【幽霊達のラブソング】

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月19日〜08月24日

リプレイ公開日:2005年08月28日

●オープニング

「どうして、この家、こんなに懐かしいのかな?」
「ニャアー!」
「解ってる。早く戻らないと団長さん、また怒るよね。でも‥‥大好きなのこの家‥‥」


 酷暑、猛暑、残暑(?)
 今年の夏も暑く、イギリスの石畳の上は熱砂に焼かれ灼熱の地獄と化す。
 そんな中、一人元気な若者がいた。
「いや〜、今年の夏も暑い! 暑いと言う事は‥‥フフフ‥‥今年も大もうけできるかも」
 そう言って彼は郊外の一軒の空き家に向かう。
 ここは、昨年彼が手に入れた登記上は彼の持ち物である。
 昨年ここでお化け屋敷を開いて大好評を博した。
 何せここにはホンモノのゴーストがいるのだ。迫力は満点。
「ぜひとも伯爵にお願い申し上げて、ぜひ、今年も‥‥おや?」
 見えてきた館の前に人影が見える。家を見上げて、佇んでいる?
「何か、この館に御用ですか?」
 小さい少女、と見えたので彼はなるべく丁寧に声をかけたつもりだった。
 だが、その子は身体を震わせ‥‥逃げていく。
「あ、ごめんなさい!!」
 走り去っていく少女の姿。腕の中の猫。だがそれより揺れた彼女の髪の下から覗いた耳に商人は眼を瞬かせた。
「あの子は‥‥エルフ? いや、ハーフエルフ‥‥か?」
 華やかな踊り子のような服の下に覗いた赤い血、黒い痣が妙に不似合いで気にはなったが、とりあえず館の扉を開けた。
 まさか、その少女が彼の思惑に大きく影響するとは思いもせずに‥‥。

「えっ? 男爵様? 何故??」
『理由はどうでもよい。いいか? 必ずだ。さもなくば、今年以降この館の使用を許可はせぬぞ!』
「そ、そんなああ〜〜〜!」
 
 落ち込んだ顔の商人が冒険者ギルドにやってきたのはその日の夕方だった。
「どうしたい? ‥‥あんた、確か前に来た事、無かったか?」
「ええ、一年前、お化け屋敷の件でお世話に‥‥」
「そうだ、あの時のだよ。でも、どうしたんだ? 随分不景気なツラしてるな? お化け屋敷は大繁盛で大分大もうけしたって聞いたぜ? 今年はやらねえのか?」
「やりたいさ、とってもやりたい、凄くやりたい。絶対にやりたいのに〜〜〜!」
 突然奇声を上げた男に係員は、目をパチパチさせ、おい、と声をかけなおした。
「一体、どうしたって言うんだよ?」
「実は‥‥」
 商人が話し始めたのはこうだ。
 今年もお化け屋敷をするために、その会場となる古い館に向かった。そこにはその家のかつての主とその家族が今もゴーストとして存在している。人に害を加えることの無い気のいいゴースト達なのできっと直ぐに許可してくれると思ったのだが、意外にも伯爵の答えは条件付、だったのだ。
 その条件とは
『お前が先ほどすれ違った少女を探し出してこの館に連れて来る来い』
「ああ、それで周辺をいろいろ探したんだが見つからない。日にちばっかり過ぎてこのままじゃ、夏が終っちまう‥‥」
 だから、探して欲しい、と彼は言った。
「周囲の人の話ではここ一週間くらいに時々姿を見かけるようになった、という。ジプシーっぽい格好からしてどっかの旅芸人とかかもしれない。なんとか探し出して見つけて欲しい」
「その少女の外見とかは?」
「歳は8歳〜10歳くらい柔らかい金髪で青か緑の目で、三毛の猫を連れたハーフエルフの女の子だ」
「ハーフエルフ?」
 係員の問いに頷いてから彼は続ける。
「身体のあちこちに傷があった。ひょっとしたら‥‥辛い目にあっていて、男爵はそれを見捨ててはおけなかったのかもしれない。もちろん他の理由もあるのかもしれないが、私には男爵は教えて下さらない。だから頼む」
 この広いキャメロットで一人の少女をどう探したらいいか、それだけでも頭が痛いが‥‥見捨てておくこともできそうには無かった。


 それは、幽霊達の見る夢? それとも遠い過去の思い出? 記憶だろうか?
 
