【ソールズベリ 序章】過去への誘い

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 22 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月24日〜09月03日

リプレイ公開日:2005年09月01日

●オープニング

 若い魔法使いと、若い騎士。二人は顔を見合わせた。
 頷きあい、そして同時に手を伸ばす。
 バチッ! 火花が弾けた。
「うわあっ!」
 バチバチバチ! バチン!!
 一際大きな火花に押し倒される形で二人は尻餅を付く。丁度、騎士が魔法使いの上に乗る形になる。
「くそっ、ここもまた失敗かよ。なんで先に進めないんだ?」
 憎憎しげに火花を上げた扉を見つめる騎士に魔法使いの男は怒鳴り声と同時、拳骨を見舞った。
「こら! 何時までも俺の上に乗ってるんじゃねえよ!」
「あ、ゴメン。兄貴」
 慌てて立ち上がった青年は、魔法使いである兄に手を伸ばす。彼は素直にその手を取り勢いをつけて立ち上がった。
「やっぱり、何かこの先にはあるんだぜ」
「ああ、そうだな。だが、俺達には入れない。それも確かなようだ。とりあえず、兄貴達の所に戻ろう」
 そう言って彼は弟に向かって首をしゃくった。頷いて弟は兄の後に続く。二人で暗い梯子を真上に上がった。
 そして、頭上の扉を開ける‥‥。


「うわっ! もう脅かさないでよ」
 玄室の中央。かつて古い棺があった台座を調べていたその女魔法使いは台座の蓋を開けて出てきた弟達に小さく目配せした。この台座に地下があることを知って下に入っていったと知っていてもやはり突然のことには驚く。
「ご苦労だったな。で、どうだった? 下の様子は?」
 壁の文字を調べていた男は魔法使いに促され、細い通路から出てきた男達は身体の埃を払った後、首を横に振った。
「ダメだ。俺達じゃ先に進めない」
「やっぱりそうか‥‥」
 悔しそうに呟いた騎士に出迎えた男は呟いた。
「兄貴、やっぱりってどういう意味だよ?」
 男の呟きに魔法使いの青年は目を瞬かせる。男は弟達と妹の眼差しを受けてさっきやっと解読した壁面の言葉を読み上げた。
「『一族に扉は開かれぬ。知恵と勇気と心を持ちし友に託すべし‥‥』つまり、遺跡を調べるには俺達以外の誰かの力を借りなくてはならない、ってことみたいなんだな」
「それなら‥‥やっぱり」
 騎士の青年の眼差しが告げなかったそれ先の言葉に、兄弟達は頷いた。

「よう、元気だったか?」
 ギルドの係員は陽気に手を上げた。騎士見習いの元冒険者、今は家族の元で街を守っている若い青年戦士も久しぶりと手を上げて挨拶を返す。
「おかげさまで、ってとこかな。それで‥‥今日は依頼があってきたんだけど」
 元々ここは冒険者ギルド。依頼を受けるところ。依頼人の訪れに否応があるはずもない。
「うちの故郷には遺跡があって、最近ちょっと訳ありでそこを調べているんだ。それほど大きな遺跡じゃないんだけど、特別な仕掛けがしてあるらしくて、俺達じゃどうしてか先に進めない。どうやらうちの一族には入れないようにしてあるらしいんだな」
 そうして、彼は遺跡の大よその図を指示した。場所はエーヴベリー。エーヴベリーサークルと呼ばれる遺跡だ。小さくも無いが大きくない。そしてその遺跡には彼らの先祖の魔法使いが封じられていたという。
「遺跡の真下には玄室があった。その玄室のさらに下に何か通路みたいなのがあるんだ。それを守っている何かもいるみたいで、でも‥‥俺達には入れない」
 そこに何かの意思を感じる。と彼は言った。
 正直地下の通路には入れないので遺跡に何があり、どんな形をしているかは解らない。
 そうやら東西南北に通路が繋がっているようだが。
「そうヤバイ敵はいないと思うけど、少しやっかいな探索になるかもしれない。受けてくれる人は気を付けて」
 心から心配そうに彼はそう言った。

『兄様が‥‥消えた。復活が、近づいているの? 我らが王の復活が‥‥』
 薄く影が揺れた。自分には見えない、外の世界を見つめて。 

●今回の参加者

 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1314 シスイ・レイヤード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2731 レジエル・グラープソン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5592 イフェリア・エルトランス(31歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

 ウィルトシャー地方には3つの街がある。
 ストーンヘンジを中心としたウィルトシャーの中心。セイラムの街。
 セイラムの南西。美しい風景と実り深き大地に恵まれたシャフツベリーの街。
 そして村全体が岩のモニュメントに取り囲まれた北の街、ここエーヴベリーである。
 二つの街に比べ小さいが、温かみのある人々の笑顔がいつも旅の冒険者達を出迎えてくれる。

