【銀の一族 外伝】真実の宝

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 14 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月03日〜10月13日

リプレイ公開日:2005年10月14日

●オープニング

 宿に泊まった旅の商人が酒飲み話で語ってくれた。あの噂。
「なあ、知ってるか? 最近、この近くで見かけたらしいぜ。瑪瑙熊‥‥。しかも親子らしくて‥」
(「これは、きっとチャンスなんだ」)
 思いを込めて彼は冒険者ギルドの扉を開けた。


 シャフツベリーは農業と林業、そして金銀の工芸品を主工業とする小さな村である。
 だが、今年、シャフツベリーは連続の災難に見舞われていた。
 ゴルロイス卿の復活によるズゥンビの襲来、山火事。
 それにともなう不作に加え、聖杯戦争での濡れ衣。
 デビルの襲来もあってなかなか復興も進まないでいた。
「このままではいかんな‥‥」
 シャフツベリー領主、ディナス伯は呟いた。
 街を襲う災厄の数々が何より人の心を沈ませている。
 このままでは、街の復興もままならない。
 なんとか、人々の気持ちに灯りを灯し、未来に希望を持たせる良い方法は無いだろうか‥‥。
「‥‥一つ、やってみるとしようか」
 少し考えて、彼は告知を出した。シャフツベリーのみならず、近隣に向けて。


「瑪瑙熊?」
 やってきた青年の口から聞きなれない固有名詞を聞いて係員は首を傾げた。
「そうさ、全身に赤い瑪瑙のような縞模様を持つ熊なんだ。額に大きな瑪瑙のような宝石が埋っている。その宝石は万病に効くとか言われていて、とても珍重されている」
 その宝石が欲しいのだと彼ロランは真剣な目で言った。
「どうして、そんなものが欲しいんだ?」
 係員の質問に青年は答える。
「シャフツベリーで近いうちに大きな祭りが開かれる。その時に彫金師の技を競い合う大会が開かれるんだ」
 大会にはいくつかの規約が有る。
 今回の規約は唯一つ、『この世に二つと無い宝飾品』を作ること。
「大会に出品し、賞を取ればシャフツベリーで高い地位を得ることが出来る」
 そうすれば駆け落ち同然で出てきた妻の家族もきっと結婚を許してくれるに違いない。
 青年は真剣すぎるほど、真剣な目で訴える。
「妻のお腹の中には、子供が居るんです。家族に祝福されて生まれてきて欲しいので‥どうぞお願いします」
 瑪瑙熊を見つけた場所は、シャフツベリーに向かう街道から少し離れた森の中。
 拠点には、街道沿いの宿屋を使うといい。と彼は言った。自分が住み込みで働いているところだから。と。
 そこからは歩いて半日ほどだ。
「あ、僕も、連れて行って下さい。欲しいのは頭の瑪瑙だけなんだけど、扱いが難しいと聞くから‥‥」
「瑪瑙だけ‥‥?」
「妻にこれ以上苦労させたくないんです。どうやら、その森には二〜三匹は瑪瑙熊がいるようなので、可能なら沢山欲しいかな。沢山手に入れられたら報酬も割り増すから。よろしく頼むよ」
 先に宿で待っている。そう言って出て行った青年の背中に向けて、係員は深い、深い息を一つ吐き出した。

「ねえ、ねえ。ロラン。これ見て。旅の商人さんから貰ったの。薄く光って、蒼くて綺麗でしょ? 最近シャフツベリーの近くで見つかった石なんですって‥‥。私、これをお守りにしようと思って‥‥」
「シア。そんな‥‥石なんか持たなくていい。裕福な家に生まれた君に苦労させてきた分、絶対に楽をさせてやるから、生まれてくる子にも‥‥」
「シアさん、ロランさん、こっちのお手伝いお願いできますかあ?」
 シアはその結晶体を、そっと宿の暖炉の上に置いて、仕事に戻った。
 先を行く夫を、その心を心配するような優しく、悲しげな目で‥‥。 

●今回の参加者

 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2939 アルノール・フォルモードレ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3441 リト・フェリーユ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