『お父様、どうか‥‥お許し下さい』
『貴族としての生活を捨て、家族を捨て、それでも、行くというのか?』
『はい、あの人を‥‥愛していますから』

『待っていたぞ。100年の時を、ずっと‥‥』

●今回の参加者

 ea0665 アルテリア・リシア(29歳・♀・陰陽師・エルフ・イスパニア王国)
 ea0974 ミル・ファウ(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5981 アルラウネ・ハルバード(34歳・♀・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea6832 ルナ・ローレライ(27歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9098 壬 鞳維(23歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1224 グイド・トゥルバスティ(29歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1758 デルスウ・コユコン(50歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

トール・ウッド(ea1919

●リプレイ本文

「夜に星が瞬く頃、私は、夜を歩き出すぅ〜♪ 幽霊さんたち、元気かなあ?」

 暗い館に人の声が響くのはどのくらいぶりだろうか?
「お化け屋敷っての一度入ってみたかったんだよなあ! で、伯爵ってのはどこだ?」
 キョロキョロ周囲を見回すグイド・トゥルバスティ(eb1224)の肩を叩く者がいる。
『私を呼んだか? お客人』
「わああっ!」
 背後に現れたゴーストに一歩、グイドは飛びずさる。でも、その横のジプシーの少女はあら! と満開の笑顔を見せた。
「やっほー! 依頼者さんや幽霊さん達とは1年振りかな? お元気? 幽霊さんにお元気っていうのも変かも知れないけど」
 太陽のような明るい声のアルテリア・リシア(ea0665)に(幽霊に笑顔があるとしたら)笑顔で彼は挨拶を返した。
 周囲の家族幽霊達も側にいる。楽しそうな様子が見て取れた。
『久しぶりだな。元気そうで何よりだ。妹君は息災か?』
「ええ。あ! ‥‥ちょっと聞きたい事あるんだけど」
『何だ?』
「幽霊さんの世界でも爵位上がったりするの? 確か去年は男爵って言ってたって‥‥」
 くすくす、プププ‥‥含み笑いのようなものが聞こえたような気がしてアルテリアは首を傾げた。
 自分の質問のせいだろうか? 伯爵は苦笑しつつ答える。
『‥‥言っておくが私は自分から男爵だ、と言った事は一度も無いぞ。この娘がそう言い出しだけだ。否定するのもなんだったのでな』
「私は伯爵と伺っておりましたが、時折混同するのですよ‥‥すみません」
 頭を下げる商人の横。
 この娘と指示されたシフールはあちゃ、という表情を見せて頭を掻く。
「だって好きに呼んでいいって言ったから〜。でも伯爵様だったんだあ。ちょっと偉かったんだね。ゴメンゴメン」
 幽霊の髭に触れるという荒行を諦めてファム・イーリー(ea5684)は地面に降りた。
「では何故今更男爵では無く伯爵だと言い始めたのです。自己顕示欲ですか? やはり貴族と言うものは‥‥」
 幽霊達をいろいろな目で見ている冒険者達の中、一際醒めた目で見ているものがいる。
「デルスウさん‥‥」
 デルスウ・コユコン(eb1758)の口調にミル・ファウ(ea0974)は少し寂しげな、悲しげな目を見せる。濡れたような瞳にデルスウは顔を背け黙った。
「‥‥やっぱり本当にいたのね。幽霊さん。私‥‥本当はお化けとかあんまり好きじゃないんだけど、そ、存在する者は認めないとね!」
 お化け嫌いを自称するアルラウネ・ハルバード(ea5981)は決心したように顔を上げた。微かに手元が震えているが表情はそれほど怯えていないようだ。
 むしろ、怯え顔でおろおろしているのは壬鞳維(ea9098)。怖いと顔に大きく書いてある。貴族に対し礼儀を守りたいが、表情はまだまだ硬い。
「あー、ビックリした。でもよ、何か訳ありみてえだし、依頼人も困ってるみたいだから手伝うぜ、よろしくな!」
 気持ちを取り直し深呼吸数度。そして笑うグイドの横で、黙って話を聞いていたルナ・ローレライ(ea6832)が静かに口を開いた。
「失礼を承知でお伺いしてもよろしいでしょうか?」
『何だ?』
「どうして、そのハーフエルフの少女を気になさるのですか?」
 今まで楽しげだった空気が急に冴えた。伯爵の表情もまた‥‥。
「あの少女、母親か父親が伯爵のご子息かご令嬢だったのでしょうか? だから、あの子を‥‥」
『今は、まだ言えぬ。とにかく、あの少女を連れて来るのだ。話はそれからだ!』
「待って下さい!」
 急に伯爵は消える。伸ばした手からも逃げるように。伯爵を追いかけ婦人と少女もスッと姿を消した。
「ねえ‥‥伯爵にも事情があるんだよ。無理強いしないで事情聞くの、も少し後にしない?」
 ファムが瞬きした時、一人ふわふわと残った幽霊を彼女は見つけた。
「あ、エディちゃん?」
 エディと呼ばれた幽霊は暖炉の上のある点を黙って指差す。
 埃に埋もれた置物などが並んでいる中、指示された一つを鞳維は手に取りそっと埃を払った。
「これは‥‥」
 それは古い肖像画。柔らかい金髪で碧の瞳の少女が微笑んでいる。
「この間の女の子に似ているような気がしますよ」
『お姉ちゃん。僕達の‥‥』
 商人の言葉にそれだけ言うと少年ゴーストもまた消えた。
「お姉ちゃん、ですか」
 館の闇に消えたゴースト達を思いながら、彼らは小さく、深い息を付いた。

