ミルクを守れ!
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月31日〜08月05日
リプレイ公開日:2004年08月06日
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●オープニング
『森の木陰でキキキキキ〜♪』
『踊ろうぜ! 騒ごうぜ!!』
『楽しいなあ、楽しいなあ〜』
『ここは、涼しいし月明かりもきれいだしな!』
『モ〜モ〜〜』
牛達が訴えるような泣き声を上げる。
その声を聞きつけて、隣の館から男が現れた。
「あんれまあ。ま〜た、あの化け物どもが騒いでんのかあ。こまったもんだなや」
牛達の頭を撫でようと伸ばした手で、男は耳を押さえる。
ここしばらく夜になると蝙蝠の羽を生やした鉛色の化け物が夜になると、農場の牧草地に現れて夜な夜な大騒ぎをするのだ。
直接動物達に危害を与えるわけではないが、毎晩のようにキーキー騒がれては牛も人間もたまったものではない。
牝牛の何匹かはそのせいで半ばノイローゼのようになってしまい、ミルクを出さなくなったものもいる。
「しかたねえなあ。冒険者におねがいすっかなあ?」
縋るような牛達の目を見て、何か思いついたのだろうか。ポンと手を叩く。
「そんだ! どうせ高い金はらうんだがら、もひとつおねがいすっぺ! ようし、さっそぐ!」
慌てて厩舎を出る男は、振り返り牛達に微笑みかけた。
「まっでろよ。じきに気んもぢよくさせてやっかんな!」
冒険者ギルドに変わった依頼が上がった。彼らは首を捻りながら係員に問う。
「インプ退治は解る。でも、なんでそれがバード、ジプシー推奨なんだ?」
疑問は無理も無いが、係員の口は何故かやや重い。
「えっとなあ、つまり、インプを退治した後、牛に音楽を聞かせて欲しいんだとよ」
「牛に、おんがく〜?」
「ああ、インプの騒ぎでノイローゼ気味の牛達を音楽で元気にしてやって欲しいんだとさ」
騒音で機嫌を悪くしたのなら音楽で、という考えは解らなくも無い。
ただ、牛に音楽が解るかどうかは、怪しい‥。
「正直あそこの牛のミルクが出なくなると、冒険者酒場も困ると思うぜ。酒場にミルクを卸してたはずだから」
冒険者たるもの牛の機嫌を損ねるわけにはいかないだろう。
ミルク、キドニーパイ、そして憧れのローストビーフ。全て牛がいなくては口に入らない。
観客が牛、というのは複雑だが、報酬は悪くない。
「やって、みようかな?」
●リプレイ本文
夜‥
心休ませる幸せの時。
だが、その夜も‥牧場は宴会だった。
昨日も、その前も‥
「モ〜!」「ムモ〜!」
牛達の叫びは悲痛でさえある。
動物語のスキルが、もしあれば聞こえるだろうか。
『止めてくれ!』『眠らせてくれ』
彼らの叫びが‥
彼らが牧場に着いたのは昼過ぎだった。
冒険者達を見て‥若き牧場主は口をあんぐり開ける。
「随分とちっこいのがいるなや。大丈夫なんか? 確かに楽師も頼むと言ったのはおらだけどよ‥」
当然抗議の声が上がる。『ちっこいの』から。
「ひっど〜い。うちだって場数を踏んでるんだからね!」
飛び回るクリスタル・ヤヴァ(ea0017)をトリア・サテッレウス(ea1716)はまあまあ、と宥めた。
「ご安心を。依頼は必ず果たしますから‥」
膨れて髪を引っ張るシフールを離してくれたナイトに言われても、彼の顔には不安と大きく書いてある。
(「ま、仕方ないね」)
言葉は解らなくてもシュナ・アキリ(ea1501)にもどう思われているか解る。冒険者の中、四人が女のシフール。残りも三人が女で、男は一人となれば演奏依頼はともかく、インプ退治に不信が生まれるのも無理ない事だ。
「報酬分の仕事はする‥っと、解らないか?」
ヒンズー語は一般人には呪文のよう。さらに青くなる依頼人の顔色を白になる前に止めたのはオリエンタルな美少女だった。
「心配は無用、と言ってますの。大丈夫。牛様の安眠は私達が守って見せますわ」
ニコッ♪ 柔らかい李彩鳳(ea4965)の微笑みに依頼人はそういうことなら。と頷いた。
ちなみに彼は独身。美少女の笑顔と『牛様』にクラッとキていた事は内緒である。