 絵に描いたような不機嫌な顔で、ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)は目の前に立つ依頼人を見つめた。
 この宿屋の居心地が悪いわけではない。依頼人の態度が悪いわけでもない。
 ただ、気分がスッキリしないだけだ。
 理由は解っている。
「始めまして。シア殿、ロラン殿。今回はよろしくお願いします」
 ニコニコと楽しそうな笑顔を見せながらバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)は頭を下げた。無論この挨拶はワザとである。
 自分はこの二人の事を知っている。とてもよく知っている。
「この先にはシャフツベリーという街があるんですよね」
 窓の外の街道を見つめながら青年はニッコリと微笑んだ。
「あの街は‥‥僕が大切に思っている知人達と関わりがある大事な街です。懐かしいなあ。あ、僕はアルノール・フォルモードレ(ea2939)と申します」
 真面目な顔で彼は微笑む。続くように挨拶するアトス・ラフェール(ea2179)にだけ一瞬寂しそうな顔を見せて。
「おお! この石は美しいな。この美しいインクブルーがなんとも‥‥。宝石の一種か‥‥」
「この石でお守りですか。 腕が良ければ良い品ができそうですね」
 話題を変える筈が本気で石の美しさに目を惹かれているマックス・アームストロング(ea6970)。身重の奥方を気遣いながら、お腹を撫でるリト・フェリーユ(ea3441)も皆、同じ思いを瞳に浮かべている。
 それがツウィクセルの不機嫌の理由。
 同じ依頼を受けた仲間同士と意見の喰い違いの元凶だ。
(「薬の原料が欲しいという依頼では躊躇いなく戦っていたかと思えば、今度は瑪瑙を取る事を良しとしない‥‥ふん! まったく都会の人間達は状況に応じてコロコロ考えを変える」)
 冒険者達は皆、この依頼を言われた通りに解決することを由とはしなかった。
 宝飾品の材料を取る為に熊を殺す。それに多くの者達が納得しなかったのだ。
「誤解しないで下さい。依頼ですからね。遂行してみせましょう。依頼人の考えが変わらない限り‥‥」
 不満げなツウィクセルにアルカード・ガイスト(ea1135)は、囁く。
 瑪瑙熊、アゲイトベアは珍しい種である為にその詳しい生態も、何も解っていない。
 額にあるという瑪瑙のようなものも採取記録は殆ど無く『美しい上に万病に利く』『この世の最高の宝の一つ』と噂が広がっていくばかりだ。
 図書館で調べてみても目立った情報は得られなかった。
「やはり殺さずに額の瑪瑙を手に入れることは難しいようですね。今までの採取例は全て死んだ熊からでした」
「だから、人の道徳観は自然界に持ち込ない方が良い。必要というならば刈り取るのみだ」
 そんな二人の後ろ、扉が開いて、イェーガー・ラタイン(ea6382)が入ってきた。
 先行し、森の周囲の偵察をしてきたという。
 入ってまず宿屋の主と、夫人に丁寧な挨拶をする。
「先ほどは‥‥ありがとうございました」
「いえ、いかがでしたか?」
 心配そうなシアにイェーガーは大丈夫、と優しく微笑む。
「どうか御身を大切になさって下さい。命より尊い宝はないですからね」
 その意味深い言葉に冒険者も、ロランも、シアもそれぞれの思いを抱いて聞いていた。


 翌朝、冒険者達は早いうちに家を出て森へ向かう。
「必ず‥‥伝えますから。行ってきます」
「お気をつけて」
 手を祈りの形に合わせ見送るシアにリトは何事か囁いて、仲間の後を追う。
 彼女が見えなくなって後、アトスはわざと歩くスピードを落とした。自然にアルノールと肩が並ぶ。
「ちょっといいですか? アル」
「なに?」
 声を潜めたアルノールにだけ、聞こえるようにアトスは言った。
「私はなんとか熊を殺さずに済ませたいと考えています。アルはどうですか?」
 アルノールは目を丸くさせて友人を見る。驚きの表情にアトスは自分の考えが間違っていたのか? と一瞬考える。
 だが、アルノールの顔はパッと咲くように輝いた。
「僕もです。今回の依頼の瑪瑙熊というのが、人に害を為してというのならともかく、森でひっそりと暮らしてるだけなら殺したくないんですよ」
 ツウィクセルがキッと後ろを振り向く。二人は慌てて話を止めた。
「‥‥だけど、気が重い、なあ〜」
 彼らの視線の先、依頼人ロランは先を行く。そういえば、とバーゼリオは話かけた。まるで世間話のような気安さで。
「我々以外にも瑪瑙熊を狙っている者達がいるらしいと聞きましたよ」
「そういえば、そんな依頼を見た気もするのである! 近隣の猟師達からもそんな噂を聞いたのできっと間違いないのである」
「本当に取れるか解らない瑪瑙より細工作成に時間をかけた方がいいんじゃないんですか?」
「えっ?」
 ロランの顔が困惑を浮かべる。‥‥どれもまるっきりの嘘、ではない。
「今、お前の前には選択肢がある。手に入りやすい蒼い石。希少で素晴らしいが故に命と直結する瑪瑙熊の瑪瑙」
 微かな呻き声のようなものをツウィクセルは聞いたが無視する。
「大会の結果を受けるのはあんただ。だから、どちらを使うのかはあんたが決める事。できれば、瑪瑙熊から瑪瑙を取るまでに答えを聞かせて欲しいものだな」
 答えは無言。
 ロランはまだ答えを出すことは出来ずにいたようだった。

