‥‥アンタ。一体何が目的だったんだ」
 難しい顔で睨み付けてくるギリアムに、彼は小さく笑う。子供達を見つめた時と同じように。
「合格まであと少し、まだまだだな」
「どういうことだ?」
 問い詰めるようなロットの顔をパーシは軽く見た。
「確かめさせてもらった。力を持つ者の責任が、あんた達にあるかどうか。少し、疑問に思えたんでな」
 幾人かが、手を握り締める。彼らには言葉の意味が解る。
「今回の事、俺達を試すのが目的だったのか? もし俺達が、子供達を見捨ててたらどうするつもりだったんだ?」
 辛辣な口調のシュナイアスの問いにパーシは答えず笑う。
「今回の件の、後始末はしておく。心配しなくていい‥‥」
 木から身体を起こし荷物を背負い、鋭く冒険者を彼は青い瞳で射抜いた。
「もっと強くなれ。自分を高めろ。冒険者。
 依頼を叶えるだけではない。その上を目指せ‥‥。いつか背中を預けて共に戦える日を信じている」
 軽く手を振り去って行くパーシ・ヴァルを今、まだ彼らは追う事も挑む事もできなかった。

 子供達は隠れ家に集まっていた。これが、最後の集いだ。
 村人達は、また学校に通わせてくれると言っている。だが、彼らは断るつもりだった。
 冒険者達が、いくつも道を示してくれた。
「冒険者には、心さえあればきっとなれる」
 洞窟の奥に突き立てられた銀のナイフがキラリと光る。
「ここに誓う。努力し続ける事を。
 いつか、あの人たちと肩を並べられるように、彼らを超えられるように」

 『彼ら』の胸に、心に今、見えない力が目覚めようとしていた。  

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