森のくまさん?
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月29日〜08月03日
リプレイ公開日:2004年08月04日
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●オープニング
ある日、森の中
「キャー!!!」
「熊に出会った?」
冒険者たちの言葉に、少女はおそるおそる頷いた。
「あんた、森に行ったのかい? 一人で?」
こくり、また前に首を動かす少女。冒険者達は深く息をついて少女の肩をぽん、と叩いた。
「今のご時世、一人で森に行ったりしたら、危ないって解ってるだろう?」
「熊に喰われなかっただけでもよしとしないと。」
でも‥でも‥、下を向いたまま、少女は何か呟く。
「ん? でも、何だ?」
「でも、どうしても森に行かないとダメなんです。ベリーが‥手に入らないから‥」
「ベリー?」
「ああ、その子の家はパン屋なんだよ。季節にはベリーや果物でジャムを作ったりしている。結構美味いぜ」
ギルドの係員はそう言って笑った。地元では評判の店らしい。
そうなのか? という視線で見つめる冒険者達に少女ははい、と答える。
「今の時期、森はベリーの宝庫です。苔桃、ブルーベリー、木苺。私の両親がそれを煮てジャムを作ります。とっても忙しいし、秘密の場所を知っているのは私ですから‥私が取りに行かないと‥。今の時期を逃すと来年の春まで、キャメロットに出回るジャムは‥とっても少なくなってしまうんです。甘いものは、みんなの楽しみなのに」
だから‥次に出る言葉は、ここに来ている以上決まっている。
「あの、お願いです。私の護衛をしてもらえませんか? 報酬はあんまり出せませんけど、この際です。私のとっておきのベリーの取れる場所お教えします。うちの店のパンも差し上げます。ご希望でしたら出来たてのジャムをつけて」
期間は3日間 少女をすぐ横の森まで護衛すること。そう難しい依頼では無い。
ただし、熊は強敵だ。少なくとも駆け出しの冒険者達が1対1で出会ったら、確実に負けるほどに。
まして、今は夏。春に子供を生んだ親熊だったら危険度はいや増しに増す。
熊が必ず出るとは限らない。出なければ、楽しい森のピクニックだ。
運が大きく左右するだろう。
新鮮なベリーと甘いジャムは魅力的ではあるが‥。
涙目を浮かべる少女の顔を見つめ、冒険者達は深い息をついて‥決心した。
「あら? お嬢さん。あなた片方だけイヤリングをつけているの?」
「片方? イヤだ。大事なイヤリング。片方落としてしまったみたいです。どうしましょう‥」
●リプレイ本文
秋の森は動物達のレストラン、夏の森は喫茶店。
緑の深い森は、溢れる実りを惜しみも無く来る者達に与える。
人にも獣にも分け隔てなく‥
「ベリーのジャムですか? 楽しみですね」
森のピクニックにシエラ・クライン(ea0071)は楽しい気分で辺りを見回した。背筋をピンと伸ばし警戒は怠らないが。
「ねえ、シエラさん、報酬にジャム貰ったら、半分コにしませんか?」
以前の依頼で知り合ったシエラにセレス・ブリッジ(ea4471)は相談を持ちかける。反対の理由は無い。シエラは頷きトレードが成立する。
「ベリー摘み‥なんかウキウキしますね」
楽しげなアルノール・フォルモードレ(ea2939)は少女の横で森や植物の話を語りかける。軽いナンパ気分だ。
「報酬にジャムか‥悪くないな。歩きづらいだろうが‥ついてこいよ」
愛馬の首を軽く撫でシーリウス・フローライン(ea1922)は励ました。森の中で騎乗して歩くのは難しいが、仲間達の荷物や食料品、採取のための籠を背につけた馬の存在はとても役に立った。