「じゃあ願いするだよ。あいつらは大抵、厩舎の横のあそこに来るだ」
彼が指差した先には小さな荒地がある。他は緑豊かな牧草地。だがそこだけは荒れて、穴も開いていた。
「まんず、化けもんを追い出してけれ。音楽はその後でなあ」
「戦うのは苦手だけど、頑張るからね!」
丸く純真なミル・ファウ(ea0974)の目で見つめられ彼はもう否定的な言葉を出さなかった。
「‥おら、仕事に戻っからあと、よろしくな」
「皆で頑張ろう! エイエイオー!」
「オー!(×7)」
ティアイエル・エルトファーム(ea0324)の掛け声に仲間達も腕を上げる。が‥
「あの〜飛べないんです。何でですか?」
「カタリナさん、服とダガー外して! それじゃ飛べないよ」
装備の重さに立ち尽くすカタリナ・コルテス(ea5135)をユーリユーラス・リグリット(ea3071)とトリアが助けに走る。
それを聞き‥彼は、思わずにはいられなかった。
(「本当に‥だいじょぶだべか?」)
「はあ〜どうなるかと‥すみませんでした」
石の礫集めをしながらカタリナは仲間達に頭を下げる。
「シフールはね、武器装備できないの。飛べなくなっちゃうから」
「シフール用武器欲しいよねえ」
いくつかの依頼を受けてきたミルとユーリユーラスは頷きあう。苦労は身に染みていた。
「魔法使いも! 体力の無いと結構きついんだ〜。あ、あたしのことはティオって呼んで♪」
彩鳳と一緒に周囲を調べていたティオは愚痴が聞こえたのだろうか? 困ったような照れた笑いを見せた。彩鳳は彼らの気持ちを受け止めるように言う。
「でも‥ティオさん、それぞれに戦い方はあると思います。シフールなりの、ウィザードなりの。自分の役目を果たしましょう」
それはティオだけに贈る台詞ではない。
「そっ! おっさんにも教えましょ。うちらの実力!」
お互いの役割分担を決め、彼女らは空を見上げた。
日は落ちかけている。夜は‥もうすぐだ。
空に満月が昇る頃。
招かれざる客が、今夜もやってきた。
「キキ! 祭りの始まりキ♪」
「騒ごうぜ、歌おうぜ!」
鉛色の膚、口まで裂けた耳、鋭い牙。間違いなくあれはインプ。シュナは身構えた。
奴らには翼がある。一気に決めないと空に逃げられてしまう。
木の上から見張りつつ反対の側の木に目をやる。向こうの仲間が勝負の決め手だ。
「う〜、確かに耳障り。ノイローゼになる牛の気持ちが解ります」
ガラスを引っ掻くような甲高い声は頭が痛くなる。
トリアは木の影に隠れ、耳を押さえた。
「‥でも、それも今夜まで。用意はいいですか?」
草影、木の上、鳥の巣の中。隠れて様子を伺っていた三人のシフールも頷いた。
「行きましょう‥GO!」
その言葉を合図に二つの魔法が渦を巻くようにインプ達の中に飛び込んでいく。
クリスタルのムーンアローとユーリユーラスのスリープだ。
「ウギャア!」
魔法で射抜かれたインプの悲鳴。
歌はピタリ、止まった。
「誰キ! 俺達の楽しいパーティの邪魔するのは!」
「牛の眠りを妨げてミルクを枯らす悪魔ども! お天道様が許しても、このトリアは許しません! 全イギリスの下戸に代わり、ビザンチンのヘタレ騎士が‥成・敗♪」
槍を片手にウインク一つ。派手に登場したナイトの存在は明らかに彼らの意表をついていた。
パチ・パチ・パチ。三度瞬きして状況を把握すると
「煩いッキ!」
「祭りのツマミにしてくれるキ!」
飛び掛ってくる。その数は七匹。
だがトリアの元に襲い掛かったのは三匹だ。槍で攻撃をいなしてトリアは周りを見る。
予定通り仲間は奇襲してくれた。初撃は成功だろう。
ティオのライトニングサンダーボルトで一匹が地に落ちる。シュナのダーツで羽を怪我したものが一匹。そしてミルのスリープで寝たものも一匹。
クリスタルとユーリユーラスの魔法二発目もなんとか一匹の動きを止めてくれた。そこに‥
「おまけ!」
カタリナの落とした石礫が重力の手助けを借りて真っ直ぐインプの頭に吸い込まれ‥
「ムギュ‥」
大人しい眠りを誘う。だから残り三匹。反撃を狙うインプ。が‥それはいつの間にか二匹になっていた。
「彩鳳さん?」
「キキ?」
ボキッ! ドカッ! ボカッ! ポイッ!