 冒険者達が思う通り、少女を探し出す事自体は捜査に慣れた冒険者達には難しい事ではなかった。
「刻を見守る月よ。見守りし、刻の流れを今我に示せ‥‥パースト!」
 館の前でルナは仲間が見守る中呪文を唱える。
 銀色の光に包まれた彼女はやがて‥‥閉じていた目を開いてこう告げた。
「彼女は川を越えた向こう側から来て、同じ方向に戻っていきましたわ」
 ルナの指差した先は教会がある。広場もあり、人通りもある。
 冒険者はそれぞれの考えと動きで聞き込みを始めた。
「人を探しております。旅芸人の一座はこの辺に来ていませんか?」
「見た目8〜10歳くらいのエルフかハーフエルフの金髪の少女、青か碧の目をした踊り子を知りませんか? 三毛猫を連れていて最近キャメロットに来たみたいなんですけど〜」
 手伝いを申し出てくれたトール・ウッドの協力のかいもあって1日と立たないうちに少女の居場所は知れる。
 最近キャメロットにやってきた旅芸人一座。
 そこに彼女はいたのだ。だが
「‥‥やはり此処でも、は、迫害はあるのですね。自分は‥‥恵まれている」
 鞳維は唇を噛み締めて舞台の少女を見た。その、痩せたその子の悲しげな笑みを‥‥。

