最後のおつかい

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月26日〜07月31日

リプレイ公開日:2004年07月30日

●オープニング

『ねえ、ヒューリー、お買い物できる?』
『うん、できるよ。ぼく、もう5さいだもん。』

 ぼくは、おうちにかえらなきゃ。あそんでて、おくれちゃってごめんね。
 でも、おかいものしたよ。ちゃんとおつかいできたよ。
 あれ? ぼくのおうちは、どこだろう?
 あのおうちかな?
「ママ。ママ。あけて。ぼくだよ。あけて…」

「子供のゴースト?」
 冒険者達の言葉に、係員は頷いた。
「ああ、最近この辺に出るんだとよ。夜になると子供のこれがな。」
 彼が、これ、とした仕草はジャパンで古くから伝わる幽霊を現すマイム。知っているものは苦笑し、知らないものは首を捻りながら話しの続きを待った。
「南東の住宅街で、最近夜になると扉を叩く声がするんだと。子供の声なので開けてみると、黒い影。そして全身ずぶぬれの子が影から現れ、抱きついてくんだとさ。…ママって」
 大抵触られた人間はめまいを起こして倒れる。そうすると子供は
「ママじゃない。ママはどこ?」
 と言って去っていく、という。同じものが街を彷徨っているのを見たという人もいる。
「どう見てもママとやらを探してんだろうな。ゴーストは死んだ奴が心残りがあるから生まれるっていうし。」
 教会に頼んで浄化してもらえば、問題は解決する。だが、被害にあったものたち、特に女性達がそれをよしとしないのだと彼は言った。
「子供に同情しちまったんだそうだ。どうせ浄化するなら、心残りを解決させてから、ってな。」
「うんうん、解るわ。なんて可哀想なの!」
 女冒険者の何人かは涙を流しているものもいる。どうも、女性はこういう話に弱いらしい。
 肩をすくめながらも、係員は依頼書を壁に貼った。
「というわけだから、よろしくな。ただ、子供とはいえ相手はアンデッドだから気をつけろよ。」
『依頼人、住宅街の女性有志。
 子供の心残りを解決して浄化させて欲しい』

「みなさ〜ん、彼らが依頼受けてくれるそうですよ」
 外に向けてかけられた言葉に扉が開いて‥ドヤドヤドヤ!
「あ、依頼を受けてくれるのね。ありがとう!」
 突然酒場におばちゃん軍団がなだれ込んできた。
「あのねえ、あの子可哀想なのよ〜。触られた瞬間に感じたの。お母さんを探してるって」
「そういえば、少し前にあったような気がするわ。子供が行方不明になったって噂が」
「よく思い出せないんだけど‥教会の側の大橋の側で誰かが落ちたかも、って船に乗ってた人が言ってたらしいわ」
「エチゴヤの側にはいろいろお店が‥」
「キャメロットってあんまり治安良くないのよね。知らない人多いけど」
「酒場のお料理はテイクアウトもできてよく利用するのよ」
「子供達が集まってるところあるわよね。あそこで遊んでいる子たち何かしらないかしら」
「あの子、冷たい〜、寒いって言ってなかったかしら。この夏に」
「そういえば最近、変な人たちも近くをうろついてるのよねえ」
「確か子供を捜してる夫婦がいたような気がするわ」
「そうそう、確証が無くって捜索もされなかったのよね」
「王城へ向かう橋には手すりがあるけど、他の橋には無いのよね。酒場の側の橋なんても危なくって!前にも落ちかけた人がいたわ!」
「冒険者街はまだ人気が少なくて‥」
「川向こうに引っ越してきたばかりの若夫婦が‥」
「あ、王城の近くで誰かが‥」
「うちの住宅街の子じゃないわよね。でも‥可哀想だわ〜」
「あの〜、もう少しゆっくり‥」
「だからね」
「あ、そうだ‥月道の周囲は冒険者が多いわよね。武器を持った人をよくみかけるわ。ちょっと怖いわね」
「ここは冒険者ギルドよ、そんなこと言わないの」
「そうそう、子供は冒険者が大好きなんだから」
 ぺちゃくちゃぺちゃくっちゃ、うんぬんかんぬん。
 冒険者達にとってはゴーストよりもおばちゃん軍団の方が強敵かもしれない。
 すっかり押されて言葉も少ない。