「こっちよ〜、お疲れ様!」
 大きく手招きする人物の明るい声にイフェリア・エルトランス(ea5592)は同じように手を振って答えた。
「ファーラさん、お久しぶりね。もう兄弟喧嘩していないわよね?」
 開口一番の手厳しい、でも優しい言葉にファーラと呼ばれた娘は苦笑しながら頷いた。
「勿論よ。まあ、全然ケンカしていない、とは言わないけど仲良くやっているわ」
「良かった。ホッとしました。でも‥‥ふふ、本当にお会いできたんですね。こんな事言うのもなんですけど、皆さんにまた会えると思ったらなんだか嬉しくなってしまって」
「よぉ、元気にやっているようだな。なにより、なにより」
 リース・マナトゥース(ea1390)とジェームス・モンド(ea3731)は微笑んだ。
 この街に最後に来たのは夏の始まりの頃。もう夏も終わりだ。風の色も少し気配を変えている。
 周囲を見回しながら風霧健武(ea0403)は小さく声を上げる。
「ソールズベリと、似て非なる空気を持つ街だ」
「ふむ、久しぶりと思ったがいやはや‥‥」
 シスイ・レイヤード(ea1314)の言葉どおりストーンヘンジとは違う、独特の空気に遺跡などに慣れていたはずの冒険者達も息を呑む。
 リースとジェームス、イフェリアは顔を見合わせて微笑む。
 自分達も同じだった。かつてこの遺跡を見た時に、驚いたものだ。
 街中の至る所に巨石が佇んでいる。まるで息をしているように自然に。
「これだけの所、遺跡なんて珍しくも無いでしょうに、なんで調べようと思ったんですかね?」
 素朴な疑問のレジエル・グラープソン(ea2731)にファーラはハハと笑って手と、足を前に動かす。
「とにかく案内するから。こっちよ」
 ここには勿論仕事をしに来たのだ。その促しに是も否もあろう筈が無い。
 冒険者達は頷き、前を行く娘の後を追った。

 石造りの巨大なモニュメント。
 エーヴベリーサークルの隅に、小さな入り口があった。奥には玄室があり、そしてさらにその下に未捜索の遺跡があるという。
 遺跡に隠された秘密に冒険者達は目を瞬かせた。
「なんとなくぅストーンヘンジと似ていると思いましたけど、こちらにはこんな仕掛けがあったのですかぁ? びっくりですぅ」
 驚きの声を上げるエリンティア・フューゲル(ea3868)の側で、ギルス・シャハウ(ea5876)は頷くように羽を羽ばたたかせた。
「なら、ひょっとしてストーンヘンジにも何かあるのかもしれませんね?」
「ストーンヘンジと、エーヴベリーサークルはほぼ同じ時期に作られたようだから、今回の調査は実は‥‥。っとここだ」
 先を案内していた戦士が身の軽い動きで、ここ、と指し示す。
 玄室から下りる梯子の先は小さな部屋。たった一つの扉を開ければそこには真の暗闇と通路があった。
「右に折れると直ぐに四辻。そこから先には俺達は行けないんだ‥‥」
 四辻は丁度クロスの形でかなり先まで続いている。
「皆は行ける?」
「確かめてみる。カインはそこで待ってろ」
 ジェームスは借りてきた木の棒を、ブン! 強く振った。何の反応も無い。さらに数歩歩んでみる。そして、さらに数歩。
「問題ないようだな」
「ホントだ‥‥でも‥‥うわあっ!」
 後を追おうとし、押し戻されるように倒れたカインを、健武が支えた。
「やっぱりダメですか。でも‥‥私も入れました」
 気遣うようにリースはカインを横目で見ながらも、足を踏み入れてみる。リースの足を留めるものは確かに何も無い。
「入れないものは仕方ない。後は任せて下さい」
 レジエルもまた足を同方向に進め、入れるのを確認してからカインに声をかける。彼はしぶしぶと言う顔で頷き、前を見た。
「無理はしないで。どうか、気をつけて」
 それだけ言ってカインは小部屋に戻り扉を閉めた。梯子を上っていく音が完全に消えると地下にはカンテラの燃える炎の音と冒険者達の呼吸音だけが残る。
「いよいよ、遺跡探索ですね。ワクワクですぅ〜」
 明るい口調のエリンティアではあるが、表情は真剣そのものだ。
「‥‥気になるな‥‥たんにあの一族を立ち入らせたくない、見せたくない物があるのか、それともよほど危険で、あの一族を護りたがっているのか‥‥何にせよ、用心が必要だな」
「どちらにしても、気を引き締めて行きましょう」
 手元のカンテラに明かりを入れてイフェリアは掲げる。薄明かりの向こうで仲間達が頷くのが見えた。