「似顔絵、作る必要無かったね。あの絵とそっくりというか、瓜二つだもん」
「本当‥‥似てるわ」
 手の中の肖像画を覗き込むミルにアルテリアは頷いた。
 舞台裏でくるくると働く女の子は、柔らかい金髪、碧の目。肖像画の人物そのものに見えた。笑顔さえ頬に浮かべば。
「ったく! 休憩時間無いのかよ。さっきからずっと働きづめだぜ」
 グイドは苛立ちに舌を打つ。休憩時間に声をかけようと思っていたのにその間さえ無く、もう直ぐ夜の公演が始まる。
「こら! ぐずぐずするな! お前を食わせてやってるのは誰だと思ってるんだ!」
 ビシッ!
 仕事を見張る男が打ち付けられた皮の鞭が少女の腕に赤い筋を作る。足元の猫が庇うように唸るが抵抗は足の下に消える。背中がもう一度打ち据えられた。
「団長さん‥‥ごめんなさい! 今すぐにやります」
 プチン。
 瞬間何かが切れた音がした。様子を見ていた、暫く様子を見るはずだった冒険者の間から真っ直ぐで揺ぎ無い靴音がする。
「待って!」
 他の冒険者達も追いかけていく。三度目、少女に蹴りをいれようと足を上げた団長は突然現れた人物達の訪れに驚愕の表情を浮かべる。
「何だ! お前らは!」
「大事な用事があるの。これから、とりあえず半日でいいわ。彼女を貸して」
「お嬢さん、お名前は?」
 団長を無視して、彼女の前に降りたミルはニッコリと微笑んだ。
 だが、少女は頭を抱え地面にしゃがみ込む。
「ごめんなさい。叩かないで!」
「!」
 さっき、仲間達と話した事をミルは思い出した。
『商人のおじさんが一声かけただけで逃げ出したって事は、きっと怯えていたんだよね‥‥』
『酷い扱いを受けているのかもな』
 その通りだと今、ミルは思う。顔にはあまり無いが、服で隠れたところに赤い筋や黒痣がいくつもある。
「大丈夫、叱られるんじゃないから、安心して」
 アルテリアは膝を折り、少女と目線を合わせた。
 彼女の後ろから鞳維がそっと、フードを下げ髪をかき上げた。微かに見えたものに怯え顔だった少女の顔に初めて光が帯びる。
「あ、あなたは‥‥」
 小さく頷いて彼は一歩下がる。もう一度アルテリアとミルは少女の前に舞い降りて、手を握った。細い指はもう彼らを拒絶していない。
「あなたが見ていたお屋敷の方が、あなたとお話がしたいんですって」
「あの、お屋敷の人が‥‥あたしを?」
 風に揺らした鈴の音のように小さく、少女は言った。ええ、と二人は安心させるようにしっかりと微笑む。
「君に会いたがっている。一緒に来ないかい?」
 ひょっとしたら、親戚のこととか、解るかもしれないよ。耳元で囁かれグイドの答えに少女の表情が咲く。
「行きたい!」
「ば、バカを言うな。もう直ぐ夜の公演が始まる。お前にも出番が‥‥」
 すっかり無視された団長の怒りの言葉をきっぱりとアルラウネは切り捨てた。
「なら! 今日は私がこの子のかわりに出るわ。踊りは自信あるの。損はさせない取引だと思うけど?」
「それでも足りないって言うなら、あたしもやってあげるわよ。それで不服?」
 アルテリアもサポートする。二人は射抜くような目で団長を見た。側に立つ冒険者達の目もまたナイフのように鋭い。
 その迫力に団長は後ずさり、身体を強張らせた。身体から何故か冷や汗が止まらない。
「わ、解った。今日だけだぞ!」
「あら、物分かりが早くて嬉しいわ。では、何をしたらいいのかしら?」
 半ば強引に団長を引きずっていったアルラウネの後を、アルテリアは追った。一度だけ仲間と少女に向けてウインクして。
「さあ、行こうか」
 差し出された暖かい手を、少女はしっかりと握り締めた。