 だが‥だが、彼らの瞳は真剣に何かを見つめていた。


『ここは‥さむいよ。‥つめたい。たいよう‥どうしてあんなにとおいのかな? あおくて、キラキラしててきれいだけど、ここにはいたくない。ぼくは‥おうちにかえりたい‥』

●今回の参加者

 ea0151 ニット・サルファード(22歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ea0333 フォーリス・スタング(26歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0382 ハーモニー・フォレストロード(18歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea0601 カシス・クライド(27歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea0702 フェシス・ラズィエリ(21歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ea1350 オフィーリア・ベアトリクス(28歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea3441 リト・フェリーユ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4287 ユーリアス・ウィルド(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 おばさんの群れに最初に勇気を持って飛びこんだのはシフールの少年だった。
「その子供の話、良く聞かせてくれないかな」
 ニコッ♪ ハーモニー・フォレストロード(ea0382)の笑顔に婦人達はキャーと黄色い悲鳴をあげた。
「あなたも冒険者? 小さいのに偉いわねえ」
「でも悪い人に攫われちゃうわよ」
「貰っていっちゃおうかしら。な〜んてね」
「あの、だから‥話を‥誰か! 助けて〜」
 人形のように弄ばれる彼を背中に庇い少女が前に出る。
「ありがと。あ〜潰されるかと思った」
「大丈夫ですか、ハーモニーさん? お願いです。話を聞かせて下さい」
 ユーリアス・ウィルド(ea4287)が優しく微笑む。真っ直ぐな少女の目、彼女らは頷いた。
 改めてハーモニーは子供の特徴を聞く。似顔絵を描く為だ。
 先入観を入れないように‥真剣に紙に向かう彼に今度は皆、協力的だ。
「多分5〜6歳ね。うちの子と同じくらいだったもの」
「そう、こんな感じ、上手よ」
 銀の髪、青い瞳、可愛い男の子の姿が紙に紡がれた。

「幽霊が出たというのは、この辺ですね」
 南側の住宅地をニット・サルファード(ea0151)は歩いてみた。閑静な住宅地だ。
「何故幽霊はこの辺を彷徨っているのでしょうか?」
 川辺に出てニットは対岸を見る。王城、教会‥そして住宅地とエチゴヤが遠くに見えた。

 エチゴヤ周辺には冒険者も多い。
「子供の心残りはやっぱり親に会えない事でしょうね。頑張りましょう」
 カシス・クライド(ea0601)は隣を歩くオフィーリア・ベアトリクス(ea1350)に笑いかける。
「は・はい‥が‥がんばります」
 緊張は取れないが、オフィーリアも懸命に笑ってみる。足取りや情報を懸命に纏めた彼女はこの周辺に子供の家があるのでは、と考えたのだ。
「私はエチゴヤに行ってみますからこっちお願いします」
 しっかり者のカシスを羨ましく思いながらオフィーリアは聞き込みを始めた。だが彼女は口下手。なかなか話を聞きだせない。‥そこで
「‥やってみましょう」
 静かにオカリナを吹く。確かな腕前で奏でられた音は人々の足を止め心に響き‥バードの本領を発揮した。
「ありがとうございま‥?」
 一人の女性に気付く。視線を彷徨わせる彼女は?
「彼女はね、子供を捜してるのさ。行方不明の子供をね」
「えっ?」
 話を聞いた時には、その姿はどこかに消えていた。

「十字架のネックレス?」
 少し前、引っ越してきたばかりの親子が来た。母は息子に十字架のネックレスをお守りに買ったと店員は語った。キャメロットで子供を産む‥と言ってたとも。
「んで、二週間くらい前か? その子が来たぜ」
『僕、お兄ちゃんになったんだよ♪』
 そう言うと子供は弟の為の十字架を買って、まだお買い物があるんだ! と店を出て‥
「あとは見てねえな。何か‥あったのか?」
 カシスは店を出た。質問には‥答えられないまま‥