 通路は狭く、二人並んで進むのがやっとのこと。
 冒険者達は予定通り、二つの班に別れて進む事にした。
「ふむ‥‥? 少し拍子抜けの感じさえしますね」
「思ったより、ずっと、ずっと静かですねぇ」
 罠があるか、敵は出てくるのか? そう警戒しながら歩いていた。
 十字路を東にゆっくりと歩く事暫く。何もダンジョンには出ては来なかった。
 ズゥンビも、魔物も、何も‥‥。
 何度目か、エリンティアが唱えるブレスセンサーにも、反応は無い。
「まさか、何も、無いんでしょうか? これだけの遺跡に‥‥」
 後ろからリースが照らしたカンテラは冒険者達の影だけを前に映す。聞こえるのは冒険者の声だけ。
「油断はするな。何が出るか、解らんぞ! ‥‥ん?」
 先頭を歩いていた健武の足が止まった。十字の分かれ道があった先は行き止まり。仲間を止め、彼は剣で壁を突付いてみる。
 コンコン、空洞の音がする。
「‥‥健武さん。そこに、隠し扉があるみたいですぅ!」
「何!」
 埃にまみれた壁を注意深く調べてみると、彼の言うとおり扉があった。古い古い、石造りの扉。
 石の輪の取っ手を握り締める。硬い扉をレジエルと一緒に引き開けたその時、彼らがそこで見たものは、思いもよらないものだった。

「どうしましょうか〜? この子達?」
 天井近くをひらひら飛んでいると、近づいて一緒に飛んでくる。床を歩いているととことこと付いてくる。
 まるで卵から最初に見たものを親と思うアヒルのように、自分に付いてくる存在にギルスは小さく困った顔を見せた。
「とりあえず‥‥害は無さそう‥‥。連れて行ってやったら? おかあさん?」
「からかわないで下さいよ。シスイさん。あ、大丈夫だよ」
 顔を覗き込む小さな二人にギルスはとりあえず微笑んであげた。安心したように彼らはくるくると回る。
「でも、本当になんなんだ? この遺跡は?」
「西の道も、南の道も隠し扉の先にいたのはこの小さなエレメンタラーフェアリーだけ。部屋に意匠してあった模様からしてこっちは土で、こっちは風の子らしいわね」
 ジェームスは歩きながらも唸るように頭を掻いた。イフェリアの言ったとおり、この巨大な遺跡にいるのがエレメンタラーフェアリーだけという事があるのだろうか?
 部屋を勿論調べてみたが、特に目ぼしいものや文字も見つからなかった。
 通路に戻ってみたが真っ直ぐ戻れば最初の十字路に戻る。あと、調べていないで残っているのは通路の途中にあったこの道だけだ。
「十字の道に少し、弧を描くこの通路が交差している。こいつは‥‥わっ!」
 手作り地図を見ていたジェームスは少し、気付くのが遅れた。通路の奥からやってきた人影に。
 だからバランスを崩して尻餅を付く。イフェリアは慌ててカンテラを照らした。そこには松明を持つ仲間の姿が‥‥。
「どうして、こんな所に皆さん?」
 レジエルが首を捻るのも、道理だった。東と西、完全に反対方向に行ったはずの仲間が何故か今、眼前にいる。
 その背後から楽しそうな声が聞こえる。自分達の横でするのと同じような声。
「あ! 君達!」
 ギルスの側にいたフェアリー達が急に飛び出した。
「待って下さい!」
 それとほぼ同時、リースの腕の中にいた何かも飛び出していく。
 そして、通路の向こうへと走り去って‥‥
「さっき、遺跡のドアの向こうで眠っているフェアリーを二匹、見つけたんだ!」
「水と〜炎の模様の部屋にいたあの子達は〜、目が覚めたらなんでだか僕達についてきたんですぅ」
「詳しい説明は後だ! とりあえず、あいつらを追うぞ!」
 ジェームスが立ち上がり、一番最初に駆け出した。残りの冒険者達も慌てて追いかける。
 彼らが走って、たどり着いた場所。そこは、最初に出てきた小部屋の丁度まん前だった。
 十字架の右肩が最初の入り口だとすれば、その通路を挟んだ左肩、反対側に、最初は気付かなかった部屋の扉が現れて見えた。
「呼吸は‥‥感じません」
「でも、何かはいるな」
 ここまで来て後には引けない。
 扉の向こうの何かを感じ健武は仲間達に戦闘準備を整えさせた。そして‥‥一気に扉を開け中に飛び込んだのだった。