説明しよう。背後からいきなり掴まれたインプの一匹は地面に叩き付けられ、立ち上がろうとする所へ蹴りを入れられ‥殴られたのだ。
繊細な美少女に見えるが彩鳳は武道家である。
唖然とするインプの前に、ズタボロになった一匹が放り投げられた。まだ‥息がある。
「こうなりたくなければ‥立ち去りなさい」
インプは皆、重傷ではあるが生きている。まだ‥。トリアも脅しをかけた。
「まだ騒ぎますか?‥分かったら、立ち去りなさい。そして、二度とここへは立ち入らないように‥でなければ‥くつくつくつ♪」
「‥仕方ないキ。祭りの場所は他にもあるっキ! 退却だキ〜!」
まだかろうじて無事の部類に入っていたインプの一匹が仲間を促して戻っていく。
「キキキキキ〜!」
何やら最後の言葉を残し、彼らは消え行く。
「‥あれ、解るね。何言ってたのか。なんとなく」
作戦その1の無事終了に集まった仲間の一人がそう呟いた。皆、同意して微笑む。
ちなみにあの台詞、翻訳するとこうなる。
「おぼえてろ〜!」
♪♪♪〜♪〜〜
牧場に優しい調べが流れる。
「牛さん、ちょっと背中か〜して♪」
ユーリユーラスは竪琴を持ってぴょこんと牛の背中に飛び乗った。牛は少し背中を揺すったが抗わない。
冒険者達はお互い競い合うことはしなかった。
「眠れないって話だったんだから、子守唄とか‥が一番じゃないかな。みんなで演奏会風にすると面白そうだよね」
ミル発案、カタリナ命名。題して「月夜の子守唄演奏会」は静かな音楽に始まり、楽しい曲、明るい曲。次々紡ぎだす。
ティオの横笛と彩鳳のオカリナの合奏。続くシフール四人の竪琴の演奏には牛さえもうっとりしているようだ。
「よ〜しよしよし♪ 牛だってちゃんと耳と心がある。音楽もきっと解りますよ」
軽く牛の背中を叩きながら、トリアは笑う。
「じゃあ夜も遅いし、最後の一曲。行こうか!」
「シュナさんも一緒にやりましょ♪」
陽気なシフールに手を引っ張られ音楽に浸っていたシュナは顔を上げる。
「あたしは‥歌も演奏も‥、ま、いっか」
足元の草をちぎるとシュナは口元に当てる。トリアの合図に合わせ音楽家達は緩やかに音を奏でた。
「♪すてきなおねむが、あなたのまぶたにふれる。えがおはあなたが、めざめたしるし〜」
ミルの甘いソプラノが風に溶ける。トリアの声が深みを加え、五つの竪琴と三種の笛の音色がお互いを輝かせていく。
牛達の瞼の下はもう星空。
静かに地面に伏せた彼らは久しぶりの幸せな夜を獲得したのだった。
「おはよ! 昨日はご苦労さんだったなや」
夜更かし冒険者の朝を迎えたのは、依頼人の優しい声と甘いミルクの香りだった。
「あんたらのおかげで、牛どもは元気になっただ。昨日はすまねがったなあ」
そういうと彼は暖かいミルクを差し出す。
「今朝一番の絞りたてのミルクだ。飲んでくろ。パンケーキとバターもあるで」
夏の暑さの中だ。食欲が無いと思いつつ彼らは手を伸ばす‥
「うわっ! 味が濃い。これホントにミルク?」
「絞りたてって凄いんですね。バターもまるで別物です」
「んだべ? 牛やミルクってなあ凄いんだあ。解って貰えるとうれしいだよ」
空けられた木のジョッキ(シフール用にも作ってあった)に彼は御替りのミルクを注いだ。
「じゃあ、作戦の成功に乾杯!」
ミルの音頭に一気に飲み干した彼らの口には幸せ色の髭が生える。
彼らの笑い合う声は、昨夜の演奏よりも音楽的だった。
割り増し報酬を貰い、お土産に手作り保存食まで貰って彼らは意気揚々と帰途に着く。
「なあ、あんた‥オラと‥」
牧場主はある人物にそう話しかけた。だが彼女はニッコリと『牛に』笑いかける。
「牛様方。これからも美味しい牛乳と素晴らしい牛肉料理の素材を提供してくださいましね」
その後、彼が思う言葉を言えなかったのは言うまでも無い。
牧場の横を帰る恩人達を、牛達は感謝の黒い瞳で見つめ、見送っていた‥