 フェシス・ラズィエリ(ea0702)とフォーリス・スタング(ea0333)はハーモニーから受取った似顔絵を持って聞き込みをする予定だった。
「とにかく今は情報を集めましょうか」
 その時! 駆け寄ってくる者達に彼らは包囲された。
 でも攻撃の心配は無い。
 小さな手、丸い瞳。‥子供達だ。
「魔法使いの兄ちゃんだ。カッコいい〜」
「こっちも兄ちゃん‥かな?」
 クスッ 微笑ながらフェシスは膝を折り目線を合わせた。
「あのね。聞きたいことがあるんだ」
「なに?」
「こんな子知らない? 5歳くらいの小さな子だよ」
 子供の顔色が変わる。二人はそれを見逃さない。
「‥知ってるなら教えて下さい」
 子供達のリーダーらしい子がフォーリスの前に出た。
「知ってる。幽霊の子だろ。うちのママも見たって。でも‥俺達、前に会った。生きてたこの子に‥!」
 彼は懸命に語る。弟の為にミルクを買いに来たという子を遊びに誘った事。遊ぶのに夢中になって冒険者酒場でミルクを買った時には夕暮れ近かった事。近道だからと酒場の横の橋を教えて、別れて、すぐ‥音を聞いた気がした事。
「あの子、川に落ちたのかな。俺の、俺のせいだ‥」
 子供の涙をフェシスはそっと拭う。
「あの子は君らを恨んだりしてない。大丈夫。俺達が必ず家に帰してやるよ」
「お願いだよ。冒険者のお兄ちゃん」

「と、言うわけです。大体繋がりましたね」
 教会の前で待ち合わせ彼らは、情報を整理した。
「‥エチゴヤの南の家の子が、エチゴヤで買い物をし‥王城の方を通ってギルドの側で子供達と遊んだ‥」
「そして川に落ちた。多分、酒場の横の大橋で」
 オフィーリアの推理をリト・フェリーユ(ea3441)が引き継いで纏める。それが正解だろう。
 ニットは腕を組む。ここは手分けした方がいい。
「私と、フォーリスは漁師に船を借りに行きます。明日、朝一番に探して貰うよう手配しましょう」
「私はご両親の家を探します。できたら立ち会って貰える様に‥」
 カシスも自らの行動を定めた。ならば‥残った者達は頷きあう。
「‥私達は‥迎えに行ってきます‥ね」
「頼みます」
 三人と別れ、彼らは住宅街に足を向けた。

 夜の住宅街は昼間とまったく違って見える。異世界のように‥
「‥幽霊さん、出ておいで‥出て来なくてもいいけど〜」
「出てきてくれないと困りますよ。ハーモニーさん」
 ユーリアスのツッコミにハーモニーはアハと苦笑した。実は彼は幽霊が苦手なのだ。その彼が何故この依頼に入ったのか知る由も無い。
「たった10秒だし出てこないよね〜?デティクトアンデット‥げっ! 後ろ?」
 彼らは振り返る。探す必要も無かった。まるで、待っていたかのように黒い影は彼らの真後ろに立っていた。
『ママは‥どこ? かえりたいよ‥』
(「この子は助けてくれる人を求めて彷徨っていたのですね」)
「‥待て!」
 フェシスの静止も聞かず、オフィーリアは影に近づくと優しく抱きとめた。力を吸い取られるような酩酊感。だが意識は残す。
「‥あなたを、迎えに来ましたわ‥」
『むかえに‥? でも‥』
 影はゆっくりと子供の姿を現す。自分の描いた絵とそっくりの子供‥
「うきゅ‥」
 ハーモニーはユーリアスの頭上で気絶した。動けない彼女とオフィーリアに替わってリトがゆっくりと膝を折る。
「お家が解らないの? お姉さん達も探すの手伝ってあげる。手を繋いで一緒に行こう? 大丈夫。ママは怒っていないから、ちゃんとただいまって言ってあげようね」
『うん‥』
 シャラン
 幽霊はリトの手に触れると姿を消した。崩れるオフィーリアをフェシスが支える。
「一緒に行きましょう‥」
 腕に絡まった十字架のネックレス。リトはそれに優しく触れた。 