 中にいたのは恐ろしい怪物では無かった。
 いたのは、透き通ったような外見を持つ、少女の外見を持つ者。
「あれはアンデット‥‥でしょうか?」
 足元には四匹のエレメンタラーフェアリーが戯れている。
「貴方は‥‥誰です?」
 問いかけたギルスに『彼女』はフェアリー達と顔を合わせ、微笑んだ。
『私はコグリ。貴方達が‥‥兄様を解放してくれた人?』
「兄様‥‥って、ひょっとして?」
「‥‥アル・ブラス?」
 リースとイフェリアは武器を下ろした。『彼女』の悲しげな笑みが問いを肯定していると解ったから。彼女が、害あるものに見えなかったから。
 二人に従うように全員が武器を下げた後、『彼女』は深く静かに頭を下げた。冒険者達に向かって。
『兄様を、助けてくれてありがとう。私は、過ちを犯したお兄様をここに封じた者。我が一族の罪を償い、王を止めてくれる事を願う者‥‥』

 遺跡から戻った冒険者達をずっと待っていたのだろうか。カインは梯子を上って戻った彼らに駆け寄ってきた。
「良かった。無事で! 遺跡は、どうだったんですか? 何が、あったのですか?」
 だが冒険者達の答えは沈黙。そして‥‥
「ごめんなさい、カインさん。ご兄弟の皆さんを呼んできて貰えませんか?」
 一時の拒絶。リースの言葉に怪訝な顔をしながらも、彼は頷き外へ向かう。
 冒険者達は腰を下ろし、頭を抱え考えた。何をどこまで伝えるべきなのかを‥‥。


『私達は古きケルトの末裔。この地を治める王にして偉大なる魔法使い。優しき指導者タリエシンの元、精霊達と共存し平和で豊かな、光溢れる都を作っていました』
『ですが他国の魔術師が率いる攻撃によって都が滅びかけた時、我らが王タリエシンは禁断の技を為したのです。自然と精霊と共存し力を借りるのではなく、自然を支配し、意のままにするという‥‥』
『侵略の恐怖から、国は救われました。しかし、精霊を使役し、強大な力を意のままにする事を知った王は、かつての優しき指導者ではなく‥‥力に溺れた悪鬼、独裁の悪魔となったのです』
『我がサーガ家の長、アル・ブラスはタリエシンに従い人々を苦しめました。そして、私達は他国の魔術師達と力を合わせ、古い遺跡の力を借りて‥‥ストーンヘンジにタリエシンを、この地にアル・ブラスを封印したのです』

 彼女は言っていた。二つの遺跡は古い祭祀の場。自然の力を集め、増幅する力を持っている。
『私は恐れたのです。兄のように我が子孫が力に溺れる事を‥‥』
 その為にこの遺跡を悪用される事の無い様に鍵として彼女は残った。
 兄が蘇ってもこの地の力を使えないように、一族を拒絶して。
 たった一つ、一族の信頼を受けたものがこの地に来る事を。一族が他者と心を通わせる事を唯一の希望に。

「全てを話しましょう。彼らは、きっと二度と力に溺れたりしないわ」
 立ち上がったイフェリアの言葉にはレジエルは同意するように頷いた。
「それが、いいでしょうね」 
「あいつも‥‥あの地から解放してやれればいいのだが」
 健武は呟いたが、彼女を縛る意思と力は強く遺跡を壊しでもしない限りは難しそうだった。
『王の封印ある限り、私はここから動く事はできません。私には役目があるのです』
「ストーンヘンジに封印されている、太古の魔術師‥‥タリエシン」
 エリンティアは何か、嫌な思いを胸に抱いていた。それはかの地に深く関わった者の持つ予感、だったかもしれない。
「? これは‥‥」
 覚書のようにエリンティアの遺跡の地図と、自分の図をジェームスは照らし合わせる。
 それは不思議な幾何学模様を描いていた。
 十字架と円が組み合わさったような文様。
「何か‥‥意味があるのだろうか?」

 
 冒険者から全ての話を聞いたサーガ家の兄弟達が、何を思い、どういう結論を出したのかまだ、冒険者達は知らない。
 地下のゴーストが冒険者達との出会いに、何を思ったかもまた。
 だが‥‥
「大丈夫ですよ。きっと、カインさん達なら‥‥」
 リースの言葉を冒険者達も信じていた。一人ではなく、試練を乗り越えた彼らならきっと間違いを犯しはしないと。
 ギルスは思い出す。小さなフェアリーたちと、あのゴースト、コグリの顔を。
(「伝わったでしょうか? 僕の気持ち」)
『僕は今を愛し、未来に希望を持ちます。過去とはただ、より良い未来を築くための礎でしかありません』
 彼らがいつか縛られている過去から解放される事を、ギルスは神に祈っていた。

 一通の報告書が届く。
 自らの執務室で書類を読んだ人物は、立ち上がり、窓の外を眺めた。
 人々の笑顔が生きる愛する街。
 この地に生きる者達に、いつまでも憂いを残しておきたくない。
 誇りある雄大なあの遺跡を、呪われたものにしたくは無い。
 過去と向かい合い、未来を見つめようと、彼は決意していた。