「そっちに行きましたよ!」
 アルカードは仲間達に聞こえるような大きな声を出した。それは、確かに仲間達に伝わる。
 フンの様子、足跡。草や木の皮のはいだ後を丹念に追い、冒険者達はやっとの思いでその熊の一匹を見つけた。
 赤い縞瑪瑙のような模様を持つ間違いようの無い瑪瑙熊は普通の熊よりは一回りほど大きい。
 そして、明らかに苛立っていた。
「あわわ、待って下さい‥‥!」
 魔法で援護しようとするアルノールの呪文がまた、失敗したのを見て舌を打ちながらツウィクセルは弓に矢を番えた。
 音を立てて飛ぶ矢は熊の足元を掠めるようにして飛んだ。赤い鮮血がピッと弾く。
「グア! ガルルル‥‥」
 熊語が解らなくても、理解できる。それは明らかに怒り、苛立った声だ。
「気が立っているのである!」
 マックスは放たれた威嚇の攻撃をかわして熊の行き先の仲間を呼ぶ。あの巨大な身体で鋭い爪を振るわれたら、自分たちですら怪しい
「‥‥くっ! 本当に気が立ってるみたいですね。テレパシーが通じない!」
 顔を顰めたバーゼリオの横でイェーガーは剣を握り締めなおした。突撃を軽い足取りでかわすと手に持った剣を逆さに返した。
 丁度のタイミングでリトのストームが熊の足元を払う。勢いを利用されて熊は見事に正面つんのめった。
「今だ!」
 凶暴で頭に血が上っている今の熊は何の衝撃も、その意味も理解していない。
 目の前の人間は敵で、肉。突進してくる。
「あっ‥‥」
「危ないである!」
 ナイフを握ったまま立ち尽くすロランをマックスは盾ごと飛び込んで守った。
 仲間達の合流は、熊の前方を抑え、後方を塞ぐ形になる。
 熊は必死の形相で襲ってくる。何か圧倒させられるほどの‥‥迫力。
「仕方ない。許して下さいよ!」
 これ以上暴れられては、助けられるものも助けられない。バーゼリオは熊の周囲に幻を貼る。
 幻の存在さえも気付かず熊は走って行って‥‥倒れた。
「ここで拘束しなければ何もできない。何としても止める!」
 掘られた罠に足を取られたと熊は気付いただろうか?
 その上コアギュレイトがかかったと知ることはできなかったろう。
 凍るように身動きできなくなった熊を、冒険者達は荒い息を吐き出しながら黙って見つめていた。
「やはり‥‥瑪瑙は頭骨と一体化しているようです。生きたまま抉り出すのは難しいようですね」
「‥‥ロラン殿。これで瑠璃は貴方の物です。賞賛と名誉の為額から抜き取り絶命させて下さい。‥‥祝福されるかどうかは解りませんが」
 アトスの声にロランはナイフを持って一歩前に出る。自ら依頼した事ではあるが、命を奪う。自分自身の手で。それは彼の手を震えさせた。
「うぉ〜〜ん」
 その時、彼らの耳に赤子の鳴き声のような響きが聞こえる。
 かさかさ。枯葉を踏む音と共に草陰から出てきた声の主。それは同じ縞瑪瑙の身体と小さな瑪瑙を額に持つ子熊だった。
「この熊は、母熊のようですね。瑪瑙がもっと欲しいというのであればこの子熊も殺しますか? 確か子供がお生まれになるとか。この子熊の様にならないと良いですが」
「やっぱり、止めましょう! 珍しい宝石を使えばいいなんて誰だって思いつきます。だったら『二つとない』なんて言えないのではないでしょうか?
 子熊にナイフが向かうのをまるで盾になるようにリトは阻んだ。子熊は彫像のように佇む‥‥おそらくは母熊の足元に擦り寄り、甘えるように瑪瑙を擦り付けている。
 答えは返らないが。
「大事なのは作った人の『たった一つ』を表現する事。私だったらそんな気持ちが伝わる宝飾品を身に付けたいです‥‥」
「訊きましょう‥‥。もし、貴方が瑪瑙を得る為に熊を殺めたとして、生まれて来る子供に対して、どう申し開きをするのですか?」
「僕は普段は薬草師をしています。薬というのは、ただその病気に効く良い薬を出せばいいというわけじゃなく、その人のその時の状態にあった薬を作らなきゃいけません。彫金師という仕事も、見る人を感動させる為という、人を相手にしてるというのは同じだと思います。なのに今回の作品は瑪瑙熊の瑪瑙を使ったものである、というだけで良いんでしょうか。それでは他の人にも作れるし、もうどこかの誰かが作ってるかもしれないじゃないですか!」
 親子熊の前に立ちはだかる人影は増えていく。頬に一筋の光を放つアルノールもまたそう言ってロランを見つめた。
 自らのナイフと、冒険者。そして親子の様子。
 それを、何度も何度も見つめ、考えていたロランは、黙ってしまう。
「どうする? 時間はあまり無いぞ。もうコアギュレイトも切れる」
 再び暴れ出したら、もう止める手段は一つしかなくなる。まして子熊が側にいるとなれば気も荒くなっているだろうから。
 それでも冒険者は誰も動かなかった。
 ロランの選択を待っていた。時間ギリギリ、命ギリギリまで。
 そして、彼が出した結論は‥‥。