 トントン‥ 朝一番にその家の扉をノックする者がいた。
「‥どなた?」
 扉を開いたのは男性だった。落ち窪んだ目、憔悴しきった顔。
 カシスは息を呑んだ。告げる言葉も出てこない。
 だが‥言わなければ。彼らの為にも、あの子の為にも‥
「この様な事を説明するのは、憚られますが‥私と来て頂けませんか?」

「おーい! どうだあ」
「この辺じゃない。向こうに行ってみる〜」
 翌朝、酒場の裏手の川にはいくつもの船が浮かび、漁師達の声が響いた。
 ニットとフォーリスの願いに彼らは言ったのだ。
「解った。明日一日、皆で探してやる。見つかったら金はいらねえ」
 漁師の一人が川に落ちた人物を見た男であり、また一人が昨日フェシスが出会った子の父だった事を彼らは知らない。
 だが、彼らに感謝せずにはいられなかった。
「み‥水のウィザードの名誉にかけてっ‥行きます!」
 飛び込みかけたユーリアスを仲間達が引きとめているうちにオフィーリアはハーモニーに耳打ちした。
「解った。行ってくるよ」
 飛び立った彼とすれ違いに船が近づいてくる。カシスと三人の人物を乗せて。
「‥連れて来ました」
「‥やっぱり昨日の‥」
 若い夫婦は、生後間もない子を抱いたまま彼らに会釈する。その時だった。
「いたぞ!」
 間違いだと思いたかった。でも‥ついにあの子を見つけたのだった。

「ヒュー‥!」
 二週間以上水の中にいたとは思えない程、その姿は綺麗だった。
 まるで眠っているような我が子に母は縋り泣く。
「私のせいで、許して‥ヒューリー!」
『‥ママ』
「えっ?」
 リトの十字架が小さく鳴り‥あの子が現れた。
「ゴメン! 間に合った?」
 ハーモニーは息を切らせながら場に駆け込んだ。小さなミルクの瓶をオフィーリアはそっと『彼』に渡す。
『ありがと』
 微かな声で礼を言うと、彼は母に荷物を手渡した。ミルクと‥弟の十字架のネックレス。
『ただいま、ママ。ぼく、ちゃんとおかいものできたよ』
「‥ヒューリー」
『もう、いかなくっちゃ‥』
 彼の姿が溶けるように消えていく。
「行かないで! ヒューリー!」
 叫ぶ母、泣き出す弟。見つめる父‥
 だが、彼は天使の微笑で首を振った。
『ぼくは、かえってこれた。だから、またかえってくる。いつかおうちに。だから‥なかないで』
 ふわり、彼の手が母に触れる。もうゴーストの手では無い。天使のぬくもり。
『おねえちゃん、おにいちゃん。ありがとう‥いってきます』
 光となって‥彼は消えた。
「‥見送って‥あげてください」
 支えるオフィーリアに母は光を見上げ、精一杯の笑顔で‥言った。
「‥おかえり。ヒュー。そして‥行ってらっしゃい」

 オフィーリアが静かに奏でる鎮魂歌の中、彼らは空を見上げた。
「これで、ひとまずは解決でしょうか‥?」
 再会と永遠の別れ。苦いものがカシスの心に残る。
「悲しい子‥、でもあのまま彷徨うよりずっと良かったはずです」
 ニットの言葉に仲間達も頷く。
「僕、少しだけゴースト怖くなくなったよ」
 明るいハーモニーの言葉は彼らを微笑ませた。
 
 オカリナが空に響く。祈りを込めて‥彼ら全員の祈りを込めて‥

 いつかあの子がまた家族の元に帰れるように。
 長い‥おつかいを終えて‥