「おいらも甘いもの大好き。貰ったら皆と食べようよね。けんちゃん♪」
蔵王美影(ea1000)は忍者とは思えない明るさで、隣を歩く風霧健武(ea0403)に笑いかけた。
「けんちゃんは‥、まあいい‥アンタを護る。それが俺の役目だ」
美影と対照的に忍者のイメージにそのものの健武だが、美影が腕に貼り付いても払わず一番前を歩く。背中の無言の優しさに少女は黙ってお辞儀した。
「エレさん、でいいんでしたよね。聞いておきたいんですが、熊を貴方はどうしたいですか?」
神聖騎士であり、エルフのクリストファー・テランス(ea0242)は少女エレに問うた。
エレの足も、仲間達の足も止まる。それは一番に決めるべき事だ。少し‥考えてエレはニッコリと微笑む。
「私達の方が侵入者ですもの。出会ったら‥逃げたいです」
冒険者の皆さんには、失礼かもしれないですけど。肩をすくめたエレにシスイ・レイヤード(ea1314)は首を振る。
「無用な殺生は‥しないほうが‥いいだろう」
冒険者達の多くは同じ思いを持っていた。健やかな心の依頼人を見守り、光の溢れる森を彼らは歩いていく。
苔桃は主に高地に生える。一番最初に摘み取りに来たのは、森の一番奥に生えているからとエレは言った。
「実も結構丈夫ですし、折角だからたくさん摘みたいんです」
エレは冒険者達を足止めて、荷物を降ろし籠を手に持つ。健武に薦められて腕につけた熊よけの鈴が、リリンと歌う。
「苔桃ってシーズンには少し早いんじゃありませんか?」
植物に詳しいシエラの言葉に‥彼女はニッコリと笑っている。
「この時期からもう実をつけ始めます。そして‥私の秘密の場所では‥ほら!」
ちょっと見には見えない草影やハイマツの下。そこには指の爪ほどの赤い小さな実があった。あちらにも、こちらにも。
「凄い‥。もうあんなに‥直に生えてるのってちょっと感動ですね。あ、手伝いますよ」
「人手が‥あった方が‥いいだろう?」
慣れた手並みで摘み取っていくエレにシエラも籠を持ってついていく。地面を時折見つめながら。
がさがさ‥シスイは草を掻き分け‥地面を探っている。時折摘んだ実をシエラの籠に入れつつも実の摘み取りよりも気を向けている事があるようだ。
「あの‥何をしてるんですか?」
彼らは答えなかった。ただ微笑むのみ。
星が降るような夏の夜。彼らは同じ時を過ごす。
美影と健武が鳴子の仕掛けをかけた。火も焚いている。
獣達も近づいては来ない。
交代で見張りをしながら差し入れのパンと摘みたての苔桃で夕食をとる。
「すっぱい! でも美味しいですね」
豪華ではないが、楽しい食事。静かな夜。冒険と喧騒の日々から思えば夢のようだ。
「悪くは無い‥」
健武は空を見上げる。天頂に動かぬ北極星。異国の地でも星空は変わらぬ。星に見る物語は違うが‥
「けんちゃん。どうしたの?」
「美影‥。知っているか? 遠き国の物語ではあの極星は熊の親子の姿を映したものだそうだ‥」
空を見上げ彼らは遠き故郷を静かに思う‥
ブルーベリーの木の大きいものは2mを超える。絡み合う枝に手を伸ばし、エレは籠に濃紫の実を落としていく。
「手伝いましょうか?」
「あ、私も‥」
クリストファーやセレスも立ち上がった。完熟の実は触れるだけで面白いように採れる。
童心に返って実を摘む彼らに背を向けアルノールは、こっそり一本の木に向かった。
「グリーンワード!」
エレのイヤリングを探してあげよう。それは冒険者達の共通の考えだった。アルノールは木に聞こうと考え、こっそり実行する。
そこには滅多に無い、年頃の女の子との一時に賭けた少年の思いも少しある。
「ピカピカした小さなものを見なかったかい?」
『あっち』
「えっ?」
木が軽く揺れた先にはクリストファーと、何故か近づくシーリウスの馬‥?