 帰り道、冒険者達はイェーガーの案内で小さな洞穴に寄った。
「ほお〜」
 土壁から蒼や緑、薄水色の鉱床が微かに覗いている。カンテラの光を反射して美しい光景であった。
 ここは宿にあった石の発見地点だという。
「どうです? 『この世に二つと無い宝飾品』に使えそうですか?」
 まだ迷うように目線を漂わせるロランの背後でマックスは先ほどの光景を思い出し口にする。
「親子の愛は、人も熊も変わらぬであるなぁ‥‥」
 解放された熊は怒り狂うような唸り声を一時上げたが、足元の我が子を見つめ怒りを封印した。
 小熊と共にゆっくり森の奥へと帰っていく風景は、神々しくさえも見えたものだ。
「貴方と奥方との馴れ初めは彼女に依頼された髪飾りに、彼女の愛する花を貴方があしらった為とか。奥方は、貴方のそんな優しさを愛したのでは無いですか?」
「生活の為と言って仕事にのめりこんで家族を振り返らなくなった結果、奥さんが子供を連れて家を出て行く話もありますよ。いいんですか?」
「えっ?」
 顔色が変わりかけたロランをクスッとリトは笑って励ます。
「大丈夫です。彼女が喜ぶものを作ってあげて下さい。その思いこそが、きっと‥‥」
 ロランは答えない。沈黙している。
 でも冒険者達には解っていた。さっきの悩み考えていた沈黙と違う。彼の心が何かに刺激されているのだと。
 だから、冒険者達は動かなかった。一緒に大地の生んだ夜空を見上げながら不思議な思いを、一緒に感じていた。

「ふん。甘い考え、結末だな。厳しい森ではそうそう通用しないぞ。そもそも俺達は一体何の為に依頼に参加したのやら‥‥」
「たまにはいいじゃありませんか?」
「知っている者がいて、知らない者がいる。知らなければ他の選択肢は見えて来ません。ただ戦うだけではない。それも一つの冒険者の役割かもしれませんよ?」
 鼻を鳴らすツウィクセルをアルノールとアトスはまあまあ、というように宥めた。
「競うのは彫金の技術。瑪瑙であろうと、青い石であろうとそれを飾る宝石は単なるアクセント、オマケに過ぎないと思いますがね」
「必死になりすぎて一番大切な事を忘れていたものをこの仕事は思い出させた。‥‥私はそれでいいと思いますよ」
「さすらいの冒険者の仕事としては上出来だと思うのである!」
「本当の試練は、これからでしょうしね」
 瑪瑙を使わない、その選択肢を選んだ結果を受けるのは彼、いや彼ら自身だ。
 その結末が今、どう出るかは解らない。
「きっと今回の件を忘れないでくれるでしょう」
 そう約束したからだけではない。イェーガーは思っていた。あの大地の夜空、そして熊達の命。実際に触れて感じたことはきっとあの彫金師にとって財産となる筈だ。
 感性と言う芸術家に不可欠の財産に。
「ふん!」
 ツウィクセルはまた鼻を鳴らして顔を背ける。また甘いと感じる自分と、それもまあいいと思う自分がいることに。
「別にどっちを選ぼうが俺達にはなんのリスクも無い。報酬を受けたら依頼は終わりだ」
 足を早めるツウィクセルを、その背中を冒険者達は笑顔で、満面の笑顔で追いかけて行った。
 同じ方向へ、キャメロットという未来に向けて。

 瑪瑙が手に入ったらそれに‥‥掘り込むつもりだった。
 同じような細工はこの石でできるだろうか?
 他にどんな工夫ができるだろうか?
 彼の作業台の上はまだ動き始めていない。
 だが、一つだけ決まっていることがあった。それは、彼にとって『この世に二つと無い宝』は何かということ。
 冒険者に思い出させてもらった本当の宝。
 台の上で風に揺れた羊皮紙には愛しい妻と子の命が美しく、愛を込めて描かれていた。