「あら、帰っておいでですわね」
 ルナが言うまでも無く気付いていたのだろう。彼女の話を聞いていたロンデル伯爵は顔を上げて扉を見つめた。
 冒険者達の背中に隠れるように入ってきた少女。
 彼女に向かって伯爵は真っ直ぐ舞い降りた。
 幽霊の登場に少し、驚いたような顔を浮かべたが、少女は叫び声を上げたり逃げたりはしなかった。
『そなた、名を何と言う?』
「‥‥リン」
『マリンという名を‥‥聞いた事があるか?』
「‥‥おばあちゃん?」
「!」
 冒険者達は伯爵と、少女の会話に目を丸くする。
『やはり‥‥か。お前はマリンと、あのエルフの‥‥』
 少女の腕から飛び降りていた三毛猫がルナの足元に擦り寄った。抱き上げ、テレパシーをかける。
 彼の『言葉』を聞いてルナは小さく頷いた。
「伯爵様、おそらくご息女と恋をしたエルフは命尽きるまで家族を守っていたそうですわ」
 猫の記憶が伝わる。家族を守った老エルフ。
 盗賊による祖父の死によって、彼女リンは家を失い迫害の道を歩む事になったが、それまでは決して不幸ではなかったとそう伝えたのだ。
『苦労する事が、解っていたのに、何故‥‥マリンは‥‥』
 影が、微かに微かに揺れる。それは涙さえ流れないゴーストの号泣だったのかもしれない。
「泣かないで‥‥」
『!』
 小さな手をリンは伸ばした。伯爵をまるで抱きしめるかのように。
(『お父様、泣かないで‥‥』)
 100年の彼方、このような事があったように伯爵は思い返していた。
(『私は、いつか、必ず戻ってきますから。待っていて下さい』)
 今は、触れ合う事もできないほど、遠い世界に隔たれた目の前の少女と、自分。そして愛娘。
 だが‥‥
『約束を守ってくれたのだな』
 そう言って彼は静かに微笑んだ。少女と、そして冒険者に向かって‥‥
『お帰り。娘よ‥‥』

 月夜の庭で、冒険者達は空を眺めた。
「ふうん、そんなことがあったの。やっぱり大事な子だったのね。あの子」
「想う心は時を隔てないわ、例えそれが死で隔てられても変らないものがあるのよ」
 その場に居合わせる事ができなかったアルテリアとアルラウネは、それでも笑顔で館を見つめる。
 きっと今頃話しているだろう。100年の時を越えて出会った家族の言葉は尽きぬはずだ。
「苦労してきた分、彼女には幸せになって欲しい。同じ同族として‥‥彼女には‥‥」
 どうか光の中を‥‥、と鞳維は願わずにはいられなかった。
「まあ、大丈夫じゃないですか? 脅しはかけておきましたし」
 デルスウは二人を迎えに行った時、座長を思いっきり睨んでやった。ハーフエルフとはいえ、迫害していたと噂を流せばただでは済むまい。と。
「依頼人の商人は、後見役引き受ける気らしいからな」
「商人のおじさんなら交渉事には慣れてるし大丈夫かも!」
「上手く行くといいね」
 明るく話す仲間達から離れルナは月と、それより遠い何かを見つめる。
(「愛する人と別れる。それは‥‥異種族婚姻の定め‥‥」)
 死ぬまで家族を守り続けたというエルフは、自分と同じ思いをしたのだろうか‥‥。
「異種族の恋は不幸せなのか、それは誰にも分からない。寿命は違えど、同じ刻を愛せる人と歩めたのならそれはきっと‥‥」
 幸せだったろうと、彼女は思う事にした。

 後に、商人は正式にハーフエルフの少女、リンを養女として迎え入れた。
 ロンデル伯爵の財産と、館の生み出す資産。それを管理する役目も任されて。
 その役目を彼が新しい家族と共に喜んで受け入れたのは言うまでも無い。
「新しい家族ができたの! おじいちゃんや、おばあちゃんも、みんな大好き♪」
 嬉しそうに冒険者に語った少女の笑顔は輝いて、猫と共に笑い声と言う幸せの音楽を奏でている。
 その言葉に微笑むのは寂しがりやの幽霊達。

 彼らは今、ずっと待ち求め続けていた宝、最高のラブソングを手に入れた。