「どうしたんです? あまりご主人と離れない方がいいと‥ん?」
彼も馬を飼うもの、何かを訴えているのが解って彼は馬の鬣を見た。絡み付くブルーベリーの枝を外してやる、と‥
「‥これは?」
「あっ! 先を超されましたか〜」
がっくり落ち込むアルノールを慰めるように風が微笑む。
白い小さな貝のイヤリングがクリストファーの手の中で木漏れ日を弾いて光っていた。
「ありがとうございます。皆さん、イヤリングを探していて下さったんですね。私、諦めてました」
木苺を摘みながら、エレは頭を下げた。白いイヤリングが主の耳で嬉しそうに揺れる。
「とっても似合ってますよ」
アルノールは少し残念に思いながらもエレに笑いかけた。照れ隠しに一つ、木苺を口に放る。甘酸っぱい味が広がって溶けた。
「私と言うよりシーリウスさんの馬のおかげですけどね。」
「恩知らずな奴だ。俺に持ってくれば良かったのに‥。でも、良くやった」
主人に褒められ、馬は嬉しそうに声をあげた。背の籠は3つともほぼ満杯だ。
「どうやら熊と出会わずにすみそうだ。早く帰るぞ」
摘み取りの間も常に周囲を警戒し、仲間達を促す健武の足元にふわっ。小さな毛玉が絡みつく。
「何?」
思わず彼は舌を打つ。木苺に手を伸ばすそれは‥
「‥小熊? まずい! 美影!」
「けんちゃん! 親熊らしいのがこっち来る!」
偵察していた木の上から美影は飛び降りて合流した。パキ‥草を踏む獣の足音。
「用は終わりましたね。逃げましょう」
「熊さん、ちょっとだけ眠ってて!」
クリストファーと美影はほぼ同時、姿の見えた親熊にダークネスと春花の術をかける。どっちがどの程度効いたのかは解らないが、とにかく親熊の足は止まった。全員が全力で離脱した。熊は‥追ってこない。
去り際、シーリウスは馬の籠から一つかみの木苺を落としていく。
(「元気でな。‥敵として出会わずにすむように‥」)
術の影響か、足元で丸くなって寝息を立てる小熊にウインクをして‥。
翌日。店には『臨時休業』の札。
前を通ると香る甘い匂い。
が‥店の中は戦場だった。
「瓶づめは熱いうちが勝負! そっちお願いします!」
店主の大声に、シエラは慌ててまだ熱い苔桃のジャムを瓶へと注いだ。
「クリストファーさん。私、鍋を押さえてますから、砂糖と果物を入れてください」
「いや、これは意外な重労働」
苦笑しながら彼は鍋の中に木苺を投下した。実と同量の砂糖が入ると木苺は呼吸をするようにしっとりと水を出す。
ジャム作りは難しいものではない。
1、果物を良く洗い、果物と同量か、少し少ないくらいの砂糖を入れ1時間ほど馴染ませる。
2、火にかけ沸騰したら、混ぜながら30分から1時間煮詰める。
出てくる泡はこまめに掬う。
3、熱いうちに瓶につめ蓋をする。
これだけ。
だが量が半端ではないから、大忙しだ。しかも‥
「熱いうちに瓶に入れないと保存が効かないんです」
時間との勝負でもある。
簡単に食べているものにも結構な苦労があるのだと、クリストファーは頷かずにはいられなかった。
向こうではセレスもジャムの瓶詰めに狩りだされている。
「しかし、これだけ手間のかかったジャム。貴重品で皆が楽しみにしているというのも理解できますね」
鍋をかき混ぜ周囲を見回すと‥こっそりと湖心の術で鍋に近づくものを発見‥。
おたまで先制攻撃!
ポカン!
「ダメですよ。つまみ食いは!」
「ちぇ‥けち〜」
頬を膨らませたパラの忍者を、優しい笑みが取り巻いた‥。
「当店自慢、出来立てパンとジャム。どうぞお召し上がりを」
テーブルに報酬が並べられた。暖かいジャム、焼きたてパン。
それは魅惑的で、彼らは促されるまま席に着く。
三色のジャムは宝石のように光り
「いっただきま〜す」
パンに乗せて口に運ぶと‥森の恵みが溢れる。
「おいしい♪」
「うむ、美味だ」
「人の知恵と‥自然の恵みが‥凝縮されてる」
「苔桃はやっぱりジャムが最高です」
「ブルーベリーも美味しいですよ」
「楽しみにしたかいがありました。粒々の感じがたまりません。そう‥幸せの味です」
「自分も手伝ったと思うと、なお美味しいですしね」
「‥これがアンタが守りたかった味か。なるほどな‥」
「皆さんのおかげです。本当に‥ありがとうございました」
彼女は頭を下げる。守ってくれた感謝だけではない。
料理をする者にとっての最高の報酬。美味しい笑顔への心からの感謝を込めて‥
貰った保存食の中を覗き見て、美影は嬉しそうに抱きしめる。
「皆にお土産 楽しみだな♪」
「旅団の皆にも‥分けてやるか」
「トレード、後でお願いしますね」
足取り軽く帰っていく冒険者達を小さな店の小さな家族はいつまでも見送っていた。
『本日開店』の札の横に小さな張り紙が貼られた。何故か可愛い熊のイラスト付き。
『ジャム 入荷しました』
どこかで誰かの‥甘い、幸せの笑顔が生まれるだろう‥